宮殿の奥深く、暗い地下室に囚われている一羽の兎。じっとしているなんて似合わない。いざ、大脱走!
ヤツの頭の中を覗いたことがあるかい? まるで狂乱の混沌。
まともじゃないよ。どうかしてるのさ。生きるも死ぬも、ヤツには大差ねぇってんだ。
主人公名:〇〇
主人公の一人称:自分
──ある日の貴銃士特別クラスでは、
楽しく体力増強を図るために
「Cops and Robbers」──ケイドロが行われていた。
ベルガー | あひゃひゃひゃっ! 俺は捕まんねーぞ!! |
---|---|
ベルガー | アルパチーノと組んでる、 すっげースパイだからな! |
十手 | ベルガー君、俺たちはスパイじゃなくて泥棒だよ。 |
ベルガー | ああ? スパイの方がかっけぇ~だろうが! |
ライク・ツー | おい、十手のおっさん。 そのバカは放っといて、逃げることに集中しろ。 泥棒チームはもう、俺ら4人しかいねぇんだから。 |
十手 | あ、ああ。 しかし、遊びとはいえ泥棒に扮するというのは、 どうにも居心地が悪いなぁ……。 |
在坂 | ……来た。 在坂は、散開して逃げることを提案する。 |
ライク・ツー | 賛成。散るぞ! |
ジョージ | はぁ、はぁ……あいつら、足速いな……! 残り4人、全員捕まえてやろうぜ、エンフィールド! |
エンフィールド | ええ、師匠! 我々警察チームで力を合わせて、華麗に勝利を収めましょう! |
グラース | 疲れた……。 つーか、なんでこの僕が走り回らなきゃ行けねぇんだ。 |
グラース | 残り4人ならあいつらだけで十分だろ。 僕はのんびり散歩でもしとくか。 |
エンフィールド | 師匠、そちらです! |
ジョージ | おう! 捕まえたぜ、十手! |
十手 | ぬおっ……! 裏をかいたつもりだったんだが、やられてしまったな。 |
十手 | だが、やはり泥棒役は落ち着かないし、 無事にお縄につけてほっとしたよ……。 |
邑田 | それっ! |
在坂 | む……在坂も捕まってしまった。 |
ジョージ | よーし、あと2人だけだな。 行くぜ、必殺挟み撃ちっ! |
エンフィールド | はい、師匠! |
ライク・ツー | げっ! |
ベルガー | ぶひゃひゃっ! 俺以外みーんな捕まってやんの! ぷくく……ダッセェ~! |
警察チームの連携プレイによって捕まったライク・ツーを尻目に、
ベルガーはグラウンドを軽快に駆け抜けていく。
エンフィールド | ふふっ、ベルガーさん。 そっちは行き止まりですよ? |
---|---|
ベルガー | バーカッ! こんな壁ぐらい、どーってことねぇっての! |
エンフィールド | ええっ!? |
ベルガーは壁を蹴ってジャンプし、
追ってきたエンフィールドの背中を蹴り飛ばして、
元来た方へと再び駆けていく。
エンフィールド | ぐっ……! |
---|---|
ジョージ | わーっ! エンフィールド、大丈夫か? |
エンフィールド | 僕はいいので、追ってください、師匠……! |
ジョージ | ああ……おまえの敵はとるからな! 待て、ベルガー!! |
ジョージは、グラウンドの隅で立ち止まっているベルガーに迫る。
その時だった。
ベルガー | 食らえっ、葉っぱ爆撃~! |
---|---|
ジョージ | おわっ!? |
振り返ったベルガーから、
腕一杯に抱えていた落ち葉を浴びせられ、
視界を失ったジョージは転倒した。
ケンタッキー | あいつの身のこなし……ただのバカじゃねぇみたいだな。 |
---|---|
ベルガー | バカって言う方がバカだって知らねーのかよヴァーカ!! 俺はなぁ……えっと……あ、そうだ! チョー高性能でスゲー軽くてスゲー、ブルパップ方式なんだぜ! |
ライク・ツー | バカのブーメラン突き刺さってんぞ。 つーか、俺もブルパップだけど、 別に逃げ足と銃の種類関係ねーだろ。 |
ペンシルヴァニア | ブルパップ……? |
ライク・ツー | 銃の設計の話だ。 グリップと引き金より後ろに、弾倉やら機関部があるやつ。 |
ライク・ツー | 銃身の長さはほぼそのままで、銃の全長を短縮できんだろ。 コンパクトで軽量化も可能な設計ってわけ。 |
