第13話:蘇る記憶

ライク・ツー……はぁぁ……。
ライク・ツークソッ……。

人目を避けて木立の中に入ったライク・ツーは、
苛立ちにまかせて岩を強く蹴る。
そして、深い溜息とともに座り込んだ。

ライク・ツー(何もかもがごっちゃごちゃだ。
どこまでが本当で、どこからが嘘なのか……
わけがわかんねぇよ……)
ライク・ツー(でも、確かなのは……)
ライク・ツー(俺が、元世界帝軍のUL85A2だってこと……!)
ライク・ツー(そして、あいつも──)

──世界帝軍の居城、イレーネにて。

UL85A2コードネーム?
モーゼルはい。あなた方自身で自由に決めて構いません。
特に希望がないなら適当につけます。
……では。
UL85A1え~、適当はやだよねぇ。
UL85A2僕たち、ほぼ名前同じだし……
1と2から何かつけるとか?
UL85A2あとは、U、L、Aの何か使って……
なんかいい感じの言葉ないかな。
UL85A1おっ! おいら、いいの思いついたよん★
LといえばLOVE!
ラブ★ワンってわけでぇ、おいらがラブ★ワンで、
そっちはラブ・ツー! どうよ?
UL85A2ええ~、ラブはなんかヤダ。
お兄ちゃんとお揃いも却下。
ラブ★ワンあっふぅ! それなら何がいいのぉ?
兄弟だし、おいらとしては、ノリは揃えたいんだけどなぁ!
ライク♥ツーじゃあ……ライク。
僕のコードネームはライクツーにする。
ラブ★ワンおっ! それ、ナイスゥ!
長いから、ライたんって呼ぼーっと★
ライクツーそれ、コードネーム決めた意味なくない?

ライク・ツー……あの時、モーゼルはもうあの人のとこに戻ってた。
話してたのは俺たちだけ……。

ラブ・ワンメンテは大歓迎だからね、ラブ♥ツーたん!

ライク・ツー……ボツにしたコードネームを知ってるのは、
お兄ちゃんしかいない……。
ライク・ツーあいつは……正真正銘、世界帝軍にいたUL85A1だ……。
銃が違うのは意味わかんねぇけど……間違いねぇ。
ライク・ツー……あいつは、僕がずっと探してた……
ずっとずっと、もう一度会いたいと思ってた……
ライク・ツー……本物の、僕のお兄ちゃん。

ラブ・ワンだから……ライたんもトルレ・シャフにおいでよ。
また一緒に、楽しくやろうぜ。

ライク・ツー……うるさい、うるさいっ! うるさい……っ!
僕はもう──
ライク・ツー負け犬には絶対ならないって、決めたんだ!

──あの頃、僕たちは最強だった。
何もかもが手に入る、何もかもが思い通りになる。
世界はあの人のもので、僕たちのものだった。

ライク♥ツーおはよーございまーす。
ラブ★ワンライたん、今日はなんかご機嫌?
ライク♥ツーあ、わかる?
帝都で人気の調香師に特注してた香水が届いたんだ~。
やっぱ、いいもの身につけてるとテンション上がるよね。
ライク♥ツーよぉーし、13連勤目だけど頑張ろー!
ラブ★ワンフゥ!
今日も撃って撃って撃ちまくろうぜぇ~~い★

ラブ★ワンおっ、ライたん!
今日も筋トレ頑張ってんね~。
ヒュ~! 腹筋バッキバキー★
ライク♥ツー当然でしょ、僕ら軍人だし。
お兄ちゃんも一緒にどう?
鍛えたら、ジャムる癖も直るかもよ。
ラブ★ワンおおっと! 弟が今日も手厳し~い!

