貴銃士ストーリー:グラース

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第1話:レザール家のよしみ

グラースチッ……なんなんだよ、あの教官!
グラース「教官に向かってその口の利き方はなんだ!」って、
お前の方が、グラース様に向かって無礼だっての。
グラース何が罰掃除だぁ……!? ふざけてんじゃねぇよ!
僕を誰だと思ってんだ!
グラース恭遠の野郎も、
止めねぇで苦笑いしてるだけの役立たずだし……!
グラース掃除なんか、その辺のどうでもいい奴らに
やらせときゃいいんだよッ!!!
グラースクソ野郎……クソ、クソクソクソ!
グラース……フン。床が少し濡れてる感じがあれば、
掃除したと思わせられるだろ。

グラースは、モップの水気を雑に切っただけで、
適当に撫でるように床を拭いていく。

廊下を端から端まで拭き───
と言うよりは濡らし終えた、その時だった。

???うおっ!?
グラース……ん?
ドライゼなんだ、このびしょ濡れの床は……!

偶然通りかかったらしいドライゼが滑って転び、
憤怒の表情を浮かべながら立ち上がる。

グラース……やべ。
ドライゼ貴様の仕業か、シャスポー!
ドライゼ俺を敵視するのは勝手だが、
こんな幼稚な嫌がらせまでするとは……。
お前には呆れるばかりだ。
グラースは? シャスポー?
勝手に何言ってんだ。
ドライゼ……む?
ドライゼ……ああ、グラースか。
人違いをしたのは悪かった。
ドライゼだが、この床の有様は一体なんなんだ。
貴様は掃除を言いつけられていたはずだが……
校内を水浸しにして回るつもりなのか?
グラース説教なら余所でやれよ。
床なんざそのうち乾くんだから、どうでもいいだろ。
ドライゼどうでもいいわけがあるか。
これでは、転んで怪我をする者が出るかもしれない。
ドライゼそれに……見てみろ。
肝心の汚れが、まだこんなに残って───
タバティエールおーい、グラース!
タバティエールん? ドライゼもいたのか。
ドライゼああ、たまたま通りかかってな。
グラースの掃除がなっていないものだから、
注意していたところだ。
タバティエールあー、やっぱりそうなったか。
このへんびっしょびしょだもんな……。
グラースうるせぇな……。
僕に掃除なんかさせる方が間違ってるんだ。
タバティエールきっちり掃除するようなガラじゃないもんなぁ。
お前だけだと色々と心配だし、俺も手伝ってやるよ。
グラースフン……お前が構いたいのは、
僕じゃなくてシャスポーの方じゃねえのか?
タバティエールまあまあ、そう言うなって。
レザール家のよしみだろ?
グラース…………。
タバティエールほら、モップ貸してみろ。
もっとしっかり絞らないと、
誰かが滑ったら大変だぜ。
グラース……もう手遅れだけどな。
ドライゼ…………。
タバティエールあー……なるほど。
ドライゼが最初の被害者ってわけか。
タバティエール悪かったな、ドライゼ。
俺がもう少し早く来てればよかったんだが……。
ドライゼいや。お前が詫びることではないだろう。
これ以上の犠牲が出ないように、
そいつをきっちり監督してくれ。
タバティエールああ、そのつもりさ。
……ほら、グラース。さっさと済ませるぞ。
グラース……ふん。

───後日。

グラースおい、シャスポー。
シャスポー……なんだ。僕に何か用事か?
グラース聞け。お前のお守役は、僕がもらってやったぞ。
シャスポーはぁ? 何を言ってるんだ。
タバティエール……ああ、この間掃除を手伝ってやったことか?
グラースそうだ。
タバティエールちゃんと掃除できるか気になって、
俺もちょっと手伝いに行ったんだ。
シャスポー……罰として掃除を言い渡された時のことか。
シャスポーふん、好きにすればいい。
僕は君と違って、二軍の世話になる必要はないからな。
シャスポー僕は〇〇さえいれば、それでいい。
グラース残念だったな。〇〇だって、
より高性能な僕の方がいいに決まってる。
シャスポーは? ずいぶんお幸せな夢でも見たんだね。
君みたいな傲慢で自己中心的な貴銃士、
〇〇が好むはずがないだろ。
グラースいいや、ここは現実だぜ。
負けるのは時代遅れの格下、すなわちお前の方だ!
シャスポー君ってヤツは……!!!
タバティエール2人とも、落ち着けって。
ケンカしてると〇〇ちゃんが心配するぞ?
グラース&シャスポーふんっ!!!
タバティエールやれやれ……。

