フランス編:第21話~第25話

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第21話:パリジェンヌの思惑1

シャルルヴィルう……うぅ……っ!
シャルルヴィルま、て……待って……っ!
う……っ。

ブラウン・ベス…………。
シャルルヴィルベスくん、何してるのさ!
シャルルヴィル君が兵士を撃つなんて……!
どうして……!?
シャルルヴィル待って、どこ行くんだよ。
シャルルヴィルベスくん……待って、待ってよ!
──ベスくんッ!

シャルルヴィル……うわあああっ!
シャルルヴィル……はぁ、はぁ、
…………っ。
シャルルヴィルまた、この夢か……。

──フランス滞在4日目。
〇〇とマークスは、次々と現れる
アウトレイジャーを前に、苦戦を強いられていた。

アウトレイジャー殺、シテ、ヤル……!
マークスぐッ……!!
主人公【マークス!】
【血が……!】
マークスわき腹をかすっただけだ。これくらいなんてことない!
マークス一気に片付けるぞ。
──心銃!
アウトレイジャーたちギャァァァ……!
マークスハァ……ハァ……ッ……。
マークス……アウトレイジャーの沈黙を確認。
マスター、傷を見せてくれ。
主人公【マークスの傷を先に見せて】
【早く治療をしよう】
マークス俺のことはいいんだ。
これくらい、包帯を巻いておけば血も止まる。
……マスターに、これ以上負担を掛けたくない。
マークス(俺が絶対高貴になれれば……っ。
くそ……ジョージの野郎は、まだ戻らないのかよ!)
無線『報告します!
パリ中心部にアウトレイジャー出現!』
無線『現在、ロシニョル侯爵邸付近にて、
連合軍とアウトレイジャーが交戦中!
付近にいる隊は、至急応援願います!』
指揮官なっ……! 侯爵邸付近だと!?
総員、ロシニョル侯爵邸へ急行するぞ!
兵士たちはっ!

兵士1パリのど真ん中にまで被害が広がるなんて、
フランスは一体どうなってるんだ……!?
兵士2俺、呪いだとか非科学的なものは信じてなかったけど、
最近はちょっと思うんだ。世界帝派の怨念が、
フランスに災厄を呼び寄せてるんじゃないかって……。
兵士3んなわけないだろ。
でも、フランスの状況は、他国と比べて異常だ。
何かしら原因はあるに違いない。
マークスロシニョル家のそばか……。
あいつ……グラースが、少しは戦いに出てるだろうか。
マークスいや……でも、あいつのマスターは貧弱だし、
静観してる可能性も十分にあるな。
あまり期待しない方がいいか……。
無線『──報告します。
ロシニョル侯爵邸付近に出現したアウトレイジャーは、
グラース様が鎮圧! 被害は軽微です』
無線『当隊は引き続き、周辺の警戒を行い、
逃れたアウトレイジャーがいないか捜索を行います』
兵士2連戦にならなくて助かったぜ……。
主人公【グラースは大丈夫だろうか】
【……カトリーヌさんが心配だ】
マークス……マスター、気になるのか?
それなら、様子を見に行こう。

マークスん……? 意外と静かなもんだな。
軍の奴らは、もう帰ったのか。

到着したロシニョル侯爵邸は、
アウトレイジャーの襲撃があったのが嘘のように、
いつも通りの様子だった。

メイド1あら……?
〇〇様にマークス様ではありませんか!
マークスあんたは、この前の……。

〇〇とマークスを出迎えてくれたのは、
先日カトリーヌについていろいろと教えてくれた
メイドたちのうちの1人だった。

メイド1今日はどうなさったのですか?
もしや、襲撃犯の一件で、
様子を見にきてくださったとか……?
マークスああ。この近くで襲撃犯が出たと聞いた。
グラースが殲滅したらしいな。
メイド1ええ。グラース様のおかげで、
人にも建物にも被害は出ておりません。
メイド1不思議な力で、あっという間に
襲撃犯を倒してくださったんです。
メイド1何か、得体のしれない、恐ろしく禍々しい力でしたが、
本当にお強くて……。
主人公【カトリーヌさんは無事ですか?】
【寝込んだりしてはいませんか?】
メイド1ええ、ちょうど今、
ご様子を窺ってきたところです。
お嬢様はご無事でいらっしゃいます。
メイド1それに、ジョージ様の高貴なるお力に触れて以来、
体調も割と安定しているようです。
皆様には、なんとお礼を申し上げたらいいか……!
マークスんん……?
マークス……マスター、どう思う?
主人公【薔薇の傷が悪化していない?】
【ジョージが治したから……?】
マークスどちらにしても、直接様子を見ておきたいな。
もし本当にピンピンしてるなら、
グラースを遠慮なく前線に引っ張り出せる。
マークスおい、邪魔するぞ。
部屋の場所はわかってるから、案内はいらない。
メイド1は、はいっ、ごゆっくり……。