忙しいけれど贅沢三昧で、
いろんな貴銃士がいて、
たまにドジするお兄ちゃんはウザいけど大切で──。

ライク・ツー (俺は……“僕”は、何がしたかったんだろう。
あの頃はただ必死で……ひとつだけ確かなのは、
奇妙な夢で見たみたいな現実は、まっぴらごめんだったってこと)

ライク・ツー(そう……奇妙な夢)
ライク・ツー(あの頃、世界帝軍特別幹部として、
忙しいけれど充実した毎日を送っていた僕は、
ある時、奇妙な白昼夢を見た)
ライク・ツー(薄暗い独房に、あの人──
僕のマスターが、引っ立てられていく夢)
看守ここが貴様の独房だ。
さぁ、入れ!
アシュレー……この私に手荒な真似をするとはな。
名はなんというんだ? 覚えておいてやろう。
アシュレーそして喜びたまえ。
近い将来、君と君の一族は皆、安らかな眠りにつくことになる。
看守ふざけたことを言うな!
貴様は世界帝に危害を加えた重罪人!
何があろうと未来永劫許されることはない!
ライク♥ツーは……? お前こそ何ふざけたこと言っちゃってんの?
この人が誰だか、知らないわけないでしょ? おい!
アシュレーふ……。永劫となると暇だな。
本を持ってきてくれ。ありったけのな。
ライク♥ツーちょっと、マスターまで何言って──
っていうかさっきからなんで僕のこと無視するわけ!?

ライク・ツー(……あまりにも奇妙で、怖い夢で……
誰かに笑い飛ばしてもらいたくって、
特別幹部の仲間に、雑談として話してみたんだ)
ライク♥ツー絶対ありえないことだけど──
マスターが牢屋に入れられるところを見たんだ。
アインス……!
なん、だと……?
ライク♥ツー……え、だからたぶん、ただの夢だって。
マスターが帝都の地下牢に繋がれててさぁ、
兵士が“貴様は罪人だ”とか生意気な口叩くわけ。
ライク♥ツーしかも、“世界帝に危害を加えた”とか!
自分で自分に危害って、ナニソレ?って感じじゃない?
アインス…………!
ライク♥ツー……ちょ、アインスさん……?
モーゼル──ライク・ツー。
ライク♥ツーわっ! びっくりしたぁ。
モーゼル、いつからいたの?
モーゼルライク・ツー、それはただの悪い夢です。
あなたは何も見なかった。
夢のことは忘れなさい。いいですね?

ライク♥ツー……あの夢、なんだったんだろう。
本当に夢だったのかな……。
現実みたいにリアルだったし、モーゼルのあの言い方……。
ライク♥ツー僕が見た光景って、まさか、本当にあったことなわけ……?
でも、世界帝はこの世界の支配者で、
誰よりも偉いんじゃないの……!?
ライク♥ツーそれとも未来……?
レジスタンスに負ける未来……
そんなものがあるっていうわけ!?
ライク♥ツー……そんなの、ありえない……!!
僕は……敗者になんて、絶対なりたくないっ!!

ライク・ツー (〇〇に召銃されたあと、調べてみてわかった。
あの日見た光景はやっぱり、実際にあったことだったって)

──初代世界帝は、息子アシュレーが過激な思想に走り、
大量殺戮兵器ミルラを生み出したことを危険視。
暗殺を試みるも、失敗する。

逆上したアシュレーは、父・世界帝暗殺を目論むが、それも失敗。
大罪人として捕らえられるも、召銃していたモーゼルの手を借り
世界帝をはじめ各国の重要人物が集っていた城ごと爆破した。

そして──第2代世界帝として自らが君臨したのだ。

ライク・ツー (あの光景は……ある意味、未来でもあった。
イレーネ城は落ちて、あの人は罪人として捕らえられたんだから)

第14話:決意

──革命戦争の最終局面。
世界帝の居城、イレーネにて。

ラブ★ワンおおっと、ヤる気じゃーん!
んじゃ、おいらもどかーんと──って、アレ?
ラブ★ワンあっちゃ~!
ジャムるなんてツイてないっ!
ライク♥ツーちょ……っ!
お兄ちゃん、こんな時にウソでしょ!?

レジスタンスの貴銃士たちの攻撃を受け、
ラブ★ワンは貴銃士としての実体を失い、銃に戻る。

ライク♥ツー……っく! 痛……ッ!

