『兄貴』の称号を賭けて、いざ尋常に『兄貴力勝負』!
譲れない思いを胸に挑む熱い戦い、決裂、結託、そして─……。
勝負に負けても、失うばかりではない。
最高の仲間と思いではいつまでも輝くのだ!
別に、心底憎いわけじゃない。ただ、許せないこともあって。
尊敬も一応あるけど、憧れてるだけじゃいつまでも越えられないだろ?
だからライバルなんだ。
主人公名:〇〇
主人公の一人称:自分
──オープンデーを目前に控えたある日。
軍服の裾のレースがほつれてしまったシャルルヴィルは、
裁縫部を訪ねた。
シャルルヴィル | こんにちは、ケンタッキーは──…… |
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シャルルヴィル | わ、なんかすごい状態だね……!? |
ケンタッキー | おう、シャルルヴィル! どうした? |
シャルルヴィル | えっと、裾のレースを直したくて来たんだけど……。 部室の引っ越しでもするの? |
ケンタッキー | いや、引っ越しじゃねぇけど、部室の整理中なんだ。 オープンデー用にたくさん衣装作るから、 作業スペースを広く確保しないと動きづらいだろ? |
シャルルヴィル | そうだったんだ……! 忙しい時にごめんね。出直すことにするよ。 |
ケンタッキー | いや、別に出直さなくていい。 これから先もっと忙しくなるしよ、 裾のほつれくらいならパパっと直せるから。貸してみろ。 |
シャルルヴィル | いいの!? Merci♪ |
ケンタッキー | んじゃ、やってる間そのへんで座って待ってろ。 椅子の上にあるもんは適当にどけていいぜ。 |
シャルルヴィル | はーい。 |
シャルルヴィル | わっ! ご、ごめん! ダンボールちょっと蹴っちゃった! 大事な衣装が入ってるやつだよね……!? |
ケンタッキー | 箱にしまい込んでんのは試作とかだし、 そんくらいで中身に影響ねぇって。 他のやつもつまづきそうだし、どっか上げといてくれ。 |
シャルルヴィル | うん、わかった。 |
シャルルヴィル | ……あれ、これって……。 |
閉じられていない段ボール箱を持ち上げたシャルルヴィルは、
中に見覚えのある赤色の布が入ってることに気づいた。
シャルルヴィル | もしかして、エンフィールドへのサプライズの時に作った、 ベスくんの衣装? |
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ケンタッキー | うわ、そんなトコに入ってたのかよ! それは試作品。処分すっからあっちに置いといてくれ! |
シャルルヴィル | えっ? 捨てちゃうの!? 試作品でもいい出来なのに、もったいないよ。 |
ケンタッキー | 作った俺がいいって言ってんだからいいんだよ。 レッドコートなんざ手元に置いときたくねぇし! |
裁縫部の生徒1 | あの……僕も、捨てるのはもったいないと思うんですが……。 どうしてケンタッキーさんは、 レッドコートを毛嫌いするんでしょうか。 |
裁縫部の生徒1 | 歴史歴に因縁があることは知っていますが、 衣類にまで強く反応するのがなんだか気になって……。 |
シャルルヴィル | うーん、確かに……? 負けたならともかく、独立戦争はアメリカが勝ってるし。 トラウマがあるってわけでもないよね。 |
シャルルヴィル | それに、ボクたちはあの時はまだただの銃だったわけで、 レッドコート自体にそんなに嫌な思い出はないと思うんだけど。 |
ケンタッキー | あー……まあな。 数撃ちゃ当たるのクソダサマスケット戦法は、 俺とはスタンスが合わなすぎるけど。 |
ケンタッキー | それとこれとはまた別っつーか…… 俺が一番ムカついてんのは、 前に連合軍のイベントでアイツとすれ違った時のことだ。 |
ケンタッキー | (あいつは、ブラウン・ベス……!) |
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ケンタッキー | ……よう、クソダサマスケット。 |
ブラウン・ベス | ……なんだ。俺に用でもあるのか。 |
ケンタッキー | いーや? むすっとした顔で歩いてっから、 腹の調子でも悪いのかと思って声掛けてやっただけだ。 |
ブラウン・ベス | ……フン、余計なお世話だ。 俺は卑怯な民兵と話すことなどない。 さっさとどこかへ行け。 |
ケンタッキー | ああ? 何が卑怯だ! 100メートル先にもろくに当たらねぇ雑魚がよ! |
