第18話:完全なる世界平和

プラトー村をトルレ・シャフが支配していたこと、
完全結晶が確認されたことなどから、ロッシは急ぎ麓に下り、
近くの基地や士官学校へ連絡と応援要請をすることになった。

十手とゴーストがその護衛につき、
残る〇〇と3人の貴銃士たちは、
荷物をまとめ、借り家の掃除や片付けを進める。

マークス妙な村だとは思ってたが……
トルレ・シャフが潜んでたとはな。
カトラリーでも……こんな山奥の村で、何がしたかったんだろう。
やってたことは、ヘンな理想郷づくりみたいだったし。
タバティエールたしかになぁ……。
追われてる元世界帝軍の幹部やらを匿うために、
村人を洗脳する必要があった……ってわけでもなさそうだ。
タバティエール司祭に化けたトルレ・シャフの構成員がやろうとしてたのは、
皆で平等に分かち合い支え合う共同体づくり……。
トルレ・シャフがやるにしちゃあ、なんというか……。
カトラリー残酷ではあるけど、残虐ではないよね。
タバティエールああ……人を操り人形にしてたのは悪質なんだが、
意のままに操れるなら、たとえば───
忠実で恐怖も抱かない兵士に仕立て上げることも可能なわけだ。
マークス……!
マークス言われてみればそうだ……。
あの結晶には、そういう使い方もある……。
マークスそれか……アウトレイジャーを支配することもできる、のか……?
カトラリーまさか……あんなのを?
それに、村の周辺にいたのは、普通のアウトレイジャーだったよ。
マークス確かに……そうだ。
タバティエール悪用しようと思えば、セント・ディース島みたいに村人同士で
殺し合わせることもできたはずだ。なのに、そうせずに
理想郷もどきを作ってたのが、裏がありそうでな……。
主人公【完全に平和な世界……世界帝……】
【理想郷づくりが目的だった……?】
カトラリーええっ……? トルレ・シャフが理想郷?
タバティエール……!
〇〇ちゃんの言う通りかもしれない。
カトラリーどういうこと?
タバティエール第2代世界帝───父親である初代世界帝を暗殺して
代替わりを果たしたアシュレー・サガンは、
圧政やらレジスタンスの苛烈な弾圧が有名だよな。
タバティエールだけど……その思想の根本にあったのは、
平和主義だったと言われてる。
完全なる世界平和を目指した結果があれだと。
マークス意味がわからない……。
平和主義でなんで虐殺に行き着くんだ。
タバティエールただの平和主義じゃなくて、行き過ぎた平和主義なんだ。
だから……反抗する手段や気力を奪う圧政を敷いた。
それでも反抗した者は───徹底的に消し去る。
カトラリー……!
そんなの、平和って言えるの?
タバティエールさてなぁ……。
もしも革命戦争で、レジスタンスが敗北して、
反抗する人間が完全に消え去ったなら……確かに争いも消える。
タバティエール争いがないことを平和と指すなら、
確かに「完全なる世界平和」が完成してたのかもな。
主人公【でもそれは不完全な平和だ】
【平和のための弾圧は矛盾してる】
マークスああ。だから、マスターの家族や恭遠は戦ったんだろう?
そして、たくさんの人が味方についたから勝って、
今の世界がある。
カトラリーそもそも、「完全な」ってどこまでを目指すわけ?
人にはいろんな考え方とか譲れないものがあるでしょ。
どうしても相容れない部分はあるじゃん。
カトラリー少ない人数で、考え方がよく合ってる人たち同士とかなら
揉め事すら起こらないとかはあり得るかもしれないけど。
世界規模でやるのには無理があるよ。
タバティエールまったくだな。
マークスだが……それを世界帝はやろうとしてた。
いや、今もやろうとしてるんじゃないのか?
マークスラブ・ワンが消える前に言っていた。
完全結晶があれば、すべてが思うままだと。

ラブ・ワン……ね、ライたん。
俺が前に言ったことの意味、
スマートなライたんならもうわかってるよね。
ラブ・ワン完全結晶の力、すごくない?
あれがあったら、ぜーんぶ思うがままなんだよ。
人間も──貴銃士も、世界も!

