【破魔矢に込める願い】十手

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解説

カード解説

日々健やかに過ごせることへの感謝と、望む未来の幸せを願って。
あけまして、おめでとうございます。

心銃解説:筆の海 泳ぎきれれば 華も咲く

夢を、想いを募らせ、繰り返す言葉の戦。綴られるは偽りの物語。
されども浮世を彩る言葉は、愛の叙情詩となり彼方の心に刻み込む。
……うむ。よく書けたぞう!

カードストーリー

主人公名:〇〇
主人公の一人称:自分

 

Ep1. 八九先生のラノベ講座

邑田と在坂からの独立資金稼ぎをしたい八九と、
超高級盆栽の購入資金が欲しい十手。
彼らは夢の印税生活を目指し、ラノベを書くことにしたのだが……

十手で、らいとのべる……ってどうやって書くんだい?
八九いきなり核心突くじゃねーか。
そうだな、あー……。
八九……まずは、原稿用紙を開く、と。
十手八九君! 真面目に教えてくれよぉ。
読んだこともないものをいきなり書くなんて、
できるわけないじゃないか。
八九あー、そっか、十手はそもそもラノベを知らねぇもんな。
それなら……待ってろ、俺のオススメ持ってくる。

八九ほら、『八九式ラノベセレクション』だ。
ハチラノと呼んでいいぞ。
十手は、ハチラノ……? すごい量じゃないか!
でも、どれも表紙が煌びやかでいいねぇ。
八九おう。まずラノベってジャンルの説明からするか。
最近流行り出した新しい小説の形式でさ。
まぁなんつーか読みやすくて、若い層に人気なんだわ。
八九内容はいくつか人気路線があるんだけど、
まずは魔法チート系だな。
主人公がくそ強い魔法を使って無双するやつ。
八九あ、チートっつってもせっかくのゲームを台無しにしやがる
クソチーターどものことじゃなくって、
この場合は「スゲー強い特別感」くらいの意味で使われてる。
十手(むそー……? ちーたー……?)
八九最強の魔法でドラゴンとか魔王とかを倒したりするのが人気だ。
変わり種では魔法を使ってのんびり暮らすスローライフものとか、
内政ものとかもあるけど、俺はやっぱバトルを推したい。
十手おお、ドラゴンや魔法は西洋文化史の授業で出てきたな。
すろーらいふ……というのは、隠居生活みたいなもんかな。
八九──で、これが今、俺がハマってるジャンル。
異世界転生モノだ。
十手い、異世界……?
転生っていうと、仏教の話なのかい?
八九異世界っつーのは、魔法がフツーにあるファンタジー世界だ。
中世だか近世だかのヨーロッパっぽい世界に
ドラゴンや魔王や聖女やエルフ、獣人とかがいて……。
八九そういう世界にごく普通の現代人が転生すんだよ。
よくあるのが、主人公がトラックに轢かれて……。
十手ええ!? 死んじゃうじゃないか!
八九それで転生すんだって。
チート能力と前世の知識で、異世界で最強になっていく主人公。
圧倒的に俺だけ強い、それが異世界転生モノのラノベだ!
十手ふむふむ……?
突拍子もない設定だけど、それがいいのかなぁ……?
八九だろ!?
根強く人気がある要素は、ハーレムだ。
十手はぁれむ……?
八九あー、ほら、大奥的な?
男主人公1人に、ヒロインたくさんのやつ。
いろんなタイプのヒロインが出せるから、読者を掴みやすい。
八九それに、やっぱ……夢がある感じするんじゃねーの?
幼馴染やら王女やら女騎士、いろんなタイプに慕われんのってさ。
ま、描き方が雑で、なんで好かれてんのか謎だと今時キツイけど。
十手ふむふむ……。
たとえば、「将軍」という肩書でなく、
人柄や生き様で女人に好かれる色男を描くべしということだね。
八九おう、そんな感じだ。
ほら、とにかく読んでみろ!
十手了解!
夢の印税生活への第一歩と行くぞぅ!

