司会 | ──紳士、淑女の皆様! |
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司会 | 今宵は、レザール侯爵家、ロシニョル侯爵家によります、 心躍る祝宴──「召銃パーティー」へ ようこそおいでくださいました。 |
司会 | もう……間もなく! 開宴の時でございます。 しばしのご歓談をお楽しみくださいませ……。 À tout de suite!! |
男性1 | レザール家とロシニョル家、 どちらが貴銃士を目覚めさせることができるのか…… これは見ものですな。 |
男性2 | ですが、貴銃士になる銃はなかなかないと聞きますぞ。 1挺も召銃できないとなれば、とんだ興ざめですが…… さて、どうなることやら。 |
女性1 | リリエンフェルト家には シャルルヴィル様がいらっしゃいますし…… 今宵集いし両家は、革命戦争を支えた誇り高き名家。 |
女性1 | きっと、その志に呼応して、 貴銃士様が現れるに違いありませんわ。 |
女性2 | ええ、そうね。 ……ロシニョル家の方は、どうかわからないけれど。 |
男性3 | ……貴殿は、どちらに賭けるおつもりで? |
男性4 | もちろん、レザール家ですよ。 テオドール殿は才覚溢れる青年だそうですからね。 ……して、貴殿は? |
男性3 | 同じくレザール家に。しかし、これでは賭けになりませんよ。 誰か、ロシニョル家に賭けてもいいという猛者はいないものか…… はっはっは! |
──別室にて。
ロシニョル侯爵 | すまない、カトリーヌ。 お前にこんな役目を負わせる父を許してくれ。 |
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カトリーヌ | お父様、わたくしは大丈夫です。 どうか心配なさらないで。 |
カトリーヌ | ……やるべきことはわかっています。 |
カトリーヌ | わたくしは、並べられた銃に触れ…… 何事もなく、この催しを終えればいい。 |
ロシニョル侯爵 | ああ、そうだ。 ……お前が貴銃士を召銃することは、決してない。 |
ロシニョル侯爵 | お前は貴銃士を一人も目覚めさせることなく、 この愚かで忌まわしい催しを終える……。 |
ロシニョル侯爵 | お前に、マスターとなる栄誉を与えられず、 本当にすまない……。 だが、これはロシニョル家のためなのだ……! |
カトリーヌ | お父様……。 |
レザール侯爵 | 我が息子、テオドールよ。わかっているな。 お前はレザール家の者として、 並み居る民衆たちの前で堂々と召銃するのだ。 |
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テオドール | ……そのつもりですよ、父上。 |
司会 | ──皆様、大変お待たせいたしました。 |
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司会 | 「召銃パーティー」の幕開けでございます! |
──フランス郊外。
〇〇、ジョージ、マークスの3名は
フランスでのアウトレイジャー討伐の任務を受け、
世界連合軍フランス支部へ向かっていた。
ジョージ | なぁ、〇〇、窓の外を見てみてくれ。 |
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ジョージ | なんか、オレのイメージと違うんだけど…… フランスって、こんな殺風景で荒んでるもんなのか!? |
ジョージ | もっとこう、華やかで賑わってて、道行く人が のんびりマカロン食ってるようなとこじゃないの!? |
マークス | 四六時中マカロン食ってるのは、 あのシャルルヴィルとかいうスイーツ狂いくらいだろ。 |
ジョージ | いや、シャルルだってさすがに 四六時中はマカロン食ってないと思うけど…… って、そうじゃなくて! |
マークス | ……確かに、荒れてるな。 人気もほとんどないし、半壊してる建物もある。 |
マークス | ちょっとした内戦の痕みたいだが…… アウトレイジャーの被害か? |
