小夜啼鳥の貴銃士は、一人、夜闇に嘆く。
「僕がもっと傍にいれば」
「僕がもっと疑っていれば」
疑い、惑い、誰も信じられなくなったその先に、彼は小さく笑みを浮かべた。
この名と銃床に染みた血は、
この身と歴史が負った業は、
僕の在り方を確かに狂い堕とす。
もし、もしも次にまたそう成り果てたなら、いっそこの手で──
主人公名:〇〇
主人公の一人称:自分
シャスポー | ふんふん……♪ |
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十手 | やあ、シャスポー君。銃のお手入れ中かい? |
シャスポー | そうだよ。 こまめに磨いてメンテナンスをしないと、 この美しい白銀の見た目を保てないからね。 |
十手 | なるほどなぁ。 銃身がこんなに白くて綺麗なのは、 シャスポー君の日々の努力の賜物なんだ。 |
シャスポー | ……わかってるじゃないか。 ふふ、君、なかなか見る目があるね。 せっかくだから、僕について少し教えてあげよう。 |
シャスポー | そもそも、シャスポー銃が白いのは、 フランスで流行した 「白磨き」という手法が用いられているからなんだ。 |
十手 | 白磨き? 聞いたことがないなぁ……。 |
シャスポー | 多くの銃には、一般的に鋼を 黒錆で保護する「黒染め」という処理が施されている。 |
シャスポー | しかしフランスの人々は、 あえて「黒染め」をせず、 白銀の美しさを活かすことを選んだんだよ。 |
シャスポー | 美しい白磨きの銃は、 多くの収集家達が、こぞって手に入れようとするほど、 今でも根強い人気を誇っているんだ。 |
十手 | へぇ……戦場で使うものにも優美さを求めるなんて、 フランスの人たちは、なかなか粋だったんだなぁ。 |
十手 | 昔の日本の武将達も、 戦場で華やかな衣装を身にまとっていたんだ。 なんだか、それと通じる美学を感じるね。 |
シャスポー | ふふ、君は僕の素晴らしさを理解できているようだね。 正しい感性の持ち主に会えて、僕も嬉しいよ。 |
エンフィールド | ──おや。 何やら楽しそうな声がすると思ったら、 あなたたちでしたか。 |
シャスポー | ああ、エンフィールドか。 すまない、うるさかったかな? |
エンフィールド | いえ、気にするほどではありませんよ。 僕がたまたま近くにいたから聞こえただけです。 |
エンフィールド | それで、お2人は何を話されていたんです? |
十手 | シャスポー君から白磨きについて聞いていたんだ。 とても興味深い話で、いい勉強になったよ。 |
エンフィールド | そうでしたか。 確かにフランス銃は、 いつ見ても白銀に輝いていて綺麗ですよね。 |
シャスポー | へぇ、君も意外と話がわかるみたいだな。 |
エンフィールド | ええ。 とても美しくて──戦場でも光が反射して ものすごく目立つので、いい的だったそうですね。 |
十手 | えっ。 |
シャスポー | ……っ! |
エンフィールド | 僕としては、実用性より見た目を取る考えは よくわかりませんが……。 まぁ、フランス人の考えることですからねぇ……。 |
シャスポー | ……君、僕たちフランス銃をバカにしているのか……? |
エンフィールド | えっ? どうしてそうなるんですか? 僕は事実と、一般的な見解を語っただけで……。 |
シャスポー | 何が事実だ! 君の発言は、僕とフランスの美意識に対する侮辱だぞ!! |
エンフィールド | あの……そんなに怒ることでしょうか? |
エンフィールド | 美意識を優先して戦争に負けていては 意味がないとは思いませんか? |
エンフィールド | 当時のフランス軍の軍服も、 色鮮やかすぎて 隠密行動が非常に難しかったそうですし……。 |
エンフィールド | 理想はどうあれ、事実は事実です。 欠点を認めることも大切だと思いますよ。 |
シャスポー | い、言わせておけば……! そこになおれ、エンフィールド! 僕とフランスを侮辱した罪、その身で償わせてやる! |
十手 | だ、駄目だよシャスポー君! 銃を下ろして! エンフィールド君もきっと悪気はないんだよ! ……たぶん! |
シャスポー | 余計にタチが悪い!! |
エンフィールド | ふふ、お2人は仲がよろしいんですね。 交友関係が広いのはいいことだと思います。 |
十手 | 君は呑気だな……! 頼むから、ちょっとは空気を読んでくれ! |
シャスポー | 離せ十手! こいつには指導が必要だ……! |
十手 | だから落ち着けって……! おーい! 誰かー!! 手を貸してくれ~~! |
