これは遠い記憶の欠片。イギリスでの、彼らの物語の前日譚。
歪に捩れた兄弟銃の思惑は、秘匿された地下室に鬱積する。
「己惚れるな。いつまでも大人しくしていると思ったら大間違いだ──」
征服したとでも思ったか?
俺が折れたとでも思ったか?
……は。笑わせてくれる。
結局お前も俺の手の上だ。
すぐに、俺の色に染めてやる。
主人公名:〇〇
主人公の一人称:自分
これは、〇〇たちが
イギリスの招待されるよりも前の話──。
エンフィールド | ……! |
---|---|
スナイダー | …………。 |
??? | お目覚めでしょうか? 我が国の、新たな貴銃士様── |
エンフィールド | はじめまして、マスター! |
??? | ……あなたのマスターは私ではなく── |
スナイダー | (これが腕……ここが足…… なるほど、こう動くのか) |
エンフィールド | ──の取れた身体つきだと思いまして。 そんな方が、僕のマスターになってくださる なんて光栄── |
スナイダー | ほう……。 |
スナイダーが手に入れたばかりの肉体を確認している間、
2人の男とエンフィールドは、何やらずっと話し続けている。
スナイダー | おい、くだらん話は十分だ。 |
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スナイダー | 俺たちを召銃した目的を言え。 すぐに終わらせてやる。 |
エンフィールド | こら、スナイダー! ダメだろう? 初対面の方々だよ。 |
アッカーソン | これは失礼を。話を先へ進めましょう。 我々があなた方に望むことは1つ……。 |
アッカーソン | 絶対高貴の力で、 イギリスを支えていただきたい……! |
エンフィールド | お任せください! このエンフィールド、 必ず絶対高貴の力を使いこなしてみせましょう! |
スナイダー | …………。 |
エンフィールド | スナイダー。さっきの態度、良くないよ。 君は僕にとっては弟みたいな存在なんだから、 ちゃんと注意していくからね! |
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スナイダー | ……弟、か。 |
数日後──。
スナイダーは、最近出没するという正体不明の強敵を
探すために、1人で城の外へと足を運んでいた。
ロナルド | お2人のマスターに選ばれたこと、 大変誇りに思います! 必ずや、共に絶対高貴への道を開きましょう! |
---|
スナイダー | ……俺は、俺の役目を果たすまでだ。 |
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スナイダー | ……ッ! |
木々の奥から何者かの視線を感じ、
スナイダーは警戒をより強める。
スナイダー | …………。 |
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アウトレイジャー | ……殺、ス……。 |
スナイダー | 自ら撃たれに来るとはな。 |
スナイダーは素早く銃を構え、
敵の頭に狙いを定めて引き金を引く。
放たれた銃弾は寸分たがわず。標的を撃ち抜いた。
アウトレイジャー | ウ……ガァ……。 |
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スナイダー | 並みの強さではないと聞いていたが…… 拍子抜けだな。 |
興味を失い、スナイダーが立ち去りかけた時だった。
アウトレイジャー | ……殺ス……! |
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スナイダー | ……!? |
頭部を損傷して倒れたはずの敵が、
何事もなかったかのようにゆらりと立ち上がる。
スナイダー | ほう……少しは骨があったというわけか。 |
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──十数分の戦闘の末、
スナイダーは謎の敵を撤退させるに至ったが、
自らも負傷して、ぐったりと木に寄りかかっていた。
スナイダー | はぁ……、はぁ……。 あれは、一体なんだったんだ……? |
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スナイダー | あらゆる急所を撃っても、すぐに動き出す。 不死身なのか……? |
未知なる敵を倒す方法について
考えを巡らせるスナイダーだったが、
やがて、視界にモヤがかかり始める。
スナイダー | (くそ……血が止まらない…… 前が……見え……な……) |
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エンフィールド | ……スナイダー? 出てきてくれ! おーい! |
