これは彼がまだ目覚める前と、目覚めたあとの日常譚。
ライク・ツーが、何故か夜の街に頻繁に外出していると聞き、尾行開始した主人公だったが……
「こんなとこまでノコノコついてきてんじゃねーよ、馬鹿が」
俺のことがわからなくなった?
なら逆に、お前は俺の何をわかってると思ってたんだ?
わからない方が、いいことだってあるんだぜ。なあ、覗き魔さん。
主人公名:〇〇
主人公の一人称:自分
マークス | 人が多いな……。 |
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ライク・ツー | はぁ、なんで俺まで 一緒に出掛けなきゃなんねぇんだよ……。 |
ジョージ | HAHA☆ まーたそんなこと言って~! 全員分の外出許可を取り付けてくれたのは ライク・ツーじゃないか。 |
ジョージ | それってつまりー、 おまえも、俺たちと出かけるのを 楽しみにしてたってことだろ~? |
ライク・ツー | ちげーよバカ。調子に乗んな。 お前らがボーッとしてんのが 見ててイラついただけだっつーの。 |
ライク・ツー | 外出許可も取らずに出かける気だったなんてな。 規則違反でもしてみようってか? |
十手 | はは、面目ない……。 ライク・ツー君がしっかりしてて、助かったよ。 |
マークス | で、これからどこへ行くんだ。 |
ジョージ | 行き先はオレに任せろっ! いくつかいい感じの店をピックアップしてきたんだ。 |
ジョージ | えーっと、地図の右上の方だから……こっちだな! |
ライク・ツー | いや、それだと逆の方角。 ほら、さっさと行くぞ。 |
十手 | あ、待ってくれ、ライク・ツー君! |
人混みの中、ライク・ツーは人とぶつかることなく、
難なく進んでいく。
マークス | ……っと……。 あいつ……なんか、人混み歩くの慣れてるな。 |
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十手 | ああ、スルスルと歩いていくなぁ。 見事なもんだ。よーし、俺たちも彼に続こう! |
ジョージ | ──このイカした帽子、ください! えっと……お金はこれで足りるか? |
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店主 | ああ、まいど。 ……はい、お釣りだよ。 |
ジョージ | Thanks! じゃ、次の店へGO~! |
ライク・ツー | ……ジョージ、ちょっと待て。 |
ジョージ | へっ? |
ライク・ツー | ……おい、お前。 こいつが買い物慣れしてなさそうだからって、 ふざけた真似してんじゃねぇよ。 |
店主 | ……っ! な、なんの話でしょう……。 |
ライク・ツー | 寝ぼけたこと言ってねぇで、 ちょろまかした分のお釣りを返せよ。 ほら、さっさとしろ。 |
ジョージ | ええっ……!? オレがもらったお釣り、足りなかったのか!? |
店主 | ま、間違えただけだ! ほらよ! これでいいだろ! |
ライク・ツー | ったく……。 |
マークス | ……釣りを9割横取りしといて、間違えただけだと? あの男、嘘が下手すぎるだろう。 |
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十手 | まったく、呆れたもんだな。 あの店で二度と買い物してやるかってんだ! |
ライク・ツー | ……人間なんて、みんなああだぜ。 利己的で、他人を出し抜く隙を抜け目なく窺ってる。 士官学校の奴らは、まだいくらかマシだがな。 |
十手 | 渡る世間に鬼はなし…… そんな言葉を信じたいものだがなぁ。 |
十手 | しかし……ライク・ツー君は、 なんというか……そう、 人の暮らしに慣れている感じがするなぁ。 |
ジョージ | だな! 金の計算速いし! |
十手 | こういう、大勢の人でにぎわった街の巡り方も すっかり心得てる感じがするよ。 何か、秘訣でもあるのかい? |
ライク・ツー | …………。 んなの、お前らが鈍くさいだけだろ。 |
ジョージ | ええっ、ヒドッ! |
マークス | ……今、嘘ついただろ。 |
ライク・ツー | は? ……ついてねぇし。 |
ライク・ツー | おい、まだ見る店あんだろ? のんびりしてると時間なくなるぞ。 |
マークス | …………。 |
ライク・ツー | ほら、地図貸せよ。 |
ヴィヴィアン | ──『UL85A2』……。 あとは、これを隠して寮に戻れば……。 |
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ラッセル | ん……? ヴィヴィアン・リントンロッジ候補生。 こんなところで何をしているんだね。 |
ヴィヴィアン | あっ……い、いえ! ただ、買い物をした帰り道で……。 |
ラッセル | ……それだけじゃないだろう。 君が今、荷物の中に隠したのは……銃だな。 |
ヴィヴィアン | ……っ! |
ラッセル | 外に銃を持ち出すことは校則違反だ。 君も、知らないわけはないだろう。 ……校外に銃を持ち出して、何をしていた。 |
ヴィヴィアン | ……も、申し訳ありません。 ですが、誓って悪用なんかしていません! 教官、どうか話を聞いてもらえませんか……? |
ラッセル | …………。君は、元来真面目な生徒だ。 そこまで言うからには、相応の理由があるのだろう。 言ってみなさい。 |
ヴィヴィアン | は、はい……。 ……実は。……実は、この銃は──。 |
