おしゃれな服に身を包んで、ヒールを履いて。
思い出すのはかつての自分。それでも前を向いて歩いていくと決めたその表情を、カメラははっきりと映し出した。
鏡に映る新しい自分。
早まる鼓動。ぎこちなく微笑みかける。
魔法の解けないヒールを鳴らして、さあ行こう。
みんなの待つ、輝くあの場所へ。
主人公名:〇〇
主人公の一人称:自分
ライク・ツー | はぁー……、疲れた……。 クソ忙しいのにアウトレイジャーどもがうじゃうじゃ出やがって。 空気読めよ。週に4日は有給とっとけ。 |
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ライク・ツー | ゆっくり筋トレやる余裕なんかゼロ、帰宅即就寝……。 最後に髪、梳かしたのいつだっけ? |
ライク・ツー | 前線に突っ込んでくアサルトライフルだからって、 無骨な貴銃士にはなりたくねーっての。 ……はぁ……。 |
ライク・ツーはポケットから手鏡を取り出し、
鏡面に映した自分をのぞき込む。
ライク・ツー | ……っ!! |
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ライク・ツー | なに、これ……ホントに俺? どっかの疲れたおっさんじゃなく? だって、髪の毛、ぼっさぼさじゃん……。 自慢のキューティクルはどこいった? 目の下にクマまであるし。 |
ライク・ツー | う……そだろ。 い、今から大急ぎで部屋に戻って、肌と髪の手入れを── |
ラッセル | ああ、いたいた。 探していたんだよ、ライク・ツー。 報告書を頼みたいんだ。 |
ライク・ツー | はぁ!? なんで俺んとこ来るんだよ! さっき捕まえた奴らの報告書類だろ。 担当した奴にやらせろよ、たしかマークスだろ! |
ラッセル | あ……いや、これは中尉殿にも見てもらう書類でね。 ほら、マークスでは体裁を整えるまでに少々時間がかかるだろう? 〇〇君も忙しそうだし……。 |
ライク・ツー | だからって、なんでもかんでも俺を頼るな! 十手でもエンフィールドでもいいだろうが! 八九とか!! |
ラッセル | あ、ああ。すまない……! |
ジョージ | Hey! ライク・ツー! 週直の日誌、まだ書いてないだろ? 持ってきたからよろしく! |
ライク・ツー | 週直はマークスもだろうが! 日誌もマークスに押しつけとけ! |
ジョージ | 「そういうちまちましたことはライク・ツーの担当だ」って、 マークスが言ってたぞ? |
ライク・ツー | ふざけんなっ!! |
ベルガー | あひゃひゃひゃ!! どけどけ、下っ端ども!! |
ライク・ツー&ジョージ&ラッセル | っ!? |
ベルガー | ゴッドファーザー・ベルガーサマのお通りだぁ~!! 道を空けろ、ザコども!! |
タバティエール | おーい、返してくれよ、ベルガーくーん……! それ、俺の煙草だからさ~! |
スプリングフィールド | ベ、ベルガー……さん……!! ペンシルヴァニアさんの、帽子……、返して……ください……!! |
ベルガー | やなこった!! ゴッドファーザーごっこに必要だからな! |
ラッセル | ベルガー! 廊下は走らない! ゴッドファーザーごっこは別の場所でするように! ライク・ツー、ジョージ、ベルガーを止めてくれ! |
ライク・ツー | はあ!? なんで、俺がベルガーのおもりまでしなきゃならないんだ── |
マークス | ベルガー!! マスターのコートを盗んだだろう!! 返せ!! マスターが困っている!! |
ライク・ツー | あっ、マークス!! お前、ベルガーを追いかけるより先にすることあるだろ! 俺に日誌を押しつけやがって!! |
ベルガー | あひゃひゃひゃ!! 捕まえられるモンなら、捕まえてみろってんだ!! |
マークス | 逃がさん……!! |
ライク・ツー | おい、待て! マークス!! 日誌を書け! ついでにラッセルから報告書の書き方も 叩き込まれてこい!! |
ラッセル | マークス! ライク・ツー! 君たちも廊下を走るな……!! |
ライク・ツー | はぁああああ……。 さっきよりももっと疲れた……。 |
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ライク・ツー | くそっ、さっさと戻って髪と肌の手入れしようと思ってたのに どいつもこいつも気軽に頼りやがって! 便利屋じゃねぇっての! |
ライク・ツー | とにかく、肌のケアだけでもするか。 まずは、ホットタオルで顔を拭いて……と。 |
