UL95A1は、その士官候補生の愛銃だ。
たとえかたちが変わっても、その在り方は何も変わらない。
声を得て最初に告げた事もずっとずっと誓ってきた事。
これまでもこれからも、この身はただ貴方のために。
守るために、手を伸ばした力。
この力が貴方を蝕むのなら、俺は、一体何のために。
──青年は濃紫の力に葛藤し、主を染める色に慟哭する。
主人公名:〇〇
主人公の一人称:自分
恭遠 | ──では問1をマークス、問2をライク・ツー。 前に出てきて、計算式と答えまで書いてくれ。 |
---|---|
マークス&ライク・ツー | …………。 |
マークス | 終わったぞ。 |
ライク・ツー | これくらい楽勝だっての。 |
恭遠 | ふむ……。 |
恭遠 | マークス、正解だ。 無駄のない計算式だな。 |
恭遠 | ライク・ツーも、計算式自体は合っている。 だが……おや? 最後の答えは間違えているな。 単純なケアレスミスだから、最後まで気をつけてくれ。 |
ライク・ツー | んなっ……!? |
十手 | マークス君、さっきの授業では恐れ入ったよ。 あんなに複雑な式を、さらさらと解いてみせるなんてなぁ! |
---|---|
ジョージ | うんうん! COOLだったぜ、マークス! |
ライク・ツー | …………。 |
マークス | 別に……あれくらいはどうってことないだろ。 狙撃手にとって、緻密な計算は仕事のうちだ。 |
十手 | へぇ、撃つのに計算式がいるのかい? |
マークス | 俺──UL96A1の設計当初の名前は、 Precision Marksmanの頭文字からとって、 PMライフルと呼ばれていた。 |
十手 | ぷれ……しじょん? まーくすまん? |
ジョージ | Precisionは正確、精密って意味だよ。 Marksmanは狙撃手。 |
ジョージ | ほんと、マークスにピッタリだな! |
マークス | 当然だ。俺は、その名の通りに 精密で正確な狙撃を信条にしている。 |
マークス | それを実現するためには、地理の把握や ターゲットへの距離・弾の速度、風速・風向き…… 色々計算しないといけない。もちろん、暗算でな。 |
ジョージ | おお~! マジ!? さすが、狙撃のprofessional……!! |
十手 | ははぁ……! マークス君の針の穴を通す用な狙撃は、 そういうところから生まれていたんだなぁ! |
ライク・ツー | …………。 |
マークス | 戦場では、些細なミスが命取りになる。 特にスナイパーは、最初の一発が重要だ。 |
マークス | だからいかなるときも、 ミスをしないように心掛けている。 つまり、俺はライク・ツーと違って、凡ミスはしない。 |
ライク・ツー | ……っ! |
ライク・ツー | ハッ! それしか能がねぇくせに……。 |
マークス | ……あ? なんだと? |
ライク・ツー | ちょっと計算ができるからって、偉そうに。 どう考えたって、全教科で平均点以上とってる 俺の方が優秀だろうが! |
マークス | ……なんだと? 器用貧乏より、エキスパートの方がいいに決まってるだろ! |
ライク・ツー | び、貧乏じゃねぇ! 俺のは万能型、オールマイティ、って言うんだよ! |
ライク・ツー | できることが少ない奴より、 活躍できる場面の多い奴の方がいいに決まってんだろ! |
マークス | なんだと!? |
十手 | ま、まあまあ! 2人ともそれぞれ得意なものがある、 それでいいじゃないか! |
ジョージ | ああ! 2人ともカッコいいぞ! |
ライク・ツー | 外野は黙ってろ! |
ライク・ツー | あと……言っとくけどなぁ、 こんなのその辺に捨ててんじゃねぇよ! 赤点のテスト捨てて隠蔽しようとするとか、ガキか! |
ライク・ツーはそう言いながら、
ぐしゃぐしゃになったテスト用紙をマークスに投げつける。
そこには、マークスの名前と、18点の赤文字と共に
「もっと頑張ろう」と恭遠のコメントが書かれていた。
マークス | なっ……!? |
---|---|
