これは遠い記憶の欠片。日本での、彼らの物語の前日譚。
とぷんと落ちた水底に、在坂は未知の世界を見る。
水の世界も、料理の仕方も……人の心も、在坂は知らない。
だから彼は、知っていきたいと願ったのだ。
在坂は、知りたいだけ。
群れに入る資格もなく、目を合わせるだけの権利もないから。
……そう思ってたのに、変な奴。
在坂の世界は、少し広がった。
主人公名:〇〇
主人公の一人称:自分
これは在坂が、
日本で貴銃士として召銃された直後のこと──。
在坂 | …………。 |
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在坂 | (……銃ではない……。人の、身体……?) |
邑田 | …………。 |
在坂 | (……? 在坂と同じ存在のようだ……) |
在坂の方を見ていた貴銃士は、
在坂がじっと見つめると、驚いたような表情になる。
在坂 | ……どうかしたのだろうか? |
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邑田 | ……はて? ああ、そうじゃ、そうじゃ。 |
邑田 | わしは邑田。 薩摩の出、邑田経芳に作られた銃ぞ。 そなたは? |
在坂 | 在坂は、在坂だ。 邑田銃に次ぐ、統一国産銃だった。 |
邑田 | おお、そなたが在坂か。知っておるぞ。 わしの後輩じゃな。 |
邑田 | 日本を守る貴銃士同士、懇意にしようではないか。 これからよろしくのう、在坂や。 |
在坂 | よろしく……とは何かわからない。 だが在坂は邑田の隣にいるようにする。 |
邑田 | ……ほっほっほ。うむ、それでよい! |
挨拶が済むと、2人は今後過ごすことになる
それぞれの自室へと案内された。
──が。
在坂 | なぜ、邑田も在坂の部屋に来た? 邑田の部屋は隣だ。 |
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邑田 | ほっほっほ。細かいことを言うでない。 ほれ、茶を淹れてみたぞ。 在坂もこれを飲んで、寛ぐとよい。 |
在坂 | ……在坂は、まずは部屋の検分をする。 |
在坂 | (ここには、在坂の知らない物がたくさんある。 ……ん?) |
部屋の中をぐるりと見回した在坂は、
壁にかかっている鏡に、
自分の姿が映っていることに気づいた。
在坂 | (貴銃士としての在坂は、 こんな形をしているのか……) |
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鏡に映る姿を見つつ、
在坂は自分の頬へと手を伸ばした。
少し冷えた指先より高い温度が、頬から伝わる。
在坂 | (人の形というのは、不思議だ……) |
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慣れない感触を確かめるように、
頬をつまんで、伸ばしてみる。
すると──。
在坂 | ……っ!? 頬が、熱くて不愉快だ……。 これは、なんだ……? |
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邑田 | それは『痛み』という感覚であろう。 |
邑田 | 銃に痛覚はないが、人には痛みの感覚がある。 生物として、生きている証拠のようなものであろうな。 |
在坂 | …………。 |
覚えのない感覚を確認するように、
在坂は再度頬をつねる。
在坂 | うっ……。 |
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邑田 | これ、そんなにつねっては痛いであろう。 ほれ、手を離しなさい。 |
在坂 | (これが、痛み……。 人の身体を持った証、なのか……) |
──数日後。
在坂 | …………。 |
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邑田 | ほう……すべて的中か。 実に素晴らしい腕前じゃのう。 |
在坂 | 在坂は、大したことではないと思う。 |
邑田 | いやいや、実に見事なものよ。 低い弾道に、骨も易々と砕く、貫通力に優れた尖頭弾……。 |
邑田 | 戦場でも大いに活躍したことであろうな。 |
在坂 | ……! |
在坂 | …………。 |
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兵士1 | た、助けてくれ……! 足を撃たれて、もう動けない……! 頼む、手を貸し──。 |
兵士2 | うわあああああっ! |
??? | ──坂! 在坂! |
在坂 | ……! |
邑田 | 大丈夫か? うなされておったようじゃが……。 |
在坂 | む、らた……? ここは……在坂の、部屋? なぜ邑田が……。 |
邑田 | 先ほどの訓練中、 何やら様子がおかしかったのが気になってのう……。 ちと、様子を見に来たのだ。 |
