「大きくなったらパパと結婚する!」
少女の夢は、父親の突然の死で叶わぬものとなる。
ジーグブルートは落ち込む少女を励ますため
奮闘!そして、自分がこれから先長い時を共に歩むことになるマスターへ想いを馳せる。
オママゴトみてぇなもんだろうが
他でもない俺が必要で力になれるなら、手を貸してやりてぇだろ。
貴銃士としての俺のことは、お前が必要としてくれりゃいい。
主人公名:〇〇
主人公の一人称:自分
任務で多忙を極めた日々が落ち着いたある日、
〇〇の部屋を訪ねてきたジーグブルートが、
神妙な顔で切り出した。
ジーグブルート | あのよ……結婚式に出てほしいんだ。 |
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主人公 | 【ええっ!? お、おめでとう!?】 【誰と結婚するの!?】 |
ジーグブルート | ……あ? ち、違ぇよ! 俺の結婚式じゃねぇって! |
フィルクレヴァートの街の一角にある赤い屋根の店ーー
「クーヘン・ハイム」は本場のドイツ菓子店だ。
ドイツ出身の夫婦が経営している。
ジーグブルートは菓子作りの参考として
店へ通ううちに店主と懇意になり、
時にはレシピについて語り合う仲になっていた。
ジーグブルート | (最近任務で慌ただしかったし、 この店に顔を出すのも久しぶりだな) |
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ジーグブルート | ん? 「休業中」……? |
ジーグブルート | チッ、仕方ねぇ。 また出直して……。 |
ジーグブルートが帰ろうとしたその時、
菓子店の女性が息を切らして帰ってきた。
女性 | ……っ、ハァ、ハァ……ッ! |
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ジーグブルート | ……? どうしたんだよ、そんな慌てて。 |
女性 | 娘が……! クラーラが……っ! ちょっと目を離した隙に、いなくなってしまったの……! ジーグブルートさん、娘を見かけなかった? |
ジーグブルート | いや、見てねぇぞ。 どこに行ったか心当たりはねぇのか? |
女性 | いつもの公園にはいなかったの。 お気に入りの花屋さんにも……。 あとは……ああ、もしかしたら……。 |
女性とジーグブルートは、小高い丘の上へと向かった。
丘の上には『鳴らすと幸せになれる鐘』が有名な墓地公園がある。
ジーグブルートたちが、二手に分かれて探していると──
クラーラ | …………。 |
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ジーグブルート | ……クラーラ? |
クラーラ | パパ!! |
クラーラ | あ……ジグお兄ちゃん……。 |
ジーグブルート | はぁ……! ったく。 こんなとこに子供が1人でいたら危ねぇだろ! |
女性 | クラーラ! あぁ、よかった! さぁ、一緒に帰りま── |
クラーラ | いや、帰らない! |
ジーグブルート | は? なんでだ? |
クラーラ | パパは約束してくれたの! クラーラが大きくなったら、けっこんするって。 |
クラーラ | パパ……約束したのに……っ。 うわぁぁぁあん……! |
ジーグブルート | ……っ!? まさか……。 |
女性 | 実は……夫は2か月ほど前に、急な事故で……。 |
ジーグブルート | ……まじかよ。 だから休業の札がかかってたのか。 |
女性 | ええ……。 それに、この子はパパのことが大好きだったから……。 |
クラーラ | パパ、バターサンド! バターサンドつくって! |
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女性 | ふふっ、クラーラはバターサンドが大好きね! |
クラーラ | ふつうのバターサンドが好きなんじゃないよ。 パパの作るバターサンドがだーいすきなの! |
クラーラ | パパ、大好き! クラーラ、大きくなったらパパとけっこんする! |
店主の男性 | ははっ、パパも大好きだよ! クラーラとずっと一緒にいられるんだな。 パパは最高に幸せだ! |
ジーグブルート | (確か、クラーラは5歳くらいだったか……? あれだけ仲のいい親子だったんだ。 ショックで父親の死を受け止められねぇんだろう……) |
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女性 | もうパパはいないのよ……。 クラーラ、わかってちょうだい……! |