ライク・ツー | これ、100点満点だぞ? ひっでぇなぁ、ほんと。 古典で使える計算式があればよかったのに。 |
マークス | こ、これ! なんであんたが持ってるんだ! |
ライク・ツー | たまたま、ゴミ箱の近くに 落ちてるのを見つけたんだよ。 |
ライク・ツー | あーあ。〇〇も可哀想だよな。 こんなバカのマスターやらされて! |
マークス | おい! マスターをバカにするな! |
ライク・ツー | テメーをバカにしてんだよ! |
ジョージ | ストップ、ストーップ!! |
十手 | ああ、もう……2人とも……! はぁ……また始まったよ……。 |
マークス | 今日の演習では、あんたがスナイパー、 俺がスポッターということだ。 |
---|---|
ケンタッキー | ふーん。 |
マークス | 優秀なスポッターとしてお前をサポートしてやるから、 俺にすべて任せろ。 |
ケンタッキー | …………。 |
マークス | おい! 勝手にどこへ行くつもりだ。 俺が地理を確認するまで待機していろ! |
ケンタッキー | いや、俺1人で平気だし。 |
マークス | はぁ? スナイパーは観測手であるスポッターと 2人で行動するもんだろ。 |
ケンタッキー | んなことねぇよ。 俺の前の持ち主は、スポッターなんかいない中、 1人で戦ってたんだぜ? |
ケンタッキー | 俺もそのやり方で行く。 他人に行動を縛られるとか、マジかっこわりーし。 |
マークス | ……あんたはわかってないようだが、 スポッターの存在には大きな意味があるんだ。 |
マークス | たとえば、狙撃時の護衛。 標的に集中したスナイパーは無防備だからな。 生存率を上げるには、護衛が必要だ。 |
マークス | それに、2人なら偵察も効率がよくなる。 スナイパーとスポッターが交代することで、 長時間の偵察が可能になるだろう。 |
ケンタッキー | フン……。 |
マークス | これだけ言ってもまだ重要性がわからないのか? まったく……少しはマスターを見習え。 |
ケンタッキー | マスター? |
マークス | ああ。 マスターはスポッターの役割を十二分に果たし、 射撃大会では、パートナーを優勝に導いたんだぞ。 |
ケンタッキー | ……えっ!? マスターって、スポッターでもあったのか!? |
マークス | はぁ? そんなことも知らなかったのか。 マスターは優秀なスナイパーでありスポッターだ。 |
ケンタッキー | んだよ! それならそうと、最初から言えよ! |
マークス | は……? |
ケンタッキー | ふんふん、ナルホドなーっ! マスターがスポッターだったってことなら、 お前が言ってることもよくわかったぜ! |
ケンタッキー | ッし! じゃあ、いずれマスターと組む時のために、 お前で練習しとかねーとな! |
マークス | ……な、なんなんだこいつ。 さっきまでと言ってることが全然違うぞ……。 |
ケンタッキー | おら、さっさと演習進めようぜ! どこ行けばいいって? 早くしろよ! |
マークス | ……っ、おい、勝手に動くな! まずはスポッターとスナイパーで 連携することから覚えろ! |
ある任務で敵の拠点へ潜入した、マークスとジョージは、
地下へと続く階段を慎重に下り、
最下層へと辿り着いたが──。
ジョージ | あいつらはあの扉の向こうだな……! よし! 早速突げ── |
---|---|
マークス | 待てバカ!! |
ジョージ | ぐぇっ! なんだよマークス!? |
マークス | あんた、あれが見えないのか? セントリーガンだろ! |
ジョージ | え? あのちっこいロボットのこと? |
マークス | あれは自動で敵を探知して撃つ機械だ。 あの位置だと扉に入る前に センサーが反応して撃たれるだろうが! |
ジョージ | ええ! そうなのか……。 |
ジョージ | それじゃあ、すぐに壊しちまおうぜ! |
マークス | 簡単に言うなバカ! 下手に近づけば、俺もあんたも 無駄に傷を負うことになるんだぞ。 |