カトラリー……本気で、世界全体を操ろうとしてるわけ?
そんなことってできるの……?
マークスできるかできないかはともかく……
元世界帝ってやつは、やろうとしそうじゃないか?
タバティエール考え過ぎかもしれねぇが……
でも現に、この村では……。

オーストリアにおいて、トルレ・シャフは希少なはずの
アリノミウム結晶を大量に用いて、完全結晶と呼ばれる
透明な結晶を収集していたとされる。

その完全結晶を用いて行われていた理想郷づくりには、
元世界帝の思想との奇妙な符合がある。

そして、消える前にラブ・ワンが話していた、
おそらくは事実だと思われる内容───。

タバティエールこいつは……
トルレ・シャフに完全結晶が渡らないように、
気合い入れてやらないとだな……。

───しばらくして、ロッシと十手、ゴーストが帰ってくる。

ロッシ……皆。士官学校とカサリステを通して連合軍に連絡を頼んだよ。
プラトー村には、早急に調査が入ることになった。
ロッシ私たちは明日、村を発って士官学校に戻るよ。
……長くて大変な任務、お疲れ様。
あと少しだけ頑張るとしよう。

───翌日。
士官学校に帰還した〇〇たちは、
またしばらく休養を取ることになったのだった。


???───緊急の報告があると?
???……はっ。
〇〇候補生に関して、重要な情報です。
理由は不明ですが、導きの光が効かず……。
???……なんだと?
???どういうことなのだ……?

第19話:森の中での邂逅

シャルルヴィル〇〇、みんな、おかえり!
主人公【ただいま】
【変わりなさそうだね】
シャルルヴィル久しぶりの任務なのに結構長引いてたね。
大丈夫かなって心配だったから……
無事に帰ってきてくれてよかったよ。
シャルルヴィルアウトレイジャーの数、多かったの?
カトラリーアウトレイジャー自体はそこまででもなかったけど……。
それ以外が大変でさ。そ、それより……。
カトラリー僕、食堂行ってくる。十手も行くなら来れば?
十手ああ、そうさせてもらうよ!
ゴースト俺、も……。
マークス俺はカレーの材料を調達してくる。
待っててくれ、マスター!
タバティエールお。それなら俺も買い物に行こうかねぇ。
少し手の込んだものを作らないとなまっちまいそうだ。
シャルルヴィル……? みんなお腹空いてるのかな。
主人公【ちょっといろいろあって……】
【味の濃いものに飢えてて……】
シャルルヴィルなんか……大変だったみたいだね。
あとでまた話を聞かせてほしいな。

シャルルヴィルは、周囲に視線を走らせ、
人がいないことを確認する。

シャルルヴィルねぇ、〇〇……。
疲れてるところ申し訳ないんだけど、ちょっと話せるかな。
大切な話があるんだ。

シャルルヴィルが向かったのは、
ジョージの部屋だった。

シャルルヴィルお待たせ、ジョージ。
ジョージありがとな、シャルル。
〇〇、おかえり。
帰ったばっかりなのにゴメン。
主人公【何かあった?】
【どうしたの?】
ジョージ…………。
ジョージ何から話せばいいんだろうな……。
えっと……一番大事なことから言う。
ジョージオレ───本物の女王サマに会ったんだ。

───〇〇たちが任務へ、
恭遠が連合本部へ行っている間、
貴銃士クラスは主に自習や休講となっていた。

ジョージオレは……頑張れる貴銃士だ!
頑張れるから、自主練をするぞ!
ジョージ自主練を……。…………。
ジョージ頑張るのは明日からにしようっと☆
今日はこれで遊ぶぞ〜!

ジョージは、L字型に折り曲げた2本の針金を取り出した。

ジョージダーウジング、ダウジング! ダンスダンス♪
ジョージお? おおお……? 反応した!
お宝発見かー!?

グラウンド脇を掘ってみると、
缶のプルタブが出てくる。

ジョージなぁーんだ。でも、金属に反応したのかな!?
これはお宝が期待できるかも……
宝って言ったら、海とか島とか山の中だよな……!

雑木林の方へ向かったジョージは、
ダウジングのロッドに注目しつつ、あちこちを歩く。
その時だった。

ジョージ(……ん? 今、なんか音が聞こえたような……)

金属が軋むような音に気づいてそちらへ向かうと、
かすかに人の声も聞こえてきた。

ジョージ……ん? 誰かいるのか?
???……!
ジョージえっ……!? もしかして、遭難したのか!?
???いや、その……。
ジョージちょっと待っててくれよ!
今、そこ開けてやるから!
???あっ……!