邑田 | 悪い夢でも見たのじゃな。 かわいそうに、顔色が真っ青になっておる……。 |
邑田 | ほれ、もうすっかり日暮れじゃ。 もう間もなく夕餉の時間じゃろうから、 顔でも洗って食堂に行こうかの。 |
在坂 | …………。 |
窓の外に見える空は、夕日で赤く染まっていた。
その赤と、夢の中の風景が重なっていく。
在坂 | (──赤い。 どこもかしこも、赤くて……) |
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在坂 | (これは……ぜんぶ──) |
在坂 | (血、だ) |
邑田 | 在坂……!? しっかりせい! ゆっくりと深呼吸して、落ち着け……! |
在坂 | ふぅ……、はぁ……。 |
邑田 | ゆっくりでよい。 苦しいことがあるのなら、わしに話してみぬか? |
在坂 | いや、在坂には何もない。何も……。 |
邑田 | …………。 |
在坂 | (この痛みは、人の体を得た証……。 それならば、在坂も邑田のように 平然としていられるように努力するまで……) |
在坂 | (邑田はどこだろうか……。 ……ん?) |
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兵士と談笑する邑田の姿を見つけ、
在坂は足を止めた。
邑田 | ──そうか、そなたも同郷であったか! 道理で、紅ほのかへの想いが一致すると思ったぞ。 |
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兵士1 | ええ、紅ほのかは実によいものです……! しっとりとして舌触りがなめらかで、 焼き芋の王様と言えましょう! |
邑田 | ほっほっほ。 そなた、よくわかっておるではないか! |
在坂 | (……在坂は、あんな風に人と話したことがない) |
邑田 | ん……? おや、在坂。 そんなところでぼうっとして、どうしたのだ? こちらへおいで。 |
在坂 | …………。 在坂は、邑田たちが何を話していたのか知りたい。 |
邑田 | なに、なんてことのない世間話よ。 |
邑田 | わしを作った男、邑田経芳の故郷、 薩摩の話で盛り上がっておったのだ。 薩摩には名物がたくさんあるからの。 |
邑田 | ほれ、芋焼酎も絶品であろう? |
兵士1 | いいですなぁ。 自分は中でも濃厚で、香ばしい焼酎が好きでして。 |
在坂 | 酒……美味いものなのだろうか。 在坂も、一度飲んでみたい。 |
兵士1 | ……っ! えっと、その……ええ、はい。 在坂様も、きっと気に入るのではないかと……。 |
在坂 | そうか……。 その酒は、どこでなら手に入るものなのだろうか? |
兵士1 | ……酒屋になら、たいていはあるかと……。 |
在坂 | そうか。 しかし、在坂の見た目で酒屋に行って── |
兵士1 | えっと……すみません。 用を思い出したので、自分は失礼いたします……! |
在坂 | あ……。 |
在坂 | (これで話は終わりか。……だが) |
在坂 | ……在坂は、初めてマスター以外の人間と話すことができた。 |
邑田 | おお、そうか。 よかったのう……! |
在坂 | (……胸が、温かい……。 話をすると、人間はこんな感情を覚えるものなのか) |
在坂 | (在坂は、まだまだ知らないことばかりだ。 もっと、人間の感情について知りたいと思う……) |
──数日後。
在坂 | (あの男は、銃を扱う時に独特な癖がある……。 あっちの男は、訓練の時は険しい顔だが、 食堂にいる時は口角が上がっていた……) |
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在坂 | (人間には、様々な面がある。 だから在坂は、もっと知りたくなる。 在坂も、もっと人とたくさん話せたらいい……) |
在坂 | 在坂は……邑田のように、 みんなと話がしてみたい……と思う。 |
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邑田 | ……そうかそうか。 みなと打ち解けようとは、在坂は偉い子じゃの。 どれ、わしも手を貸してやろうぞ。 |
在坂 | ……本当に? |
邑田 | ほっほっほ。お安い御用というやつじゃよ。 最初はわしと共に、そこらの者に話しかけてみるか。 さすればそのうち慣れて、1人でも話しかけられよう。 |
邑田の力を借りながら、
在坂は兵士たちとの交流を続けていった。
在坂 | (在坂は前よりうまく話せるようになった……。 邑田に頼らず、そろそろ在坂1人でも 話せるようになるべきだと考える) |
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兵士2 | はぁ……。 |
在坂 | (あそこにいる兵士は、確か……) |
在坂 | ……任務に問題があったと、在坂は耳にした。 |
