【星に願うこと】スプリングフィールド

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解説

カード解説

これは遠い記憶の欠片。アメリカでの、彼らの物語の前日譚。
暗い裏路地で無力だったあの日。傷だらけの記憶を胸に秘めて、スプリングフィールドは流星に願う。
「あれ……なんで、僕、泣いて……?」

心銃解説:流星に導かれて

一人でいたら、流れたのは涙。
みんなでいて、流れるのは星。
同じ暗闇で空を見上げていても、今は、振り向けば心が温かい。
どうか、それがずっとずっと……

カードストーリー

主人公名:〇〇
主人公の一人称:自分

Ep1. 暗黒の主従関係

これは、〇〇たちが
アメリカを訪れる、ずっと前のこと──。

スプリングフィールド(……薄暗い、天井……朽ちた壁……
……足の折れた椅子……)
スプリングフィールド(……ここは、一体……?)
???なっ!?
人間っ……!?
スプリングフィールド……?

突如聞こえてきた声の方に視線を向けると、
1人の男が、落ち窪んだ目を丸くして
スプリングフィールドを見つめていた。

???へ、へぇ……。あのうさんくさい野郎、
一応ちゃんとしたブツを渡してきたのか。
スプリングフィールド(この人が……僕のマスター……?)
???に、してもだ……。

薄汚れた男の不躾な視線が、
目覚めたばかりのスプリングフィールドに向けられる。

スプリングフィールド…………。
???どうも、ひ弱そうな貴銃士様だぜ。
お前、ちゃんと俺の役に立てるんだろうな?
スプリングフィールド……?
???……おい。何黙ってんだぁ。
俺ぁテメェのご主人様だぞ!?
マスターの男貴銃士ってのは、満足に挨拶もできねぇのか!
スプリングフィールドひっ……!?

突如憤慨した男は、スプリングフィールドを
足で思い切り蹴り上げる。

スプリングフィールド……ぁぐっ……!
マスターの男おい。チャンスはあと1回だけだ。
──俺は、お前のなんだ?
スプリングフィールドマ、マスター……?
マスターの男わかってんじゃねぇか。
なら──。
マスターの男今の自分の態度について、
何か言うことがあるよなあ?
スプリングフィールド……!
ご、ごめんなさい……!
マスターの男はあ? 「ごめんなさい」だぁ?
そうじゃねぇだろ!
スプリングフィールド……!

男の足が、スプリングフィールドの
頭を、腹を、腕を、幾度となく蹴り上げる。

マスターの男てめぇは俺に使われる銃なんだぞ?
──もっと相応しい謝り方があるだろうが!
スプリングフィールドうっ! うぐぅっ……!

小さく身体を丸めながら、
スプリングフィールドは
自分を踏みつける男を見上げた。

スプリングフィールドも、申し訳……ございませ、ん……!
マスターの男……フン。
最初からそうやってりゃいいんだよ。
マスターの男チッ……ガラクタのクセに、手を煩わせやがって。
これで使えなかったら、へし折ってやるからな……。
スプリングフィールド…………。

酒をあおる男を、スプリングフィールドは
呆然としながら見つめる。

スプリングフィールド(この人が、僕のマスター……)
スプリングフィールド(この人が……)

Ep2. 届かなかった手

スプリングフィールドが召銃されてから、
しばらく経った頃──。

スプリングフィールド…………。

人目を避けるように、
スプリングフィールドは路地裏を歩いていた。

脳裏によみがえるのは、数時間前の出来事だ。


マスターの男……チッ……。
どいつもこいつも、俺を見るなり……!
殺してやる……!
スプリングフィールド…………。

酒を煽る男の背後で、スプリングフィールドが
息を殺すように立っていると──
不意に腹の虫が空腹を訴え始めた。

マスターの男るせぇなぁ!
銃ごときが腹鳴らしてんじゃねぇよ!
スプリングフィールド申し訳、ございません!

空の酒瓶が壁に当たって割れる。
スプリングフィールドは、ただただ頭を下げた。

マスターの男俺、前に教えたよなぁ?
自分の餌はどうすればいいかってよぉ。
スプリングフィールドはい。
自分の餌は、自分で見つけてきます。
マスターの男わかってんならとっとと失せろ!
てめぇの辛気臭ぇ顔見てっと、イライラすんだよ!
スプリングフィールド…………。

スプリングフィールド……何か……食べられるものを……。

スプリングフィールドはふらつきながら、
ゴミ置き場を1人さまよい続ける。

スプリングフィールド…………。
ここも、だめか……。
スプリングフィールド確かあっちにも……ん?