第2話:定まらない望み

グラースはあ……。
ひどい目に遭った……。
グラースシャスポーの奴、
鈴蘭入りのテリーヌなんて、ひどいもん作りやがって!
グラースったく……しばらくの間は、
テリーヌを見るだけで吐き気とめまいがしそうだぜ……。

───数時間前。
シャスポーが〇〇のために作ったテリーヌを
横から奪い取ったグラースだったが……。

そのテリーヌには猛毒を含む鈴蘭が入っており、
そうとも知らず平らげてしまったグラースは、
泡を吹いて倒れたのだった。

シャスポー……おい、グラース。いるか?
シャスポー少し、話がある。
グラースなんだよ。
また僕に毒を盛るつもりか?
シャスポー違う!
大体あれだって、〇〇のために
丹精込めて作ったものなんだ。
シャスポーその……
鈴蘭に毒があることを知らなかっただけで……。
シャスポー君は、呼ばれてもいないのに勝手に来て、
〇〇のためのテリーヌを勝手に食べて、
勝手に倒れたわけだけど……。
グラース僕だって、好きで倒れたわけじゃねぇよ!
シャスポー……とにかく!
経緯はどうあれ、毒物を作ってしまった僕に、
大きな責任がある。
グラース……おう。
シャスポーだから、何か君に詫びをしようと思う。
……何か、望みのものはあるか?
グラース……へぇ。
シャスポーう……、なんだよ、その顔は。
グラース───決めたぞ。
グラース中央棟のホールに生徒全員を集めて、
その前で3回まわってouah(ウワ)と鳴け!
シャスポー……はぁ?
な、何ふざけたこと言うんだよ!
シャスポー大体それじゃあ、詫びの品じゃなくて
盛大な罰ゲームじゃないか! 断る!
シャスポーもっとこう……欲しかったけど買ってないものとか、
ちょっと贅沢だけど食べたいものとか、
そういうものはないのか!?
グラース…………。
グラース欲しいもの、食べたいもの……。
グラースそうだな……フォアグラとか、キャビアとか?
シャスポーへぇ……。
そういえば、君の好きなものは知らなかったな。
フォアグラとキャビアが好物だったのか。
グラースいや、別に。
シャスポーはぁ? だったらなんで……。
グラース高級食材って言ったら、その辺かと思って。
シャスポーあのなぁ……。
君自身がちゃんと欲しているものじゃないと、
贈ったところで詫びにならないだろう?
シャスポー本当に悪かったと思ってるんだから、
君も少しは真面目に考えてくれよ。
シャスポー君は強欲の権化みたいな貴銃士なんだから、
欲しいものくらいポンポン出てくるだろ?
グラース僕自身が、欲しいもの……。
そうだな……。
シャスポー何かあるのか?
グラース…………。
グラース───お前の名誉。地位。
シャスポー……!?
グラース革命戦争で戦った英雄と、同じ種類の軍用銃。
絶対高貴になれて、フランスの市民から
古銃の貴銃士様と慕われるシャスポー……。
グラース───僕に、シャスポー銃の名をくれよ。
尊敬を、名誉を、地位をくれよ。
シャスポーそれは……。
シャスポー……君は、何もわかってない。
僕の名を手に入れるということは、
罪を背負うことでもあるのに……。
シャスポー……僕は、君が時々羨ましくなるよ。
シャスポー…………。
シャスポー君への詫びは……僕の方で、
よさそうなものを見繕って渡すことにする。
シャスポー……それじゃあ。
グラース…………。

第3話:一触即発の邂逅

邑田……おお、在坂。あれを見てみよ。
日向のところで、見慣れぬ鳥が寛いでおるわ。
在坂……なかなかの大きさだ。
在坂は、あれは食べられると思う。
邑田ほっほっほ。
そうじゃのう。どれ、ひとつ撃ってみるか。
在坂在坂がやろう。
グラースは……? 何やってるんだ、あいつら。
グラース……っていうか、あれは───
グラース───誰かと思えば、盗人じゃないか。
邑田…………。

