【パリジャンの午後】グラース

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解説

カード解説

これは遠い記憶の欠片。フランスでの、彼らの物語の前日譚。
奪い取った名誉と地位は、人の身の快楽によく馴染む。
盲目トカゲの貴銃士は、満足げに微睡んだ。
「悪いけど。僕はやりたいようにやるから」

心銃解説:レンズ越しの秘め事

傲慢。憤怒。色欲。暴食。怠惰。
大罪、だなんて貶めても、結局は人の性だろ。まあ、僕は差し詰め「強欲」か?
……そう嗤った青年は、自らの根源を手の裡に隠す。

カードストーリー

主人公名:〇〇
主人公の一人称:自分

Ep1. 真実を奪え

これは、世界連合軍フランス支部が
カサリステにアウトレイジャー討伐の
救援を要請する数ヶ月前──。

召銃パーティで、シャスポーと
タバティエールが貴銃士になった直後の話。

タバティエール……グラース。
なぜあんなことを言った!?
シャスポー(※)……おいおい、呼び方には気を付けてくれないか。
僕は『シャスポー』だ。
タバティエール何がしたいんだ……。
何が望みだ?
シャスポーを苦境に立たせることか?
タバティエールお前のせいで、シャスポーは……!
シャスポー──ハッ! いいねぇ。
いい顔だ。それでこそ奪った甲斐があるぜ。
タバティエールなんだと……?
シャスポーおい、タバティエール。
世界は平等だと思うか?
歴史は正しく事実だけだと思うか?
シャスポー違うね。
全ては「奪ったもん勝ち」なんだよ。
勝者だけが秩序を、歴史を作れる!!
シャスポーてめぇがいくら喚いたところで、
もう何も変わりやしねぇ。
フランスの社交界では──。
シャスポー僕こそが『シャスポー』なんだ。
それがこの世界の事実さ!!
タバティエール……ッ!!
テオドール……何を話していた?
タバティエール……マスター。
シャスポー挨拶を交わしただけさ。
それより……テオドールと言ったね。
シャスポー僕を召銃してくれてありがとう、マスター。
これから、どうぞよろしく!
テオドール…………。
※立ち絵はグラース

シャスポーが差し出した手を、
テオドールは無言で握り返した。

タバティエールマスター。
……色々と、聞きたいことがある。
テオドール…………。
テオドールいいだろう。ついてこい。

Ep2. 魂の歌

シャルルヴィルやあ、……グラース。
君のマスターの体調はどうだい……?
グラース(※1)……今は落ち着いています。
少しでも早く、回復に向かうといいのですが……。
シャスポー(※2)やあ、ふたりとも。
ずいぶん浮かない顔だね?
シャスポーせっかくのパーティーなんだし、
そんな顔をしていたらマスターも
心配してしまうよ? 楽しまないと!
グラース……っ!
グラース……目の前に高貴なシャスポー銃がいるからね。
固くなってしまっても無理はないだろう?
シャスポーへぇ?
“現代銃”でも、高貴な者に対する態度をわきまえているんだね。
感心したよ。
シャスポーでも、そんなに気を張る必要なんてないからね。
楽にして?
シャルルヴィル……! ちょっと──
グラースいいんです。
※1:立ち絵はシャスポー
※2:立ち絵はグラース

口を開きかけたシャルルヴィルを、
グラースが制する。

シャスポー沈んだ気持ちの時は……そうだ。
歌でも口ずさむのはどう?
僕らの魂の歌、『ラ・マルセイエーズ』を。
シャスポー自由よ 愛しき自由の女神よ
汝の援護者とともに戦いたまえ……♪
グラース&シャルルヴィル…………。
シャスポー僕たちは同じ、フランスを愛する者だ。
だから手を取り合っていこうよ。
国歌を胸に──仲良く、ね?
シャルルヴィルあいつ……。
グラース…………。
続きの歌詞を知っているのか、あいつは?
……だったら、大した皮肉屋だ。
グラース──“何を望んでいるというのか、
この隷属者の群れは、あの裏切者は。
陰謀を企てる王どもは……”
グラース“下劣なる暴君が
我らの運命の支配者になるなど
ありえない……!”
シャルルヴィル…………。
シャルルヴィル……ねぇ。
ボクらの運命の支配者は、彼じゃないよ。
シャルルヴィルじゃあ誰なのかは、わからないけど……
きっと彼も、それに支配されているんだ。
彼も気が付かないうちにね。
シャルルヴィル今は何もできないけど、いつか……。
その日まで、諦めないで。
グラース…………。

 

Ep3. あの一言が言えなくて

シャスポー──はい、お届け物だよ。
マスター?
カトリーヌ……!
あなた……どなた?
わたくしの貴銃士……ではない、わね?
グラースなんだ、一目でわかったの?
他の奴らは気づきもしなかったのに。
グラース別に、ただこの手紙を届けに来ただけさ。
ほら、差出人を見てみなよ。
カトリーヌ……!
テオからの……!
カトリーヌあなたは……レザール家の“シャスポー”ね。
グラースへぇ。よく見抜いたね。
それで? 恨み言でも言ってくれるのかい?
カトリーヌいいえ。
……届けてくださって、どうも、ありがとう。
礼を言います。
グラースはぁ……そんな辛気臭い顔で礼を言われてもな。
もっと可愛げでも出せねぇの?
グラース──それに、なんだこの部屋は。
グラース古いベッドに、貧乏くさい内装……。
フランスを代表する名家のお嬢さんの部屋とは思えねぇなぁ。
グラースお前みたいなのがマスターだから、
あいつも絶対高貴になれないのか。
納得だな。……くっくっく!
カトリーヌ…………。
グラースふぅん?
ここまで言われてんのに何も言わないの?
……まあ、どうでもいいけど。
グラースそれよりさぁ。
せっかく手紙を届けてやったんだし、
少しくらいもてなしてくれてもいいんじゃねぇ?
グラース僕、喉が渇いてるんだよね。
カトリーヌ……申し訳ないのだけれど。
あいにく、ここには水くらいしかないわ。
グラースじゃあ、それで我慢してあげるよ。
カトリーヌ…………。