ライク・ツー | ま、扱いにはある程度慣れが必要なんだけどな。 画期的な設計には違いねぇよ。 |
十手 | へぇ……! 現代の軍用銃にも、設計の工夫が色々あるんだなぁ。 |
ジョージ | おっ、昼休みだ! たくさん走って腹減った~! 食堂行こうぜ! |
エンフィールド | そうですね、ジョージ師匠! |
ライク・ツー | そういや、ベルガーの野郎はどこ行ったんだ? お前ら、途中から話に夢中で追ってなかっただろ。 |
ジョージ | あ、そうだった! 授業終わったのに戻ってこないな。どこ行っちまったんだ? |
八九 | さあな。 走るのに飽きて、どっかで隠れて寝てんじゃね? |
邑田 | 放っておいてもよかろう。 さあ、在坂。おむらいすを食しにゆくとしよう。 |
──演習場の片隅にて。
ベルガー | ぎゃははっっ! 俺、チョー足速くね!? |
---|---|
ベルガー | って、あれ……? 誰もいねーじゃん。ありぃ……? |
ベルガー | ……つーか俺、なんでこんなに走ってんだっけ? ん~~~? わっかんね。 |
ベルガー | まあいっか。 走んの飽きたしノド渇いた~。コーク飲みてぇな~。 |
ベルガー | 財布クン探しに行こーっと! |
ベルガー | おい! 何すんだコレ!? とっとと外せよバァーーカ!!! |
---|---|
ローレンツ | 安心したまえ、モルモット1号。 授業が無事終了すれば、すぐに君を解放する。 |
恭遠 | 授業を始めるぞ。 皆、席について── |
恭遠 | なっ……ベルガー!? なぜ椅子に縛りつけられているんだ!? |
ローレンツ | Mr.グランバード。 それについてはこの俺が説明しよう。 |
ローレンツ | 先日、Mr.グランバードは嘆いていたな? モルモット1号の出席率が15%を下回っていると。 |
恭遠 | た、確かにその通りだが……。 |
ローレンツ | その件について改善策を考えてみたが、 授業に参加させたところで逃亡する確率は61%。 教室を破壊する確率は25%。 |
ローレンツ | さらに、てこでも起きないなどの理由で そもそも参加させられない確率は14%だという計算結果が出た。 |
ローレンツ | よって、モルモット1号が教室に現れた際すかさず拘束し、 その状態で授業を受けさせるのが最善である。 フッ……証明完了。 |
恭遠 | そ、そうか……。 |
恭遠 | ベルガーがせっかく授業に参加するのだから…… 今日は君についての授業にしてみよう。 |
ベルガー | へっ……? 俺のジュギョー? |
恭遠 | ああ。 君は、銃史におけるなかなか興味深い存在だからね。 |
恭遠 | 君の銃には、強化プラスチックが多用されているだろう? |
ベルガー | んぇ? プラスチックゥ? |
恭遠 | ああ。強化プラスチックを利用する最大のメリットは、 銃の軽量化だろう。 |
恭遠 | 君はプラスチックを使った銃の先駆けで、 パーツを交換することで様々な用途に使える システム・ウェポンの思想もあり── |
ライク・ツー | いや、こいつにそんな話しても 理解できねぇだろ……。 |
ベルガー | ウンウン、俺ってやっぱスゲーんだな! イカしたプラスチックでシステムポン! |
ローレンツ | システム・ウェポンだ、モルモット1号。 |
ローレンツ | Mr.グランバードは君にやる気を出させるため、 いい点に着目したのだろうが、 君の銃の問題点も同様に知るべきだ。まず── |
ベルガー | うっせー!! ジュギョーが聞こえねーだろうがっ! |
恭遠 | (真面目に授業を受けてくれるのは嬉しいが、 なんだか奇妙な光景を見ているような……) |
──授業終了後。
ベルガー | なー、オマエ。 アサルトライフルだよなぁ? |
---|---|
エルメ | それが何か? |
ベルガー | プラスチックか? |
エルメ | ……? 違うけど。 |
ベルガー | ぶひゃひゃ、遅れてるぅ~~! |
エルメ | は……? |
八九 | おい、ベルガー! 意味わかんねーこと言って周りをディスるな。 面倒な展開になるだろ。 |
