日本編Ⅱ:第26話~第30話

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第26話:衝突

グラースくそ、数が多いぞ……!
主人公【絶対高貴を!】
→十手「」

【絶対非道を!】

→グラース「はは、そうこなくちゃな!
絶対非道……さあ、全部よこせよ、マスター!」
アウトレイジャーグアアァア……ッ!
邑田ちっ──また来おったぞ!
アウトレイジャー殺ス……破壊スル……!
在坂……行かせない……。
グラースこの非常時でも絶対非道を使わねぇつもりか!
あいつら、絶対非道を使えるってのは嘘なんじゃねぇのかよ?
十手いや、八九君の以前の話では確かに……。
十手……ん? あれは……!
八九……全部、ぶっ壊してやるよ。
邑田&在坂八九──!?
八九今ならできる。
あの時みたいに……何も考えずに、ただ、破壊し尽くすだけだ。
ぶっ壊れてもいい、全部ぶっ壊してやる……!
八九……絶対非道!
邑田なっ!
グラース八九が絶対非道に……!?

八九がアウトレイジャーたちを次々になぎ倒していく。

八九あー……気分いいわぁ、これ……!
八九心銃!!
在坂だめだ、八九!
絶対非道はいけない!
八九あっはっはァ!
グラースあいつ、なんかイカれちまってねぇか!?
邑田やめよ、八九!

邑田が八九を羽交い締めにして止めようとする。

八九んだよ、マスター様の心配かぁ?
馬鹿馬鹿しい。桂の野郎はピンピンしてんだろうが。
八九大体、薔薇の傷作った時点で覚悟はしてんだろ!
俺を呼び覚ましたことを、傷で苦しみながら後悔すりゃいい!
邑田……っ!
この、愚か者が!
八九……ッ、オラ!

邑田が繰り出した拳を八九はすんでのところで避け、
逆に殴りつけると、邑田を蹴り飛ばした。

邑田ぐ……っ!

蹴り飛ばされた邑田は、池に倒れ込む。

八九ざまァみろ。
邑田ふっ……、小童が。
そなたも本気になればよい1発を出せるではないか。
八九強がりはよせよ、ジジイ。
んで、さっさと退け。
腰抜けのお前らの代わりに、俺があいつら全部始末してやるぜ。
邑田そなたには無理じゃ。
なぜなら、わしはここを絶対に譲らぬからのう。
八九んだと……?

八九が猛然と突進する。
邑田は一歩も引かず、迎え討った。

邑田いいから、わしの言うことを聞け!
後悔することになるぞ!
八九脅すしかできねぇのか?
んなの別に怖くもなんともねぇよ!
八九自衛軍で上手くやろうなんざ、もう思ってねぇ。
だからもう我慢も終わりだ!
気持ち悪ィ仲良しごっこもな!!
八九どいつもこいつも、何もかもどうでもいい!
死ね! 消えちまえ!
邑田…………。
邑田……八九や。
そなた、本当にそう思っているのか?
八九あ?
邑田そなたが本当にそう思っているなら、それはそれでよい。
……じゃが、一時の感情と勢いに身を任せれば、
後悔するのはそなた自身であろう。
八九この期に及んで、また説教かよ。
いいかげん黙れよ!
八九……絶対非道!
邑田やめろというのがわからんのか!
このままでは我らのマスターを殺めることになるのじゃぞ!
八九うるせぇ!
桂が死ぬからなんだってんだ。
邪魔するならてめぇもぶっ壊れろ!
邑田この……愚か者が!
邑田まだ気づいていないのならば、教えてやる。
我らのマスターは──お前が殺そうとしているのは、
齢十二の幼な子じゃ!!
八九は……?

邑田の言葉に意表を突かれ、八九の動きが止まる。
その隙を、在坂は見逃さなかった。

在坂……眠れ、八九。
八九……ッ、ぐっ……!

