【良宵の酔い】十手

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解説

カード解説

きっかけは、憧れか羨みか。数多の願いが向かった聖杯は、奇跡と混沌を招く。
入れ替わり、姿が変わって気づいたのは、どんな見た目であろうと変わらない『心意気』の大切さ。
2人酔う宵は温かな人情に満ちている。

心銃解説:肩組み見上げる月の杯

少しは自信がついたはずなのに
キセル君のようになりたい、でもなれやしないと、僅かに顔を出す劣等感。
確かになれないけれど、それでいい──俺は俺だから。

カードストーリー

主人公名:〇〇
主人公の一人称:自分

 

Ep1. 譲れないもの

士官学校でとある事件が起こる前日のこと──。

キセルは、フィルクレヴァート士官学校
創立7周年の記念行事に参加するため、
日本からフィルクレヴァートへやって来ていた。

十手キセル君、ちょっといいかい?
君に見せたいものがあるんだ。
キセルおお? いいぜ。
一体何を披露してくれるのか楽しみだな!

十手は、キセルをプールサイドへと案内した。

キセルんん……こいつは……!
十手ああ!
実は、ライク・ツー君と一緒に風呂を設置したんだ。
十手士官学校の浴室には、湯船がないだろう?
けど、たまには熱いお湯にザブンと浸かりたい……。
そんな願いがこれで叶ったんだ!
十手設置を手伝ったお礼に、
使ってもいいとライク・ツー君が言ってくれてね。
今日も了承をもらっているから、一緒にどうだい?
キセルそいつは最高だ!
まさか英吉利で露天風呂に入れるとはなァ!
旅の疲れも吹き飛ぶってもんよ。
十手喜んでもらえてよかったよ!
水着は準備してあるから、早速お湯を準備して入ろうか。
キセルおう!

十手たちはシャワー室で身体を洗い、水着に着替えた。

十手よーし、準備万端だな!
それじゃ、軽く身体を慣らしてから湯船へ……。
十手おや? キセル君、サングラスをかけたままじゃないか。
こっちの棚に置いておこうか?
キセルいや……こいつはこのままでいいんだ。
十手え?
湯気で曇って何も見えなくなりそうなもんだが……。
キセル構わねェ!
十手そ、そうかい……?
キセルおう。ほら、入ろうぜ。

キセルと十手は湯船に入り、ほっと息をついた。

キセルあ~、いい湯だなァ~!
十手沁みるなぁ……!

2人は、お互いの近況などを話しつつ、のんびり湯に浸かる。

十手(サングラスが真っ白に曇ってしまっているが、
キセル君は勝手悪くないんだろうか……?
視界を遮ることで、より温泉気分に浸っているとか……?)

気になった十手が、キセルのサングラスを見ていた時だった。

──ボチャン!!

キセル&十手うわっ!?
キセルなんだ!?
……って、こりゃあボールか。
生徒すみません! あいつが飛ばしすぎてしまって……!
大丈夫ですか? 当たっていませんか!?
キセルおう、大丈夫だから気にすんな。
野球かい? 楽しめよ!
生徒ありがとうございました!

キセルの手からボールを受け取ると、
生徒はお礼を言って走り去っていった。

十手キセル君、サングラスを外して拭いたほうがいいんじゃないか!?
曇と水しぶきでびしゃびしゃになってしまっているよ……!
キセルいーや! 外さねェ!
これしきの水滴、なんてことはねェさ!
キセル……ふぅ、だいぶ温まってきたな。
俺ァ1回出て、少し風にあたってからまた入ることにするぜ。

立ち上がってバスタブの外に出ようとしたキセルだったが、
サングラスの曇と水滴で視界が悪く、ぐらりと大きくよろける。

キセルうおっ!?
十手あ、あぶない!

慌てて十手が支えて事なきを得る。

キセルすまねェ……助かったぜ。
十手なあ、キセル君……危ないから、やっぱりサングラスは──
キセル外さねェ……!!
十手(……キセル君、なんでここまで頑なにサングラスを
外さないんだろうか……?)
十手(……あっ!
そういえば、日本で会った時に……)

キセルああ、そうだ。このサングラスを外すと、
俺はたちまち弱気な俺に戻っちまう。
……このことは他言無用だぜ?


十手……前に、サングラスを外すと──って話してくれたよね。
それと関係があるのかい?
十手水臭いじゃないか。『裸の付き合い』って言うだろう?
俺はどんなキセル君でも気にしないよ。
キセル悪ィな。これは俺の意地と誇りの問題なんだ。
お前は気にしなくても、俺自身がな……。
キセル……てめェらの前では、格好つけさせてくれや。
十手……そうか。うん、そういうことなら!
十手(これは、キセル君の矜持なんだな。
どんな時も、自分が納得できる格好いい自分でいる……!
その姿勢、俺も見習わなくてはなぁ……)

Ep2. 深夜の貴銃士たち

フィルクレヴァート士官学校創立7周年記念行事の裏で、
貴銃士たちが入れ替わるという珍事件が起こっていた。

十手はキセルと入れ替わり、
彼と共に街のパブやバーで飲んだあと、士官学校へと戻ってきた。

十手あっはっは! いい夜だなぁ~。
キセル俺のナリした十手と飲み交わす夜なんざ、
これきりかもしれねェな。
はっはっは、面白い夜だぜ、まったく!
十手本当だねぇ。
あぁ~♪ 旨い酒と月夜~♪
キセルあ~ヨイヨイ!
十手&キセルだっはっはっは!

