クリスマスムード一色の街。そんな中、雰囲気をぶち壊す破壊神が……!?
欲しいものはサンタにお願いするのではなく、自分の力で手に入れろ!
クリスマスの狂騒。苛立ち忘れて衝動のまま、欲望のままに。
悪い子?罰?知ったこっちゃない。
ただぶっ壊れた宴を楽しむだけ……のはずだった。
主人公名:〇〇
主人公の一人称:自分
ベルガーとファルが、
クリスマスディナーを巡って一騒動を起こす、少し前のこと──。
カール | ふーむ……。 |
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ローレンツ | カール様、いかがなさいましたか? |
カール | ああ。ベルガーが職業体験に行った先からの 報告書を読んでいたんだが……。 |
カール | 指示を聞かない、暴れる、逃亡する、そもそもサボる。 すべて苦情の類だ。 |
ローレンツ | ピンチ・イズ・チャンスッ!!! |
カール | ……っ! |
ローレンツ | カール様、そういうことでしたらこの俺にお任せを。 モルモット1号の職業体験に関しましては 既にいくつか仮説の用意がございます。 |
カール | そうか。 それなら早速、ベルガーに付き添って職業体験に行ってみてくれ。 うまくいったら、褒美を与えようかねー。 |
ジョージ | 褒美ってなに!? バーガー食べ放題とか!? |
カール | おお!? ジョージか。 |
カール | もちろん、なんでも用意するとも。 君がベルガーに、真っ当な仕事をさせてくれるのならね。 |
カール | (なぜ突然窓から現れた……? まぁ、いいか……) |
ジョージ | やったぜ! OK、オレに任せろ! よろしくな、ローレンツ☆ |
ローレンツ | モルモット1号がどうすれば職業体験に行くか……。 この興味深いテーマについて検証できる、またとない機会だ! |
ローレンツ | では早速、第1段階といこう。 モルモット1号をおびき出すための作戦だ……! |
ベルガー | へへっ、今日は誰ボコろっかな~。 |
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ジョージ | あっ、おーい、ベルガー! オレと一緒に職業体験行こうぜ! |
ベルガー | ショクギョータイケンだぁ? なんで俺がんなめんどくせーことしなきゃなんねーんだよ? |
ジョージ | そんなこと言うなよ~。 ベルガーなら仕事だって一瞬で終わるし、 オレもおまえのカッコイイとこ見たいんだって! |
ベルガー | あ? イミわかんねーんだけど? そんなことよりコークよこせよ。ノド乾いてんだ。 |
ローレンツ | ふ……仮説通りの展開だな。 |
ベルガー | うげっ、ローレンツいんじゃん! |
ローレンツ | モルモット1号、この漫画を読んでみるといい。 |
ベルガー | はー? なんだこりゃ? |
ローレンツ | とある政府のお抱えスパイが様々な場所へ潜入し、 地味な仕事をしながら、 最終的には重大ミッションを遂行する物語だ。 |
ベルガー | なになに……? へー! これ、おもしろそーじゃん! |
ローレンツ | その反応も事前の予測通り。己の論理性の高さに震えるな。 ……なぁ、モルモット1号。 今からこの漫画の主人公ごっこをしないか? |
ベルガー | おっ、いいぜー! アルパチーノと参加する! つーか、おめーにしてはいい提案するじゃねーか。 |
ローレンツ | フッ……決まりだな。 では、モルモット1号、俺について来い。 |
ジョージ | すげー! あのベルガーを説得した! ていうか今の、説得だよな……?? |
店主 | 君たちが士官学校の子たちだね。 よろしく頼むよ。 |
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ジョージ | おう! よろしくなっ! |
店主 | 今日は店の特売日だから、この看板を持ってそこに立ってて。 |
ベルガー | これ持って、立ってればいいのかぁ? なんかジミだけど、まぁいっか。 |
ジョージ | オレも一緒にやるからさ! 頑張ろうぜ! |
──1分後。
ベルガー | 疲れた~! マジでダルいんだけど! |
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ジョージ | あっ、看板投げるなって……! |
ローレンツ | モルモット1号、まだ1分しか経っていないぞ。 そんなことで職業体験が務まると思っているのか? |