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エンフィールド | まったく、一体どこまで行っ── |
エンフィールド | あっ! あれは……スナイダー!? |
スナイダー | (ん……? この感覚は……) |
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スナイダーがゆっくりと目を開けると、
真っ先に視界に入ってきたのは、
エンフィールドの心配そうな顔だった。
スナイダー | ……なんだ。 |
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エンフィールド | なんだ、じゃないよ! いなくなった君を探して森に入ったら 銃に戻っていて……僕がどんなに驚いたことか……! |
エンフィールド | 大急ぎでマスターのとろこに君を運んで、 再び召銃してもらったんだからね! |
エンフィールド | 森で一体何があったんだい? 勝手に戦ってたみたいだけど、 君が銃に戻るほどの深手を負うなんて…… |
エンフィールド | まさか、例の正体不明の難敵ってやつと 遭遇したのかい……? |
スナイダー | (そうか、俺はあのあと……) |
スナイダー | 奴を倒すにはどうすればいい……。 肉体を損傷しても駄目なら、 銃を狙ってみるか……? |
エンフィールド | はぁ……僕の話を全然聞いていないことはわかったよ。 その様子だと、反省なんてこともあり得なそうだ。 |
エンフィールド | まったく、1人で無茶するなんて……。 本体が修復不能なまでに壊れたら、僕たちはたぶん、 もう2度と貴銃士として目覚められない。 |
エンフィールド | 貴銃士になれない壊れた古銃なんて、 きっとお払い箱だ。 破棄されてしまうことになるんだよ? |
スナイダー | ……黙れ。 次はこんなことにはならない。 |
エンフィールド | はぁ……。 頼むから、少しくらい僕の言うことを聞いてくれよ。 |
ロナルド | まあまあ……とにかく、良かったではないですか。 スナイダー殿もこうして無事── |
ロナルド | うっ……! |
エンフィールド | ロナルドさん!? 大丈夫ですか!? |
ロナルド | 突然、痛みが……! …………。 |
ロナルド | は、はは……すみません。 安心して、気が緩んだようで……。 なんともないので、ご心配なさらず。 |
エンフィールド | ですが……。 |
スナイダー | フン、人騒がせな奴だ。 |
エンフィールド | なっ、君がそれを言うかい!? 大体、マスターの心労は君のせいだろう! まったく、君はどうして──! |
ロナルド | ははは……。 …………。 |
エンフィールド | こら! スナイダー! 今日という今日はもう許さないよ! |
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スナイダー | チッ……。 |
エンフィールド | さっきの君の態度はなんだい? せめて公式の場では、イギリスの紳士として、 礼儀正しくみんなに接するべきだろう! |
エンフィールド | 僕たち貴銃士を気にかけてくださる人たちの前で 溜息をつくなんて、言語道断だよ! |
スナイダー | 俺は銃だ。 人間どもの御機嫌取り用の玩具ではない。 銃に愛想を求めるな。 |
エンフィールド | マスターたちの迷惑にならないように、 最低限の礼儀は身につけておくべきだと言ってるんだ! |
エンフィールド | 大体、君は食事のマナーから問題がありすぎる。 シェフが丹精込めて作った料理を「ベトベトしている」 とか言ってほとんど何も食べないし! |
エンフィールド | もうマナー以前の問題だ! 僕たちは貴銃士という力ある者として、 ノブレス・オブリージュの精神を持って── |
スナイダー | …………。 |
エンフィールド | あっ、待て! スナイダー!! |
スナイダー | (銃が人間の真似事をするなど薄気味悪い。 エンフィールドは楽しいなら好きにすればいいが、 俺にまで同じことを求めるな) |
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スナイダー | (それよりも……力だ。 あのわけのわからん敵をも蹴散らせる、 圧倒的な力を手に入れたい……) |
スナイダー | 次こそ、必ず倒す……。 |
アウトレイジャー | 全テ、ヲ……破壊スル……。 |
---|---|
スナイダー | …………。 |
アウトレイジャー | ……殺、ス……。 |
スナイダー | ……くっ! |
スナイダー | ……もっとだ。もっと戦って、俺は……! |
アウトレイジャー | 殺ス……! |
スナイダー | はぁ、はぁ……くそっ! なぜこれだけ戦っても目覚めない! |
??? | おーおー、絶対高貴にもなれねぇ古銃が 必死に頑張っちゃって笑えるなぁ! |
スナイダー | なんだ、おまえは。 |
突如として訪れたその出会いは、
スナイダーに新たな選択肢を
