不思議な扉をくぐった先は、魔法に溢れた奇妙な世界。
とはいえスナイダーには普段と何も変わらない。
魔法は強い。強いのはいい。ついでに飛べたら気持ちがいい。
さあ、めくるめく魔女のお伽話を楽しもう!
レイヴン、魔烏。カラスは古来より死を運ぶ象徴だそうだが……さて、特筆すべきこともない。
貴銃士は銃。銃とは死をもたらすもの。…ほら、何も変わらない。
主人公名:〇〇
主人公の一人称:自分
ハロウィンの準備をしていた〇〇たちは、
倉庫にあったワードローブから、
不思議な世界へと迷い込んでしまった──。
そこで出会った魔女エリンに、元の世界に戻るには、
大魔女ブリギッドを若返らせなければならないと教えられ、
一同は若返りの儀式に参加することになった。
エリン | いい? 大事なことだから、もう1度確認しておくわね。 |
---|---|
エリン | この世界と人間の世界を繋ぐような大魔法が使えるのは、 大魔女様だけ。だけど、今の大魔女様は年を重ねすぎて 弱っていらっしゃるから、そんな大掛かりな魔法は使えないの。 |
エリン | だから、若返りの儀式をして、 大魔女様が全盛期の力を取り戻せるようにしないと、 あなたたちは元の世界に戻れないわ。 |
エリン | 若返りの儀式に必要なのは、13人の魔女や魔法使いよ。 ケリドウェンがいなくなってしまって、今は12人しかいない、 だから、あなたの力が必要なの、〇〇。 |
エリン | あなたは人間だけど、魔法が使える。 その人の怪我を治療したんだもの、間違いないわ。 |
スナイダー | ……そうだな。〇〇の力は便利だ。 |
シャスポー | 魔法といえば魔法なのかもしれないけど、 〇〇を13人目に数えて本当にいいのかな。 |
ローレンツ | 興味深いな。 儀式の成功条件において、「マスター」は必要十分なのか。 実に検証のしがいがある……! |
エリン | いいこと? 私たちにもあなたたちにも、儀式の成功は絶対に必要なの。 お願いだから、協力してちょうだい。 |
主人公 | 【任せて】 →スナイダー「大魔女とやらが若返ったら、 どれほどの強さなのか……面白そうだ。」 【やるだけやってみる】 →シャスポー「そうだね。 やってみないことには、成功しないもの。」 |
スナイダー | ……で? いつまで待たせるつもりだ? |
エリン | もう少しよ。今、儀式の準備中なの。 〇〇たちは魔力を持っていても、 儀式魔法の組み立て方は知らないでしょ? |
ローレンツ | 『組み立てる』……? つまり、魔法とは論理的なものなのか? |
エリン | そうね……ほら、術式とかあるじゃない? その相性がどうなっているかの知識も必要だし……。 |
ローレンツ | 面白い……! 実に面白いぞ! その術式や相性の知識を得れば、 この部屋のように物理法則も無視できるのか! |
エリン | ぶつり……ほうそく……? |
シャスポー | 確かに……ここに入った時は驚いたな。 僕たちはちゃんと重力を感じているのに、 ぷかぷか浮いているものもあるし。 |
ローレンツ | 青年は、尽きることのない興味を胸に、解明への誓いを立てた! 現象にはなんらかの原理・法則があるからして、 この部屋で起きている事象にも何か一定の決まりが──…… |
エリン | ……この人、大丈夫なの? |
シャスポー | ああ、気にしなくていいよ。 |
魔女1 | ハァーイ、お茶でもいかが? |
スナイダー | いらん。 |
シャスポー | 危ないお茶じゃないだろうね? |
魔女1 | 心配しなくても、もう襲ったりしないったら。 これはペリの実のお茶よ。美味しいの。 |
シャスポー | ふぅん……香りは悪くないね。 爽やかで上品ないい匂いだ。 |
ローレンツ | 確かに。 カール様にお土産として献上するのもいいかもしれない。 いただいてみるよしよう。 |
ローレンツ | んん……なかなかの味わいだ。 |
シャスポー | ……! 本当だ。これは美味しいな。 |
シャスポーとローレンツは、
小さめのカップに入っていたお茶をあっという間に飲み干した。
魔女1 | さ、カップの底を見てごらんなさい。 |
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マグカップの底の女性 | ……はぁ~い♪ |
シャスポー | うわぁ!? え、絵の女性が喋った……! 動いたし、笑ったぞ……!? |
魔女1 | あら、よかったじゃない。 笑顔が出たなら、今日のあなたの運勢はハッピーよ♪ |
ローレンツ | そういうものなのか……? これまた興味深い。 |
魔女1 | 面白いでしょ? ティーカップ占いができる魔道具なの。 彼女が泣いてたらアンハッピーな1日よ。 |
スナイダー | ……くだらん。 |
シャスポー | おい、どこに行くんだ? |
スナイダー | さてな。どこか、暇を潰せる場所だ。 |