第22話:パリジェンヌの思惑2

マークス……なぁ、マスター。
上手く言えないんだが……俺、フランスに来てから
なんだかずっともやもやしてるんだ。
マークス何か、常に違和感がまとわりついてて……。
マークスどいつもこいつも、顔と、思ってることと、
やってることと、全部バラバラな感じで、
何を信じたらいいのかもわからない。
マークスおまけに、まだジョージは戻ってこないし……。
任務なんかよりマスターのほうがずっと大事なんだから、
さっさと士官学校に戻りたい。
主人公【それはできないよ】
【責任があるから】
マークス……マスターは、ん……と、
…………頑固だ。
マークス……ん? あれは──

マークスの視線の先を見ると、
ロシニョル家の庭を歩くグラースの姿があった。
足取りは軽く、口元には笑みが浮かんでいる。

グラース~~~♪
マークスあいつ……討伐の帰り、だよな……。
ずいぶん余裕そうじゃねーか。
マークス絶対非道を使ってマスターを傷つけておいて、
あんなに呑気にしていられるなんて……。
マークスやっぱり、あいつは戦闘になると
性格が変わるタイプなのか……?
マークス……なんか、引っかかるな。
マスター、あいつのあとをつけてみよう。

グラースさて、……小鳥は──どんな声で……
グラースナイチンゲール……可愛い……
……を呼ぶ小鳥……♪

何か独り言を言いながら、上機嫌なグラースは、
カトリーヌの部屋の窓へと手を伸ばす。

軽くノックをすると、すぐにカトリーヌが顔を出し、
微笑みを浮かべた。

マークスここからだと声が聞こえないな。
もう少しだけ近づいてみよう。

グラースやあ、カトリーヌ。お待たせ。
──これを、君に。
カトリーヌ……!

グラースが差し出したのは、一通の手紙だった。
待ちきれない様子で封を開けたカトリーヌは、
さっそく手紙を読んで、嬉しそうに笑う。

カトリーヌねぇ、少し待っていてくれるかしら。
すぐに返事を書くから……。
グラースああ、もちろんだよ。
グラースそれに、急がなくても大丈夫。
僕はお茶でも飲みながら、のんびり待つからね。
カトリーヌ……ありがとう、すぐにお茶を淹れるわ。
裏口が開いているから、
そこから入ってちょうだいね。
グラースOui♪

まるでスキップでもするかのように軽やかな足取りで、
グラースは裏口の方へと消えていった。


マークス……なんだ、今の。
主人公【どういうことだろう……?】
【2人とも、別人みたいだ……】
マークスやっぱり、変だよな……?
……一体、どうなってるんだ?
マークス裏口から、って……ロシニョル家の貴銃士なんだから
玄関から入ればいいだろ。
なんでコソコソと……。
主人公【……確かめに行こう】
【2人に会いに行ってみる?】
マークスああ。賛成だ、マスター。

マークスおい、邪魔するぞ。
カトリーヌ……っ!
〇〇様、マークス様!?
どうなさったのですか?
マークスアウトレイジャーが出たと聞いて、様子を見に来た。
カトリーヌそうだったのですか……。
わざわざありがとうございます。
グラースまた君か。カトリーヌとの楽しい時間を……。
僕の邪魔をするのが趣味なのか?
マークスグラースが戦って聞いて来たんだ。
あんた、なんで元気そうにしてる?
絶対非道を使ったなら、あんたへの負担も大きいだろ。
カトリーヌえ、ええ……。ですが、先日のジョージさんのおかげで
楽になっていましたから、大丈夫ですわ。
マークス……そうか。
なら、次に俺たちが招集された時、
グラースも連れて行って構わないか?
カトリーヌそれは……わたくしの一存では、なんとも……
戦うのはわたくしではありませんから。
彼自身の意思を──
グラース僕はもちろんかまわないよ、カトリーヌ。
他でもない、君のためならね。
カトリーヌ……ありがとう……。
マークス……ところで、グラース。
あんた、どうして裏口からコソコソと入ってきたんだ。
グラース……見てたのかい。それは──
カトリーヌ……お義母様の言いつけなのです。
彼はこれまで一度も、
正面玄関を通ったことがありません……。
マークス……現代銃だから、か……。
カトリーヌ…………。
主人公【……マークス、そろそろ帰ろう】
【突然お邪魔しました】
カトリーヌ大したお構いもできず、申し訳ありません。
帰り道、どうぞお気をつけくださいね。