ジョージ | そうなんじゃないかなー? こうやって、オレたちが派遣されてるワケだし。 |
マークス | だが、フランスには貴銃士が4人いると聞いたぞ。 そいつらは何をやってんだ。 |
ジョージ | んー……? 4人いても対応しきれないくらい、 アウトレイジャーの数が多いとか? |
マークス | フランスの奴らのことだ。 戦わずに、菓子でも食って──…… |
マークス | ──ん? |
主人公 | 【マークス?】 【どうした?】 |
マークス | ……別の車の音がする。 |
マークス | かなりのスピードで近づいてきた、けど、 この車の後ろで、速度を落とした……? |
ジョージ | それって……オレたちをつけてるってことか!? |
慌てて窓から外の様子を窺うと、
高級そうな乗用車が1台、
ぴたりとこちらの車両についてきていた。
マークス | 弱そうな車だけど……油断はできない。 マスター、いつでも退避できるように準備を。 |
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マークスとジョージが臨戦態勢に入る中、
乗用車はこちらの車両の進路を塞ぐように前へ出た。
そして、速度を緩め……車は2台とも停止する。
マークス | 俺が出る。マスターは車の中にいてくれ。 ……ジョージ、こっちは頼んだぞ。 |
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ジョージ | おう。 |
マークス | ──何者だ。 |
??? | 突然失礼いたします。 |
??? | 皆様は、フィルクレヴァート連合士官学校の貴銃士様と そのマスター様で間違いないでしょうか。 |
マークス | …………。 そうだと言ったら? |
??? | ……おお! |
??? | やはりあなた方でございましたか! お会いできて光栄でございます。 |
マークス | ……? |
レザール家執事長 | 私は、レザール侯爵家で執事長を務めている者です。 皆様のお迎えに上がりました。 |
マークス | レザール……? 迎え……? なんのことだ? |
主人公 | 【レザール家!?】 【どこかで聞いたことがあるような……?】 |
マークス | マスター、知ってるのか? |
ジョージ | オレも聞いたことある! たしか…… シャルルヴィルがいるリリエンフェルト家の次くらいに すげー貴族じゃなかったっけ? |
レザール家執事長 | ふふ……そうでございますね。 |
レザール家執事長 | フランスにて、リリエンフェルト公爵家に次いで 並び立つ2つの侯爵家…… そのうちの1つが、レザール侯爵家でございます。 |
マークス | ……それで、あんたは何しに来たんだ。 |
レザール家執事長 | フランスでの任務に当たってくださる皆様を ぜひとも当家にて歓待すべく……。 案内役として、お迎えに上がりました。 |
マークス | ん……? そんな話、聞いてないよな? |
ジョージ | ……だよなぁ。 ラッセルも何も言ってなかったし。 もしかして……サギか!? |
レザール家執事長 | おや……? 既に連合軍から皆様へ連絡済みかと思っていましたが、 情報の行き違いがあったようですね。 |
レザール家執事長 | 私の身分は…… こちらの懐中時計の紋章で証明できるでしょうか。 |
執事長が懐から取り出した懐中時計には、
凝った意匠の紋章が刻まれている。
マークス | ドラゴン……? いや、トカゲか? |
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レザール家執事長 | ええ。これは、レザール家の紋章です。 レザールは、フランス語でトカゲを意味しますので。 |
レザール家執事長 | この懐中時計は、レザール家の歴代の執事長のみが 持つことを許された、特別なものです。 ……これで、ご納得いただけたでしょうか。 |
主人公 | 【……行ってみよう】 【2人がいるから大丈夫】 |
ジョージ | おお! 思い切りがいいな、〇〇! |
マークス | マスターが望むなら、その通りに。 |