兵士2 | ……!? な、なんだと……!? |
在坂 | 昨日の任務での話だ。 |
兵士2 | お、おおお俺を責めるのかっ!!! |
在坂 | ……? 在坂には、そんなつもりは── |
兵士2 | こっちを見るな!! |
兵士2 | その目……!! 夢の中のあいつと同じ目だ! 俺を責める、あいつの目と同じ……! |
在坂 | ……少し、落ち着くといい。 在坂は、深呼吸を勧める。 |
兵士2 | や、やめてくれ! 俺を見るな! 気味が悪いんだよ……! |
兵士2 | なんだよ、その全部見透かしてるような目! 内心で俺たちのことを見下してるんだろ……! |
邑田 | ……! |
兵士2 | ぐはっ……!! |
突然現れた邑田によって、兵士が殴り飛ばされる。
その光景を見ながら、
在坂はただ茫然と立ち尽くしていた。
在坂 | …………。 |
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邑田 | おいで、在坂。 部屋で茶でも飲もうぞ。 |
在坂 | …………。 在坂の目は……気味が悪い、のか……。 |
兵士2 | や、やめてくれ! 俺を見るな! 気味が悪いんだよ……! |
---|---|
兵士2 | なんだよ、その全部見透かしてるような目! 内心で俺たちのことを見下してるんだろ……! |
翌日──。
在坂は、兵士の言葉を反芻しながら、
自室で時を過ごしていた。
在坂 | (もう昼か……。 そういえば、今日は邑田が来ない……) |
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在坂のマスター | ──在坂、入るぞ。 |
在坂 | ……? |
在坂のマスター | ──邑田が、 乱闘騒ぎを起こして懲罰房に入れられた。 |
在坂 | !? |
在坂のマスター | 暴力の理由を、邑田本人が語ろうとしない。 目撃していた兵士が言うには、いつも通りの笑顔のまま 突如周りの兵士を殴り始めたそうだが……。 |
在坂のマスター | 在坂、何か心当たりはないか? |
在坂 | …………。 在坂には、わからない。 |
在坂 | マスター、 邑田に会うことは可能だろうか……。 |
邑田 | うむうむ。 在坂が持ってきてくれた、つなまよなる握りを食えるなら、 ここもさほど悪くはないかもしれんのう。 |
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在坂 | (……邑田はあまりに平時と変わらないように見える。 在坂には、邑田のことがよくわからない……) |
在坂 | …………。 在坂は、突然人を殴るのは、よくないと思う。 |
邑田 | 何を言う。突然であるものか。 |
在坂 | ……? 邑田なりに、理由があるのか。 |
邑田 | む……? |
在坂 | 在坂は、邑田を諭しに来た。 邑田に殴られた兵士の中には、重傷者もいる。 その兵士たちが可哀想だ。 |
邑田 | ……在坂は、本当に優しいのう。 |
邑田 | こんなに優しい在坂は……やはり、人に好かれ、 皆に囲まれ楽しく過ごすべきだというのに……。 |
在坂 | …………。 |
在坂 | いや……。 在坂は、そうは思わない。 |
在坂 | ……在坂は、近頃ずっと考えていた。 在坂が来ると、皆は俯いて、何も話さなくなる。 笑っていた者も皆、無表情になる。 |
在坂 | この間の兵士が言っていた。 在坂の目は、気味が悪いと。 |
在坂 | ……在坂がいると、皆が嫌な気持ちになる。 そんな在坂が人から好かれることは、ありえない。 |
在坂 | (皆に嫌な思いをさせていた在坂が、 皆と楽しく過ごせる日など来ないだろう) |
邑田 | それは違うぞ、在坂。絶対にじゃ。 |
邑田 | 在坂が楽しく幸せに過ごせる日が来る。 それを、わしが証明してやる。 |
邑田 | そうさな。 手っ取り早いのは、こうして笑うことだ。 ほれ、口の端をこうして上げて……ふっ、どうじゃ? |
在坂 | ……在坂は、笑うということがわからない。 笑顔はどうすれば浮かぶのか、想像もつかない……。 |
邑田 | ふむ……ならばまずは、 笑うことから、わしが教えてやろう! |
その日から邑田は、
在坂を笑わせようと様々な方法を試みるが──
そのすべてが、ことごとく失敗に終わってしまった。
在坂 | (在坂にはおそらく、 笑うという機能がないのだろう。 邑田もきっと、そう考えているはず……) |
---|
ちょうどその時、在坂は、廊下の向こう側から、
邑田が歩いてきていることに気付いた。
邑田 | …………。 |
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邑田 | 在坂は、なかなか手強いのう……。 駄洒落、落語、くすぐり……どれも笑ってくれなんだ。 あとは、どうしたら──。 |
邑田 | ──なぬっ!? |
スッテーン!