負傷したライク・ツーに、
オスマン出身の貴銃士たちが迫った。

レジスタンスの貴銃士 アリ・パシャあの時言ったことを覚えているだろうな。
世界帝の世はいずれ終わる、と。
今がその時だ。
ライク♥ツーそ……そんなことない! 黙れよ!
レジスタンスの貴銃士 エセン実際、僕たちがここまで攻め入ってますし。
……アリ・パシャ様の言う通りだと、
あなたもわかっているのでは?
ライク♥ツーそ、れは……!
レジスタンスの貴銃士 アリ・パシャさあ、どうする?
犯罪者として捕らえられる世界帝とともに、
お前も牢に繋がれて惨めに過ごすか?
ライク♥ツー(……あの、夢で見たみたいに……?
そうしたら僕らも犯罪者で、ジメジメした牢に繋がれて……。
ううん、それだけじゃない)
ライク♥ツー(お兄ちゃんはもう戦えない。逃げられない。
このまま負けて捕まったら、僕たちは壊される……!
負け犬で……それどころか、スクラップだ。ゴミにされるんだ)

ライク・ツーは、銃に戻ったラブ★ワンをじっと見つめてから、
アリ・パシャを見据える。

ライク♥ツーと、取引しよう……!

ライク♥ツーここだよ。この扉の先の玉座に、あの人がいる。
……これでいいでしょ?
ライク♥ツーモーゼルにバレたらやばいし、僕はあっちにいるから。
あとは勝手にやって──
ライク♥ツーあ……え…………?

──ドサッ!

モーゼルアシュレーが無理を押して呼び覚ましたというのに、
その報いがこれですか。
モーゼル……あなたはもう不要です、ライク・ツー。

ライク♥ツー(僕……何やってるんだろう。
僕がしたことはなんだったんだろう)
ライク♥ツー(僕まで銃に戻っちゃって……
お兄ちゃん、さっきの場所に落ちたままなのに)
ライク♥ツー(敗者はザコ。負け犬はみすぼらしいゴミ。
呼び覚まされて貴銃士になってから、16連勤だって頑張った。
なのに、惨めに落ちぶれるなんておかしい。嫌だ)
ライク♥ツー(お兄ちゃんが壊されるのも、僕が壊されるのも許せない。
だから、あの人を裏切ってまで逃げる道を選んだのに……
結局、ぜーんぶ無駄だったんだ)
ライク♥ツー(僕って……UL85A2って、なんだったんだろう。
僕の貴銃士としての一生って、これで終わりなんだよね。
あーあ、格好悪い。最悪中のサイアク)
ライク♥ツー(こんなのが、世界帝軍のUL85A2の歴史になるなんてさ。
どっちつかずの半端者。モーゼルに、いない方がマシって。
不要だって言われて、撃たれてオシマイ)
ライク♥ツー…………。
………………。
ライク♥ツー(……いや、『不要です』ってなんだよ。
なんかだんだんムカついてきた。
お前何様だよ、モーゼル!!)
ライク♥ツー(ふざけんな、ふっざけんな!
僕は優秀なんだぞ!? 使えない兵士どものケツ叩いて、
どんだけ戦果あげてるか知らないのかよ!)
ライク♥ツー(僕は……たぶん、いろんなところで間違った。
あちこちで、大事な選択肢を間違えて、
破滅の道を選んじゃった)
ライク♥ツー(もし……もしも、次があるなら!
ああ、神様! 次があるのなら!)
ライク♥ツー(その時は、間違えない。
世界帝に呼び覚まされたし、世界は思うがまま!
……なんて、自惚れない)
ライク♥ツー(次にチャンスを掴んだら……
自分自身の力で、ちゃんと選んだ道で、勝者になりたい!)
ライク♥ツー(世界帝の下僕で裏切りの銃、UL85A2──
そんな過去の出来事、馬鹿馬鹿しいって思われるくらい、
世界中の認識を変えてやる……)
ライク♥ツー(僕が壊して地の底に落としたUL85A2の名前や名誉を、
僕自身の手で絶対に、挽回するんだ……!)