レザール家執事長 | ご理解いただき、ありがとうございます。 それでは……レザール家へご案内いたしましょう。 |
マークス | ……すげぇ家だな。 シャルルヴィルのところには負けるが。 |
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ジョージ | このあたりは郊外と違って、キレーで賑わってるな~! イメージ通りのフランスって感じがする! |
ジョージ | ……っていうか、なんでこんなに人がいるんだ? なんかみんな着飾ってるし。 |
マークス | 何かの集会か? |
レザール家執事長 | 集会と言いますか…… これは、皆様の歓迎パーティーでございます。 |
ジョージ | 歓迎パーティー!? マジで!? |
レザール家執事長 | ええ。皆様は、フィルクレヴァート連合士官学校より、 フランスのためにおいでくださったのですから、 任務外の時間はせめてお楽しみいただければと……。 |
レザール家執事長 | 旦那様のお言い付けで、 急遽開催することになったのです。 |
ジョージ | Wow! Thank you☆ オレ、パーティー大好きなんだ! だって、美味しいご馳走があるもんな~! |
マークス | ……マスターは、俺から離れないでくれ。 |
マークス | 知らない人間がこんなにたくさんいるんだ。 危ない奴が紛れているかもしれない。 それに、人混みの中ではぐれる可能性もある。危険だ。 |
マークス | ……そうだ! マスターは、俺のベルトでも掴んでおいてくれ。 それか、俺がマスターのどこかを掴まえて── |
ジョージ | おいおいマークス! 心配しすぎだって~。 手が塞がってたら〇〇も ご馳走食べられないだろー? |
マークス | だが……周りの奴らがこっちをチラチラ見てて、 なんだか嫌な感じだ。 |
ジョージ | ん~、確かに視線は感じるけど、 パーティーの主役がオレたちだからじゃないか? |
ジョージ | ほら、行こうぜ! |
主人公 | 【行ってみよう】 【せっかくのご厚意だから】 |
マークス | ……わかった。 |
女性1 | まぁ! いらしたわ……! |
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女性2 | 華のある素敵なお方ね……! さすが、古銃の貴銃士様だわ。 |
男性1 | お会いできて光栄です、 ブラウン・ベス・マスケットの貴銃士様。 |
ジョージ | おう! オレはジョージっていうんだ。よろしくな! |
女性1 | ジョージ様とおっしゃるのですね……? わたくしたちにも挨拶をさせてくださいな。 |
男性2 | 吾輩もぜひ……! |
マークス | うお……ジョージのやつ、すげー囲まれてるな。 イギリスの銃なのに、フランスでも人気なのか。 わからねぇな……。 |
マークス | ん! ふんふん……マスター! あっちから、うまい肉の匂いがするぞ……! 行ってみよ── |
マークス | ……! |
??? | …………。 |
マークス | マスター、俺の後ろに。 |
マークスが見据える先には、
厳しい眼差しでこちらを睨んでいる男がいた。
彼はゆったりと近づいてくると、仏頂面で口を開く。
テオドール | 当家へようこそ、イギリスからのお客人。 私は、レザール家の次男、 テオドール・ド・レザールだ。 |
---|---|
マークス | レザールって……この屋敷に住んでる貴族か。 |
テオドール | いかにも。 今宵は急ごしらえのささやかな宴だが、楽しまれよ。 |
テオドール | 要件は以上だ。失礼する。 |
マークス | …………。 |
マークス | ……はぁ? 今のが歓迎の挨拶? マスターを睨んでなかったか? なんだあの、ブスッとした態度は! |
ジョージ | ……それ、マークスが言うんだ。 |
マークス | あ? なんか言ったか。 |
主人公 | 【マークス、落ち着こう】 【たぶん、ああいう顔なんだよ】 |
マークス | チッ……失礼な顔の野郎だ。 |
ジョージ | なーなー、それよりもさ! これからなんか始まるって。 あっちのステージの方に行こうぜ! 〇〇! |