すっと目を細めてグラースを眺めた邑田は、
ゆったりと歩を進めると、
その胸倉を容赦なく掴みあげた。

グラースく……っ、何を、する……!
邑田……わしが、何を、盗んだと?
グラース……っ!
邑田ほれ、言うてみよ。
それとも……その口は飾りか?
グラースお……お前は、僕を真似て日本で作られたものだろ!?
つまり、僕の技術を盗んでデカい面してる奴、で……。
邑田ふん。そんなことか。
……くだらん。

グラースの言葉を聞いた途端、
邑田は興味をなくしたように、
あっさりと手を離す。

グラース……っ! くだらなくはねぇだろ!
邑田やれやれ……。
この身がそなたを参考にして作られたと思うと、
嘆かわしくなってくるわ。
邑田優れた銃を改良して新たな銃が生まれ、
系譜が続いていくのは、銃のならいであろうよ。
邑田多くの後継が生まれるのは、
優れた銃の証でむしろ誇らしいこと。
……違うか?
邑田それを、盗人だのと、
見当違いも甚だしいことを言って騒ぎ立てるとは……
まったく、器の小さき男よ。
グラースなんだと……!
グラースそ、それはそうと、僕の方が先に生まれたんだから、
年上として敬うとかなんとかしたらどうなんだ!?
邑田わしに敬われたいのであれば、
それ相応の貴銃士でなくてはなぁ?
……そなたでは、到底足りぬわ。
グラースお前……っ!
シャスポー……おい、なんの騒ぎだ?
グラースお前には関係ないっ!
邑田ほう……。
年上を敬えと言ったその舌の根の乾かぬ内に、
己の元となった銃に対し無礼な口をきくか。
グラースくっ……!
邑田……そなた、シャスポー銃だな。
シャスポーああ、そうだが……?
邑田これは、そなたの直系であろう?
……きちんと躾けておけ。
シャスポーあ、ああ……??
グラースおい、躾ってなんだ!!!
邑田さ、在坂、待たせたの。
……おや、鳥はどこぞへと消えたのか?
在坂あっちだ。在坂が案内する。
シャスポー……話はよくわからないけど、これを機に
僕のことを兄としてきちんと敬ったらどうだ?
グラース……ふん、お断りだね!

第4話:グラースとシャスポー

───アウトレイジャー討伐任務にて。

タバティエール今日はこのあたりで野営だな。
シャスポーああ。手分けして準備をするぞ。
タバティエール、テントを張るのを手伝え。
タバティエールへいへい、了解。
〇〇ちゃんも、手を貸してくれるか?
主人公【わかった】
グラース…………。
シャスポーおい、グラース。
お前も何かしたらどうなんだ?
グラース……何かって、何をだよ。
テントの方は、十分手が足りてるだろ。
シャスポーはぁ……だからって、何もしないつもりか?
やるべきことくらい、自分で考えたらどうなんだ。
グラースなんだと?
タバティエールあー……それなら、薪を拾ってきてくれよ。
料理にも、暖をとるにも必要だからな。
グラースなんで僕が薪拾いなんか……。
グラース……チッ、わかったよ。このままここにいて、
グチグチ文句言われ続けるよりはマシだろうからな。
タバティエール悪いな、グラース。助かるぜ。
グラース……ふん。

グラースなんなんだよ、シャスポーのやつ、偉そうに……!
グラースタバティエールもへらへらして、
僕1人に薪拾いなんか任せやがって……。
グラース何が「レザール家のよしみ」だ!
この中じゃあ、僕が一番性能がいいってのに、
前線と二軍で一緒に戦ったからって……!
グラースどうせ、レザール家にいた頃は仕方なくで……
本心では今みたいに、
シャスポーに構いたくて仕方なかったんだろ! ふん!

