『縁日』の準備が進む中、シャルルヴィルはリリエンフェルト家からの要請を受けて苦悩する。
自分が諦めれば済むのだと、我慢するばかりの貴銃士はもういない。
力強き白百合の貴銃士は前を向き、望みを掴み取る。
心を殺すのはもうやめにした。
ボクは人を助けたいし、自分の望みも蔑ろにしたくないから。
諦めて手を引くんじゃなくて、両方とも得てみせるよ。
主人公名:〇〇
主人公の一人称:自分
ジョージ | あ! シャルルー! 恭遠が探してたぜ。 |
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シャルルヴィル | え? なんの用事だろう……? とりあえず、職員室に行ってみるよ。 ありがとう、ジョージ。 |
シャルルヴィル | ……失礼します。 あれ、〇〇も……? |
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恭遠 | シャルルヴィル、来てくれたか。 〇〇君も、急に呼び出してすまない。 |
恭遠 | …………。 |
シャルルヴィル | 恭遠教官……? ボク、何かしちゃったかな。心当たりは特にないんだけど……。 |
恭遠 | ああ……君が何かしたわけではないから安心してくれ。 |
恭遠 | ……これから話すことは、あくまで向こうの要望に過ぎない。 耳に入れれば、君を悩ませてしまうことになるだろうが、 勝手にこちらで情報を遮断するのもよくない……。 |
恭遠 | そういうわけで、一旦向こうの言い分を伝えることにするが、 君自身はどうしたいかをよく考えてくれ。 |
シャルルヴィル | うーん……? 何の話かはよくわからないけど、了解。 それで、『向こう』って……? |
恭遠 | ……リリエンフェルト家だ。 |
主人公 | 【どういうことでしょうか】 |
恭遠 | 実は……リリエンフェルト家から、 シャルルヴィルに戻ってきてもらいたいという要請があった。 |
シャルルヴィル | え……!? もしかして、ロジェさんに何かあったの? |
恭遠 | あったといえばあったが…… 今回の要請はロジェ氏が中心となったものではない。 まずは彼の状況について話をする必要があるな。 |
シャルルヴィル | 状況って……? |
恭遠 | シャルルヴィルが士官学校に来ることになった 一連の出来事を踏まえ、ロジェ氏はリリエンフェルト家の 赤字部門の責任者に任命された──これは事実上の左遷だ。 |
恭遠 | 名目上は、次期当主自ら赤字部門の立て直しに奔走し、 失態を贖(あがな)う……ということだったが、 元々相当厳しい部門だったようで、結局、撤退に追い込まれた。 |
恭遠 | その責任を負って、彼は降格処分となった。 次期当主の座も白紙になったという見方が強い。 |
シャルルヴィル | そんな……ボクにはそんなこと、一言も……! それって、本当なの……? |
恭遠 | ……ああ。 シャルルヴィルへの帰還要請が来たことからして間違いないだろう。 |
恭遠 | ロジェ氏は、シャルルヴィルに大きな負担を強いたことを盾に、 士官学校でのできる限りの自由を リリエンフェルト家の重鎮たちに認めさせていたようでね。 |
恭遠 | 重鎮たちも、次期当主には大っぴらに逆らえなかったのだろう。 だが、今になってこの要請が来たということは…… ロジェ氏が立場を失い、抑えきれなくなったのだと思われる。 |
シャルルヴィル | ……ロジェさん、これまでボクのことを守ってくれてたんだ……。 各地の別荘とかも貸してくれて、いろいろ良くしてくれて……。 それなのにボク、何も知らなかった……っ。 |
恭遠 | シャルルヴィルが気にすることではないさ。 彼はそれだけのことをしたと自覚しているのだろうし、 償いをこれ見よがしなものにはしたくなかったはずだ。 |
シャルルヴィル | うん……。 |
シャルルヴィル | それで、リリエンフェルト家は、 ボクを呼び戻して何をさせたいんだろう……? |
恭遠 | ここからは俺の推測混じりになってしまうが……。 |
シャルルヴィル | それでもいいよ。 恭遠教官が知ってることを全部聞かせて。 |
恭遠 | ……今回の要請には、 リリエンフェルト家の権威がやや失墜していることと、 次期当主争いが絡んでいると思われる。 |
恭遠 | リリエンフェルト家の他の子女たちのことを、 シャルルヴィルは知っているかい? |
シャルルヴィル | 3人きょうだいで、妹と弟がいるんだよね。 妹は……確か、ミレーユさん。 召銃されたばかりの頃、1回だけパーティーで会ったよ。 |
シャルルヴィル | 末っ子の弟さんの方は、アメリカにいるって話だったかな。 名前は……マル……いや、マクシムさん。 |
恭遠 | 長女の方が有力視されていたけれど、 弟の方も、投資事業で大成功を収めたそうでね。 彼が今度フランスへ戻るから、次期当主争いが激化しそうなんだ。 |
