メリークリスマス!
クリスマスの苦い思い出を塗り替えるべく、まさかの陽キャと陰キャが手を組んだ。
彼の視線と美声は舞台上から降り注ぎ、歓声とともに、老若男女が酔いしれる。
役を被って愛を撒くお仕事? 慣れたものさ、余裕余裕!
僕ってば、アイドル天職じゃね?
……え? スキャンダル禁止?
じゃあ無理だわ。解散解散。
主人公名:〇〇
主人公の一人称:自分
ーー昨年のクリスマス。
グラースはフランスでのクリスマスパーティーに参加していた。
シャスポー? | やぁ、マドモアゼル。久しぶりだね。 |
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貴族の女性1 | きゃあ! シャスポー様よ! |
貴族の女性2 | シャスポー様がいらっしゃったわ! 相変わらずハンサムですてき……! |
シャスポー? | さぁ、今日は楽しい宴を……って、あいつ! |
シャスポーに扮したグラースは女性たちから離れて、
会場の隅にいたタバティエールに駆け寄る。
グラース | お前、なんでここにいるんだよ! |
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タバティエール | 今日はお目付け役さ。 その格好で好き勝手されちゃ困るからな。 |
タバティエール | レザール家に帰ると伝えてある。 門限は22時までだぞ。いいな。 |
グラース | ふざけるな! 僕は朝まで帰らないぞ! |
タバティエール | ……まっ、そうなるよな。 何も起きないといいんだが。 |
──その後。
再び会場に舞い戻ったグラースは、
ワインを片手に女性たちと談笑していた。
グラース | ああ……いい香りだ。 ブルゴーニュワインの中でも、 やっぱりコート・ド・ボーヌ産は特別さ。 |
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貴族の女性1 | さすがはシャスポー様! 違いがよくわかっていらっしゃるのね。 |
貴族の女性2 | 知的でいて、気品もあって……! |
グラース | ははっ。 フランスの貴銃士ならこのくらい、当然の知識じゃないか。 |
貴族の女性3 | いえ、その気品はシャスポー様だからこそですわ! 現代銃とは、やはり格が違いますもの。 |
グラース | ……うん、その通りさ。 |
貴族の女性1 | そういえば、風の噂でお聞きしたんですけれど。 |
貴族の女性2 | 現代銃のグラース……様が、 シャスポー様に成り代わっていたんですって。 |
貴族の女性3 | まぁ、怖いですわ! |
貴族の女性1 | 現代銃は古銃にはなれないのに、 何を考えていらっしゃるのかしら? |
グラース | はっ、はは……わからないなぁ。 |
グラース | …………。 |
貴族の女性2 | シャスポー様? どうかされましたか? |
グラース | ああ……ごめんね。急用を思い出してね。 君たちは、最後までパーティーを楽しんで。 |
貴族の女性3 | ええっ? もうお帰りになってしまうの? |
貴族の女性1 | 名残惜しいですわ……。 |
別れを惜しむ参加者たちに笑顔で手を振りながら、
グラースはタバティエールの元へと戻っていった。
グラース | おい、帰るぞ。 |
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タバティエール | えっ……? まだ20時だぞ? |
グラース | もういいんだ! 行くぞ! |
タバティエール | グラース、パーティーで何かあったのか……? |
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グラース | …………。 |
グラース | (こんなことなら、来なければよかった……) |
タバティエールの問いには答えず、
グラースは賑やかな街頭を無言で通り過ぎて行った。
──時は流れ、今年のクリスマスの少し前。
グラース | 去年は散々だったからな……。 今年はイギリスでクリスマスを満喫してやる! |
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グラース | 当日は2時間毎にデートの約束を入れれば…… 1日で6人はいけるな。 |
グラース | よし、そうと決まれば手紙を出そう♪ |
グラース | 「愛しのマルグリット。クリスマスイブを君と過ごしたい」 |
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グラース | 「砂糖菓子のような甘いときめきを共に…… 12時に中央広場で待っているよ」 |
グラース | 「愛しのジュリエッタ。クリスマスイブを君と過ごしたい」 |
グラース | 「砂糖菓子のような甘いときめきを共に…… 14時に時計台で待っているよ」 |
グラース | 「愛しのエルザ。クリスマスイブを君と過ごしたい」 |
