太陽の光が降り注ぐアプリコットフェスティバル。強欲をモットーとする彼は、順調にマカロンを売りさばいていく。
今もまた一人、彼の魅力に抗えず買っていく客が……。彼の瞳は、ハートさえも奪ってしまうのだ。
今のことだけ考えりゃいいじゃねえか。悲劇のヒロインみたいな顔してさ。
お前と手を組むなんて冗談じゃない。
……でも、今回だけ。今回だけだからな!
主人公名:〇〇
主人公の一人称:自分
──士官学校があるフィルクレヴァートの街で
毎年開催されている「アプリコット・フェスティバル」。
貴銃士特別クラスも出展することになり、
タバティエールを中心とするグループでは、
マカロンのお店をすることに決定し、準備が進んでいた。
しかし……シャスポーは、先日グラースと大喧嘩したために、
グループの輪から離れて関わらずにいたのだった……。
タバティエール | ほい、おまたせ。 試作品のマカロンを作ってきたぜ。 |
---|---|
マークス | これ、全部あんたが作ったのか? すげーな。 |
ジョージ | さっすがタバティシェフ! カラフルで、どれも美味しそうだ! |
タバティエール | ありがとな、マークスくん、ジョージくん。 さっそく食べてみてくれ。 |
タバティエール | ああ、シャルルヴィルくんの分は残してあるから、 ここに持ってきた分は全部食べちまっていいぜ? |
ジョージ | Yeah! 帰ってきたらシャルルも喜ぶだろうな☆ |
グラース | ……つーか、なんでこんなに作ったんだ? アプリコット・フェスティバルだし、 アプリコットのマカロンがあれば十分だろ。 |
タバティエール | たしかに十分っちゃ十分だが、 マカロンみたいな小さい菓子は、いろんな種類があった方が、 選ぶ楽しみがあっていいだろ? |
タバティエール | 今回の試食で好評だったやつと、 アプリコットといいマリアージュになりそうなやつは、 フェスティバルで一緒に販売するのもありかと思ってな。 |
グラース | ふぅん。 まあ、1種類だけより、店も華やかになりそうだな。 |
グラース | ……お、キラキラしてて目立ってるやつがあるじゃねぇか。 僕はこれをいただくぜ。 |
タバティエール | そいつはシュガーのパールパウダーで デコレーションしてみたんだ。 見た目の掴みはよさそうだな。味の方はどうだ? |
グラース | ん、美味いな。 ……お、この赤いのにも金箔みたいなのが載ってる。 こっちも食ってみるか。 |
タバティエール | お、お前……デコレーションの光りものより、 肝心の味に注目してもらいたいんだが……。 |
タバティエール | はぁ……ジョージくんはどうだい? どれか気に入ったやつがあったら教えてくれ。 |
ジョージ | んー……全部ウマいっ! これはチョコ味でSweetだろ? こっちはベリーできゅんとHappyだ☆ |
タバティエール | ははっ、美味そうに食べてくれて嬉しいぜ。 しっかし、これじゃあ絞り込めないな……。 |
タバティエール | マークスくん、君はどうだ? 率直な意見を聞かせてもらえると助かるよ。 |
マークス | …………。 |
タバティエール | マークスくん? 真剣に試食してくれてるな……。 |
マークス | ん……んんん……? 茶色い……が、カレー味じゃなかった。甘い。 前にマスターが作ってくれたココアと似てるな。 |
タバティエール | カ、カレー……? ココアってのはいい線行ってるぜ、マークスくん。 そいつはショコラ。チョコレート味だ。 |
マークス | そうなのか。じゃあ、この緑のやつはなんだ? 色からすると、草みたいだが……。 ふむ……なんだか不思議な風味だが、嫌いじゃない。 |
タバティエール | そいつはピスターシュだ。 気に入ってもらえたなら何よりだが……ははは。 |
3人が試食を終えたところで、
タバティエールはメモを構える。
タバティエール | さて、一通り食べてもらったが、 売り物にするならどれがいいと思うか教えてくれ。 |
---|---|
タバティエール | 個人的な好みでもいいし、 好き嫌いが分かれにくそうだと思うものでもいいぜ。 |
グラース | 僕のイチ押しは、フレーズのマカロンだな。 フレーズの赤に、シルバーのラメと金箔風のシュガーが 華やかに映えてていい。 |