在坂の視線の先で、
落ちていた山芋の皮を踏んづけた邑田が
盛大に転倒した。
邑田 | ええい、誰じゃ! このようなものを廊下に放置しよったのは!? |
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在坂 | ふっ……! |
邑田 | ん……? |
在坂 | ふふ、ははは……っ! 邑田が、すごく、綺麗に滑って転んで…… 在坂はあんな光景を、初めて見た……! |
邑田 | ……! |
邑田 | 在坂……一部始終を見ておったのか。 山芋の皮は腹立たしいことこの上ないが…… うむ。ようやく笑ってくれたのう。 |
在坂 | (笑った……? 確かに、頬の筋肉に違和感がある。 これが、笑うということなのか……) |
邑田 | ふふ、よかったのう……! |
在坂 | ふ、ふふ……っ! あははは……っ! |
邑田 | ──ここはとても美しいのう、在坂。 散歩がてら、足を運んでよかったであろう? |
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在坂 | ……なるほど。 こういったものを、美しいというのか。 在坂は少し、浮足立つような気持ちだ。 |
邑田 | そうかそうか。 在坂の思うように、自由に歩き回るとよい。 |
在坂 | ああ……。 あの木は、とても大きい……。 あっちには、置き石もある……。 |
在坂 | ん……? 池の中に、何かがいる。 これは……魚? |
邑田 | ああ、それは鯉という魚じゃな。 このように色鮮やかで観賞用のものを錦鯉という。 錦織のように美しく優美であろう? |
在坂 | 鯉……気持ちよさそうに泳いでいる。 |
邑田 | この池は広く、清い水が流れ込んでおるからかのう。 ……在坂は、鯉が気に入ったか? |
在坂 | ああ……。 |
在坂 | (…………。 池の中は、どんな感じなのだろう……) |
在坂 | (風呂との違いはあるのだろうか。 鯉は何を思い、泳いでいるのだろう。 在坂は、鯉の気持ちが知りたい……) |
邑田 | のう、在坂。ところで昼食はどうす── |
在坂は、ゆっくりと体を傾け、
そのまま池の中へと身を投げ出した。
邑田 | なっ、在坂……!? |
---|---|
在坂 | (これは……水の世界……。 在坂の体は今……ふわふわと、浮いている。 鯉は、こんな感覚だったのか) |
在坂 | (水は、思ったより冷たい……ん? 在坂の体は、今度は沈んでいくのか?) |
在坂 | (息も……苦しくなってきた……。 なぜ鯉は、ずっとここにいて平気なんだろう?) |
邑田 | ……さかっ! |
在坂 | (……邑田?) |
邑田 | 在坂! 在坂!! 大事はないか、在坂!? |
在坂 | けほっ、けほっ……。 ああ……在坂は、水の世界から出たことを…… 少し、もったいないと思う。 |
邑田 | そ、そうか……? それだけであれば構わぬが……。 なぜ、池に落ちた? |
在坂 | 在坂は、水に入りたくなった。 |
邑田 | ……! 在坂、それはもしや、じゅす──っ! |
在坂 | ……? |
邑田 | いや……なんでもない。 |
在坂 | ……そうか。 |
在坂 | (まだ、在坂はこの庭園をすべて見ていない。 次はどこへ行こう……) |
──時は流れ……在坂たちが
士官学校に訪れるようになってからのこと。
在坂 | 在坂は、準備万端だ。 〇〇と八九はどうだろうか? |
---|---|
主人公 | 【準備OK!】 【いつでも始められる】 |
八九 | いや、一応準備してきたけどよ…… なんで俺まで邑田に手料理なんか……。 |