ベルガー | あ? 遅れてるヤツに遅れてるって言って 何がわりーんだよ! |
ジーグブルート | ……おい。プラスチックがどうのこうの聞こえたが、 なんの話してやがる? |
ベルガー | 俺がスゲープラスチックだって話だ! つーか、お前もプラスチック? |
ジーグブルート | はぁ? 強化プラスチックが使われてるが、それがどうした。 |
ベルガー | 八九、てめーはどうなんだよ。 |
八九 | 俺もだけど。 |
ベルガー | ぷくく……俺がサキガケなんだぜぇ! つ・ま・り……お前らは子分な! おら、親分にコーク寄越せよ!! |
ジーグブルート | なんだこのアホ。 話にならねーな。 |
ベルガー | ドーテー君ならイミわかるよなぁ? 早くコーク買って来いよぉ。 |
八九 | (あー、めんどくせ。あと微妙にムカつく) |
八九 | (……チッ、今こそやるしかねぇな。 前々から妄想……じゃねぇ、計画してた、 あの嫌がらせを実行してやる……!) |
八九 | ほら、お望み通りコークやるよ。 |
---|---|
ベルガー | おー! わかってんじゃねーか! ……あ? なんだソレ? |
八九 | ……ああ。粘土を素焼きにしたボールだ。 コークに入れると、おもしれぇことになるらしいぜ。 |
八九はベルガーにコークを手渡すと、
素焼きのボールをボトルの中に投入した。
ベルガー | んん……? |
---|
ベルガーがボトルを覗き込んだ次の瞬間、
コークが勢いよく噴出し、ベルガーの顔にかかった。
ベルガー | ンガッ……!? |
---|---|
八九 | (ぷぷぷっ……! ザマァ) |
ベルガー | …………。 |
ベルガー | すっっげ~! やっべ~ッ! |
ベルガー | なんだ今の!? コークのシャワー!!?? なあ、もう1回っ!! もう1回やれよっ!! |
八九 | えっ……? |
ベルガー | もーいっかい! もーいっかい! |
八九 | クソ……思ってたのと違ぇ……! |
ベルガー | オーラオラオラオラァ!! ぜーんぶぶっ壊れちまえーー!! |
---|---|
八九 | うるせぇ……。集中できねぇだろうが。 |
ベルガー | あひゃひゃひゃっ! あれ、弾切れになっちまった。ダンソーダンソー♪ |
ベルガーは弾倉を交換し、
銃を左手に持ち替えて再び撃ち始める。
その瞬間、排出された高熱の薬莢が彼の顔面を直撃した。
ベルガー | いでぇっっっ!! |
---|---|
八九 | うわっ、馬鹿だ。 排莢くらうとか失格だろ。 |
ベルガー | いでぇっ! いでぇよーー!! |
ローレンツ | 騒いだところで痛みは消えはしないぞ、モルモット1号。 君のことだから、あとで傷のことを忘れて触りかねない。 ひとまず、絆創膏でも貼っておくか。 |
ベルガー | 全然治んねぇじゃねぇかバーカ! ヒリヒリしていでぇよー!! |
主人公 | 【どうかした?】 【怪我?】 |
八九 | ああ、〇〇。 この馬鹿が排莢の方向も考えないで撃ったせいで、 顔面ちょろっと火傷したんだよ。 |
ローレンツ | 大した怪我ではないから絆創膏を貼ったのだが、 この通り痛い痛いと大騒ぎでね。 |
主人公 | 【すぐに治療するよ】 【自分に任せて】 |
ベルガー | おっ……? なんかイイ感じ……? |
ベルガー | いてぇのがなくなった! サンキュー、〇〇! |
ライク・ツー | ……ったく。 大騒ぎしてると思ったら、怪我の理由まで馬鹿だな。 |
マークス | おい、マスターの手を煩わせるな。 |
ベルガー | うるせぇ! お前もヤケドしてみろヴァーカ!! |
ベルガーが銃を構えようとするので、
八九はその銃口をすぐに下へ向けさせた。
八九 | 左で構えたらまた顔面火傷するぞ。 そもそも撃とうとするな、アホ。 |
---|---|
ライク・ツー | つーかさ…… お前の銃、排莢の向き逆にできるんじゃねぇの? |
ベルガー | んぇ? |
ライク・ツー | ちょっと貸してみろ。 |
ライク・ツーはベルガーの銃を受け取ると、
パーツを調整して排莢の向きを逆にした。
ライク・ツー | できた。簡単じゃねぇか。 |
---|---|