ジョージはぁ、はぁ……!
おーい、東の門の鍵貸してくれよー!
ジョージあれ、誰もいないのか……?
おーい、ラッセル……。
ジョージ……あ……。
ジョージ……えーっと、普通のクラスは授業中だもんな。
誰もいなくて当たり前か。
ジョージんー……。
ジョージ緊急事態だから、いいよな。
鍵、借りていこっと☆

ジョージは東の門に戻り、鍵を開ける。
門の向こうには見知らぬ青年がいて、目を見開いていた。

ジョージ待たせたな! 大丈夫か?
???……! ブラウン……ベス……?
ジョージえっ!
ジョージ……おまえ、ブラウンのこと知ってるのか?
ベイカー……! 当たり前だろ……!
僕はベイカー銃だぞ。イギリス陸軍初の制式ライフルだ!
ジョージえっ、ベイカー……?

第20話:力サリステの貴銃士

ジョージ───ってカンジでさ。
オレの銃はたしかにブラウン・ベスなんだけど、
オレの人格はアメリカ側なんだ。
ジョージだからジョージって呼んでくれ!
ベイカー……そう、か。ぬか喜びだったわけだ。
ベイカーはぁ……。
ジョージそ、そんなにブラウンに会いたかったのか……。
なんか、ごめんな……?
ジョージでも、クラスにはたくさん貴銃士がいるからさ!
ベイカーが他に会いたいやつがいるなら、今からでも───
ベイカーいや、僕はそろそろ戻らないと。
ベイカー僕とここで会ったことは誰にも言うなよ。
絶対にだ。でないと───いや、なんでもない。
とにかく、他言無用で頼む。
ベイカーそれじゃ。
ジョージ……ちょっと待って!
ジョージ戻るって、どこにだ?
おまえまさか……この廃墟に住んでるのか……!?
ベイカーいや、違う。
……カサリステにだ。
ジョージカサリステ……?
おまえも、カサリステの貴銃士なのか?
ベイカー…………。

ベイカーは無言で、ポイラー室へ続くはしごの蓋を開く。

ジョージえっ、こんなとこにもカサリステの入り口があったのか……!?
オレ、図書館のしか知らなかったよ。
ベイカー図書館……?
へぇ。学校内からも出入りできるのか。
ジョージうん、オレはやり方忘れがちだけど☆
なあ、カサリステの貴銃士なのにどうして学校にいないんだ?
っていうか、なんでこんなとこにいたんだよ。
ベイカー詳細は言えない。
ジョージ……秘密の任務があるってこと?
ベイカーそれも秘密だ。
ジョージそっか。でもさ、また会えるよな。
今日はダウジングの棒しか持ってなかったけど、
バーガーとか差し入れするぜ!
ジョージあ、ベイカーの他にも貴銃士いる?
ベイカー……いや。
ジョージええっ、それじゃあ退屈じゃないか……?
オレでよければいつでも来るからさ、
暇な時は呼んでくれよな。
ベイカー…………。
ジョージえ……オレの顔とか頭になんかついてる?
虫とか……!?
ベイカーいや……その……考え事をしていた。
どうして、会ったばかりの僕にそこまでする?
ジョージあんまり理由はない、かなぁ……。
ブラウンと同じイギリスの貴銃士って気になるし。
困ってるみたいに見えた気がしてさ。
ジョージオレ、人助けが好きだから、
なーんか放っておけなくなって。
ベイカー……へぇ。立派な趣味だな。
ベイカー…………。
ベイカー……お前って、絶対高貴になれるのか?
ジョージおう、なれるよ!
ベイカーふぅん、それなら……。
……いいものを見せてやるよ、ついてこい。
ジョージ……?

ベイカーに連れられて、
ジョージはカサリステ施設の奥にある部屋へやってきた。
ベイカーはノックもせず、静かにドアを開ける。

真っ白な室内。
機械のモニターが規則的な電子音を響かせ、
わずかに薬品の匂いが漂っている。

ジョージ病室……?
ベイカーこっちだ。

ベイカーに手招きされてベッドサイドに向かうと、
カーテンの隙間から、病室の主の姿が見えた。

???…………。
ジョージ……! 女王、サマ……!?
ジョージ(こっ、この人は……本物だ……!)
ジョージ(あの事件のあと、行方がわからなかったけど、
まさかカサリステにいたなんて……こんな近くに……!)

本物のマーガレットは、ベッドに横たわり、動かない。
しかし、虚ろな目で繰り返すまばたきと、わずかに上下する胸、
規則的な電子音が、彼女が生きていることを示していた。

ベイカー……この人、ずっとこうなんだよ。
ベイカー……絶対高貴で治療してくれないか。
そういう力があるんだろ、貴銃士の絶対高貴には。
ジョージうん、オレにできることなら……!
ジョージ───絶対高貴!
ベイカー……っ!