恭遠 | このタイミングでシャルルヴィルに帰還要請が来た裏には、 次期当主を改めて指名する前に、リリエンフェルト家の権威を 取り戻す狙いがあるのではないかと俺は考えている。 |
主人公 | 【家督争いにシャルルを巻き込むのは……】 【あちらの事情はわかりましたが……】 |
恭遠 | ああ。俺としては、リリエンフェルト家が立場を弱めたのは、 自らが仕掛けた卑劣な工作が主な原因なのだから、 シャルルヴィルにその尻拭いをさせるなんて、と思ってしまう。 |
恭遠 | ただ、シャルルヴィルの銃本体はリリエンフェルト家の所蔵品だ。 所有権は今もリリエンフェルト家にあるから、 士官学校や連合軍も強固に反対はできないんだ。 |
恭遠 | リリエンフェルト家は、 世界連合の重要なパトロンでもあるしね……。 上層部は、君に頷いてほしいと思っているのは間違いない。 |
恭遠 | リリエンフェルト家の思惑は別として、 フランスの貴銃士はフランスに──と訴える人々も存在している。 フィルクレヴァートで貴銃士を抱え込みすぎだとね。 |
恭遠 | 事情を知らない人々から見れば、 そう思えるのも無理はないことだと理解はできるが……。 |
恭遠 | それはさておきだ。 シャルルヴィル自身の意向次第で、 要請を断ったり先延ばしにしたりすることも不可能ではない。 |
恭遠 | 例の結晶による悪作用があったとはいえ、 リリエンフェルト家においての君の処遇は酷いものだった。 君が嫌だと思うなら、それを盾にして、俺も手を尽くすよ。 |
シャルルヴィル | 恭遠教官……。 |
主人公 | 【ありがとうございます】 【心強いです】 |
恭遠 | まずは、シャルルヴィル自身がどう思うか、 どうしたいかをよく考えてほしい。 |
シャルルヴィル | はい……。 |
シャルルヴィル | (ボクは……ジョージや〇〇、スフィー、 みんなと過ごせる士官学校での暮らしが好きだ。 ここを離れたくないって思う……) |
シャルルヴィル | (だけど、これまで何も知らない間に、ロジェさんに守られてた。 償いだとしても、守られてたことを知った上で、 窮地に陥っている彼を放っておくことなんてできない……) |
シャルルヴィル | (フランスの人たちがボクを必要としてくれてるのも嬉しい。 今のボクにはちゃんと絶対高貴が使える。 騙してしまった人たちにも、本当の絶対高貴を見せられる……) |
シャルルヴィル | (でも、あの屋敷に戻ることを思うと複雑だなぁ。 みんなと離れ離れになるのも寂しいし……。 どうしよう……。ボク、どうしたらいい……?) |
シャルルヴィルが答えを出せないまま、
士官学校では縁日の準備が進んでいく。
シャルルヴィル | えーと……奥で紐を結んで……っと。 十手さん、こんな感じで合ってる? |
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十手 | うん、そうそう。 それから、襟元を綺麗に張るといいよ。 |
十手 | 着物の着こなしは襟元が大事でね。 それは甚平も一緒だから……さ、できた! |
十手 | おお、よく似合ってるね! 白百合の綺麗な柄がシャルル君によく似合ってるよ。 |
シャルルヴィル | Merci♪ そう言ってもらえると嬉しいな。 |
ドライゼ | 十手、すまない。 着付けについてこちらにも教示してもらえないだろうか。 |
十手 | ああ、今行くよ! それじゃあシャルル君、また後で! |
シャルルヴィル | (白百合か……) |
ロジェ | シャルルヴィル、こちらへおいで。 |
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ロジェ | 昔々、リリエンフェルト家は、その名の通り 一面に百合が咲き誇る美しい谷にあったそうだ。 |
ロジェ | 君の銃に刻まれている百合の紋章。 美しく気高い君の姿……運命を感じるだろう? |
シャルルヴィル | …………。 |
主人公 | 【シャルルヴィル?】 【大丈夫?】 |
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シャルルヴィル | うわっ! ごめん、ちょっとぼんやりしてた。 ええと、何か用かな? |
主人公 | 【あの件、どうしたい?】 |
シャルルヴィル | わからない……。 ボク、あの後もパリに何度か行っていたのに……。 ロジェさんが窮地に立たされていることも知らなかった。 |
シャルルヴィル | リリエンフェルト家から離れたおかげで、 改めていい関係を築けてるって、ボク、信じてたんだ。 |
シャルルヴィル | ロジェさんは、ボクに現状を悟られないように、 明るく穏やかに振る舞ってた……。 |
