これは、彼が悩み歩んだ言行録。
(貴銃士なら聞こえるはずの声が俺には聞こえなかった。ひょっとして、それは……)
──桜吹雪に盃を傾け、彼は現世の幸福と欺瞞に酔い痴れる。
いろは歌の意味を知ってるかい?
うん。難しいよな。俺も、あの境地にはまだまだ至れない。
まだ、現世に酔っていたいんだ。酔って、笑っていさせてくれ──
主人公名:〇〇
主人公の一人称:自分
──今でも時々、思い出すことがある。
緩やかに過ぎゆく時の中で、
ただ揺蕩っていたあの頃を……。
人の手の温もりなどとうの昔に忘れて、
誰の目にも触れぬ場所で、
俺は、静かな眠りについていた。
あの日……突然、温かい光に触れた気がして、
そちらへと手を伸ばすまでは──……。
十手 | 『──男! そこを動くな、曲者め!』 |
---|
──そうして、
俺は貴銃士として目覚めることになった。
十手 | はぁーっ…… これは、たまげたなぁ……。 |
---|---|
ラッセル | 周りが気になるのかい? 街の観察もいいが、はぐれないようにだけ注意してくれ。 |
十手 | いやぁ、何もかも違うもんで…… 道も、家も、人も……。 |
十手 | あ……す、すまない。 これじゃおのぼりさんだな。ははは……。 |
ジョージ | Hey! あんま気にするなって。 オレも色んなもん見てびっくりしてるぞ! |
十手 | えっ、ジョージ君もかい? |
ジョージ | ああ! 昔とはゼンゼン違うもんな! 馬車じゃなくて、車とか…… よくわかんないキカイとか……! Magical! |
ジョージ | 古銃から貴銃士になったヤツは、 みんなそうなんじゃないかな? あははっ! |
十手 | ……そうだよなぁ! いやぁ、ジョージ君みたいな優しい古銃の仲間がいて、心強いよ。 |
十手 | あ、そういえば……君たちと初めて会った時に、 『古銃は絶対高貴になれる』とか言っていたが…… 絶対高貴とは、結局なんなんだい? |
ジョージ | ん? 召銃された時に、声が聞こえただろ? |
十手 | 声……? |
ジョージ | 『Be Noble. 貴銃士よ、高貴であれ。 絶対高貴に目覚めよ──』って。 |
十手 | えっ……!? そんな声、聞こえなかったぞ……。 |
ジョージ | オレもよくわかんないけど…… マークスとかライク・ツーも何かの声を聞いたって言ってたし、 てっきりそういうもんかなって……。 |
十手 | そんな…… も、もしかして……これってまずいんだろうか? 俺だけ聞こえてないなんて……。 |
ジョージ | ん~……まぁ、召銃された時は 目覚めたばっかりで寝ぼけてて、 うっかり聞き逃しただけかもしれないし! |
ジョージ | そんなに心配すんなよ! 十手もいつか絶対高貴になれるさ! |
十手 | あ、ああ……。 |
十手 | (けど、貴銃士なら普通聞こえるはずの声が 俺には聞こえなかった) |
十手 | (ひょっとして、それは、俺が……) |
──〇〇と十手が日本を訪れるより前、
士官学校にて。
十手 | おーい、〇〇君! |
---|---|
十手 | これ、さっきの調理実習で作った“まふぃん”という 菓子なんだが、よかったら── |
生徒 | わっ! |
廊下の角を曲がってきた生徒が、
十手の背中に勢いよくぶつかった。
生徒 | あ! すみません、ちゃんと前を見てなくて……! 失礼しました! |
---|---|
十手 | おーい、待ってくれ。 この筆記具は、君のじゃないか? 落としたぞ! |
生徒 | あっ……! すみません、そうです! 助かった……筆記用具を忘れて授業に行ったら、 教官に呆れられるところでした……。 |
十手 | いやいや、気付けて良かったよ。 |
生徒 | あ……! あ、あの! もしかしてあなたは、貴銃士様ですか!? |
十手 | えっ? ああ、まぁ……。 |
生徒 | 僕、大ファンなんですよ!! うわぁ! 会えて感激です!! |