ライク・ツー | ……ふう、さっぱりした。 どれどれ、これでちょっとはマシに── |
ライク・ツー | はぐぁっ!!!!! |
ライク・ツー | おでこに……ニキビが、ある……。 しかも、赤いヤツ……。 姿見るまで、気づかなかったなんて……。 |
ライク・ツー | プロテイン摂ってるから、ニキビには気をつけてたのに……っ! 満足なケアもできない、オシャレもできない…… 士官学校の日常って、一体なんなんだよ……。 |
ライク・ツー | ……ああ、もうヤダ、こんな生活……。 |
翌日──
ライク・ツー | カモミールに……ティーツリー……と。……あ? ラベンダーもあるのか……。これって、抗菌作用があるんだっけ? なら、アクネ菌も防いでくれるかも……。 |
---|---|
マークス | おい! 何やってんだ、あんた! それは俺がマスターのために育ててるハーブだぞ! 必要な時に切らしていたらマスターが大変なことになる! |
ライク・ツー | うるせぇ! すでに俺が大変なんだよ! 見ろ! この赤いニキビを!! お肌の大ピンチだッ!! |
マークス | にきび……? ああ、その赤く腫れてる部分か。 ひっかけば取れるんじゃないか? 今、取ってや── |
ライク・ツー | やめろっ!! |
ライク・ツー | うっ……くっ……。くそ……っ。 |
マークス | ……え……!? |
ライク・ツー | 何しようとしてくれてんだ……ううっ、どいつもこいつも……。 勘弁してくれよ……。ニキビひっかくとかおぞましいことを……。 なんで、俺ばっかこんな目に……。 |
マークス | ら、ライク・ツー……? どうしたんだ、あんた……? |
ライク・ツー | くっ……ホント、もうやだ、こんな生活……。 俺が何したってんだよ……いや、したかもしれねぇけどさ……。 |
マークス | あー……え、ええーっと……。 その……肌にハーブを使うなら、そのまま使うより、精油にして 軟膏にするとか、お茶にして摂取するといいらしいぞ……? |
ライク・ツー | お茶……? ハーブティーのこと……? それに、精油と軟膏って……。……効くの? 本当に? |
マークス | あ、ああ……。 本にはそう書いてあった……。 |
ライク・ツー | ……わかった。 ありがと。 |
マークス | ライク・ツー……? 一体どうしたんだ、あいつ。 ニキビができると、性格が変わるのか……? |
ライク・ツーとマークスが、ハーブについて話した数日後──
ライク・ツー | んー……。 |
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ライク・ツー | ……よしっ! 綺麗にニキビが消えてる! 店で一番高かったハーブティーとティーツリーの精油が 効いたんだな。奮発して良かった……。 |
ライク・ツー | ふふっ♪ 肌の調子がいいと、生きる希望がわいてくる……! よし! 士官学校生活もなんとかなりそうな気がしてきた! |
ライク・ツー | みんなー! おっはよー☆ |
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ライク・ツー | ……じゃなくて……は、はよー……。 |
マークス | く……っ! なんだ、この針のようなかかとは……本当に靴……なのか? |
ジョージ | Oops! また転んだ……!! |
ライク・ツー | ……? 何やってんだ、お前ら? |
??? | もちろん、美の探究よォ……! |
ライク・ツー | ──誰だ、あんた……。 |
アンヌ | 申し遅れたわね。 アタシはアンヌ・イヴェール。 ファッション雑誌『ELAN』の編集長をしているわ。 |
ライク・ツー | 『ELAN』って……あのELAN!? 世界20カ国で発行され 常にファッション界の最先端を発信してる超有名誌の……? もちろん、俺も定期購読してる……あのELAN!? |
アンヌ | そうよ。 ご愛読ありがとう! |
ライク・ツー | 驚いたな……。 なんで、そんなすごい雑誌の編集長がここにいるんだ? |
アンヌ | フレッシュでイノベイティブな被写体を求めて来たの。 貴銃士──気高く異質な存在。モデルとしてファッション業界に 新たな風を吹き込んでくれると思わない? |
ライク・ツー | そうか……? ……いや、そうかも。 |
ライク・ツー | って、それはそうとして! ここ、一般人は入れねぇぞ。その上、撮影禁止だ! |
シャルルヴィル | ライク・ツー! アンヌさんはボクの知り合いなんだ。 |
アンヌ | その通り。 以前、シャルルヴィル様には雑誌の表紙も頼んだのよ。 あの号、最高にビューリィッ! だったわねェ! |