マークス | ちょ……ジョージ! マスターを勝手に連れていくな! 待てー! |
司会 | ──皆様、本日はレザール家主催の夜会に お集まりいただき、誠にありがとうございます! |
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司会 | 今宵は、フィルクレヴァート連合士官学校より、 特別なお客様をお迎えしております。 早速ご紹介いたしましょう! |
司会 | まずは……マスター、〇〇様! |
司会 | そしてイギリスの名銃、 ブラウン・ベス・マスケットから 目覚めた貴銃士──ジョージ様! |
女性1 | ジョージ様……ああ、本当に素敵なお姿ね……! |
女性2 | こうやってお会いできるなんて、夢のようだわ……! |
ジョージ | Thank you! 歓迎してもらえて嬉しいよ! |
マークス | フン……俺は歓迎されても嬉しくないけどな……。 |
司会 | そして……イギリスの現代銃、 UL96A1の貴銃士、マークス様。 |
女性1・女性2 | …………。 |
ジョージの時とは打って変わって、
人々は静まり返り──
パラパラとまばらな拍手が起きるのみだった。
マークス | ……いや、なんでだ! |
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ジョージ | うっわー、あからさまだなぁ。 もしかしてマークス、何かやらかした? |
マークス | 何もしてない! |
ジョージ | ええっ!? オレたちの歓迎パーティーのはずなのになぁ…… なんでみんな冷たいんだ……? |
マークス | …………。 |
司会 | 今宵のゲストは、 フィルクレヴァートの御三方だけではありません。 |
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司会 | 続きまして、 我らがフランスのゲストをご紹介いたします! |
司会 | リリエンフェルト公爵家よりお越しいただきました、 貴銃士シャルルヴィル様! |
シャルルヴィルの名前が呼ばれた途端、
会場にはひときわ大きな拍手が鳴り響く。
ジョージ | あ! シャルルじゃないか! シャルルは人気者なんだなぁ~! |
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シャルルヴィル | Bonjour♪ 皆さんと楽しい時間を過ごせると嬉しいな。 |
女性1 | ああ、シャルルヴィル様……。 白百合のように清廉で麗しいお姿だわ……。 |
女性2 | 流石はフランスの貴銃士ですわね。 溢れ出る気品、高貴でお優しい眼差し…… お姿を見ているだけで心洗われるようですね。 |
女性3 | ああ、あまりの眩しさに、 わたくし……くらくらいたしますわ~! |
マークス | うわ……。 |
司会 | 続きまして、今宵の宴を主催するレザール侯爵家より、 マスターであるテオドール・ド・レザール様! |
マークス | ……あいつ、貴銃士のマスターだったのか。 |
司会 | 並びに、古銃の貴銃士、 シャスポー様、タバティエール様! |
タバティエール | はは、どうも……。 |
シャスポー | 麗しの蝶々たち……今宵の素晴らしい時間を あなた方と過ごせるなんて、僕は幸運だな。 |
シャスポー | 楽しい時間はきっとあっという間に感じるだろうけど、 記憶に残る一夜にしようね♥ |
女性1 | きゃあ……! シャスポー様ぁ……! |
女性2 | シャスポー様が、私の方を見て微笑んで……! はぁ……っ! |
ジョージ | うわっ、女の人が倒れたぞ!? |
主人公 | 【でも、大丈夫そう】 【感極まっただけみたい】 |
マークス | フランスの奴らは、わけがわからないな……。 |
マークス | なぁ、マスター。美味そうなメシだけ食ったら、 さっさと連合軍のフランス支部に行こう。 |
??? | ──せっかくレザール家に来たっていうのに、 それはいただけないなぁ。 |
ジョージ | えーっと、おまえは……。 |
シャスポー | Bonsoir、新たなマスターとその貴銃士たち。 はるばるイギリスからようこそ。 |