少し離れた大通りから、
数人の子供たちの賑やかな声が聞こえてくる。

子供1じゃあ俺、ケンタッキー役~!
ケンタッキーはすごいんだぜ!
じーっと敵をねらって、絶対にうちぬくんだ!
子供2なら俺は、ペンシルヴァニアになる!
COOLでサイコーの貴銃士だよ!
スプリングフィールド(貴銃士……ごっこ……?)

『ケンタッキー』に『ペンシルヴァニア』──
子供たちの純粋な声で紡がれるその名前が、
スプリングフィールドにはひどく輝かしいものに思えた。

スプリングフィールド…………。
スプリングフィールド(もし、僕が役立たずじゃなければ……)

足取りは重さを増し、ついに歩みが止まる。
立ち尽くすスプリングフィールドの耳に、
楽しそうな子供たちの声だけが変わらず届いていた。

子供1ばんっ!
よしっ、敵をたおしたぞ!
やっぱりケンタッキーは強いんだ!
子供2ペンシルヴァニアだってすごいよ!
敵をはさみうちにしたんだから!
母親あらっ、こんなところにいたの?
もうごはんの時間よ!
子供1ママ!
あ、そういえばおなかぺこぺこー!
母親そうでしょう?
ほら、早くおうちに帰りましょうね。
今日はシチューを作ったのよ。
子供2わあっ、僕、シチュー大好き!
いっぱい入れてね!
子供1あっ、ズルイ! 俺も俺もー!
スプリングフィールド…………。
???にゃあ。
スプリングフィールドえっ……!?

ぼんやりと立ちすくむスプリングフィールドの足に
薄汚れた子猫が、甘えるようにすり寄ってきた。

にゃぁ、にゃぁ……。
スプリングフィールドあ……。
君も、お腹が空いてるの?

その弱々しい鳴き声に気を引かれ、
スプリングフィールドはおそるおそる
猫を撫でようとする。

だが、その手が触れる直前──
飛んできた数匹のカラスが、
スプリングフィールドの手を鋭くつついた。

スプリングフィールド……っ!

怯んだスプリングフィールドの目の前で、
子猫はカラスの爪に囚われ、
連れ去られてしまう。

にゃー……にゃー……!

子猫のか細い悲鳴と、
あざ笑うようなカラスの鳴き声が
徐々に遠ざかっていく。

スプリングフィールド…………。
スプリングフィールド──ごめん……。
僕には、何も……。
スプリングフィールド……食べ物を、探さないと……。

 

Ep3. 悪夢の前兆

ある日の夜──
隙間風の吹き込む小屋の片隅で、
スプリングフィールドは小さくうずくまっていた。

マスターの男……ぐっあああ……!
傷、が……! 傷がぁ!
スプリングフィールド…………。

粗末のベッドの上では、マスターである男が、
腕から首、腹部にまで広がった『薔薇の傷』を押さえ、
苦悶の声をあげている。

スプリングフィールド…………。
マスターの男ぐはっ……!
はぁ、はぁ……くっ!

その姿をぼんやりと眺めていたスプリングフィールドの視線に、
ふと男が気づいた。

マスターの男てめぇ……
また……てめぇが、やったのか!

男は鬼のような形相で、枕元の空瓶を
スプリングフィールドに投げつけた。

スプリングフィールド……っ。

男が放った瓶は壁に当たり、
大きな音を立てて破片をまき散らす。

飛んできた破片の一つが頬を裂いたが、
スプリングフィールドは微動だにしない。

マスターの男くそっ……この、疫病神が!
マスターの男てめぇが来てから……
こんな、わけのわからねぇ傷がどんどん広がって……!
なぁ! てめぇのせいなんだろ!?
マスターの男この傷はお前の存在が……
いや、お前が俺の寝ている間に付けたんだ……!
げほっ、げほっ……! なぁ、そうなんだろ!?
スプリングフィールド……!
マスターの男なんだ、その反抗的な目はぁ!
所有物が持ち主様に反抗してんじゃねぇ!
スプリングフィールド……っ!