主人公 | 【儀式まで遠くには行かないで】 【行き先は教えてほしい】 |
スナイダー | おまえも来ればいいだろう。 |
ジャック・オー・ランタン | ケケケケ……!! |
シャスポー | ジャック・オー・ランタンも飛んでる……。 本当になんでもありだな……。 |
スナイダー | ほう……いい的だな。 |
ローレンツ | 撃つ気か……!? |
シャスポー | おい、よそ様の家のものを壊したらだめじゃないか! |
スナイダー | 騒がしいな。 撃てと言わんばかりに飛んでいるだろう。撃って何が悪い。 |
シャスポー | どういう理屈だ……! |
スナイダー | …………。 |
ジャック・オー・ランタン | カッ!! |
スナイダーが撃った瞬間、ジャック・オー・ランタンは
大きく口を開け、銃弾を飲み込んだ。
スナイダー | な……っ!? |
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ジャック・オー・ランタン | ……ぺっ。 |
飲み込んだ銃弾を吐き出し、ジャック・オー・ランタンは
再びふわふわと宙を漂っていく。
スナイダー | 俺の銃弾が……。あんな間の抜けたカボチャに……? |
---|---|
シャスポー | ……おい、大丈夫か? |
ローレンツ | 理解しがたい出来事を前に、思考を一時停止したようだな。 しかしこれで当面は、器物破損の危険はなくなりそうだ。 |
ふわふわと宙を漂うジャック・オー・ランタンに銃撃が効かず、
スナイダーは呆然と立ち尽くしていた。
スナイダー | (信じられん……。 相手はたかが野菜だぞ。なぜ銃弾が効かない……?) |
---|---|
??? | ──まえ……。 お……大丈……か、そ……の、お前……。 |
スナイダー | ……む? |
??? | おお、大丈夫か、お前? 意識ははっきりしておるか? |
スナイダー | ……フクロウが喋っている。 あのカボチャと同類か。 |
フクロウ | 化けカボチャと一緒にするでないわ! |
フクロウ | わしはエリンの使い魔であるぞ! 使い魔は、言葉を操れる、これ常識である! |
スナイダー | ……知るか。 |
フクロウ | まったく……呆れた無知よ。 |
フクロウ | ……まあいい。 お前の銃を見せてみろ。 |
スナイダー | なぜフクロウに見せる必要がある? |
フクロウ | 生意気な小僧め! いいから、見せろ! |
スナイダー | 断る。 |
フクロウ | 見せろ! |
スナイダー | 断ると言っている。 |
フクロウ | くっ……こうなったら実力行使よ。 |
フクロウ | あっ! あそこでジャック・オー・ランタンが お前を笑っておる! |
スナイダー | なに? |
スナイダーは、フクロウが指し示した方に視線を向ける。
フクロウ | 隙あり! |
---|---|
スナイダー | な……っ! |
フクロウはスナイダーの銃を無理やり奪い取ると、
窓を突き破り、夜空へと飛び出していった。
スナイダー | 待て……! |
---|
スナイダーも背中の羽を羽ばたかせ、
フクロウの後を追って、夜空へと飛び立つ。
スナイダー | 俺の銃を返せ……! |
---|---|
フクロウ | ほう? 追ってきおったか。 しかし、わしに追いつけるかな? |
スナイダー | ……すぐに追いついてやろう。 |
スナイダーはさらに強く羽ばたくが──……。
スナイダー | ……っ、なんだ? なぜ上手く進まない……? |
---|---|
フクロウ | わっはっは! ただがむしゃらに羽ばたけばよいというわけではないわ! |
フクロウ | お前、飛ぶのがまだまだ下手なのだな。 そんなんじゃ、レイブンと称するのもおこがましい。 まだお尻に殻がついたヒヨコじゃ! |
スナイダー | む……。 |
フクロウ | いいか? こう、翼に風を含ませるように羽ばたくのだ。 |
スナイダー | む……こう、か? |
フクロウ | そうそう。 そのまま、翼を固定し、風に乗ってみるがよい。 |
スナイダー | ……なるほど。 こうすれば滑空できるのか。 |
フクロウ | なかなか飲み込みが早いな。わっはっは! |
スナイダー | ……で、こうすれば方向を変えられる。 |
フクロウ | その通り! |
フクロウ | ……って、と、止まるのだ! そのまま突っ込んできたら、わしにぶつかる……っ!! |
スナイダー | フッ……そんなヘマはしない。 |
スナイダーはフクロウとぶつかるギリギリの距離をすり抜け、
すれ違いざまに自身の銃を奪い返す。
フクロウ | ああっ!! わしの銃が!! |
---|---|
スナイダー | ……俺の銃だ。 |
フクロウ | ぐぬぬ……。 素晴らしき逸品を手に入れたと思ったのに。 |
スナイダー | ……ふっ。 |
フクロウ | まあ、お前の飲み込みの早さに敬意を示し、 今回は返してやろう。 |
スナイダー | おまえもな。 俺の中に目をつけたのは悪くない。 |