グラース | 「砂糖菓子のような甘いときめきを共に…… 16時に百貨店前で待っているよ」 |
グラース | ……これでよし、と。 後は当日の準備をするだけだ。 |
時間と場所を変えた同じ内容の手紙を6通書き終え、
グラースは意気揚々とそれらをポストに投函したのだった。
──翌日。
タバティエール | そういや、グラース。 今年のクリスマスはどうするんだ? |
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グラース | デート三昧だ。 |
シャスポー | まさか……また僕に変装するつもりじゃないだろうな? |
グラース | ここはイギリスだぞ? そんな必要ないだろ。 もちろん僕のままさ。 |
シャスポー | それならいいが。 僕の弟として、変なことするなよ。 |
グラース | はい、お兄様♥ |
タバティエール | え……? お前、今日は素直すぎないか? |
シャスポー | まあいい。 タバティエール、クリスマスマーケットの準備を始めるぞ。 |
タバティエール | あ、ああ……。 |
グラース | (ふっ……シャスポーも、まさか1日で6人と デートするとは思ってないようだな) |
グラース | (ていうか、1日に6人もデートできるなんて、 世界で僕だけじゃないか?) |
グラース | (ますます楽しみになってきたな!) |
グラース | さて、プレゼントでも買いに行くとするか。 愛しの小鳥ちゃんたちのために。 |
グラースの足取りは軽く、プレゼントを買いに街へと姿を消した。
──貴銃士たちによるクリスマスライブが大成功に終わった、
その数日後。
八九 | ん……? 今日、なんか騒がしいな……。 |
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八九 | ……あれ、なんだ? 校門の前に、女子が何人も集まって……。 |
ローレンツ | その問いに答えよう。Mr.八九。 |
八九 | うぉっ!? いきなり出てくるからビビったぜ……。 |
ローレンツ | 著名人が活動を終え出てくる瞬間を、ファンたちが狙う。 あれはまさしく「出待ち」だ。 |
八九 | 出待ちィ? 士官学校で? |
グラース | 君たち、道を開けてくれるかい? |
グラース | 愛しの小鳥ちゃんたちが、校門で待ってくれているからね。 |
街の女性たち | きゃああああああ! グラース様~~~~!! |
八九 | は……? |
校門の前で大勢の女性に囲まれるグラースを、
八九が呆然と見つめる。
グラース | やぁ、僕のかわいい小鳥ちゃんたち! |
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女性1 | さ、サインしてください! |
女性2 | 握手だけでいいので……お願いします! |
グラース | もちろん大歓迎さ。 サインも握手もしてあげるから、押さないで。 |
グラース | 君たち1人1人と出会えたことが、聖夜に起きた奇跡だね。 |
女性3 | と、尊すぎる……! |
八九 | って、おい! あいつがウインクした瞬間、何人かの女が倒れたぞ! |
ローレンツ | 実に興味深い現象だ。 Mr.グラースのファンサービスと女性たちの化学反応は── |
八九 | 早く保健室の先生呼べって! |
女性4 | こ、今度私とデートしていただけませんか!? |
グラース | Oui! じゃあ、君とは明日の15時から展望台のカフェテラスで お茶をしよう。 |
女性5 | わ、私もお願いします! |
グラース | そんなに慌てなくても大丈夫だよ。 じゃあ君は、明後日の12時から橋の上のカフェで── |
八九 | うわ、寄って来るファン全員とデートの約束してる……。 あいつ、全然反省してねーな。怖ェ……。 |
ローレンツ | これは驚いたな……。 彼はモルモット1号を超える危険人物のようだ……! |
グラース | さぁ、次はどんな可愛い小鳥ちゃんかな? |
ドライゼ | そこまでだ! |
シャスポー | ……こんなことだろうと思ったよ。 |
グラース | うわっ……!? ドライゼと……シャスポー!? |
ドライゼ | グラース。 貴様の士官学校における不純異性交遊の度合いは目に余る。 |
シャスポー | 君、何人とデートする気だい!? 士官学校の黒歴史を作るつもりか? |
グラース | 誤解だ! これはファンサービスの一環で……! |
八九 | いや、本物のアイドルはファン全員とデートしねーだろ。 |
ドライゼ | 士官学校の風紀委員及び美化委員として命ずる。 今後3ヶ月は異性との交遊禁止だ! |
シャスポー | 名づけて、デート禁止令だ。 破ったら、ただじゃおかないからな。 |
グラース | で、デート禁止だと……!? |
グラース | くっ、なんて日なんだ……!! くそーっ!! |
校門の前で、グラースの悲鳴が響き渡ったのだった。
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