ベイカーは絶対高貴の輝きを前に、拳を握る。

絶対高貴の柔らかな光が、マーガレットに降り注ぎ───
しかし、光が止んでも、彼女に変化はなかった。

ジョージ……!? どうして……。
薔薇の傷は……?
ベイカーああ……薔薇の傷なら、とっくに治ってるよ。
ジョージじゃあなんで……?
もう1回……絶対高貴……!
ベイカー…………。
ジョージ絶対高貴……っ!

何度も光に照らされたマーガレットは、眉根を寄せる。
うつろなその目が少しだけ動き───レッドコートの姿を捉えた。

マーガレット……う……っ。
ジョージ女王サマ……?
マーガレットう……ァ、ああァ……ッ!!
兵……ン、……ス……うぅぅ……!
ジョージ……っ!

マーガレットは両手で顔を覆い、
断片的な言葉とうめき声を漏らす。
ただでさえ青白い手はさらに色を失い、小刻みに震えた。

ジョージ……だ、大丈夫か……!? しっかりしてくれ……!
なんで、絶対高貴が効かないんだ……!?
???まあっ! なんてこと……!
ジョージ……っ!

悲鳴のような声とともに、ガラスが割れる音が響く。
そこには……薔薇が入った花瓶を取り落とし、
蒼白になる図書司書───ゾーイの姿があった。

 

第21話:ゾーイの仕事

ゾーイあなた……どうしてここに!?
ジョージゾーイの方こそ……!
っていうか、なんでここに女王サマがいるんだ……!?
ゾーイアタクシは……っ、いえ!
アタクシの質問に答えるのが先ですわ。
あなた、どうやってこの部屋を見つけたんです!
ジョージそれは───……。
ジョージ(あ……あれっ!? ベイカーがいない……!)

ベイカー僕とここで会ったことは誰にも言うなよ。
絶対にだ。でないと───いや、なんでもない。
とにかく、他言無用で頼む。

ジョージえっと、探検してたら、たまたま……。
ほら、これでさ……!

ジョージはダウジングのロッドをゾーイに見せる。

マーガレットうう……あああ……っ!
ゾーイマーガレット様……!
マーガレット様に何をしたの!?
ジョージ頼……いや、具合悪そうだったから、
絶対高貴で治そうとしたんだ。
マーガレットウゥゥ……わた、……!
ゾーイ医療班! すぐに来てちょうだい!!

ジョージそのあとは、カサリステのドクターが、
鎮静剤かな……薬を注射して落ち着けたんだけど。
ジョージ女王サマはオレを見て様子がおかしくなったし、
絶対高貴も効かないから……
これ以上刺激しないようにって出たんだ。
ジョージ……前に、〇〇とライク・ツーには、
今ウィンズダム宮殿にいるブラウンも女王も本物じゃなくて、
影武者だって話したよな。

ライク・ツー……〇〇。
お前、報告書にジョージのこと書かなかったんだな。
ライク・ツーマーガレット女王が呼び覚ましたブラウン・ベスが、
今ジョージとして、お前の貴銃士になってること。
ジョージ……オレが、秘密にしてほしいって頼んだんだ。
オレ自身も何も知らないことにしといた方が、
あの日、ブラウンに何があったのかを探りやすいから……。

ライク・ツーエンフィールドとスナイダーは
ブラウン・ベスが偽物だって気がついてるんじゃないか?
ジョージうん……たぶん、エンフィールドは確実に気づいてる。
あの時、“あいつと同じ偽物”って口走ってたし……。
ジョージでも、女王まで偽物だとは知らないんじゃないかな。
それに、オレが女王に呼び覚まされたブラウン・ベスと
同じ銃だってことも知らないと思うんだ。
ジョージオレは、エンフィールドのことを信用してるよ。
けど、オレとブラウンの繋がりを知るのは……たぶん危険だ。
だから、今はまだ巻き込みたくないんだ。

ライク・ツーどのみち、現時点で既に知ってる奴ら……
俺たちとシャルルヴィルだけの間で、
しばらく情報を留めておくのがいいってことだな。

ジョージどこにいるのか、ずっと気になってた。
女王サマなら、あの日ブラウンに起きたことを
詳しく知ってるかもしれないし……。
ジョージだけど、あんな状態で……
カサリステで治療を受けてたなんて思わなくて……。

───コンコン

シャルルヴィル……誰だろう。
はーい?
???……アタクシですわ。開けてください。
〇〇さんもいらっしゃるのでしょ?
シャルルヴィル……っ!