当て身をまともに食らった八九は、
気を失ってガクリと膝をつく。

在坂在坂のことを忘れてもらっては困る。
まったく……手のかかる後輩だ。

在坂は気絶した八九の上体を起こして脇に手を入れ、
戦闘に巻き込まれない場所へと引きずる。
邑田も手伝い、八九は建物の陰へと横たえられた。

グラースおい、内輪揉めは済んだか?
早く手を貸せ!
邑田すまぬな。
まこと、反抗期とは厄介なものじゃ。
十手……! またアウトレイジャーだ!
次から次へと……!
在坂……こんなにアウトレイジャーが現れるのは初めてだ。
少なくとも在坂は、こういう前例を知らない。
十手一体何が起きてるんだ……!
主人公【(もしかして……)】
【(これは、トルレ・シャフの陽動……?)】
主人公【あなたたちのマスターに会わないと!】
邑田なんじゃと……?

第27話:真のマスター

邑田わしらのマスターに会いたい、とな。
それは、この状況で必要なことなのかえ?
いや……この状況だからこそ必要じゃと?

邑田の問いかけに、〇〇は頷く。

主人公【敵は我々をここに留めようとしています】
→邑田「ふむ……大量のアウトレイジャーによって我ら貴銃士を足止めし、
その隙に敵は本懐を遂げようとしておると……
そなたはそう読んでおるわけか。」

【ここは陽動で、敵の狙いは別にあるかと】

→邑田「それがすなわち我らのマスターであると、
そなたは考えておるのじゃな」

〇〇はこの状況の不自然さを根拠として訴えた。
突然、多数のアウトレイジャーが城に現れたが、
日ノ本でこの規模の襲撃は未だかつてなかった。

日ノ本に入ってきているアリノミウム結晶は、
他国と比べると少数だと考えられるため、
偶然でこんな事態が起きることは考えづらい。

つまり……
作為的に引き起こされたと考えるのが妥当であること。

邑田作為的……ふむ。
葛城の一件と繋がりそうじゃな。
在坂貴銃士や自衛軍の兵士を大勢集め……
そこで、在坂たち貴銃士を、この間の八九みたいにしたら……。
主人公【とんでもないことになります】
【今度は箝口令では済みません】
邑田……よし。
〇〇、そなたの読みにわしは賭けよう。
邑田しかし、アウトレイジャーの脅威を放置しておけぬのも事実。
ここを抑える者と、我らのマスターのもとへ走る者、
二手に分かれねばなるまい。
主人公【絶対高貴の力が必要だ】
【十手は一緒に来てほしい】
十手ああ。葛城君の時と同じ手を使われたら、
薔薇の傷を急いで治療しないといけないからね。
任せてくれ!
十手さ、〇〇君たちは早く──。
???お前さんたち!
十手あっ……えっ!? 鈴さん!?
邑田……!
鈴さん話は大体聞かせてもらったよ。
案内は私に任せてくれ。
邑田たちの主のもとへ最短で駆け抜ける!
グラースはぁ……? 三流詩人に案内できるのかよ。
邑田……ふぅ。
邑田問題ない。
こちらは……まあ、それなりに縁の深い知人じゃ。
詳しいことは言えんが、『鈴さん』についていけば間違いない。
邑田問題はむしろ、ここに残す戦力じゃが……。
自衛軍兵士1大丈夫です、行ってください!
邑田……そなたら。
竹田邑田殿、在坂殿、それに〇〇殿。
八九殿を止めてくださって、ありがとうございます。
竹田ここは我々に任せて、行ってください。
大丈夫です、必ず勝ってみせますとも!
……あ、これは死亡フラグとかではなく!!
グラース問題ないさ。
この僕も残ってやるからな。
十手グラース君……!
貴銃士は君1人で大丈夫かい……?
グラースどうせ、そいつらがいたところで絶対非道を使わねぇんじゃ、
アウトレイジャー相手に対した戦力にはならねぇしな。
グラースそれに僕は、パリをほぼ1人で守ってた時期もあるんだぜ?
城の1つくらい、華麗に守ってやるさ!
主人公【ありがとう、グラース!】
【頼んだよ、気をつけて!】
グラースほら、さっさと行け!
けど、あとで礼は弾んでくれよ? 〇〇♥

第28話:寝所での攻防

鈴さんの案内で、一行は駆け出した。
八九が目覚めた場合に備え、邑田は八九を背負って走る。

『最短で駆ける』という言葉通り、
鈴さんは隠し扉や水路など、正規の通り道ではないものの、
城の内部を最短距離で突っ切ることができるルートを辿った。

十手(こんなところに通路が……?
それを知っている彼は、一体……?)
鈴さんそら、もうすぐだ!

