フランス編:第31話~第35話

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第31話:落ちたティーカップ

マークスシャルルヴィルの野郎……もともと腑抜けだとは
思っていたが、あそこまで堕ちてるとはな。
俺たちだけでなんとかするしかないのか……。
兵士〇〇候補生! マークス殿!
兵士よかった、見つかって……!
急いで来てください!
マークスまたアウトレイジャーか! 場所は?
兵士ロシニョル侯爵邸裏手の森です!
マークスなんだと!?
……急ごう、マスター!

ロシニョル家の庭では、連合軍の兵士たちと
アウトレイジャーが拮抗していた。

戦闘に巻き込まれないようにするためか、
ロシニョル家の人々は軍車両の陰に隠れ、
兵士たちが周囲を固めている。

主人公【長引くと危険だ!】
【絶対非道を!】
マークス……っ、了解した、マスター!
マークス──絶対非道……!
アウトレイジャーたちグァァ……!
指揮官……アウトレイジャーの消滅を確認。
二手にわかれて、残党がいないかの確認と、
被害状況の確認を!
兵士たちはっ!
マークスマスター、大丈夫か? 傷の具合は──
シャスポーマスター、マスター!
マークス……ん?
あいつ、血相変えてどうしたんだ?
シャスポーおい、マスターはどこだ! 避難していないのか!?
使用人カ、カトリーヌお嬢様の部屋に伺ったのですが、
鍵がかかっていて、中から返事もなく……!
シャスポーなっ……! それで、彼女を1人、
屋敷の中に置き去りにしたっていうのか!?
流れ弾にでも当たったらどうするんだ!
シャスポーくっ……! マスター……!
マークスおい、シャスポー!

屋敷の中へと駆け出したシャスポーのあとを、
〇〇とマークスも追いかけた。


シャスポーマスター! カトリーヌ!
中にいるなら返事をしてくれ!

シャスポーがどんなに呼びかけても、
部屋の中から返事はない。

マークス……様子がおかしい。蹴破るぞ。
シャスポーああ!

──バンッ!

力づくで開かれたドアの先には──
床の上に倒れているカトリーヌの姿があった。
顔色は蒼白で、口から血を流している。

シャスポーマスターっ!!
カトリーヌ…………。
シャスポーカトリーヌ! そんな、嘘だ……!
主人公【呼吸はある!】
【急いで治療を!】
シャスポーおい! 誰か来てくれ!
医者を呼ぶんだ!
メイド1きゃあっ! お嬢様が……!
メイド2お医者様を呼ぶわよ!
メイド1え、ええ!
シャスポーマスター……なんでこんなことに……!
僕がそばを離れなければ……。
マークス後悔するのは後回しだ。
なんで倒れたのか、原因を早く特定しないと。

〇〇は、マークスの言葉に頷いて、室内を見回す。
カトリーヌのそばに落ちているものに目が留まり、
それを拾い上げた。

マークスティーカップか……落ちてるってことは、
カップを持ってる時に倒れたのか?
マークス……まさか、毒か!?
主人公【水をたくさん用意して!】
【毒を吐き出させよう!】
シャスポーわ、わかった!

