これは遠い記憶の欠片。日本での、彼らの物語の前日譚。燃え盛る炎に邑田は誓う。
お前には笑う権利がある。だからこの暗さも辛さも、お前が知る必要はないことだ。
たとえエゴでも、あの日、彼はそう決めた。
目隠しをして、真綿に包んで。
たとえ地獄の只中であっても、此処が極楽と囁き、言祝ごう。
それがわしの与える愛だ。
だから、ほら、笑っておくれ。
主人公名:〇〇
主人公の一人称:自分
これは邑田が、
日本で貴銃士として召銃された直後のこと──。
邑田 | (ほう……人の身体とは、このような感覚なのか。 何やら、ぬくいのう……) |
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邑田 | (……ん? こやつは……) |
??? | …………。 |
邑田の隣には、華奢な体躯の少年がいた。
その出で立ちと独特な雰囲気から、
邑田は、彼も自分と同じ貴銃士であることを察した。
邑田 | (どれ、まずは挨拶でも──) |
---|
小柄な貴銃士に合わせて少し身を屈めたところで、
邑田はぎょっとしてわずかに身を引いた。
邑田 | ……っ! |
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邑田 | (こやつの瞳……なんと重苦しい……。 年端も行かぬ童のような見目をしておるが、 一体どれほどの地獄を見てきたのか……) |
在坂 | ……どうかしたのだろうか? |
邑田 | ……はて? ああ、そうじゃ、そうじゃ。 |
邑田 | わしは邑田。 薩摩の出、邑田経芳に作られた銃ぞ。 そなたは? |
在坂 | 在坂は、在坂だ。 邑田銃に次ぐ、統一国産銃だった。 |
邑田 | おお、そなたが在坂か。存じておるぞ。 わしの後輩じゃな。どれ、撫でてやろう── |
幼子を撫でるように在坂の頭へ手を伸ばそうとした
邑田であったが、彼の帽子に刻まれた桜の紋が
傷だらけになっていることに気付いて、動きを止める。
邑田 | (む……? よくよく見てみれば、 銃の方の桜御紋も削られておるではないか) |
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邑田 | (桜の紋は、桜國幕府と日本を示すもの。 それを削られるなど、 何か相当な事情があったに違いないが……) |
在坂 | ……? |
邑田 | おお、すまんな。 またぼんやりしておったわ。 |
邑田 | 日本を守る貴銃士同士、懇意にしようではないか。 これからよろしくのう、在坂や。 |
在坂 | よろしく……とは何かわからない。 だが、在坂は邑田の隣にいるようにする。 |
邑田 | ……ほっほっほ。うむ、それでよい! |
邑田と在坂の出会いからしばらくが経った頃──。
邑田 | 在坂……戻りが遅いのう。 まさか……いまだ任務に……? |
---|---|
在坂 | 只今戻った。 |
邑田 | ああ、在さ……、ッ!? |
在坂 | 世界帝派の残党は、すべて鎮圧した。 |
邑田 | あ、在坂……そなた、その腕はどうしたのじゃ! 右腕は……まともに動かせぬのか? ただぶら下がっておるだけのような有様じゃが……。 |
在坂 | ……少し、無理をした。 腕はちぎれかけてはいるが、在坂は貴銃士だ。 そんなに慌てるようなことでもないと思った。 |
邑田 | やれやれ……勝機があって多少無理をするくらいなら、 わしとてとやかく言わぬ。 |
邑田 | しかし、ただ己が身を不用意に削り、 無謀に無謀を重ねているようであれば、 それは感心できんなぁ。 |
在坂 | ……? 在坂には、違いがよくわからない。 動ける限り敵陣に踏み込んでいけば、 活路を見いだせるかもしれない。 |
在坂 | まして、在坂たちは貴銃士。腕が飛ぼうが 足がもげようが、銃が壊れなければ死なない。 無謀がよくないというのは、よくわからない。 |
邑田 | …………。 |
邑田 | (在坂は、途方もなく、自分に無頓着なのじゃな……) |
──後日。
邑田 | 在坂、何処じゃ。 ……在坂や~。 |