ベルガー | ただのスパイごっこだろぉ? こんなショボいことやってられっかよ~! |
チンピラ | おい、そこの兄ちゃんよぉ。 |
ベルガー | んあ? なんだてめー。 |
チンピラ | お前が投げた看板のせいで、大事な靴に傷がついたじゃねぇか! どう落とし前つけるつもりだぁ? あぁ!? |
ベルガー | あひゃひゃひゃっ! 傷ぅ? 見えまっせーん! お、そうだ。よーく見えるように、全身傷だらけにしてやんよ。 うおおっ、俺ってば天才!? |
チンピラ | なんだとコラァ!! やれるもんならやってみろや! |
ベルガー | ぷくく……あひゃひゃっ! いーぜぇ! |
ジョージ | おい、ケンカとかやめろって! |
ベルガー | ぎゃはははっ!! 看板持って突っ立ってるよりぃ、 こっちの方がダンゼンおもしれーわ! |
ローレンツ | ──モルモット1号、職業体験を開始直後に放棄。 街のチンピラに絡まれ応戦する。 すべて想定通り。これにて今日の記録は完了……っと。 |
ジョージ | っておい、想定通りなのかよ! ローレンツも止めろって~! |
12月中頃の士官学校にて──
カール | 懐かしい雰囲気だ……。 |
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ベルガー | くぁ~……。 |
ローレンツ | モルモット1号? 今日は普段より1時間も早起きじゃないか。 |
ベルガー | …………。 あるぇ? なんか今日、ここ雰囲気ちがくね? |
ローレンツ | ほう……よく気づいたな。 モルモット1号にしては上出来だ。 |
ローレンツ | クリスマスに向けて、飾り付けをしているのだよ! |
ベルガー | くりすます……? なんかうめぇの食べられる日だっけ? |
カール | クリスマスはプレゼントももらえるぞ。 サンタクロースにお願いすれば、 トナカイのそりに乗って届けてくれるのさー。 |
ベルガー | さんたァ……? そいつに頼めば、なんでももらえるのか? |
カール | ああ、そうだとも。限度はあるがねー。 さて、ベルガーは何が欲しいのかな。 |
ベルガー | ハーッ! マジかよ! んじゃあ、俺、俺……んぇーっとぉ! |
ベルガー | 俺だけの、コーク飲み放題ポテチ食い放題の遊園地がホシイ! チマチマ並ぶのとかクソだりぃしよぉ、 俺だけの遊園地ならジェットコースター乗り放題だろっ! |
カール | はははっ、これはまた、随分と大きな望みだね。 |
ローレンツ | モルモット1号……さすがにそれは無理というものだ。 サンタクロースにも予算という概念は存在するのだからな。 |
ベルガー | なら、トナカイ! あいつら空飛べんだろ? ホシイ! ホーシーイ! |
ローレンツ | それも無理だ。 トナカイがいなくなったら、プレゼントの運搬に支障をきたす。 |
ベルガー | はぁー? なんでもくれるって言ったくせに、全部無理とかありえねー! サンタってマジ無能!! クズ!! |
カール | サンタクロースを口汚く罵っては、“悪い子”だな。 君の好きなコークすらももらえないかもしれないねー。 |
カール | しかし、トナカイは、主にツンドラ地帯に生息しているようだ。 君なら、サンタクロース頼みではなくて、 自力で捕まえる方がいいんじゃないか? |
ベルガー | マジで!? じゃー俺、ちょっくらトナカイゲットしに行ってくるわぁ! 待ってろよ、ツンドラ~! |
ローレンツ | おっ、おい! 待つんだモルモット1号……! |
ローレンツ | ……行ってしまった……。 |
カール | さて、ローレンツ。 ベルガーがツンドラ地帯について正しく把握しているか否か、 君の仮説はどうだい? |
カール | 僕の仮説では、『聞いたこともない』が100%かなー。 はっはっは。 |
ローレンツ | カール様……。 すべて承知の上で、モルモット1号にあのようなことを……? |
カール | さて。ベルガーがトナカイ探しに飽きて戻ってくるまで、 別の暇つぶしを探そうかねー。 |
ローレンツ | (海のように深い包容力を見せてくださったかと思えば、 冷静で冷ややかな策士としての面を覗かせ── カール様は、深淵の謎に満ち、高貴で掴みがたい) |
ローレンツ | (青年は、小さくも偉大なる皇帝のある日の姿について 見たまま感じたままをノートに書き連ねた……。 本日の記録は以上だ) |