第23話:マークスの推理1

──レザール家の客室にて。

マークスマスター、包帯はきつくないか?
主人公【ちょうどいいくらい】
【手当てが上達したね】
マークス……そうか? ならよかった。
これで少しは痛みも引くといいんだが……。
傷が、手首の辺りまで進行してるな。
マークスアウトレイジャーの数が多すぎて、
討伐に呼ばれるたびに絶対非道を使う羽目になってる。
ジョージがいないと、これ以上は……。
マークスあの変質者──エラメル大佐、だったか。
変だけど、割と偉い奴なんだろ?
マークスやっぱり、あいつに頼んで抗議してもらおう。
早くジョージをこっちの任務に戻せ、ってな。
マークス極秘任務のことが明るみになると、
危険が及ぶ可能性もある──と言っていたが。
今のマスターの状況の方がよほどまずい。
マークスジョージは弱くはねぇし、
こっちの事情も理解しているはずだ。
なぁ、マスター? 呼び戻そう。
主人公【でも、任務の邪魔は……】
【もう少しだけ待とう】
マークスん……マスターが、そう言うなら……。
……だが、あまり悠長に待ってられないぞ。
マークス俺が、マスターの傷をこれ以上悪化させられないと
判断した時は、ラッセルやエラメルに掛け合って、
なんとしてもジョージを呼び戻す。
マークスそれでいいか?
主人公【……わかった】
マークス──よし。
マークスじゃあ、まだ5時過ぎだけど、今日はもう寝るか。
色々あって疲れただろう?
主人公【今の状況を整理したい】
【最近の出来事を振り返ろう】
マークスマスターは働き者だな……。
わかった。俺も頑張るぞ。

〇〇とマークスは、
気になった出来事や情報について共有した。

マークスんーと……俺のカンによると、
シャスポーはなにか嘘をついてる。
それからテオドールは、見るからに信用できねぇ。
マークスグラースもおかしい。戦いの時の好戦的な態度と、
カトリーヌの横にいる時のジメッとした態度……。
さっきは妙に上機嫌だったし、あいつも信用ならねぇ。
マークスそれに……カトリーヌも。
弱々しいから可哀想なヤツかと思っていたが、今日は変だった。
マークスこれまでの様子とは全然違って、明るくて……
やっぱり、あいつも信用できねぇな。
マークスこれらの事実から考察するに、俺は……。
マークスグラースとカトリーヌは
二重人格ってやつなんじゃないかと思っている。
マークス……ん? 待てよ。
マークス最初のパーティーでジョージが少し手当てした後に、
グラースは戦いの場に現れた。
そして今日も、絶対非道を使った。
マークスそれなのに、あの女の傷は
パーティーの夜の状態から悪化してない……。
マークス……ってことは、二重人格じゃなくて……
アッ! 完全に別人ってことか!!
マークスああ、だとしたら全部説明がつく。
カトリーヌとグラースは、それぞれ2人いるんだ!
主人公【なるほど……】
【そうかなぁ……?】
マークス……ロシニョル家のどこかに、
もう1人マスターがいるのかもしれないな。
マークスフランスでは現代銃への風当たりが強いし、
たまには戦いに出さないと、余計に立場が悪くなる。
だが、虚弱なマスターに負担をかけると命にかかわる。
マークスだから、戦いに出すためのグラースを、
別のマスターが密かに召銃した……とか?
主人公【わざわざ現代銃をまた召銃……?】
【継母はカトリーヌさんを疎んでいるのに?】
マークスあ……そうか。
そんなことしないよな……わざわざ……。
マークスあああああ!
くっそー……こういう面倒な話を考えるのは、
ライク・ツーにぶん投げてぇ……!