シャスポー | 僕はシャスポー。 フランス生まれの後装式ボルトアクションライフルさ。 |
ジョージ | そうそう、シャスポーだ! |
シャスポー | プロイセンのドライゼを参考に作られたんだけど、 性能はあいつよりずっとずっといい。 |
シャスポー | 当時の戦場の覇者にふさわしい実力を備えた、 フランスが誇る、古銃の最高峰の銃なんだよ。 |
シャスポー | ところで…… 君が連れている貴銃士の片方は、現代銃みたいだね? |
主人公 | 【UL96A1、愛称はマークスです】 【現代銃ですが、それが何か……?】 |
シャスポー | 僕は君のためを思って、助言に来たんだ。 |
シャスポー | ──現代銃なんて連れていると、 君の品格まで落ちてしまうよ?ってね。 |
マークス | ……なんだと? |
シャスポー | おや、野蛮な現代銃というのは、 歴史すら満足に知らないのかな? |
シャスポー | ここフランスは、先の革命戦争で、 密かにレジスタンスを支援した国の筆頭だ。 |
シャスポー | 世界帝軍に与した現代銃を、 フランスの人々が歓迎するはずないだろう? |
シャスポー | フランスでは、レジスタンスの英雄である 古銃の貴銃士たちこそが高貴で敬うべき存在であり、 現代銃は忌避すべき存在なんだよ。 |
ジョージ | でも、マークスは何も悪いことしてないだろ? 現代銃だからってだけで、 この国の人たちは、あんな風に冷たくするのか……? |
シャスポー | そうだよ。 この国では、そういう文化ができあがっている。 |
シャスポー | 君の性能や性格がどんなに良くても関係ない。 現代銃であるという一点だけで、忌み嫌われる。 |
シャスポー | ……だから、フランスにいる間平穏に過ごしたいなら、 賢い振る舞いをすることだね。 |
シャスポー | でないと君も、彼女みたいになってしまうよ? |
主人公 | 【どういうこと?】 【彼女って?】 |
??? | …………。 |
司会 | 最後のゲストがいらっしゃったようです。 |
司会 | ロシニョル侯爵家のご令嬢、 カトリーヌ・ド・ロシニョル様と── |
司会 | その貴銃士、現代銃のグラース様。 |
カトリーヌ | …………。 |
グラース | …………。 |
紹介を受けた年若い女性は、
明らかに歓迎されていないとわかるまばらな拍手の中、
気丈に顔を上げている。
そのとなりに並んでいる貴銃士グラースは、
浮かない顔で、心配そうに彼女を見ていた。
男性1 | よくもまぁ、 レザール家主催の夜会に顔を出せたものだな。 |
---|---|
女性1 | あんなことをしておいて……。 おまけに、例の現代銃を連れて パーティーに参加するなんて……。 |
男性2 | お静かに。相手は腐っても革命戦争を支援した名家。 滅多なことを言うものではありませんぞ。 |
ジョージ | ……酷いな。パーティーってもっと、こう、 楽しいところだと思ってたのに……。 |
シャスポー | ま、色々とあってね。 |
マークス | あの貴銃士、あんたにそっくりじゃないか。 なのにここまで扱いが変わるのか? |
シャスポー | あれはグラース。僕──シャスポー銃を、 金属薬莢対応に改良した銃で、僕の弟だね。 そっくりなのは当然だよ。 |
シャスポー | 彼も同じくフランス生まれだし、 見た目はそっくりなんだけど──現代銃なんだ。 だから、仕方ないんだよ。 |
シャスポー | 〇〇さん、だっけ? これで君もわかったでしょ? 現代銃とは距離を置く方が身のためだってね。 |
マークス | ……なんか、胸糞悪い奴らだな。 |
---|---|
ジョージ | オレも同感。 |
マークス | ……なぁ、マスター。 俺はマスターのそばにいたい。 だけど、俺がそばにいたら迷惑になるか? |
マークス | マスターを守れる範囲内のちょっと離れた位置にいて、 マスターが変な目で見られないようにするか……? |
主人公 | 【迷惑なんかじゃない】 【離れる必要なんてない】 |
マークス | 本当か!? なら、よかった……! |
司会 | ──ゲストがお揃いになったところで、 レザール家当主より、皆様にご挨拶がございます。 |