ライク・ツー | (…………。 お前らとは経験が違うんだよ、経験が) |
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これは、〇〇がマスターとなる
数か月前の、とある休日のこと──
ヴィヴィアン | ………………。 |
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ヴィヴィアン | ……暇だっ! |
ヴィヴィアン | ああ~っ! 〇〇は用事があるって言って出かけちゃったし、 こんなことなら、私も出かける予定を立てておけばよかった~!! |
ヴィヴィアン | はぁー……。 |
ヴィヴィアンはふと、
UL85A2が入っているケースに目を留める。
ヴィヴィアン | ……たまには〇〇を見習って じっくり銃のメンテナンスでもしてみようかな。 |
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ヴィヴィアンはさっそくUL85A2を分解し、
くまなくクリーニングをし始めた。
ヴィヴィアン | あれ? 意外とほこりが…… ちゃんとこまめに手入れしてるつもりでも、 残ってるものなんだ……。 |
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それが終わると、
次は丁寧に保護潤滑剤を塗布していく。
ヴィヴィアン | ここ、細かいな……うわっ、塗りムラが! ぬ、塗り直さないと! |
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ヴィヴィアン | うん……すごく綺麗になった……。 だけど……この銃は……。 |
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ヴィヴィアン | どんなに磨いても…… この銃は綺麗にはならない。 |
ヴィヴィアン | 世界帝の……史上最悪な人殺しの、 ……! |
ヴィヴィアン | あんな奴がいたから……! エマは……!! |
ヴィヴィアンは強く唇を噛みしめると、
今しがた自分の手で丁寧に磨き上げたばかりの銃を、
叩きつけるように床へと落とした。
ヴィヴィアン | 世界帝なんていなければ、誰も不幸にならなかった! 世界がこんなに乱れることもなく、 エマだって、今ごろ、一緒に笑って……! |
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ヴィヴィアン | たくさんの人の人生を歪めて、人を不幸にして、 何が『世界の皇帝』よ。笑わせる……! |
ヴィヴィアン | こんな銃なんか……! |
ヴィヴィアン | …………。 |
怒りと悲しみ、悔しさ。
そして──戸惑い。
いくつもの複雑な感情に瞳を揺らしながら、
ヴィヴィアンはそっと、床から銃を拾い上げる。
ヴィヴィアン | 銃に当たったところで、どうしようもないよね……。 |
---|---|
ヴィヴィアン | あんた自身が悪いんじゃなくて、 あんたを使ってたヤツが悪いってことは、わかってる。 わかってる、んだけど……。 |
ヴィヴィアン | 私さ、不器用だから。 それでもあんたのこと……好きになれないんだ。 ごめんね。 |
ヴィヴィアン | …………。 よし! 気分転換に、食堂にでも行ってこよっかな! |
ヴィヴィアン | ……じゃあね。 |
〇〇が、ライク・ツーを召銃して
間もないころ──
ライク・ツー | ふーん……ここが、俺の部屋になるのか? |
---|---|
主人公 | 【そうだよ】 【自由に使って】 |
ライク・ツー | りょーかい。じゃあな。 |
ライク・ツー | ……味気ねー部屋。 ま、マークスと同室にならなかっただけマシか。 |
ライク・ツー | ……ん? |
部屋全体を見回していたライク・ツーは、
ふと、壁にかけられている鏡が気になり、覗き込む。
鏡に映る姿を確認し、前髪に軽く指で触れた。
ライク・ツー | ……全然、違うな……。 |
---|
ライク・ツーは、鏡の前で髪を触ったり、
指輪や腕輪などのアクセサリーをいじったりしてみる。
ライク・ツー | お、こういうのも悪くないじゃん。 |
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ライク・ツー | こっちの派手な指輪も、しっかり馴染むし。 やっぱ僕って、なんでも似合っちゃうんだよなぁ。 |
ライク・ツー | 次はこういうのも── |
──ガチャ。
主人公 | 【ライク・ツー】 【ちょっといいかな】 |
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ライク・ツー | うおっ!? なんで、お前……ってか、今の、聞こえた……? |
主人公 | 【なんの話?】 【何か言ってた?】 |
ライク・ツー | え? あ、いや……別に。 |
ライク・ツー | (……この様子じゃ、何も気づかれてないか。 くそっ、焦らせやがって!) |
ライク・ツー | っつーか、ノックせずに入ってくるとか、 人間のクセにマナーも知らねーのか? |
ライク・ツー | おい、ちょっとそこ座れ。 俺が有り難いお説教してやるからよ。 |
──ライク・ツーが士官学校で暮らし始め、
しばらく経ったある日のこと。
ラッセル | ああ、〇〇君。 ちょうどよかった。確認しておきたいことがあってね。 |
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主人公 | 【なんでしょうか?】 |