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在坂 | ……すぅ……すぅ……。 |
邑田 | ……おっと。 こんなところでうたた寝をしておったのか。 |
邑田 | もう夕飯の時刻じゃ。 わあ、わしと共に帰ろうぞ── |
在坂 | ……っ、う、ぅ……。 |
邑田 | ……在坂? |
在坂 | ……い、やだ……。 |
在坂 | やめ、ろ…… じ、けつ……しな……で……さいご、まで……。 |
在坂 | たたか、う……たたか……え…… ……さ、……まで……! |
邑田 | ……在坂! |
邑田が強く揺さぶりながら声を掛けると、
在坂はハッと目を開いた。
在坂 | あ、あぁ……。むら、た……? |
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邑田 | 在坂。……哀しい夢を、見ておったのか……? |
在坂 | 夢……? 夢、とは……なんだ? 在坂は、知らない……。 |
邑田 | …………。 |
邑田 | ……おいで。 今晩はおむらいすじゃよ。 |
──数日後。
邑田 | (これまでは、本人が語るまでは聞かずにおこうと、 特に話題にも出さずにいたが……) |
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邑田 | (あのように苦しむ在坂を、 このまま見過ごすこともできぬ……) |
邑田 | もし、そなた。この館に詳しいとみた。 |
---|---|
司書 | あ、はい。何かお探しですか? |
邑田 | うむ。桜國幕府の歴史…… 特に戦争史に関する書物を求めておる。 |
司書 | それでしたら、地下1階ですね。 暇なので、よろしければ僕も一緒に調べますよ。 |
邑田 | なんと奇特な人じゃ。 この館には不慣れゆえ、大助かりよ。 |
邑田 | (余計な世話だと言われるであろうか……。 それでも、わしは知りたいのじゃ) |
邑田 | (……許せよ、在坂) |
邑田は、目的の書物を図書館から借りると、自室で読み進めた。
在坂に関して知れば知るほど、表情は険しくなっていく。
邑田 | (わしも、激動の時代の中でいくつかの戦場で使われ、 厳しい戦いを経験したものだが……) |
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邑田 | (在坂が使われた戦地は、あまりに過酷じゃ。 書物の淡々とした筆致であっても、 酸鼻を極める様が易々と想像できる……) |
邑田 | (在坂はまさしく、地獄を見た銃なのであろうな。 でなければ、童のなりであのような目になるまい) |
邑田 | (深淵を映すうちに、 自らも深淵となってしまったような…… そういう底知れなさがある、暗い瞳であった……) |
邑田 | …………。 |
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在坂 | ……邑田? |
邑田 | ……なんじゃ? 在坂よ。 |
在坂 | 邑田はよく、在坂を見ている。 在坂の顔を見るのが楽しいのか? |
邑田 | ……ほっほっほ。当たりじゃ。 在坂は愛(う)いからの、つい見てしまうな。 |
邑田 | して……在坂や、人の身体には慣れたかえ? |
在坂 | 貴銃士として存在することには、慣れた……と思う。 だが……。 |
邑田 | だが……なんじゃ? 心配ごとがあるなら、わしに言ってみよ。 |
在坂 | …………。 |
在坂 | 在坂は……邑田のように、 みんなと話がしてみたい……と思う。 |
在坂 | この間……邑田が人と話しているのを見た。 ……笑っていた。 ……人と話すのは、楽しいのか? |
邑田 | (……! てっきり、興味がないものかと 思っていたが……) |
邑田 | ……そうかそうか。 みなと打ち解けようとは、在坂は偉い子じゃの。 どれ、わしも手を貸してやろうぞ。 |
在坂 | ……本当に? |