──数時間後。
カトリーヌは、命に別状はないと診断され、
シャスポーたちが見守る中、眠りについていた。

シャスポーマスター……。
マークス大丈夫だ。
顔色もずいぶんマシになった。
そのうち意識も取り戻すだろう。
シャスポーああ……。
主人公【誰が毒なんて……】
【心当たりは?】
シャスポーカトリーヌに毒を盛るとしたら……
一番怪しいのは、継母と、その連れ子たちだ。
シャスポーロシニョル侯爵は色々あって後妻を迎えたけど、
実の娘であるカトリーヌを一番に思っている。
シャスポーだから、連れ子の長男に
家督を譲る気はないみたいなんだ。
当然、継母たちはそれが面白くない。
シャスポー“この子さえいなければ……”
いつも、そんな眼差しでカトリーヌを見ているんだ。
シャスポーあとは……毒っていうのが、レザール家も怪しい。
毒マカロン事件の禍根は消えていないし、
同じように毒でやり返そうと思ったのかも……。
ロシニョル侯爵夫人……失礼するわね。
シャスポー……っ! 何しに来たんだ。
ロシニョル侯爵夫人あら、私は娘が心配で、お見舞いにきたのよ。
それとも何かしら。
私がカトリーヌの様子を見に来てはおかしい?
シャスポーおかしくはないさ。
……お前が、マスターに毒を盛るよう指示したならな。
ロシニョル侯爵夫人まぁ! 私が毒を盛ったですって!
いくら貴銃士とはいえ、無礼にもほどがあるわ。
シャスポーしらじらしい演技はやめてもらおう。何が娘だ。
これまで散々マスターにひどい仕打ちをしておいて、
今さら心配だと? ……ふざけるな!
マークス……お、おい!
シャスポーお前が毒を盛ったんだ! そうに決まってる!
ロシニョル侯爵夫人言いがかりも大概にしてちょうだい!
私は恐ろしい襲撃犯が出たと聞いて、
屋敷の者たちと一緒に避難していたのよ?
ロシニョル侯爵夫人いつどうやって毒を盛れたというのです!
シャスポーそんなの、やりようはいくらだってあるだろ!
子飼いの使用人に金と毒を握らせたりとかな。
お前のお得意のやり方だ!
ロシニョル侯爵夫人話にならないわ!
カトリーヌ……や、めて……。

第32話:茨の囁き

シャスポーマスター……!
主人公【カトリーヌさん!】
【大丈夫ですか?】
カトリーヌ〇〇さん……
ご心配をおかけしてしまいましたね。
カトリーヌわたくしが、迂闊だったのです……。
カトリーヌ目が覚めたら……お茶が淹れてあったの。
彼かメイドが淹れてくれたのだと思って……
怪しみもせずに、飲んでしまったわ。
シャスポーマスター……そんなの、当たり前のことだよ。
自分の家で、毒を盛られるかもなんて、
普通は考えることじゃないだろう……?
カトリーヌふふ……それもそうね。
心配かけて、ごめんなさい。
カトリーヌ誰の仕業なのか、わたくしにも全くわからないの。
だから、お義母様を責めないで……。
シャスポーマスター……。
ロシニョル侯爵夫人……思ったより元気そうね。
なら、私はそろそろ失礼するわ。
シャスポー元気だと……? あの女……!
カトリーヌいいのよ、お義母様はああいう方なのだから……。
マークスなんつーか……色々強烈な家だな……。
カトリーヌごめんなさい……。
わたくし、もう少し眠るわ……。
シャスポーうん、ゆっくり休んで、マスター。
カトリーヌ…………。
マークス……俺たちも帰るか。
マークスおい、シャスポー。
マスターが倒れて心配なのはわかるが、
あまり根を詰めすぎるなよ。
シャスポー……ああ、わかってる。
僕まで倒れたら、マスターが悲しむからね。
シャスポーその……君たちが来てくれたおかげで助かったよ。
ありがとう。
主人公【どういたしまして】
【気にしないで】
マークスじゃあな。

──その夜。

カトリーヌ……う、う……。
シャスポー……っ、マスター……?
シャスポーああ、僕、うたた寝を……。

カトリーヌは眠っていたが、
顔を歪めて苦しそうにうなされていた。
顔色も、決していいものではない。

シャスポー(命に別状はないって言っても、
毒のせいで少なからずダメージはある……)
シャスポー(くそっ……一体誰がこんなことを……!)
シャスポー(十中八九、夫人に決まっている。
あの女は狡猾で、卑劣で……性根の腐った
汚らわしい悪魔だ!!)
シャスポー(……! いや……待てよ)

グラース歪みを正す──って、テオも言ってたかもしんねぇな。

シャスポー(歪み……この入れ替わりの状況……もしかして、
レザール家が本当のシャスポー──僕を手に入れるため、
カトリーヌの命を狙った……!?)
シャスポー(カトリーヌが死ねば、僕は銃に戻り──
テオドールが再び召銃することで、
レザール家が望む構図になる……!)
シャスポー(まさか、そんなことで……!
カトリーヌの、こんな優しい人の、
命を奪おうとするなんて……!!)
シャスポー──クソッ!!!!
シャスポーなんて腐った世界だ! なんて腐った人間どもだ!!
この悪臭に満ちた家で、
マスターを守るにはどうしたらいい!?
シャスポー“グラース”で、絶対高貴にもなれない僕が
どうやって……!!