レザール侯爵 | 本日は急な宴にも関わらず、お集まりいただきまして ご来賓の皆々様には大変感謝しております。 |
レザール侯爵 | どうぞ心行くまで、 楽しい夜をお過ごしください。 |
レザール侯爵 | それでは……乾杯! |
一同 | 乾杯! |
シャルルヴィル | やっほー、久しぶりだね。 〇〇、ジョージ! それにマークス! |
マークス | ……ああ、あんたか。 |
シャルルヴィル | ええっ。それだけ!? せっかくの再会だってのに、つれないなぁ~! |
ジョージ | オレは会いたかったぜ、シャルル! 元気だったか~? |
シャルルヴィル | ジョージ! もちろん、元気だったよ。 君たちにまた会えて嬉しいな。 今日はたくさんお喋りしようね♪ |
マークス | ……そうもいかないんじゃないのか? さっきから、派手派手しい奴らがあんたのこと見てる。 |
シャルルヴィル | えっ……? |
女性1 | シャルルヴィル様がこちらをご覧になったわ! |
女性2 | あのっ、シャルルヴィル様……! 私とお話してくださいませんか……? |
女性3 | まぁ、抜け駆けはよくなくてよ? シャルルヴィル様、“私たちと”お話しましょう♪ |
シャルルヴィル | あ……っと、ごめん、ちょっと行ってくるね。 すぐ戻るから、またあとで! |
シャルルヴィルの周りには、あっという間に人だかりができて、
姿が見えなくなってしまった。
ジョージ | うっへぇ……シャルルは大変そうだな……。 |
---|---|
マークス | おい、ジョージ。 あんたも呑気にしてられないみたいだぞ。 |
ジョージ | へ? |
マークス | 見ろ。また狙われてる。 |
男性1 | ジョージ様! 私にもぜひお話しする機会を! |
男性2 | ぜひともジョージ様のことをお聞かせください! ささ、こちらへ……! |
ジョージ | え、ああ、うん……? |
マークス | …………。 |
マークス | よし、静かになったな。 マスター、腹が減っただろう? 何か食おう。 |
マークス | なんなのかはわからないが、 これなんかはすごく……いい匂いがする。 俺が毒見をするから、マスターも食べてみてくれ。 |
主人公 | 【いい匂いだね】 【美味しそう】 |
マークス | む……この白いペーストもよくわからないが 美味い……! |
マークス | ポテト……? 信じられないな…… この白いペーストがポテト、か……。 |
マークス | よし、これも毒見完了だ。 他にはこれと……あの肉と、この肉と…… 魚……はいらないな……あとは── |
マークス | しかし……フランスの奴らは本当に理解に苦しむな。 現代銃は避けるくせに、あの無愛想で失礼な テオドールとかいう奴には尻尾振りやがって……。 |
---|
マークスの視線の先には、招待客に囲まれている
テオドールとシャスポーの姿があった。
マークス | そういや、もう1人の奴……タバティエール、だっけ? あいつはどこに行ったんだ? |
---|---|
ジョージ | ふぅ~、ただいまー。モテモテで疲れたなぁ。 ん? マークス、誰か探してるのか? |
マークス | タバティエールって奴が見当たらないんだ。 |
ジョージ | それなら、あっちの奥にいるぞ。ほら! |
ジョージが指さした方を見てみると、
どこか遠い目をして、静かにグラスを傾けている
タバティエールの姿があった。
タバティエール | …………。 |
---|---|
マークス | ……あいつは、あのムカつくシャスポーとは、 ずいぶん雰囲気が違うみたいだな。 |
ジョージ | ぼーっとしてるみたいだけど、どこ見てるんだ? |
マークス | さぁな。別にどうでもいい。 |
ジョージ | マークスもたまには、 〇〇以外に関心持とうぜ!? |
マークス | はぁ……。 |
マークス | たぶん、あの2人の方を見てる。 ロシニョル家ってのと、グラース。 あいつらの周りは人がいないから、割とわかりやすい。 |
ジョージ | おおっ、さっすがスナイパー! 目がいいな~! |
ジョージ | って、あの2人……なんか暗いなぁ……。 |
