人が立ち入ってはならぬという神の森で、誰に見られることもなく咲き誇る藤の花。
その妖しくも美しい姿に、貴銃士もまた心奪われるのだった。
宵闇ニ誘ウ狐ノ神隠シ。
迷イ込ンダ現世ト異界ノ狭間。
藤ノ花ノ先ニハ行ッテハイケナイヨ。
其処ハ絢爛豪華ナ魑魅魍魎ノ世界。
忘却ノ彼方ヘ消エテシマウカラ。
主人公名:〇〇
主人公の一人称:自分
──日本にて。
山にほど近い場所で子供が行方不明になったとの情報が入り、
自衛軍も出動して捜索活動が行われていた。
八九 | はぁーあ。 今日は1日ゲーム三昧のつもりだったのによ……。 |
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八九 | ガキが行方不明になったって、 遊んでてどっかで迷ってるだけだろ。 |
八九 | わざわざ俺まで駆り出される必要なくね? つーかそれ以前に、自衛軍じゃなくて警察とかでやれよ。 |
八九 | ぎゅわァッ! |
八九 | ビビった……でけぇクモ突然出てくんな……! 怪鳥の鳴き声あげちまったよ……。 はぁ……クソ、帰りてぇ……。 |
八九 | ……ん? |
八九 | (人の声……ガキのじゃねぇな。 大人の男が2人か3人……? なんか揉めてるみたいだな) |
気になった八九は、声の方へと足を進める。
すると、そこには神社があり、
神職と捜索隊の自衛軍兵士が何やら言い争っていた。
八九 | ……おい、どうした。 |
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自衛軍兵士 | 八九殿! こちらの神社の敷地内も捜索をしたいのですが、 禰宜(ねぎ)殿に聞き入れていただけず……。 |
禰宜 | 社務所などでしたら捜索のために見ていただいて構いません。 ですが、神殿奥の森は神域。 宮司様以外の立ち入りは固く禁じられているのです。 |
自衛軍兵士 | しかし、子供が迷い込んでいたら、 一刻も早く発見して保護する必要があります。 夜が迫ってきて気温も下がっているのですから! |
禰宜 | そうは言われましても、私には許可など出せません! 宮司様には既に連絡済みですので、 到着を待って探していただくしか……。 |
禰宜 | 只人が立ち入っては、 神の怒りに触れる可能性もあります。 どうかご理解ください。 |
八九 | (神、なぁ……) |
八九 | (……あ。 そういや出発前に邑田も、神社があるとかなんとか言ってたな) |
──任務出発前のこと。
邑田 | どれ。捜索範囲を見せてみよ。 |
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自衛軍兵士 | はっ。5歳児の最後の目撃地点は山すその公園でして、 行方不明になってから2時間が経過しているため、 半径およそ4km圏内を捜索予定です。 |
自衛軍兵士 | 傾斜が緩やかな方面については、 捜索範囲をやや広げて対応します。 |
邑田 | ……む。神社があるようじゃな。 貴銃士が必要になるかもしれぬ。 |
八九 | は……? なんでだよ。 |
邑田 | 八九や。 この任務、そなたも同行せよ。 |
八九 | ええ……。 |
邑田 | 八九? |
八九 | ……うっす。行ってきます……。 |
八九 | (なんで『神社がある=貴銃士が必要かも』になるのか 意味わかんなかったけど……そういうことか) |
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自衛軍兵士 | 夕暮れが近づいているのに、 悠長に宮司様を待っていられません……! |
禰宜 | 神とは、人の力が及ばぬ存在。 怒りに触れれば何が起きるかわかりません。 行方不明の幼子のためにも、お聞き分けください。 |
八九 | ……なあ。俺なら別に、入ってもいいんじゃねぇか? 人間じゃねぇし、元は無機物だし、ノーカンだろ? |
禰宜 | 人ではない……? 確かに、不思議な雰囲気の方だが……あなたも人間でしょう。 |
自衛軍兵士 | いえ、こちらは貴銃士の八九殿です。 |
禰宜 | 貴銃士というと、銃の化身だという、あの……? |
禰宜 | ……ふむ。 ご祭神には武芸の神様もいらっしゃいますし、 人でないならば、立ち入っても怒りに触れはしないでしょうか。 |
自衛軍兵士 | それでは……!? |
禰宜 | ええ。彼のみでしたら問題ありません。 |
八九 | んじゃ、行ってくるわ。 |
八九 | 暗くなってきたな……。 |
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──八九は、禰宜から渡された提灯を片手に、
神域の森の中を進んでいく。
