これは遠い記憶の欠片。アメリカでの、彼らの物語の前日譚。
祖国のため、働き続けたケンタッキー。けど、大統領から言い渡されたのは「もう働くな」という命令で……?
「マスター。俺、大事なこと忘れてたっス」
ケンタッキーライフルは、なんのために戦った?
……わかりきってる答えを、俺、いつの間にか忘れてました。恥ぃッス。ほんと。
自由への誓いを、今一度。
主人公名:〇〇
主人公の一人称:自分
これは、〇〇たちが
アメリカを訪れる前のこと。
その日……アメリカ政府の中枢“スターズハウス”では、
机に置かれたケンタッキー・ライフルに
人々の熱い視線が注がれていた。
ケンタッキー | ……ん……。 |
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ケンタッキーがゆっくりと目を開いた瞬間、
いくつもの破裂音が鳴り響く。
スーツ姿の男女 | Welcome to USA! Yeah~~~! |
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ケンタッキー | ……っ!? |
ケンタッキー | (銃声……っ!?) |
スーツ姿の男女 | ようこそフリーダムの国アメリカへ! Foooooooooooooooooooo!! |
ケンタッキー | なっ……!? |
警戒するケンタッキーとは裏腹に、
彼らはケンタッキーにパーティー帽を被せたり、
カラフルな羽の首飾りをかけたりし始める。
ケンタッキー | ちょ、おいやめろっつーの! なんだよ、この音! 襲撃か!? |
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??? | やあ、驚かせてしまったかい? これはクラッカーという、パーティーグッズのサウンドさ! |
ケンタッキー | パーティ!? っつーか、めちゃくちゃうるせぇ! なんだコイツらは! |
??? | 何って、Youの歓迎パーティだよ! ケンタッキーはアメリカの英雄じゃないか! 我々はYouのことを待っていたんだよ。 |
ケンタッキー | え? 英雄……? んふっ、……ま、まぁ、そうだけど? |
ケンタッキー | つーか、あんた誰? |
大統領 | よくぞ聞いてくれた…… 私はこのアメリカのリーダーを務める、大統領さっ! |
ケンタッキー | えっ、あん……あ、あなたが!? |
大統領 | Yes! そして、こっちが君のマスターだ! マイケル、Come on! |
マイケル・ダイアモンド | Hello! ケンタッキー! 俺が君のマスター、マイケル・ダイアモンドだ! |
ケンタッキー | あ、よ、よろしくっす! |
2人は固い握手を交わす。
が、マイケルの握手は──
ケンタッキー | あがが、て、手の力、強~っ! |
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マイケル・ダイアモンド | Yes! 世界中の山で鍛えた握力は誰にも負けないぞっ☆ |
ケンタッキー | 山なら鍛えられるのは脚力だろ~!? |
スーツの女 | 本当に喜ばしいわ! これで貴銃士が2人になったんだもの! |
スーツの男 | そうだね! ペンシルヴァニアの次がケンタッキーとは、大統領も洒落てるぜ! |
ケンタッキー | ……!? ちょ、おいあんたら! 今、ペンシルヴァニアって……。 |
スーツの女 | ええ、そうよ。 あなたの前に、ペンシルヴァニアが召銃されているの。 |
スーツの男 | 今も、訪問やセレモニーへの立ち会いとか…… 貴銃士に割り当てられた公務を一手に引き受けて、大活躍中さ! |
ケンタッキー | ……! |
ケンタッキー | (アイツが、俺より先に……!?) |
スーツの男 | そうだ、キミもペンシルヴァニアに 色々と教えてもらうといい。 |
スーツの女 | そうね。 先輩として、きっとあなたの力になってくれるわ! |
ケンタッキー | ……っ! |
ケンタッキー | (ペンシルヴァニア…… アメリカの独立を支えた、最初の銃…… そして俺の──超えるべき壁!) |
ケンタッキー | 先輩としてリスペクトだと……? 冗談じゃねぇよ。 |
ケンタッキー | ペンシルヴァニアよりケンタッキーライフルの方が 1000倍ハイパーバチバチにカッケーってこと、 世界中に知らしめてやらぁっ!! |
召銃されてからというもの、ケンタッキーは
毎日のように、ペンシルヴァニアに対して
何かしらの勝負を挑み続けていた。
──が、全戦全敗の記録を
伸ばし続けるだけに留まっているのだった……。
ケンタッキー | チッ! 昨日のマラソンはイケると思ったのに……。 |
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ケンタッキー | いや、ここで諦めたら男が廃るっつーの! 今日こそは絶対アイツに、負けを認めさせてやんぜ! |
ケンタッキー | たのもうっ! ペンシルヴァニアー! 今日は玉ねぎのみじん切り勝負だ! |