もたらすことになるのだった──。
──ある日の夜。
イギリス、ウィンズダム宮殿では、
密かに事件が起きていた。
スナイダー | …………。 |
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スナイダーは、気を失ったエンフィールドを担ぎ、
人気のない暗い廊下を足音もなく進む。
スナイダー | ……城の警備は外側ばかり厳重だな、エンフィールド。 おかげで、おまえの危機には誰一人気付きそうにないぞ。 ……ククッ。 |
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エンフィールド | …………。 |
やがてスナイダーは、場内の一室に入ると、
エンフィールドを椅子に下ろし、
手首を背もたれの後ろに回して縛る。
スナイダー | 何度言っても駄目なら、 おまえを俺にしてわからせてやるまでだ。 |
---|
スナイダーは、エンフィールドの本体である銃を、
作業台の上に置いた。
エンフィールド | はぁ……。 どうすればブラウン・ベス先輩に会えるんだろう。 |
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エンフィールド | きっとブラウン・ベス先輩は、 女王陛下のおそばで忙しい日々を過ごしているんだと思うけど…… 早くお会いしたいなぁ。 |
スナイダー | おまえは、口を開けばブラウン・ベスの話ばかりだな。 |
エンフィールド | 当たり前じゃないか。 だって、ブラウン・ベス先輩は、1世紀以上にわたって使われて、 大英帝国を築いた銃とも言われている偉大な存在なんだよ? |
エンフィールド | ああ、早く先輩に会って話がしたいな。 お疲れだろうから紅茶を淹れて、 肩もみやマッサージをしてさしあげて……。 |
スナイダー | ……会ったこともない奴よりも、 世話を焼くべき相手がいるだろう? |
エンフィールド | え? それってもしかして、マスターのこと? ロナルドさんにはちゃんと、 紅茶やお菓子の差し入れをこまめにしているよ? |
スナイダー | …………。 |
エンフィールド | ~~♪ ~~~♪ |
---|---|
スナイダー | ……やけに上機嫌だな。 |
エンフィールド | ああ、さっき、マスターのご親戚の方々が 城に遊びに来ていてね。 |
エンフィールド | 小さい男の子が、僕を見て 「貴銃士のお兄ちゃんかっこいい!」って 大はしゃぎだったんだ。 |
エンフィールド | 僕はまだ、絶対高貴に目覚めることができていないけれど…… ああやって慕われるのは、嬉しいものだね。 |
スナイダー | …………。 |
スナイダー | エンフィールドお兄ちゃん。 |
エンフィールド | ……!? なんだよ、いきなり気味の悪い呼び方をして……! 何かよからぬ頼み事でもあるのかい? |
エンフィールド | ほら、それより絶対高貴になるための鍛錬だ。 君もふらふら出歩いてばかりいないで、 貴銃士としての力を高めるんだよ。 |
スナイダー | …………。 |
エンフィールド | なんて、禍々しい……! |
---|---|
スナイダー | なに? |
エンフィールド | 君は、一体どこで何をしていたんだい? 絶対高貴に目覚めることを放棄して、 そんな力を手に入れてくるなんて……。 |
エンフィールド | そんなものを使うのは、金輪際やめるんだ! |
スナイダー | …………。 |
スナイダー | 絶対高貴、ブラウン・ベス…… おまえの話はいつもそればかりだったな。 |
---|---|
スナイダー | だが……それも今日までだ。 おまえも俺になり、 力がすべてだと理解するようになるだろう。 |
スナイダー | ……さて、改造に必要な工具は……。 |
スナイダーは、部屋の隅へと工具箱を取りに行く。
一方、エンフィールドは、
うっすらと意識を取り戻していた。
エンフィールド | ん……。 ここは……? |
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エンフィールド | うっ……頭が……! |
エンフィールド | (そ、そうだ。 たしか、いきなり殴られて──) |
エンフィールド | なんだ、これ……!? |
エンフィールド | (動けない……! 椅子に縛りつけられてる!?) |
周囲を見回したエンフィールドは、
作業台の上にある自分の銃と工具箱、
そして、その前に佇むスナイダーを視認する。
エンフィールド | ……っ! |
---|---|
エンフィールド | まさか……! |
スナイダー | ほう、目が覚めたのか。 |
暗闇の中で、スナイダーが手にしている工具が
鈍く光を反射した──。
スナイダーが「療養中」ということになってから
しばらく経った頃のこと──。
スナイダー | …………。 |
---|---|
エンフィールド | さぁ、食事を持ってきたよ。 今日のメニューの中で一番シンプルだった、 野菜スープとパンだ。 |