ジョージ | うーん……オレは全部ウマくて選べない!! |
マークス | 全部甘い味がした。 |
タバティエール | …………。 |
タバティエール | えーっと、みんな、協力してくれてありがとな。 シャルルくんの意見も聞いてから考えてみるよ……。 |
──アプリコット・フェスティバル開幕が迫る中、
シャスポーとグラースの喧嘩はこじれにこじれ、
タバティエールも巻き込んで、いまだに燻り続けていた。
恭遠 | みんな。アプリコット・フェスティバルは、いよいよ明日だ。 今日は準備のために丸1日、 各グループで自由に時間を使ってくれ。 |
---|---|
恭遠 | それから……。 1つ、みんなに知らせておきたいことがある。 |
ドライゼ | む……。 何やら深刻な問題が発生したようだな。 |
ジーグブルート | つーかよ、あいつがいねぇな。 |
エルメ | ん……? あいつ、って? |
恭遠 | 既に知っている者や、気づいている者もいると思うが、 今日、この教室にタバティエールがいない。 彼は……今朝、倒れてしまったんだ。 |
シャスポー&グラース | …………。 |
ジョージ | ええっ!? 大丈夫なのかっ!? |
恭遠 | 校医の診断によると、 過労と心労、そして風邪……とのことだ。 |
恭遠 | 貴銃士といえど、無理をすれば体調を崩してしまう。 準備も終盤で忙しい日になるが、 皆、くれぐれも無理をせず、健康第一で準備に励んでくれ。 |
シャスポー | (風邪……。あの冷たい雨に打たれたせいだろうな……。 過労も心労も、僕たちの一件が無関係だとは思えない……) |
---|---|
グラース | (過労と心労……。認めたくねぇけど…… 僕が余計に面倒なことにしちまったせいもあるよな……) |
シャスポー&グラース | ……なぁ。 ……おい。 |
シャスポー | ……ちょっと、話がある。 |
グラース | ……僕の方もだ。 |
グラース | それで、お前の話ってのはなんだ? |
---|---|
シャスポー | …………。 タバティエールが体調を崩したのは……僕にも原因がある。 |
グラース | へぇ? わかってたのかよ。 それを今さら僕に言ったところでどうしようもねーけどな。 |
シャスポー | ……っ、お前……! 僕“にも”原因があるが、もとはと言えばお前が── |
シャルルヴィル | ストップ!! |
シャスポー&グラース | ……! |
シャルルヴィル | ごめん。2人が気になってこっそり見てたんだけど…… 我慢できなくて入ってきちゃった。 |
シャルルヴィル | 2人がお互い話そうと思って声を掛けたのは、 こうやって売り言葉に買い言葉で また言い合うためじゃないでしょ? |
シャスポー&グラース | …………。 |
シャルルヴィル | 喧嘩をしたあとって、気まずいし、 どんな風に話しかけたらいいのかわからないのもわかるけど…… 煽ったり茶化したりしないで、素直に話して。いい? |
シャスポー&グラース | …………。 |
シャルルヴィル | もうっ、頑固だなぁ……! まず、グラース! |
グラース | ぼ、僕……? |
シャルルヴィル | シャスポーに酷いことを言ったんだよね。 |
グラース | う……。 あの時は……ムカついて、言い過ぎた。 |
シャルルヴィル | シャスポーも、言い過ぎたことがあったんだよね? |
シャスポー | …………。 おぞましい、とかは……言い過ぎたかもしれない。 |
シャルルヴィル | 2人とも、そういう時はなんて言うの? せーの。 |
シャスポー&グラース | …………ごめん。 |
シャルルヴィル | うん、2人ともよく言えました。 それじゃあ、仲直りの握手! |
グラース | はぁ? |
シャスポー | なんでこいつなんかと……。 |
シャルルヴィル | ほら、またそういうこと言わない! |
シャスポー&グラース | …………。 |
2人は、渋々といった様子ながらも、握手を交わした。
シャルルヴィル | これでよし! それじゃあ、ボクたちでマカロン作り頑張ろう。 |
---|---|
シャルルヴィル | 出展がなしになったら……タバティさんはきっと、 元気になった時に自分を責めちゃうから。 |
