プラトー村をトルレ・シャフが支配していたこと、
完全結晶が確認されたことなどから、ロッシは急ぎ麓に下り、
近くの基地や士官学校へ連絡と応援要請をすることになった。
十手とゴーストがその護衛につき、
残る〇〇と3人の貴銃士たちは、
荷物をまとめ、借り家の掃除や片付けを進める。
マークス | 妙な村だとは思ってたが…… トルレ・シャフが潜んでたとはな。 |
---|---|
カトラリー | でも……こんな山奥の村で、何がしたかったんだろう。 やってたことは、ヘンな理想郷づくりみたいだったし。 |
タバティエール | たしかになぁ……。 追われてる元世界帝軍の幹部やらを匿うために、 村人を洗脳する必要があった……ってわけでもなさそうだ。 |
タバティエール | 司祭に化けたトルレ・シャフの構成員がやろうとしてたのは、 皆で平等に分かち合い支え合う共同体づくり……。 トルレ・シャフがやるにしちゃあ、なんというか……。 |
カトラリー | 残酷ではあるけど、残虐ではないよね。 |
タバティエール | ああ……人を操り人形にしてたのは悪質なんだが、 意のままに操れるなら、たとえば─── 忠実で恐怖も抱かない兵士に仕立て上げることも可能なわけだ。 |
マークス | ……! |
マークス | 言われてみればそうだ……。 あの結晶には、そういう使い方もある……。 |
マークス | それか……アウトレイジャーを支配することもできる、のか……? |
カトラリー | まさか……あんなのを? それに、村の周辺にいたのは、普通のアウトレイジャーだったよ。 |
マークス | 確かに……そうだ。 |
タバティエール | 悪用しようと思えば、セント・ディース島みたいに村人同士で 殺し合わせることもできたはずだ。なのに、そうせずに 理想郷もどきを作ってたのが、裏がありそうでな……。 |
主人公 | 【完全に平和な世界……世界帝……】 【理想郷づくりが目的だった……?】 |
カトラリー | ええっ……? トルレ・シャフが理想郷? |
タバティエール | ……! 〇〇ちゃんの言う通りかもしれない。 |
カトラリー | どういうこと? |
タバティエール | 第2代世界帝───父親である初代世界帝を暗殺して 代替わりを果たしたアシュレー・サガンは、 圧政やらレジスタンスの苛烈な弾圧が有名だよな。 |
タバティエール | だけど……その思想の根本にあったのは、 平和主義だったと言われてる。 完全なる世界平和を目指した結果があれだと。 |
マークス | 意味がわからない……。 平和主義でなんで虐殺に行き着くんだ。 |
タバティエール | ただの平和主義じゃなくて、行き過ぎた平和主義なんだ。 だから……反抗する手段や気力を奪う圧政を敷いた。 それでも反抗した者は───徹底的に消し去る。 |
カトラリー | ……! そんなの、平和って言えるの? |
タバティエール | さてなぁ……。 もしも革命戦争で、レジスタンスが敗北して、 反抗する人間が完全に消え去ったなら……確かに争いも消える。 |
タバティエール | 争いがないことを平和と指すなら、 確かに「完全なる世界平和」が完成してたのかもな。 |
主人公 | 【でもそれは不完全な平和だ】 【平和のための弾圧は矛盾してる】 |
マークス | ああ。だから、マスターの家族や恭遠は戦ったんだろう? そして、たくさんの人が味方についたから勝って、 今の世界がある。 |
カトラリー | そもそも、「完全な」ってどこまでを目指すわけ? 人にはいろんな考え方とか譲れないものがあるでしょ。 どうしても相容れない部分はあるじゃん。 |
カトラリー | 少ない人数で、考え方がよく合ってる人たち同士とかなら 揉め事すら起こらないとかはあり得るかもしれないけど。 世界規模でやるのには無理があるよ。 |
タバティエール | まったくだな。 |
マークス | だが……それを世界帝はやろうとしてた。 いや、今もやろうとしてるんじゃないのか? |
マークス | ラブ・ワンが消える前に言っていた。 完全結晶があれば、すべてが思うままだと。 |
ラブ・ワン | ……ね、ライたん。 俺が前に言ったことの意味、 スマートなライたんならもうわかってるよね。 |