シャルルヴィル | ボクが気づかないことにホッとしてたのは確かだと思うんだ。 だけど……心のどこかで、気づいてくれ、 助けてくれって叫んでたかもしれない。 |
シャルルヴィル | 前のボクがそうだったから……。 |
シャルルヴィル | ……リリエンフェルト家の本当の闇はね、ロジェさんじゃない。 その後ろにいる重鎮のお年寄りたちだったんだよ。 |
シャルルヴィル | 彼らは本当に恐ろしいんだ。 今考えてみると、ボクを早く絶対高貴に目覚めさせろって圧が ロジェさんにはすごくかかってたんだと思う……。 |
シャルルヴィル | いろいろ酷いことされたし、言われたし、たくさん傷ついたけど。 ロジェさんはあの結晶に狂わされて、 上からのすごい重圧もあった被害者でもあるから……憎めない。 |
シャルルヴィル | そんな彼に全部背負わせて、ボクだけ逃げたみたいで……。 なんだか、居ても立ってもいられなくて。 ボクにできることがあるならやりたいって、ずっと考えてるんだ。 |
シャルルヴィル | けど……1人でリリエンフェルト家に立ち向かうのは怖い。 それに、大好きなみんなとここにいたい。 ボクはどうしたらいいのかな……。 |
主人公 | 【ここにいてほしい】 →シャルルヴィル「ふふ、Merci. 〇〇に必要とされるの、嬉しいな。」 【迷うのもわかる】 →シャルルヴィル「うん……ありがとう。 自分で考えて結論を出すのって、難しいね……。」 |
シャルルヴィル | まだ答えは出せないけど……。 これはボクが決めなきゃいけないことだってわかってるんだ。 決断には責任が伴うから、人任せにはできないもんね……。 |
スプリングフィールド | ……あ、シャルル兄さん、〇〇さん。 こんなところにいたんですね。 |
スプリングフィールドと在坂は、
両手いっぱいに縁日のありとあらゆる食べ物を持っていた。
シャルルヴィル | スフィー! もしかして全種類の食べ物をもらってきたの!? |
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スプリングフィールド | えへへ、そうなんです。 |
在坂 | わたあめ、イカ焼き、とうもろこし……どれも美味い。 〇〇たちも食べるといいだろう。 |
在坂 | 1人では全部食べられなくても、 4人なら少しずつすべてを楽しめるはずだと在坂は思う。 |
スプリングフィールド | ふふっ……僕もそう思って、 欲張って食べきれないくらい持ってきちゃいました。 |
シャルルヴィル | そ、そっかぁ……! ボクと〇〇もいるから大丈夫だよ♪ |
シャルルヴィル | (欲張り、か……) |
──その後、シャルルヴィルは直接交渉をするため、
リリエンフェルト家へ向かった。
数日後──……。
シャルルヴィル | みんな、ただいま~♪ |
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ジョージ | シャルル! おかえり! 大丈夫だったか? イヤなことされてないか? |
主人公 | 【どうだった!?】 【ちゃんと望みを伝えられた!?】 |
シャルルヴィル | あはは、2人とも心配しすぎだって。 まあ、ボクも向こうに着いた時はすっごく緊張してたけど……。 |
シャルルヴィル | リリエンフェルト家の人たちとたくさん話をして、 これからのことをちゃんと決めてきたよ。 ボクの話、聞いてくれる? |
ジョージ | おう! |
主人公 | 【もちろん!】 【聞かせてほしい】 |
シャルルヴィル | (うう、緊張する……。 ちゃんと、ボクの考えを言えるように頑張らないと……) |
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??? | ……君! 貴銃士のシャルルヴィルくん……だね? |
シャルルヴィル | え……? はい、そうですけど……。 |
マクシム | よかった! 俺はマクシムだ。 リリエンフェルトのマクシムでわかるかな。 突然ですまないが、5分だけ話を聞いてくれ! |
シャルルヴィル | えっ? あ、ちょっ……! |
突然現れたマクシムによって、
シャルルヴィルは屋敷の一室に連れて行かれた。
ロジェ | シャルルヴィル! ……よく来てくれたね。大丈夫かい? |
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シャルルヴィル | わっ、ロジェさん!? |
シャルルヴィル | ボクは大丈夫だけど……ロジェさんは、痩せたみたい。 やっぱり……その、大変……なんだよね。 ボク、これまで気づけなくてごめん……。 |
マクシム | はは、シャルルヴィルくんはお見通しみたいだな。 兄さんは腹芸が得意でもないのに格好つけなんだよ。 だから、あの狸どもにいいように使われるんだ。 |
