弟の存在に悩み、苦しんでも、結局はこうして背中を合わせられる。
雷鳴によって崩れた塔が、また立て直すことができるという意味を持つように。
運命が指し示すは塔の手札。これは、破壊か、それとも救済か。
心配いらないよ。僕が正しい姿に導いてあげる。全部君のため、大切な弟のためだから。
主人公名:〇〇
主人公の一人称:自分
それは昨年のクリスマスのこと──
スナイダーを“いい子”にする催眠を試みたエンフィールドだが、
スナイダーではなくベルガーが催眠にかかってしまう。
催眠が解け、傍若無人に暴れまわるベルガーを止めようと、
再び催眠を試みたエンフィールドだったが、
鏡のせいで自分自身に暗示がかかってしまい──。
スナイダー | エンフィールド、喉が渇いた。 |
---|---|
エンフィールド | おや、それは大変だね。 君の好きな炭酸水を用意してあるよ! |
エンフィールド | はい、どうぞ。 こぼしたりむせたりしないように気をつけて飲んでね。 |
スナイダー | おまえが俺の心配をするとはな。 随分と優しい“お兄ちゃん”になったものだ。 |
スプリングフィールド | エンフィールドさん、まだ催眠が解けていないみたいですね……。 クリスマスからしばらく経つのに……。 |
シャルルヴィル | 『まっさらになって、言われたことを素直に聞くようになる』 だったかな……。それがあんな風になるなんてね……。 |
ジョージ | ま、いいんじゃないか? 2人が仲良しで俺はHappyだぜ☆ |
スナイダー | なあ、エンフィールド。 俺は、おまえのなんだ? |
エンフィールド | ふふっ、君は僕の素敵な弟だよ、スナイダー。 強くて格好いい自慢の弟さ! |
スナイダー | そうか。 なら、おまえも俺になりたいだろう? |
エンフィールド | えっ……? |
スナイダー | 俺がこれから、おまえを俺に改造してやる。 強くなれるんだ。嬉しいだろう? |
エンフィールド | あ……ああ! とても素敵だね。う、嬉しいよ……! |
ローレンツ | ほう……これは実に興味深い現象だ。 Mr.エンフィールドは笑顔で頷きながらも、 身体は震え、涙が滲んでいる。 |
ローレンツ | 強力な催眠状態にあってもなお、 改造の恐怖は彼の身体に染み付いており、 あのような反応を見せているというのか……。 |
ジョージ | Nooo……あれは仲良しじゃないぞ! Hey、エンフィールド! |
エンフィールド | ジョージ、師匠……? |
スナイダー | ……おい、邪魔をするな。 |
ジョージ | エンフィールド、しっかりしてくれって……! オレは、エンフィールドがエンフィールドじゃなくなっちまうのは 寂しいしイヤだよ! |
エンフィールド | ご心配なく、師匠! カ……可愛い弟が、僕のことを思って改造してくれるのです。 僕は、強く……うぅっ……!? |
スナイダー | さあ、銃を寄越せ、エンフィールド。 すぐに終わらせてやる。 |
エンフィールド | あ、ああ! 嬉しいな……! |
ジョージ | 泣いてるじゃないか、エンフィールド……! 頼むから、正気に戻ってくれよ~~ッ!! |
ハンマーやのこぎりなどのセットを始めるスナイダーと、
涙を流しながら、笑っているエンフィールド。
ジョージは2人の間に入って止めようとするが、
エンフィールドはガタガタ震えながらも、
どこか虚ろな目で自分の銃を弟へ差し出そうとする。
スナイダー | ふ……ははははッ!! |
---|---|
ジョージ | 目を覚ますんだ、エンフィールド~~~ッ!!! |
エンフィールド | ぶほばっ!? |
ジョージも半泣きになりながら、
エンフィールドを往復ビンタする。
その時だった。
エンフィールド | ──ハッ!? ジョージ師匠……? |
---|---|
ジョージ | エンフィールド……? |
エンフィールド | ぼ、僕は一体、何をしてしまったんでしょう……。 ジョージ師匠が、僕をこんな風に叩くなんて……。 |
エンフィールド | それに……なんだ? この身体の震えは……。 頬が濡れてる……? |
ジョージ | エンフィールド……! やっと元に戻ったんだな! おまえ、危なかったんだぞ。 あとちょっとで改造されるところで……! |
エンフィールド | 改造……ううっ! |
震える自分の身体を抱き締めるようにしながら、
エンフィールドは腰が抜けたようにへたり込む。
ジョージ | 怖かったな、エンフィールド。 もう大丈夫だぜ! |
---|---|
エンフィールド | し、師匠……っ!! |
スナイダー | ……チッ。あと少しだったのにな。 |
シャルルヴィル | 一件落着、でいいのかな……。 |