邑田 | ほっほっほ。お安い御用というやつじゃよ。 最初はわしと共に、そこらの者に話しかけてみるか。 さすればそのうち慣れて、1人でも話しかけられよう。 |
在坂 | それは、とてもいい案だと、在坂は思う。 邑田……よろしく頼む。 |
邑田 | そなたたち、皆で囲んで何を見ておるのだ? |
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兵士1 | おお、邑田殿! |
兵士2 | こちらは最近手に入れた浮世絵でして……! |
在坂 | 浮世絵……。 |
兵士たち | ……っ! |
邑田の背後から在坂が現れた途端、
兵士たちの顔から先ほどまでの笑みがなくなり、
さっと視線を逸らす。
邑田 | ……? それで、この浮世絵はどうしたのか? なかなかよき品だと見受けるが。 |
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兵士2 | あっ……はい! 田舎の祖父から譲り受けまして、 見事だったものですから、つい皆に見せたくなり……。 |
邑田 | なるほどのう……。 ほれ、在坂も見てみるとよい。 |
在坂 | ああ……。 この絵の人物は、何をしている? |
兵士1 | ……え、ええと……。 |
在坂が少し身を乗り出すと、
兵士たちは気まずげに視線を泳がせ、
黙り込んでしまった。
邑田 | (これは……兵士たちが、在坂を避けている……?) |
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邑田 | ……おい。 在坂の言葉が聞こえなんだか? 答えよ。 |
兵士1 | ……こ、これは商人で……! 魚商などが、橋を渡っている様子かと……。 |
在坂 | ……そうか。 では、なんの魚なのかはわかるか? |
兵士2 | さ、魚……? ええとですね……。 |
在坂 | 在坂は、みんなとちゃんと話したのは初めてだ。 |
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邑田 | ……うむ、上出来であったな。 在坂なら、そのうちもっと打ち解けられるであろう。 |
在坂 | そうだろうか……? ならば在坂は、 これからもっと兵士と話をするようにしよう。 |
邑田 | 兵たちと話す時は、わしも呼んでおくれ。 そなたがすぐに独り立ちしてしまっては、 ちぃと寂しいからのう。 |
在坂 | だが……在坂は、 いつまでも邑田に頼るのは、悪いと思う。 |
邑田 | ほっほっほ。 かようなこと、気にする必要はないぞ。 |
邑田 | (先ほどの兵士たちの態度……。 在坂の底の知れなさに恐れを抱いているのであろうか。 あれが、あやつらに限ったことでないとなると……) |
邑田 | (在坂が歩み寄ろうとしたところで、 望んだような結果になるとは限るまい。 わしがそばにいてやれる時はよいが……心配じゃ) |
邑田 | (だが今日のことをきっかけに 在坂が前向きになれたのならば、これでよい。 本当のことなど、知る必要はなかろう……) |
邑田 | (さて、在坂はどこかのう……。 今日は一日別行動を強いられてしまったが、 元気にしておるだろうか?) |
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邑田 | ……む? |
邑田は、室内に入ってすぐに、異様な空気を感じた。
しーんと静まり返った重い空気の中で、
対峙する2つの人影がある。
……在坂と、兵士の1人だ。
在坂 | 在坂は……。 |
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兵士3 | や、やめてくれ! 俺を見るな! 気味が悪いんだよ……! |
兵士3 | なんだよ、その全部見透かしてるような目! 内心で俺たちのことを見下してるんだろ……! |
在坂 | …………。 |
兵士3 | ……やめろっ、その目! 俺を責めるな……!! |
邑田 | ……っ!! |
邑田 | ……! |
兵士3 | ぐはっ……!! |