八九 | ……うおっ。 よく見たら小さい祠とか鳥居とかあちこちにあるな……。 ホラゲのスチルみてぇ……。 |
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八九 | こういう朽ちた祠とかから、 いきなり手が伸びてきたりすんだよな……。 |
八九 | …………。 |
八九 | (いやいやいや、あれはゲームでのお決まりで、 リアルではそんなマジカルファンタジーな出来事起きねぇ…… …………よな?) |
──ガサガサッ
八九 | ホおおゥっ!!? |
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八九は飛び上がって、音が聞こえた方を見る。
狐 | …………。 |
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八九 | なんだ? あの白いの。 イタチ……じゃなくて、狐っぽいな。 |
八九 | アルビノか? ホッキョクギツネとかじゃねぇのに真っ白なやついるんだな。 |
八九が思わずじっと見ていると、
白狐も八九の方を振り返って数秒見てから、ゆっくり歩き出す。
八九 | うわ……なんだ今の動き。ついて来いって感じの……。 行ったらなんかやべぇことあるパターンだろ絶対! フラグか? フラグだよな? |
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八九 | 狐が行ったのと逆方向に進んでみよ。 |
歩いていくことしばらく──。
狐 | …………。 |
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八九 | うおっ、またお前かよコン太……! クソ、遭遇した時点で確定イベに入っちまったってことか……? |
八九 | ついていくしかねぇか……。 はぁ……。 |
八九が白狐についていくと、やがて視界が開ける。
そこには、青紫の花が咲き誇る、美しい光景が広がっていた。
八九 | ……すげぇ。立派な藤棚だな……。 |
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八九 | ここの神様とやらは、藤の花が好きなのかねぇ。 禁足地にしてるのは、花を荒らされたくないから、とか? |
八九 | あ、そういや狐は……、いなくなってる……。 |
八九 | なんだよあいつ。 まさか、花見ていけって案内してくれたのか? |
八九 | 見たからには帰さねぇ……とか、 帰り道で無限ループ起きないといいんだけどよ。はぁ……。 |
??? | ……うぅ。 |
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八九 | ……! |
八九は、微かに聞こえた声に気づき、辺りを注意深く見回す。
少し先に倒れている子供の姿を発見して、すぐに駆け寄った。
八九 | おい、大丈夫か!? |
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八九 | (……生きてる。怪我も、見た感じはなさそうだな) |
子供 | ん……? |
八九 | お。気づいたか? |
子供 | おにいさん、誰……? |
八九 | 俺? あー、俺は八九だ。 自衛軍の貴銃士……つってわかるか? とにかく、お前を探しに来た。 |
子供 | キジューシ? 僕のこと、迎えにきてくれたの……? うっ……ひっく、う、うええぇん!! |
八九 | ちょっ……な、泣くなって! どっか痛ぇのかよ? |
子供 | ううん……痛くない、けど、動けない……。 |
八九 | 痛覚消えてるレベルの怪我とかやべぇだろ……! 動かさないで救急隊呼んだ方が── |
ぐうぅぅぅ~。
八九 | はっ……!? お前、まさか……腹減ってるだけかよ!? |
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子供 | うぅ、怖かったよぉ……。 おなか……すいたよぉ……。 |
八九 | はぁ……人騒がせな。 つーかお前、なんでこんなとこにいるんだ。 |
子供 | トンボ追いかけてたの……。 パパとママ、おこってるかな……。 うう、うぇぇん……! |
八九 | たぶん心配してるだけだから泣くな! おら、背負ってやるから……さっさと帰るぞ。 |
安心して泣き出してしまった子供を背負って、
八九は不思議な神域をあとにする。
子供 | ぐすっ……えへへ、ありがとう。 僕も大きくなったら、おにいさんみたいなキジューシになる! |
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八九 | やめとけよ、縦社会だぜ……。 |
