これは遠い記憶の欠片。ドイツでの、彼らの物語の前日譚。
連合軍ドイツ支部にて、特別指揮官として辣腕を振るうドライゼ。
傍らに立つエルメと彼は、互いに秘密を握り合う。
「己の弱さを抑え込み、日々鍛錬を──」
私が知覚するモノは、一体何処までが真なのか。世界は容易に反転し、血に塗れた虚実が私を苛む。
私は、まだ私(ヒト)であるか。
答えは出ず、じっと手を見る。
主人公名:〇〇
主人公の一人称:自分
これはまだ、〇〇が
『おじさん』に会うために
ドイツへと向かうより前の、ドイツ軍の話──。
ドイツ支部兵士 | このような過酷なやり方では兵がついていけません! もう少し、段階を踏ませていただきたく──。 |
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ドライゼ | ……私は、方針を変えるつもりはない。 あの程度の訓練をこなせないようでは、 実戦で使い物にはならない。 |
ドイツ支部兵士 | で、ですが……! |
ドライゼ | 貴様は戦場を知らんのか? 銃弾が飛び交い、血肉と汚泥にまみれた、本当の戦場を。 |
ドライゼ | 生半可な訓練では駄目だ。 貴様らは訓練など天国の出来事だったと戦場で知り、 そして死んでいくことになるぞ。 |
ドイツ支部兵士 | ……っ! |
エルメ | ……ちょっといいかな。 君は少し誤解しているみたいだ。 ドライゼは君たちに期待を寄せているんだよ。 |
エルメ | 絶対にこなせないような訓練内容を課したりはしない。 君たちの力を最大限に伸ばそうとしているんだ。 まぁ、ちょっと言葉が足りなすぎだけどね。 |
エルメ | ドライゼの本心がわかれば、 兵たちの士気も少しは上がるかな。 |
ドイツ支部兵士 | は、はい……! 隊の仲間に、今のお言葉を伝えてきます……! |
ドライゼ | ……すまない。 間に入ってもらい、助かった。 |
エルメ | これくらい、なんてことないんだけどさ。 もう少し上手くやってみたら? |
エルメ | 人間って、感情の生き物だからね。 それに配慮する言葉を使いながら扱った方がいいよ。 |
ドライゼ | ああ……そうだな。 |
ドライゼ | (エルメはやはり、人間をよく観察している。 俺も、指導者として見習わなければ──) |
──数日後
ドライゼ | エルメ、今日の訓練だが…… 命中率が急に低下していたな。 お前らしくもない。 |
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エルメ | あ、ああ……。 次からは、気を付けるよ……うん。 |
ドライゼ | ……? |
ドライゼ | 次はお前の番だ。 銃を構え──エルメ? 何をしている? |
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ドライゼ | そんな構え方で、的に当てられるわけがないだろう。 訓練中に気を抜くな。 事故の元だ。 |
エルメ | ああ……そうだね……。 えっと──。 |
ドライゼ | …………。 |
ドライゼ | おい、エルメ! なぜ銃の手入れを怠った!? あやうく大事故につながるところだったぞ! |
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エルメ | …………。 |
ドライゼ | 聞いているのか!? 大体近頃のお前は……! |
エルメ | ……うっ……。 |
ドライゼ | ……っ!? エルメ! おい、しっかりしろ……! |
ドライゼ | くそっ…… 待っていろ、人を呼んで──。 |
エルメ | ……っ! それは、ダメ、だ……。 少し、横になれば平気だから…… このことは、誰にも言わないでほしい……。 |
ドライゼ | …………。 わかった……とりあえず、部屋に運ぶぞ。 |
ドライゼ | おい、エルメ。体調はどうだ? |
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ドライゼ | …………。 |
ドライゼ | (……物音一つしない……。 まさか、中で倒れて……!?) |
ドライゼ | 入るぞ! |
エルメ | …………。 |
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ドライゼ | …………。 |