ラッセル | ライク・ツーから頻繁に外出申請を受けているんだが、 何をやっているのか……君は聞いているかい? |
主人公 | 【いえ、何も聞いていません】 【外出が多いんですか?】 |
ラッセル | ……そうか、君も知らないのか。 |
ラッセル | 実は……ライク・ツーが、 フィルクレヴァート市街地の路地裏で 何度か目撃されているらしいんだ。 |
ラッセル | どんな目的があるのかはわからないが…… とにかく、あの辺りは危ないから注意するよう、 君から言っておいてほしい。 |
主人公 | 【(路地裏になんの用事だろう……)】 【(まさか、何か危ないことを……?)】 |
数日後──。
再びライク・ツーが外出申請をしたと聞き、
〇〇はこっそり彼を尾行していた。
ライク・ツー | …………。 |
---|
早足に歩いていくライク・ツーを
見失わないように気をつけながら、
〇〇はあとを追いかけていく。
そして、ライク・ツーが曲がった角を、
同じように曲がるが──。
主人公 | 【あれ……!?】 【いない……!?】 |
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??? | ──わっ! |
ライク・ツー | ははっ、引っ掛かってやんの! こんなとこまでノコノコついてきてんじゃねーよ、 馬鹿が。 |
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主人公 | 【バレたか……】 【いつから気付いてた……?】 |
ライク・ツー | 最初からバレバレだっつーの。 お前、相手が俺だからいいけど、 敵の尾行だったら死んでたぞ? |
ライク・ツー | ほら、懲りたならさっさと帰るぞ。 |
主人公 | 【路地裏で何を?】 【この辺りに何か用事でも?】 |
ライク・ツー | …………。 |
ライク・ツー | それよりお前、ラッセルに何か言われて、 俺のこと追いかけてきたんだろ? |
ライク・ツー | ハッ。なんでも鵜呑みにしてると、 そのうちマジで危ない目に遭うぞ。 |
ライク・ツー | ……俺はただ、適当にふらついてただけだ。 お前が気にするようなことなんてねーから、 余計な心配すんなよ。いいな。 |
──コンコン
ライク・ツー | ……ん? 誰? |
---|---|
主人公 | 【〇〇です】 【入るよ】 |
ライク・ツー | なんだ、お前か。 で、何の用? |
主人公 | 【渡したいものがある】 【プレゼントを持ってきた】 |
そう言って、〇〇は、
ライク・ツーに小包を差し出す。
ライク・ツー | これ……俺に? なんで。 |
---|---|
主人公 | 【ライク・ツーに似合いそうだった】 【欲しがっていたものだから】 |
ライク・ツー | ……えっ、なに── |
ライク・ツー | …………。 |
ライク・ツー | ──いや、いい。いらない。 |
主人公 | 【いらない……?】 【そっか……】 |
ライク・ツー | うん。いらねぇから。さっさと出てって。 |
ライク・ツー | …………。 |
ライク・ツー | いらねぇんだよ……目的の邪魔になりそうな、 しがらみは……。 |
それから数時間後──。
ジョージ | Hey、マスター! みんなで遊ぼうぜ! |
---|---|
ジョージ&ライク・ツー&マークス | …………。 |
ライク・ツー | おい……これ留守じゃねーのか。 ったく、無理やり連れてきといて人騒がせな……。 |
マークス | 仕方ないな。 俺が1人でマスターを待つから、あんたらは帰れ。 |
ジョージ | え~。 せっかくみんなで遊びに来たのに! ほんとにいないのか~? |
ライク・ツー | あ、お前……人の部屋に勝手に入るなよ。 |
ジョージ | やっぱいないのか~。 |
---|---|
マークス | おい! さっさと出ろ! マスターに失礼だろうが! |
ジョージ | そうか? じゃあ、仕方ないから廊下で── ……あれ? |
部屋を出ようとしたジョージだったが、
机の上に置かれているプレゼントらしき包みが気になり
足を止めた。
ライク・ツー | (……! さっきの……!) |
---|---|
ジョージ | なんだろう、これ? 誰かにプレゼントかな? 〇〇が誰かからもらったのかな? |
マークス | ……おい! マスターのものに勝手に触るな! |
ジョージ | いや、だって気になるだろ? なぁ、ちょっと振ってみたら、 音で中身がわかるかな!? |
ライク・ツー | …………。 |
ライク・ツー | (俺がもらうはずだったプレゼントだし、 中身が何か知る権利ぐらいはある……よな) |
ジョージ | ちょっとだけ! ちょーっとだけだからさ……! |
ライク・ツー | (そうそう。別に惜しいとかそういうんじゃなくて、 これは単純な興味で……) |
マークス | そんな問題じゃない! やめろっ! |
ジョージ | マークスのケチ! ……あっ! |
主人公 | 【あのー……】 【一体何を……?】 |
マークス | マスター! ジョージの悪事は俺が止めたから、もう大丈夫だ。 |
ジョージ | 悪事!? さ、さすがにそれは言い過ぎじゃ……!? |
主人公 | 【う、うん……?】 【ありがとう……?】 |
ライク・ツー | (…………。 結局、あのプレゼントの中身はわからずじまいか……。 って、別に知りたかったわけじゃないけどっ!) |
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