恭遠 | これから先日の小テストを返却する。 名前を呼ばれた者から取りに来るように。 |
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タバティエール | よう、シャスポー。今回のテストはどうだった? |
シャスポー | 9割、といったところだな。 勉強の成果が出たみたいだ。 |
タバティエール | へぇ、さっすがシャスポー。 |
シャスポー | 当然だ。 出題範囲は網羅したからね。 |
ドライゼ | …………。 |
シャスポー | (……あいつ、さては……) |
シャスポー | おい! ドライゼ! |
ドライゼ | ……なんだシャスポーか。何か用か。 |
シャスポー | ずいぶんと辛気臭い顔をしているね。 よほどテストの結果が芳しくなかったのかな? |
ドライゼ | ……お前の言う通りだ。 |
シャスポー | やはりそうか……。 ははっ、哀れだね。型落ちのドライゼ銃では、 テストでもまともな点数が取れないのか。 |
シャスポー | ……それで、いったい何点だったんだ? |
ドライゼ | 気になるなら自分の目で確かめるといい。 ほら。 |
シャスポー | どれどれ……。 ……!? |
シャスポー | きゅ、98点!? 間違えたのは、たった1問だけ!? |
ドライゼ | ああ。ケアレスミスでな。 本当に、その1問を逃したのが悔やまれる。 時間切れの前に見直しさえできていれば……。 |
シャスポー | そ、そんな……ありえない!! 僕よりもプロイセン銃の方が点数が高いなんて! 君、いったいどんな卑怯な手を使ったんだ!? |
ドライゼ | 失礼な。俺は至極真面目に勉学に励んだだけだ。 |
シャスポー | う、ウソだ! プロイセンの奴らは、 勝つためなら卑怯な真似も平然とできるじゃないか! 今回もそうやって点を取ったに違いない……! |
ドライゼ | 言いがかりはよしてもらおう。 俺は誓って、恥じるようなことなどしていない。 |
ドライゼ | 授業中の教官の言動や、他の生徒から集めた情報から 過去のテストでの出題傾向を割り出し、 範囲から問題を推測して重点的に学んだだけのこと。 |
ドライゼ | そう──この点数は、 誰よりも事前準備に力を入れた結果なのだ。 |
シャスポー | ……な、なんだその言い方は! それじゃあ、まるで 僕が何も準備をしていなかったみたいじゃないか! |
シャスポー | 認めない……僕は絶対に認めないぞ! そもそもこの僕が、 君ごときに負けるわけがないんだ! |
シャスポー | 有効射程は圧倒的に勝っているし、 君が抱えているガス漏れという欠点は対策済み。 撃針の燃焼だって君と違って起こらない! |
シャスポー | そうだ、性能で圧倒的に劣る君なんかに、 僕が学力で負けるわけが……! |
ドライゼ | ……銃の性能では、確かに俺はお前に劣るだろう。 だが、勉強というのは、 性能によって大きな違いが出るものではない。 |
ドライゼ | 効率によって、天と地ほどの違いを生み出すのだ。 |
シャスポー | ……は? 効率? |
ドライゼ | そうだ。 お前自身が言うように、お前は非常に優秀だ。 |
シャスポー | は、はぁ!? いきなり媚を売られても嬉しくなんか……。 |
ドライゼ | ……だが、いかんせん 勉強方法が非効率的だ。 |
ドライゼ | 範囲のすべてを端から端まで見直し ひたすら復習するなど…… 俺からすれば、時間の無駄遣いと言わざるを得ん。 |
シャスポー | なっ……!? |
ドライゼ | ずっと、もったいないと思っていたのだ。 お前ならば、もっと高得点を狙えるだろうに、と。 |
ドライゼ | ──だから今後は、 俺がお前専用の学習メニューを作ってやろう。 |
シャスポー | …………うん? |
ドライゼ | そうすれば、お前は成績トップを確実に狙えるはずだ。 俺には及ばない可能性はあるが、俺が考えた最高効率の 勉強方法を実践するのだから、結果は保証する。 |
シャスポー | え、えっと……? |
ドライゼ | もともと俺は、シャスポー銃の性能には 一目置いていたのだ。 |
ドライゼ | ……しかし、貴国の戦術や運用は甘いという他ない。 あれでは、せっかくの優れた武器も台無しだ。 |
ドライゼ | ゆえに、お前は我が祖国の薫陶を受けるべきである。 そうすればお前も、我が祖国の精神から大いに学んだ 素晴らしい銃に生まれ変わることだろう。 |
シャスポー | …………。 |
ドライゼ | どうした? 感動で声も出ないか? |