マークス | 安全な位置から、 装甲の薄い箇所を撃ち抜くとなると……。 |
ジョージ | ダイジョーブだって。見てろ! |
マークス | ちょ……っ! 何する気だ!? |
ジョージ | こうするんだよっ! |
そう叫ぶと──ジョージは素早く飛び出し、
自分の銃の銃床部分で、
セントリーガンを思いっきり殴り始めた。
マークス | はあっ!? |
---|---|
マークス | 何やってんだ! あんたが壊れたりしたら、マスターが困るだろうが! |
ジョージ | え? いやいや、これくらいで壊れるほど やわじゃないって! |
ジョージ | あと、もうちょっと……! おっ! セントリーガンが動かなくなったぞ! |
マークス | おい、本当に大丈夫なのかっ……!? |
ジョージ | もちろん。ほらっ! 全然ヘーキだろ? |
マークス | あ、ああ。 小さな傷はあるけど、致命的な破損はないな……。 |
ジョージ | Yeah! オレのストックは、すごくタフなんだ! それに、現代銃ほど繊細じゃないしな☆ |
ジョージ | さ、この勢いのまま先に進むぞ! |
マークス | (あいつは木製だから、こん棒替わりになるのか……。 俺のガラス繊維強化プラスチック製とは違うな……) |
マークス | …………。 絶対高貴以外にも、古銃の利点ってあったのか……。 |
ライク・ツー | ……ん? |
---|---|
マークス | ふんふん……♪ |
ライク・ツー | (えっ、あいつ何1人で笑ってんだ? 気色わる……) |
マークス | ……ん。 |
ライク・ツー | (ゲッ、こっち来た……!) |
マークス | おい、ライク・ツー。 いいものを見せてやる。どうだ。 |
ライク・ツー | …………。 そのデミタスカップがどうしたんだよ。 |
マークス | マスターからのプレゼントだ! |
ライク・ツー | ああ、なるほど……。 |
マークス | 今からマスターが、 このカップにエスプレッソを淹れてくれるんだ……! |
ライク・ツー | それでそんなに機嫌が良かったのかよ……。 大袈裟なヤツ……。 |
ライク・ツー | ま、ついでだし、俺も飲もっかな。 |
マークス | おい、見ろ。上品で素晴らしいカップだと思わないか? さすがは俺のマスター、食器を選ぶセンスもいい。 |
ライク・ツー | うぜー……。 |
マークス | ──あっ! マスター! |
主人公 | 【お待たせ】 【カップを貸して】 |
マークス | さっそく淹れてくれるのか? マスターのエスプレッソはきっと美味いに違──んん? |
ライク・ツー | おい、お前……なんでカップの取っ手に 指入れてんだよ!? |
マークス | あれ……思ったより狭いな。 くっ……ぬ、抜けない……!? |
ライク・ツー | バカ! この穴はつまむもんなんだよ! 指突っ込む用じゃねぇっつーの! |
マークス | おい、バカとはなんだ! 穴があるし、持ち手なんだから、指を突っ込むのが道義だろ!! それに、つまむだけだと落として割りかねない! |
マークス | マスターからもらった大事なカップだから、 銃のサム・ホールのように 指を通して安定させようとだな……! |
ライク・ツー | だからって、こんな小さい穴に指突っ込んだら 抜けなくなるに決まってんだろ! |
ライク・ツー | とにかく、なんとかして外させねぇとな……。 指を何かで滑らせてみるか? |
主人公 | 【油を使ってみよう】 【洗剤を使ってみよう】 |
マークス | あ、ああ……。 すまない、マスター……。 |
ライク・ツー | ──ダメだ、どうやっても取れねぇ! こうなったら……。 |
---|---|
マークス | ……!? おい、そのハンマーで何するつもりだっ! |
ライク・ツー | 仕方ねぇだろ、最終手段だ! その持ち手の部分割って、指外すぞ。 |
マークス | くっ……! マスターからもらったものを 使わずに壊すくらいなら…… 俺の指など一生はまったままでいい! |
マークス | いや。いっそ……指の方を切ってくれ! カップは直せないが、 俺はマスターが治療してくれれば治る! |