シャスポーが頭を抱えた時──
カトリーヌの手に刻まれている薔薇の傷が、
じわじわとその蔓を伸ばしていった。

カトリーヌう……ぐ、……っ!
シャスポーマスター……!?
シャスポー……っ、薔薇の傷が、悪化してる……!
どうして……!
シャスポー(そういえば……前にもこんなことがあった)
シャスポー(いつか、夫人と口論したとき……
マスターをちゃんと守れない無力感で、
悔しくて悲しくて……そして、憎くて……!)
シャスポー(あの時も、マスターの傷が悪化した……。
……もしや、原因は──)
シャスポー──僕、なのか……?
シャスポー(僕の不安が、マスターを傷つける……。
まさか、そういうことなのか……!?)
シャスポー(いや……落ち着け、落ち着くんだ。
そうだと決まったわけじゃない)
シャスポー(とにかく……このままだと本当に危ない。
犯人の目的がマスターの暗殺なら、
今回が失敗に終わった以上、また命を狙われるだろう)
シャスポー(マスターを守るためには……
一刻も早く犯人を突き止めないと)
シャスポー(継母たちには密かに探りを入れるとして、
問題はレザール家だ。
どうやって、バレないように情報を集めるか……)
シャスポー……そうだ! いい手があるじゃないか……!

──レザール家にて。

シャスポーふぅ……案外すんなり入れたな。
さて、これからどこに向かうか……。
シャスポー(テオドールの部屋に忍び込んでみるか?
でも、部屋をあさっているところを見つかると危険だ……。
それに、毒殺を指示したとして、その証拠を残すとは思えない)
シャスポー(それよりは、直接会って話を聞き出すとか、
使用人たちの噂話から情報収集する方が、
核心に近づけるかもしれないな……)
メイドあら? シャスポー様。
シャスポー……っ!
シャスポーやあ、こんばんは。
ねぇ、マスターはどこだろう?
少し話をしたいんだけど……。
メイドテオドール様なら、
お部屋にいらっしゃると思いますよ。
シャスポー部屋か……。
シャスポー(部屋の位置なんてわからない……けど、
そんなことを聞いたら、さすがに怪しまれるよな)
シャスポー(かといって、この広い屋敷を長時間ウロウロしてると
グラースと鉢合わせる可能性もあるし……。
違和感なく、部屋に誘導してもらうには──)
シャスポーねぇ、君に1つ、お願いがあるんだ。
メイド私に……ですか?
できることがありましたら、なんなりと。
シャスポーふふ、ありがとう。それじゃあ、僕と一緒に、
部屋の近くまで来てくれないかな?
シャスポー歩きながらお喋りをして、君のことを教えて?
メイドは、はい……!
ぜひ……!
シャスポー(グラースの気味悪い猫かぶりを真似してみたけど、
上手くいくもんだな……)
メイドさ、シャスポー様。参りましょう♪
シャスポー……うん。

第33話:守るために

シャスポーと他愛のない話をしつつ、
メイドはゆったりと屋敷の中を進んでいく。
そしてやがて、ある部屋の前で足を止めた。

メイド楽しい時間をありがとうございました、
シャスポー様!
それでは、私はこれで……おやすみなさい。
シャスポーうん、おやすみ。僕の方こそありがとう。
シャスポー(ここが、テオドールの部屋か……。
カトリーヌの話を持ち出して、反応を見てみるか)

シャスポーが深呼吸をして、
部屋のドアを開けようとした時だった。

タバティエール……当に、やる……か?
テオドール……あ。……れ以上……待……ない。
シャスポー(……タバティエール!
なんの話をしているんだ……?)

シャスポーは、ドアに近づいて聞き耳を立てた。

タバティエールロシニョ……の警備が薄い……は、
ここと……とは……だな。
テオドールカトリーヌの部屋に……のは……か。
今度こそ絶対に、カト……ヌを……する。
タバティエール決行……にするんだ?
テオドールなるべ……早く……い。
夜明け前に──……
シャスポー(ロシニョル家の警備の話……
それに、「今度こそ絶対に」……だと!?)
シャスポー(やはり、レザール家の仕業だったのか!
失敗したから、今度こそとどめを刺す気なんだ……!)
シャスポー(夜明け前……まだ時間はある。
あいつらが来るまでに、マスターを安全なところへ
逃さないと……!)
シャスポー絶対に奪わせるものか……!