〇〇たちは顔を見合わせる。
シャルルヴィルが、慎重に扉を開けると、
真剣な表情をしたゾーイが1人、立っている。

ゾーイやはりお話しになられたのね。
それは……想定内ですから、まあよしといたしましょう。
ゾーイ……アタクシから皆さんにお話があります。
図書館へいらしてくださいな。

ゾーイ……どうぞ、お紅茶ですわ。
長い話になりますからね。
ジョージ話って……オレが見た、女王サマのこと……だよな?
ゾーイええ。もうご存知のようですから、
シャルルヴィル様と〇〇さんにも
お話ししますわ。
ゾーイこれからアタクシがお伝えするのは……
イギリスの国家機密である極秘情報です。
これ以上決して、どなたにも明かされないように。
ゾーイよろしいですわね?
でないと、女王陛下についてアタクシから話すことも、
お会いさせることも二度とありませんわ。
ジョージ……わかった。
だから……教えてくれ。 あの人に何があったのか。
どうしてここにいるのか……。
ゾーイ…………。
ゾーイブラウン・ベスを召銃したマーガレット陛下は、
心身の調子を少しずつ崩していかれたと聞いておりますわ。
ゾーイ女王となるべくして生まれ育った、誇り高く気丈な方です。
その不調は側近にも隠し通され、
彼らが異変に気づいたのは、事件の少し前だったとか……。
ゾーイそして───あの事件が起きたのです。

ゾーイご乱心された女王陛下は……ウィンズダム城を抜け出そうと、
ブラウン・ベスに命じ、兵士に銃を向けさせた……。
ゾーイ応援が駆けつけ、女王陛下は措置のため拘束。
ブラウンベスは───銃に戻りました。

ゾーイのちに……少し落ち着かれた陛下は、
自分がしたことを自覚されると、深く心を痛め……
薬を大量にお飲みになったのですわ……。
ゾーイなんとか……お命は助かりましたが、あの通り。
まるで抜け殻のようになってしまわれて……。
ゾーイ様々な治療を試したものの効果はなく……
もしかすると、マスターであられたことも
関係しているのではと言われるようになりました。
ゾーイそこで、イギリス王室からカサリステに協力要請があったのです。
カサリステは、正式名称「貴銃士原理研究機構」ですもの。

ゾーイけれど……マーガレット様の受け入れ以降
あれこれと医療班は力を尽くしているものの、
ほとんど意思を感じられるような反応はありませんでしたわ。
ゾーイそれでも……アタクシは、女王陛下であれば
いつか以前のようなお姿を見せてくださるかもと、
希望を捨てきれず……お世話係をさせていただいておりますの。
シャルルヴィルそう……だったんだ……。
ジョージどうすれば、あの人は治るんだろう……。
絶対高貴じゃダメだったんだ。
シャルルヴィル薔薇の傷が直接の原因じゃないなら……
やっぱり、心の傷なのかな。
絶対高貴で傷は癒えても、心までは癒やせないから……。

年若きイギリス女王、そして───
貴銃士たちが現在に蘇ることとなったきっかけのマスター。

彼女が触れたのはおそらく、
貴銃士が絶対高貴になりえない人工のアリノミウム結晶だろう。

重責のなか、頼れる他のマスターもなく、
結晶による副作用と思われる猜疑心に苛まれたなら……。

主人公【(あまりにも酷だ……)】
【(あの事件は悲劇としか言いようがない)】
ジョージ〇〇……オレ、女王サマを助けたい。
ほら、オレって銃としてはブラウン・ベスだしさ。
反応は……あっただけいいのか、悪い刺激なのかわからないけど。
ジョージオレに何かできることがあるなら、
少しでも治療に役立ちたいって思うんだ。
主人公【ジョージのやりたいことを応援する】
【自分も手伝うよ】
ジョージありがとな、〇〇……!
ゾーイ正直に言いますわ。
アタクシ、マーガレット様が反応を見せたことに、
一筋の光明を見出しておりますの。
ゾーイとはいえ……アタクシの一存で
陛下に関することを決めることはできない……。
フェデリコ先生に相談しますわね。

