これは、彼の決意の記憶。大切なものを傷つけたくない。
冷たく突き放す言葉は、もう二度と、過ちを繰り返さないと誓う故。
声には出さず、心に独り歌う。
手を取りたい、と思わないといえば嘘になる。
馬鹿みたいに真直ぐな感情が、自分が無くした日々と交差する。
…だから手を払った。血染めの銃は、もう見たくない。
主人公名:〇〇
主人公の一人称:自分
──7年前。
世界は第二代世界帝の圧政下に置かれていた。
ラブ★ワン | フゥ~! 今日の仕事はライたんとおいらの激アツコンビ★ テンション上がるゥ~~! |
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ライク♥ツー | ちょっとお兄ちゃん、うるさい! そんなにはしゃいでると── |
ラブ★ワン | Oh……! 鼻血出てきちった! |
ライク♥ツー | ほらね。 もう……ティッシュあげるから、これでさっさと拭いて。 |
ラブ★ワン | フゥ! おいら専用ティッシュ登場★ って、今回は星柄プリントじゃーん!? 最高にイカスゥ~~~! |
ライク♥ツー | ほんっとにうるさいんだけど! 撃つよ。 |
──ドン!!
ライク♥ツー | ……っ、何、今の。 おい、報告急げ! |
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世界帝軍兵士1 | ──失礼します! 隊列先端の隊が攻撃を受けました! レジスタンスの襲撃だと思われます! |
ラブ★ワン | おおっと、これはおいらたちの出番かな~? |
ライク♥ツー | 行くよ、お兄ちゃん。 |
レジスタンス1 | よし、第二波行け! |
レジスタンス2 | 喰らえ!! |
世界帝軍兵士たち | ぐっ……! |
世界帝軍兵士2 | くそっ……! なんでレジスタンスがあんなに爆薬を持ってるんだ! |
世界帝軍兵士3 | ……っ! 確かこの間、輸送車両が襲われて、物資を奪われたって……。 |
世界帝軍兵士2 | それでか……! 畜生、世界帝に歯向かう逆賊どもが……! |
ラブ★ワン | おおっ、派手にやってんねぇ。 |
ライク♥ツー | ちょっとお前ら。 レジスタンスなんか相手に何モタモタしてるわけ? |
世界帝軍兵士たち | ラブ★ワン様! ライク♥ツー様! |
ライク♥ツー | ほら、さっさと隊列立て直して応戦して。 お兄ちゃん、やるよ。 |
ラブ★ワン | オッケェェェーイ!!! |
ラブ★ワン | ほーらほらドブネズミたち! 大人しくゴミになぁ~れ★ |
レジスタンスたち | うわあぁぁぁぁああっ!! |
ラブ★ワン | フゥ……イイ感じ! 調子出てきたわぁ。 |
ラブ★ワン | ……って、あれ? |
レジスタンス1 | 今だ! やれ! |
レジスタンスたち | うおおおお!!! |
ライク♥ツー | お兄ちゃんっ! |
レジスタンスたち | ぐあぁっ! |
ライク♥ツー | おいお前ら! 援護射撃! |
世界帝軍兵士たち | は、はい! |
ライク♥ツー | もう、本っ当にありえない。 お兄ちゃんすぐジャムるんだから、調子乗って前出ないでよ。 それかジャムらないで。 |
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ラブ★ワン | ええーっ、おいらがジャムってもへっちゃらっしょ? ライたんがいれば助けてくれるし、超安心★ |
ライク♥ツー | 1回マジで撃たれてきたら? |
ラブ★ワン | 弟が手厳しィ~! |
アインス | ん……? ラブ★ワンとライク♥ツーか。 |
ラブ★ワン | やっほー、アイちん! 任務お疲れぃ! |
アインス | ああ、お疲れ。 お前たちはいつも仲が良いな。いいことだ。 |
ライク♥ツー | 仲いいっていうか……お兄ちゃんがポンコツだから、 僕が助ける羽目になってるってだけで……。 |
アインス | お前は家族思いの優しい銃だな。 これからもラブ★ワンを助けてやってくれ、ライク♥ツー。 |
ライク♥ツー | ……ったく、しょうがないなぁ。 アインスさんがそう言うなら了解でーす。 他の奴の手には負えないだろうし、僕が面倒見てあげる。 |
ラブ★ワン | フゥ! ツンデレなライたんも好きだよーん★ |
ライク♥ツー | うっざ……。撃っていい? |
時は流れ──
世界帝の居城、イレーネにて。
ラブ★ワン | あっちゃ~! ジャムるなんてツイてないっ! |
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ライク♥ツー | ちょ……っ! お兄ちゃん、こんな時にウソでしょ!? |
ラブ★ワン | ってぇな……。 |
ライク♥ツー | お兄ちゃ── |
ライク♥ツー | ……っく! 痛……ッ。 |
モーゼル | ……あなたはもう不要です、ライク♥ツー。 |
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ライク・ツー | (助け合う……カバーする……。 そんなぬるま湯に浸かってるみたいな関係じゃ、ダメなんだ) |