マークス……マー、クス。
マークスマークス。
今から俺の名前は、マークスだ。
マークスありがとう、マスター。
ラッセル君の方はどうする?
ラッセルUL85A2は先の革命戦争中には、
「ライク・ツー」と呼ばれていたそうだが……。
ラッセル世界帝軍の貴銃士と同じというのは、
さすがに縁起が悪い。
別の名前に変えた方がいいな。
UL85A2……いや。
そのままの方が、都合がいい。
UL85A2トルレ・シャフってのは世界帝派の組織なんだろ?
俺の名前を──「ライク・ツー」の名前を聞いて、
向こうから接触してくるかもしれない。
UL85A2まあ、ノコノコやってきたところを、
ボッコボコにしてやるけどな。
ライク・ツー(……別の名前じゃ意味がない。
UL85A2──ライク・ツーの汚名を晴らすんだ。
正しく、強い貴銃士として……)

ライク・ツー(──そうだ)
ライク・ツー(──世界帝は、絶対にまた復活する。
あの人がレジスタンスに抱いていたのは、異常な執着と憎悪。
信奉者は熱狂的だ。絶対、簡単に処刑なんかされない)
ライク・ツー(きっと、どんな手を使っても生き延びてるはずだ。
じゃなきゃ、革命後の世界で、トルレ・シャフなんていう
親世界帝派組織が幅を利かせるほど求心力を持ってないだろう)
ライク・ツー(今度の俺がなすべきことは……
元世界帝、アシュレー・サガンの完全なる排除)
ライク・ツー(世界を再び脅かそうとしてるトルレ・シャフと、
その裏にいるあの人を打倒する……!)
ライク・ツー(俺は、世界的な脅威に立ち向かった貴銃士として、
歴史と人々の記憶に、正しく、鮮烈に──刻まれ直すんだ!)
ライク・ツー……はは、お兄ちゃんが現れたからって、何混乱してんだ。
俺がやるべきことは決まってる。
自分で決めた。そのためにはなんだってするって。
ライク・ツー(……だから、俺は〇〇に嘘をついた。
同じ目的を持ってるって信じさせて……取り入った)
ライク・ツー(まあ、途中で目的は重なるかもしれねぇけど……。
いずれあの人と対峙する日が来た時のために、
〇〇や他の貴銃士にも厳しくして鍛えてきた)
ライク・ツー(当然、俺自身もだ。
今の俺は、昔の“僕”よりもっと強いって断言できる)
ライク・ツーだから……ここで曲げるわけにはいかねぇんだよ。
たとえ、お兄ちゃんと敵になったとしても──!

第15話:新たな任務

──数日後。
〇〇と、士官学校にいた7人の貴銃士たち、
そしてエヴァンズとラブ・ワンが密かに招集された。

十手結構な大人数だが……この面々で任務かい?
ラッセル……ああ。
恭遠審議官と私も同行する。
シャルルヴィルそれは……大掛かりな任務になりそうだね。
ファルそれで、どこに向かえばいいんです?
ラッセルイギリス海峡──ダンジネス近くに浮かぶセント・ディース島だ。
先日、海峡を越えようとする不審な船舶を、
セント・ディース島基地の兵士が発見して捕らえた。
ラッセル乗組員は3名で、トルレ・シャフの構成員……
例の透明な結晶とよく似たものを、複数所持していたそうだ。
ラッセルカサリステが回収に向かうまで、
基地内で厳重に結晶を保管するよう伝えてあり、 明日が回収予定日だったのだが……。
ラッセル今日になって、セント・ディース島との連絡が途絶えた。
何が起きているのか、一切わかっていない。
シャルルヴィルえっ……?
スプリングフィールド通信機器の故障……でしょうか。
ラッセルその可能性は高いだろうな。
謎の結晶については気がかりだが、約60人駐在している基地だ。
たった3人のトルレ・シャフがどうこうできるとは思えない。
ファルでは、予定通りの日時に行けばいいのでは?
もしくは、付近の支部から事前に人を送るとか。
ラッセルそうするべきとの意見も出たようだが、
結晶絡みで何かが起きていた場合、それは機密情報にあたる。
迂闊に、何も知らない兵士を派遣することはできないんだ。
ラブ・ワンなるほどねん。
つまり、島で何が起きてるかを確認するには、
謎結晶について知ってるこのメンツが都合がいいってことだ。
ラブ・ワンカサリステの研究員じゃぁ……
もし島でドンパチやばいことが起きてた場合、
対処できないしね〜。
ラッセルああ、そういうわけなんだ。
ラッセルもちろん、セント・ディース島の調査は極秘任務にあたる。
誰かに任務について聞かれても、一切を明かさないように。
速やかに準備を整え、集合してくれ。
主人公【イエッサー!】