シャスポー | ふ……ふざけたことを言うな! 僕は死んでもお前の国に染まったりはしない! 誇り高く美しきフランスを侮辱するな! |
ドライゼ | む、俺の指導を受けないつもりか? それこそ愚かな選択であることが── |
タバティエール | はいはい、そこまで! 喧嘩になったらみんなに迷惑かかるからやめとこうぜ? な? |
シャスポー | ……ふんっ。 まったく、ドライゼのせいで 僕の貴重な時間が無駄になってしまったな。 |
ドライゼ | それはこちらのセリフだ。 せっかくの成績向上の機会をふいにするとは…… まったく、フランス銃は度し難い。 |
タバティエール | やれやれ……お互い昔のことさえ引っ張り出さなけりゃ 仲良くなれそうな気もするんだがなぁ……。 ま、あいつらに「仲良く」なんて、無理な話か。 |
シャスポー | …………。 |
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十手 | ……シャスポー君、大丈夫かい? なんだか顔色が悪いみたいだけど……。 |
シャスポー | ああ、十手か。大したことはないさ。 僕は他よりちょっとだけ湿気に弱くてね…… 普段よりほんの少し、体調が優れないだけだよ。 |
十手 | そうなんだ……俺にとっては 過ごしやすいくらいなんだけどなぁ。 |
シャスポー | この湿度で過ごしやすいなんて、信じられないな……。 |
十手 | いやぁ、日本の梅雨や夏に比べたらずっとマシだよ。 君がもし日本に来たら、 ずっと体調を崩していそうだなぁ。 |
シャスポー | ああ……確かに、日本の湿気には苦戦させられたよ。 まあ、それでも僕は立派に活躍したけどね。 |
十手 | あれ、シャスポー君って、 日本にいたことがあったのか? |
シャスポー | 君、知らなかったのかい? なら仕方ないね、特別に教えてあげよう。 |
シャスポー | シャスポー銃は、ナポレオン3世から幕府へ 2000挺近くも提供されたんだ。 |
シャスポー | その後も、幕府が1000挺ほど注文して 最新鋭の武器として地方領主たちに売られてね。 |
十手 | 合計3000挺!? それはすごいな……! |
シャスポー | だろう? 湿気で多少性能が下がろうとも、 僕は人気の銃だったということさ! |
十手 | へぇ~……! |
エンフィールド | おや、またお会いしましたね。 今日もお2人でご歓談ですか? |
シャスポー | ……エンフィールド……。 |
十手 | シャ、シャスポー君、そんなあからさまに イヤそうな顔をしない方がいいと思うぞ……? |
エンフィールド | ふう……しかし、今日は湿度が高いですね。 ジメジメしていて……とても不愉快です。 |
十手 | エンフィールド君も湿気は苦手なんだね。 シャスポー君も、湿度が高くて困ってるみたいで。 |
エンフィールド | ああ、確かにシャスポーさんにとって 湿気は天敵ですよね。 |
シャスポー | …………。 |
十手 | それでも、日本に3000挺近く持ち込まれて 活躍してたっていうんだから、本当に優秀な銃だよなぁ。 |
エンフィールド | ……おや? 僕の知ってる話とは違いますね? |
十手 | え? どういうことだい? |
シャスポー | エ、エンフィールド! ちょっと待っ……。 |
エンフィールド | シャスポー銃には、フランスでしか作られていない 専用の弾が必須だったそうですね。 銃弾を輸入に頼るとコストの問題がありますし……。 |
エンフィールド | おまけに、湿気に弱い薬莢の構造と 日本の気候との相性が最悪で、 不発が頻発したと聞いています。 |
エンフィールド | 一説では 江戸城の蔵に手つかずで放置されていたとか。 つまり、使い物にならなかったのではないでしょうか? |
十手 | ……えっ! そ、そうなのかい……? |
エンフィールド | はい。役に立たなかったシャスポーさんとは違って、 僕やスナイダーは、 日本の多くの戦場で活躍しましたよ、ええ! |
十手 | あ、ちょっ……! そんなふうに言ったら──。 |
シャスポー | また……また僕を侮辱するのかエンフィールド!! |
エンフィールド | えっ? いきなり大声を出してどうしたんです? 体調不良はつらいでしょうが、 人に当たるのはどうかと……。 |
シャスポー | 君のせいだよ! 胸に手を当ててよーく考えて、そして反省しろ! |
エンフィールド | 反省しろと言われても、 心当たりがないのですが……。 |
シャスポー | お前という奴は~……!! |
十手 | ふ、2人ともケンカしないで! まったく……なんで君たちは仲良くできないんだい……? |