ベルガー | おおっっ!? お前……天才ってヤツか……!! |
ライク・ツー | 別に普通だけど。 お前に比べたら天才だな。 |
ベルガー | うおおお、すっげぇ~~~!! こんなことできるのかよ!! |
ライク・ツー | はぁ……自分の銃のことくらいちゃんと知っとけよ。 |
ベルガー | いや~忘れてたぜ☆ |
八九 | やっぱ馬鹿だな、こいつ……。 |
ミカエル | ~♪ ~~~♪ |
---|---|
ローレンツ | Mr.ミカエルのピアノの音色は今日も素晴らしいな。 |
ベルガー | オマエ、いっつも似たような曲ばっかでよく飽きねーよな~。 |
ミカエル | 似ている……? 僕の演奏は、日々刻々と変化しているし、曲も様々だよ。 |
ミカエル | この曲は、モーツァルトのレクイエム。 繊細なようでいて時に激しく、 冬の海を思わせるような旋律が素晴らしいんだ。 |
ベルガー | センリツ……ぐぅ……。 |
ローレンツ | 寝るな、モルモット1号。 ふむ……冬の海か。いい例えだ。 この曲には確かに、凍てつく海のような冷たい美しさがある。 |
ローレンツ | 俺は、美しく青きドナウが好きなのだが、 この曲も実に気に入ったよ。 |
ベルガー | ドナ……ドーナツ食いたくなってきた。 ローレンツ、ドーナツ買って来いよぉ。 |
ローレンツ | 実に残念な思考回路だな、モルモット1号。 もう少しまともな感想は出ないのか? |
ミカエル | ふふ……。 この旋律がドーナツにつながるのも、面白い発想だと思うけどね。 |
ローレンツ | 閃いたぞ……! これを機に、検証をしてみるか。 |
ローレンツ | Mr.ミカエルは、いつも放課後にピアノを弾いているな。 |
ローレンツ | 君の美しい演奏を耳にすることで、 モルモット1号に良い作用がないか検証したい。 今度連れてきても構わないだろうか? |
ミカエル | なるほど……情操教育だね。 もちろん、いつでも聴きにおいで。 |
──1日目。
ローレンツ | さあ、始めてくれたまえ。 |
---|---|
ミカエル | 今日はカトラリーも来ていることだし、新曲を披露しようかな。 |
カトラリー | たかが検証でミカエルのピアノを聴くなんて贅沢だな……。 でも、僕も聴けるからいいけど。 |
──ミカエルの演奏が開始されてから5分後。
ベルガー | なーなー! タイクツなんだけど! |
---|---|
ローレンツ | 今は検証……いや、演奏中だ。 黙って聴いていろ、モルモット1号。 |
ベルガー | もっとオモシれーことやれよ! あ、そーだ! 俺もエンソーしてやろうかぁ? |
ベルガー | どぉりゃぁぁぁっっーー!! |
手近にあった机を薙ぎ倒し、教室内を暴れまわるベルガー。
一方、ミカエルは動じることなく演奏を続けている。
カトラリー | ちょっとやめてよっ! せっかくのリサイタルが台無しだろ! |
---|---|
ミカエル | 感じる。混沌の息吹、破滅のダルセーニョ……。 ……ん、いい曲を思いついた。 |
ベルガーの破壊行為に共鳴するように、
ミカエルが激しい旋律を奏で始める。
ローレンツ | これは……! Mr.ミカエルとモルモット1号が生み出すまさかのハーモニー! すべて記録しなければ……! |
---|---|
カトラリー | ちょっと!! なんで誰も止めないの!? |
カトラリー | ミカエルは天使なのに、こんなめちゃくちゃな曲嫌だよ──!! |
生徒1 | ちょっと、何の騒ぎ!? |
生徒2 | ぎゃ! 音楽室がめちゃくちゃ……! |
一言では説明できない状況に、
集まってきた生徒たちは言葉を失ったのだった。
──2日目。
ミカエル | さて、今日は何を弾こうかな。 |
---|---|
ローレンツ | 昨日の破滅的リサイタルに対し、苦情の申し入れがあったそうだ。 今日は静かな曲をリクエストする。 |
ミカエル | それならショパンにしよう。 |
ベルガー | 食パン?? |
ミカエル | ノン。ショパンの通称“雨だれ”という曲だよ。 |
ベルガー | 甘ダレ? 肉に使うヤツ?? |
ベルガーを意に介することなく、
ミカエルが演奏を始めた5分後。
