【その果実は魅惑の味】グラース

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解説

カード解説

紳士の腕時計、マダムの指輪、高価な宝石。
輝いて見えたはずのものは、手にした途端どうでもよくなった。
本当に欲しかったのはグラース自身へ向けた心のこもった贈り物……そう気づいたから、もう大丈夫。

心銃解説:Douce tentation

あれも欲しいこれも欲しい、でも結局満たされなくて苛立って、昔の僕は今考えると馬鹿だな。
本当は……ただ、僕が僕のまま皆に好かれたかっただけなのに。

カードストーリー

主人公名:〇〇
主人公の一人称:自分

 

Ep1. ないものねだり

グラースがフランスにて、
レザール家の貴銃士『シャスポー』として過ごしていた頃のこと。

女性1まあ……! シャスポー様よ!
女性2シャスポー様、お会いできて光栄です。
ぜひ一度お話してみたいと思っていましたの……!
シャスポーMerci!
麗しきご婦人にそう思ってもらえて僕も光栄ですよ。
女性1評判通り……いえ、評判以上に素敵な紳士ですわね。
流石はフランスが誇る誉れ高き貴銃士様だわ!
シャスポー…………。
ふふ、嬉しいです。
シャスポー(……ん? あっちのムッシュがつけてる時計は……)
男性1ごきげんよう、シャスポー様。
私もぜひご挨拶させてください。
シャスポーもちろん。
挨拶だけじゃなくて、ゆっくり話もしましょう。
趣味の良い紳士と語らうのはいつだって大歓迎さ。

グラースの視線の先に気づいた男性は、
腕時計をつけている手を軽く挙げる。

男性1おや、この時計に注目されるとはお目が高い。
シャスポー実は、僕も気になっていた時計だったもので。
希少な限定品ですし、手に入れられなかったんですが……。
シャスポーこうして間近で見ると、やはり素晴らしい品ですね。
入手できなかったのが本当に惜しいですよ。
男性1世界で数本だけの発売でしたからね。
私は伝手があって、たまたま購入できたんです。
シャスポー(極上のダイヤモンドがあしらわれた、
一目で高級だとわかる品で、さらには世界にたった数本だけ……。
最高だ。今からでもどうにか手に入れられないか?)
シャスポーそうですか……。それはなんとも羨ましい。
再販もあまり期待できないし、
入手できた人は手放さないだろうし、僕は諦めるしかないかな。
男性1シャスポー様がそんなに時計に興味がおありだったとは。
私はコレクターというほどではありませんし、
よろしければお譲りしましょうか?
シャスポーえっ!?

──パーティーから数日後。

タバティエール…………。
グラース見ろ、タバティエール!
タバティエールん……ああ、どうしたんだ?
グラース洗練されたデザイン、そして文字盤に煌めくダイヤモンド!
どうだ? 僕に相応しい腕時計だろ?
グラース親切なムッシュにもらったんだ。
よーく見てみていいぜ。
タバティエールいや……遠慮しとく。
俺は時計にも宝石にも興味はないからな。
グラースはぁ?
これだけの素晴らしい品に興味を持たないなんて……
お前、どうかしてるぞ!
タバティエールそうかもな。
……悪いが、俺はちょっと出てくる。
グラースなんだ、あいつ……。
いつもなら、誰からどうやってもらったのか確認してくるのに。
辛気臭い顔してよ。
グラース……大方、“あいつ”絡みでなんかあったか。ふん。

グラースは自室に戻り、
腕時計を付けた自分の姿を鏡でじっくりと眺める。

グラース(……なんだか、たいしたことないな。
あんなに欲しいと思ってたはずなのに)
グラースはぁ……白けちまった。

グラースは時計を外し、キャビネットにしまいこんだ。

その後もグラースは、フランス社交界の裕福な老若男女から
宝飾品をはじめ高級ブランドの商品など様々なものを手に入れた。
しかし、どれもこれもすぐにキャビネットにしまうことになる。

グラース(……なんでだ?
欲しいものを手に入れたはずなのに、
どれもあっという間に色褪せる……)
グラース(……いや。
きっとどこかにあるはずだ。僕を満足させるものが……!)
グラース満足するまで手を伸ばし続ければいい。
華麗に強欲に……そうだろ?

Ep2. 酸っぱい葡萄

その後もグラースは、いろいろなパーティーに呼ばれ、参加した。

女性1わぁ……あのマダムの指輪、すごいわね。
深い赤の輝き……なんだか魅入られてしまいそう。
ルビーかしらね?
女性2あら、あなた知らないの?
あれは世にも珍しいレッドダイヤモンドよ!
マダムの家に伝わる家宝なんですって。
シャスポー(家宝の赤いダイヤモンドか……。
遠目に見ても素晴らしい色と輝きだな)
シャスポーマダム、お隣りに座っても?
老婦人あら、私の隣でよろしいのかしら?
シャスポーええ。あなたの隣がいいんですよ。
……素敵なマダムは身につける品も一流なんですね。
その指輪なんて特に。
シャスポー赤い宝石はいくつかありますが……そちらは?
老婦人これは、レッドダイヤモンドというのよ。
『幻のダイヤ』なんて言われているそうでね、
世界に数十しかないと聞いたことがあるわ。
シャスポー特別なものなんですね。
見れば見るほどうっとりしてしまいそうです。
老婦人……ありがとう。
我が家で代々母から子へ受け継がれる大切なものだから、
そう言ってもらえて嬉しいわ。
シャスポー美しい指を引き立たせるその輝きを、よく見せてもらえませんか?
老婦人ふふ……あなたね、欲しがり屋さんで噂の貴銃士様は。
確かにこの指輪はとっても素敵よ。
老婦人だけど……これは私が持っているのが一番輝くの。
その次は、娘の指で。
シャスポー……!
老婦人人と物には相性があるのよ。
輝き、輝かせ、お互いを際立たせ合う特別な関係でないとね。
シャスポー(マダムも指輪も、目を引かれる特別な何かがある。
だけど、僕がこの指輪を手に入れたところで、
またいつもみたいに輝きを失ってしまうのか……?)
シャスポーそうですか……失礼。
所用を思い出したもので……。
老婦人あら、大変。
私には構わず行ってちょうだいな。