大勢の招待客で賑わう会場の中で、
カトリーヌとグラースの周囲だけは全く人影がなく、
2人は明らかに孤立していた。
グラース | ほら、マスター。 せっかくだから、少しは食べたらどう? |
---|---|
グラース | マドレーヌもマカロンも美味しそうだよ。 |
カトリーヌ | ……そうね。 ありがとう、いただくわ。 |
女性1 | ……まあ、ご覧になって。 “ロシニョル家”がマカロンを手にしましたわ。 |
女性2 | あら、嫌だ。 あのテーブルのものは、口にしない方がよさそうね。 |
女性1 | ええ、毒でも入っていたら困りますもの。 |
カトリーヌ | ……っ! |
嘲るような囁きが届いたのか、
硬直したカトリーヌの指先から、
マカロンがころりと落ちる。
グラース | マスター……! |
---|---|
グラース | くっ……! お前ら……! |
マスターであるカトリーヌへの仕打ちに、
グラースが激昂しそうになった時──
タバティエール | ──まぁまぁ、落ち着けって。な? |
---|---|
グラース | んぐっ!? |
タバティエールが割って入ったかと思うと、
グラースの口にマドレーヌを突っ込んで、
強制的に言葉を遮った。
タバティエール | ……ここでお前が声を荒げたり手を出したりしたら、 それこそカトリーヌちゃんの立場が悪くなる。 |
---|---|
タバティエール | だから、落ち着け。 |
グラース | 僕に触るな。 ……お前に言われなくても、それくらいわかってる。 |
タバティエール | はいはい、余計なお世話で悪かったな。 |
グラース | ……ふん。 |
マークス | 揉めてるみたいだな。 |
---|---|
ジョージ | なんか心配だな……。 様子見に行ってみないか? |
ジョージの提案に、
〇〇が頷こうとした時──
カトリーヌ | う、ぅ……。 |
---|
カトリーヌが、その場へくずおれる。
顔色は真っ青で、ほとんど意識もないようだ。
グラース | ……っ、マスター! |
---|---|
主人公 | 【大変だ!】 【救護しないと!】 |
シャスポー | その必要はないよ。 |
マークス | おい、気安くマスターに触んな。 |
ジョージ | 必要ないって、なんでだよ!? 倒れてる人は助けないとダメだろ!? |
シャスポー | ロシニョル家のご息女は、元々体が弱いんだ。 倒れることも珍しくないと聞いているから、 君たちがどうこうすることはない。 |
シャスポー | 対処なら、あの現代銃が心得ているはずだからね。 |
マークス | (“あの現代銃”…… 現代銃は、名前すら呼びたくねぇってことか……?) |
マークス | ……おい、いいかげんマスターから手を離せ。 |
シャスポー | いたた……ちょっと君、乱暴だよ。 |
主人公 | 【大丈夫ですか?】 【すみません】 |
シャスポー | 気にしないで。 僕の方も、不躾に君の手を掴んでしまったからね。 |
シャスポー | はぁ……場が白けてしまったなぁ。 明るいワルツを奏でるよう、楽団に言ってくるよ。 |
グラース | マスター、向こうのソファで休もう。 僕に掴まって……。 |
カトリーヌ | ……ごめんなさい。あなたにも迷惑をかけて……。 |
グラース | マスターが謝る必要なんて、どこにもないんだよ。 ほら、楽にしていて。 |
テオドール | …………。 |
マークス | マスター、何を見てるんだ? |
主人公 | 【テオドールさんが……】 【カトリーヌさんとグラースを睨んでる……?】 |
マークス | あいつ……本当に嫌な奴だな。 なんでもかんでも睨まねぇと気が済まないのかよ。 俺が夜中にこっそり撃ってやろうか? |
ジョージ | ……なぁ、〇〇。 |
ジョージ | あの女の人、マスターだから……薔薇の傷が ひどいんじゃないかなぁって思うんだ。 |
ジョージ | オレ、絶対高貴で力になれるか、試してみたい。 ……いいか? |
主人公 | 【わかった】 【行っておいで】 |
ジョージ | おう! |
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