クラーラ | いや! パパ……ふえええ……ええええん……っ! |
女性 | ジーグブルートさん、迷惑をかけてごめんなさいね。 娘を一緒に探してくれてありがとう。 ……さあ、行くわよ、クラーラ……。 |
ジーグブルート | ……待ってくれ。 |
ジーグブルートは、クラーラの前にしゃがみ込む。
ジーグブルート | クラーラ、お前の願いは俺が叶えてやる。 |
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クラーラ | ジグお兄ちゃん……? |
ジーグブルート | ……っつーわけだ。 それで結婚式に参列してくれる奴を探してる。 |
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主人公 | 【ジーグブルートが結婚するのかと思った】 |
ジーグブルート | だから、違ぇって! 俺の結婚式なわけがねぇだろ! |
ジーグブルート | いや、俺が新郎側に立つには立つんだが……。 |
主人公 | 【どういうこと?】 【説明してほしい】 |
ジーグブルート | 俺が父親の役になって、クラーラと結婚式をするんだ。 俺の身長や体格が、父親とよく似てるんだと。 |
ジーグブルート | もちろん、本当の結婚式じゃなく真似事に過ぎねぇ。 けど……真似事でも、ちょっとでも救いになるならよ。 クラーラの願いを叶えてやりてぇんだ。 |
主人公 | 【そういうことなら協力する!】 【素敵な結婚式にしよう!】 |
ジーグブルート | そうか……悪いな。 感謝、するぜ。 |
こうして〇〇は介添え人として、
結婚式の進行補助をすることになった。
〇〇とジーグブルートは、
結婚式のことを他の貴銃士にも話し、協力を募ることにした。
ケンタッキー | くっ……うぐぅっ! 泣ける話じゃ、ねぇか……! 衣装は俺に任せろよ! 世界一ハッピーな礼装作ってやらぁ! |
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カトラリー | 結婚式ならさ、ブーケやフラワーシャワーが必要でしょ? 園芸部のみんなにお願いして、花を持っていくよ。 あっ、ミカエルにピアノを弾いてもらったら? |
ミカエル | ……結婚式のピアノ伴奏か。 いいね……愛溢れる曲を考えておくよ。 |
タバティエール | 結婚式のごちそうは、俺に任せてくれ! ドイツ風の定番料理を調べてみるかな。 |
ローレンツ | 真似事とはいえ、 聖職者がいないと場が締まらないだろう。 必要ならば、この俺がその役を引き受けよう。 |
ジーグブルート | ……ったく。 お前ら、揃いも揃って暇人すぎだろうが。 |
エルメ | ねぇ、ドライゼ見て。 あのジグが……人のために何かをしようと自ら行動してる。 立派になって……。 |
ドライゼ | ああ、成長したな……! |
ライク・ツー | ……こいつらはジーグブルートの両親役にぴったりだな。 |
ジーグブルート | はぁ……ここはお節介の集まりか? ……でも、手伝ってくれてありがとうよ。 |
ジョージ | No problem! 困った時は助け合いだろ! 他のやつらもゲストとして祝いに来てくれるってさ。 |
ライク・ツー | 他に当日までに用意することとかあるんだろ? 手伝えそうなことは協力するぜ。 |
ジーグブルート | そうだな……まずは、古い皿を集めてくれ。 |
全員 | お、お皿……?? |
──式の前日。
〇〇は、ジーグブルートたちと共に店を訪れていた。
ジーグブルート | おい、タバティエール。 こいつを冷蔵庫に入れといてくれ。 |
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タバティエール | おう……って、ずいぶん大きな包みだな! なんだいこりゃ? パーティー用の食材か? |
ジーグブルート | あとでわかる。 |
ジーグブルートは先に料理の手伝いに来ていた
タバティエールに袋を渡すと、クラーラと母親に
〇〇たちを紹介する。
ジーグブルート | クラーラ、こいつらは俺の身内みたいなもんだ。 式の準備を手伝ってくれる。 |
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エルメ | はじめまして、ジグの兄だよ。 俺はエルメ、こっちはドライゼ。 で、こちらは俺たちのマスター。 |
