貴銃士エルメは情が嫌いだ。嫌悪しているといってもよい。今日も情を訴える輩を唾棄し、ただ、冷たく見降ろした。
嫌悪という感情自体が鉄らしからぬことに、彼は、まだ気が付いていない。
かつて。情に厚く、情に駆られ、情に殺された男がいた。…以前の俺の持ち主だ。馬鹿な話だろう?
君は、彼に少し似てるんだ。
──二の轍は決して踏ませない。
主人公名:〇〇
主人公の一人称:自分
ある日、〇〇は、エルメ、ドライゼとともに
アウトレイジャー出没情報があった地域の調査に赴いていた。
エルメ | うーん……。 今のところ、それらしき痕跡はないね。 |
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ドライゼ | 潜伏しているか、あるいは移動している可能性もある。 警戒を怠るな。 |
主人公 | 【調査し忘れている箇所はないかな】 →ドライゼ「エジプトの少年王が眠る墓のような例もあることだしな。」 エルメ「どういうこと?」 ドライゼ「ツタンカーメン王の墓は、ほとんど盗掘被害に遭っていない。 その理由の1つとして、彼やその前後の王の時代が 人々から忘れ去られていたことが挙げられる。」 エルメ「なるほどね。 知らないものは暴けない……ってわけだ。」 【盲点があるかも】 →エルメ「アウトレイジャーの行動に何か法則性があるのか…… まだよくわからない部分も多いしね。 痕跡を前にしながらも気づけていないって線もありえるかな。」 ドライゼ「うむ……それは大いにあり得るだろう。 実際に、エジプトの王墓にも似たような例があるのだからな。」 エルメ「……と言うと?」 ドライゼ「古代エジプトの王墓は、ほとんどが盗掘被害に遭っている。 だが、ツタンカーメンの墓は、古代の作業小屋跡地の下という 思いもよらない場所にあったため、盗掘被害が少ないのだ。」 エルメ「ふぅん……確かに、そんなところに王墓があるだなんて、 普通誰も考えないよね。」 |
エルメ | ふふ。 アウトレイジャーからエジプトの話に繋がるとはね。 ドライゼは予想外で面白いな。 |
ドライゼ | 古今東西の様々な事象を知ることは、作戦立案にも役立つ。 可能な限り見識を広め── |
ドライゼ | ……ぬっ!? |
突然、ドライゼが何かに躓いた。
エルメ | ドライゼ! |
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ドライゼ | ……むんっ! |
倒れかけるが、片足で踏ん張ってなんとか耐え、
ゆっくりと体勢を立て直した。
エルメ | さすがだね、ドライゼ。 でも、足元に気を付けないと。 |
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ドライゼ | 引っ掛かるような木の根はなかったと思うのだが……。 |
ドライゼは、躓いたあたりの落ち葉を足先で払う。
ドライゼ | む……? これは……木の根ではないな。 何かの取手のように見えるが…… 地下施設でもあるのか? |
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エルメ | アウトレイジャーの出没情報がある山中で、 地下に続く怪しげな道の入口ね……。 |
主人公 | 【怪しい】 【調査しないと】 |
ドライゼ | ああ。俺が開けてみよう。 |
ドライゼがゆっくりとマンホールの蓋のようなものを開けると、
地下へと降りるはしごが現れた。
ドライゼ | 防空壕か、何かの地下施設か……。 ……とにかく、入って確かめるしかないな。 |
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エルメ | Wer wagt, gewinntだね。 さ、行こうか。 |
〇〇たちは、ゆっくりとはしごを降りていった。
ドライゼ | ……微かに明かりが漏れている。 |
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エルメ | “誰か”か“何か”がいるのは間違いなさそうだね。 |
ドライゼ | 慎重に進むぞ。 |
ドライゼが先陣を切り、足音を殺して進んでいく。
通路の先にあるドアをゆっくりと開けた瞬間──……
ドライゼ | ……ぐっ! |
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突然、銃声が鳴り響き、
ドライゼがよろめいた。
主人公 | 【ドライゼ!!】 【すぐに治療を!!】 |
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??? | や、やったぞ……! |
ドライゼ | ……っ、ほざけ、これしきのこと……! |
ドライゼ | ──うぉおおおっ!! |
ドライゼは、傷ついた足をものともせず、男へと突撃していく。
??? | う、うわああっ!! |
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慄いた男を、あっという間にドライゼが取り押さえる。
エルメ | ドライゼ、これを。 |
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ドライゼ | ああ。 |
エルメが差し出した縄で、ドライゼは男を縛り上げた。
??? | くそっ、その顔は連合軍ドイツ支部の……! は、放せ! 連合軍の犬めっ!! |
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ドライゼ | ……その言い草、トルレ・シャフか。 エルメ、他に敵は? |