在坂 | 大事な相手に手料理を振る舞うといいと聞いた。 八九も、在坂と共に料理を作り、 邑田に振る舞うべきだろう。 |
在坂 | 在坂は、その方が邑田も喜ぶと思う。 |
八九 | (俺の手料理をアイツが喜ぶか……?) |
八九 | はぁ……仕方ねぇな。 で、一体何を作るんだ? |
主人公 | 【ふわふわ卵のオムライス】 |
八九 | はぁ!? それ、結構難しくねぇか!? どう考えても初心者向けじゃねぇだろ……。 |
在坂 | ふわふわのオムライスを食べると、 気持ちもふわふわになる。 邑田は短気だから、少しふわふわになった方がいい。 |
八九 | わかるようなわかんねぇような……。 失敗しても知らねーからな……。 |
主人公 | 【まずは具材を切ろう】 【玉ねぎをみじん切りにしよう】 |
在坂 | ふむ……包丁の持ち方はこう、だな。 在坂が玉ねぎを切ってみる。 |
八九 | いや、それニンニクだから! 確かにちょっと似てるけど! 玉ねぎはこっち! |
在坂 | そうか。 では、在坂は今度こそ玉ねぎを切る……。 |
在坂 | ん……? うっ……! なんだ、これは……涙が止まらない……。 |
八九 | あー、玉ねぎを切るとな、鼻や目を刺激する 物質が出るって──ひっ!? |
邑田 | おぬしら…… 在坂を泣かせるなど、なんのつもりだ? |
主人公 | 【こ、これには理由が!】 【泣かせてません!】 |
八九 | そ、そうそうそう! 俺たちが泣かせたわけじゃなくて、玉ねぎのせいで! おい、在坂! そうだよな? なっ? |
在坂 | 在坂は、目が痛い…… 涙も止まらない……。 |
邑田 | 八九……覚悟はよいな。 |
八九 | 待て待て待て! おい在坂! ちゃんと事情を説明してくれぇ!! |
その後どうにか誤解を解き、
結局邑田本人の監督のもとで料理教室は続けられ──。
主人公 | 【完成……!】 |
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邑田 | おお、よくできているではないか。 ならば、さっそくいただくと── |
在坂 | まだ、だめだ。 在坂の最後の仕上げが残っている。 |
ケチャップを手に取った在坂は、
真剣な表情で、邑田のオムライスに
『愛人』という文字を描いた。
八九 | 愛……人……!? |
---|---|
八九 | おまっ…… 言葉のチョイスが意味わかんねぇよ……!? |
邑田 | おお……これは嬉しいものじゃな。 |
八九 | うそだろ!? すんなり受け止めんのかよ! |
在坂 | ……? 在坂は、八九がなぜ驚くのかわからない。 |
邑田 | ほっほっほ。 八九はどうやら誤解をしておるようじゃ。 ほれ、在坂のおむらいすの文字を見てみよ。 |
八九 | 『敬天』……? |
邑田 | そう。合わせて『敬天愛人』。 天を敬い、人を愛するという意味よ。 |
邑田 | 我が故郷の英傑、西郷隆盛殿が 学問の目的を述べた言葉として知られておる。 わしが前に教えたのを、在坂が覚えていてくれたのだ。 |
八九 | な、なんだよそういう意味かよ……! ビビらせるなっての……! |
在坂 | 在坂は、八九が動揺した理由を知りたい。 |
八九 | い、いやそれはなんつーか……まあまあ! ほら、早く食わねぇとオムライスが冷めるぞ。 |
邑田 | ほっほっほ。 そうじゃな。熱々のうちにいただくとしよう。 |
在坂 | 邑田、オムライスの味はどうだろうか? 在坂は、初めてにしては上手にできたと思う。 |
邑田 | もちろん美味じゃ。 在坂がわしのために作ってくれたと思うと、 さらに味わい深いぞ! |
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