──数日後。

十手……うっ……ぐ……。
…………っ!!!
八九よう、十手。
どうだ、読んでみたか──って……?
十手くうっ……! ジョンソン次郎丸……!
ここで妹だったと知るなんて……!
なんて切ない真実なんだぁ……!!
八九あ!
もしかして『義理ギリ兄妹の裏表生活』読んだのか!?
そこ泣けるよなぁ~!
十手ああ、久々に大泣きしてしまったよ……。
はぁ……素晴らしい本をありがとう、八九君。
八九おう。ハマったやつあったか?
十手そうだねぇ……『異世界の崩壊を最強チート魔法で救った件』
もよかったけど、一番のお気に入りはこれだよ。
『平凡勇者の異世界冒険録』シリーズ!
八九お、俺もそれイチ押しなんだよ!
十手本当かい!?
この主人公が平凡な青年というのがオツだねぇ。
自信なさげなところも、思わず感情移入してしまうというか。
十手20冊近くもあるのに一気に読んでしまったよ。
特にこの12巻からの古代迷宮攻略編なんか、最高だ。
八九そこな……!
ごく平凡な主人公なのに、攻略隊に志願することになってさ。
そこのアワアワ感としっかり活躍してくれる期待通り感がいい。
十手うんうん、そうなんだよ!
今までの冒険で出会った仲間との思わぬ再会もよかったね。
偉ぶらない主人公の態度が、人を惹きつけるんだなぁ。
八九チート系も人気なんだけどよ、平凡主人公系も人気あるんだぜ。
生まれも育ちもエリート!イケメン!チート!みたいなのより、
読者が親近感を抱きやすい、等身大感がいいんだろうな。
八九それに、俺ら的にも書きやすそうだよな。
十手なるほどねぇ……うん。その通りだ。
俺は派手な方ではないし、
銃の性能でも最強には程遠いし……。
八九や、お前は歴史あるしよ。
同心が使ってた十手ってだけでキャラ立ち十分だろ。
俺なんか、邑田の茶汲み係だぜ……。
十手いやいや。
八九君はいろんなことを知っているし──
十手&八九……はは……。
八九……なんか、虚しいな……。
十手そうだね……。
八九よ、よし!
じゃあ設定とか考えようぜ。学園モノとかどうだ?
ハーレムとの相性もいいし。
十手いいじゃないか、学園モノならイメージがつきやすい。
あとは、俺たちの日常の知識が活かせるような設定もいいなぁ。
よーし、燃えてきたぞぅ!

Ep2. 取材をしよう!

夢の印税生活を目指してラノベを書くことにした八九と十手だが、
早速、とある問題に直面していた。

八九なぁ……女子ってこれで合ってんのか……?
十手さ、さぁ……?
あんまり力になれなくてすまない、八九君……。
八九クソ……女子の言動がよくわかんねぇ。
魅力的なヒロインの有無は人気の有無に直結するってのに……!
十手うーん……小説執筆の指南書を見てみよう。
ふむ。『現実味のある小説のためには取材が大事』とあるね。
八九取材って……え、現実の……その、
じょ……女子と……え? そういうこと……?
十手よーし!
士官学校内の女生徒を取材してみることにするよ。
八九君も来るかい?
八九俺はいい。頑張れ。
十手あ、ああ……。

十手……とは言ったものの、いざ話しかけるとなると緊張するな。
ええっと、とりあえず話を聞いてくれそうな子は……?
グラースん……。
あれ、十手じゃねぇか。何してんだ──
グラースって、へぇ……?
案外おもしろいオモチャかもな。
十手うーん、あの子かな……むむ、まずは行動をよく観察して……。
グラースおい、十手。
十手う、うわぁ!
グラース君、驚かせないでくれよ!
グラースなぁ、もしかしてあの子に気があるのか?
十手え……?
グラースさっきから目で追ってるのがバレバレだぜ?
あの子に不審がられる前に、
僕が『グラース流口説き落とし術』を教えてやるよ。
十手待ってくれ、く、口説き落とし……!?
あの……今のはそういうわけじゃなくて……。
グラースまぁ、遠慮するなよ。行動あるのみだ。
そんなんじゃモテねぇぞ?
十手だから、本当にそんなんじゃ……。
十手(いや、しかし……グラース君は華やかで、
女人への接し方を心得ていそうだ……!
話しかけ方の助言をもらえるのは有難い、か……?)
グラースいいか、いきなり話しかけるのは素人だ。
まずは……視線で誘惑する。
十手なるほど、視線で……!
グラースふふん、メモを取るとは熱心な生徒だな。
そして、目が合ったら……もう、僕の虜ってワケ。
十手本当かい!?
目が合っただけで!?
グラースああ。向こうが頬を赤らめたら、話しかけに行く合図だ。
近づいて、大げさなくらい、ちょっとわざとらしく褒める。
『キミ、可愛いね。すみれの花の妖精さんかと思ったよ』とかね。
グラースそうすると、基本的に最初は真に受けられない。
『お上手ね』とか、『そんなこと言って』とか、
笑って受け流される。
十手ええっ……それでいいのかい?
グラースいや、ここからが本番だ。相手がくすっと笑って
警戒心が緩んだら、すかさず真面目な顔になる。
そして、口説きにかかるんだ。
グラース『キミのことを、可愛くて素敵だと思ったのは本当だよ』ってね。
そっと手を取ったら、2人だけの場所へ……。
唇を撫で、重ねる……mission accomplie?
十手そんな……俺にはそんなことできないよ……!
グラースいいからやってみろ、ほら!
十手え? う、うわぁっ!