スナイダー&フクロウ | ……ふっ。 |
フクロウ | では、帰るとするか。 |
スナイダー | いいだろう。もう空は満足した。 |
1人と1羽は、揃って屋敷へと戻っていったのだった──。
〇〇たちが不思議な世界へ迷い込んだ……
かもしれない、不思議なハロウィンから数日後。
エンフィールド | ……うん、いい茶葉が手に入ったぞ。 これなら師匠にもマスターにも喜んでもらえるはず── |
---|---|
ジョージ | た、大変だぁ~~!! |
エンフィールド | ジョージ師匠!? 何があったんですか……!? |
ジョージ | スナイダーが、屋上から飛び降りようとしてる! |
エンフィールド | ええっ!!?? |
ジョージ | あそこだ……!! |
---|---|
スナイダー | …………。 |
エンフィールド | スナイダー! 早まっちゃいけない! すぐに戻るんだ!! |
スナイダー | 騒がしいな。 |
スナイダー | 俺はこれから飛ぶだけだ。 |
エンフィールド | 飛ぶって……まさか、寝ぼけているのかい? 羽があったのは、君が見た夢の中でのことだろう!? 現実の君は飛ぶことなんてできないんだよ! |
スナイダー | ……いや、飛べる。 |
スナイダーは屋上の縁を蹴って、宙に身を躍らせた。
エンフィールド&ジョージ | うわあああああっ!! |
---|---|
ローレンツ | 大丈夫だ。 |
ローレンツ | Mr.スナイダーには俺が翼を授けた。 |
エンフィールド&ジョージ | ……えっ? |
スナイダー | …………。 |
---|---|
スナイダー | …………空が、飛びたい。 |
ローレンツ | 何やら物憂げな表情だな、Mr.スナイダー。 その理由を当ててみせようか。 魔女の世界での体験が忘れられないのだろう? |
スナイダー | …………。 |
ローレンツ | ふふ……興味深いものだ。 人は、空をとぶことへの憧れを持つ生き物。 人と似通った存在である貴銃士にも、同じ願望が芽生えるのか。 |
ローレンツ | その命題の答えを、 今まさにMr.スナイダーが導き出そうとしている……! |
スナイダー | ごちゃごちゃとうるさい奴だ。 飛ぶのは無理だと言いたいだけなら、よそを当たれ。 |
ローレンツ | 違うぞ、待ちたまえ! 俺は君に翼を授けるための提案を持ちかけようとしているのだ。 |
スナイダー | 何……? |
ローレンツ | 先日、ハンググライダーの理論を応用して、 空を飛ぶ装置を設計した。 ただし、まだ実証実験は行っていない。 |
スナイダー | ……つまり? |
ローレンツ | 危険な任務になるが、飛行実験に協力してみないか? Mr.スナイダーの欲求も満たせて、 双方にメリットがあるはずだ。 |
スナイダー | …………。 |
ローレンツ | ……というわけで、今の彼の背中には翼がある。 万が一を考えて落下地点にマットも敷いた。 |
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エンフィールド | でも、まだ安全は証明されていないんですよね!? 最初はマネキンか何かで実験してくださいよ! |
ジョージ | ……でも、まだ落ちてこないぞ? |
エンフィールド | た、確かに……! |
ローレンツ | Mr.スナイダーは、見事に風に乗っている! 実験は成功だ……!! |
ジョージ | スゲー!! スナイダーが空を飛んでいる!! |
エンフィールド | ……信じ、られない。 |
その時、突風が吹き抜ける。
スナイダー | ……っ!? |
---|---|
ジョージ | 翼が風に煽られた!! |
エンフィールド | わぁああ! お、落ちていく……!! |
ドスン──ッ!!
スナイダー | ……くっ。 |
---|---|
エンフィールド | スナイダー!! 大丈夫かい!? |
スナイダー | ……無事だ。怪我はしていない。 |
ジョージ | ふぅ……よかったぜ。 |
ローレンツ | しかし、10mは滑空していたな。 改良を加えれば、より長時間・長距離の飛行が可能となるだろう。 |
スナイダー | そうか。ならば改良しろ。 やはり、飛ぶ感覚はいいものだからな。協力してやる。 |
ローレンツ | 我々で『空の会』結成だな!! |
エンフィールド | ちょっ……弟を危ない実験に使うのはやめてください! スナイダー、君も! 飛び降りるなんて危ないこと、もうしたらだめだからね!! |
スナイダー | ……うるさい奴だ。 |
ローレンツ | はぁ……このロマンがわからないとは、 嘆かわしいぞ、Mr.エンフィールド…………。 |
ジョージ | オレ、スナイダーとローレンツがこんなに息ピッタリなの、 初めて見たぜ……☆ |
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