【許され得ぬは誰の行い】グラース

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解説

カード解説

パリの市街に雨が降る。彼は歴史が嫌いだ。だからこそ腹が立ったのだ。
全てを捨ててでもこの怒りをぶつけるべきだと、腹の中の何かが叫んでいる。
──こいつには、こいつにだけは、歴史を繰り返させてなるものか。

心銃解説:尽きぬ嫉み、奪いし栄光

奪え。奪え。僕はそうして道を切り開き、全てを手に入れてきた。
それで、この手をすり抜けるものなど……あってはいけない。
あってはいけないんだよ。

カードストーリー

主人公名:〇〇
主人公の一人称:自分

Ep1. 繊細?な彼の対処法

十手う……くっ……うぅ……。
あいたたた……参ったなぁ……。
グラース──おい。とっとと歩け。
そんなとこで突っ立ってたら邪魔だろうが。
十手うわああっ!!
十手な、何をするんだいグラース君!
俺は今、前身が筋肉痛で動きたくても動けないんだよ。
グラース筋肉痛だと?
はん、鍛え方が足りないんだよ、おっさん!
グラース僕は昨日も今日も作戦で戦ってきたけど、
身体は絶好調だぜ。
このまま他の戦いに向かったっていいくらいさ。
十手それは頼もしい限りだけど……あいてて……!
──ん?
十手君の銃……ずいぶん泥がついちゃってるな。
汚れてるよ。
グラースああ……今日は雨上がりだったからな。
ちょうどいいから手入れするか。
十手それがいいね。
前にシャスポーくんから『白磨き』に
ついて聞いたことがあるよ。
十手フランスで流行した白磨きっていうのは、
あえて黒染めをしないことで、
その銃の美しさを保つらしいね。
十手銀細工のように輝く美しさといったら、
収集家にも人気だとか……。
君の銃も、磨けばそうなるんだろう?
グラースふぅん……。
あいつに聞いたって言うのは、
気にくわねぇけど……。
グラースま、フランス銃が美しいのは、当然だな!
グラースこれから僕が、さらに磨き上げるからな。
今度お前に最上の美しさを見せてやるさ。
十手ほう! 楽しみにしているよ。

タバティエール…………。
十手おや、タバティエール君。
銃の手入れかい。
十手──あれ?
だけど、その銃って……。
タバティエールああ、グラース銃だ。
十手え?
なぜ君が……。
タバティエールふっ……。
見てみな、ココ。

綺麗に白く磨かれたグラース銃だったが、
タバティエールが指差した箇所だけ、
少し土汚れが残っていた。

十手……もしや、磨き残し!?
タバティエールそーいうコト。
本人は認めたがらないだろうけど……
結構不器用なんだよな、あいつは。
タバティエール丁寧に磨いたつもりでも、
こんな風にちょっと汚れが残ってたりするんだ。
タバティエールとはいえ、直接磨き残しを指摘して
プライドを傷つけたら、癇癪を起こすだろうし……。
タバティエール放置して錆びたりしたら、
それはそれで、ちょいと気の毒だしな。
タバティエール言っても放置しても、
俺にとっては面倒な結果にしかならないし、
だったら俺がこっそり磨いちまおう、ってわけさ。
十手そういうことか……!
タバティエール君は仲間想いなんだねぇ。
タバティエールべっつに~?
そんないいもんじゃないぜ。
厄介事は、極力避けるに限る、ってだけだよ。
十手ふふっ……。
タバティエールさてと、お掃除完了っと。
あいつが帰ってこないうちに、
さっさとこいつを元の場所に戻すとするかね~。
タバティエールじゃあな、十手。Bonne nuit.
十手ああ、お疲れ様。
十手(グラース君に気づかれないように、こっそり
磨いてあげているなんて……仲間想い以外の
何者でもないぞ、タバティエール君)
グラース──また邪魔なところに突っ立ってるな。
十手うわっ!!
グラースグ、グラース君!?
今の話、聞いてたかい……!?
グラースあぁっ!? なんだよその反応は……
何か僕の話をしていたのかっ!?
十手ご、ごめんごめん。なんでもないんだ。
ははっ……!
グラースな、ん、だ、その腹が立つ言い方は!
僕の悪口でも言っていたらぶん殴るぞてめぇ!!
十手うわぁ……っ! ご、誤解だ!
助けてくれ、タバティエール君~!!

Ep2. 恐怖の一幕

グラース……ん?
なんだこのチビ。
カール…………。
グラース迷子か? どっかた入った。
ここはチビが来ていい場所じゃねぇぜ。
カール…………。
グラースおい。聞いてんのか?
カール……ボクのおとーさんが、この学校で働いてるの。
おとーさんに会いに来たんだけど、
どこにいるのかなぁ?
カールおにーさん、知ってる?
グラースはぁ? 僕が知るわけねぇだろ。
自分で考えろチビ助。
カールうーん……あ、思い出した。
ここで待ってろって言われたんだった!
グラースあっそう。じゃ、僕は行く。
カール待ってよ! おにーさんの持ってる銃、
かっこいいね! なんていうのー?
グラースハッ。僕を知らないなんて……これだからガキは。
僕はグラース銃。フランス生まれの華麗なる
ボルトアクションライフル銃さ。
カールこの先っちょについてる剣はなにー?