主人公 | 【はじめまして】 【よろしくね】 |
クラーラ | ……わ……。 |
女性 | クラーラ、ゆっくりでいいのよ。 |
クラーラ | は、はじめまして。クラーラよ……です! ママと弟のフィンもい……ます。 ほら、フィンもみんなにあいさつ……! |
フィン | ぼく、フィン! 3さい! |
主人公 | 【上手に言えたね】 【えらい!】 |
女性 | みなさん、娘のためにありがとう……。 |
ジーグブルート | 礼を言うのは早いぜ。式はこれからだろ。 ポルターアーベントの準備を始めるぞ。 |
クラーラ | ぽるたー……? ジグお兄ちゃん、それってなーに? |
ジーグブルート | ああ、ドイツで結婚式前夜にやる風習のことだ。 結婚する2人で古い皿を割ると、悪い気や悪魔を遠ざけて、 幸せになれるんだとよ。 |
クラーラ | パパとママも一緒にお皿を割ったの? |
女性 | ええ、もちろん。 たーっくさん、パパとお皿やカップを割ったわ。 |
クラーラ | そうだったんだね……! クラーラもやる! ジグお兄ちゃん、はやくはやく!! |
ジーグブルートたちが外へと出ると、
ちょうど他の貴銃士たちがやってきたところだった。
ジョージ | おーい! 頼まれてた古い皿とか持って来たぞ~! |
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主人公 | 【すごいたくさん!】 →ジョージ「HAHAHA! 寮のやつらに聞いて回ったら、増えてったんだ。」 【そんなに持ってきたの?】 →ライク・ツー「文句ならジョージに言え。 俺はそんなにいらねぇって止めたからな。」 |
ジーグブルート | まあ、少ないよりは多い方がめでたくていいか。 クラーラ、全部割るぞ! |
クラーラ | うん! それじゃあ、いくよー! えいっ! |
ジーグブルート | いい投げっぷりだ。 俺も負けてらんねぇな……っ! |
ジョージ | いいぞ~! 割れ割れー! |
──数十分後。
クーヘンハイム前の道路には、皿の破片が散乱していた。
ジーグブルート | ……さて、これを結婚する2人で片付ける。 とはいえ、危ねぇから俺がやる。 怪我されると面倒だ。お前は無理するなよ、クラーラ。 |
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クラーラ | で、できるもん……わわっ! |
主人公 | 【危ないよ!】 【一緒にやろう?】 |
フィン | ぼくもおてつだい、したい! ママ、いいでしょ? |
女性 | そうねぇ、ママも一緒ならいいわよ。 |
ジーグブルート | ……まあ、いいけどよ。 怪我しそうな鋭い破片には絶対触れるんじゃねぇぞ。 |
全員 | はーい! |
〇〇はジーグブルートたちと協力し、
皿の破片を片付けていった。
ジーグブルート | ……よし、これで終わりだ。 |
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クラーラ | ふぅー! ジグお兄ちゃん、やったね! |
ジーグブルート | おう、よく頑張ったな。 |
ジーグブルートとクラーラがハイタッチする。
タバティエール | お疲れさん! 腹は減ってないかい? 軽食ができたんだ。皆で食べようぜ。 |
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クラーラ | わあ~っ! 美味しそう! |
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ドライゼ | カリーヴルスト、ポメス、レバーケーゼサンド……。 どれもドイツの家庭料理だな。 タバティエールが作ったのか? |
タバティエール | ああ、軽食ばかりだが店のキッチンを借りてね。 調理台も道具もピカピカで、大切に使われているのがわかった。 いいキッチンってのは、わくわくするもんだ。 |
タバティエール | そういえば、道具の中で気になるものがあったんだが。 この花の模様がついている麺棒は、どうやって使うんだ? もしかして料理道具じゃなくて、インテリアとか……? |
女性 | ふふ、これは麺棒じゃなくてクッキーローラー。 クッキーの生地に模様をつける道具なの。 |
女性 | 家族でスウェーデンに行った時に見かけて、 一目ぼれして買ってきたのよ。 |
タバティエール | へぇ! なるほど、洒落てるな。 こいつで作ったクッキーを食べてみたいもんだ。 |