シャルルヴィル | それに、街の人たちに、 タバティさんがレシピを考案した美味しいマカロンを届けたいし♪ |
シャスポー | そう……ですね。 やりましょう。 |
グラース | ……ふん。試作なら散々見てたしな。 やってやるよ! |
──アプリコット・フェスティバル当日。
シャスポーとグラースの頑張りもあって、マカロンは無事完成。
多くの人がマカロンのブースを訪れ、賑わいを見せていた。
快復したタバティエールもフェスティバル会場を訪れ、
接客をする2人の様子を、
〇〇とシャルルヴィルと共に見守る。
女性客1 | マカロン5つください! |
---|---|
グラース | Oui♪ はい、どうぞ。麗しのマドモアゼル。 |
グラース | ねぇ、よかったら今度、僕とデートしない? マカロンのお礼に、素敵なところに案内するよ。 |
女性客1 | ええっ? からかってますよね……? |
グラース | まさか。僕は本気だよ? ここでこうして君と出会ったのも、1つの運命だから…… このチャンスをみすみす逃したくな── |
シャスポー | おい、グラース! 真面目にやれ。お客さんを困らせるな! |
女性客2 | あの……売り子のお兄さん。 |
シャスポー | ああ、すみません。 マカロンをお買い求めですか? |
女性客2 | ええ、お願いするわ。 それと、あなたとのデート権を。 |
シャスポー | Ou…………えっ!? |
シャスポー | えっと……そういうのは取り扱っていないんです。 |
女性客2 | そうなの? でも、あっちのお兄さんは── |
シャスポー | あいつは常軌を逸した軟派者なので……! 混乱させてしまってすみません。 マカロン、すぐにお包みします。 |
シャスポー | ……おい、グラース! お前のせいでなんだか違う店になりかけてるだろう!! |
---|---|
グラース | なんだよ。 気になるマダムやマドモアゼル、ムッシュに声をかけて何が悪い。 |
シャスポー | 悪いに決まってるだろう! マスターに変な勘違いでもされたらどうしてくれるんだ! |
グラース | その時は、お前の信用がなかったってことだろ? 僕のせいじゃねぇよ~。 |
シャスポー | ……ちょうどいい。 フィルクレヴァートの港で、 お前のゆるみきった頭を冷やしてやる。 |
グラース | なんだとっ!? |
タバティエール | おいおい、せっかくのフェスティバルなんだから、 今日くらい喧嘩はなしにしようぜ? |
シャスポー&グラース | ……フン。 |
タバティエール | やれやれ……。 |
---|---|
シャルルヴィル | ……ふふっ。あはははっ。 |
タバティエール | おいおい、シャルルくん。 笑ってる場合かー? |
シャルルヴィル | ごめんごめん。 やっと本当の本当に、いつもの2人に戻ったなぁと思って。 |
シャルルヴィル | タバティさんがいると、 ああやって安心して喧嘩ができるんだね。 |
タバティエール | そいつは……俺がいると、あいつらが喧嘩するってことか? 放っといた方が、平和でいいのかねぇ。 |
シャルルヴィル | まさか! あの2人のそばには、タバティさんが必要ってこと♪ |
タバティエール | ……そうか。 喧嘩されるのはちょっとばかり複雑だが、 そう言ってもらえるのはありがたいもんだな。 |
グラース | おい、タバティエール。 また倒れられたら迷惑だからな。 マカロンでも食いながら座っとけ。 |
シャスポー | そんなところに突っ立ってたら、 お客さんの邪魔になるしね。 |
シャルルヴィル | もうっ。素直じゃないなぁ、2人とも。 |
タバティエール | ははっ。 おいつらなりに心配してくれてるのはわかったぜ。 |
タバティエール | まったく。 不器用なとこまでよく似た兄弟銃だな。 |
シャスポー | おい、聞こえてるぞ! |
グラース | こいつと僕を一緒にするなっての! |
タバティエール | はははっ! |
Protected by reCAPTCHA and the Google Privacy Policy and Terms of Service apply.
まだコメントがありません。