スプリングフィールド | よくわかりませんね……。 でも、催眠が解けてよかったです……。 |
シャルルヴィル | うん……本当にね……。 |
──クリスマス・イブの騒動からしばらく。
街へ出かけた際にラッキーチャームを見つけ、
スナイダーにプレゼントしたものの、すぐに捨てられてしまい、
エンフィールドは頭を悩ませていた。
エンフィールド | はぁ……。一体どうしたら スナイダーは絶対高貴の素晴らしさを理解してくれるんだろう。 |
---|---|
エンフィールド | 叱っても、なだめすかしても、まるで効果が無いし……。 |
エンフィールド | ……ん? あれは……。 |
ローレンツ | モルモット1号! 止まるんだ、こちらへ戻れ! |
---|---|
ベルガー | ぶひゃひゃひゃっ! 止められるもんなら、止めてみやがれ~っ! |
ローレンツ | くっ……どういうことだ……。 モルモット1号が、予測を上回る反抗的態度をとっている。 |
ローレンツ | ──青年はうなだれ、嘆いた。 このままでは新たな検証が進められず、 計画が狂っていく未来を……。 |
ベルガー | あ? 何ぶつぶつ言ってんだぁ? キメーな……ほっとこ。 |
ファル | はぁ……嘆かわしいですねぇ。 あまりにも幼稚で。 |
ローレンツ | む……? Mr.ファル。 幼稚とは、モルモット1号の知能についての言及か? |
ファル | 彼だけでなく、あなたたちに向かって言っています。 あなたは彼に対して、さほど優位に立てていません。 簡単な指示すら聞かせられないなんて、無様ですよ。 |
ローレンツ | なっ……!? |
ローレンツ | ……ゴホン。 では、Mr,ファルならば、モルモット1号を御せると? |
ファル | そうですねぇ。 即刻完全服従であれば、少々手荒になりますが……。 |
ファル | 恐怖による支配──鞭でなくとも、 ちょっとした対応のコツを押さえ、飴があれば、 私が望むような行動へ誘導することは可能ですよ。 |
ローレンツ | なに……それは興味深い。 ぜひ、君の理論を俺に教えてくれないか。 |
ファル | ええ、構いませんよ。駄獣が騒ぎまわっていては迷惑ですし。 あなたがあれをきちんとコントロールできるようになるのは、 私としても好ましいことですから。 |
ファル | これは、犬などある程度知性を持つ動物向けのやり方ですが、 吠えるなど、何か好ましくないことをしている時は、無視します。 そして、止めたら褒めたり、褒美を与えたりします。 |
ファル | この程度は基本的な手法なので、 あなたも知っているでしょうね。 |
ローレンツ | ああ。問題は、モルモット1号を放っておくと、 時に大惨事になるため止めざるを得ないことだが……。 |
ファル | では、他のやり方もいろいろお教えしましょう。 犬の躾の本を参考に、私なりのアレンジを加えたものもあるので。 |
ローレンツ | 待ってくれ。研究ノートに書き留める。 |
エンフィールド | …………。 |
---|---|
エンフィールド | (これは……もしかしたら参考になるかもしれない……!) |
──数日後。
グラース | てめぇ、僕にぶつかっておいて謝罪もなしか? |
---|---|
スナイダー | 謝罪する必要があるとすればおまえからだろう。 ぼんやり突っ立って、俺の進路を塞いだのだからな。 |
グラース | なんだと……! |
タバティエール | おいおい、こんなところで喧嘩はよせよ? |
エンフィールド | タバティエールさん、ここは僕に任せてください。 |
スナイダー | エンフィールドか。 おまえの口出しは無用だ── |
エンフィールド | グラースさん、駄目ですよ! |
グラース | ……は? |
エンフィールド | まったく、いけませんね。 スナイダーを刺激するなんて! 教室で喧嘩はいけませんよ、グラースさん! |
グラース | なんで僕だけなんだ……? つーか、どういう風の吹き回しだよ。気味悪ィな……。 |
スナイダー | …………? |
エンフィールドの思わぬ行動に、
スナイダーとグラースは呆気にとられて固まった。
グラース | ……はぁ、馬鹿らしい。 付き合ってらんねぇ。 |
---|---|
スナイダー | エンフィールド、おまえが俺をかばうなど、 珍しいこともあるものだな。 ようやく改造される気になったか? |
エンフィールド | …………。 |
エンフィールド | 今後は気をつけてくださいね、グラースさん。 |
グラース | だから、なんで僕に言うんだてめぇは! |
スナイダー | おい、エンフィールド。 望み通り改造してやると言ったのが聞こえなかったか? |
エンフィールド | …………。 |