グラースが苛立ちに任せて太い枝を折っていると、
茂みが微かに揺れる音がする。

グラース───誰だっ!?
グラース……ああ、〇〇か。
何しに来たんだよ。
主人公【様子を見に来た】
【手伝いに来た】
グラース……そうかよ。

しばらく黙々と薪を拾っていたグラースだったが、
ふと顔を上げる。

グラース……なぁ、〇〇。
お前はなんでこっちに来たんだ?
グラースあいつらのとこにいなくてよかったのかよ。
主人公【4人だから、半々に分かれた方がいい】
【グラースが1人だったから】
グラースへえ。
それで〇〇が来たってことはつまり、
お前はシャスポーより僕を選んだってわけだ。
グラースま、当たり前だよな。
あいつは古銃の割に性能がいいことを自慢してるけど、
僕の方がもっと性能がいいんだから。
グラース〇〇も知ってんだろ?
あいつが湿気に弱いこと。
雨が降ると、頭が痛いとかごちゃごちゃ言ってるしな。
グラースでも、僕は違う。金属薬莢を使っているから、
湿気への弱さは克服済みだし、
たとえ不発になったとしても、簡単に排莢できる。
グラースそれに、シャスポーは手動でやってるコッキングも、
僕の方はボルトの操作と連動しているから、
余計な手間がなくて速射性にも優れている。
グラースルベルの野郎がいなけりゃ、
僕はもっとずっと長く───……
グラース……ん? なんだよ、〇〇。
そんなに僕の銃を見て。
汚れでもついていたか?
主人公【何か刻まれてる……?】
【P……t……ie?】
グラース……ああ、銃床に刻まれてる文字のことか。
グラース「Patrie」───フランス語で「故郷」って意味だ。
グラース…………。
戻るにはまだ早いし……少し、昔の話をするか。

第5話:求め、奪う銃

グラース……少し、昔の話をするか。
グラース〇〇は、
僕が作られた経緯を知ってるか?
主人公【大体は……】
【改めて聞きたい】
グラース……そうか。
グラースま、知ってる部分もあるだろうけど、
時間はまだあるから、のんびり話してやるよ。
グラース……銃が前装式から後装式に転換していってた頃、
これまで紙製だった薬莢を、
金属薬莢に変える動きも出てきた。
グラースフランスのライバルだったイギリス、
普仏戦争で戦ったドイツ帝国───……
グラースそこらへんの国に続いて、
フランスでも、シャスポー銃を金属薬莢に対応した
新しい銃へ改良しはじめたんだ。
グラースほら、シャスポーのやつ、湿気に弱いだろ?
紙だとどうしても湿気の影響を受けちまうからさ。
グラースフランスじゃあ問題なく使えても、
湿気が多い地域ではまともに撃てなくて、
前装式の旧式に負けることすらあった。
グラースハッ……あいつ、普段旧式のことバカにしてるくせに、
そいつらにボロ負けしたことがあるんだぜ?
グラース最新式の銃のはずが、肝心なところで役に立たなくて、
銃剣で戦う羽目になるとか、悪夢だよな。
グラース……で、あいつがそんなんだったから、
弾薬が湿度の影響を受けにくい
金属薬莢にするのが重要だったってわけ。
グラースそれに、金属薬莢なら、
不発になった時の排莢も楽だしな。
グラース湿気に強く、速射性もいい僕は、
シャスポーに替わってフランス軍の制式銃になった。
グラースそして……フランス軍は僕を手に、
再び植民地拡大へ向けて動き出したんだ。
グラースイギリスやポルトガル、スペイン、オランダ……
並み居る強国たちと、覇を競いながらな。
グラース僕の力もあって、フランスは躍進し───……
世界の多くを手に入れた。
グラース力を示し、奪い、豊かになる。
僕はいわば、そういう時代の寵児ってわけだ。
主人公【植民地政策……】
【奪い、豊かに……】
グラースああ。
強いものが奪い、支配する───
グラース侵略はよくねぇだとか綺麗ごとを並べたところで、
人の本性なんざ、そうそう変わりゃしねぇよ。
グラースむしろ、下手に隠さずに強欲な本心を晒した方が、
素直でいいってもんじゃねぇか。
グラース……欲しいものは、奪ってでも手に入れればいいんだ。
グラース遠慮してて横からかっ浚われるより、
その方がずっとずっといいだろ?
グラースだから僕は、奪うことを躊躇わない。
これまでも……これから先も、な。

 

第6話:Patrie

グラース……“これ”の話もしとくか。

グラースは、銃床に刻まれた
歪な「Patrie」の文字を、指先でなぞる。

グラース「Patrie」───……
これは、僕の最初の持ち主が刻んだものだ。
主人公【どんな人だった?】
【文字を刻んだ理由は?】
グラース焦るなって。
ちゃーんと話してやるからよ。
グラース僕の最初の持ち主は……
貧しい村に生まれた、普通の青年だった。