ブラウン・ベス | それを補う一斉射撃だ。 騎士道精神を持ち、倒れることを恐れず堂々と前進する 大英帝国の兵士たちを俺は誇りに思う。 |
ケンタッキー | ハッ、大量の兵士を使い捨てにして騎士道たぁ笑わせるぜ! 開けた場所で直立前進なんていい的でしかねぇっての。 |
ブラウン・ベス | 迫りくる勇敢な兵士たちに怯えて 森に隠れ潜んだ輩の銃に何を言われようと響かないな。 |
ケンタッキー | んだとてめぇ! |
ブラウン・ベス | 図星だからと怒鳴るのか、民兵野郎。 |
ケンタッキー | ──ってことがあってよ。 レッドコートを見るとアイルのスカした顔を思い出して、 こう、ギィ……ッ!ってなるっつーか。 |
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ケンタッキー | あー、くそっ! 話してたら余計にはっきり思い出してイライラしてきた! |
シャルルヴィル | (時期的に、ケンタッキーが話したのは偽物だろうなぁ……。 でも、本物のベスくんでも言いそうなことだし、 どっちにしろレッドコート嫌いは変わらないかぁ) |
──オープンデーの準備が進む中。
エルメとジーグブルートが裁縫部の部室を通りかかり、
ケンタッキーはじめ部員たちの奮闘ぶりを眺めていた。
エルメ | そうだ、面白い話を聞いたよ。 君、ペンシルヴァニアと兄貴呼びを掛けて勝負してるんだって? |
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ケンタッキー | おう。 ペンシルヴァニアも今回は本気みてぇだけど、俺が絶対に勝つぜ! |
エルメ | 後発の銃を兄貴呼びするのは、 鷹揚でおおらかな彼でも避けたいものなんだね。 |
エルメ | ……んー……。 |
ジーグブルート | なんだよ。 |
エルメ | ジグに兄貴と呼ばれるのも面白そうだと思って。 |
ジーグブルート | 死んでも呼ばねぇ。 |
エルメ | そう? なら「お兄様」でもいいよ。 |
ジーグブルート | 悪化してるじゃねぇか! お断りだ! |
ジーグブルート | けど、そうだな……。 俺が勝ったら『ジーグブルート様』って呼ぶってんなら、 勝負してやってもいいぜ。 |
エルメ | へぇ。それでも俺は構わないよ。 さて、どんな勝負をしようか? 公平になるように……ケンタッキー、君が決めてくれる? |
ケンタッキー | 今すぐ勝負すんなら、この裁縫部の中でできるやつだよな。 んー……、ボタン付けはどうだ? |
エルメ | 異論はないよ。ジグはどう? |
ジーグブルート | 俺もいいぜ。 |
ケンタッキー | そんじゃ、俺が審判役ってことで……。 ほい、糸と針……あと、ボタンと布! これでいいな。 ボタン付け勝負、スタート! |
ジーグブルート | ハハッ、こんなのちょろいな。 |
ジーグブルート | ……イテッ! |
エルメ | ジグ、血で布を汚してしまったら完璧とは言えないよ。 落ち着いて完璧に美しく仕上げないとね。 |
エルメ | ……ん? ボタンの角度がしっくりこないな。 少し解いた方がいいかな……。 |
~数分後~
ジーグブルート | っしゃ、終わったぜ! 俺の勝ちだな。ハハッ! |
---|
~それからさらに数分後~
エルメ | ……よし、俺も終わったよ。 審査をお願いできるかな。 |
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ジーグブルート | あ? 審査? 俺の方が速かったんだから俺の勝ちだろ。 |
エルメ | いいや、ケンタッキーは速度の勝負だとは言っていないよ。 ボタン付けなんだから、仕上がりも大事でしょう。 いくら速くできても、すぐに取れるようなら意味がない。 |
ジーグブルート | チッ……! それでも、俺は負けてねぇ! すぐ取れるようなやわな付け方はしてねぇからな! |
ケンタッキー | んじゃ、まずはジーグブルートのやつから見るか。 えーっと……? まあ、しっかり付けられてはいるな。 |
ケンタッキー | けど、糸を強く引きすぎて布がよれてたり、 慌てすぎて指を刺してたってのもあるし。 |
ケンタッキー | エルメのは……うん、綺麗だな! 一流パーラーが仕立てたスーツのボタンって感じの付け方だ。 ま、その分時間はかかってるし、うーん……。 |
ケンタッキー | この勝負、引き分けだな! |