少年は、グラース銃の先端に取り付けられている
短剣を指で示す。

グラースガキのくせにこれに興味があるなんて、珍しいな。
銃剣だよ。
弾がなくなった時や白兵戦で、槍みたいにして使う。
グラース始まりは17世紀、フランスのバイヨンヌで起きた
農民同士の闘いから、偶然に発明されたらしいぜ。
グラース争いに興奮した農民が、マスケット銃の銃口に
ナイフを差し込んで、相手に襲い掛かった──とか。
よっぽど相手が憎かったんだろ。撃った上にぶっ刺そうとはな。
カールいや、銃と近接武器を組み合わせた武器は
16世紀にも存在していたよ。
カール例えばホイールロックピストルは、
剣、ナイフ、斧、メイス、スピアやクロスボウなどと
組み合わせて運用されることもあったんだ。
グラースえっ……?
カール専用の装備ではないから、
あまり使い勝手は良くなかったそうだがね。
物珍しい武器……程度の認識さ。
グラースな、なんだお前?
急に雰囲気変わっ──
主人公【カール!】
【待たせてごめん】
グラース……? 〇〇?
なんでお前が……え? お前がこいつの……
え???
主人公【カールは貴銃士だよ】
【ハプスブルク家のカール5世のピストル】
グラースカ、カール……!?
まさかお前があの、オーストリアの貴銃士……!?
カールうむ。
祖国では“死神皇帝”と呼ばれているよー。
グラース…………!!
カールこんなチビに、銃剣について詳しくご教授ありがとう。
国に帰ったら、フランスの貴銃士グラースは
とんだうつけ者だと国民に知らしめておくよ。
グラースなっ……!!!
カールではな。
グラースま、待てーっ!! 騙したな!!
卑怯だぞ!! 卑怯だぁぁぁぁ!!!

 

Ep3. 悲しみを繰り返さない

恭遠──では20分の休憩後、
次は違う隊列で訓練を行う!
グラースやあ、シャスポー。
さっきの演習では大活躍だったね。
シャスポー……!
言いたいことがあるなら、
はっきり口にしたらどうだい?
グラースいやいや、言葉の通りさ。
自分の注意力のなさで、
失敗しそうになったところを……。
グラースあろうことか、タバティエールに
助けてもらうなんて。
2人の素晴らし~い友情に感動したよ。
シャスポー…………。
グラースもしも僕が同じ目にあってしまったら、
恥ずかしくて顔から火が出てしまいそうだけど。
シャスポーくっ……!
グラースはは。僕のことを不真面目だのなんだの
よく言うけどさ……
お前だって足手まといじゃねぇか!
グラース所詮は僕の劣化品なんだよなぁ。
お前も金属薬莢を使えるように改造して、
僕みたいになればちょっとはマシになんじゃねぇの?
シャスポーお前──!
恭遠グラース!!!
恭遠冗談でもそんなことを言うんじゃないッ!!
グラース&シャスポー……!?
シャスポーシャスポー。そんな言葉を気にしてはいけない。
君は君……そのままでいいんだ。
シャスポーあ、ああ……?
恭遠今の自分に誇りを持って
鍛錬を積んでいけばいい。
早まるような真似は、絶対にするんじゃないぞ。
恭遠……では、演習再開まで休んでおくように。

グラース──おい。
昼間のアレ、なんだったんだよ。
恭遠……間違ったことを言っていると判断したから、
訂正しただけのことだ。
恭遠君の言うとおりにシャスポー銃を改造すれば……
そこに残るのはグラース銃だ。
グラースははっ。そりゃああいつが『僕』になるのは
気分わりーけど、あいつにとっては
型落ちのままよりかはマシなんじぇねぇの?
グラースだいたい、僕個人の好き嫌いの話は置いといて、
戦力的には、僕と同性能の銃が2挺になった方が
よっぽど役に立つだろ。
グラース戦力が上がりゃあマスターも喜ぶだろうし、
いいことずくめじゃねぇか! あははは!
恭遠だから……っ。
……いや。
恭遠…………。
グラース……おい、
なに気味悪い顔して黙ってんだよ。
グラース冗談だっての、バーカ。
僕が2挺になるとか、勘弁だね。
話すこと無いなら帰るぜ? じゃあな!
恭遠……俺としたことが、
感情的になってしまった……。
恭遠だが……あのことは、どうしても……。
俺の中でも、未だに整理がついていないんだ……。

Ep4. ちくわが弱点!?

恭遠──であるから、こういった時の
正しい対処法は──。
グラース(はぁ、つまんな……
無駄だよなぁ、この時間……)
グラース(こんなの、後で他のヤツの取ったノートと
教科書見れば理解できるし……)
グラース(っていうか……)
邑田ふぅ……。腹が減ったのぅ……。
グラース(すげぇ腹の音。どんだけ腹減ってんだよ)
邑田のう、そなた。
なにか食料を持ち合わせてはおらぬか?
グラース……は? 僕?
いや、持ち歩いてるわけねぇだろ。
邑田そうか……仕方ない。
ならばこの非常食を、食すとするか。
グラースいや、なんだよソレ!
邑田知らんのか? ちくわだ。
では、頂戴する。
グラースは、はぁ~っ!?