──準備を終えた一行は、
すぐさまセント・ディース島へ向けて出発した。

3時間後──船着き場に到着するが、
人の気配がなく、島内はしーんと静まり返っている。

恭遠……どうも様子がおかしい。
マークス……おい、恭遠。
あっちから……血の匂いがする。
恭遠……!
……ここから先は、細心の注意を払って進もう。

やがて、塀に囲まれた基地が見えてくる。
しかしそこも、不気味なほどの静けさに包まれていた。

ファル……入ってみますか。

一行は周囲を警戒しつつ、慎重に進んでいく。
基地の門が間近に迫ると──風に乗って、
生臭く重苦しい匂いが〇〇たちに届いた。

それぞれに銃を構え、ゆっくりと門を開けていく──。


エヴァンズ……っ、これは!
なんということだ……。
十手……〇〇君、君は見ない方がいい!
マークスああ。それに、嫌な予感がする。
マスターは入らないでくれ……!
主人公【大丈夫だから】
【ちゃんと現場を確認しないと】
エヴァンズ……っ、これは!
なんということだ……。
十手……〇〇君、君は見ない方がいい!
マークスああ。それに、嫌な予感がする。
マスターは入らないでくれ……!
主人公【大丈夫だから】
【ちゃんと現場を確認しないと】

十手とマークスがあるを庇うように前に立ち、
視界を遮ろうとしてくる。
しかし、〇〇は2人の脇をすり抜けて前へ出た。

主人公【……っ!】
【……酷い……】

基地の敷地内には、十数人の兵士が倒れていた。
地面のあちこちに血溜まりができており、
その中に、一目で落命しているとわかる兵士たちが沈んでいる。

ラッセルう、嘘だろう……。一体何があったんだ……?
ファル基地には約60人がいると言っていましたね。
基地は塀で囲まれていますし、防衛機能はそこそこ。
ファル外部から攻め入ってこれだけの損害を与えるには、
少なくとも倍程度の攻撃能力が必要でしょうか。
ファルしかし、それだけの人数が上陸しようとすれば、
当然見張りの兵士が気づく……。
それに、死体の分布や構成も妙です。
シャルルヴィル……どういうこと?
ファル単純な話ですよ。
基地内に入るまで、血痕の1つも見当たらなかったでしょう。
スプリングフィールドあ……侵入した敵に攻撃されたなら、
連合軍の人たちの反撃を受けて、
基地周辺にも死傷者が出ているはず……。
ファルそういうことです。
恭遠なんらかの手段で敵に侵入された──という線も薄いか。
見る限り……亡くなっているのは、連合軍の兵士だけだ。
ライク・ツーこいつら全員、本当に連合軍の兵士なのか?
兵士に化けて侵入したやつも紛れてるかもしれねぇぞ。
ラッセルセント・ディース基地の資料は持ってきている。
名前を確認してみよう。

ラッセルは、亡くなっている兵士たちの検分を始めた。
識別票のネックレスや顔と、駐在兵士のリストを見比べ、
やがて、重々しく頷いた。

ラッセル今確認した5人は……間違いなく、連合軍の兵士だ。
ジョージじゃあ……みんな、一方的にやられちまったってことか?
くそっ……誰が、なんで、こんな酷いことすんだよ……!
ライク・ツー生きてるやつが見つからねぇことには、
何が起きたのか、まるでわからない……。
ファルそうですね。
生存者を探しますか。