ジーグブルート | クソ……勝利条件を確認しとくべきだったぜ。 |
エルメ | ふふ、まだまだ甘いね。 |
エルメ | さてと。お邪魔したね。 俺たちはそろそろ行くよ。 |
ケンタッキー | ちょっと待った! ついでだし、着てみてほしいのがあるんだけどよ。 |
エルメ | 衣装を着ればいいの? 審判のお礼に、それくらいなら構わないよ。 |
ジーグブルート | おう。別に先を急いでるわけじゃねぇしな。 |
ケンタッキー | サンキュー! UFOとハンバーガー、どっちがいいか? |
ジーグブルート | ユーフォ……はぁ……!? |
エルメ | ……この、変な着ぐるみみたいなのを着るの……? |
エルメ | ……ごめんね、ちょっと急用を思い出したから失礼するよ。 ドライゼと話があるんだった。それじゃあ。 |
ジーグブルート | あっ! 待てコラ! |
ケンタッキー | えっ? あっ、なんで逃げんだよ! おい、待てーっ!! |
オープンデーでの『兄貴力勝負』に敗れたケンタッキーは、
丸1日の間、ペンシルヴァニアを兄貴と呼ぶことになった。
ケンタッキー | 勝負は勝負、あいつの勝ちは揺らがねぇし文句もねぇ。 けど、アニキ呼びはやっぱ……うぐぁああ……! クッソもそもそする!! |
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ケンタッキー | (……! そうだ、ペンシルヴァニアと会わなけりゃ、 アニキ呼びする機会自体ナシにできる! よし、今日1日部屋にこもって──……) |
ケンタッキー | ……? 誰だ? |
ケンタッキー | あっ、マスター! どうしたんすか? |
主人公 | 【ピクニックに行かない?】 |
ケンタッキー | え、俺とマスターが、っすか! もちろん行きます! マスターと2人でピクニックとか、マジ嬉しいっす! |
主人公 | 【ペンシルヴァニアも一緒だよ】 【ペンシルヴァニアと3人でね】 |
ケンタッキー | ええっ……!? |
ケンタッキー | (1日避けて過ごそうと思ったのに……! どうする、俺! マスターとピクニックに行けるのは嬉しい!) |
ケンタッキー | (マスターからのお誘いを断るなんてもったいねぇこと無理だ! けど、ペンシルヴァニアもいるとなるとアニキ呼びが……! うぐぐ……っ!) |
ケンタッキー | ……い、行きます。 |
ケンタッキーは〇〇と共に、
ペンシルヴァニアが待っているという森へと向かった。
ペンシルヴァニア | ああ、来たか、2人とも。 |
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ケンタッキー | お、おう……。 |
ペンシルヴァニア | 行こう。花が綺麗に咲いているところがあるんだ。 |
主人公 | 【それは楽しみ】 【案内よろしく】 |
ケンタッキー | よ、よろしく……。 道に迷ったりすんじゃねぇぞ、お前。 |
ペンシルヴァニア | はは、大丈夫だから任せてくれ。 ……こっちだ。 |
〇〇とケンタッキーは、
ペンシルヴァニアの先導で歩き始めた。
ケンタッキー | ……ん? おい、道そっちで合ってんのか? |
---|---|
ペンシルヴァニア | ああ……傾斜が緩いところがあったから、 藪を払って近道を作ったんだ。 |
ケンタッキー | へぇ、そうかよ。ならいいけど。 |
主人公 | 【ケンタッキー】 |
ケンタッキー | はい! なんっすか、マスター! |
主人公 | 【「おい」とか「お前」は駄目だ】 |
ケンタッキー | ……へ? |
主人公 | 【ペンシルヴァニアとの約束は?】 【ペンシルヴァニアの呼び方が違うよ】 |
ケンタッキー | う……っ! |
ケンタッキー | ペンシルヴァニアの……アニキ……。 案内、頼むぜ……。 |
ペンシルヴァニア | ああ。 ……はは、なんだか照れるが、嬉しいものだな。 |
主人公 | 【2人が仲良くしていると自分も嬉しい】 |
ケンタッキー | マスターが嬉しいなら俺も嬉しいっすけど……! これは別に、仲良くしてるわけじゃ……! そう、不可抗力ってやつで!! |
ケンタッキー | いや、あの、めちゃくちゃ仲悪いっていうわけでもないっすけど! ……うぅー、あぁー!! |
ケンタッキー | (早く今日、終われーっ!) |
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