第22話:ジョージの決心

臨床心理士であるロッシは、
マーガレットの容態についても時折意見を求められているという。

ゾーイがすぐにロッシを呼び、
5人で話し合うことになった。

ロッシふむ……
ロッシこれまでにも、マーガレット様には様々な刺激が与えられていた。
好きだった曲、花、本、歌劇……。
しかしそのどれにもほとんど反応はなかったそうだ。
ロッシそれが……ジョージ君が現れた途端に、
激しい反応を見せている……。
ロッシうーむ……強いストレスになっている可能性がある。
しかし、反応があるのはいい傾向でもあるし、
通常の病ではなく結晶が関係しているからね……。
ロッシことは慎重に進める必要があるが、
私としては、反応を得られたのは重要な一歩だと思うよ。
ジョージそれじゃあ……!
ロッシ……女王陛下と君たちの面会を許可しよう。
ただ、頻度や内容については私に報告。
私か、医療班の誰かが必ずそばに控えること。
ロッシそれから……
女王陛下についてのモンテルノッテ嬢の話や、
今後面会する中で見聞きした内容───
ロッシあらゆる情報を厳重に秘匿することだ。
イギリス国内のみならず、世界中が混乱する情報なのだからね。
くれぐれも、肝に銘じてくれ。
ジョージおう。わかった。
主人公【イエッサー】
ゾーイああ……こんな日が来るとは、思ってもみませんでしたわ。

ゾーイの言葉がかすかに震える。
リーディンググラスの奥の目は、潤んでいた。

ゾーイ……あのご様子では……
マーガレット様はこのままずっと地下暮らしになるかと、
アタクシは恐れていましたの……。
ゾーイそして、事件のこともマーガレット様のご様子も、
アタクシが墓場まで持っていくつもりでしたわ……。
ゾーイ国家機密がこうして漏れてしまったことは、
憂慮すべきなのかもしれませんけれど……。
ゾーイアタクシはそんなこと些事に思えますわ。
本当のマーガレット様がここにいらっしゃることを知り、
陛下のために力を尽くしてくださる仲間が増えたのですもの……!
ロッシこれで、陛下の状態も変わっていけばいいのだが。
……君たちも、傷ついたばかりで癒えていない傷があるはずだ。
あまり無理はしないように、いいね。
主人公【はい】
【ありがとうございます】
ロッシ君たちの働きに頼らざるを得ない我々を……
どうか許してくれ。
ロッシ困ったことがあれば、なんでも相談しなさい。
シャルルヴィルありがとう、フェデリコ先生。

ライク・ツー…………。

ゴーストいや……本当に、すごいよなぁ……。
俺は……エルメの義兄さんのために、そこまでできるか……
たぶん、できないと思う……。
ゴーストそれに、兄ちゃんと天秤にかけても譲れ……ないくらいの
強い思いがあるあんたも、すごい……。
ゴースト消えちゃった兄ちゃんのためにも……
あんたのやりたいこと、絶対やり遂げないと、だな……。

ライク・ツー……譲れないもの。
俺が、やり遂げないといけないこと……。
ライク・ツー…………。

───イギリスのとある山中。
2人の男性が、登山を楽しんでいた。

男性1ふぅ〜、やっぱり自然の中は気持ちいいな!
やっと来られてよかったぜ!
男性2あんまりのんびりしてないで、早く登るぞ。
幻のきのこがあるのはもっと標高が高いところらしいからな。
男性1幻のきのこ……本当にあんのかねぇ。
それより、川魚でも狙った方が実りがありそうだけど。
男性2確かに、これだけ綺麗な川なら期待できそうだな。
男性1だろ? ま、釣り竿がないから無理だけど。ハハハ!

川に架けられた橋を渡っていた時───
1人が、岩の隙間に揺れる何かを目に留める。

男性1あれは……。……っ! 人だ!!

2人は橋を渡るとすぐに河原へ下り、
岩に引っかかっている人の救助に向かう。<br>しかし……。

男性1……だめだ……死んでる。
下山してすぐ警察を呼ばないと……。
男性2ああ。
でもなんでこんなところで……。
上流で釣りでもしてて、足を滑らせちまったのかな……。

男性たちは、十字を切る。
そしてふと、遺体の襟元で光っているチェーンの存在に
気がついた。

男性1……メダイとか……ロケットとかか?
名前が書かれてりゃあ、身元のヒントになるが……。

そっと引っ張り出されたのは───軍属であることを示すタグだ。

男性2連合軍イギリス支部……
ハドソン・エヴァンズ……。

コメントを書き込む


Protected by reCAPTCHA and the Google Privacy Policy and Terms of Service apply.

まだコメントがありません。

×