【支配の追憶:怠惰】八九

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解説

カード解説

誰かの遠い記憶の欠片。今や世界に悪とされた、7年前の、とある貴銃士の追憶。
玩具のように打ち壊してきたモノの意味。それを、一度も考えようともしなかった。
かつての彼の怠惰が、今、彼を苛む。

心銃解説:追憶の迷路-リコレクション-

敗北の記憶の、恐怖。その絶望。
今も、そのぐちゃぐちゃな情動が心をじわりと蝕んでく。……心?
貴銃士に心なんてあんのかよ?
そんなもんあったら、まるで……

カードストーリー

主人公名:〇〇
主人公の一人称:自分

 

Ep1. 追憶の夢

──7年前。

89……チッ、どいつもこいつも……雑魚どもが……。
ベルガードーテーくん、なーにイライラしてんだぁ?
ヨッキューフマンかぁ?
89よっ……ちげーっつーの。
ボス前で強制連行されて、イラついてんだよ。
89つーか俺ら、レジスタンス潰しに来てんだろ。
いねーじゃねーか。
ベルガーそれな! レジスタンスどこにいんの??
ぼくぅ、早くおソウジしたいんですけど~~。
世界帝軍兵士1はっ。あの……レジスタンスどもは先程、
その……ベルガー様が暇つぶしに虫を乱射した音で、
こちらに気づき逃げたようでして……。
89おめーのせいじゃねぇか! ざけんなよ!
ベルガーア? あー、そうだったかも! ぎゃははは!
世界帝軍兵士1ただいま捜索を行っており──
世界帝軍兵士2逃走したレジスタンスを発見しました!
近くにある廃工場に逃げ込んだ模様です。
89チッ……めんどくせーことしやがって。
雑魚が寿命延ばしてどうすんだよ? ったく。
ベルガーおっしゃ! おソウジタ~イム!
89、行こうぜぇ。
89レジスタンスの奴らをぶっ殺しまくって、
ストレス解消するしかねーな。

廃工場に現れた89たちに、
レジスタンスは必死の抵抗を見せた。

レジスタンス1く、くそっ! 弾が、もう……!
89はい、貧弱装備でご苦労さん。
あばよ。
レジスタンス1……ッ!! ぐ……あ……。
89んー……。
無駄な足掻きでも、NPCくらいの手応えはあるか?
ベルガーおーいドーテーくん。
ヨッキューフマンは治ったかぁ?
89だから欲求不満じゃねぇ──
89──うッ!?
ベルガー……あっ。
レジスタンス2ア、アランを……っ! 貴様ら……ッ!
89……おい、もう悔いはねぇわな。
89人様の顔面にしょぼい弾、当てやがって。
どうだ、レジスタンス様よぉ。満足かよ。
89……こっちが手抜いてるからって、
調子のってんじゃねーぞ──なぁっ!?
レジスタンス2うっ……うわあああっ!

追い詰められたレジスタンスが逃げ込んだコンテナに、
世界帝軍の兵士がガソリンを撒いて火をつけた。

ベルガーぎゃはははっ!
出てきた、出てきた!!
891匹、2匹……。

89とベルガーが次々にレジスタンスたちを撃ち殺す。
負けを悟った兵士が、両手をあげて叫ぶ。

レジスタンス3た、助けてくれ!
降伏する……撃たないでくれ!
レジスタンス4もうレジスタンスから足を洗う!
これからは世界帝のために……!
89そうですかぁ。それはご立派なことで。
89──って、聞くわけねーだろ。ばーか。
ベルガーぎゃはは、バイバーイ!
レジスタンスたち……ッ!!

レジスタンスたちの断末魔が廃工場に響く。

89ははっ、ザマァ!
ちょっとは気が晴れたわ。

???……君? ……九く……ん。
???──八九君?
八九……?
十手八九君、そろそろ起きた方がいいよ。
八九ほふゅあっ!?
十手うわ、びっくりした!
八九い、いやいや!
ビビったのはこっち……あっ。
恭遠こほん……。
十手教科書のここの問題、当てられてるよ。
驚かせるつもりはなかったんだ、ごめん。
グラースどうせ、徹夜でゲームにでも精を出してたんだろ。
恭遠居眠りはほどほどに。
八九あ、さーせん……。
八九(……さっきのは、昔の夢か……)
八九くぁ……えーっと、問3……。
うわ、空間図形……めんどくせ……。