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ラブ・ワン | 完全結晶の力、すごくない? あれがあったら、ぜーんぶ思うがままなんだよ。 人間も──貴銃士も、世界も! |
カトラリー | ……本気で、世界全体を操ろうとしてるわけ? そんなことってできるの……? |
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マークス | できるかできないかはともかく…… 元世界帝ってやつは、やろうとしそうじゃないか? |
タバティエール | 考え過ぎかもしれねぇが…… でも現に、この村では……。 |
オーストリアにおいて、トルレ・シャフは希少なはずの
アリノミウム結晶を大量に用いて、完全結晶と呼ばれる
透明な結晶を収集していたとされる。
その完全結晶を用いて行われていた理想郷づくりには、
元世界帝の思想との奇妙な符合がある。
そして、消える前にラブ・ワンが話していた、
おそらくは事実だと思われる内容───。
タバティエール | こいつは…… トルレ・シャフに完全結晶が渡らないように、 気合い入れてやらないとだな……。 |
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───しばらくして、ロッシと十手、ゴーストが帰ってくる。
ロッシ | ……皆。士官学校とカサリステを通して連合軍に連絡を頼んだよ。 プラトー村には、早急に調査が入ることになった。 |
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ロッシ | 私たちは明日、村を発って士官学校に戻るよ。 ……長くて大変な任務、お疲れ様。 あと少しだけ頑張るとしよう。 |
───翌日。
士官学校に帰還した〇〇たちは、
またしばらく休養を取ることになったのだった。
??? | ───緊急の報告があると? |
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??? | ……はっ。 〇〇候補生に関して、重要な情報です。 理由は不明ですが、導きの光が効かず……。 |
??? | ……なんだと? |
??? | どういうことなのだ……? |
シャルルヴィル | 〇〇、みんな、おかえり! |
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主人公 | 【ただいま】 【変わりなさそうだね】 |
シャルルヴィル | 久しぶりの任務なのに結構長引いてたね。 大丈夫かなって心配だったから…… 無事に帰ってきてくれてよかったよ。 |
シャルルヴィル | アウトレイジャーの数、多かったの? |
カトラリー | アウトレイジャー自体はそこまででもなかったけど……。 それ以外が大変でさ。そ、それより……。 |
カトラリー | 僕、食堂行ってくる。十手も行くなら来れば? |
十手 | ああ、そうさせてもらうよ! |
ゴースト | 俺、も……。 |
マークス | 俺はカレーの材料を調達してくる。 待っててくれ、マスター! |
タバティエール | お。それなら俺も買い物に行こうかねぇ。 少し手の込んだものを作らないとなまっちまいそうだ。 |
シャルルヴィル | ……? みんなお腹空いてるのかな。 |
主人公 | 【ちょっといろいろあって……】 【味の濃いものに飢えてて……】 |
シャルルヴィル | なんか……大変だったみたいだね。 あとでまた話を聞かせてほしいな。 |
シャルルヴィルは、周囲に視線を走らせ、
人がいないことを確認する。
シャルルヴィル | ねぇ、〇〇……。 疲れてるところ申し訳ないんだけど、ちょっと話せるかな。 大切な話があるんだ。 |
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シャルルヴィルが向かったのは、
ジョージの部屋だった。
シャルルヴィル | お待たせ、ジョージ。 |
---|---|
ジョージ | ありがとな、シャルル。 〇〇、おかえり。 帰ったばっかりなのにゴメン。 |
主人公 | 【何かあった?】 【どうしたの?】 |
ジョージ | …………。 |
ジョージ | 何から話せばいいんだろうな……。 えっと……一番大事なことから言う。 |