グラースに背中を押された十手は、体勢を崩して転倒した。

十手あいてて……しまったなぁ……。
女子生徒あの……大丈夫ですか……?

十手が顔を上げると、先ほどの女子生徒が手を差し伸べていた。

十手ああ、すまない……! 助かったよ。
えぇっと、その……。
十手(どうしよう、グラース君……助けてくれ……)

十手が助けを求めてグラースを見ると、
グラースは勝ち誇った顔で「いけいけ!」と
ジェスチャーで追い立ててくる。

十手(ええ、そんなぁ……えーい、ままよ!)
十手か、感謝申し上げる! か、か、可憐なお嬢さん!
女子生徒まぁ、そんな、可憐だなんて……。
十手ええっと、次は……。
そうだ、その、あちらで少しお話しませんか!
女子生徒ええ、もちろん。
十手(おお、すごい!
ちゃんと話を聞いてもらえたぞ……! さすがはグラース君だ!)

八九はー……十手のやつ、取材っつって何時間経つんだよ。
なかなか帰ってこねぇなぁ……。
十手ただいま、八九君!
八九お、やっと帰ってきた。
どうだったよ、取材は?
十手うん、学生さんと交流できて楽しかったよ!
流行の本を教えてもらったし、
俺もラノベを読んだばかりだったから、話が弾んでねぇ……!
八九へぇ……やるじゃねぇか。
で、ヒロインたちの参考になりそうか?
十手……あ。
十手すまない、取材のことをすっかり忘れていたよ……。
八九そーいうオチかいっ!

Ep3. 十手先生の赤ペン講座

八九との共作で人気ラノベ『地味俺』を執筆した十手は、
夢の印税生活こそは送れなかったものの、
その後も士官学校の新聞部で創作活動を続けていた。

ライク・ツー十手のおっさん、最近なんかやけに楽しそうだな。
十手やあ、ライク・ツー君!
いやぁ、すっかり文筆活動の虜になってしまってねぇ。
十手新聞部に入部して、
校内新聞で連載小説を書かせてもらってるんだ。
やはり〆切があると背筋が伸びるというか、張り合いがあるよ。
ライク・ツーふーん。
ま、俺は興味ねぇけど……。
ライク・ツー……第3話で出てきた謎の組織の正体とか、
マジで興味ねぇから……。
主人公の意味深なセリフとかも気になってねぇし。
主人公【自分は気になる!】
【今月のも面白かった!】
十手〇〇君!
ありがとう、その一言がどんなに励みになるか。
十手ライク・ツー君もああして励ましてくれるし、
書き手冥利に尽きるね。
読者の感想が、何より物書きの滋養だよ。
恭遠おーい、十手はいるか?
十手恭遠教官!
何かあったのかい……?
恭遠十手……!
ありがとう、本当に感謝するよ!
十手んん……?
何か感謝されるようなことをしたかな……。
恭遠ああ、すまない……説明が足りなかったな。
実は、十手のおかげで
マークスが国語の授業を熱心に受け始めたんだ!
十手マークス君が国語の授業を……。
たしかに今までは興味なさそうだったけれど、
それが俺のおかげ……?
恭遠そうなんだ。
十手が校内新聞で連載している小説があるだろう。
それで──
マークスくそ……最近、マスターは校内新聞を楽しみにしている。
十手の小説をいつもマスターは褒めている……!
マークス物語を書くことでマスターに褒められるなら、俺も書く。
俺も十手を超える作品を書いて、マスターに楽しんでもらう……!
マークス恭遠、国語の補習をしてくれ!
恭遠な、なん……だと……!
恭遠……というわけなんだ。
恭遠その後もマークスは熱心に国語の授業を受けているし、
授業後には質問にも来るようになったんだ。
あのマークスが……と、感慨深いよ。
恭遠これもすべて十手のおかげだ。
本当にありがとう。
十手そ、そんな……。
でも、俺の作品が少しでも役に立ったなら嬉しいなぁ……。
エンフィールドお話し中、失礼します!
エンフィールド僕も十手さんにならって新作の詩を書いてみました。
我がイギリスにおいて詩作は歴史と伝統あるジャンルですからね。
さぁ、ぜひ読んでください! マスター!
マークスおい、抜け駆けするな!
俺はマスターが出てくる物語を書いたんだ。
マークス最強のマスターが大活躍して、俺のことを褒めてくれる。
……そんな物語だ。すでに53章まで書いてある。
読んでみてくれ、マスター!
主人公【ちょっと落ち着いて……!】
→恭遠「驚いたな……。
十手の作品の影響力はすさまじい。
作家として、少し指南してあげたらどうだ?」