Ep2. 野良猫

八九ひー……お前ら、どんだけ買い物するんだよ。
邑田だらしがないのぅ。
しゃんと立たんか、日本男児。
八九いやいや!
この荷物の量はエグいだろ……!
在坂……あった、次はこの店だ。
在坂はここでマスターに土産を買いたい。
邑田おお、在坂は優しいのう。
どれ、わしも一緒に選んでもよいか?
在坂在坂はひとりで土産を選べる。
邑田店のものが在坂に無礼を働かんとも限らんじゃろ。
ほれ、行こう。
八九俺、このへんで休んでるわ……。

八九が店の外に座っていると、
足下に温かい感触がした。

八九んん……?
白猫にゃあ!
八九お、猫……!
八九……へへっ……。

八九は道ばたに生えているエノコログサをつんで、
猫の前にちらつかせた。

白猫にゃっ! にゃおっ!
八九……ふ、ちょ、ちょろいじゃねーか……。
八九ほれ、ほれほれ……。

そのうちに、猫が1匹、また1匹と集まってきた。
白猫、黒猫、サバトラ……何匹もの猫が八九にじゃれつく。

八九……おっほ……!
八九お前ら……可愛いな……。
在坂……八九はとても楽しそうだ。
八九うおおぉっ!?
八九い、いつからそこに!?
邑田そうじゃの。その白猫が寄ってきて、
おぬしがエノコログサをちらつかせていたところか。
八九最初からじゃねぇか!!
邑田はて?
猫に囲まれて腑抜けた顔をしておったので、
話しかけるのも忍びなくてのう。
八九ふぬ……黙って見てる方が悪趣味だろ!
邑田邪魔をしては悪いと思ったのじゃ。
よき表情であったぞ。なぁ、在坂。
在坂ああ、在坂にはできない表情だった。
……とてもいいことだと、在坂は思う。
邑田うむうむ。
あのような腑抜けた表情ができるのは、実によいことじゃ。
八九お前ら、揃って人のことからかいやがって……!
邑田そうじゃ、良いことを考えたぞ。

邑田ほれ、八九。そこのぺっとしょっぷで買ってきたぞ。
おもちゃのじゃらしじゃ、じゃらし。
在坂猫じゃらしだ、八九。
嬉しいか、八九。
八九あああ~~~~っ!
どこまでもいじるんじゃねぇよてめぇら!!

Ep3. 人か銃か

その日、八九、在坂、ベルガーは
逃走中のトルレ・シャフを追い詰めていた──。

在坂──制圧する。
ベルガーあーあ、つまんねーの!
今回の任務、カンタンすぎ。

八九、ベルガー、在坂がトルレ・シャフを圧倒する。
負けを悟った兵士が、両手をあげて叫んだ。

トルレ・シャフ兵士た、助けてくれ!
降伏する……撃たないでくれ!
八九聞くかよ、んなこと……。

八九が引き金に指をかけた、その時──

八九……っ!

89……っ、うう……。
89こ、こは……。
89そうか、俺、あいつらの攻撃を食らって……
ぐ、げほっ……。
89くそ……視界がかすんで、何も見えねえ……。
痛みも……もう、ほとんど感じねぇ。
はは、俺……ここで死ぬのか……?
89ベルガーのうるせぇ声が聞こえねぇ。
あいつもやられたのか……?
89ミカエルは……ああ、レクイエムが聴こえる。
あいつはまだ、戦ってるんだな……。

89が微かに安堵の息をこぼしたとき、
不意に、レクイエムの演奏が途切れる。

89……っ、ミカエル……?
89そうか、あいつも……。
89(俺たちですらこのザマだ。
援軍も救援も来ねぇだろうな……)
89(俺たちは……今日、ここで終わりだ……。
特別幹部サマが、無様にぶっ倒れて、
誰にも助けられないまま消えていく……)
89……ま、悪役の最期なんて、
こんなもん、だよな……。
89…………。
89(……くそ)
89(…………怖ぇ……)

在坂八九、何をしている!
八九え……?
トルレ・シャフ兵士死ね……!