アンヌ | さぁ、原石たち! シャルルヴィル様に続いて、光る宝石になりましょう! |
アンヌ | この靴をピッタリ履きこなす貴銃士が、 アタシたちの理想の貴銃士よッ! |
アンヌが指し示す先には、片足のハイヒールがあった。
上品なワインのような赤色が美しく輝いている。
ジョージ | 無理だって! 何度やってもスッテンと転ぶし! こんなの、よっぽどスゲーヤツじゃないと履きこなせないぜ。 |
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エンフィールド | ジョージ師匠、次は僕が挑戦してみます! バランス感覚には自信がありますよ。ええ! |
シャスポー | バランスの問題なのか……? 徒に怪我して〇〇の世話になるなよ。 |
エンフィールド | 大丈夫ですよ……ほら! こうして立つことができましたし、 歩く……こと、だって……うわぁっ!? |
スナイダー | ……調子に乗ったな。 |
タバティエール | アンヌちゃん、ハイヒールは諦めたら? |
アンヌ | チッチッ! 銃でありながら英雄でもある貴銃士がモデルなのよ。 社会や性別という枠を更に超えた、人類からの脱却…… それを他の小道具では表現できないわ! |
スプリングフィールド | ……エルメさんは、確かハイヒールを履いていたような……。 ドイツに帰郷されていなければ良かったですが……。 |
八九 | (俺には縁がねぇな……新しいラノベのネタ考えてよ……) |
アンヌ | あら、もう挑戦者は終わり? 全滅なの? この靴に合うコはいないの……ッ!? |
アンヌ | ……いえ、まだよ。 そこのアナタッ!! |
ライク・ツー | ……は? 俺? |
アンヌ | そう、アナタよ。 さぁ、今すぐハイヒールを履いてみせて! |
ライク・ツー | ……! |
ライク・ツー | (……俺、ちょっと前までニキビあったんだけど、いいのかな? でも、このハイヒール……カッコいいし、可愛くて…… 俺の理想だ……) |
ライク・ツーは、つま先からゆっくりと足を入れ、
ゆっくりと丁寧にハイヒールを履いた。
全員 | おぉ……っ! ぴったり入った……! |
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ライク・ツー | やっぱいいな、このハイヒール……! デザインだけじゃなくて、履き心地も抜群……。 |
ライク・ツー | 歩いた時に鳴るヒールの響きもサイコー……! これ、どこのブランド? 後で買いに行きたい……! |
アンヌ | ……見つけた……。 |
アンヌ | 見つけたわ、ダイヤの原石! この企画のモデルはあなたに決定よーっ! |
ライク・ツー | は……!? |
1週間後。
とある撮影スタジオにて──
スタッフ | 貴銃士ライク・ツーさん、入りまーす! |
---|---|
ライク・ツー | ………………。 |
アンヌ | Tres bien! よく似合ってるわ、ライク・ツー! 世界の宝石! |
ライク・ツー | ……どうも。 |
ライク・ツー | (この俺がELANのモデルをやるなんてな……) |
ライク・ツー | (いやいや、何ビビってんだ!) |
ライク・ツー | (あれからニキビもできてないし、筋トレもボディメイク中心に 調整したし……美容液も精油もハーブティーも激盛りで、 睡眠も運動も気をつけてきたから肌の状態だって万全!!) |
ライク・ツー | ……のはずだけど……はぁ、緊張する。 さっきからドキドキが止まらねぇ……。 |
カメラマン | それじゃあ、撮影を始めますか。 立ち位置……バミってあるので、そこでポーズお願いします! |
ライク・ツー | ……! あ、ああ……。 |
カメラマン | 硬くならなくてもいいですよ。 リラックスして……ポージングは心の赴くまま……! |
ライク・ツー | わ、わかった……。 |
カメラマン | ……! 最高の1枚、撮れました。 次、ちょっと角度を変えてみましょうか。 横を向いてもらって……。 |
ライク・ツー | こうか? |
カメラマン | エクセレント! マーベラス! そのまま、視線だけこっちにお願いします! |
アンヌ | ふふ、なんて素晴らしいの。 やはり、アタシの目に狂いはなかったわね……! |
スタッフ | 一旦、休憩挟みまーす! |
---|---|
ライク・ツー | ふう……。 |
十手 | お疲れさま、ライク・ツー君。 いやぁ、堂に入ってて素晴らしかったよ。 |
ライク・ツー | なっ!? 十手にシャルルヴィル! それに〇〇まで……! なんでここにいるんだ!? |