使用人用の細い廊下を飛び出ると、豪華な内装の廊下だった。
重そうな扉があり、その前には1人の男が立っている。

主人公【桂幕僚長!!】
【大丈夫ですか!?】
〇〇殿!?
十手殿と2人も、何故ここに……!?

〇〇は、案内してくれた鈴さんを探すが、
彼の姿はいつの間にか忽然と消えていた。

十手あれ、いない……?
邑田……桂。
我らのマスターに会わせろ。今すぐにじゃ。
……はて。
マスターは私ですが。
在坂在坂たちは、本当のマスターに会わせろと言っている。
邑田左様。わしの気は短いぞ。
早うあの子のもとへ案内せよ。
……!
あの子、と……ご存知だったのですか。
在坂当然だ。気がつかないはずがない。
邑田そなたの堅物さも手がかりになったわ。
幕僚長であるそなたが茶会の度に頭を垂れる相手となると、
ごく少数に限られるからのう。
邑田それより、早うせよ。
時間がないのじゃ。
我らのマスターに危険が迫っておる。
なんですと……?
在坂事情を説明している時間が惜しい。
急いで在坂たちを通してくれ。
……わかりました。
お三方の真のマスター……
日美子様のもとへ、案内しましょう。

???…………。

──和室に敷かれた布団が、小さく膨らんでいる。
部屋に侵入した2人組は、布団にそっと近づいた。

侵入者のうち1人の手には、注射器が握られている。
男は、布団からはみ出ている白く細い手を掴み、
注射針を刺そうとしたが──。

在坂──残念、在坂だ。

布団から飛び出た在坂が、男を素早く押さえ込む。

動くな!!

〇〇、邑田、十手が、
身を隠していた武者隠しなどから次々と飛び出し、
もう1人の男も取り押さえることに成功する。

お前は……伊藤!
幕臣の中でも忠義にあつい者だと思っていたが……。
伊藤誤解だ……離せ、わしを誰だと思っている!
伊藤そ、その男が勝手にやろうとしていた!
わしはむしろ、止めようと……!
この状況でそのような言い訳が通用するとでも?
おぬしがこの不審者を手引し、
日美子様の寝所まで踏み入ったのは明らかだ。
伊藤違う、わしはこの不審者を追ってきただけで……!
邑田これが例の薬じゃな。
トルレ・シャフと繋がっていると見て間違いないようですな。
伊藤……く、う……っ。
在坂……お前にどんな正義があろうと……
在坂には、受け入れられない。
在坂この罪は、必ず償ってもらおう。

 

第29話:背負わされた薔薇の傷

日美子を害そうとした侵入者を捕らえたあと──。
眠ったまま別室に避難させられていた日美子が寝所に戻され、
離れた場所に気絶中の八九も転がされる。

十手騒ぎにも目を覚まさなかったが……この子は大丈夫なのかな。
顔色も悪いし、こんなに細くて……。
日美子う、うぅ……。
主人公【うなされてる……】
【疲れ切っているのかも】
十手夢見が悪そうだが、起こすのも忍びないね。
しばらくこのまま様子を見ておこうか……。
八九…………。
ん……?
邑田おお、目が覚めたか。
八九俺は……。つーか、ここは……?
十手ええっと、俺から説明するよ。

八九あの『日美子様』が、俺たちのマスター……?
邑田うむ。わしは何も、そなたを止めようとして
口から出任せを言ったのではないぞ。
日美子う……ぁ……。

日美子の薔薇の傷は手の甲だけでは収まっておらず、
包帯に痛々しく血が滲んでいる。

八九こんなガキが……。
八九(邑田は、日美子は12歳って言ってたか。
12って小6とか中1だよな?
でも……小学校中学年くらいにしか見えねぇぞ、この子)
八九(ガリ細で、薔薇の傷がなくても風邪とかで死にそうだな。
こんな有様だから、邑田も在坂も絶対非道を必死で止めて……)
邑田十手。頼めるか?
十手ああ、もちろんだ。
十手絶対高貴──!