カトリーヌが差し出したグラスに
手を伸ばしたグラースだが、
カトリーヌはグラスを引いた。

グラース……なんのつもり? さっさと渡せよ。
それとも、嫌がらせ?
随分と小さいことをするね。
カトリーヌ違うわ。ご存じないようだから、
教えて差し上げようと思って。
カトリーヌ人から何かをしてもらったなら、
ちゃんと相手の目を見て『ありがとう』と言うのよ。
カトリーヌテオの手紙を届けてくれたあなたに、
わたくしが『ありがとう』と言ったようにね。
グラースはぁ?
人間が僕を喜ばせようと何かをするのは、当たり前のことだろ。
グラースわざわざ礼なんか言う必要、ないね!
カトリーヌ……あら、そう。
最低限の礼節もないお方に、差し上げられるものはありません。
どうぞこのまま、お引き取りを。
グラース……!
ああ、いらねぇよ!
この、恥知らずめが!!
カトリーヌ…………。

グラース(なんなんだ、あの女は……!
僕に媚びないどころか、逆らってくるなんて……!)
グラース(『ありがとう』を言えだと?
バカらしい……!!)
グラース(……あんな人間、初めてだ)

Ep4. 気だるい昼下がり

テオドール──ん? タバティエールだけか。
……シャスポーはどうした?
タバティエール一応、何度か声はかけたんだがなぁ……。
テオドール……!
まったく。またか……。
テオドール仕方ない。
部屋へ行くぞ。

テオドール──おい! 起きろ!
シャスポーうぅ……ん……。
まだ……明け方じゃないか……。
テオドール違う、もう昼だ!
いい加減起きろ!
シャスポー(※)うわ……まぶし……!
シャスポーはぁ……せっかく気持ちよく寝てたのに。
何すんだよ、マスター……。
テオドールふん。仮にも私の貴銃士なのだから、
だらしない真似はやめてもらおう。
レザール家に相応しくない行動は慎め!
シャスポーちょ、待て、待て。
声が……響くって……。
シャスポーあぁー、頭いてぇ……。
飲みすぎたな……。
シャスポー悪ぃけど、僕はやりたいようにやる……
出てってくれ。ふわ~ぁ……。
シャスポー……ぐぅ……。
テオドール……タバティエール、やれ。
タバティエール了解。
──せーの、っと!
シャスポーのわぁぁっ!?!?!?
※イラストはグラース

タバティエールは、思いっきり
ベッドのシーツを引き剥がした。

シャスポーおい、何すんだよ!
危うく顔面から落ちるところだったじゃねぇか!
シャスポー自分のしでかそうとしたことが、わかってるのか!?
僕の美しい顔に傷がつくなんて……世界の損失だぞ!?
タバティエールこりゃ懲りてないな。
テオドール品位の欠片もなく、惰眠を貪ろうとするお前が悪い。
テオドールそれにしても、まったく……
なんという体たらく……!
少しは内面の美しさを磨いてみせろ!
シャスポー外見が美しいんだから、問題ないね!
テオドールいや。
貴様の内面が、それを台無しにするだろう!
シャスポーんなことねーよ!
大体、マスターは──。
タバティエールまだこの展開か。
はは……マスターも懲りてないな。

Ep5. こぼれてしまった言葉

フランスでの騒動が終わり──
シャスポーとグラースが士官学校にやってきたあとの、
ある日のこと。

グラースはぁっ……はぁっ……
くっ……はぁ、はぁっ……。
グラースおい! マスター!
もういいだろ……!?
主人公【まだ終わってないよ】
【あと4周、頑張れ!】
グラースっくそ……。
なんでちょっとサボっただけで……この僕が、
走らされなくちゃいけねぇんだ……!
グラースなんでこの僕が……こんな……汗だくに……!
くそっ!! 最悪だ……。

グラース…………。
やっと終わった……。
演習場30周……。
グラースあー……動けねぇ……。
喉、カラッカラ……。
主人公【ちょっと待ってて】
【飲み物を持ってくる】
グラースん……。
早く寄越せ。

カトリーヌ人から何かをしてもらったなら、
ちゃんと相手の目を見て『ありがとう』と言うのよ。

グラース…………。
主人公【お待たせ】
【はい、お水】
グラース“ありがとう”、マスター。
グラース……なにさ、その顔。
そんなに僕からお礼を言われるのは意外かよ?
グラース……昔、言われたことがあったんだ。
人から何かをしてもらったら、
ちゃんとお礼を言うべきだって……。
グラース……ま、まあ、言ってみただけだ。
水を持ってくるなんて当然のことだから、
本来は礼なんて言う必要ねぇけどな!
主人公【お礼を言えるのはいいことだ】
【感謝を伝えられて偉い】
グラースは、はぁ!? なんだよそれ……
っていうか、頭をなでるな!
グラースや、やめろ!
──あっ……!

動揺した拍子に、グラースは持っていた
グラスを取り落してしまう。

グラース…………!

グラスの水は、
乾いた地面に吸収されていった。

グラース……おい!
お前が変なことしたせいだぞ!
また一口も飲めてないのに!!
主人公【……ごめん】
【申し訳ない】
グラース……っ!
グラース……そうだ。お前が悪い。
グラース……もういい!
水くらい自分で取りに行く!
グラース……っ……。

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