ジョージ | オレ───本物の女王サマに会ったんだ。 |
───〇〇たちが任務へ、
恭遠が連合本部へ行っている間、
貴銃士クラスは主に自習や休講となっていた。
ジョージ | オレは……頑張れる貴銃士だ! 頑張れるから、自主練をするぞ! |
---|---|
ジョージ | 自主練を……。…………。 |
ジョージ | 頑張るのは明日からにしようっと☆ 今日はこれで遊ぶぞ〜! |
ジョージは、L字型に折り曲げた2本の針金を取り出した。
ジョージ | ダーウジング、ダウジング! ダンスダンス♪ |
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ジョージ | お? おおお……? 反応した! お宝発見かー!? |
グラウンド脇を掘ってみると、
缶のプルタブが出てくる。
ジョージ | なぁーんだ。でも、金属に反応したのかな!? これはお宝が期待できるかも…… 宝って言ったら、海とか島とか山の中だよな……! |
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雑木林の方へ向かったジョージは、
ダウジングのロッドに注目しつつ、あちこちを歩く。
その時だった。
ジョージ | (……ん? 今、なんか音が聞こえたような……) |
---|
金属が軋むような音に気づいてそちらへ向かうと、
かすかに人の声も聞こえてきた。
ジョージ | ……ん? 誰かいるのか? |
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??? | ……! |
ジョージ | えっ……!? もしかして、遭難したのか!? |
??? | いや、その……。 |
ジョージ | ちょっと待っててくれよ! 今、そこ開けてやるから! |
??? | あっ……! |
ジョージ | はぁ、はぁ……! おーい、東の門の鍵貸してくれよー! |
---|---|
ジョージ | あれ、誰もいないのか……? おーい、ラッセル……。 |
ジョージ | ……あ……。 |
ジョージ | ……えーっと、普通のクラスは授業中だもんな。 誰もいなくて当たり前か。 |
ジョージ | んー……。 |
ジョージ | 緊急事態だから、いいよな。 鍵、借りていこっと☆ |
ジョージは東の門に戻り、鍵を開ける。
門の向こうには見知らぬ青年がいて、目を見開いていた。
ジョージ | 待たせたな! 大丈夫か? |
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??? | ……! ブラウン……ベス……? |
ジョージ | えっ! |
ジョージ | ……おまえ、ブラウンのこと知ってるのか? |
ベイカー | ……! 当たり前だろ……! 僕はベイカー銃だぞ。イギリス陸軍初の制式ライフルだ! |
ジョージ | えっ、ベイカー……? |
ジョージ | ───ってカンジでさ。 オレの銃はたしかにブラウン・ベスなんだけど、 オレの人格はアメリカ側なんだ。 |
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ジョージ | だからジョージって呼んでくれ! |
ベイカー | ……そう、か。ぬか喜びだったわけだ。 |
ベイカー | はぁ……。 |
ジョージ | そ、そんなにブラウンに会いたかったのか……。 なんか、ごめんな……? |
ジョージ | でも、クラスにはたくさん貴銃士がいるからさ! ベイカーが他に会いたいやつがいるなら、今からでも─── |
ベイカー | いや、僕はそろそろ戻らないと。 |
ベイカー | 僕とここで会ったことは誰にも言うなよ。 絶対にだ。でないと───いや、なんでもない。 とにかく、他言無用で頼む。 |
ベイカー | それじゃ。 |
ジョージ | ……ちょっと待って! |
ジョージ | 戻るって、どこにだ? おまえまさか……この廃墟に住んでるのか……!? |
ベイカー | いや、違う。 ……カサリステにだ。 |
ジョージ | カサリステ……? おまえも、カサリステの貴銃士なのか? |
ベイカー | …………。 |
ベイカーは無言で、ポイラー室へ続くはしごの蓋を開く。
ジョージ | えっ、こんなとこにもカサリステの入り口があったのか……!? オレ、図書館のしか知らなかったよ。 |