はっと気が付くと……
八九の目の前にいたトルレ・シャフ兵士が、
今にも引き金を引こうとしていた。

ベルガー死ぬのはテメェだっつーの!!
トルレ・シャフ兵士あぐッ!

ベルガーの放った銃弾が、トルレ・シャフ兵士を仕留めた。

八九…………。
ベルガーばーか、何止まってんだよ?
ベルガーあんなん、真っ赤っかな嘘に決まってんじゃーん!
騙されやがって、ダッセー!
八九だ、だよな……はは……。
嘘だよな……。
ベルガーつーか、もしほんとだとしても殺さない理由なくね?
殺らなきゃ殺られるし。
八九お、う……。
八九(俺……今、躊躇したのか?)
八九(前は……前は、躊躇なく撃ったはずだ……)
八九(なんで……撃たなかった……?)
八九冗談じゃ……ねーぞ……。
在坂…………。
在坂……八九。
八九あ? な、なんだよ。
在坂撃ちたくないのなら、撃たないでいい。
八九……ッ!
八九な、んだよ……俺には、できねぇって言うのかよ!?
さっきのは、その、ちょっと……!
八九……ッ……。

任務の後、八九は寮の自室に引きこもっていた。
何度かノックの音がしたが、聞こえないふりを決め込む。

八九…………。
誰だよ、しつけーな……。
邑田おぅい、八九や。ここを開けんか。
八九げ、邑田……。
八九(……開けねーと、面倒なことになりそうだな……)
邑田おお、起きておったか。
邪魔をするぞ。
八九なんの用だよ……。
邑田おぬし、今日の任務中に、
命乞いする敵を撃つのに躊躇したそうじゃな。
八九……在坂から聞いたのかよ……。
邑田それはもう。
一大事じゃからのう。
八九で、説教しに来たのか。
……へいへい、俺が悪かったです!
次はちゃんと殺りますって!
邑田そんなことを聞きたくて訪ねてきたわけではない。
邑田……世界帝軍の「89」とやらは、命乞いする相手に向かって
喜々として弾を撃ち込む輩であったと聞いておったが。
八九……っ!
八九だから、悪かったって。
次からはちゃんと撃つって。俺は弱くなってなんて──
邑田八九、これは大事なことじゃ。
……そなたは、どういう貴銃士になりたい?
八九は?
邑田貴銃士とは人と銃の狭間を生きるものじゃ。
しかし、何事もずうっと「間」でいるというのは難しい。
どうしても、「どちらか」に寄っていく。
邑田水は必ず高いところから低いところへと流れゆき、
淀みに浮かぶ泡沫がひとところに留まることのないようにな。
邑田おぬしも寄り始めたのか、と思ったのだが。
自覚はないか。
八九自覚……?
邑田先日も言ったじゃろ、ほれ。
おぬしが猫に囲まれて腑抜けた面を晒していた時の──
八九あっ……あああ~~!!
なんであんなの蒸し返すんだよ!!
八九後輩が恥ずかしがってるのを何度もほじくり返すのは、
どうかと思いますけどぉ!?
邑田なーにが恥ずかしいか。
わしはあの時、猫に囲まれて腑抜けた顔をできるのは、
「良いこと」じゃと言うたであろう。
邑田少なくとも、わしと在坂にとってはの。
八九あ……?
邑田……ふむ、まだわからんか。
わしは在坂の他に過保護になるつもりはないからのう。
あとは自分で考えるがよい。
邑田おやすみ、八九。
八九…………あ、ああ……?
八九(……なんだよ、あいつ……)

八九は部屋の片隅に座り込み、自分の銃を手に取って眺める。

八九(……そういえば、このあいだ……
「からかわれた」って思ったとき……
昔だったら、絶対ぶっ殺してぇって思った)
八九(でも、今はそうじゃない。
邑田が怖いからじゃなくて……いや、あいつは怖いけど、
そうじゃなくて、そういうんじゃなくて……)
八九(……「ぶち殺す」って選択肢が、
頭にぱっと浮かばかなくなってた……)
八九(任務とか、必要なときはイケるぜ?
……イケるって、思ってたんだけど……)

八九は視線の先にある、邑田が買ってくれた猫じゃらしに
手を伸ばしかけて……その手を下ろした。
手にしていた自分の銃を猫じゃらしの隣に放り出す。

八九……だりぃ、寝よ。

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