ドライゼ | ──なんだそのだらしない格好はッ!! |
ドライゼ | 床で寝るな! きちんと服を着ろ! 来客対応ぐらいしろッ!! |
エルメ | はぁ、放っておいてよ……。 俺はただ……冷たい床と一体化して…… ただの鉄であることを味わっていたいんだ……。 |
ドライゼ | なっ……! そのような情けない姿が 許されるとでも思っているのか! |
エルメ | …………。 |
ドライゼ | ……ッ! 勝手にしろ! |
ドライゼ | (エルメの奴……もう夜だというのに、 あれからまるっきり部屋から出てこない…… 食堂にも現れなかった) |
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ドライゼ | (……様子を見るのは、これで最後だ。 日ごろの恩があるとはいえ、これ以上の介入は……) |
エルメ | ……のど、乾いたな。 腹も減ってきたし……。 まぁ、いいか……。 |
ドライゼ | お、お前は……まだそんなだらけた格好で! まずは服を着替えろ! その間に食事を持ってくる! |
エルメ | えー……面倒だよ……。 |
ドライゼ | いいから言われた通りに動け! ほら服だ! 早く着ろ! |
エルメ | ふ……ははっ。 ドライゼは……なんだかんだ、お人好しだよね。 ……ありがとう。面倒だし、ついでに着せるところまで頼むよ。 |
ドライゼ | なっ……!? |
ドライゼ | (……これが本当に、 あのエルメなのか……!?) |
ドライゼ | 馬鹿を言っていないでさっさと動け! |
ジーグブルート | ……そこかぁっ! |
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アウトレイジャー | グァ……! |
ジーグブルート | ヘッ……、楽勝だぜ。 |
ドライゼ | おい、何を1人で突っ走っている! 陣形を崩すな! |
ジーグブルート | あ? 俺に指図するんじゃねぇ。 のろまなお前らに合わせろっつーのかよ。 |
ドライゼ | だから前に出すぎるなと……くっ!? |
アウトレイジャー | ……殺ス……。 |
ドライゼ | アウトレイジャー……! |
アウトレイジャー | 撃ツ……殺ス……。 |
エルメ | 俺に任せて。 |
ドライゼ | エルメ……! ……すまない、助かった。 |
ジーグブルート | ハッ! 人にああだこうだと文句言っときながら、 やられそうになってちゃ世話ねぇな! |
ドライゼ | ……! 元を辿れば、貴様の浅慮が原因だろう! |
ジーグブルート | ぐっ……! てめぇ……! 何すんだ! |
ドライゼ | おい、エルメ。急ぎ戻るぞ。 この命令違反者は、お前に任せる。 |
ドライゼ | また独断で動かないように、見張っていろ。 絶対に目を離すな。 |
エルメ | はいはい、わかったよ。 |
エルメ | ほら、立てる? |
ジーグブルート | クソッ……! おい待て、でくのぼう! お返しに俺からも一発喰らわせてやるよ! |
エルメ | それは俺の責任なっちゃうから、困るな。 ここは大人しくしといてよ。 |
エルメ | 今日の君は、ちょっとやりすぎだった。 これ以上、あまりドライゼを困らせないようにね。 |
ジーグブルート | ハッ……あれくらいで“やりすぎ”とはな。 てめぇらに合わせてたら、倒せるもんも倒せねぇよ。 |
エルメ | うーん。 その様子だと、まったく懲りてないみたいだね。 帰ったらお説教だから、そのつもりでいてよ。 |
ジーグブルート | どいつもこいつも、俺に盾突きやがって……。 俺は誰よりも敵を殺してるだろうが……! |
ジーグブルート | 俺は悪くねぇ……。俺は最高の成功作だ。 あのグズどもに合わせるなんざ、死んでもごめんだ……! |
ドライゼ | ──本日の作戦にて、 旧市街地区を拠点としていた親世界帝派を殲滅。 投降し捕虜となった者たちの輸送も完了した。 |
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ドイツ支部上層部 | 了解した。では、次の指示は追って出す。 それまで待機だ。 |
ドライゼ | ……そのことで、1点提案がある。 |
ドイツ支部上層部 | ──なんだね? |
ドライゼ | このまま戦局を長引かせるよりも、 奴らの拠点を見つけて先回りし、 こちらから攻めるべきではないだろうか。 |
