ある日シャルルヴィルに届けられた手紙。その差出人は──ブラウン・ベス。
現在と過去が交錯し、綴られた思いに触れた時……シャルルヴィルとジョージは、彼の騎士道に何を思うのか。
すごくいい夢だなって思うんだ。
だってこうして二人で遊べるのって、多分一生ないことだから。
オレはすごい楽しいよ。……ブラウンは、どう?
主人公名:〇〇
主人公の一人称:自分
シャルルヴィル | ふぁぁ……。 ランチ食べ過ぎたかなぁ……。 |
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シャルルヴィル | ……ん? |
シャルルヴィルは、ふと視界に入った広葉樹の枝に
見慣れた帽子が引っかかっていることに気がついた。
シャルルヴィル | あれ、これってジョージの帽子だよね。 なんでこんなところに? |
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ジョージ | おーい! シャルル! |
ジョージ | よかったぁー! 見つけてくれたんだな! |
シャルルヴィル | ジョージ! 帽子探してたの? |
ジョージ | うん! 屋上で昼寝してたら、いつの間にかなくなってて……。 風に飛ばされちゃったんだと思うんだけど。 マジでビビったよ! |
シャルルヴィル | そうだったんだ。ちょうどこの木に──…… |
ジョージ | ブラウンの大事な帽子なんだ。 オレがなくすわけには絶対いかないから……。 見つかって本当によかった……。 |
ジョージ | ……ありがとう、シャルル。 |
シャルルヴィル | …………。 |
シャルルヴィル | ……なんで? |
ジョージ | え? |
シャルルヴィル | なんで、ベスくんのなの? 確かに、そうでもあるけど……ジョージの帽子でしょ? |
シャルルヴィル | どうしていつもそんな風に……、……っ。 |
ジョージ | えっと……。 |
シャルルヴィル | ジョージ自身も大事にしなよ。 いつもブラウン、ブラウンって……! |
シャルルヴィル | ボクにとってはジョージも大事な仲間で、友達で── |
ジョージ | ……シャルル。 |
ジョージ | シャルルの一番大事な仲間はブラウン・ベスだろ。 オレもなんだよ。 |
ジョージ | オレは別に、オレを大事にしてないわけじゃないよ。 ただ、オレはブラウンのために生まれたみたいなもんだし…… やっぱり、あいつの方がどうしても大事なんだ。 |
シャルルヴィル | そんな……っ。 |
シャルルヴィル | …………っ。 |
ジョージ | …………。 |
ジョージ | シャルル……ごめん。 |
ジョージ | (でも、オレの心も、運命も決まってる) |
シャルルヴィル | …………。 |
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ラッセル | あ、シャルルヴィル! |
シャルルヴィル | ……はい? |
ロジェ | ……! シャルルヴィル。 |
シャルルヴィル | ロジェさん……!? お久しぶりです! どうして士官学校へ? |
ロジェ | ああ。実は……この手紙を君に届けに来たんだ。 |
ロジェは封筒から手紙を取り出し、シャルルヴィルの前に置いた。
初めて見る筆跡で、宛名はリリエンフェルト家のシャルルヴィル。
差出人は──。
シャルルヴィル | ブラウン・ベス……。 ……これって……? |
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ロジェ | この手紙が届いたのは、2年前だ。 |
シャルルヴィル | っ!! |
ロジェ | あの事件──彼が凶行に走った日の翌日、私の手元に届いた。 事件が起きる直前に出した手紙だろう。 |
シャルルヴィル | そ、んな……。 |
ロジェ | ……今思えば、私はあの当時すでに気をおかしくしていた。 彼の凶行を聞き、その当人から来た手紙など渡すべきではないと、 君に渡す前に握り潰した……。 |
ロジェ | 最近になり、机の裏に落ちていたこの手紙を見つけたのだ。 もう捨てたものかと思っていたから、驚いたよ。 |
ロジェ | そして──本来読むべきだった君へ渡すべきだと、 こうして届けに来た。 |
ロジェ | 君への手紙を、私の独断で止めてしまい、すまない。 どうか、受け取ってくれ。 |
シャルルヴィル | …………。 |
シャルルヴィル | (ベスくんは、手紙を返してくれなかった。 気恥ずかしくて手紙は苦手だって言って……。 だから返事がないのも当然だと思っていたけど) |
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シャルルヴィル | (まさか……ベスくんが手紙をくれてたなんて……) |
シャルルヴィル | (あの頃、確かに彼は何か異変を感じてた。 この手紙を読めば、それがわかる……?) |
その日──イギリスのウィンズダム宮殿では、
フランス大統領夫妻を始めとする各界の著名人等を招いた
宮中晩餐会が行われていた。
食事を終え、後席ではゲストたちと歓談する時間になる。
シャルルヴィルはブラウン・ベスと会話する機会を伺い、
そわそわと視線を送っていた。