エンフィールド | タバティエールさんも、グラースさんの保護者として しっかり監督していただかないと! |
タバティエール | あ、ああ……。 ……? |
エンフィールドは、スナイダーを無視して2人に話し続ける。
スナイダーは眉をひそめ、やがて、退屈そうな表情になった。
スナイダー | …………。 なぁ、エンフィールド……腹が減った。 |
---|---|
エンフィールド | (来た……! これが、『吠えなくなった』タイミングだ!) |
エンフィールド | スナイダー!!! |
スナイダー | ……!? |
エンフィールド | 素晴らしい食欲だね!! 空腹を自覚できるなんて素晴らしい! 偉い! それでこそ僕の弟だよ!! |
スナイダー | ……? |
エンフィールド | さぁ、君の大好きなソーダだよ。 もちろん、ベタベタしない無糖ソーダだ! |
スナイダー | ……? 気が利くな。悪くない、飲んでやる。 |
エンフィールド | うんと飲むといいよ! ……ああ、スナイダー! 素晴らしい飲みっぷりだっ!! |
グラース | ……相変わらず、意味不明で気味の悪ィやつらだな……。 関わらないようにしよう……。 |
──エンフィールドとスナイダーの共闘により、
トルレ・シャフ構成員を捕らえたあとのこと。
ラッセル | さて、本日は世界連合軍の組織編成について学んでいこう。 皆、ハンドアウトで予習はしてきたね。 |
---|---|
ラッセル | 128ページの図3を見てくれ。 これは──…… |
〇〇が筆記具を取り出そうとペンケースを探ると、
見覚えのないものが入っていた。
主人公 | 【(なんだろう、これ)】 【(自分の物ではないはずだけど……)】 |
---|
ペンケースの中にあったのは、シルク製の小さな巾着だった。
中には、薔薇をかたどったチャームがついた、
シルバーのネックレスが入っている。
不思議に思いながらも、
〇〇はネックレスを巾着に戻し、
再び授業へと意識を集中させた。
──放課後。
エンフィールド | おかえりなさい、〇〇さん! 今日の授業もお疲れ様でした。 |
---|---|
主人公 | 【ただいま】 【エンフィールドもお疲れ様】 |
エンフィールド | ところで……〇〇さん。 何か変わったことはありませんでしたか? |
エンフィールド | たとえば、見覚えのないものが、 身近なものに紛れ込んでいたとか。 |
主人公 | 【そういえば……】 【ペンケースにこれが入っていた】 |
〇〇は、鞄の中から薔薇のチャーム付きネックレスが
入った小さな巾着を取り出して見せた。
エンフィールド | ……ふふっ。 |
---|---|
エンフィールド | サプライズ……成功ですっ! |
主人公 | 【……!?】 |
エンフィールド | そちらは、僕からの贈り物です。 日頃の感謝を込めて、親愛なるマスターへご用意しました。 |
エンフィールド | これはラッキーチャームでして、 モチーフによって意味や願いが異なるんです。 |
エンフィールド | 扉を開くという意味のある鍵のチャームをスナイダーにあげたら、 自分から絶対高貴を使って戦ってくれまして……! |
エンフィールド | 〇〇さんにもぜひお渡ししたいなと思い、 薔薇のチャームを選んでみました。 |
主人公 | 【薔薇にはどういう意味が?】 【なぜ薔薇を?】 |
エンフィールド | 薔薇は、あなたにふさわしい高貴な花ですからね。 それに……よーく見てみてください! ほら、花びらの横にテントウ虫がいるんですよ。 |
エンフィールド | テントウ虫は幸運や成功を運んでくれるんです。 〇〇さんに素晴らしい幸せが訪れますように…… という、僕の願いが籠っています。 |
エンフィールド | 先日は、僕たち兄弟が大変お世話になったので、 お礼も兼ねてぜひ受け取ってください。 |
エンフィールドは、〇〇の後ろに回ると、
丁寧にネックレスをつけた。
エンフィールド | ああ、思った通りだ……! とてもお似合いですよ、〇〇さん。 |
---|---|
主人公 | 【あ、ありがとう……】 →エンフィールド「いえいえ、この程度礼には及びませんよ! まだまだ、あなたへのお礼には足りないくらいですから。ええ!」 【エンフィールドの幸運も願ってるよ】 →エンフィールド「〇〇さん……! ふふっ、ありがとうございます。」 |
エンフィールド | あなたの幸せは、僕の幸せでもありますから……。 薔薇とテントウ虫のチャームが、 〇〇さんにたくさんの幸せを運んでくれますように! |
エンフィールド | マスター……どうか、いつまでも大事にしてくださいね。 |
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