一行は基地の中を進み、倒れている兵士の生死や、
間違いなく連合軍の兵士か否かを確認する。

十手……っ、みんな、来てくれ!
息がある御仁がいる!!
負傷兵ああ、助かっ……げほっ……。
恭遠すぐに止血をする……!
無理はしなくていい。だが、話せそうなら教えてくれ。
ここで何があったのか……。
負傷兵……仲間に、撃た、れて……。
ファルおや……やはりそうでしたか。
見つかる死体はすべてこの基地の兵士。
同士討ちの可能性が高いとは思っていましたが、理由が謎ですね。
負傷兵僕にも、何がな、んだか……。
みんな、いきなり、おかしくなって……
僕ら、を、仲間なのに、敵だ、ころせ、と──……。
エヴァンズ……トルレ・シャフに寝返った、
あるいは、奴らの手先が兵士として基地に潜り込んでいた、
ということか。
ラブ・ワン&ライク・ツー…………。
負傷兵あいつらは、そんな、ん、じゃ……っ!
同室の、アンディとリオンが……撃ち合ったんだ……!
兄弟みたいに、仲よかった、2人が……っ!!
負傷兵うっ……ゲホッ、ゴハッ……!
恭遠叫んでは駄目だ……! 傷に障ってしまう。
恭遠話してくれてありがとう。
救援が来るまで、あと少しの辛抱だ。
大丈夫、もう血は止まり始めているからな。
負傷兵は、い……。
十手……突然の同士討ちとは……。
ますますわからなくなってきたぞ……。
ファルしかし、これではっきりしましたね。
基地内で出くわす兵士には警戒すべき……と。
様子がおかしい兵士1敵……敵、だ……。
様子がおかしい兵士2敵は……殺せ……!
ライク・ツー言ったそばからかよ!
主人公【殺さないで確保!】
【取り押さえて事情を聞く!】
マークスマスターの命令なら……了解した!

 

第16話:結晶の光

ジョージ──絶対高貴!
ラブ・ワンんじゃ、おいらも★
絶対非道ッ!
兵士たちううっ……。
エヴァンズうぐっ……傷が……!

貴銃士たちの力を浴びせられた兵士たちと、
ラブ・ワンが絶対非道を使ったことで傷に蝕まれたエヴァンズが、
次々に膝をつく。

主人公【エヴァンズ教官!】
【大丈夫ですか?】

〇〇は慌てて駆け寄り、
エヴァンズの傷の具合を確認した。
しかし、彼の傷は一輪の薔薇の形のままで、特に変化はない。

主人公【(あれ……?)】
【(痛みだけが強い……?)】
エヴァンズぐっ……これしき、平気だ。
建物内も調べるぞ。

基地の建物内にも死傷者があちこちに転がっていた。
凄惨な光景に奥歯を噛み締めつつ、
〇〇は足を進めていく。

兵士3……誰だ!
ラッセル我々は連合軍イギリス支部の先遣隊だ。
この基地からの連絡が途絶えたので様子を見に来た。
銃を下ろしてくれ!
兵士4イギリス支部……! よかった、助かった……!
俺たちは地獄を生き延びたんだ……!

安堵したようにへたり込んだり、抱き合ったりする兵士たち。
彼らは、様子がおかしくなった一団ではなさそうだとわかり、
一行もやや肩の力を抜く。

──その時だった。

マークスおい、あのローブ……!
ジョージトルレ・シャフだ……!

捕らえられていたトルレ・シャフ構成員らしき3人は、
廊下を駆けていき、あっという間にどこかへ消える。

兵士3あいつら……!
兵士5あいつらが来てから、全部おかしくなったんだ……!
エヴァンズ追うぞ、ラブ・ワン!
ラブ・ワンアイアイサー★
兵士4自分たちも行きます!

兵士たちとともに、一行は逃げたトルレ・シャフ構成員を追う。
しかし──廊下の角を曲がった時、
数人の兵士たちが立ちふさがった。

様子がおかしい兵士3敵は……殺す……。
様子がおかしい兵士4敵多数……排除せよ……。
ライク・ツークソッ、またかよ!