ライク・ツー | アホかっ! おい、すぐ済むから、もう大人しくしとけっ! |
マークス | させるか! |
ライク・ツー | 逃げるなっ! 待てっ! |
主人公 | 【ど、どうしたら……】 【2人とも落ち着いて……】 |
ライク・ツー | ほら、捕まえ……うわっ!? |
マークス | うぐっ!? |
走り回っていた間の振動か、
それとも2人が勢いよくぶつかった衝撃のせいか、
カップの穴から、すぽんとマークスの指が抜ける。
そして、飛んでいったカップは……
奇跡的に、〇〇の手の中へと着地した。
マークス | よかった、壊さずにすんだ……! |
---|---|
ライク・ツー | はぁ……無駄に……疲れさせやがって……。 |
主人公 | 【お疲れ様】 【エスプレッソを淹れようか】 |
マークス | ありがとう、マスター。 ──うん、いい香りだ……。 |
マークス | …………はっ! また指が……! |
ライク・ツー | はぁぁぁっ!? 信じらんねぇ……普通ここで、同じこと繰り返すか!? 学習能力ってモンがねーのかよっ! |
マークス | くっ……穴があるからだ……! |
山間部においての隠密行動の演習中──。
十手 | …………。 |
---|---|
??? | …………。 |
十手 | ……っ!? |
訓練用のゴム弾が
正確に十手の胸に着弾した。
十手 | い、一体どこから……! |
---|---|
??? | ……ここだ。 |
十手 | ……? マークス君……? 声はするが……どこにも見えないぞ……??? |
マークス | だから……ここだ。 |
十手 | わぁっ!? |
突如、木陰が揺れてマークスが現れる。
マークスは、着ていたカモフラージュ用の
ギリースーツを上半身だけ脱いで見せた。
マークス | 俺が作った特製のギリースーツだ。 これを着ることで、森の中に紛れることができる。 |
---|---|
マークス | 俺なりに細工をしていて、 通常のものよりも、 さらに敵から見えにくくなってるんだ。 |
十手 | へぇ……! 大したもんだ! まったくわからなかったよ……! |
十手 | それは──銃に、テープを巻きつけてるのも、 何か意味があるのかい? |
マークス | ストックやバレルに太陽光が反射すると、 自分の位置を敵に悟られてしまうだろ? それを避けるために、梱包用テープを巻いている。 |
十手 | ははぁ! なるほどなぁ。 スナイパーとは、いろいろ工夫を凝らして 戦うものなんだなぁ……。 |
マークス | ふっ、まぁな。 |
マークス | まだ試作段階だし、完璧とは言えないが…… 潜伏や隠密行動に慣れていない貴銃士相手なら、 十分に効果がありそうだな。……ふふん。 |
十手 | あ、あの~……マークス君。 俺もこれ、一回着てみてもいいだろうか? |
十手 | 俺もこのギリースーツで、 忍のように作戦をこなせたらと思って……。 |
マークス | ……まあ、いいだろう。 客観的に見て気づくこともあるかもしれないし……。 |
十手 | 恩に着るよ! じゃあ、さっそく……! |
十手 | ──ど、どうかな!? |
マークス | おい、動くな。 動いたら森と一体化できな── |
ジョージ | うわああっ!? 化け物!? いや、アウトレイジャーか!? |
ジョージ | マークス、離れるんだ! 今、援護するからなっ! |
十手 | ええっ!? わ、わあああっ!? |
ジョージ | 覚悟しろ、アウトレイジャー! |
十手 | ちょっ……待って待って! 俺だよ! 十手だってば! |
ジョージ | あ、待てっ! 逃さないぞっ! |
マークス | ……まだ色合いの調整が足りていなかったか。 最終的には、多少動いても違和感のないように、 改良しないと……。 |
Protected by reCAPTCHA and the Google Privacy Policy and Terms of Service apply.
まだコメントがありません。