絶対高貴の優しい光が、日美子をほんのりと照らす。
うなされていた日美子は、眩しかったのか眉間に皺を寄せ──
次の瞬間、パッと跳ね起きた。

日美子……!
日美子い、嫌! 嫌じゃ! 治さないで!!!
十手えっ!?
日美子わらわはまだ大丈夫……。
大丈夫だから……見捨てないで……!
日美子ちゃんとご飯も寝るのも我慢して、子供のままでいるから……!
神子のままでいてみせるから……!
日美子もっとずっと兄様のお役に立てるようにする……!
ちゃんと予言して、マスターの務めも果たすから……。
おねがい……。

寝起きの混乱状態で必死に言い募る日美子。
〇〇はその背中をそっとさすり、
十手が優しく語りかける。

主人公【落ち着いて】
【大丈夫だから】
十手……大丈夫。安心して、よく聞いて。
十手薔薇の傷は消さない。約束するよ。
傷の進行を抑えるだけだ。
日美子本当に……?
十手本当だ。指切りげんまんもできるよ。
だから、安心して。
今はゆっくり休むんだ。
日美子……よか……た……。

安心したのか、日美子は気を失うように眠ってしまう。
十手が、一輪の薔薇の形になる程度に傷を癒やすと、
浅く荒かった日美子の呼吸が、深く緩やかになる。

八九……なんだよ、さっきの……。
十手俺にもよくわからないが……。
言っていたことからして、神子の力というのは、
大人になると消えてしまうものなのかもしれないね。
十手それで、この子は成長に抗おうと……。
邑田……八九。
おぬし、さきほどこう言っていたな。
誰も彼もどうでもよい、去ね、と。
八九……っ!
邑田衰弱したこの子を見て動揺し、心配そうな面をする奴が、
よくもまああんなことを叫んだものじゃ。
八九う……。
邑田それに……わしはあの時『幼な子を殺す気か』と言ったがの。
そなたは、ここで弱りきっておるのが桂であっても、
平常心で素知らぬ顔をすることなどできなかったであろうよ。
八九……いや……まあ……。
邑田そなたは今まで、
一度でも『人』として見た者を殺めたことがあるか?
八九……!
八九……わからねぇ。
世界帝軍にいた頃は確かに……ゲームの延長みたいな感じで、
NPCとか的とか、そういう風に見てた気はする……。
八九自衛軍で呼び覚まされてからは、
アウトレイジャー以外とは戦ってねぇし……。
八九結果的には……まあ、そうかもしれねぇ。
邑田うむ。わしには、親しく言葉を交わした『人』を
平気で殺めるような悪鬼を後輩に持った覚えはないからの。
八九……後輩。
邑田そうじゃ。
そなたが誰であろうと、どんな由来の銃であろうと、
わしらの後輩じゃ。
邑田つまり、いつであろうと好き放題に使い走りとし、
悪さをしたり、生意気な口をきいた時には即刻成敗する、
というわけじゃ。
八九いや、成敗は勘弁……。
八九…………。
だけど……今回は、その……。
ありがとう、ございました……。
邑田うむ。わかればよい。
八九…………。

──一方その頃、桜國城地下通路に潜む者がいた。

フルサト(作戦完了の合図がナイ……。
どうやら、失敗したようネ)
フルサト(『この程度の任務に手こずるようでは、
あの方の駒として不十分……必要なし』
……そうデショ、モーゼル)
フルサト(今回の報告は……完全結晶の回収はムリ。
作戦は途中で切り上げ、駒は切り捨て……ネ)
フルサト…………。
???──動くな。
フルサト……! イエヤスちゃん……!
イエヤス……フルサト殿……!?
イエヤス……恭遠から、あなたらしき貴銃士の存在を聞いてはいたが……。
イエヤス……一体、何をしているのだ。
なんのために動いておられるのか?
フルサト…………。
フルサト行かせて。あの子のためヨ。
イエヤス……っ!
…………。
イエヤス…………。