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ケンタッキー | ……ん? 誰もいねー。 |
ケンタッキー | (この時間は、公務とか外出の予定とかも なかったはずだけど……ん?) |
室内を見回したケンタッキーは、おかしな点に気づく。
クローゼットは開けっ放しで、引き出しも出たまま。
まるで、大慌てで荷造りでもしたような──。
ケンタッキー | …………。 |
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嫌な予感を覚えたケンタッキーは、
足早にペンシルヴァニアの机へと向かう。
すると、そこには──。
書き置き | 『広い世界を旅したい。 ケンタッキー、あとは任せた』 |
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ケンタッキー | ……んだよ、これッ!? |
秘書 | ──失礼いたします、ペンシルヴァニアさ……っと、 あら? ケンタッキー様、お1人ですか? |
秘書 | それに……このお部屋の散らかりようはいったい──。 |
ケンタッキー | ……逃げ出しやがった。 |
秘書 | えっ……? |
ケンタッキー | あいつらっ……! 仕事ほっぽって逃げ出しやがった!! |
ペンシルヴァニアと、そのマスターが
いなくなってしまってから数日──。
ケンタッキーは、2人が担っていた公務を
すべて受け持つことになっていた。
ケンタッキー | ふんぬ~~~!!! |
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苛立ちをぶつけるように、
ケンタッキーは書類にサインを書き続ける。
ケンタッキー | あいつぅぅぅ…… アメリカを裏切って出ていくとか、マジで許せねぇ! |
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ケンタッキー | (あとで泣きながら戻ってきたって、 お前の居場所なんてもうねぇぞ──……ん?) |
そこでケンタッキーは、
ふと、あることに思い至って手を止めた。
ケンタッキー | ……よく考えたらこれって、 むしろチャンスじゃねぇか……? |
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ケンタッキー | そうだよ! 今の状況って、ペンシルヴァニアより ケンタッキー・ライフルの方が頼りになるって 認めさせる最高のチャンスなんじゃねぇか!? |
ケンタッキー | そうと決まれば……うっし! |
ケンタッキー | この紙の山、ソッコーで片付けてやるぜっ!!! どりゃあああああっ!!! |
ペンシルヴァニアがいなくなってから1ヶ月が経過し、
ケンタッキーは、ほぼ分刻みの過密な日程で
なんとか公務をこなしていた。
ケンタッキー | ……ハァ……。 |
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要人が多数集まる立食パーティーの中央──。
人々に囲まれながら、ケンタッキーは
くらくらと視界が揺れる感覚に襲われていた。
ケンタッキー | (あー……くそっ、なんだこの感じ……) |
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乗り物酔いのような気持ち悪さを、
ケンタッキーは唾を飲み込んで堪えた。
ケンタッキー | (しっかりしろ、俺……! ペンシルヴァニアよりスゲーんだってとこ、 証明してやるって決めただろ!) |
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ケンタッキー | (それに……今、アメリカのヤツらには、 俺しかいねぇんだから……) |
スーツの男1 | ──おや? どうしたんだい、ケンタッキー! ひょっとして、パーティーは退屈かい? |
ケンタッキー | ……あ。 ま、まさか! サイコーだぜ! |
スーツの男2 | へぇ、君が噂の貴銃士なのか! こりゃ光栄だ。お近づきのしるしに、 貴銃士の力をここで見せてくれないか! |
ケンタッキー | えっ……。 |
スーツの男1 | HAHA! よさないか。 彼が本気を出したら、 ここにあるディナーがすべて吹っ飛んじまうよ! |
ケンタッキー | ……おう、その通りだ! 物騒なことは、ナシにしようぜ! |
ツースの男2 | なるほど。これは失礼! |
ケンタッキー | いえいえー、ははっ……。 |
ケンタッキー | ──……ふぅ。 |
談笑の輪からそっと離れようとした、その時──
ケンタッキーの視界が、大きくぐらりと揺れた。
ケンタッキー | ……っ! |
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スーツの男2 | ……っ!? どうしたんだい、ケンタッキー君!? |
スーツの男1 | 誰か……! ──……! |
ケンタッキー | ん……? ここって……。 |