よろよろとベッドから立ち上がった男は、
スプリングフィールドの頭を殴り、壁に叩きつけた。

マスターの男貴銃士とマスターは、一心同体なんだよなぁ!?
じゃあ、俺が傷ついてる分──
お前も傷つくべきだよなぁ!?
スプリングフィールド──っ。

スプリングフィールドは、
無抵抗のまま、男の拳を受け止め続ける。

マスターの男なんとか言えよ! おいっ!!
スプリングフィールドぐ、ぅぅ……!

スプリングフィールドが思わず吐き出した血が、
床を赤黒く染めていく。

マスターの男はぁ……また、部屋を汚しやがって。
そうやって弱ってるふりをすりゃ、
俺が手を緩めるとでも思ったのか?
マスターの男銃のくせして……同情を買おうとしてんじゃねぇ!
お前より俺の方が……チッ!
マスターの男あの時しくじりさえしなきゃ、
こんなごみ溜めみてぇなとこにいることもなかったのに……!
マスターの男お前みてぇな変なもん拾ってくることも……!
俺はまだやれたっつーのに……!
マスターの男全部、全部お前のせいだ!
お前が俺を傷つけるせいだ!
お前なんか……持たなきゃよかった!
スプリングフィールド…………。

延々と続く怨嗟の声を、
スプリングフィールドは
ただ呆然と聞いていた。


──数日後。

スプリングフィールドはぁ、はぁ……。
……っ!
???おい、そっちにはいたか!?
???いや……ったく、逃げ足の速い……!
???あいつは窃盗犯の片割れだ。
絶対に捕まえるぞ。
おい、そっちも探せ!
スプリングフィールド……逃げなくちゃ。
見つからないように、道を選んで……。
スプリングフィールドあれ? でも……
逃げるって──どこへ?
スプリングフィールド(食料や金銭を盗まないと、マスターの元には帰れない。
このままじゃ、僕はまた……)

マスターの男全部、全部お前のせいだ!
お前が俺を傷つけるせいだ!
お前なんか……持たなきゃよかった!

スプリングフィールド……っ!
???──おい、いたぞ!
スプリングフィールドあっ……!

スプリングフィールドは、反射的に走り出した。
だがその目は──
夜道の中で微かに赤く、光っていたのだった。

Ep4. 星々は優しくきらめく

それから時間は流れ、現在。
これはスプリングフィールドたちが
士官学校に来てからの話──。

〇〇とスプリングフィールド、
そしてケンタッキーとペンシルヴァニアの4人は
特別任務を無事に終え、帰路を急いでいた。

ペンシルヴァニア日が暮れてしまったな……。
仕方ない、今日のところはここで野営としよう。
スプリングフィールドは、はい……。
ケンタッキーチッ、森の中で野犬なんかと遭遇さえしなけりゃ……。
ペンシルヴァニアま、こういうこともあるさ。
とにかく、完全に暗くなる前に食料を調達しないとな。
ペンシルヴァニアマスターもそれで構わないか?
主人公【もちろん!】
【そうしよう】

その後、にぎやかに食事を終えた4人は、
明日に備えて早めに寝ることとなった。

ペンシルヴァニアこの辺りは動物などもいないようだが……
念のため、見張りはいた方がいいだろう。
俺がしておくから、みんなは先に寝──
ケンタッキーは? てめぇにだけ任せられっかよ!
俺が見張る!
ペンシルヴァニアだが……いや、止めても無駄か。わかった、
見張りは俺とケンタッキーの交代制にしよう。
それならいいな?
ケンタッキー……ああ。
ペンシルヴァニアマスターとスプリングフィールドは
しっかり休んでくれ。
スプリングフィールドえっと……ありがとう、ございます。
ペンシルヴァニア気にするな。
主人公【ありがとう】
【何かあったらすぐ起こして】
ペンシルヴァニアああ。……ん?

見張りの準備の為立ち上がろうとした
ペンシルヴァニアだったが、
ふと、夜空を見上げて動きを止めた。

ペンシルヴァニア見ろ、流れ星だ……。
ケンタッキーえ、マジ!?

一斉に空を見上げると、
幾筋もの光が、夜空を駆け抜けていく。

主人公【流星群……!?】
【すごい……!】
ケンタッキーっし、ペンシルヴァニアより先に
願い事言って叶えてやる!
ケンタッキーペンシルヴぁにゃあっ!?
……ってー!
ひた、ひたかんら……!
ペンシルヴァニア大丈夫か……?
ケンタッキーへ、平気だ……。
てめぇに、ひんぱいされることじゃねぇっ……!
ペンシルヴァニアまったく……
とりあえず、血が出ているなら口をゆすいだらどうだ。
ケンタッキーなっ!? 別に大丈夫だって言ってんだろーが!