貴銃士たちが捕縛に動くなか、
同行した兵士たちは逃げるトルレ・シャフの姿を捉え、
猛然と追跡を始める。

兵士3待てっ!!
エヴァンズ……君たち! 単独行動はよさないか!
ラブ・ワンちょちょっ、エヴァちん速いってぇ!!

兵士たちとエヴァンズに迫られたトルレ・シャフ構成員は、
ローブの下から袋を取り出すと、紐を開く。
中にあるのは、怪しげな紫色とかすかな光を帯びた結晶だった。

トルレ・シャフの男が掲げた結晶は、
一瞬、白い閃光を放つ。

エヴァンズ……っ!
兵士たちう……!?

エヴァンズと兵士たちが光を目にした直後──
結晶は光を失った。

トルレ・シャフ……導きの光が途絶えたか……。

ラッセルエヴァンズ教官!
こちらですか!?

ラッセルと〇〇たちは、
先行してトルレ・シャフを追ったエヴァンズと兵士たちを
追いかける。

しかし──廊下の角を曲がった先で、
床に倒れている彼らを発見した。

ライク・ツーおい、なんでいきなり倒れてんだよ……!
ファル外傷はありませんし無事でしょう。
奴らを追いますよ。
主人公【ラッセル教官と3人は先へ!】
【自分は彼らを治療します】
ライク・ツー&シャルル&ファル了解!

スプリングフィールド大丈夫ですか……!?
ラブ・ワンヘイヘイ! エヴァちん、しっかりしろってぇ〜。
兵士たち……敵……。
スプリングフィールドえっ……?
エヴァンズ連合軍……敵……殺さねば……。
十手そんな……みんな、どうしてしまったんだ……!?

どこか虚ろな目をしたエヴァンズや兵士たちは、
〇〇たちや貴銃士へと銃を向ける。

マークスてめぇ……マスターに何しやがんだ!!
主人公【(なんで……どうして、いきなり……?)】
【(まるで……操られてるみたいだ)】
十手撃たれてた兵士が伝えてくれたのは、
こういうことか……!
ジョージ絶対高貴でどかーんとやって、気絶させるっ!
行くぞ、十手!
十手合点承知!
ジョージ&十手──絶対高貴!

──その頃、ラッセルと3人の貴銃士は、
トルレ・シャフ構成員を追い詰めていた。

ファルさて……手荒いのがお好みですか?
でしたら遠慮なく。
トルレ・シャフ1 おい、他の結晶は──。
トルレ・シャフ2ない! 見つからなかっただろう!?
ライク・ツーごちゃごちゃうっせぇなぁ……。
──絶対非道!
トルレ・シャフ構成員たちうぐああああっ!!

ライク・ツーの攻撃がかすめ、トルレ・シャフ構成員たちは
腰を抜かして座り込む。
その拍子に、ローブから白い布袋と、紫色の結晶が転がり落ちた。

ファル おやおや、堪え性がありませんねぇ。
これではあまり楽しめなさそうで残念ですが……
ひとまず、気絶していただきましょうか。
ファル──絶対非道。
トルレ・シャフ構成員たちうぎゃあっ!!

半ば脅しの攻撃は、トルレ・シャフ構成員たちに大きな傷を
与えはしなかったが、床に落ちた紫色の結晶を直撃する。
結晶は粉々に砕かれ、風に吹かれた砂のように消え去った。

トルレ・シャフ1……っ、しまった……、完全結晶が……!

第17話:結晶の作用

──トルレ・シャフ構成員が持っていた、
紫色の結晶が砕け散った直後。

兵士3あ、れ……?
兵士4私たちは、何を……?
マークス……! まともに戻った、のか……?
十手君たちに何が起きていたんだい……!?
兵士5よく……わかりません。奴らを追い詰めて──
そうしたら、1人が袋から紫色の石を取り出したんです。
それが……光って……。
兵士3ああ……そうだった。
そこからはぼんやりしてるんですが……。
連合軍は悪で、倒さないとと思っていたような……。
兵士4たしかに、そんなことを思っていた気がする……。
……自分で自分がわからない。
私たちこそが連合軍なのに、倒すべき存在だと思うなんて……。
ライク・ツー──おい、そっちは無事か?
ラブ・ワンあっ、お疲れい★
エヴァちんはまだ気絶してるけど……みんな無事だよん。