女性 | そうね……でも、今は……。 |
ジーグブルート | ……軽食だけじゃ物足りねぇだろ。 俺からのプレゼントはこれだ。 |
ジーグブルートがテーブルの上に大きな包みを置く。
結び目を解くと、現れたのは大きな切り株だった。
全員 | 切り株!? |
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ライク・ツー | どういうことだ? ドイツじゃ切り株をプレゼントするのか……? |
クラーラ | あれ? でもこの切り株、甘い匂いがするよ? |
ジョージ | じゃあ、オレが一口、指で……。 |
フィン | わわっ! なめるの!? |
ジョージ | うっ……美味い!! ケーキだこれ! |
ドライゼ | ……なるほど、結婚式の恒例の丸太切りか。 よく考えたな。 |
ジーグブルート | 堅物のてめぇも結婚式の風習くらい知ってんだな。 丸太をのこぎりで切るのは、クラーラには難しい。 だから食べられる丸太にしたっつーわけ。 |
ジーグブルート | クラーラ、ケーキ用のナイフでこの丸太を切るぞ。 |
ジーグブルート | 年輪のように、幸せを重ねていけるように……。 心の中で言いながら切るんだ。 |
クラーラ | はーい! |
ジーグブルートはクラーラと一緒に
切り株の形をしたケーキを切り分けていく。
ジーグブルート | よし、いいぞ。 上出来じゃねぇか。 |
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クラーラ | わーい、いただきまーす! ジグお兄ちゃん、とっても美味しいよ! |
ジーグブルート | そうか。よかったな。 |
フィン | おねえちゃんのケーキのほうが大きいね? いいな~ジグお兄ちゃん、フィンともけっこんして! もっと大きいケーキつくって!! |
クラーラ | だめ! ジグお兄ちゃんはクラーラとけっこんするの! クラーラにだけ、ケーキをつくってくれるんだから! |
エルメ | ふふ、ジグがモテモテだ。 |
ジョージ | HAHA! ジーグブルートでも照れるんだな! |
ジーグブルート | ……っ、うるせぇ! 黙ってケーキを食え! |
女性 | 今日は片付けまでしてもらってしまって……。 本当にありがとうございました。 あの子たち、はしゃぎ疲れて寝てしまったわ。 |
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ジーグブルート | 俺たちが勝手に押しかけてやってることだ。 礼なんていらねぇよ。 |
女性 | あの……これ、明日クラーラにつけてあげてくれる? おもちゃの指輪だけど…… 前にあの人があげた、娘お気に入りの指輪なの。 |
ジーグブルート | ……わかった。明日まで大切に預からせてもらう。 俺はおもちゃの指輪はさすがに入らねぇからな。 借りてきた指輪をつけるぜ。 |
女性 | 指輪も用意してくださったの? ……本当に、ありがとうございます。 明日はよろしくお願いします。 |
主人公 | 【楽しみだね!】 【いい式にしようね】 |
ジーグブルート | ……ああ。 |
そうして迎えた当日──。
クラーラと、父親代理のジーグブルートの『結婚式』は、
街はずれの小さな教会で行われた。
ローレンツ | 新郎、ジーグブルート。 あなたは、任務で団体行動を乱さず、むしゃくしゃしても 人に当たらず、品行方正になると誓いますか? |
---|---|
ジーグブルート | はぁ!? そんな誓いの言葉があるか! やり直せ!! |
ローレンツ | お静かに! 結婚式だぞ。 ……もう1度問おう。 新郎、ジーグブルート。誓いますか? |
ジーグブルート | ぐっ……誓います。 |
貴銃士たち | あははっ! |
ローレンツ | よろしい。 では、次は新婦、クラーラ。 |
クラーラ | はーい! |
ローレンツ | パパを大好きな気持ちを忘れず、これからも家族を助けて 毎日、元気に過ごすことを誓いますか? |
クラーラ | はい、誓います! |
ローレンツ | 誓いの言葉により、2人は絆を深めました。 それでは、指輪の交換を。 |
ジーグブルートはしゃがみこみ、
クラーラの右手をとって、おもちゃの指輪をはめた。
クラーラも真似をしてジーグブルートに指輪をはめる。
クラーラ | あ……パパからもらった指輪……! |
---|---|
ジーグブルート | ああ、これでずっとパパと一緒だな。 |
ローレンツ | ──最後に、誓いのキスを。 |