──コンコン

マークス……っ、誰だ!
タバティエールおいおい、そんなに怖い声出すなって。
俺──タバティエールだよ。

 

第24話:マークスの推理2

タバティエールよっ。今日も忙しかったみたいだな。
体調は大丈夫かい?
タバティエール軽食でもどうかと思って、ちょっと作ってきたんだ。
マークスあんたが作ったのか?
匂いはいいが……なんだ、そのぺらっとしたやつ。
タバティエールガレットだよ。クレープの元になった料理さ。
タバティエールハムと卵とチーズを乗せた食事系のと、
生地を少し甘くしてフルーツを乗せたデザート系、
2種類用意してみたんだ。お好きな方をどうぞ。
主人公【どっちも美味しそう……!】
【いただきます!】
タバティエールBon appétit!
マークスんん……っ! うまいっ!
あんた、すごい奴だったんだな……!
タバティエールはは……それほどでも。
タバティエール……俺はろくに戦えないからな。
身を削ってフランスのために戦ってくれてる君たちに、
これくらいのことでしか報いてやれなくて、すまない。
タバティエール俺が絶対高貴になれりゃよかったんだが……。
自分なりに色々頑張ってみても、どうも駄目でね。
……情けない限りだ。
マークス…………。
マークス……それでも、俺はあんたが少しうらやましい。
タバティエール俺が……? そいつはまた、どうしてだ?
マークスあんたは古銃だ。今は絶対高貴になれなくても、
いつか力に目覚められるかもしれないだろ?
マークス俺は……自分の性能には自信を持ってる。
絶対非道も使えて、マスターの敵を薙ぎ払える。
でも、絶対高貴は使えない。マスターの傷を癒せない。
タバティエールマークスくん……。
タバティエール……すまねぇな、情けないこと言って。
俺も、もっと頑張んないとな。
タバティエールところで──
シャスポー──失礼するよ。
シャスポーBonjour、〇〇さん。
マークスシャスポー……何しに来やがった。
シャスポー君、いちいちうるさいよ。
僕は、君たちが任務から戻ったって聞いて、
慰労のためのお誘いに来たんだ。
シャスポーねぇ、〇〇さん。
君のためにハープ奏者を呼んだんだよ。
シャスポー庭園で、ゆっくりお茶をしよう。
美しい旋律を聞きながら、お茶とお菓子を楽しむんだ。
そうすれば、疲れも取れるはずだよ。
シャスポーこの間のディナーは断られてしまったけど、
今日はいい返事をくれるよね?
シャスポー僕、一度君とゆっくり話してみたいんだ。
2人きりで……ね?
マークスはぁ……?
あんた……気が利かない奴だな。
マークスマスターは疲れてんだよ。
労りたいってんなら、
茶に誘うより、マスターを休ませろ。
シャスポーそれを言うなら、君の方こそ気が利かないよ。
自分を傷つける根源の現代銃と四六時中一緒の方が、
気が休まらないってものだろう?
マークス……っ!
シャスポーね、〇〇さんは十分頑張ったんだから、
アウトレイジャー退治もしばらく休んじゃえばいいよ。
マークスシャスポー……てめぇ、
マスターがどんな思いで戦ってるかも知らないで……!
シャスポーふん。……それより、〇〇さん。
いい返事を聞かせて?
じゃないと、君がOuiと言う前に攫ってしまうよ。
タバティエール……おい。お前、いい加減にしろ。
シャスポー……なんだよ、タバティエール。
タバティエール〇〇ちゃんとマークスくんのおかげで、
今のフランスはなんとか持ち堪えてるんだぞ。
タバティエールお前がふらふら遊び歩いてる間にも、
2人は必死に戦ってくれてるんだ。
タバティエールなのに、マークスくんを蔑ろにして、
〇〇ちゃんの覚悟も無視して……。
せめて、心からの感謝のひとことでも言えないのか!?
シャスポー感謝、だって?
僕は誉れ高いシャスポー銃の貴銃士だよ?
シャスポー革命戦争の英雄に、現代銃が尽くすのは当然のことだ。
感謝なんか──
タバティエール──お前は“違う”だろ!
シャスポー…………。
タバティエール革命戦争で戦った銃でもないし、第一お前は──!
???……一体なんの騒ぎだ、タバティエール。
タバティエール……っ、マスター……。
テオドール当家の客人の部屋で怒鳴り合いか。
……みっともない真似をするな。
タバティエール……悪かった。
だが、こいつの態度はあまりにも──
テオドール言い訳は無用だ。
悪かったという言葉は、どうやら口先だけのようだな。
タバティエールマスター……?
テオドール──タバティエール。
お前に、1週間の謹慎を命じる。
タバティエールは……謹慎!?
一体どういう風の吹き回しだ?
あんたはそういう柄じゃ──
テオドール口を慎め。
……お前がしばらく部屋から出ないことは、
屋敷の者たちに伝えておく。
タバティエール…………。