ベルガー | …………ぐか~~。 |
---|---|
ローレンツ | 本日は演奏開始5分後にモルモット1号が熟睡。 静かな旋律が子守唄になったようだな。 |
その後も、懲りずに放課後リサイタルを繰り返すことしばらく──
ある日の教室で、ベルガーが楽しそうに机を叩いていた。
ベルガー | イージー、ジー……♪ |
---|---|
シャスポー | 君。机を叩くのはやめてくれないか。 不愉快だよ。 |
ベルガー | ジー、イージー……♪ |
八九 | あいつ、さっきから何言ってんだ? |
ローレンツ | はっ……! もしやこれは……絶対音感!? |
ローレンツ | EとGは音階の名称だ。 モルモット1号はリサイタルの効果により、 机を叩く音に音階を感じているのかもしれない……!! |
ベルガー | エッグ♪ エッグ♪ イージー、ジーはエッグ♪ |
ローレンツ | ……証明中断。 あれは、子供の間で流行っている英語の歌だ。 |
八九 | 馬鹿に効く薬はねぇってことだな……。 |
──休日の寮にて。
ローレンツ | モルモット1号、入るぞ。 |
---|---|
ベルガー | あぁ!? クソメガネ! 何しにきやがった!! |
ローレンツ | 観察のために来ただけだ。 気にせず、いつも通りにくつろいでくれ。 |
ベルガー | ホントに? なんもしねーだろうな?? |
ローレンツ | ああ。見てみろ。 何も実験道具を持っていないだろう? |
ベルガー | …………まぁいっか。 あっ、やべ。あいつらにエサやらねーと! |
ベルガーはハッとして、
部屋にある2つの水槽に向かった。
ベルガー | 見ろよ、アルパチーノ。 パクパクエサ食ってる顔、おもしれーだろ? |
---|---|
ベルガー | こっちがブッシープレコ連隊。 あっちがコリドラスでぇ、すばしっこいのがカージナルテトラ。 あのかっちょいいのがエンゼルフィッシュだぜ。 |
ベルガー | あひゃひゃ、そんなにエサうめーのか? あんまり食うと腹壊すぜ~。 |
ローレンツ | ……興味深いな。 |
ローレンツ | モルモット1号の知能は嘆かわしいほどの低さだが、 こと熱帯魚や愛玩動物については、 飼育方法や種の名前などを覚えている……。 |
ベルガー | 腹壊して動かなくなっちまっても大丈夫だぞ~。 壊れちまったら、ハクセーにしてやるからな! ひゃっはっは!! |
ローレンツ | そのサイズでは小さすぎて、剥製にはできないだろう。 |
ベルガー | はぁっ!? |
ベルガー | じゃ、じゃあさ……。 こいつらが死んだらハクセーにもならなくて、 エンゼル1号みたいに海……じゃなくて川に流すしかねぇのかよ! |
ベルガー | ううっ、そんなのヤダ……ずびっ! |
ローレンツ | ……いや、そうとも限らない。 |
ベルガー | へっ……? |
ローレンツ | 少し待っていろ。 |
──15分後。
ローレンツは、図書館で借りた熱帯魚の図鑑や専門書を手に、
ベルガーの部屋に戻ってきた。
ローレンツ | この本によるとブッシープレコは長寿で、 身体も大きくなるとのことだ。 |
---|---|
ローレンツ | 大きく成長すれば、 やがては剥製にすることも可能なサイズになるだろう。 |
ベルガー | ……よっしゃ! 大事に育てるぜ! オマエら、もっとエサ食って、大きくなれよ~! |
ローレンツ | 待て、モルモット1号。 餌を与え過ぎると、水質が悪化して小さいうちに死ぬぞ。 |
ベルガー | それじゃ、毎日死なねぇ程度にいっぱい食わせてやるよ! |
ベルガー | 俺もポテチ食べよ~。 アルパチーノも食うか? |
ローレンツ | (しかし、彼らが大きく成長し寿命が尽きるまで、 俺たちが存在し続けているとは限らないが……) |
ローレンツ | (自分の寿命も未知数とは、貴銃士とは不可思議な存在だ) |
ローレンツは楽しそうなベルガーを静かに見守るのだった。
Protected by reCAPTCHA and the Google Privacy Policy and Terms of Service apply.
まだコメントがありません。