シャスポー | エンフィールドが悪い!! |
エンフィールド | 僕たち、別に特別仲が悪いとは思いませんよ? |
十手 | はぁ……なるほどなぁ。これはダメだ……。 |
シャスポー | ……やれやれ、士官学校の食堂は いつも混雑しているな……。 生徒数に対して座席が少ないんじゃないのか……? |
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シャスポー | ……ん? 向こうの席が1つ空いているな。 |
シャスポー | ……くっ。 |
---|
シャスポーは、空いている席の横に座っているのが
ローレンツだとわかると、
トレーを持ったまま固まった。
シャスポー | (よりによってこの腹立たしい旧式の隣……! しかし、立ち食いなんて野蛮な真似はできないし、 昼食を抜いて授業中に腹が鳴るなんて屈辱は御免だ!) |
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シャスポー | (背に腹は代えられない、か……) |
シャスポー | ゴホン、失礼するよ。 |
ローレンツ | ……おや、Mr.シャスポー。 悪いが、あと3cmほどトレーを離してくれないか。 |
シャスポー | ……はぁ? |
ローレンツ | やれやれ……嘆かわしい察しの悪さだ。 いいかい? このテーブルは幅360cm、奥行き90cmで 片側6人の12人掛けだ。 |
ローレンツ | つまり、1人あたり幅60cm、奥行き45cm 使用していいことになる。 |
ローレンツ | だが、君は俺のスペースを約3cm侵犯しており、 ついでに言えば、君が置いた教材は、 向かい側の生徒のスペースに約6cmはみ出ている。 |
シャスポー | ……っ、いちいち細かく小うるさい奴だ。 仕切り板で分けられているわけでもない以上、 ある程度自由に使用スペースを決めてもいいだろう! |
シャスポー | まったく。これだから君の隣は嫌だったんだ。 せっかくの昼食が台無しになりそうだよ。 |
苛立ちを滲ませつつ、シャスポーは
パスタにタバスコをかけようとしたが、
なかなか出てこない。
シャスポー | ん……? 詰まっているのか? ふんっ!!! |
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思いっきり瓶を振ると──
勢いよく飛んでいったタバスコは、
ローレンツが食べていたカレーに入った。
ローレンツ | うわっ! 何をするんだ! |
---|---|
シャスポー | なんだよ、カレーにタバスコが少しかかったくらいで 大騒ぎするな。多少ピリ辛さが増しただけだろう。 それとも、辛いのが苦手なのか? |
ローレンツ | そういう問題ではない。 料理は完成された味付けで提供されているんだ。 それに余計なものを加える行為が気に食わない! |
ローレンツ | 君の雑な味覚と一緒にしないでくれたまえ。 |
シャスポー | 雑な味覚だと? 僕はフランスが誇る高性能な銃だ。味覚も優れている。 |
シャスポー | フランス料理の繊細な味付けを理解し 咀嚼するに足る、優雅で上品な味覚だ! |
ローレンツ | そんな奴が、パシャパシャとタバスコをかけるのか!? |
シャスポー | う、うるさいな! このパスタは、 タバスコを適量加えることで完成するんだ! それもわからないのか、この旧式が! |
ローレンツ | ……ふん。Mr.シャスポーは確かに高性能だが、 その高性能さをまったく生かせずに敗戦しただろう。 まったく、お粗末なものだ。味覚も同様にな! |
シャスポー | なんだと……! |
2人の間に火花が散る。
向かいに座っていた生徒はいたたまれなくなったのか、
残りの食事を勢いよく平らげると揃って席を立った。
エルメ | ……あ、ドライゼ。そこの席が空いたみたいだよ。 |
---|---|
ドライゼ | うむ。 |
シャスポー | くっ……ドライゼまで来るとは、 今日の昼食は本当に最悪だよ……! |
ローレンツ | ヒェッ! |
シャスポー | ……おい、ローレンツ? |
ローレンツ | …………。 |
エルメ | おや。彼、また気絶しちゃったの? |
シャスポー | また……? 気絶? |
ドライゼ | ……ローレンツはどうやら、 昔の敗戦が相当なトラウマになっているようでな。 |
エルメ | 不意打ちでドライゼが近くに来ると、 こうやって気絶しちゃうんだよねぇ。 毎度毎度、器用なものだよ。 |
シャスポー | ふ、あははは……! 口だけは達者なようだけど、所詮は旧式。 僕の敵ではないということだね。 |