狐 | …………。 |
八九 | ■-■■■??■■■■■].] ■■■??■■■■==■■■?? |
子供 | うん? お兄ちゃん、今なにか言った? |
八九 | え、あいつに礼言っただけだけど。 |
子供 | ……? |
──無事に子供を連れ帰った八九は、
子どもの両親から大いに感謝されたのだった。
──士官学校の自室にて。
八九は、和風格闘ゲームに熱中していた。
八九 | ……っしゃオラ、コンボで撃破──! HARDくらいならまだまだザコだな。EXTREMEやるか。 |
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八九 | ちょい難易度は低いけど、やっぱこのゲーム買って正解だったぜ。 コンボの爽快感がイイし、操作性も上々だな。 グラフィックは最高に綺麗だしよ。 |
八九 | 城郭ステージの桜吹雪も綺麗だったけど、 こっちの大藤棚もすげぇ雰囲気あって── そういや、こんな場所行ったことあったな。 |
八九 | ……あ、やべ。 次のステージ始まった! |
ケンタッキー | うっす、邪魔するぜ! |
八九 | うおっ!? い、いきなりなんだよ……! |
ケンタッキー | いや、暇だったから寮の中ぶらついてたんだけど、 お前の部屋から変な声が聞こえてさ。 何してんのかなーって気になって。 |
八九 | あ……あぁ……。 |
八九 | (だからって勝手に入ってくるか……!? 陽キャの考えってマジでわからねぇな……) |
ケンタッキー | なぁ。何やってんだよそれ? |
八九 | あ、これは、ゲーム──ああっ! クソッ、負けてんじゃねぇか! |
ケンタッキー | 負け……? へぇ、勝負か。 面白そうじゃん。 |
八九 | ……へっ? |
ケンタッキー | ペンシルヴァニアとの勝負のネタが尽きてきててよ。 そのゲーム、いいかもしんねぇな。 |
ケンタッキー | なあ、俺もやってみていいか? |
八九 | お、おう……。 コントローラーもう1個あるから、対戦モードにするか。 |
ケンタッキー | よっしゃ! このボタン押せばいいんだよな。 |
八九 | ん……? んんん……? |
ケンタッキー | そっちはキャラの操作な。 技を出すのはコントローラーの右手側だ。 下がしゃがむ、上がジャンプで── |
──約1時間後。
ケンタッキー | くっそぉぉぉ~! また負けた! けど、今のはスッゲー惜しかったよな!? |
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八九 | ああ。お前、呑み込み早ぇな。 ゲームのセンスあると思うぜ。 |
ケンタッキー | っしゃ! これならペンシルヴァニアをギタギタにできるぜ! |
八九 | ……勝負に使うなら、相手にも同じくらいの練習時間やらねぇと フェアじゃねぇと思うけどな。 |
ケンタッキー | なあなあ! さっきの最後の技、どうやってやったんだ!? |
八九 | 聞いてねぇな……。 最後のは奥義で、ちょっと距離を取ってからの……こうだ。 |
ケンタッキー | うお!? 指の動き早すぎて見えなかったからもう1回! つーか奥義あるなら先に教えろよな! |
八九 | ふっ、素人がすぐに奥義を使えるわけねぇだろ。 ゲームをやり込んでから指に慣らすんだよ。 |
ケンタッキー | 俺は最初からチャレンジして覚える派なんだよ! は~っ、騒いだら腹減った! この部屋、なんか食いもんねぇの? |
八九 | あー……カップ麺ならあるけど。 食うか? |
ケンタッキー | 食う! |
湯を沸かし、2人はカップ麺をすする。
ケンタッキー | は~、ソルトスープうま! お前の部屋、いろいろあっておもしれぇな! また遊びに来ていいだろ? |
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八九 | いいけど……なんつーか、意外。 お前、陽キャ代表みたいな感じだし。 パーティーとかクラブ行ってワイワイしてる奴だと思ってたぜ。 |
ケンタッキー | パーティーはパーティーでいいけど、 俺はスナイパーだからな。 1人で集中する時間こそ大事だろ。 |
ケンタッキー | んで、その時俺がやりたいことをやる! 俺は俺の道を行くだけだからな。 |
八九 | 強ぇ……。俺、1人で食堂とかカフェ入ったら、 ぼっちの陰キャ来たわとか思われそうで避けてたんだけどよ。 お前のメンタリティ見習っていきてぇわ。 |
八九 | いやー、なんか……リスペクト。 またゲームやろうぜ。 |
ケンタッキー | おう! |
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