上機嫌な2人が肩を組んで歌いながら寮に入ると、
ドライゼ──と入れ替わったシャルルヴィルと遭遇した。

シャルルヴィルあ、2人ともおかえりなさい。
十手&キセル…………。
十手……!
ああ、そうだった、シャルルヴィル君か!
ただいま。
十手いやぁ、見慣れない姿なもんで驚いてしまったよ。
キセル俺もだ。
酔いが回って幻覚が見えたのかと思ったぜ……。
シャルルヴィルあはは……。
ボクもさっき、窓に写った自分の姿にびっくりしたよ……。
キセルそれで、こんな夜更けに寝巻姿でどうしたんだ?
十手ああ、言われてみれば確かに。
シャルル君は普段なら寝ている頃だろう?

キセルは招待客扱いのため、門限といったルールには縛られない。
十手も許可をもらって一緒に外出していたのだが、
通常であればもうとっくに就寝している時間だ。

シャルルヴィルそ、それが……。
キセルモジモジしてどうした?
怪談話でも聞いて、トイレに行きづらくなったか?
十手おお、それなら、俺でよければ付き合おう。
シャルルヴィルち、違うよ!
よくわからないんだけど、身体がなんだか落ち着かなくて……。
横になっても眠れなくて参ってるんだ。
シャルルヴィル身体がカッカするっていうか、こう……。
ウワ~!ってなって、寝ていられない感じっていうか……。
十手ふむふむ。それで散歩をしていたんだね。
俺は特に、そういう落ち着かない感覚はないが……。
それも入れ替わりの影響なのかなぁ……?
キセル……ああ!
十手キセル君? 何かわかったのかい?
キセルシャルルヴィル、お前さん……
今日は筋トレやら走り込みやらしてねェよな?
シャルルヴィルえ? してないよ。
だって今日はそれどころじゃなかったし……。
キセル理由はそれかもしれねえなァ。
シャルルヴィルど、どういうこと!?
キセル俺が知ってる方のドライゼの話になるが、
あいつは毎日厳しい訓練を己に課していたモンだ。
キセル俺はこっちのドライゼの日常を詳しく知ってるわけじゃねェが、
あの鍛え上げられた身体つきだ。
日々相当な鍛錬をしてるのは間違いなさそうだろ?
キセルつまり、だ。
そんなドライゼの身体を大して動かしていない今日、
体力があり余り過ぎて、うまく寝つけねェってことだ。
十手ほほう! なるほどなぁ~!
いよっ、キセル君、天才っ!
これにて一件落着だね。
シャルルヴィルえっ、ええっ!?
そうかもしれないけど、全然解決してないよ!?
十手なぁに、体力を使ってしまえばいいのさ。
こんな風にあらよっと踊って──ふぉっ!?
シャルルヴィル十手さん!!

酔いが回って少し足元がおぼつかなかった十手がよろめく。
シャルルヴィルはとっさに手を伸ばし、
十手の手首をつかむが──……

十手あいだぁっ!
シャルルヴィルわっ! ごめんなさいっ!

ドライゼの身体でいつものようにぐっと力を入れたため、
十手の手首が軋むほどの力になってしまう。
悲鳴を聞いて、シャルルヴィルは慌てて手を離してしまった。

十手いででで……。

結局、十手は勢いよく尻もちをつくことになり、
手首と尾てい骨のあたりをさする。

シャルルヴィルだ、大丈夫……!?
ごめんなさい、ボク……!
十手いやいや、酒を過ごした俺が悪いんだから気にしないでくれ。

立ち上がろうとした十手だったが、
足に力を入れた途端、その眉間にしわが寄る。

キセルおい、どうした?
立てねェのか?
十手も、申し訳ない、キセル君……。
キセル君の身体だってのに、足を捻ってしまった。
シャルルヴィルええっ!? た、大変!
治療しないとだよね……。
〇〇のところに行こう!
キセル悪ィが、シャルルヴィル。
俺も足元がちぃとふらついててな。
十手のことを頼めるか?
シャルルヴィルうん、任せて。肩を貸すよ!
キセル…………。
シャルルヴィルキセルさん?
キセルなあ、シャルルヴィル。
今のお前なら、十手を抱えられるんじゃねぇか?
シャルルヴィルええ!?
ボク、エスコートとかダンスならしたことあるけど、
大人の男の人を持ち上げたことなんて……。
キセルお前はな。けど、考えてみろ。
今のお前にはドライゼの力があるんだぜ……?
シャルルヴィル……! 試してみる!