シャスポー | はぁ、少しすっきりした。 冷めないうちにパスタを食べてしまおう。うん。 |
シャスポー | ──このっ! |
---|---|
アウトレイジャー | ……敵、殺ス……。 |
タバティエール | ……っ! あいつら、〇〇ちゃんを狙って……!? |
シャスポー | させない! |
シャスポー | (不発!? よりによってこのタイミングで……!) |
アウトレイジャー | ──死ネ。 |
シャスポー | マスター!! |
グラース | ──させねぇよ。 |
グラース | 絶対非道!! |
シャスポー | …………! |
グラース | ふん。 お前らごときが、こいつに手を出せるわけがねぇだろ。 |
シャスポー | ……礼は言わないよ。 君に手を出されなくても、僕がマスターを助けられた。 |
グラース | ……はっ。相変わらず口「だけ」はご立派だな。 |
シャスポー | なっ……! |
グラース | そういうセリフは 湿気で不発を起こさないようになってから言えよ、役立たず。 |
シャスポー | お前!! この僕になんてことを!! |
グラース | 図星だからってキレるなよ。 悔しかったら、僕みたいに有能になってみな。 ……型落ちのお兄ちゃん? |
シャスポー | ……っ。 |
シャスポー | ……はぁ。 |
---|---|
タバティエール | ずいぶん大きなため息だな、シャスポー。 |
シャスポー | タバティエール……。 |
タバティエール | 昼間のこと気にしてるのか? 不発やジャムは最新の現代銃にも起きうることだ。 あまり気に病むなよ。 |
シャスポー | ……お前に言われなくてもわかってる。 だけど……あの時のグラースの言葉が、 頭から離れないんだ。 |
タバティエール | シャスポー……。 |
シャスポー | 僕は確かに素晴らしい性能を持っているけれど、 あいつはそんな僕を さらに改良して生み出された銃だ。 |
シャスポー | ……当然、僕よりも多くの面で優れている。 |
シャスポー | ……正直に言えば、僕の中には、 そんなグラースをうらやましいと思う気持ちが、確かにあるんだ。 |
タバティエール | …………。 |
シャスポー | 〇〇の貴銃士は、どんどん増えている。 僕は……このままじゃ、ダメだ。 |
シャスポー | フランスの第一線で活躍してきた僕が、 貴銃士としての戦いで役に立てないなんて許されない。 マスターの役に立たない僕なんて、本当の僕じゃない。 |
シャスポー | 多種多様な銃がいる中で よりマスターの役に立つためには、 もっともっと強くならないといけない。 |
シャスポー | そのために……たとえば、性能を上げる、とか……。 湿気への弱さを克服して……。 |
タバティエール | 湿気の克服って…… まさか、金属薬莢を装填できるように 銃を改造したいってことか? |
シャスポー | ……わからない……。 |
シャスポー | 改造すれば、間違いなく僕は強くなる。 でもそうしたら、それはもう「シャスポー銃」じゃなくて── 「グラース銃」だろう? |
シャスポー | そうなったら、今の僕はどうなる? もしかして…… 僕は、僕でなくなってしまうんじゃないか? |
タバティエール | …………。 |
シャスポー | そんな事が頭をよぎって…… 結局、いまだに決断できないでいるんだ。 ……ふふ、情けないな。 |
タバティエール | そんなことはない。 自分を自分でなくする可能性がある行為を恐れるのは、 銃としても貴銃士としても当然なんじゃないか? |
シャスポー | …………そう、なのかな。 |
タバティエール | ああ。 ……俺は、改造するかどうか迷うのなら、 今のままで強くなる方法を模索するべきだと思う。 |
シャスポー | ……! |
タバティエール | 一朝一夕でどうにかなるようなもんじゃないだろうが、 考えて試行錯誤し続ければ、 いつか答えが見つかるかもしれないし。 |
タバティエール | それに何より── お前までグラースみたいになっちまったら、 俺も〇〇ちゃんもてんてこ舞いだよ。 |
シャスポー | ……ははっ。 そうだな……僕もあんなふうになるのは嫌だね。 |
シャスポー | 自分がどうなりたいのか、どうなるべきなのか…… もう少し考えてみないと……。 |
---|---|
タバティエール | (シャスポーのやつ…… 思い詰めて変なことしないといいんだが……) |
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