シャルルヴィル | ──長年の研究の成果が実を結ばれて……。 |
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ノベール賞受賞者 | 恐れ入ります。 研究を始めた当初は── |
シャルルヴィル | (……うーん、だめだ) |
シャルルヴィル | なるほど……そのような逆境にも負けずに……。 |
シャルルヴィル | (ベスくん……全然目が合わない) |
視線の先では、マーガレット女王とブラウン・ベスが
ゲストたちと歓談している。
シャルルヴィル | (いつもならなんとなく目が合って、 それから適当なタイミングでバルコニーか庭園に出て おしゃべりしてる頃なのに……) |
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シャルルヴィル | (今日は女王陛下のそばにずっとくっついてるなぁ) |
マーガレット女王 | 皆さん、とても楽しい夜をありがとう。 我が国との変わらぬ深い友情に感謝します。 |
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シャルルヴィル | (……なんてしてるうちに、お開きになっちゃった!) |
ロジェ | シャルルヴィル。私はまだ少し話がある。 先に出ていろ。 |
シャルルヴィル | はい……ロジェ様。 |
シャルルヴィル | (今日はベスくんと話せなかったな……。 ま、こういうこともあるよね。残念だけど仕方ないか) |
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シャルルヴィルが廊下を進んでいると、急に腕を掴まれた。
シャルルヴィル | わっ!? |
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ブラウン・ベス | 来い! |
シャルルヴィル | え……えええっ! |
そのまま腕を引っ張られて、2人は廊下の奥の部屋に入った。
シャルルヴィル | ちょっと……どうしたの? |
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ブラウン・ベス | 女王の様子が変なんだ。 |
シャルルヴィル | え? |
ブラウン・ベス | おまえには言ってなかったが……。 最近、幻聴や幻覚に悩まされてる。 それで今日も、パーティ中に誰かに殺されるって怯えていた。 |
シャルルヴィル | ええっ……? そんな……。 |
ブラウン・ベス | だから、俺がずっとそばにいたんだ。 今もあまり離れてはいられない。 女王の不安は日に日に増してきてる……。 |
ブラウン・ベス | これからはおまえとも話せなくなるかもしれない。 |
シャルルヴィル | えっと……理解が追いつかないよ……! なんでそんなことに……? 何か原因に思い当たりは? |
ブラウン・ベス | 悪い、もう戻らなきゃ。 ──じゃあな、シャルル。 |
シャルルヴィル | あ……手紙! 手紙書くから……! |
ブラウン・ベスは軽く頷いて、部屋をあとにした。
シャルルヴィル | …………。 |
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シャルルヴィル | 『昨日の話、驚いたよ。 優しくて穏やかなあの方がそんな状態だなんて……。 でも、考えてみたら、こっちも少し似てるかもしれない』 |
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シャルルヴィル | 『優しかったロジェ様が、変わっちゃった。 幻覚や幻聴はないみたいだけど、些細なことから考えが飛躍して、 怒ったり責めたりして──普通じゃない感じがする時もある』 |
使用人 | シャルルヴィル様、お出かけですか? |
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シャルルヴィル | あ……ちょっと散歩。 すぐ戻るから、ロジェ様には内緒にしてね。 |
使用人 | 承知いたしました。 お気をつけて行ってらっしゃいませ。 |
シャルルヴィル | うん、ありがとう。アハハ……。 |
シャルルヴィル | ふぅ……危ない。 早くポストに……。 |
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シャルルヴィル | 『マスターになった重圧がそうさせているのかな……。 でも、元々責任ある立場にいた2人に 揃って病的な変化が出るのはどうしても気になっちゃうよ』 |
シャルルヴィル | 『ボクたちが絶対高貴になれないことと、何か関係があるのかな。 それとも、貴銃士のマスターはそうなってしまうのかなぁ……。 だとしたら、ボクたちはどうすればいいんだろう……』 |
シャルルヴィル | 『ベスくん、手紙は苦手って知ってるけど、 どうか返事をちょうだい。君たちのこと、心配してるんだ 』 |
シャルルヴィル | ベスくん……。 |
シャルルヴィル | ……ジョージ。 |
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ジョージ | シャルル……! |