邑田は、問答無用で兵士を殴り飛ばす。
吹き飛んだ兵士は気絶して起き上がらないが、
周囲の兵士はすっかり邑田に気圧され、動けない。
在坂 | …………。 |
---|---|
邑田 | おいで、在坂。 部屋で茶でも飲もうぞ。 |
在坂 | …………。 在坂の目は……気味が悪い、のか……。 |
邑田は、在坂が兵たちと馴染めるよう、
できるかぎり穏便に取り計らおうとした。
だが、在坂を気味悪がる者は多く、
元来短気な邑田は、心無い言葉を投げつける輩へと
容赦なく拳を振るうことが度々となった──。
兵士 | あの……規則ですので……すみません。 自分は外にいますので、何かあったらお声がけを。 |
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邑田 | ふん。懲罰房に入れる相手を間違っておろうが。 日本のために貴銃士として目覚めた在坂に対し、 ちぃと目が特徴的だからといってあの仕打ち……。 |
邑田 | 奴らの方こそ、懲罰房に入れて然るべきであろう。 ……ま、しばらく医務室から出られぬほど、 きつく仕置をしてやったから無理であろうが。 |
邑田 | ……ん? |
在坂 | 邑田……。 |
邑田 | おおっ、在坂ではないか。 わざわざこんなところまで出向いてくれるとは。 |
在坂 | 在坂は、差し入れを持ってきた。 ……ツナマヨだ。 |
邑田 | おお! それは嬉しいのう。 ちょうど腹が減っておったのだ。 |
邑田 | うむうむ。 在坂が持ってきてくれた、つなまよなる握りを食えるなら、 ここもさほど悪くはないかもしれんのう。 |
在坂 | …………。 在坂は、突然人を殴るのは、よくないと思う。 |
邑田 | 何を言う。突然であるものか。 |
在坂 | ……? 邑田なりに、理由があるのか。 |
邑田 | (む……? なんじゃろうか、この言い方は……?) |
邑田 | (在坂は、あまり気にしておらぬのか? それとも、わしが在坂のために怒るなどとは 思っておらぬのか?) |
在坂 | 在坂は、邑田を諭しに来た。 邑田に殴られた兵士の中には、重傷者もいる。 その兵士たちが可哀想だ。 |
邑田 | (あの者たちは、在坂を侮辱しておったというのに、 そのように気にかけてやるのか……) |
邑田 | ……在坂は、本当に優しいのう。 |
邑田 | こんなに優しい在坂は……やはり、人に好かれ、 皆に囲まれ楽しく過ごすべきだというのに……。 |
在坂 | いや……。 在坂は、そうは思わない。 |
邑田 | ……なに? |
在坂 | ……在坂は、近頃ずっと考えていた。 在坂が来ると、皆は俯いて、何も話さなくなる。 笑っていた者も皆、無表情になる。 |
在坂 | この間の兵士が言っていた。 在坂の目は、気味が悪いと。 |
在坂 | ……在坂がいると、皆が嫌な気持ちになる。 そんな在坂が人から好かれることは、ありえない。 |
在坂 | ……そんなことにも気付いていなかった在坂が、 皆と楽しく過ごせる日など、来るはずが── |
邑田 | それは違うぞ、在坂。絶対にじゃ。 |
在坂 | …………。 |
在坂 | ……だが……。 …………。 |
邑田 | ……信じられぬか? ならば……わしが証明してやろう。 |
在坂 | ……証明……? |
邑田 | うむ。在坂が楽しく過ごせる日が来る。 それを、わしが証明してやる。 |
在坂 | …………。 |
邑田 | そうさな。 手っ取り早いのは、こうして笑うことだ。 ほれ、口の端をこうして上げて……ふっ、どうじゃ? |
在坂 | ……在坂は、笑うということがわからない。 笑顔はどうすれば浮かぶのか、想像もつかない……。 |
邑田 | ふむ……ならまずは、 笑うことから、わしが教えてやろう! |
懲罰房を出てからの邑田は、在坂を笑わせようと
試行錯誤の日々を送っていた。
邑田 | 在坂は、なかなか手強いのう……。 駄洒落、落語、くすぐり……どれも笑ってくれなんだ。 あとは、どうしたら──。 |
---|---|
邑田 | ──なぬっ!? |
スッテーン!