スナイダー | 草だのなんだのを煮込んだ汁を食えと? いらん。 |
エンフィールド | 草じゃなくて野菜だよ。 栄養が豊富なんだ。 |
エンフィールド | 君、もう何日も水しか飲んでないだろう? いくら貴銃士でも危ないよ。 いい加減、ちゃんと栄養のあるものを食べないと……。 |
スナイダー | それより、俺を早くここから出せ。 |
エンフィールド | それはできな、──ッ! |
スナイダーは、鎖で繋がれていてもなお届く範囲内に
エンフィールドが入ったのを見逃さず殴りかかるが、
寸でのところで躱される。
エンフィールド | 油断も隙もない……! |
---|
すぐに体勢を整えるエンフィールドに向かって、
再度拳を振り上げるが──。
エンフィールド | くっ……! いい加減に──しろっ! |
---|---|
スナイダー | チッ……! |
もみ合いの末に押さえつけられて、
スナイダーは兄を鋭く睨みつける。
エンフィールド | はぁ……君って奴は、本当に……。 弱っていてくれて命拾いしたよ。 まさか、君の偏食に助けられる日がくるとはね。 |
---|---|
スナイダー | ……いつまで俺をここに閉じ込めておく気だ。 |
エンフィールド | 君が、僕の言うことを ちゃんと聞けるようになるまで……かな。 この様子だと、そんな日は当分来そうにないけど。 |
エンフィールド | いいかい、スナイダー。 自覚してるかわからないけど、今の君は弱ってる。 僕にあっさり後れをとるくらいにはね。 |
エンフィールド | 食事はここに置いていくから、 少しでも食べておいてくれ。いいね? 僕は、君を傷つけたいわけじゃないんだ。 |
スナイダー | …………。 |
エンフィールド | それじゃあ、また。 |
スナイダー | 傷つけたくはない、か。 いけしゃあしゃあと……。 |
スナイダー | 俺がいつまでも 大人しくしていると思ったら大間違いだ。 |
スナイダー | エンフィールド…… 必ずおまえを、俺と同じにしてやる。 |
薄暗い地下室の中で、
スナイダーは瞳を爛々と輝かせ、
エンフィールドが消えていった扉を見据えた。
スナイダーとエンフィールドが
〇〇の貴銃士となり、
士官学校で生活するようになってからのこと──。
??? | ──関係ないだろう。 |
---|---|
??? | またそうやって君は──! |
主人公 | 【……?】 【誰かが喧嘩してる……?】 |
エンフィールド | だから、どうして君はきちんと食事をとらないんだ! そんなに偏食だと、貴銃士としての力をちゃんと発揮できないし、 そもそも不健康だろう!? |
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スナイダー | この肉体を動かすために必要なだけの エネルギーは摂取している。 俺の貴銃士としての力に問題はない。 |
スナイダー | 仮に俺が多少弱っていたとしても、 おまえより強いことに変わりはない。 おまえも俺になってみればわかる。 |
エンフィールド | ……っ! だ、だから、改造は嫌だって言ってるだろう! |
スナイダー | ……わからんな。 力を手に入れることをなぜ否定する? |
エンフィールド | それは……僕だって強くなりたいけど、 それと君になることは別の問題だ! 僕は僕のままで高貴を磨いて強くなる……! |
スナイダー | ふん……その覚悟がいつまで持つか、見ものだな。 |
スナイダー | ……〇〇。 盗み聞きか? 大した趣味だな。 |
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主人公 | 【エンフィールドを脅すのはやめたらどうかな】 【改造はやめてあげてほしい】 |
スナイダー | ……俺に指図をするな。 |
スナイダー | 俺が大事な兄を強くしてやろうというのに、 文句でもあるのか? |
主人公 | 【疑問がある】 【……よくわからない】 |
スナイダー | 何がだ。言ってみろ。 |
主人公 | 【改造したら「エンフィールド」はいなくなる】 【「エンフィールド」が消えていいの?】 |
スナイダー | …………。 |
スナイダー | ……半人前の士官候補生の分際で、 生意気を言うようになったな。 |
スナイダー | …………。 おまえも改造──いや、 人間は改造できないのだったな。 |
スナイダー | だが……こういうのはどうだ? |
スナイダー | おまえがエンフィールドの改造をよしとするまで、 鎖で繋いで地下に閉じ込めておく。 |
スナイダー | おまえ1人程度、簡単にどこかへ隠せるさ。 地下なら叫び声も届かない。 ……どうだ? |
スナイダー | 嫌だと言うなら…… 黙って、せいぜい俺の役に立つよう、力を尽くすことだな。 |
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