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大統領 | ……! 気がついたかい……! |
ケンタッキー | ちょ、なんであなたがいるんすか!? さっきのパーティは……! |
大統領 | Youが心配で、早めに切り上げてきたのさ。 ……どうやら、だいぶ無理をさせてしまっていたようだね。 |
ケンタッキー | ……! |
大統領 | 過労と寝不足のダブルパンチだと、 ドクターが言っていたよ。 |
大統領 | アメリカのために頑張ろうという、 Youの気持ちが嬉しくて、止め損なってしまった…… 本当に申し訳ないことをしたね。 |
大統領 | だが、無茶はSo Badだ! やはり、ペンシルヴァニアを探し出して── |
ケンタッキー | ──ッ! そんなことねーっす! |
ケンタッキー | 俺は大丈夫っすから! ペンシルヴァニアなんかに頼らなくても、 アイツの分も俺は全部こなしてみせるんで!! |
大統領 | No! それは受け入れられないよ。 |
ケンタッキー | けど……! |
大統領 | とりあえず、今日のところはゆっくり休むんだ。 いいね? ……また明日、様子を見に来るよ。 |
ケンタッキー | ……っ! |
ケンタッキー | あんなに頑張ったのに…… みんなやっぱり、ペンシルヴァニアがいなきゃって…… そう思ってたんだな。 |
ケンタッキー | ……クソッ!! |
ケンタッキー | あの野郎……ここまでみんなに望まれて…… それなのに……逃げ出しやがって! |
ケンタッキーは、行き場のない怒りに顔を歪め
ベッドに何度も拳を叩きつける。
ケンタッキー | クソッ……! やっぱりアイツは、許せねぇ……! |
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ケンタッキーとペンシルヴァニアが、
士官学校に来てからのこと──。
ケンタッキー | ……はぁ~……。 |
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主人公 | 【こんにちは】 【どうしたの?】 |
ケンタッキー | あ、マスター……! いや、マスターに気にかけてもらうほどでは……。 |
ケンタッキー | …………。 |
ケンタッキー | えーと、その……実は、大統領から 強制的に長期休暇を言い渡されちまったんです。 |
主人公 | 【強制的に……?】 【休暇、嬉しくないの?】 |
ケンタッキー | ……そうっスよね。 これだけじゃ、意味わかんねーか。 その、もっと詳しく説明すると──。 |
大統領 | Youが頑張り屋なのは痛いほどわかっているよ。 だけど、今のYouは……仕事にとらわれすぎて、 大事なものを見失っているような気がする。 |
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大統領 | そこで──ジャジャン! 今この瞬間から、強制的に公務をすべて休みとする! Long Vacationを思い切り楽しんできて☆ |
ケンタッキー | こんなカンジのこと、言われたんすよ。 |
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主人公 | 【そうなんだ……】 【愉快な人だね……?】 |
ケンタッキー | それからずっと、考えてたっす。 大統領が言ってたことについて……。 |
ケンタッキー | けど……頑張りすぎだから休めとか、 大事なものを見失っているとか…… やっぱ、ワケわかんねーっすよ! |
ケンタッキー | ……本当は、ペンシルヴァニアが戻ってきたから、 俺はもういらねーってことなのかも……。 |
主人公 | 【そんなことは……】 |
ペンシルヴァニア | それは違う! |
ケンタッキー | うおっっ!? て、てめ、盗み聞きとか趣味悪ィぞ!! |
ペンシルヴァニア | あ……すまない。 お前の様子が気になって様子を見に来たら、 話し声が聞こえてな。 |
ペンシルヴァニア | だが、これだけは言わせてほしい。 ケンタッキーは……大統領の言葉を誤解している。 |
ケンタッキー | ……っ! は、はぁ? なんだよ。 なら、あんたにはわかるってのかよ!? |
ペンシルヴァニア | 彼らは……アメリカのみんなは、 ケンタッキーが嫌いだとか必要なくなっただとか、 そんな理由で休みを与えたわけではない。 |
ペンシルヴァニア | ──ケンタッキーに大切なものを取り戻してほしい。 その一心で、時間を与えたんだ……。 |
ケンタッキー | …………。 |
ペンシルヴァニア | 今、お前がするべきなのは、 落ち込むことではないはずだ。 |
ペンシルヴァニア | 彼らの気持ちを受け取って…… 思いっきり自由を謳歌すればいい。 |
ケンタッキー | 自由……。 |
ケンタッキー | ……そういや、 最近俺だけの自由な時間ってなかったな……。 |
ペンシルヴァニア | …………。 それだけ、公務に励んできたんだろう。 |