ドイツ支部上層部 | 否、今はまだその時ではない。 指示を待て。話は終わりだ。 |
ドライゼ | だが、それでは……くっ! |
ドライゼ | なんと愚かな……! 今、徹底的に叩かねば…… いらぬ消耗をするだけだというのに! |
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ドライゼ | あの連中というのは、 なぜ後手に回るような真似しかしないのだ……! |
ゴースト | ドライゼ……残念だったな。 |
ドライゼ | ん? ……いたのか、ゴースト。 |
ゴースト | ああ、うん……。 言われると、思った……。 会議の最初っから、すぐ近くに、いたんだけど……。 |
ゴースト | ……はぁ。悪気なしで言っとるのがわかる分、 余計に言葉のナイフがキレッキレやわ……。 |
ドライゼ | ……? 何をブツブツ言っている。 聞こえんぞ! |
ゴースト | ああ、いや……。 ドライゼが、気の毒……だなと、思ったんだ。 兵士たちやら市民のために、最善の方法を考えたのになぁ……。 |
ドライゼ | ……だからなんだ? 無駄口をたたく時間があるなら、鍛錬に打ち込め。 |
ゴースト | いやいや、ただ……。 『昔のドライゼみたいに』頑張ってるのに、 お偉いさん方はひどいなぁって慰めてるんだ。 |
ドライゼ | ……! |
ドライゼ | ……俺にそんな慰めは必要ない。 今後、くだらん用事で話しかけたら貴様を罰する。 いいな! |
ゴースト | ……おお、こわ。 ドライゼはホンマに、クソ真面目で高潔で潔癖やなぁ。 |
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ゴースト | 哀れすぎて、涙ちょちょぎれるどころか…… 笑いが止まらんくらいや……ククッ! |
エルメ | みんな、本当にご苦労さま。 君たちが死力を尽くし奮闘してくれたおかげで、 連合軍ドイツ支部は、敵拠点の殲滅に成功した。 |
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エルメ | さて。ドライゼからも何かあるだろう? 彼らはこんなに── 泥と血にまみれて戦ってくれたんだから、さ。 |
ドライゼ | ……っ! |
兵士 | ドライゼ特別司令官……! |
ドライゼ | …………。 ここまで、よく戦ってくれた。 お前たちの働きに感謝する。 |
兵士たち | はいっ……! |
ドライゼ | ……以上だ。 速やかに基地へ戻って──。 |
エルメ | 待ちなよ、ドライゼ。 みんな、君の話をもっと聞きたがっているよ。 |
エルメ | そうだな……『鉄の掟』の話なんてどうだい? |
ドライゼ | いや、今は……。 |
エルメ | 君たちも聞きたいだろう? |
兵士たち | ぜひ! |
ドライゼ | ……いいだろう。 |
ドライゼ | …………。 |
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ドライゼ | ──誇り高きドイツの兵士である以上、 己の責務に常に忠実であれ。 |
ドライゼ | 仲間と、守るべきもののために、 恐れに呑まれず戦場に立ち、 敵に立ち向かうことが誉であると知れ。 |
ドライゼ | 備えを怠らず、上官の命に服従し、 軍規を乱さず、常に冷静を保て。 |
ドライゼ | 己の弱さを抑え込み、日々鍛錬に励むこと。 ──真の強さは、その先にしか存在しない。 |
兵士たち | Jawohl! |
姿勢を正して敬礼した兵士たちから、
わずかに泥が跳ねた。
ドライゼ | ……ッ! |
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エルメ | ふふ……顔色が悪いね。 大丈夫? |
ドライゼ | あ、ああ……。 |
エルメ | ……あっ、そっか。 彼らの傷の治療が気になったんだね。 うっかりしていて悪かったよ。 |
ドライゼ | …………! そうだな……各自、回復に努めるように。 エルメ、あとは任せた。 |
エルメ | ふふ……。 |
エルメ | ──全員の治療が終わったよ。 兵舎へ戻るように指示しておいた。 |
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ドライゼ | そう、か……。 |