悲痛なまでの決意がにじむフルサトの目を見ること数妙──
イエヤスは、そっと目を伏せ、道を譲る。

イエヤス(フルサト殿……)

フルサトの姿は、闇の中へと消えていった。

イエヤス(懸念していた通り、何かしらの手段で、
監視なしでも従わざるを得ないようにされている──
と考えるべきであろうな)
イエヤス(フルサト殿が1人でいるところを押さえられれば、
奴らから切り離し、安全に確保できるかと思ったのだが……)
イエヤスままならぬものだ……。

第30話:神子の真実

グラースも合流し、〇〇とその貴銃士たち、
邑田、在坂、八九と桂の7人は、
日美子が眠る部屋の隣室へ集まった。

まずは〇〇殿およびその貴銃士殿たちに
心からの感謝を伝えたい。
あなたたちの力がなければ、アウトレイジャーへの対処も、
日美子様を狙った不届き者の捕縛も、
こう上手くは運ばなかったでしょう。
自衛軍を代表し、御礼申し上げる。
本当に……本当に、ありがとう。
邑田わしからも礼を言わせてくれ。
力を尽くしてくれて……ありがとうな。
在坂在坂からもだ。……ありがとう。
主人公【どういたしまして】
【当然のことをしたまでです】
邑田ほれ、八九! そなたも言うことがあるじゃろう?
八九あ、ハイ。どうも……。
っていうより、すんませんでした……。
邑田……して、桂。
いい加減、本当のことを話してくれるのであろうな?
邑田我らをなぜあのような幼な子が呼び覚ますことになったのか……。
なぜそなたが、我らのマスターのふりをしておったのか。
…………。
……ええ。もはや隠すのは無意味。
すべてをお話ししましょう。
……貴銃士を召銃する前後で何が起きたのか。
日美子様が何故このような状況にあられるのか……。

桜國幕府で最初にイエヤス様が召銃されたのち──
自衛軍の中に『国防の観点から現代銃の貴銃士も召銃すべき』と
主張する一派が現れました。
貴銃士を増員することに異論は出ませんでした。
そこで議論を重ね、日本の国防を担ってきた銃
──邑田銃と在坂銃が候補に選ばれたのです。

幕臣1して、マスターはどうする?
上様はすでにイエヤス殿のマスターとなっておいでであるし、
国防を担うならば自衛軍から選出するべきではなかろうか。
幕臣2間違いない。
では、人選はこちらにお任せください。

そして、自衛軍に所属する者の中から12人の候補が選ばれた。
最終的な判断をする段階となり、
我らは日美子様の占いと予言を頼ったのだ。

幕臣1日美子様。
邑田銃と在坂銃を召銃するべきは、この中の誰でしょうか。
日美子……この中にはいません。
幕臣1何……?
一体どういうことでしょうか。
日美子正確には、この中の誰であってもマスターになることができます。
しかし、その者は遠からず死ぬことになるでしょう。
死……!?
日美子この、貴銃士を呼び覚ます力を得られるという赤い石……。
不穏な気配が渦巻いています。
混沌と入り混じった無数の声が木霊している……。
日美子これは、触れた者に災いをもたらすもの。
触れぬ方がよいものです。
日美子……ですが。
わらわはこの2挺の貴銃士を夢で見ました。
日美子すなわち、貴銃士の召銃は必須……。
幕臣1ならば……誰かが召銃をせねば……。
幕臣2しかし、マスターとなれば近いうちに死ぬなど……
まるで人身御供ではないか!
…………。
日美子占いと予知夢を合わせて、宣言します。
日美子現代銃は、わらわが召銃します。
日美子様……?
日美子わらわならば大丈夫でしょう。
わらわは神子。すぐに死ぬことはありません。
日美子桜國のため、わらわは挑みます。