グラースは足早にマダムのいる場所から立ち去った。

グラースチッ……最悪だ。
僕には似合わないと遠回しに言っていただろ、あのばあさん。
グラース無礼なばあさんの宝石なんて、
こっちからお断りだっての!
タバティエール無礼って……あのマダムは人格者で有名だぞ。
悪く言う人なんて聞いたことがないって評判、
俺でも知ってるくらいだ。
グラース……評判なんて知るか。
僕に対して無礼だったんだから僕にとってはそれがすべてだ!

苛立ちを抱えながらレザール家に戻ったグラースは、
キャビネットにずらりと並ぶ高級な品々を見て、
さらなる苛立ちと焦燥に駆られる。

グラースクソッ……!
グラース(なんでだ? どうして満たされない?
誰もが認め欲しがる最高の品だから僕も満たされる……
そう思っても、いつも期待外れだ)
グラース(手に入れても手に入れても飢えは満たされない……。
これじゃあまるで、逆の『酸っぱいぶどう』だ)
グラース(みんなが美味しいと言うぶどうは、
僕が食べるといつだって酸っぱい。
……ちくしょう!)

グラースは、これまでにもらった品々が入った箱を掴み、
乱雑に床へと投げ捨てる。

グラースはぁ……。

荒れた部屋にさらに苛立ちがつのり、
グラースは足早に部屋を出ていったのだった。

Ep3. 本当にほしかったもの

──ある日の午後。
〇〇はグラースに呼ばれて彼の部屋へと向かった。

グラースよう、〇〇。
この間僕がモデルをした時の写真が届いたんだ。
見るだろ?
主人公【もちろん!】
【見るよ】
グラースほら、これだ。
僕がモデルだから当然だけど、いい出来だろ?
これであのワイナリーは大繁盛しちまうかもな。ははっ!
主人公【いい写真だね】
→グラース「小物やらも凝ってたし、
カメラマンもなかなか腕がいいよな。」

【ぶどうの瑞々しさが伝わってくる】

→グラース「僕もアイディアを出しながら撮ったかいがあったぜ。
このぶどうから作られたなら美味そうだって感じがするよな。」
グラースあ、そうそう。
渡したいものがあるんだった。
ほらよ。
主人公【きれいな刺繍だね】
【すごく繊細なハンカチ……!】
グラースフランスの知り合いからもらったんだ。
見事な刺繍だろ?
ブティっていうフランスの伝統刺繍なんだぜ。
主人公【自分がもらっていいの?】
グラースああ。
僕とマスターにって、2枚もらったもんだからな。
遠慮はいらないぜ。
グラース……これをくれたのは、フランスのマダムなんだ。
僕がシャスポーとしてレザール家にいた時に、
とあるパーティーで出会った人だ。
グラース……当時の僕は、宝飾品の類をもらっては興味が失せて、
キャビネットにしまい込んでた。
グラースマダムに会った時も、珍しい宝石のついた指輪が欲しくてさ。
なのに、近寄ったら嫌味にも思えることを言われて、
何もくれなかったけど。
グラース〇〇の貴銃士になってレザール家から離れた時、
どうでもよくなった宝飾品は全部そのまま置いてたんだ。
それをテオが贈り主に丁重に返却したらしい。
グラースそうしたら、その噂を聞いたマダムが、
『あなたに贈るならこれだと思っていたのよ』って、
このハンカチをくれたんだ。
主人公【何故ハンカチなんだろう?】
【どんな意味なんだろう?】
グラース僕の方に刺繍されてるヒナゲシの模様は、
銃床にも入ってるモチーフだ。
グラースブティは立体的に刺繍を浮かぶ上がらせる技法で、
ハンカチ1枚作るのに時間もかなりかかるらしい。
前々から注文してあったんだろうな。
グラースきっと……あのマダムは、
僕が本当はシャスポーじゃないって気づいてたんだと思う。
このヒナゲシの模様が、その証なんじゃないかって。
グラースあの頃の僕だったら、速攻で送り返してただろうけど……。
今はこのハンカチが、不思議と宝石よりも輝いて見える。
グラース現代銃ってだけで煙たがるフランスの奴らに好かれたところで、
なんて思ってたけど……。
グラース僕は……本当は、あいつらにも好かれたい。
グラース古銃シャスポーのふりをした僕じゃなくて、
グラースのままで好かれたいと心の中では思ってたんだ……
きっと。
主人公【大事な生まれ故郷の人たちだからね】
→グラース「そうか……。
だったら、僕でも好かれたい……って思うのは、
別に変なことじゃねぇよな。うん。」

【グラースを好いてる人はたくさんいるよ】

→グラース「そうか……?
ま、お前が言うならそうだと信じてやるよ。」
グラースマダムには、ハンカチの礼をしねぇとな。
あのワイナリーのワインを渡すのもいいか……。
グラースワインなんて飲んで美味けりゃなんでもいいとか思ってたけど、
自分で造ってみると思い入れが湧いたっつーか、
今度からもっとじっくり味わおうって気分になったぜ。
グラース〇〇用のは、
成人した頃届くように仕込んであるから、楽しみにしてろよ。
グラースこの僕が造った貴重なワインだからな。
いつまでも思い出に残るような、最高の飲み方を教えてやるぜ。

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