生徒 | 貴銃士ってことは、 絶対高貴になれるんですよね!? 僕、一度この目で見てみたくて!! |
十手 | ……っ! |
主人公 | 【ええと……】 【簡単に使えるものでは……】 |
十手 | あ……はは、いいよ、〇〇君。 俺から説明する。 |
十手 | その、俺はまだ、なんだ……。 恭遠教官が言うには、すぐになれる貴銃士もいれば、 きっかけがあるまでなれない貴銃士もいるらしくて。 |
生徒 | そうなんですか……!? それで、なれない原因ってたとえば── |
主人公 | 【急がなくていいの?】 【授業に行く途中では?】 |
生徒 | あっ、そうでした! つい話に夢中になって…… では、また! 今度絶対高貴の力をぜひ見せてくださいね! |
十手 | ……はぁ。 |
---|---|
主人公 | 【大丈夫?】 【あまり気にしないで】 |
十手 | いや、〇〇君に気を遣ってもらうほどでは…… なんて、そう言っても君は気にするか。 |
十手 | その、いつも……みんなのことを考えるんだ。 ジョージくんは貴銃士になってすぐに絶対高貴に目覚めて 大活躍している。 |
十手 | マークス君とライク・ツー君も、 諸刃の剣と言えるかもしれないけれど…… 絶対非道という強大な力を駆使して、人々を守っているね。 |
十手 | ……俺はというと……戦いではろくに役に立てないし、 古銃の貴銃士のくせに、絶対高貴にもなれない。 |
十手 | 君に負担をかけているだけの、ただ飯ぐらいの役立たずだ。 もしかしたら…… 俺は、元の十手に戻った方がいいのかもしれないな。 |
主人公 | 【そんなことない】 【いつも助けてもらってる!】 |
十手 | 〇〇君……かたじけない……。 けど……。 |
十手 | …………。 さっきの子が言っていたように、 早く絶対高貴にならないとな……。 |
桜國幕府に招待された〇〇と十手は、
日本へ向かうために、連合軍の空港へ移動していた。
十手 | この車……いつもの車とほとんど同じに見えるが、 乗り心地は天地の差だな……! |
---|---|
十手 | こんないい車を寄越してくれるほど、 俺たちの日本行きに期待がかかってるんだろうなぁ。 |
十手 | ああ……早く日本の地を歩いてみたい。 日本の風を、この身に受けてみたいもんだ。 |
十手 | 一体どれくらいで着くんだろうか……。 あ、忘れ物なかったかな……? |
主人公 | 【珍しくソワソワしてる……】 【日本を離れてから長いの?】 |
十手 | すまない、日本に戻るのは150年ぶりくらいだから、 久しぶりの帰郷が嬉しいやら不安やらで……。 |
十手 | コレクションとして扱われていた頃は、 売られ、買われ、譲られ──誰かから誰かに渡り…… といったことを繰り返してたんだ。 |
十手 | そこからなんの因果か海を越え…… 『江戸時代の十手鉄砲』として、 若きクレマン・ド・リリエンフェルトの手に渡ったのさ。 |
十手 | で、そのあとは……100年ほど、 収蔵庫で眠り続けていたらしい。 |
十手 | 君が貴銃士として目覚めさせてくれなければ、 きっとあのまま収蔵庫で朽ちていただろうなぁ。 |
主人公 | 【ラッセル教官のファインプレーだった】 【偶然だけど召銃できてよかった】 |
十手 | 【ラッセル教官のファインプレーだった】 →ははっ、そうだな。 落とされたことに感謝しないとだ。 【偶然だけど召銃できてよかった】 →〇〇君にそう思ってもらえているなら…… 嬉しいことこの上ないよ。ありがとう。 |
十手 | とはいえ……今までがそんな感じだったから、 現代の日本の知識は、まったくないんだ。 きっと、驚きの連続だろうなぁ……! |
十手 | せっかくだし、観光なんかもできるといいな。 君に、盆栽や日本庭園なんかも見せてあげたいんだ。 |
主人公 | 【ボンサイ?】 |
十手 | 知らないかい? 盆栽は、盆栽鉢っていう小さめの容器で、 松や苔なんかをこう、じっくり育ててね……。 |