タバティエールはしばらく沈黙したのち、
やれやれといった様子で、小さく肩をすくめた。

タバティエール了解しましたよ、マスター。
俺は大人しく“謹慎”に励むとするさ。
テオドールそれでいい。さっさと行け。
タバティエールへいへい。

タバティエールが退室すると、
室内はしばらくの間、思い沈黙に包まれた。

第25話:真相へ

テオドール当家の貴銃士が、失礼した。
……お前も来い、シャスポー。
マークスおい、待てよ。
マークスあんた、やけにタイミングよく来たな。
盗み聞きでもしてたのか?
テオドール邪推はやめていただこう。
大事な客人とはいえ、過ぎた無礼は許されない。
マークス邪推だって言い切れるのかよ。
あんた、こそこそ動くのが得意みたいじゃねぇか。
テオドールなんの話だ。
マークス“召銃パーティー”について、話を聞いた。
テオドール&シャスポー…………。
マークス古銃だけを集めたはずが、ロシニョル家の方に、
現代銃のグラースが混ざってたんだろ?
マークスパーティーの前の晩、あんたがロシニョル家から
こっそり出てきたって噂を聞いたんだ。
……グラース銃を混ぜたのは、あんたじゃないのか?
テオドールふん……何を言うかと思えば、荒唐無稽な話だな。
私がなぜ、そんなことをしなければならない。
マークスそんなこと、俺が知るか。
だが、レザールとロシニョルは
長いこといがみ合ってるんだろ。
テオドール……要するに、ただの憶測の域を出ないというわけか。
くだらんな。
テオドール行くぞ、シャスポー。
シャスポーあ、ああ……。
マークス待て! 話はまだ終わってないぞ!

マークスがテオドールの腕を掴み、引き留める。
その瞬間──

テオドールぐっ──!

苦悶の表情を浮かべた彼は、がくりと膝をついた。

マークスうおっ……! マ、マスター……
俺はそんなに強く引っ張ったわけじゃなくてだな……!
主人公【テオドールさん!?】
【大丈夫ですか!?】
シャスポーあれ……マスター、大丈夫?
誰か使用人を呼んできてあげようか?
テオドール……ッ、いらん。少しめまいがしただけだ……。
テオドール行くぞ。
シャスポーはいはい。
マークス…………。
マークス……マスター。
今の、見えたか?
主人公【……見えた】
【薔薇の傷の蔦が、首元にまで……】

先ほど、テオドールが膝をついた時、
襟元の隙間から微かに覗いたのは──
薔薇の蔦のように伸びる、暗赤色の傷。

マークスあいつの傷、なんであんなに悪化してるんだ?
仏頂面男の貴銃士は、シャスポーとタバティエールで、
どっちも古銃だろう。
マークス2人とも絶対高貴にはなれないっつったって、
急速にあそこまで傷が悪化するのはおかしい……。
主人公【そういえば、前にも似たようなことがあった】
【初日の夜のことは覚えてる?】
マークスああ。アウトレイジャー討伐に行ったあと、
レザール家に滞在することになったからって、
またこの屋敷に戻されて……。
マークスあの時も、戻った俺たちを出迎えたあの男は、
急にふらついていた……。
マークス……っ! そういうことか……!
マークス……マスター。
俺たちは、大きな思い違いをしていたみたいだ……。
主人公【核心に近づけるかも!】
【真相を確かめないと!】
マークスああ!

──翌日、ロシニョル家の庭園の片隅にて。
マークスは1人、標的が現れる瞬間を待ち、
茂みの陰に身を潜めていた。

???~~♪ ~~~♪
マークス……来たな。
やっぱり、“あいつ”みたいだ。
???ナイチンゲールは可愛い小鳥、
愛を呼ぶ小鳥……♪
マークス──おい。待っていたぞ、“グラース”。
グラース(?)うわっ、びっくりした!
こんなところで何をしてるんだい、君。
マークスそれはこっちのセリフだ。
とにかく、ついてきてもらうぞ。
グラース(?)おい、いきなり何するんだよ。手を離せ!
マークスつべこべ言わず来い!!

マークスマスター、待たせてすまない。
グラースを連れてきたぞ。
グラース(?)えっ……!
グラース(?)チッ……。
グラース(?)…………。

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