---|---|
ベイカー | 図書館……? へぇ。学校内からも出入りできるのか。 |
ジョージ | うん、オレはやり方忘れがちだけど☆ なあ、カサリステの貴銃士なのにどうして学校にいないんだ? っていうか、なんでこんなとこにいたんだよ。 |
ベイカー | 詳細は言えない。 |
ジョージ | ……秘密の任務があるってこと? |
ベイカー | それも秘密だ。 |
ジョージ | そっか。でもさ、また会えるよな。 今日はダウジングの棒しか持ってなかったけど、 バーガーとか差し入れするぜ! |
ジョージ | あ、ベイカーの他にも貴銃士いる? |
ベイカー | ……いや。 |
ジョージ | ええっ、それじゃあ退屈じゃないか……? オレでよければいつでも来るからさ、 暇な時は呼んでくれよな。 |
ベイカー | …………。 |
ジョージ | え……オレの顔とか頭になんかついてる? 虫とか……!? |
ベイカー | いや……その……考え事をしていた。 どうして、会ったばかりの僕にそこまでする? |
ジョージ | あんまり理由はない、かなぁ……。 ブラウンと同じイギリスの貴銃士って気になるし。 困ってるみたいに見えた気がしてさ。 |
ジョージ | オレ、人助けが好きだから、 なーんか放っておけなくなって。 |
ベイカー | ……へぇ。立派な趣味だな。 |
ベイカー | …………。 |
ベイカー | ……お前って、絶対高貴になれるのか? |
ジョージ | おう、なれるよ! |
ベイカー | ふぅん、それなら……。 ……いいものを見せてやるよ、ついてこい。 |
ジョージ | ……? |
ベイカーに連れられて、
ジョージはカサリステ施設の奥にある部屋へやってきた。
ベイカーはノックもせず、静かにドアを開ける。
真っ白な室内。
機械のモニターが規則的な電子音を響かせ、
わずかに薬品の匂いが漂っている。
ジョージ | 病室……? |
---|---|
ベイカー | こっちだ。 |
ベイカーに手招きされてベッドサイドに向かうと、
カーテンの隙間から、病室の主の姿が見えた。
??? | …………。 |
---|---|
ジョージ | ……! 女王、サマ……!? |
ジョージ | (こっ、この人は……本物だ……!) |
ジョージ | (あの事件のあと、行方がわからなかったけど、 まさかカサリステにいたなんて……こんな近くに……!) |
本物のマーガレットは、ベッドに横たわり、動かない。
しかし、虚ろな目で繰り返すまばたきと、わずかに上下する胸、
規則的な電子音が、彼女が生きていることを示していた。
ベイカー | ……この人、ずっとこうなんだよ。 |
---|---|
ベイカー | ……絶対高貴で治療してくれないか。 そういう力があるんだろ、貴銃士の絶対高貴には。 |
ジョージ | うん、オレにできることなら……! |
ジョージ | ───絶対高貴! |
ベイカー | ……っ! |
ベイカーは絶対高貴の輝きを前に、拳を握る。
絶対高貴の柔らかな光が、マーガレットに降り注ぎ───
しかし、光が止んでも、彼女に変化はなかった。
ジョージ | ……!? どうして……。 薔薇の傷は……? |
---|---|
ベイカー | ああ……薔薇の傷なら、とっくに治ってるよ。 |
ジョージ | じゃあなんで……? もう1回……絶対高貴……! |
ベイカー | …………。 |
ジョージ | 絶対高貴……っ! |
何度も光に照らされたマーガレットは、眉根を寄せる。
うつろなその目が少しだけ動き───レッドコートの姿を捉えた。
マーガレット | ……う……っ。 |
---|---|
ジョージ | 女王サマ……? |
マーガレット | う……ァ、ああァ……ッ!! 兵……ン、……ス……うぅぅ……! |
ジョージ | ……っ! |
マーガレットは両手で顔を覆い、
断片的な言葉とうめき声を漏らす。
ただでさえ青白い手はさらに色を失い、小刻みに震えた。
ジョージ | ……だ、大丈夫か……!? しっかりしてくれ……! なんで、絶対高貴が効かないんだ……!? |
---|---|
??? | まあっ! なんてこと……! |
ジョージ | ……っ! |
悲鳴のような声とともに、ガラスが割れる音が響く。
そこには……薔薇が入った花瓶を取り落とし、