十手 | ……あ、いや……やめておこう。 盆栽は、かなり渋い分類の趣味だ。 君みたいな学生さんは興味ないだろうから……。 |
主人公 | 【興味深いと思う】 【詳しく教えてほしい】 |
十手 | えっ……そ、そうかい? なら、盆栽の何が魅力かって話してもいいかな。 |
十手 | そもそも盆栽は、俺の前の持ち主の趣味だったんだ。 趣味といっても、最初は儲けようと思って始めてね。 |
十手 | 一級品の盆栽にはものすごい高値がつくから、 そんなものを拵えてやるぞと一念発起して 有り金はたいて苗を買っちゃって……。 |
十手 | カラタチバナっていう正月の縁起のいい── ……あ、こんな話ばかりじゃいけないね。 もっと君が楽しい話によう。 |
---|---|
主人公 | 【十分楽しんでるよ】 |
十手 | ええっ、本当かい? でも、地味な話だよ。 聞いても楽しくないだろうし…… 無理に付き合わなくても……。 |
主人公 | 【無理はしてない】 【続きを聞かせてほしい】 |
十手 | そこまで言うなら……。 それでそのカラタチバナってのは葉の斑の入り方が いかに美しいかってのが価値になるんだけど、俺の── |
十手 | いや、でも……やっぱり…… こんな話はつまらないと思うから……。 |
主人公 | 【大丈夫!】 |
十手 | ……本当かい? なら── |
十手 | いや、やっぱり……。 |
主人公 | 【大丈夫だって!!!】 |
十手 | えっ! は、はい! |
十手 | それじゃ、品評会での話を── |
──〇〇と十手が日本訪問を終え、
士官学校に戻ってきたあと。
十手 | いやぁ、すっかり春だな……。 春と言えば── |
---|---|
八九 | 新作ゲームの発売時期だな。 |
十手 | はは、それは年中じゃないのかな──んぐっ!? |
八九 | ……!? おい、邑田!? 一体何を── |
在坂 | 在坂は、八九を捕まえる。 |
八九 | はぁ? っておい、離せ……! |
邑田 | ほっほっほ、無駄な抵抗はやめい。 大人しくわしらについてくれば、 悪いようにはせんからのう……。 |
十手 | これは……立派な桜だ……! |
---|---|
八九 | おおお……こんな街中の公園に 桜並木があるとはな……! |
邑田 | うむ、いかにも。 かように見事な桜があるならば、 花見をせぬわけにはいかんだろう? |
在坂 | 3日後に、キセルが来校予定だ。 歓迎のために日本の行事を利用する…… という名目なら、在坂たちの主張も通るはず。 |
邑田 | 今日も「下見」という名目で 外出許可をもぎ取ったことであるしのう。 |
十手 | はは……なるほど、それはいい考えだ! ぜひ参加させてもらいたいよ……! |
八九 | はぁ、そうかよ。 ならあんたらだけで楽しみな。 俺はゲームするからパ── |
邑田&在坂 | …………。 |
八九 | ……ハイ、スンマセン……。 |
──3日後。
キセル | おおっ!? こいつは立派な桜だなァ! それに……お重に酒まで用意されてるときた。 |
---|---|
十手 | はは、いいだろう? 邑田君と在坂君、 それに〇〇君の提案なんだよ。 |
キセル | 異国英吉利の街並みを背景に、 桜見ながら飲んで食ってってか! ったく、こりゃまた粋だねェ! |
邑田 | して、八九。 紅ほのかは入っておるのじゃろうな? |
八九 | はぁ……こっちにあんだろ! あんたがしつこく言ってたから、 いっぱい持ってきてやったんだよ! |
在坂 | 八九が夜からの場所取りで疲れていないか、 在坂は心配だ。 |
八九 | いや、誰がんなことするか! シート張って「使用予定だから近づくな」って 張り紙しとくだけで、十分だったっつーの! |
キセル | おい、十手! 今日はとことん飲むぞ! ほら、盃出しな! |
十手 | えっ? 飲むのかい? 〇〇君の前で酔っ払うのは ちょっとなぁ……。 |