ロジェ | だが、失点を抱えている私では 立ち回りにいろいろと制限がある。 彼らを説得するには──…… |
マクシム | あー、はいはい。 その先は聞き飽きたから割愛で頼むよ、兄さん。 |
シャルルヴィル | あ、あのー……? ロジェさんとマクシムさんは、仲が良いの? 家督争いで対立してるって聞いたんだけど。 |
マクシム | はっはっは! それは表向きの情報だね。 俺と兄さんが対立していると思われていた方が、 いろいろと都合がいいのさ。 |
ロジェ | ミレーユについても似たようなものだ。 妹には、後目の座なんて面倒なものを寄越さないでと怒られたよ。 |
シャルルヴィル | ええっ……? |
マクシム | あははっ、姉さんはリリエンフェルトの外で やりたいことがあるからね。 |
ロジェ | そういうわけで、私たちで作戦会議をしていたんだ。 |
シャルルヴィル | 作戦会議……? |
マクシム | そう。誇りにすがって偉ぶるだけしか能のない 埃を被ったご老人たちに退場していただくための……な。 |
マクシム | ロシニョルとレザールの不仲工作だとか、 陰湿でしょうもない手段ありきで保ってきた権威なんていらない。 俺たちはリリエンフェルト家を変えたいんだ。 |
ロジェ | シャルルヴィル……君を再びこの家の事情に巻き込むなんて、 できることなら避けたかった。 |
ロジェ | だが、貴銃士としての君はさておき、 君の本体たる銃はリリエンフェルト家のものだ。 そこを突いて、重鎮たちのいいようにされるのは避けたい……。 |
マクシム | そこで、あえて俺たちが先手を打って、 君を早く巻き込んでしまった方がいい結果になると思うんだ。 だから……できれば、君にも力を貸してもらいたい。 |
マクシム | 図々しいことは百も承知だ。その上で懇願するよ。 もちろん、君の待遇は最上級のものを約束する。 アメリカでがっぽり稼いだ金もあるしね! |
マクシム | 何に立ち向かうにしても、大事なのは金、金、金! 金があれば万事解決! 金こそ全なりってな! うわっはっは! |
ロジェ | ……すまない。かなり偏った独自の理論を持っているが、 弟は悪いやつではないんだ。 |
シャルルヴィル | う、うん……。 |
マクシム | とまあ、ここまでが俺たちの望みなんだけど、 シャルルヴィル……君はどう思う? どうしたい? |
マクシム | 君の意見を聞かせてくれ。 リリエンフェルト家に来たということは、 要望は決まっているんだろう? |
シャルルヴィル | ボクは……ロジェさんを放っておけないと思った。 フランスの人たちの力にもなりたいし、 士官学校の暮らしも捨てたくない。 |
シャルルヴィル | どれか1つを選ぶなんて難しすぎて、 ずっと悩んでたけど……決めたんだ。 |
シャルルヴィル | ボクは……どれか1つなんて選ばない。 全部を選ぶ! |
シャルルヴィル | ボク、もう、何かを諦めたりしない。 欲張りに生きたいんだ! |
マクシム | Good! 気に入ったよ。欲張り上等! 欲しいものをまるっと手に入れようじゃないか! |
シャルルヴィル | うん……! |
シャルルヴィルは、マクシムとロジェと固い握手を交わす。
こうして、3人の同盟が結ばれたのだった──。
シャルルヴィル | ……というわけで、重鎮たちもなんとか説得して、 拠点は士官学校のままで、1か月のうち1週間は必ず 向こうに行くことで了承をもらったんだ。 |
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シャルルヴィル | 貴族のパーティーとかのイベント出席も月に3件まで。 忙しすぎないように体調を見て調整もしてもらうから、 任務にも支障は出ないよ。 |
シャルルヴィル | だから、〇〇が大変な時は リリエンフェルト家のこともあるし……なんて遠慮しないで、 いつでもボクを頼ってくれて大丈夫だからね♪ |
主人公 | 【ありがとう】 【頼もしくなったね】 |
ジョージ | シャルル……おまえ、スゲーよ! 何もかも諦めないで、 ちゃんと欲しいものを欲しいって言えたんだな! |
ジョージ | くーっ! 橋で泣いてたあの時とは全然違うな! |
シャルルヴィル | そう言われるとなんだか恥ずかしいな……! あの時は本当にいっぱいいっぱいだったから……。 |
シャルルヴィル | でも、あの日橋で言われたこと、 ジョージやみんなが助けてくれたこと、 全部が今のボクに繋がってるから……ありがとう。 |
シャルルヴィル | みんなのおかげで変われたボクを、これからも見守っててね。 |
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