──クリスマスのひと騒動から数日後。
ベルガー | ……うぅ……。 |
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カール | やぁ、ベルガー。 ブラックサンタからようやく解放してもらえたようだね。 |
ローレンツ | モルモット1号がこんなにしおらしくなるとは、どういうことだ? 早速データを取らなければ! |
ローレンツ | ちなみに今、電流を流すと……。 |
ベルガー | んん……。 今、なんかピリッとしたよーな……。 |
ローレンツ | なんということだ……! これほど反応の薄いモルモット1号は、近頃見ていなかったぞ! 一体何が要因でこの状態に陥ったのか……検証が必要だ! |
カール | どうやら、ブラックサンタからの報いを受けたようだねー。 |
カール | おお、そうだ。 ベルガー、君にもクリスマスプレゼントがあるぞ。 |
ベルガー | プレゼント……。 |
ベルガー | プレゼント!? なになにっ!? |
カール | 来たまえ。こっちに用意してある。 |
カール | さぁ──君のための遊園地だ! ここで自由に、いつまでも遊ぶといい! |
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ベルガー | うおおおおっ、マジかよ! 役立たずのサンタクロースよりすげー! |
ベルガー | ひゃっほーー!! 遊園地サイコーー!!! |
笑顔ではしゃぎながら、ベルガーはボートに乗り込んだ。
水辺の鳥や魚が、水しぶきをかけてくる。
ベルガー | あははっ、つめてーって! |
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??? | おーい……! |
ベルガー | んぁ? |
声がした方を振り返ると、
愛らしい着ぐるみたちがベルガーに手を振っていた。
ベルガー | おーい! お前らもこっち来いよ~。 一緒に遊ぼうぜー! |
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??? | お……い……。 |
ベルガー | あれ……? あいつら、いなくなったぞ? |
ベルガー | おか……しい、な……。 遊園地が……まっ……くろ……。 |
ベルガー | ……っ! ぶはっ……サムっっ!! |
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ファル | ようやくお目覚めですか。 私を置いて夢の世界に行くなんて、いい御身分ですね。 |
びしょ濡れで目覚めたベルガーに、
ファルがにこやかに微笑みかける。
すぐそばには、空になったバケツが転がっていた。
ベルガー | 夢……? えっ、遊園地は……? サンタは……? |
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ファル | ええ、ここにいますよ。 あなただけのサンタクロースが、ね。 |
ファル | さぁ、続きを始めましょう。 秘密のクリスマスパーティーを。 |
ベルガーの声にならない絶叫が、地下室に響き渡ったのだった──
一方その頃、士官学校の談話室では──。
カール | そういえば、ベルガーは行方不明のままだね。 あれにも一応、クリスマスプレゼントを用意したんだが。 |
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ローレンツ | おや。メリーゴーランドのオルゴールですか。 |
カール | 遊園地に興味があるようだったからねー。 例のネズミ……アルパチーノだったか。 隣に飾るにはちょうどいいだろう。 |
ローレンツ | さすがカール様、素晴らしい贈り物ですね。 モルモット1号もきっと喜ぶことでしょう! 俺は、こちらの漫画を用意してみました。 |
カール | ほー。 これは、職業体験へ導くために使った、スパイ漫画の愛蔵版かい? |
ローレンツ | ええ、そうです。 早く渡して、モルモット1号の反応を観察したいのですが……。 |
カール | 探し物は必要な時に見つからないというからねー。 まぁ、そのうち帰ってくるだろうさ。 |
ローレンツ | ええ、そうですね、カール様。 ああ、反応を見るのが楽しみだ。フフフ……。 |
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