キセル | 何言ってやがんだ! こんなにキレイな桜の前で飲まねぇたぁ、 花に失礼ってモンだぜ! |
十手 | ええ……。 |
十手 | ……でも、確かにその通りか! よーし、俺も飲むぞっ! 一杯頼むよ! |
キセル | よしきたァ! |
在坂 | 在坂は、とても腹をすかせている。 ……どれも、美味い。 |
八九 | あ、おい! それ俺のウィンナーだろうが! |
邑田 | ほっほっほ、よいではないか。 それより八九、盃が渇いておるぞ。 ほれ、わしが注いでやろう! |
八九 | いや、俺飲まねぇよ! この酔っ払いめ! くそ、早く帰りてぇ……。 |
キセル | ははっ……くーっ! つまみが美味いと、花見酒も格別だなァ! ほら十手も、もっと飲みな! |
十手 | ああ! ん~っ、美味いな~! はぁ~~、まったくいい心地だ! |
十手 | 〇〇君、楽しんでるか? いっぱい食べてるか~? あははははっ! |
主人公 | 【楽しんでるよ】 【美味しいね】 |
十手 | よかったぁ…… 〇〇君に喜んでもらえるのが、一番だ! 俺は、そのためにいるんだからなぁ……。 |
十手の手にしていた盃に、
ひらりと桜の花が舞い落ちる。
十手 | おお……ははっ。 風流だなぁ……! ああ、風流だ……! |
---|
十手 | ──ん? 〇〇君じゃないか。 どうしたんだ? |
---|---|
主人公 | 【これを見せたくて】 |
十手 | これって……ノートかい? なになに? タイトル、BONSAI…… |
十手 | ……! 盆栽について、まとめてある……!? これは、〇〇君が書いたのか!? |
十手 | 盆栽の歴史、盆栽の種類、盆栽の育て方…… これだけの情報をまとめるなんて、すごいな! |
主人公 | 【十手の話が興味深かったから】 【盆栽について理解したかったから】 |
十手 | それで、ここまで……! いやぁ、本当によく書けてるよ。 盆栽のついての基礎知識は、ばっちりだな……! |
十手 | 知識を得たなら、次は実際に育ててみるといい! 育てる過程で、また新しい発見があるはずだ。 |
主人公 | 【育てやすいものはあるかな?】 【十手のおすすめは?】 |
十手 | そうだな……初心者なら王道かつ定番の松や、 真柏(しんぱく)あたりだろうか。 常緑樹だから、年中葉の付いた状態を鑑賞できるよ。 |
十手 | ああ、でも華やかさを楽しめる梅や桜、藤とか…… 季節の移り変わりが葉の色の変化で楽しめる紅葉とかも いいかもしれない。 |
十手 | それぞれに魅力があるから、 自分の好みのものを選ぶといいよ。 |
十手 | ……こんな風に話していたら、 俺も盆栽をやりたくなってきたな。 でも、いつまで育てられるかわからないし── |
主人公 | 【一緒にやろう】 【2人で協力すれば大丈夫】 |
十手 | えっ、いいのかい? だったら……! |
十手 | あっ! いやいやいや。 無理しなくてもいいんだよ! |
十手 | 俺に気を遣って提案してくれたんだと思うけど、 育て上げようと思ったら、豆盆栽でも2年くらい、 小品盆栽では3年もかかるんだ。 |
十手 | もし途中で俺がいなくなったら…… 俺の分まで、長い間、君ひとりで 面倒を見なければいけないことになる。 |
十手 | そんな苦労はかけられないさ。 こんなおじさんの都合に 若い君が付き合う必要はないんだよ。 |
主人公 | 【気にしないでほしい】 【自分自身がやりたいから】 |
十手 | ほ、本当かい……? 君がそこまで言うなら……やろう! |
十手 | ……ははっ。 君は本当に、優しい子だなぁ……。 |
十手 | それじゃあ…… どんな盆栽を育てるか、一緒に決めようか。 |
Protected by reCAPTCHA and the Google Privacy Policy and Terms of Service apply.
まだコメントがありません。