ジーグブルート | おい、それはさすがに……! |
ジーグブルートが止めようとする前に、
クラーラが頬にキスをした。
ジーグブルート | ……っ!? |
---|---|
クラーラ | えへへ、ちゅーっしちゃった! ジグお兄ちゃんも、クラーラにちゅってして! |
ジーグブルート | ったく……おい、クラーラ。 |
ジーグブルート | 大事なキスは、将来にとっておけ。 俺からは……これで十分だろ。 |
ジーグブルートがクラーラの額にキスをする。
クラーラは少しだけ驚いた顔をしてから、嬉しそうに笑った。
ローレンツ | みなさんが見守る中、2人は固い親愛で結ばれました! 温かな拍手で門出を祝福しましょう! |
---|
ジョージ | HEY! クラーラ、こっちこっち! 家族で記念写真を撮ろうぜ~! |
---|---|
クラーラ | きれいなお花がいっぱいかざってある~! あっ、パパの写真!! |
女性 | パパが一番、クラーラの晴れ姿を見たいはずだもの。 天国からきっと見ていてくれているわね。 |
ジーグブルート | …………。 |
主人公 | 【写真は?】 【一緒に映らないの?】 |
ジーグブルート | ……俺はあくまで代理だからな。 家族写真に割り込むのは、違うだろ。 |
ジーグブルート | それより、〇〇。 フラワーシャワーの花かごが見当たらねぇが、 どこにあるんだ? |
主人公 | 【教会の中だ!】 【取ってくるね!】 |
ジーグブルート | 1人で持つのは大変だろ? 手伝うぜ。 |
ジーグブルートと〇〇は、教会内へと戻った。
ジーグブルート | なあ、〇〇……。 ついこの間まで、俺は結婚式なんかくだらねぇと思ってた。 |
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ジーグブルート | 結婚すんなら、勝手にすりゃいいじゃねぇか。 人前で誓ったりなんかこっぱずかしいだけだろ……ってよ。 |
ジーグブルート | だが、クラーラとか母ちゃんの喜びっぷりを見て、 ちょっと納得したぜ……人間にとって特別なもんなんだな。 お前も憧れたりすんのか? |
主人公 | 【そうかも】 →ジーグブルート「へぇ、やっぱりそうなのか。 夢見んのも必要だもんな。」 【自分は別に……】 →ジーグブルート「だな。俺も自分がやりたいとは思わねぇよ。」 |
ジーグブルート | ま……クラーラたちが喜んでたし、悪くねぇとは思ったぜ。 教会の中を歩いてると、不思議と身が締まる気がしたしな。 |
ジーグブルート | なあ、知ってるか? この道……アイルっつったか。これは人生を示してるらしい。 これから一緒に長い人生を歩いていくことの象徴なのかもな。 |
ジーグブルート | 長い人生を一緒に歩く相手、か……。 |
ジーグブルート | ……考えてみりゃ、俺にとってはお前が最後のマスターだ。 なあ、似たようなもんだと思わねぇか。 |
ジーグブルート | おい、ちょっとやってみようぜ、〇〇。 |
ジーグブルートは〇〇に手を差し出す。
ジーグブルート | ──なんてな。冗談だ。 |
---|---|
ジーグブルート | まあ……その、なんだ。 お前の貴銃士として一緒に生きていくのは、 悪くねぇ……とは思ってる。 |
ジーグブルート | これからも……末永く頼むぜ、マスター。 頼むから、お前はくたばるんじゃねぇぞ。 |
ジョージ | ジーグブルート! 〇〇! みんなで写真撮るぞー! |
ジーグブルート | おう、今行く! |
全員で記念写真を撮ったあと、
最後の儀式である、ハートの形くぐりが行われた。
カトラリー | それじゃあ、僕の合図で始めてね。 布をハートの形になるように切るんだよ。 ジーグブルートは左から、クラーラは右からだからね。 |
---|---|
クラーラ | ジグお兄ちゃん、クラーラ、まけないからね! |
ジーグブルート | おう、俺も本気出していくぜ。 |
カトラリー | 3、2、1……スタート! |
ジーグブルート | あ? なんだこのハサミ! 全然切れねぇぞ!! |
クラーラ | きゃはは! クラーラのハサミ、チョキチョキはやーい! |
ケンタッキー | クラーラには俺が使ってる裁ちバサミ、 ジーグブルートには工作ハサミを渡したかいあったぜ! ハサミってのは、用途が違うと勝手が悪いからな! |
ジーグブルート | おい、不公平だろ! |
カトラリー | ほら、もうクラーラが切り終わっちゃうよ。 ジーグブルートが切り終わらないと、 ハートくぐりができないじゃん。 |