考え事で足元をよく見てなかった邑田は、
落ちていた山芋の皮を踏んづけて、
思いっきり転倒してしまった。
邑田 | ええい、誰じゃ! このようなものを廊下に放置しよったのは!? |
---|---|
??? | ふっ……! |
邑田 | ん……? |
在坂 | ふふ、ははは……っ! 邑田が、すごく、綺麗に滑って転んで…… 在坂はあんな光景を、初めて見た……! |
邑田 | ……! |
在坂 | ふ、ふふ……っ! あははは……っ! |
邑田 | (本来ならば、山芋の皮なぞ放置した犯人を とっちめておきたいところでおあるが……) |
邑田 | (在坂のこの笑顔に免じて、 今回は特別に許してやろうかのう……!) |
邑田が在坂の笑顔を見ることに成功してからしばらく。
2人は、上層部からの司令を受けて、親世界帝派の
残党が潜んでいるという地区へ向かっていた。
邑田 | さて……連中はどこじゃろうか。 それらしき姿は見当たらぬが。 |
---|---|
在坂 | 狩りでは、辛抱強く獲物を待つものだ。 在坂は、弁当を持ってきた。邑田の分もある。 これを食べながら待とう。 |
邑田 | おお! 在坂はほんに優しいのう。 ならばさっそくいただくとしよう。 これは在坂が用意したのかえ? |
在坂 | いや、食堂の料理人に頼んだ。 在坂では、このような立派な弁当は作れない。 |
邑田 | そうかそうか。おお……立派なお重じゃ! 美味そうな弁当をもらえてよかったのう。 |
在坂 | ああ……。 だが、在坂は気がかりだ。 弁当をもらった時、料理人は恐れていたように思う。 |
在坂 | 在坂は自分ではよくわからない。 在坂の目は、そんなに怖いのか? |
邑田 | ……何を言う。 そなたの目は怖くなどない。 |
在坂 | だが、思い返してみれば邑田も、 最初に在坂と会ったとき、何か驚いた様子だった。 |
邑田 | む……確かにちぃとばかし驚きはしたが、 わしはそなたを恐ろしいと思ったことはないぞ。 そなたは心優しい、実によい子じゃからな。 |
邑田 | そなたの過去に何があろうとも、 目がちょっぴり人とは違おうと、関係ない。 わしは、そなたのことが愛しいのである。 |
在坂 | ……! |
在坂 | 在坂も……邑田のことは、大事だと思う。 |
邑田 | ほっほっほ。それは重畳。 |
2人が和やかに笑い合っていた時──
突如、大きな爆発音が轟く。
邑田 | 何事じゃ!? 在坂、急ぎ向かうぞ! |
---|
親世界帝派の残党 | …………。 |
---|---|
在坂 | ……見つけた、あそこだ。 |
邑田 | ……先ほどの爆音は、あやつらが仕掛けたものか。 こんな辺鄙な場所で爆発を起こしたのは、 対応にやって来た軍の人間を狙うためか……? |
邑田 | ここは、不用意に動くべきではないな。 さて、奴らをどのようにして捕らえるか……。 応援が来るまで、少し待とうかのう。 |
在坂 | 在坂は、すぐに動くべきだと思う。 在坂が先陣を切る。 邑田も続いて来てほしい。 |
邑田 | これ、待たぬか在坂。 連中がどんな仕掛けをしておるかもわからぬのだ。 突っ込むのは度が過ぎる無謀というものである。 |
在坂 | だが──。 |
その時、2人からあまり離れていない位置で、
2回目の爆発が巻き起こる。
先行しようと前に出ていた在坂の身体は、
爆風で吹き飛ばされてしまった。
邑田 | 在坂ッ!!! |
---|
邑田が急いで駆け寄る。
在坂は息をしているものの、
頭から血を流し気を失っていた。
邑田 | あやつら……。己が何をしでかしたか、 死を願う程の苦しみとともに思い知るがよい……! |
---|
邑田 | く、くくく……。 |
---|---|
親世界帝派の残党 | ……ッ! な、なんだお前は……!? |
邑田 | ……貴様ら、雪に咲く椿を見たことがあるか? |
親世界帝派の残党 | なんの話だ……! |
邑田 | 豪雪に耐え忍び、鮮やかに凛と咲き誇るその花は、 実に崇高なものなのじゃ。 凡人が易々と触れて汚すことなど、決して許されぬ。 |
邑田 | つまり……そなたらは、ここで終いじゃ。 |