邑田……それで、そなたらは幼な子に重荷を押しつけたのか。
……はい。不甲斐ないことです。
在坂……だが、在坂は日美子の気持ちもわかる。
自分がやらなければ、他人が死ぬのだろう?
在坂自分ならやれる、自分にしかできないと確信を持ったなら、
死ぬとわかっている他の人間に任せることはできないだろう。
間接的に、その人を殺していることになるのだから。
在坂危険があっても、在坂ならその役目を自分が担う方が、
ただ見ているよりずっといい。
邑田…………。
邑田しかしのう……。
あれほど衰弱してまでマスターの責務を果たそうとするのは、
はたして正しいことなのじゃろうか……。
……日美子様が衰弱しておられるのは、
マスターになったことが一番の原因ではありません。
十手あ……傷を治そうとした時に口走っていたが、
やはり、神子の力というのは……。
はい。
ご推察の通り、神子の力は永続するものではないとされています。
日美子様は養子ということもあり、
神子の力がなければと思い詰められているようで……。

──日美子様は将軍家直系の娘ではなく、
桜國家の遠縁にあたる家でお生まれになったのです。
『神子』としての類まれな力は、幼少期より噂になるほど。
先代の将軍がその力を見込んで養子に迎え、
日美子様は泰澄様の妹君となりました。
将軍家に引き取られることを、
日美子様の生家は、安堵とともに受け入れ歓迎したとか。
強い神子の力は、不気味にも思えるものですから……。

日美子の母……やめて! こっちを見ないでちょうだい!
何も言わないで!!
日美子の祖父ばあさんが倒れることも、隣が火事になることも、
嫁の次の子が流れるのも……
災いはすべて、この娘の言った通りに起きた。
日美子の父……よもや、災いをもたらしているのはこの子なのではないか?
将軍家に望まれたことは僥倖だが、
幕府や日ノ本に災いが降りかからねばよいが……。
養子となった当時、日美子様は5歳。
歴代神子の中でも予言の精度・頻度ともに非常に高い逸材でした。
しかし……それは日美子様にとって恵まれたことではなかった。
おそらく、周囲で起きる不幸を防ごうと警告したのでしょう。
それが仇となり、災いを呼ぶ子と恐れられていました。

……それゆえ、将軍家に養子として迎えられた際に、
日美子様は将軍家に求められた栄誉を誇るのではなく、
家族に捨てられたと嘆いておられたと、侍女から聞いております。
そして今は……先程の言葉からして、
神子としての能力がなくなれば将軍家にも居場所がなくなると……
また捨てられるのではと、恐れていらっしゃるのでしょう。
その恐怖が……我らがその恐怖を取り除けなかったことが、
日美子様をあそこまで弱らせる結果に繋がってしまった……。

桂は額を押さえ、深く深くため息をついた。
……日美子は成長期に入った11歳頃から、
食事をわずかしか取らなくなり、睡眠時間も削っていたという。

神子の力は主に女児に発現し、
14歳前後で力を失うことが多いと伝わっております。
日美子様は、少しでも力の消失を遅らせようとなさって……。
グラース……で、お前らはただそれを見てただけか?
いえ、やせ細っていく日美子様を放っておくことなどできません。
侍医に見てもらい、侍女にも説得を試みてもらいましたが、
お心は変えられず……。
倒れられた際に点滴をお願いするのが関の山でした。
まこと、不甲斐ないことです……。
せめて日常は健やかに楽しく過ごしてほしいと、
いろいろと遊び道具を持ち込んでみたのですが……
侍女に遊ばせるばかりでご自身はそれを横から眺めるのみ。
……まるで、ご自身が楽しむことは罪であると
思っていらっしゃるかのように……。
主人公【『神子』はどうしても必要ですか?】
→十手「予言はすごいけれど、その力に頼りすぎるのもなぁ……。
しかし、日ノ本には日ノ本のやり方があるだろうし……。」
グラース「連合軍がとやかく言うのは内政干渉になるな。」

【彼女を助けることはできませんか?】

→グラース「眠ってる今のうちにささっと傷を消しちまうことはできるけど。
今の話だと、役目からの解放は、逆に追い詰めることになるぜ。」
十手「本当に助けるためには、まずは彼女自身に、
『神子でもマスターでもなくて大丈夫』だと思ってもらわないと。」
グラースはぁ……。
一筋縄ではいかなそうだな。
???いいや、大丈夫だ。
グラースん? その声は……。
鈴さんやあ、さっきぶりだな。
十手鈴さ……んん……??

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