いつもの言い争いを横目に、
1人離れて星を見上げるスプリングフィールドへと
〇〇は近づいた。

スプリングフィールド…………。
──ますよう、に。
主人公【願い事?】
【なんて言ったの?】
スプリングフィールドそれは、あの……内緒、です。
主人公【そっか】
【願い事、叶うといいね】
スプリングフィールドはい……。
以前は……アメリカにいたころは、
星空はただの明かりでした……。
スプリングフィールドなのに今は、心から綺麗だって思えるんです。
不思議ですよね。
主人公【みんなと一緒だからかも】
【ひとりじゃないからかな】
スプリングフィールドあ……そうかもしれないですね。

スプリングフィールドが穏やかに微笑むと、
まるでそれに返答するように
流れ星が次々と空を駆け抜けていく。

スプリングフィールド本当に、綺麗ですね……。

星々に照らされ、スプリングフィールドの瞳は、
静かに輝いていた。

Ep5. 涙と幸せの味

自室で授業の予習と復習に励んでいた
スプリングフィールドの耳に、
来訪を告げるノックの音が届いた。

スプリングフィールド……!
ど、どなたでしょうか……?
主人公【スプリングフィールド、いる?】
【今、いいかな?】
スプリングフィールドえっ……は、はい。

慌ただしく扉を開けると、〇〇が
2人分のアップルパイと紅茶のセットを
トレーに乗せて立っていた。

スプリングフィールドあ、あの……?
主人公【勉強、頑張ってるみたいだから】
【作ってみたから、一緒に食べない?】
スプリングフィールドえ……でも、僕なんかが相手では──
スプリングフィールドあ……っ。

戸惑うスプリングフィールドとは裏腹に、
かぐわしいアップルパイの香りに誘われたのか、
お腹が鳴り始めた。

スプリングフィールドい、今のは……その……。

マスターの男るせぇなぁ!
銃ごときが腹鳴らしてんじゃねぇよ!

スプリングフィールドごめ……なさ……っ!
主人公【ちょうどよかった!】
【一緒に食べよう】
スプリングフィールド……っ!
スプリングフィールド…………。

こわばっていたスプリングフィールドの身体が、
〇〇の穏やかな表情を見てほぐれていく。

スプリングフィールド……僕で、いいなら……。

部屋に入った〇〇は、
テーブルの上にアップルパイを置いてから
ゆっくりと紅茶をカップに注いでいく。

主人公【士官学校には慣れた?】
スプリングフィールドえっと……はい。
最初に比べれば、それなりには。
皆さん、不慣れな僕に、優しくしてくださいますし……。
スプリングフィールド体調に不安はありますが、
それもケンタッキーやペンシルヴァニアさんが
何かと気にかけてくれているので……。

スプリングフィールドは、
言葉を選びながら、たどたどしく話をする。

他愛のない会話を続けながら、
〇〇は紅茶と、
切り分けたアップルパイを差し出した。

スプリングフィールド……ありがとうございます。
いただきます……。
スプリングフィールド……!

恐る恐る口へと運んだ最初の一口を皮切りに、
スプリングフィールドは夢中で、
勢いよくアップルパイを食べはじめた。

スプリングフィールドはぐ……むぐ……。
主人公【美味しい?】
スプリングフィールド……っ! も、申し訳ございません……!
スプリングフィールドもう食べません! すみません……っ!
主人公【どうして?】
【好きなだけ食べて】
スプリングフィールド……マスター。
……はい……。

今度はゆっくりと、
味わうようにフォークを運んでいく。
その直後──

スプリングフィールド……っ。

スプリングフィールドの瞳から、
ぽろぽろと涙がこぼれ始めた。

主人公【どうしたの!?】
【お、美味しくなかった……!?】
スプリングフィールドえ……?
あれ……なんで、僕、泣いて……?
スプリングフィールドえっと……違うんです……。
よくわからないけど、嫌とか苦しいとか、
そういうのではない気がします……。
スプリングフィールドマスター……アップルパイを作ってくれて、
ありがとうございます。

泣き笑いの幸せそうな表情で、
スプリングフィールドは、
温かなティータイムを過ごしたのだった。

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