邑田は懐から棒状の物体を取り出し、
むしゃむしゃと食べ始めた。

恭遠──となる。
では今から、その一例をあげて──。
邑田……うむ、うまし。
この適度な歯ごたえがたまらんな。
邑田う~む、止まらん。
はむはむ……もぐもぐ……。
グラース(じ、授業中にこんな堂々と……!
こいつ、正気か?)
グラース(しかし……なんていうか……
この光景は……
妙にぞわぞわして、見てらんねぇような……)
グラース(それにどこか、見覚えがある……
……っ!! そうだ!!)
グラース(グラース銃は晩年、銃身が短く切り落とされて
擲弾発射器(てきだんはっしゃき)に改良されたものも
多くあった……!)
グラース(ちくわが食べられていく様子が、
あの時の……銃身を切り落とされる恐怖を
思い起こさせるんだ……!!)
在坂──在坂も空腹だ。
腹を満たすために食事をしよう。
邑田ああ、ちくわならまだある。
思う存分食すといい。
在坂銃身と似てるが、鉄の味はしない。
鉄みたいに硬くないので、
在坂は噛み切りやすい。
グラース銃身……お、おい! やめろ!
在坂このふにゃふにゃな姿は、
高温にさらされて溶けた銃身のようで
在坂に哀愁を感じさせ──。
グラースだから……やめろって言ってるだろ!
僕の前でちくわを食うな~!!

こうして、授業中に響き渡った
グラースの叫びにより──。

かのグラース様の弱点はちくわ、
という不名誉な噂が、
士官学校内で広まってしまうのだった。

Ep5. ルベル紛失事件

タバティエール〇〇ちゃんも、大変だな。
作戦から戻ってきて、すぐ授業なんて──
ラッセル〇〇君!
──おや、タバティエールも一緒か。
これはちょうどいい。
ラッセルタバティエールは、
ルベルというフランスの銃を知っているかい?
タバティエールおう、もちろん。
それがどうかしたのか?
ラッセル実はそのルベルが手に入ったんだ。
理事長は召銃を試みてはどうかとおっしゃっている。
ラッセル早速、受け取りに行ってくれ。
応接室に持ってきてもらってるから。
タバティエール……ルベル、か……。
そいつはまた、面倒なことにならなきゃいいんだが……。
主人公【……タバティエール?】
【どうかした?】
タバティエールいいか?
ルベルのこと、
グラースにだけは、絶対に知られるなよ。
主人公【いいけど……】
【どうして?】
タバティエール……今は……何も言えない。
証拠はないからな……。
タバティエールとにかく、早いとこ、
ルベルを受け取りに行ってやんなよ。

???……ルベル……。

主人公【失礼いたします】
【ルベルを取りに来ました】
ゾーイええ、それでしたらこちらに──あらっ!?
ゾーイな、ないわ!?
さっきまでここに保管していたのに!?
ゾーイ嘘でございましょう……!?
一体なぜ……!
ゾーイい、一緒に探しますわよ!
銃がひとりでに動いて消えるわけありません。
きっと見つかるはずですわ……!

──後日。

タバティエールおっ、〇〇ちゃん。
おはよう。調子はどうだい?
主人公【ルベル、見つからなかった】
【ルベルの行方を知ってる?】
タバティエールあー……。そうか……。
タバティエール俺が言ったこと、気にしてるんだな。
……いや、俺もはっきりしたことは言えないんだが……。
タバティエールフランスにいた頃、似たことがあった。
レザール家が取り寄せたルベルが、
ある日幻みたいに消えちまったんだ。
タバティエールこれはただの勘にすぎないから、
何も確証はないんだが……。
俺は……グラースが、関わってるんじゃないかと思ってる。
タバティエールグラースがルベルを恨んでるのは確かだ。
ルベルの出現によって、
グラースが旧式化したわけだからな。
タバティエールシャスポー銃の弱点を克服したって、
華々しく活躍したグラース銃だったんだが……。
タバティエールルベルは……一気に時代を進めるくらい画期的でな。
グラース銃が10年ちょっとの短い期間で、
旧式扱いされるようになった原因の1つだ。
タバティエールだから、ルベルが貴銃士になることを
グラースが阻もうとしている……
その可能性はなくはないんじゃないかとな。
グラース──おい、2人して何を話しているんだ?
タバティエールうわっ!!
タバティエールグラース!?
い、いや、別になんでもない!
なっ? 〇〇ちゃん!
主人公【……う、うん!】
【なんでもないよ!】
グラースそう?
暇ならさ、3人でお茶にでもしようぜ。
タバティエールあ、ああ。
じゃあ、食堂か中庭に行くか……。
グラース……フッ……。
グラース(ここにルベルなんて必要ねぇんだよ。
永遠に、な……はははっ!)

──その後、『消えたルベル』の話は、
学園七不思議の一つとして
数えられるようになったのだった……。

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