エルメ | このアジト……っていうか、武器倉庫? なんにしても、ここにいるのはその1人みたいだね。 |
ドライゼ | では、近くの支部に連絡を取ってくれ。 |
エルメ | Jawohl. ドライゼは早く治療を受けてね。 |
主人公 | 【傷の具合を見せて】 →ドライゼ「動けるほどだ、そう大した怪我ではない。」 ドライゼ「だが……敵の応援が来る可能性も考え、 状態は万全にしておきたい。 ……治療を頼めるだろうか。」 【すぐ治療する】 →ドライゼ「すまない、世話になる……。」 |
〇〇は、患部に薔薇の傷が刻まれた手をかざす。
ドライゼの傷は見る間にふさがっていき、ものの数秒で完治した。
トルレ・シャフ構成員 | ……くそっ……! |
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ドライゼ | 無駄な足掻きはやめることだ。 まもなく連合軍の応援が到着するだろう。 貴様の身柄はすぐに支部へと引き渡される。 |
ドライゼ | ここに蓄えた武器で何をしようとしていたのか…… 洗いざらい吐くことになるぞ。 |
トルレ・シャフ構成員 | ……畜生……。 俺は、こんなところで終わりなのかよ……。 |
トルレ・シャフ構成員 | ううっ……。許してくれ、エリーゼ……。 |
主人公 | 【エリーゼ……?】 |
トルレ・シャフ構成員 | エリーゼは……俺の妹だ……。 病気でほとんど動けねぇまま、故郷で俺の帰りを待ってる……。 |
トルレ・シャフ構成員 | なぁ、あんたたち、頼む……! 1日だけ俺に猶予をくれ! 俺がこの先死ぬことになったとしても…… せめて妹に、稼いだ金を渡したいんだ……! |
ドライゼ | それは……。 |
トルレ・シャフ構成員 | 妹は働けねぇし、治療費だって必要だ。 トルレ・シャフの資金じゃなくて、俺が稼いだ普通の金なら、 妹に渡したって構わねぇはずだろ……!? |
トルレ・シャフ構成員 | 俺の願いはそれだけなんだよ……! 最後に妹に会って金を渡せたら、なんでも話す。 だから頼む! お願いだ……!! |
エルメ | 一体、何の騒ぎ? |
ドライゼ | この男が故郷の妹に金を届けたいと言っている。 妹は病気で働けず、金が必要だから渡したい、と……。 |
トルレ・シャフ | ここから南に行った街なんだ。 3時間もあれば戻ってこられる。 どうか、どうか……慈悲をくれよぉ……! |
主人公 | 【(……どうしよう?)】 【(情報も引き出せるし、数時間なら……?)】 |
エルメ | Nein. |
エルメ | 駄目だよ。 こんな男が信用できるとでも思ったの? 同情を誘って、隙を見て逃げるつもりに決まってる。 |
トルレ・シャフ構成員 | そんなことするか! 誓って本当なんだ。 お願いだ、わかってくれ……っ!! |
エルメ | 何を言っても、変わらないよ。 |
トルレ・シャフ構成員 | クソが……! 人みたいな姿をしてても、所詮は銃かよ。 肉親なんていない銃にはわかるはずもねぇだろうな、 俺がこれまでどんな思いをして生きてきたか……っ! |
トルレ・シャフ構成員 | 俺の親父は……俺たちを養うために、世界帝軍の兵士になった。 やりたくねぇこともやらされてたんだろうな。 夜中に酒を飲みながら泣いてるのを見たこともあった……。 |
トルレ・シャフ構成員 | それが、戦後には「元世界帝軍」ってひとまとめで弾圧だ。 結局親父は酒も祟って早死にしちまったよ……! 俺は俺で、元世界帝軍兵士の息子じゃあまともな働き口はねぇ。 |
トルレ・シャフ構成員 | 俺にできる仕事は…… トルレ・シャフの使いっ走りくらいしかなかったんだ……! |
エルメ | …………。 |
トルレ・シャフ構成員 | 親父は俺たちを必死に育てようとしただけで…… 俺はただ、妹を守ってやりたかった……。 なのに、なんで俺たちばっかり……ううっ……。 |
主人公 | 【(このまま引き渡してもいいのかな……)】 【(彼も犠牲者だったのか……)】 |
エルメ | ──ねぇ、〇〇。 |
エルメ | 1つ提案があるんだけどいいかな? ……この男の身柄、一時的に俺に預からせてよ。 |
ドライゼ | ……何を考えている? |
エルメ | 俺が、彼を妹のところに連れていくよ。 ほら、俺が見張っていれば逃げる心配もないでしょ? |
トルレ・シャフ構成員 | ……! ほ、本当に……? 俺の願いを叶えてくれる……のか……? |
エルメ | 〇〇とドライゼは、 支部の兵士たちに少し言い訳しておいてくれるかな。 |
主人公 | 【任せて】 【気を付けて】 |
ドライゼ | お前なら間違いはないと思うが…… 警戒と用心は怠るな。 |
エルメ | もちろん。 それじゃあね。 |
男の妹──エリーゼにお金を渡すため、
エルメは男の案内で、南の町へとやってきた。
エルメ | ここが君の故郷の街か。 ……で、妹さんはどこにいるのかな? |
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トルレ・シャフ構成員 | もうすぐです。 あそこの角を曲がればすぐ家なので! |
エルメ | そう。 |
トルレ・シャフ構成員 | あの……本当にありがとうございます。 俺は、あなたに酷いことを言ったのに……。 |
トルレ・シャフ構成員 | エリーゼに会ったら、 ちょっとしたもんしかないと思いますけど…… お礼をさせてください!! |
エルメ | いいよ、別にお礼なんて。 ……この角だね? |