邑田 | ──疾く、去ね。 |
数分後──。
兵士 | ──邑田殿、在坂殿! 爆発がありましたがご無事ですか!? |
---|---|
邑田 | こちらはすべて片付いた。 わしは、在坂をマスターのもとへ連れていく。 |
兵士 | お怪我を……? といいますか、あの…… これだけの人数の敵を、お1人で? |
邑田 | この程度、わしの敵にはならぬ。 |
邑田 | ……とはいえ、ちぃと頭に血が上って、 やりすぎてしまったかもしれんな。 もし生存者がいたならば、尋問を頼むぞ。 |
兵士 | は、はいっ……。 |
在坂 | …………。 |
邑田 | 在坂…… わしとそなたは、何の縁かこの時代まで銃として存在し、 そして、同じマスターのもとで共に貴銃士となった。 |
邑田 | わしが隣にいる間は…… そなたがこれ以上苦しまずに済むよう、守るからな。 ずっと、ずっと……守るからな……。 |
──邑田と在坂が士官学校に来るようになって、
しばらく経ったある日のこと。
邑田 | …………。 |
---|---|
主人公 | 【こんにちは】 【何を見てるの?】 |
邑田 | ああ、〇〇か。 ふふっ……そなたも外を覗いてみるとよい。 |
八九 | ……あれ、在坂。 なんでこんなとこいるんだ? 焼きそばパンとオムライスおにぎりならちゃんと── |
---|---|
在坂 | 在坂は、八九を迎えに来た。 |
八九 | はぁ……? パシったくせにかよ。 どういう風の吹きまわしだ……? |
在坂 | 八九が遅いからだ。 在坂が欲しいものが、なかなか届かない。 だから取りに来てやることにした。 |
八九 | あーそういうこと……はいはい。 俺の心配じゃねーんだよな、知ってた。 |
その時、ふと強い風が吹いて、
在坂の帽子が飛ばされてしまう。
在坂 | あ……。 |
---|---|
八九 | ……っと! おお、今の、ナイスキャッチじゃね? ほら、もう飛ばすんじゃねーぞ。 |
在坂 | ……! |
八九 | あっ……! い、今のはなんつーか、 別に、注意したとかじゃなくて、注意しろってことで! 生意気とかじゃねーから、怒るなよ……? |
在坂 | ……在坂は、八九に感謝している。 |
八九 | ……! そうかよ。 |
在坂 | 今日は風が強い。 在坂は、また帽子が飛んでしまう前に さっさと校舎の中へ戻りたい。 |
八九 | へ? あ、ああ、わかった! わかったから……引きずるなっ! |
邑田 | ……微笑ましい光景であったろう? |
---|---|
主人公 | 【2人は仲がいいみたいだ】 【なんだか和むね】 |
邑田 | ふふ……そなたもわかってくれるか。 そなたは、在坂と八九にも好意的であるしのう……。 |
邑田 | ……ところで。 そなたは……在坂の目を、怖いと思うか? |
主人公 | 【……?】 【怖くはない】 |
邑田 | ……ふむ。 いやはや、気持ちのいいぐらい真っ直ぐな眼じゃ。 |
邑田 | 戦争というのは、どれも多かれ少なかれ凄惨なもの。 中でも在坂が経験したのは、ひときわ過酷なものじゃ。 |
邑田 | だからこそ……貴銃士となり感情を持った今、 わしは、在坂に幸せになってほしい。 |
邑田 | そのためにわしは、 あらゆる恐ろしいことから、在坂を守ると決めたのだ。 ま、これはわしの勝手な誓いなのじゃがのう。 |
邑田 | ただ、わし1人では目が届かぬところもある。 ゆえに、よければそなたにも、 協力してもらいたいのだが……。 |
主人公 | 【もちろん!】 【喜んで協力する】 |
邑田 | うむ……! よい返事じゃ。 そなたがいれば、在坂も心強かろう。 |
主人公 | 【1つだけ、条件がある】 |
邑田 | 条件とな……? |
主人公 | 【邑田に、自分自身も大事にしてほしい】 【邑田も幸せでないと】 |
邑田 | …………。 ほっほっほ。 まさか、そんなことを言われるとはのぅ……。 |
邑田 | 覚えておくとしよう。 では、取引成立じゃ。 これからよろしく頼むぞ、〇〇。 |
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