青年はぁ……今年も豊作には程遠いな。
年々土地が枯れていきやがる……。
うまいメシなんざ、もう何年も食ってねぇのに……。
青年くそっ……!
俺はこんな村で、貧乏なまま
つまんねぇ一生を過ごすのは御免だ!
青年この村じゃ、どう頑張ったって金持ちにはなれない。
けど、街に出て商売するにも元手がねぇし……。
青年それに、また戦争があるっていうじゃねぇか。
徴兵で連れていかれて───
青年───ん? 徴兵……?
青年そうだ……! 軍でのし上がればいいんじゃねぇか!
金も土地もねぇ俺でも、力さえあれば……!
青年よし! 俺はやってやるぜ。
手柄を立てて、富と名誉を手に入れてやるんだ……!

───かくして、青年は入隊の日を迎える。
軍で活躍し、英雄と崇められ、富を掴む未来を夢見て。

青年これが、グラース銃……。
結構ずっしり重いんだな……。
青年すごく性能がいい銃だっていうし、こいつは心強いぜ。
誰よりもうまく使いこなしてみせる……!

夢と野心を原動力に、青年は自らを鍛え上げた。

そして───運も味方してか、
望み通り、派兵先で手柄を立てることに成功する。


青年ふ……あははは!
やった、やったぞ……!
青年俺は本当に、フランスを代表するような、
すごい軍人になれるかもしれない……!
青年村に帰ったら、みんななんて言うんだろうな。
ははっ……! あっという間に
村一番の有名人になるに違いない!

この頃、フランスは再び植民地を拡大していった。

かつての戦争で減少した労働人口を補う人手、
フランスにはない物品など、
植民地から得るものは大きかった。

青年もっとフランスが支配権を広げたら、
もっともっと豊かになれるのか……?
青年戦いがあるほど、俺が手柄を立てる機会も増える。
どんどんやってやるぞ……!

グラース……そうやって、そいつは再び戦場に向かった。
グラース一度味わった蜜の味───……
手柄と名誉を再び得ようと目論んだんだろう。
グラースけど、世の中、うまくいくことばかりじゃねぇよな。
それは、そいつにとっても同じだった。
グラースま、そいつは未来に何が起きるかなんて知らねぇから、
自分ならやれるって信じて、
意気揚々と戦地へ乗り込んだんだけどな。

第7話:一つの結末

グラース……あー、のんびり話しすぎたか。
なんか腹減ってきた。
グラース薪は……これだけあれば十分だろ。
あいつらのところに戻るぞ。
主人公【話の続きは?】
【その青年はどうなった?】
グラース…………。
グラース……くだらねぇ最期だったよ。

───再び手柄を立てようと向かった次なる戦地で、
青年が所属していた隊は襲撃を受ける。

その場で絶命する兵士もいれば、
深い傷を負って、痛みに呻く兵士もいた。

……青年は、後者だった。

青年ううっ……こんなことになるなんて……。
俺は、こんなところでくたばってる場合じゃ……!
兵士1おいっ、大丈夫か!?
……弾は抜けてるが、
肩の肉が少し持ってかれてるな……。
青年熱、い……痛ぇ、よ……!
兵士1もう少し堪えろよ!
こっちだ! 衛生兵───!

───幸いにしてそれは、
すぐに死に至るような大きな傷ではなかった。

だが、衛生的とは言えない戦地では、
満足な手当てができず……傷は悪化の一途をたどる。


青年はぁ……、はぁ……。
傷口、だけじゃなくて……身体中が、熱い……。
軍医……熱が高いな。
傷口を確認しよう。
青年うぅっ……。
軍医これは……。
軍医化膿して……壊死が始まってる。
手足の先なら切り落とすところだが、
肩ではどうしようも……。
青年俺、は……手柄を、た、てて……。
こんな、と、ころ、で……。

やがて、起き上がることすらできなくなった青年は、
己に死が迫っていることを悟るほかなかった。

青年と、うさん……母、さん……。
あね、き……。
青年俺……なんで、こんなとこ、で……。
青年帰、りた……い……。
村に……みんなの、とこ、に……。
青年(貧乏な村で貧乏なままの一生なんて、
クソ食らえだと思ってた……)
青年(手柄を立てて、名誉と富を得て、
俺はそのへんのつまらない男とは違うんだって……
特別なんだって、証明してやりたかった)
青年(だけど……そんなの、どうでもいい。
俺は、ただ……村に帰りたい)
青年(貧乏で、ありふれてて、富も名誉もない、
つまらねぇ生き方かもしれないけど……)
青年(俺の幸せは、貧乏な村の、
小さくてボロいあの家の中にあったのに……)
青年ああ……帰りたい───……