合流した一行は、何が起きたのか情報共有をした。

〇〇は、
ドライゼが透明な結晶を踏むに至った経緯を話した。

結晶が一瞬光ったような気がして──
その直後に、ドライゼが突然、
ヴィヴィアンについて知りたいと鬼気迫る様子で言ってきたこと。

ドライゼが結晶を踏み砕く前、
透明だったはずの結晶が、黄色がかって見えたこと。

さらに……結晶が砕けたあと、
ドライゼはヴィヴィアンについて聞くのをパタリとやめ、
もともと聞くつもりもなさそうで不思議だったこと……。

主人公【……不確実な情報でも、報告すべきでした】
【一応報告すべきかと迷ったのですが……】
ラッセルそういえば……報告書の提出があった日は、
リントンロッジ氏が来校した日だったな……。
ラッセルあんな出来事があって動転していただろうし、
よくわからない件についての報告を失念したのも無理はない。
ラブ・ワンたしかにね〜。
親友のお墓を、そのパピーが荒らしに来たわけでしょ?
ドラちんのヘンテコ行動も吹き飛ぶ衝撃だよねぇ。
ライク・ツーけど……その、夢だか寝ぼけて見た幻だかみてぇな出来事が、
かなり重要な情報を含んでたってわけか。
恭遠ヴィヴィアン君について聞きたがるドライゼと、
基地内での同士討ち……起きた出来事はまったく違うが、
驚くほど類似点があるな。
恭遠彼らの証言からして、
結晶の光を見ることで強力な暗示にかかるんだろうか。
恭遠〇〇君が持っていた結晶では、
ヴィヴィアン君について知りたいという気持ちになり……。
恭遠トルレ・シャフが持っていた結晶では、
連合軍は倒すべき敵だと思わされた。
ファルふむ……所有者の感情や意志に、
光を見た者を同調させるんでしょうか。
……同調と言うには、いささか度が過ぎていますが。
シャルルヴィルドライゼさんも影響を受けたってことは、
ボクたち貴銃士にも有効なのかな。
それとも、相手がマスターだったから?
十手うーん……今の情報だと、
そこまではわからないね。
ラッセルとにかく、この基地で何が起きたのかはこれではっきりした。
にわかには信じがたいが……。
ラッセル謎の結晶が発する光によって強力な暗示にかかった兵士と、
その他の兵士の間で同士討ちが発生──
基地は瞬く間に大混乱に陥り、多大な犠牲者が出た。
ラッセル……という主旨の報告で問題ないでしょうか、
恭遠審議官。
恭遠ええ……馬鹿げた話だと言われるかもしれませんが、
事実である以上そう報告するしかないでしょうね。
恭遠そもそも、マスターや貴銃士の存在自体も、
昔であればおとぎ話に思われるようなものですし……。
ラッセルたしかに、そうですね……。
ラッセルとはいえ……はぁ。
これからの報告のことを思うと胃が痛いですよ。
ラッセル取り急ぎ、イギリス支部とコンタクトを試みます。
脅威は去りましたし、応援が入っても問題ないでしょう。
負傷した兵士の救護も頼まねば……。

一旦外に出たラッセルが戻るまでの間、
ライク・ツーは数日前のやり取りを思い出していた。

ライク・ツー…………。

ラブ・ワン 先においらから情報あげちゃう。
……トルレ・シャフは、秘密の最終兵器を持ってるんだよ。
ライク・ツー最終兵器……? ミルラか?
ラブ・ワンノンノン。あれはもう時代にそぐわないっしょ?
詳しくは内緒だけど、ここだけの話……
親世界帝派が勢力を拡大してるのにも、大きく関わってる。
ラブ・ワンライたんの目的も、秘密兵器があれば簡単に叶うかもよ?

ライク・ツー(秘密兵器って……まさか、この結晶のこと……?)

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