蒼白になる図書司書───ゾーイの姿があった。
ゾーイ | あなた……どうしてここに!? |
---|---|
ジョージ | ゾーイの方こそ……! っていうか、なんでここに女王サマがいるんだ……!? |
ゾーイ | アタクシは……っ、いえ! アタクシの質問に答えるのが先ですわ。 あなた、どうやってこの部屋を見つけたんです! |
ジョージ | それは───……。 |
ジョージ | (あ……あれっ!? ベイカーがいない……!) |
ベイカー | 僕とここで会ったことは誰にも言うなよ。 絶対にだ。でないと───いや、なんでもない。 とにかく、他言無用で頼む。 |
---|
ジョージ | えっと、探検してたら、たまたま……。 ほら、これでさ……! |
---|
ジョージはダウジングのロッドをゾーイに見せる。
マーガレット | うう……あああ……っ! |
---|---|
ゾーイ | マーガレット様……! マーガレット様に何をしたの!? |
ジョージ | 頼……いや、具合悪そうだったから、 絶対高貴で治そうとしたんだ。 |
マーガレット | ウゥゥ……わた、……! |
ゾーイ | 医療班! すぐに来てちょうだい!! |
ジョージ | そのあとは、カサリステのドクターが、 鎮静剤かな……薬を注射して落ち着けたんだけど。 |
---|---|
ジョージ | 女王サマはオレを見て様子がおかしくなったし、 絶対高貴も効かないから…… これ以上刺激しないようにって出たんだ。 |
ジョージ | ……前に、〇〇とライク・ツーには、 今ウィンズダム宮殿にいるブラウンも女王も本物じゃなくて、 影武者だって話したよな。 |
ライク・ツー | ……〇〇。 お前、報告書にジョージのこと書かなかったんだな。 |
---|---|
ライク・ツー | マーガレット女王が呼び覚ましたブラウン・ベスが、 今ジョージとして、お前の貴銃士になってること。 |
ジョージ | ……オレが、秘密にしてほしいって頼んだんだ。 オレ自身も何も知らないことにしといた方が、 あの日、ブラウンに何があったのかを探りやすいから……。 |
ライク・ツー | エンフィールドとスナイダーは ブラウン・ベスが偽物だって気がついてるんじゃないか? |
---|---|
ジョージ | うん……たぶん、エンフィールドは確実に気づいてる。 あの時、“あいつと同じ偽物”って口走ってたし……。 |
ジョージ | でも、女王まで偽物だとは知らないんじゃないかな。 それに、オレが女王に呼び覚まされたブラウン・ベスと 同じ銃だってことも知らないと思うんだ。 |
ジョージ | オレは、エンフィールドのことを信用してるよ。 けど、オレとブラウンの繋がりを知るのは……たぶん危険だ。 だから、今はまだ巻き込みたくないんだ。 |
ライク・ツー | どのみち、現時点で既に知ってる奴ら…… 俺たちとシャルルヴィルだけの間で、 しばらく情報を留めておくのがいいってことだな。 |
---|
ジョージ | どこにいるのか、ずっと気になってた。 女王サマなら、あの日ブラウンに起きたことを 詳しく知ってるかもしれないし……。 |
---|---|
ジョージ | だけど、あんな状態で…… カサリステで治療を受けてたなんて思わなくて……。 |
───コンコン
シャルルヴィル | ……誰だろう。 はーい? |
---|---|
??? | ……アタクシですわ。開けてください。 〇〇さんもいらっしゃるのでしょ? |
シャルルヴィル | ……っ! |
〇〇たちは顔を見合わせる。
シャルルヴィルが、慎重に扉を開けると、
真剣な表情をしたゾーイが1人、立っている。
ゾーイ | やはりお話しになられたのね。 それは……想定内ですから、まあよしといたしましょう。 |
---|---|
ゾーイ | ……アタクシから皆さんにお話があります。 図書館へいらしてくださいな。 |
ゾーイ | ……どうぞ、お紅茶ですわ。 長い話になりますからね。 |
---|---|
ジョージ | 話って……オレが見た、女王サマのこと……だよな? |
ゾーイ | ええ。もうご存知のようですから、 シャルルヴィル様と〇〇さんにも お話ししますわ。 |
ゾーイ | これからアタクシがお伝えするのは…… イギリスの国家機密である極秘情報です。 これ以上決して、どなたにも明かされないように。 |