グラース死に際に、そいつは力を振り絞って文字を刻んだ。
それがこれ───「Patrie」だ。
グラースそいつの身体はその地に埋葬されて、
本国に帰ることはなかった。
グラースだが、遺品のいくつかは、家族の元に送られた。
その中の1つが、この僕───グラース銃ってわけだ。
グラース普通、銃は軍が回収するもんだろうが、
刻まれた文字を見て、
特別な計らいがあったのかもしれねぇな。
主人公【悲しい話だ】
【グラースが遺族の元に残ったのはよかった】
グラースそうか? 僕としては、くだらねぇ話だけどな。
文字なんか刻まれて迷惑だとすら思ってるしよ。
グラース……あいつは、奪うには弱すぎたんだ。
グラース奪うには強さが必要だ。
郷愁にかられて気力を失うような男は、
奪う側に向いていなかったんだ。
シャスポーおーい、〇〇! グラース!
どこだー!?
グラース……呼ばれてんな。
グラース昔話はこれでおしまいだ。
さっさと戻るぞ、〇〇。

第8話:悪夢の行方

グラースん……、うう……。

グラース…………。
女性1ご覧になって! シャスポー様がいらしたわ。
女性2ああ、今日も優美で凛々しいお姿……。
さすが、フランスが誇る麗しの古銃の貴銃士様ね。
女性1シャルルヴィル様と並ぶお姿の、
なんと絵になること……!
シャスポーBonsoir、美しいマダム。
今日の夜会を楽しんでもらえているかな?
シャルルヴィル食事もスイーツも絶品だから、
そっちもぜひ楽しんで♪
女性たちええ!
シャスポーやぁ、グラース。
マスターのそばにいなくていいのか?
グラース…………。
グラースお前もわかってるだろ。
僕が近くにいると、マスターが……。
男性1シャスポー様が現代銃へお声がけに……。
男性2人間で言う弟のようなものと言うが、
現代銃など信用できんよ。恐ろしい……!
女性1現代銃というのは、
世界帝に使役されたものなのでしょう……?
女性2いつ牙を剥くかわからない存在なんて、
いくらシャスポー様の弟君でも近づきたくないわ……。
グラース…………。
グラース(うるさい奴らだ……
僕が現代銃だから、なんだってんだ。
僕は世界帝に使われたことなんかねぇってのに!)
グラース(現代銃ってだけで……
グラース銃ってだけで、僕は忌み嫌われる)
グラース(僕は、僕のままじゃ愛されない……)
人々現代銃の貴銃士……。
人々ああ、おぞましい……。
グラース(……うるさい)
グラース(黙れ、黙れ黙れ黙れ!)

グラース黙れっ!!!
主人公【……!!】
グラースあれ……、〇〇……?
グラースここは……ああ、そうか。
僕は、夢を見ていたのか。
主人公【よくない夢?】
【魔されていた】
グラースああ……最悪の夢だったからな。
グラースったく、昼寝にうってつけのいい天気だってのに、
台無しになっちまった。
主人公【……どんな夢か聞いても?】
【話すと正夢にならないらしいから】
グラース…………。
グラース……僕が僕のままでいたら、っていう夢。
主人公【……それが、悪夢?】
【グラースはグラースのままでいいと思うけど】
グラース……ッ!
ふざけるな! 僕はグラースだぞ!
奪って……すべてを手にしてきた銃なんだ!
グラース……ああそうか、同情してるんだな。
今は落ちぶれた――誰からも愛されない
ただの古いだけの銃だって!
グラースついてくるな! 放っといてくれ!

グラースああ、くそっ……!
どいつもこいつも……!! 同情なんて!!
グラース僕は、シャスポーより高性能で、力のある銃……
フランスを強国に押し上げた……!
グラースだけど……僕は、1人だ……。
ずっと、1人だった……。
グラースレザール家でも、ここでも……。
グラース…………。

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