ライク・ツー | (そんなふうだと、いずれすべてを失ってしまうから……) |
ライク・ツー | (だから、『俺』は──) |
──野営訓練の途中、トルレ・シャフの秘密施設に迷い込んだ
〇〇、ライク・ツー、マークスの3人。
世界帝軍にいたライク♥ツーを名乗ったライク・ツーは、
与えられた部屋に〇〇を残して、
研究員から施設の案内を受けていた。
トルレ・シャフ研究員1 | それでは、ライク♥ツー様、各研究室をご案内いたします。 ……ところで、マスター様のお姿が見えませんが……? |
---|---|
ライク・ツー | あー……研究にはあんまり興味がないんだってさ。 部屋で休んでるから気にしなくていい。 ほら、案内よろしく。 |
トルレ・シャフ研究員1 | かしこまりました。 こちらへどうぞ。 |
ライク・ツーが案内された先には、
金属製の細長いボンベのようなものが並んでいた。
ライク・ツー | これは? |
---|---|
トルレ・シャフ研究員1 | 今回の作戦の要であるガスです。 このガスに含まれる成分は、酸素とヘモグロビンの結合を阻害し、 吸い込むと酸欠状態に陥って、やがて絶命に至ります。 |
ライク・ツー | ……ふーん。 |
トルレ・シャフ研究員1 | 最新の兵器ではありませんが、今回くらいの規模の作戦であれば、 問題なく結果を出せるでしょう。 |
トルレ・シャフ研究員1 | 忌々しい世界連合軍の将校どもを、 これらで亡き者にしてみせます! |
ライク・ツー | (……この毒ガスがバラ撒かれたら、まずいことになるな……。 なんとかしてこのことを伝えねぇと……) |
トルレ・シャフ研究員1 | 偉大なる帝から世界を簒奪した連中に 目にものを見せてやりましょう。 我々は今後も研究を続け── |
トルレ・シャフ研究員1 | ……おや? ライク♥ツー様、どちらへ? |
ライク・ツー | 日課の筋トレしてくる。 あと、お前さ。意気込むのいいけど、 力みすぎると、失敗するから気をつけろよ。 |
トルレ・シャフ研究員1 | は、はい……! |
ライク・ツー | おい、〇〇。 奴らの狙いがわかった。 ラッセルたちに連絡し──……あれ。 |
---|
ライク・ツーが、〇〇がいるはずの部屋に戻ると、
そこはもぬけの殻になっていた。
窓が開け放たれていて、夜の風が時折吹き込んでくる。
ライク・ツー | マークスのところに行ったのか……? ったく、ここ2階だってのに、無茶しやがって……。 |
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夜が明けるころ──。
トルレ・シャフ研究員2 | た、大変だ……! |
---|---|
トルレ・シャフ研究員1 | どうしたんだ? |
トルレ・シャフ研究員2 | 監視用の熱感知カメラに反応が多数…… この施設は包囲されている! おそらく連合軍だ……! |
トルレ・シャフ研究員1 | なんだと!? |
トルレ・シャフ研究員2 | まさかと思って、昨日侵入者が落ちた辺りを見に行ったら、 死体も何もなかった……! あいつが連合軍を呼び寄せたのかもしれない。 |
トルレ・シャフ研究員1 | しかし、あいつは死ぬはずだとライク♥ツー様が……。 |
ライク・ツー | ……あんなかすり傷で死ぬわけないだろ。 |
トルレ・シャフ研究員1 | ライク♥ツー様……? それは一体どういうことです!? |
ライク・ツー | どうもこうも、言葉のまんま。 腕にちょっと弾が掠っただけで死ぬかっての。 |
ライク・ツー | ついでに言うと、連合軍を呼び寄せたのも俺。 ……あいつらに報告上げてもらおうと思ってたけど、 よく考えたら無線機俺が持ってたんだった。 |
トルレ・シャフ研究員1 | くっ……! 貴様は二度も世界帝を裏切るというのか……! |
ライク・ツー | はいはい、騒いでないで寝てろ。 |
トルレ・シャフ研究員1 | ぐぁっ……。 |
トルレ・シャフ研究員2 | うっ……! |
ライク・ツー | はぁ……いくら研究員だからって雑魚すぎ。 |
トルレ・シャフの研究員たちを縄で縛って物置に押し込み、
ライク・ツーは足早に歩き出した。
ライク・ツー | さて……と。 あとは通信指令室を制圧して、 外部との接触を断っておかねぇとな。 |
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ライク・ツー | ……俺がまた裏切ったとか余計な情報流されたら、 もう同じ手が使えなくなっちまう。 |
ライク・ツーが立ち去ってしばらく──。
トルレ・シャフ構成員1 | おい、大変だ! 俺たち、連合軍に囲まれて──あれ? 誰もいない……? |
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その時──物置の中に押し込まれていた研究員の眼鏡が床へ落ち、
カシャンと微かな音が響く。
トルレ・シャフ構成員1 | ん……? 今の音は……物置からか? |
---|
男は警戒しつつ、物置の扉を開けた。
トルレ・シャフ構成員1 | こ、これは……! |