シャルルヴィル | あの、さっきはごめんね。 ボク、ジョージの覚悟をわかっていたつもりなのに── |
ジョージ | ううん、オレの方こそごめん。 シャルルがオレ自身も大事に思ってくれて、嬉しいんだ。 |
シャルルヴィル | …………。 |
シャルルヴィル | あのね、お願いがあるの。 この手紙を、一緒に読んでほしい。 |
ジョージ | 手紙? |
シャルルヴィルは、手紙のことをジョージに話した。
ジョージ | そんな大事な手紙を、オレも読んでいいのか? |
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シャルルヴィル | もちろんだよ。 ベスくんのことを誰よりも理解してるのはジョージだもん。 |
シャルルヴィル | それに……ボクだけだと、なんだか……緊張しちゃって。 |
シャルルヴィルの手紙を持つ手が、かすかに震えている。
ジョージは勇気づけるように、その手を両手で包んだ。
ジョージ | ……読んでみよう。 |
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ブラウン・ベス | 『シャルルヴィルへ。 手紙を読んだ。会った次の日に書くなんて、おまえもマメだな。』 |
ブラウン・ベス | 『陛下は医者にかかることになった。 気持ちが楽になる薬を処方されたみたいだが、 あまり効果が出ていないみたいだ。』 |
ブラウン・ベス | 『今朝も、これでは強制的に退位させられるって泣いていた。 おまえのマスターも相変わらずみたいだな。』 |
ブラウン・ベス | 『絶対高貴がどうとか、貴銃士のマスターがとか書いてあったが、 そんな考えはやめろ』 |
ブラウン・ベス | 『俺たちは貴銃士だ。自分たちやマスターに対して 疑心暗鬼になるのは、貴銃士の在り方じゃない。 高貴に、誇り高く生きること。それを貫くんだ』 |
ブラウン・ベス | 『絶対高貴の力が使えなくても、マスターが変化してしまっても、 俺たちがやるべきことに変わりはない。 貴銃士として高貴であり続けるんだ』 |
ブラウン・ベス | 『俺は誇りを捨てない。おまえも捨てるな』 |
シャルルヴィル | ……ブラウン・ベスより。 |
シャルルヴィル | ……っく……。 |
ジョージ | ブラウン……。 |
シャルルヴィル | やっぱり、ベスくんが、アウトレイジャーになるなんて、 おかしい。こんなに高貴で、強くって……! ……っ! |
ジョージ | ああ。絶対に、おかしい。 ブラウンは誇り高い貴銃士だった……! |
ジョージ | シャルル……ブラウンのために、頑張ろう。 あの夜に何があったか──明らかにしよう。 |
シャルルヴィル | うん……っ! |
──その晩。
??? | これで、どうだ! |
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??? | へぇ、サクリファイスか。やるな。 |
ジョージ | 投了してもいいんだぜ? |
ジョージ | (あれ……?) |
ジョージ | (オレ、ブラウンとチェスしてる……?) |
ジョージ | (ああ、これ、夢か。あの手紙を読んだから、それで……) |
ブラウン・ベス | おまえにしちゃ小賢しい手を使ったな。 だが──。 |
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ジョージ | あっ!! |
ジョージ | ああ~~っ! そういう抜け道があったか……!! |
ブラウン・ベス | チェスで俺に敵うと思うなよ。 |
ジョージ | もう1回! 次はもうちょっといい線いけると思うからさ~! |
ブラウン・ベス | ふん。何回やっても変わらないと思うぞ。 ま、あと1戦くらいなら付き合ってやる。 |
ジョージ | Thank you☆ |
ジョージ | ……そういやさ。 ブラウンにとって、一番大事なものってなんなんだ? |
ブラウン・ベス | ……? 簡単には答えられない質問だな。 俺には大事なものがたくさんある。 大英帝国、そこに住む人々──……。 |
ブラウン・ベス | けど、大事なものを守るためには、 俺が俺として、正しく力を使うことが必要だ。 |
ブラウン・ベス | だから元を辿ると、俺の心の在り方──…… 騎士道精神が揺らがないことが一番なのかもしれない。 |
ジョージ | おまえは真面目だなー。 でも、それ聞いてなんかすっきりしたよ。 ブラウンはブラウンで、全然ブレなくて──…… |
ブラウン・ベス | 正しく、力を……。 |
ジョージ | ……ブラウン? |
ブラウン・ベス | 力……ヲ、俺……ガ……。 |
ジョージ | ブラウン!! |
ブラウン・ベス | ア……アアアアア……!! |
ジョージ | 待ってくれ!! ブラウン──ッ!! |
ジョージ | ……っ!! |
---|---|
ジョージ | ハァ……ハァ……。 |
ジョージ | (大丈夫、夢だ……!) |
ジョージ | 待っててくれよ……ブラウン……。 |
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