ゾーイ | よろしいですわね? でないと、女王陛下についてアタクシから話すことも、 お会いさせることも二度とありませんわ。 |
ジョージ | ……わかった。 だから……教えてくれ。 あの人に何があったのか。 どうしてここにいるのか……。 |
ゾーイ | …………。 |
ゾーイ | ブラウン・ベスを召銃したマーガレット陛下は、 心身の調子を少しずつ崩していかれたと聞いておりますわ。 |
ゾーイ | 女王となるべくして生まれ育った、誇り高く気丈な方です。 その不調は側近にも隠し通され、 彼らが異変に気づいたのは、事件の少し前だったとか……。 |
ゾーイ | そして───あの事件が起きたのです。 |
ゾーイ | ご乱心された女王陛下は……ウィンズダム城を抜け出そうと、 ブラウン・ベスに命じ、兵士に銃を向けさせた……。 |
---|---|
ゾーイ | 応援が駆けつけ、女王陛下は措置のため拘束。 ブラウンベスは───銃に戻りました。 |
ゾーイ | のちに……少し落ち着かれた陛下は、 自分がしたことを自覚されると、深く心を痛め…… 薬を大量にお飲みになったのですわ……。 |
---|---|
ゾーイ | なんとか……お命は助かりましたが、あの通り。 まるで抜け殻のようになってしまわれて……。 |
ゾーイ | 様々な治療を試したものの効果はなく…… もしかすると、マスターであられたことも 関係しているのではと言われるようになりました。 |
ゾーイ | そこで、イギリス王室からカサリステに協力要請があったのです。 カサリステは、正式名称「貴銃士原理研究機構」ですもの。 |
ゾーイ | けれど……マーガレット様の受け入れ以降 あれこれと医療班は力を尽くしているものの、 ほとんど意思を感じられるような反応はありませんでしたわ。 |
---|---|
ゾーイ | それでも……アタクシは、女王陛下であれば いつか以前のようなお姿を見せてくださるかもと、 希望を捨てきれず……お世話係をさせていただいておりますの。 |
シャルルヴィル | そう……だったんだ……。 |
ジョージ | どうすれば、あの人は治るんだろう……。 絶対高貴じゃダメだったんだ。 |
シャルルヴィル | 薔薇の傷が直接の原因じゃないなら…… やっぱり、心の傷なのかな。 絶対高貴で傷は癒えても、心までは癒やせないから……。 |
年若きイギリス女王、そして───
貴銃士たちが現在に蘇ることとなったきっかけのマスター。
彼女が触れたのはおそらく、
貴銃士が絶対高貴になりえない人工のアリノミウム結晶だろう。
重責のなか、頼れる他のマスターもなく、
結晶による副作用と思われる猜疑心に苛まれたなら……。
主人公 | 【(あまりにも酷だ……)】 【(あの事件は悲劇としか言いようがない)】 |
---|---|
ジョージ | 〇〇……オレ、女王サマを助けたい。 ほら、オレって銃としてはブラウン・ベスだしさ。 反応は……あっただけいいのか、悪い刺激なのかわからないけど。 |
ジョージ | オレに何かできることがあるなら、 少しでも治療に役立ちたいって思うんだ。 |
主人公 | 【ジョージのやりたいことを応援する】 【自分も手伝うよ】 |
ジョージ | ありがとな、〇〇……! |
ゾーイ | 正直に言いますわ。 アタクシ、マーガレット様が反応を見せたことに、 一筋の光明を見出しておりますの。 |
ゾーイ | とはいえ……アタクシの一存で 陛下に関することを決めることはできない……。 フェデリコ先生に相談しますわね。 |
臨床心理士であるロッシは、
マーガレットの容態についても時折意見を求められているという。
ゾーイがすぐにロッシを呼び、
5人で話し合うことになった。
ロッシ | ふむ…… |
---|---|
ロッシ | これまでにも、マーガレット様には様々な刺激が与えられていた。 好きだった曲、花、本、歌劇……。 しかしそのどれにもほとんど反応はなかったそうだ。 |
ロッシ | それが……ジョージ君が現れた途端に、 激しい反応を見せている……。 |
ロッシ | うーむ……強いストレスになっている可能性がある。 しかし、反応があるのはいい傾向でもあるし、 通常の病ではなく結晶が関係しているからね……。 |
ロッシ | ことは慎重に進める必要があるが、 私としては、反応を得られたのは重要な一歩だと思うよ。 |