シャルルヴィルは慎重に十手へと手を伸ばす。
そして、ひょいっと軽く抱え上げた。

シャルルヴィルわぁ! すごい! 持てる!!!
キセルだろォ~?
シャルルヴィルまだまだ余裕ってことは、もしかして……。

ジーグブルートったく、なんの騒ぎだ……?
この状況で落ち着かねぇのはわかるが、何時だと思ってやがる。

在坂と入れ替わっているジーグブルートの視線の先には、
ネグリジェを着たドライゼが十手とキセルを肩に乗せ、
廊下を駆け回ってる姿があった。

シャルルヴィルすごーい! ドライゼさんの身体って本当にすごい!
何人乗っても大丈夫そう!!
キセル&十手あっははははは!!
在坂……デカ、在坂もあれに乗ってみたい。
乗れるだろうか?
シャルルヴィルおっ、乗っちゃう?
ジーグブルートや、やめろ。何言ってんだ。
絶対やめろ。
在坂在坂はデカの指図は受けない。
ジーグブルート今のテメェは俺の身体だろうが!
やめろ! なんか……なんか絵面が見たくねぇ!
シャルルヴィルあはははっ!
大丈夫、やっちゃおやっちゃお!
シャルルヴィル持ち上げるよ~!
在坂ああ。
ジーグブルートおい、や、やめろ……!
ジーグブルートうわぁぁあああ……!

士官学校ザクロ寮では、ジーグブルートを抱えるドライゼという
この一夜しか見られない謎の光景が広がることになったのだった。

Ep3. 変化と過去への想い

──7周年記念行事を終え、入れ替わりも無事に解決し、
キセルが日本へ帰国する日がやってきた。

キセルよぉ、帰る前に挨拶に来たぜェ!
主人公【大変な滞在になったね】
【今回はいろいろあったね……】
キセルいやいや、面白かったぜ。
他人の体になるなんて、経験したくてもできねえことだからなァ!
主人公【イギリスは楽しめた?】
→キセル「おう!
レジスタンス時代を思い出して懐かしくもあったな!」

【士官学校はどうだった?】

→キセル「賑やかで退屈しなかったぜ!
露天風の風呂にも入れたしな。ははっ!」
キセルしっかし、楽しい時間ってのはあっという間だなァ。
楽しかった分、別れが寂しくなっちまうぜ。
主人公【またいつでも来てほしい】
【また会える日を楽しみにしてる】
キセルもう少し行き来が楽になるといいんだが……。
お偉いさんたちに頑張ってもらうしかねえなァ。
キセル……それはそうと、十手のことなんだが。
あいつ……最初に日本に来た時と比べると、本当に変わったなァ。
キセル佇まいが凛として、男前になってきたじゃあねェか。
自信もついて、真っ直ぐに前を見るようになった。
優しくて思いやりのある温かいところは変わらねェ。
キセル粋でいなせないい貴銃士になったもんだ!
主人公【自分もそう思う】
【あれからまたいろいろあったから……】

十手には良いことばかりでなく、
悲しいことも辛い出来事もあった。

しかし、十手は一度打ちひしがれたとしても、
自分のできる最善を尽くそうと顔を上げ、
前を向き走り続けたのだと〇〇は話す。

キセルそうか……。
努力家の十手らしいな。
主人公【十手はすごいと思う】
【十手のそういうところを尊敬している】
キセル〇〇にそう思われて、
十手も嬉しいだろうよ。
キセル…………。
キセル十手は、ことあるごとに俺のことを尊敬してると言ってくれる。
俺ァ、それが本当に嬉しくて、ありがたくてな……。
キセル……でも、それと同時に申し訳ない気持ちにもなるんだ。
主人公【どうして?】
【申し訳ない……?】
キセル……〇〇、お前さんには言ったことがあったかねェ?
俺は、サングラスがなきゃだめでよ。
これがないとあっという間に、弱い自分に戻っちまう。
キセル本当はそっちの方が素なんだよ。
今は四六時中、仮面を被っているようなもんさ。
キセルカシラを支えて、組の奴らを引っ張っていける、
強く堂々とした粋な俺でなくちゃあならねェ。
そうありたい俺が選んだ道だ。
キセルだってのに──……
いや、悪ィ。話が逸れちまったな。
俺のことはいい、十手の話だ。
キセルあいつは弱い自分を受け入れて、成長している。
俺よりあいつのほうがよっぽどすごいと、俺は思うぜ。
十手【十手の成長はキセルのおかげでもある】

十手を励まし、道筋を示してくれたキセル。
十手も恐れずに自分自身をさらけ出し、
まっすぐに周囲と向き合ったからこそ今がある。

〇〇が考えを伝えると、
キセルは静かに瞼を伏せた。

キセル…………。
主人公【キセル?】
【大丈夫?】
キセル……っ、ああ、悪ィ。
ぼーっとしちまったか。
キセルなんでもねェさ。ただ、俺にも昔、
そういう風に言ってくれた奴らがいた……と思い出してな。
キセル…………。
キセル……恐れずにさらけ出す、か。
キセル(俺はまだ怖いよ、──)

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