エルメ | 酷い顔色だよ。気分が悪いなら、 いっそ、吐いちゃった方が楽になるんじゃない? |
ドライゼ | くっ……。大丈夫だ……。 |
エルメ | 君って本当に不器用だなぁ。 そんなにキツイなら、 さっさと切り上げることだってできただろう? |
ドライゼ | ……すまん……。 |
エルメ | 謝ることなんてないよ。 |
ドライゼ | だが、俺は……。 |
ドライゼ | ……っ! 俺は、なんて奴だ……! あんなにも懸命に戦ってくれた部下に対して……! |
ドライゼ | 『血と泥にまみれている』というだけで……! こんな……! くそっ……! |
エルメ | …………。 ドライゼがそう思うのなら……。 |
エルメ | 自分が汚れることへの抵抗感を 克服できるように頑張らないとね。 『部下のためにも』さ。 |
ドライゼ | ……そうだな。 助言、感謝する……。 |
エルメ | どういたしまして。 ……ふふっ。 |
時は流れ──ドライゼとエルメが、
フィルクレヴァート士官学校を訪れるようになってからのある日。
ドライゼ | マスター。今、いいだろうか? |
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主人公 | 【大丈夫だよ】 【もちろん】 |
ドライゼ | ……学習中だったか。すまない。 |
ドライゼ | 実はだな……エルメのやつが、その。 また、例の日、なのだが……。 |
主人公 | 【なるほど……】 【……なぜ自分に声を?】 |
ドライゼ | ……今回は、俺の手に負えなくてな。 マスターの力も借りたいんだ。 |
ドライゼ | やつは今……「レバー料理しか口に食べたくない」(※) などと言い出していてな……。 |
ドライゼ | だが、俺には……その、心得がない。 だから事情を知っているマスターに、 こうして声をかけた次第だ。 |
ドライゼ | 悪いが、俺の代わりに レバー料理を作ってはくれないか。 |
主人公 | 【頑張ってみる】 【力になれるなら嬉しい】 |
ドライゼ | すまない……助かる。 |
※おそらく「口にしたくない」と「食べたくない」の混同。今後修正されると思います。
ドライゼ | さすがに、ちょうどよく レバーがあるわけもない、か……。 |
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ドライゼ | 仕方ない。 まずは買い出しに……。 |
ペンシルヴァニア | ……もしかして、レバーが必要なのか? |
ドライゼ | ……? ああ、そうだが……。 |
ペンシルヴァニア | なら、ちょうと良かった。 これを使ってくれ。 |
ドライゼ | ……っ!? |
ペンシルヴァニア | つい先ほど、鹿を狩ったところでな。 全部使ってもかまわない。 |
ドライゼ | 恩に着る……! |
主人公 | 【調理開始しよう!】 |
ドライゼ | 俺も、補佐ぐらいならできるはずだ。 |
ドライゼ | ふむ……ようやく完成が見えてきたな。 俺だけでは、こうはいかなかっただろう。 |
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ドライゼ | これまでも、エルメの世話をしていて 1人ではどうしようもないことがいくつもあった。 |
ドライゼ | だが、こうして信頼できる者の手を借りられるというだけで、 気持ちも効率も、こんなに変わるとは……。 |
主人公 | 【1人だと色々大変そう】 【これからも手助けするよ】 |
ドライゼ | フッ……ああ、そうだな……。 |
ドライゼ | おい。 要望通り、レバー料理を持ってきたぞ。 マスターにも手伝ってもらった。礼を言え。 |
---|---|
エルメ | へぇ……、なるほど。 マスターも手伝いを……。 |
エルメ | ふぅ……うーん。 せっかく作ってくれたとこ、悪いんだけどさ…… 噛むのも面倒だし、ペースト状にしてくれる? |
ドライゼ | ふん、 そんなこともあろうかと、 レバーペーストもあらかじめ作っておいた。 |
エルメ | ……わお。 わすがだね……。 |
ドライゼ | 当然だ。 備えは怠らないようにしているからな。 |
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