ジョージ | それじゃあ……! |
ロッシ | ……女王陛下と君たちの面会を許可しよう。 ただ、頻度や内容については私に報告。 私か、医療班の誰かが必ずそばに控えること。 |
ロッシ | それから…… 女王陛下についてのモンテルノッテ嬢の話や、 今後面会する中で見聞きした内容─── |
ロッシ | あらゆる情報を厳重に秘匿することだ。 イギリス国内のみならず、世界中が混乱する情報なのだからね。 くれぐれも、肝に銘じてくれ。 |
ジョージ | おう。わかった。 |
主人公 | 【イエッサー】 |
ゾーイ | ああ……こんな日が来るとは、思ってもみませんでしたわ。 |
ゾーイの言葉がかすかに震える。
リーディンググラスの奥の目は、潤んでいた。
ゾーイ | ……あのご様子では…… マーガレット様はこのままずっと地下暮らしになるかと、 アタクシは恐れていましたの……。 |
---|---|
ゾーイ | そして、事件のこともマーガレット様のご様子も、 アタクシが墓場まで持っていくつもりでしたわ……。 |
ゾーイ | 国家機密がこうして漏れてしまったことは、 憂慮すべきなのかもしれませんけれど……。 |
ゾーイ | アタクシはそんなこと些事に思えますわ。 本当のマーガレット様がここにいらっしゃることを知り、 陛下のために力を尽くしてくださる仲間が増えたのですもの……! |
ロッシ | これで、陛下の状態も変わっていけばいいのだが。 ……君たちも、傷ついたばかりで癒えていない傷があるはずだ。 あまり無理はしないように、いいね。 |
主人公 | 【はい】 【ありがとうございます】 |
ロッシ | 君たちの働きに頼らざるを得ない我々を…… どうか許してくれ。 |
ロッシ | 困ったことがあれば、なんでも相談しなさい。 |
シャルルヴィル | ありがとう、フェデリコ先生。 |
ライク・ツー | …………。 |
---|
ゴースト | いや……本当に、すごいよなぁ……。 俺は……エルメの義兄さんのために、そこまでできるか…… たぶん、できないと思う……。 |
---|---|
ゴースト | それに、兄ちゃんと天秤にかけても譲れ……ないくらいの 強い思いがあるあんたも、すごい……。 |
ゴースト | 消えちゃった兄ちゃんのためにも…… あんたのやりたいこと、絶対やり遂げないと、だな……。 |
ライク・ツー | ……譲れないもの。 俺が、やり遂げないといけないこと……。 |
---|---|
ライク・ツー | …………。 |
───イギリスのとある山中。
2人の男性が、登山を楽しんでいた。
男性1 | ふぅ〜、やっぱり自然の中は気持ちいいな! やっと来られてよかったぜ! |
---|---|
男性2 | あんまりのんびりしてないで、早く登るぞ。 幻のきのこがあるのはもっと標高が高いところらしいからな。 |
男性1 | 幻のきのこ……本当にあんのかねぇ。 それより、川魚でも狙った方が実りがありそうだけど。 |
男性2 | 確かに、これだけ綺麗な川なら期待できそうだな。 |
男性1 | だろ? ま、釣り竿がないから無理だけど。ハハハ! |
川に架けられた橋を渡っていた時───
1人が、岩の隙間に揺れる何かを目に留める。
男性1 | あれは……。……っ! 人だ!! |
---|
2人は橋を渡るとすぐに河原へ下り、
岩に引っかかっている人の救助に向かう。<br>しかし……。
男性1 | ……だめだ……死んでる。 下山してすぐ警察を呼ばないと……。 |
---|---|
男性2 | ああ。 でもなんでこんなところで……。 上流で釣りでもしてて、足を滑らせちまったのかな……。 |
男性たちは、十字を切る。
そしてふと、遺体の襟元で光っているチェーンの存在に
気がついた。
男性1 | ……メダイとか……ロケットとかか? 名前が書かれてりゃあ、身元のヒントになるが……。 |
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そっと引っ張り出されたのは───軍属であることを示すタグだ。
男性2 | 連合軍イギリス支部…… ハドソン・エヴァンズ……。 |
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