ジーグブルート | チッ……クラーラ、切り終わったらハサミを貸せ。 |
クラーラ | うん、いいよ! |
ジーグブルートもクラーラから借りたハサミで切り終わり、
クラーラを抱えてハートの穴をくぐった瞬間──
リンゴーン……
クラーラ | あ……。 |
---|---|
ジーグブルート | 鐘の音? 丘の上から聞こえるな……誰かが鳴らしたのか? |
クラーラ | いま……今、パパの声が聞こえた。 クラーラは幸せになれるよ、って……。 |
クラーラ | パパ……ありがとう。 |
女性 | ……鳴らすと幸せになれる鐘……。 あの人が眠っている、あの丘の……! |
女性 | ちょっとママは先に帰るわ! みんな、ゆっくりお店に帰ってきてね! |
ジーグブルートたちは結婚式の片づけを終え、
クラーラと共に「クーヘン・ハイム」に帰ってきた。
タバティエール | ……なんか甘い匂いがしないか? |
---|---|
ジーグブルート | ああ。この匂い……ケーキか? |
女性 | お帰りなさい! ちょうどイメ、グリュックスクーヘンが焼きあがったところなの。 |
ジョージ | グリュ……なんだって? |
ドライゼ | ドイツ語でグリュックスは「幸運の」、 クーヘンは「ケーキ」という意味だ。 すなわち、幸運のケーキだな。 |
エンフィールド | なるほど。 だからケーキの飾りに馬蹄型のチョコが乗っているんですね! |
エンフィールド | 上向きの馬蹄は、幸運を呼び込み受け止めてくれるという、 ポピュラーなラッキーアイテムなんですよ! |
ケンタッキー | あー、そういえばアクセサリーとかでも 馬蹄モチーフのヤツが結構あるもんな。 |
女性 | あの人を失ってから、お菓子作りに向き合えずにいたの。 けれど、さっきあの鐘の音を聞いて……。 |
女性 | 彼と作ったこのお店のお菓子で、幸せを感じてほしい。 彼が残してくれたレシピがお客さんを笑顔にするところを もっともっと見たいっていう気持ちが湧いてきたの。 |
ジーグブルート | ……そうか。 これでクーヘン・ハイムも復活だな。 |
女性 | ええ、明日からお店を開けるわ! |
女性 | さあ、遠慮はいらないからたくさん食べてね! 足りなかったらいくらでもケーキを焼くわよ。 |
全員 | やったー! いただきます! |
──その日遅くまで、ケーキパーティーは続いたのだった。
結婚式から、少し経ったある日。
ジーグブルートの元へクラーラから手紙が届いた。
ジーグブルート | ミミズみてぇな字だな。 なんて書いてあるのか読めねぇよ……。 |
---|---|
ジョージ | どれどれ? オレが読んでやろっか! |
ジーグブルート | いや、この俺が読めねぇのに、てめぇが読めるわけ……。 |
ジョージ | えーと……。 『ジグお兄ちゃん、けっこんしきありがとう』 |
ジーグブルート | おい、マジで読めるのか!? |
ジョージ | だから言ったろ~? |
ジーグブルート | ……続き、読んでくれ。 |
ジョージ | 『……パパとの約束、かなったみたいだったよ。 パパのぶんまで、ママのおてつだいをして、 おいしいおかしをつくるね。またお店にきてね』 |
ジョージ | ……だってさ。 |
ジーグブルート | ……あいつ、強いな。 あんな小せぇガキのくせに。 |
主人公 | 【ジーグブルートのおかげだ】 |
ジーグブルート | いや、俺は手を貸しただけだ。 あいつが自分で父親のことを乗り越えて、成長したんだ。 |
タバティエール | 手紙と一緒にママさんから箱も届いてるらしいぜ。 〇〇ちゃんと、俺たちへって書いてあるが……。 |
ジーグブルート | 開けてみるか。 |
ジーグブルートが箱を開けると、
クッキーがぎっしりと詰め込まれていた。
タバティエール | これ、あのクッキーローラーの花柄……! へぇ、焼きあがるとこんな感じになるんだな。 いい匂いだ……早速、コーヒーでも淹れてくるか。 |
---|---|
エンフィールド | ええ、いいですね! それでは僕は、紅茶を用意します。 ちょうど、良い茶葉を仕入れたところなので! |
ジョージ | オレも一緒に手伝う! |
ジーグブルート | お前ら、ありがとな。 |
ジーグブルートは3人を見送ると、
クッキーを1枚箱から取り出してじっと眺めてから、囓った。
ジーグブルート | ……ん、あの店の味だ。 やっぱ、美味いな。 |
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