ケンタッキー | けど、いきなり暇になってもなぁ……。 何すればいいのかわかんねぇし……。 |
主人公 | 【そうだ!】 【1つ、提案がある】 |
ケンタッキー | な、なんすか、マスター? |
主人公 | 【海を見にいこう!】 |
ケンタッキー | う、海!? |
ケンタッキー | スッゲー! 海だ海! ひっさびさに見た! |
---|---|
ケンタッキー | すぅー……── |
ケンタッキー | おおーーーーい!!!!! |
ケンタッキー | あー、やっぱ海は広ぇ! でけぇ! 水平線までなーんもねぇ! |
ケンタッキー | 今、俺は、こんな広ぇ世界で…… 自由に、好き勝手してんだ! ──していいんだ! |
ケンタッキー | はは、そうか。 こういうことだったんだ! 大統領が俺に言いたかったのは!! |
ケンタッキー | 自由をなくしちまったら、アメリカンじゃねぇ! |
ケンタッキー | 俺はここにいる! アメリカのケンタッキー・ライフルは、 ここで楽しく自由にやってるぜ~~~! |
星条旗を誇らしげに掲げながら、
ケンタッキーは笑う。
そして〇〇に手を振りながら、
吹っ切れたようにどこまでも駆けていくのだった。
ケンタッキーと〇〇が、
海へ出かけてから数日後──。
ケンタッキー | あ、マスター! こっちっすよ! ささっ、どうぞ座ってくださいっす! |
---|---|
主人公 | 【招待状をもらったけど……】 【今日はどうしたの?】 |
ケンタッキー | それはですね…… 大切なことに気づかせてくれたマスターへ、 お礼をしたいと思いまして! |
ケンタッキー | 僭越ながら……自分の大好物である ホットブラウンを作らせていただきました! |
主人公 | 【おお~っ!】 【美味しそう!】 |
ケンタッキー | へへっ……それじゃあ、 さっそく召し上がってください! ッス! |
主人公 | 【いただきます!】 |
ケンタッキー | よーし。 それじゃ俺も一緒に……はむっ! |
とろとろのチーズやホワイトソースを吸ったパンに挟まれた、
程よい柔らかさのチキン。
新鮮なトマトや、カリカリのベーコンも挟まれている。
胡椒の風味が全体を引き締め、
ホットブラウンは、極上の味わいとなっていた。
ケンタッキー | はふっ! いやぁ、これはやべぇ…… 我ながら罪深いもんを作っちまったぜ……! |
---|---|
ケンタッキー | ハッ……マ、マスター的にはどうっすか? ウマイっすかね……!? |
主人公 | 【最高!】 【とっても美味しい!】 |
ケンタッキー | マジっすか!? よかったっす~!! 今度はバーベキューもやりてぇって思ってるんすよ! |
ケンタッキー | まずロッジを借りて、山で鹿とか狩って! 湖で釣りして~、それから……。 |
ケンタッキー | ……あ、1人で盛り上がっちまってすんません! あの……自分、マスターのおかげで 自由の魂を取り戻すことができたんスけど……。 |
ケンタッキー | あれから、やりたいことが次から次へと思い浮かんで、 大変なんすよ! |
ケンタッキー | 今までできてなかったことをしてみたいし、 忙しくなる前にやってたことも、またやりたくなって! |
ケンタッキー | あ、知らなかったことも知りてーっす! それに、アメリカ以外の国の 面白いとこも探してーなーって……! |
〇〇を見つめながら、
ケンタッキーはキラキラとした瞳で語り続ける。
ケンタッキー | 前は、休暇とか何すればいいのかわかんねーって カンジだったのに…… 今はむしろ時間が足りなくて、困ってるくらいで! |
---|---|
主人公 | 【よかったね】 【すごく素敵だと思う】 |
ケンタッキー | へへ……はいっ! だから自分、このホットブラウンに マスターへの気持ちをめっちゃくちゃ込めて── |
ジョージ | あー! なんかうまそーなの食ってる! ずるいぞ~!! |
ケンタッキー | ……は!? |
ジョージ | なぁなぁ、オレのは!? オレにも食わせろよー! |
ケンタッキー | ……っ! あるわけねーだろ! 食いたきゃ自分で作れ! |
ジョージ | えー! なーケンタッキー。作ってくれよ~! |
ケンタッキー | ちょ、マジやめろって……! |
ねだりながら肩を揺さぶるジョージの手が
海ですっかり日焼けしたケンタッキーの肌を、
服越しに思い切りこすった。
ケンタッキー | いってぇぇぇぇっ! |
---|---|
ジョージ | What’s!? あ……あはは……ごめんケンタッキー! わざとじゃないんだぞ? |
ケンタッキー | ジョージ……歯ァ食いしばれやァ! |
ジョージ | わー! Sorry! ほんとごめんってばー!! |
ケンタッキー | 謝って済むなら軍人はいらねーんだよ! |
ジョージ | ひえええええ~っ! |
追いかけっこを始める2人を、
〇〇も追いかけて止めに入る。
そうして、賑やかで穏やかな午後は
過ぎていくのだった。
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