トルレ・シャフ構成員 | はい! その先に妹がいるアパートがあるんです。 |
男が進んでいった先には、
寂れ、荒んだ雰囲気の地区へ向かう長い階段があった。
エルメ | ……薄暗いところだね。 |
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トルレ・シャフ構成員 | はは……。 俺たちみたいな行き場のない人間は、 こういうところに住むことしかできないんで──ねっ!! |
突然、男はエルメに体当たりを仕掛ける。
エルメ | ……おっと。 |
---|
エルメはまるで、その動きを予知していたように、素早く躱す。
手を拘束されている男は、体勢を崩し、
勢いよく階段を転がり落ちていった。
トルレ・シャフ構成員 | えっ、う、うわあぁぁーーッ!!! |
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トルレ・シャフ構成員 | ぐッ……、う……、ガッ……。 |
エルメ | …………。 |
エルメが階段を降りて確認しに行くと、
頭から大量の血を流した男は、虚ろな目でエルメを見上げる。
トルレ・シャフ構成員 | な、なん、で……。 |
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エルメ | ……まさか君、俺が君に同情してついてきたとでも信じてたの? なかなかおめでたい思考をしているね。 |
エルメ | ……君の妹だっていうエリーゼは本当にいるのかな。 俺が思うに、君はただ、金を持って逃げたかっただけでしょ。 |
トルレ・シャフ構成員 | ……う、ぅ……。 |
エルメ | ねぇ、なんとか言ったらどうなんだい? 君はそろそろ死ぬだろうから、手短にね。 |
トルレ・シャフ構成員 | お前さえ、いなければ……。 あの、若いやつ、なら……っ! |
エルメ | うん、そうだね。 マスターなら、もしかしたらうまく突き落とせていたかも。 〇〇は情け深いから。 |
エルメ | (そう、『彼』と同じように……ね) |
??? | た、頼む……! 見逃してくれ……っ! 俺には病気の妹がいるんだ……! お前も昔よく一緒に遊んだだろう……? |
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??? | 俺が帰らないと……あいつは……っ! お前は俺だけでなく俺の妹まで殺すことになるんだぞ……! |
エルメ | 俺は、貴銃士も軍人も、冷徹であるべきだと思っていてね。 でも、〇〇は情を持ちたがる。 だから、俺が来たんだ。 |
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エルメ | 情を優先する人間的な振る舞いは好みではないけれど、 興味深さや面白さはある。 |
エルメ | でも、そういう情に付け込んで騙すような…… 卑劣な手を使う人間は、唾棄すべき存在だ。 |
トルレ・シャフ構成員 | クソ、が……。 |
エルメ | それより君、案外しぶといね。 俺の手で始末してやりたいところだけど…… ま、そうする間でもないか。残念。 |
トルレ・シャフ構成員 | おまえが……いなければ……。 銃が、にんげん、の、ふり……しやが、て……。 きじゅ、し、なんか……。 |
エルメ | (ああ……うるさいな。 面倒になりそうだから、撃ちたくはないけど……) |
トルレ・シャフ構成員 | し、……──。 |
やがて、男はエルメを睨みつけたまま絶命した。
エルメ | さて……帰ろうかな。 〇〇とドライゼのところに。 |
---|
街を出たエルメは、
〇〇たちが待つ武器庫へと戻った。
主人公 | 【大丈夫だった!?】 →エルメ「ふふ。俺のこと心配してたの? 当然、大丈夫に決まってるのにね。」 エルメ「ああ……彼のことだけど、街で連合軍の部隊に会ったから、 ついでに引き渡しといたよ。」 【あの男は……?】 →エルメ「街で連合軍の部隊と会ったから、引き渡しておいたよ。」 |
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エルメ | けど、下っ端みたいだったし、 尋問したところで大した情報は得られないかもね。 |
エルメ | さて、武器庫の件は片付いたけど、 まだアウトレイジャー探しをした方がいいのかな。 |
ドライゼ | どうだかな。 目撃情報は、武器を持った不審な人影というものだったそうだ。 であれば、アウトレイジャーでなく、あの男という線もある。 |
エルメ | ああ……それはあり得るね。 |
ドライゼ | ……エルメ。 |
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エルメ | どうしたの、ドライゼ。 内緒話? |
ドライゼ | ……あの男を本当に、連合軍に引き渡してきたのか? |
エルメ | …………。 はぁ……やっぱり、ドライゼは騙せないか。 |
エルメは、〇〇に聞こえないよう小声で、
ドライゼにことの顛末を打ち明けた。
ドライゼ | ……そうだったのか……。 |
---|---|
エルメ | 俺は、マスターに嘘の報告をした。 貴銃士としては、褒められた行動ではないだろうね。 |
ドライゼ | ……良し悪しを簡単に決めることはできないのではないか? お前が選んだのは、マスターの心を守ることだった。 それだけのことだろう。 |
エルメ | ……さて、ね。 |
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