【助けて、十手先生!】

→十手「大丈夫かい、〇〇君!
紙っていうのは案外重いからね、それにこの量だし……。」
十手「よ、こら、しょ……っと。
これを……こっちの机に……!」
十手「ふぅ、これで大丈夫だ。
というか、〇〇君……その、先生ってのは照れるよ。」
恭遠「しかし、驚いたな。
貴銃士特別クラスで創作活動が流行り始めるとは……。
十手、先輩作家として、少し指南してあげたらどうだ?」
十手え、俺が……?
うーん……、そうだなぁ。
十手ちょっと見せてもらってもいいかい、2人とも。
十手ふむふむ……なるほど……。

十手は、2人の作品に目を通していく。
マークスとエンフィールドは、
その様子を少し落ち着かない表情で見守った。

エンフィールドど、どうでした……?
十手詩歌のことは素人なんだけど、
音読したときのリズムが心地いいねぇ。
きっちりとした韻がエンフィールド君らしいというか。
エンフィールドああ……! そこは、こだわったポイントなんです。
わかってくださって光栄ですよ!
十手ただ、こことここ……少し持って回った表現すぎて、
せっかくのジョージ君の勇姿が伝わりづらいかもしれないね。
ここを少し削って、この単語とこの単語を入れ替えると……。
エンフィールドはっ……! 素晴らしいです。
ジョージ師匠らしい軽やかで明るいリズムが生まれました!
十手先生、ありがとうございます!
十手どういたしまして。
マークス君の小説なんだけれど……。
十手〇〇君が、最強で心優しい
完全無欠の主人公という設定がすごくよく活かされているよ。
特に、マークス君との出会いのシーンがじーんとくるなぁ。
十手〇〇君の魅力に、
みるみる引き込まれてしまう良作だね!
マークスほ、本当か!
マスターがモデルだから当然だが……。
恭遠モデルというか、本人のようだが……。
十手ただ、話の展開で、勝利が少しあっさりしている印象もあるね。
〇〇君の強さや聡明さを表現するなら、
あえて一度「負けそう」と読者に思わせておくのはどうだい?
十手敵が奥の手を隠していたため味方が驚く!
あわや大ピンチに陥ってしまう……と思いきや、
それすらも〇〇君がお見通しだったという展開だね。
十手あっさり勝利するよりも敵の卑劣さも際立つし、
その後に敵に手を差し伸べる〇〇君の
心の高潔さも引き立つと思うんだが……どうかな?
マークスなるほど、そうか……!
あんたのことを見くびっていたかもしれない。
十手、修正と続きの執筆をするから、またアドバイスをくれ!
エンフィールド僕もお願いします、十手先生!
十手ああ、もちろんだよ。
でも「先生」ってのは、くすぐったいからやめてほしいなぁ……。
恭遠…………。
十手む……? 恭遠教官?
恭遠素晴らしい……! 褒めるべきところはきちんと褒めて、
指摘するべきところは的確で手短に、
わかりやすく納得感のある伝え方をしている……!
恭遠十手、俺の助手になってくれ!
十手ええ、恭遠教官!?
あの、そんなにがっしり手を握らなくても……!
主人公【素晴らしい助手ができましたね、恭遠教官】
【さすが十手先生!】
十手〇〇君まで……!

──それから間もなくして、
校内新聞に新たな人気コーナー、
「十手先生の赤ペン講座」が誕生したのだった。

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