シャルルヴィル | ふふっ、アンヌさんが招待してくれたんだ。 3人までなら、見学に来ていいって。 |
ライク・ツー | それにしたって、 なんでそのメンツなんだよ? |
十手 | まず、〇〇君は決まりだろう? シャルル君もアンヌ殿の知り合いと言うし……あと1枠が 俺に決まったのは……はは、正直、自分でも意外だよ。 |
シャルルヴィル | 十手さんが一番無難……じゃなくて、みんなが納得してくれるし! それにライク・ツーだって、マークスやジョージに 撮影されてるとこ、見られたくないでしょ? |
ライク・ツー | ……まあな。 お気遣い、どうも。 |
主人公 | 【素敵だった!】 →ライク・ツー「そうか? これくらい、普通だろ?」 【なんでもできるんだね】 →ライク・ツー「こんなの、『できる』うちに入らねぇよ。」 |
アンヌ | ライク・ツー! アナタは素晴らしいモデルよ。 でも、まだまだこんなものじゃないはず……。 もっと自分を解放して。心を裸に! できるわね? |
ライク・ツー | ……なるほどな。 フフ……フフフ……。 |
ライク・ツー | いいか、こんなもん当たり前だ。 お前が見いだした通り、俺はモデルとして 素晴らしい素質を持っているからな! |
スタッフ | 撮影、再開しますー! |
ライク・ツー | こんなポーズもいいだろ? 可愛く撮ってよ! |
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カメラマン | ワンダフル!! 誰もが恋焦がれるジュエリーだ! |
ライク・ツー | 次は、こうだ! 特別大サービス! ウィンクつき! きら~ん☆ |
カメラマン | 眩い輝きが月をも凌駕している~!! |
シャルルヴィル | の、ノリノリだね……。 |
十手 | いやぁ、なんというか……。 いつものクールなライク・ツー君からは、 想像できない光景だなぁ……。 |
撮影後──
十手 | これが全部、今日撮ったライク・ツー君の写真か。 たくさんあるねぇ! |
---|---|
シャルルヴィル | どれもすごく素敵だよ! この中から表紙用の写真を決めるのは難しそう。 ……あ、でも、ボク、これが好き! |
アンヌ | いいわね。でも、こっちもセクシーよ。 ……いえ、こっちもミステリアスで捨てがたいわ。 それにこっちも、あっちも……ああ、もう、選べないわよッ!! |
十手 | ライク・ツー君が一番良く撮れていると思うものを 選んだらいいんじゃないか? 本人が気に入ったものを使うのが一番だからね。 |
ライク・ツー | いや。むしろこういうのは、他人が選んだ方がいいんだよ。 自分だとヘンなバイアスかかるからな。 |
十手 | そういうものなのか……。 ……うん? この写真なんか、戦場での目の鋭さを彷彿とさせて いいんじゃないかい? |
シャルルヴィル | ダメダメ! もっと可愛い顔してるやつがいいって! |
ライク・ツー | ……おい、〇〇。 お前はどれがいいと思うんだ? |
主人公 | 【この可愛らしい雰囲気の写真がいい】 →ライク・ツー「ふーん……可愛い感じが好みなのか。 写りも悪くねーな。 ……趣味、合うじゃん。」 【こちらの格好いい表情の写真かな?】 →ライク・ツー「ああ、これ、いい具合に撮れてるじゃん。 なるほどね、こういう雰囲気か。 ……覚えとく。」 |
シャルルヴィル | 本当だ! この写真が一番いいかも! |
十手 | 確かに、ライク・ツー君らしくもあり、 新たな一面も見える写真だなぁ。 さすが〇〇君だ。 |
アンヌ | ええ、この1枚にしましょう。 ライク・ツー、アナタと一緒に仕事ができて、光栄だったわ。 お礼に撮影に使った衣装はプレゼントとして受け取ってね。 |
ライク・ツー | ……どうも。 じゃあ、遠慮なくもらっておく。 |
シャルルヴィル | 無事撮影が終わってよかった! ふふっ、本屋さんに雑誌が並ぶのが楽しみだね! |
十手 | ああ、本当だね。 今夜は、大成功の祝杯をあげようか! |
シャルルヴィル | うん、そうしよう! ね、〇〇、ライク・ツー♪ |
ライク・ツー | 別に祝杯とか労いとかいらねぇけど、 ……ま、せっかくだし付き合ってやってもいい。 |
主人公 | 【楽しみだね】 【お疲れさま!】 |
ライク・ツー | ……ふんっ。 |
ライク・ツー | (貴銃士として在る目的を忘れたわけじゃねぇけど。 ……やっぱ、オシャレって楽しい!) |
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