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ライク・ツー | よし、これで完了っと。 あとは俺もさっさとずらかって── |
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アナウンス | 『有毒ガス警報、有毒ガス警報。 総員、直ちに防毒マスクを着用せよ』 |
ライク・ツー | チッ……! あいつらが見つかっちまったのか!? 物置じゃなくて別の場所に押し込んどきゃよかった! |
ライク・ツー | ったく、毒ガス撒いて時間稼ぎのつもりかよ。 連合軍には毒ガスのこと伝えてあるから無意味だってのに。 |
ライク・ツー | ……って、やべ。 〇〇たちは状況がよくわかってないままかも。 あいつらがここに来たらまずい……! |
波乱の野営訓練を終え、士官学校に戻った5人。
〇〇が寮の自室で休んでいると、
部屋のドアがノックされる。
ライク・ツー | おい、〇〇。 入るぞ。 |
---|---|
ライク・ツー | ……よう。 |
主人公 | 【どうかした?】 【何か用事?】 |
ライク・ツー | ああ。 いや、大したことじゃねぇんだけど……。 お前……足、怪我したんだって? |
主人公 | 【大したことはないよ】 【心配してくれてありがとう】 |
ライク・ツー | 【大したことはないよ】 →あっそ。ならいいけど。 【心配してくれてありがとう】 →心配ってわけじゃ……。 |
ライク・ツー | 大したことないからって甘く見ないで、 ちゃんと痛みも腫れも引いて良くなるまで無理すんなよ。 その方が早く治って、早く訓練に戻れるからな。 |
ライク・ツー | んで、治ったらなまってる方を重点的に鍛えて、 左右の筋力差ができないようにきっちり戻せ。 |
ライク・ツー | トレーニングでなんかわかんねーことがあれば、 俺が暇だったら付き合ってやってもいい。 |
主人公 | 【ありがとう】 【すごく助かる】 |
ライク・ツー | 暇だったら、だからな。 つーかそもそも、あの程度の山道でずっこけるなっての。 |
ライク・ツー | …………。 |
主人公 | 【少し話がしたい】 【マークスとのことなんだけど……】 |
ライク・ツー | ……あー、水差し、空っぽじゃん。 その足じゃ動きづらいだろうし、 今回だけ特別に俺が行ってきてやる。話はあとだ。 |
ライク・ツー | じゃあな。 |
ライク・ツー | はぁ……何やってんだ、俺。 別に一回離脱しなくても、ガツンと言ってやればよかったのによ。 |
---|---|
ライク・ツー | 「マークスと俺とを協力させようとするな。 今後同じことを言うのはやめろ。うざい」……って。 |
ライク・ツー | ……いや、うざいは言い過ぎか? |
ライク・ツー | まあいいや。 水がなかったのも、あいつが動きづらいのも事実だし。 |
水差しに飲料水を補充し、
ライク・ツーは〇〇の部屋へと戻った。
ドアをノックしようとして、室内から声が聞こえることに気付く。
??? | マスターは俺に、ライク・ツーと手を取り合うように…… 少しは信頼してみるようにと言った。 だから俺は、俺なりに努力してみた。 |
---|---|
??? | だけど……だめだった。 マスターの命令を聞けないのは、これが初めてだ……。 |
ライク・ツー | (この声、マークスか……。 俺と入れ違いに来たんだな) |
マークス | 俺は、まだ……あいつのことがわからない。 信用していいのかどうかも……。 |
マークス | 俺は、マスターの願いはなんだって叶えたい。 だけど、俺にとってはマスターを守ることが第一だ。 |
マークス | あいつを信じることは、マスターを守ることに繋がるのか、 俺はまだ、確証を持てずにいる。 |
マークス | だから、ジョージや十手みたいに ライク・ツーを手放しで信じることができない……。 |
マークス | ……でも、どうか心配しないでくれ。 マスターは、アウトレイジャーと渡り合う上で、 あいつと俺が協力したほうがいいと言った。 |
マークス | あいつと協力することはできないが、 俺1人でもマスターを守れるように、 俺がもっともっと強くなれば問題ない。そうだろう? |
ライク・ツー | (……ああ、それでいい。 信じるな、頼るな、甘えるな。1人で戦える力を付けろ。 生温い慣れ合いなんて必要ねぇんだから……) |
──やがて、〇〇の部屋からマークスが出てくる。
マークス | ……うおっ、ライク・ツー!? あんた、ここで何して── |
---|---|
ライク・ツー | ほらよ。〇〇に渡せ。 |
マークス | は……? |
ライク・ツー | じゃーな。 |
ライク・ツーは、持っていた水差しをマークスに渡すと、
踵を返してさっさと去っていった。
マークス | ……? なんだったんだ……? |
---|
水差しを持ったまま、マークスはしばらくの間、
遠ざかっていく背中を眺めるのだった──。
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