シャスポー(だけど……マスターは毒に倒れたばかりで、
いつにも増して体調が悪い。
なるべく動かしたくない……!)
シャスポー(どこかへ逃げるにしても、
支えるのが僕1人じゃ……厳しすぎる)
シャスポー(もしもアウトレイジャーが出たら?
レザール家や夫人から追っ手を差し向けられたら?
僕1人の力じゃ、マスターを守り切れない)
シャスポー頼れるとしたら……。

──ドンドン、ドンドンドン!

マークスうるさいな……! なんの騒ぎだよ。
シャスポーおい、いるんだろう? 入るぞ!
マークスあんたは、グラース……じゃなくて、シャスポーか?
こんな時間にどうした。また何かあったのか?
シャスポー……恥を忍んで、君たちに頼みたい。
マスターを……カトリーヌを助けてくれ!

シャスポーは、先ほど耳にした話を、
〇〇とマークスに話して聞かせた。

テオドールがカトリーヌの暗殺を目論んでいて、
警備の薄い箇所から彼女の部屋へ行き、
今度こそ害そうとしているらしいこと。

決行の詳細な時間はわからないが、
今夜のうちに事を起こそうとしていること。
そのため、彼女を安全な場所に匿いたいとも。

マークス……事情は理解した。
どうする、マスター?
主人公【テオドールさんのことはわからないけど……】
【タバティエールがそんなことするかな?】
マークスあいつは……忠告してくれたり、
悪い奴ではないと思う。
マークスだが……タバティエールは、
テオドールのことを、悪い奴じゃないと言っていた。
マークスマスターの頼みとあらば、
他人を害することに躊躇はないかもしれないぞ。
シャスポー現に、マスターは毒を盛られてる。
のんびり考えてる時間なんてないんだ!
奴らが来るより先に、マスターを連れて逃げないと!
主人公【わかった】
【まずは避難させよう】
シャスポー……! 恩に、着る……。

シャスポー……スター。マスター!
カトリーヌん……。
シャスポーマスター、目が覚めたかい?
カトリーヌあら……。
どうしたの、怖い顔をして……。
シャスポーごめん、詳しい話はあとで。
シャスポー早く逃げないと。ここにいたら、
君の命が危ないんだ……!
マークスおい、こっちの準備は完了したぞ。
カトリーヌマークスさん……? 一体何が……?
シャスポーさぁ、行こう。
カトリーヌえ、ええ……。

マークスよし、誰もいないな。
主人公【こっちへ!】
【先導します】
カトリーヌ〇〇さんも……。
ねぇ、これはどういうことなの?
マークス……あんた自身もわかってるだろ。
誰かに命を狙われてることくらい。
マークスシャスポーが必死であんたを守ろうとしてんだ。
だから、俺たちも協力して、あんたを逃がす。
カトリーヌ……!
お2人は、彼がシャスポーだとご存じなのですね……。
シャスポー……勝手に話してごめん、マスター。
カトリーヌううん、いいのよ。
わたくしたちの勝手な都合で、
あなたに正体を偽らせてしまっているのだもの。
カトリーヌあなたが信ずるに足ると思った相手にくらい、
本当のことを話しても、誰も責めないわ。
カトリーヌ……〇〇さん、マークスさん。
思うように動けずご迷惑をおかけするかもしれません。
ですがどうか、道中よろしくお願いいたします。
主人公【もちろん!】
【さぁ、行きましょう】
マークス裏口から外に出て、
屋敷の裏手にある林に入るぞ。

計画通りに裏口から外に出て、
足音を立てないように気をつけながら、
林の方へと向かう。

──その時だった。

???……カトリーヌ?

 

第34話:計画の真相1

テオドール……カトリーヌ?
なぜ君が、こんな時間に外に出ている。
シャスポーテオドール・ド・レザール……!
貴様こそ、ここで何をしている。
タバティエールおいおい、
人様のマスターに向かって、随分な言い草だなぁ。
グラースつーか、僕もいるんだけど?
シャスポー貴銃士を2人引き連れて、
ロシニョル家の敷地に忍び込むとはね……。
そうまでして、カトリーヌを殺したいのか。
テオドール……なんだと?
シャスポーマスター、下がって。
〇〇さん、彼女を連れて逃げて!
主人公【了解!】
【行きましょう、カトリーヌさん!】

林の方へ逃げようと、〇〇はカトリーヌの腕を引く。
しかし、唇を微かにふるわせた彼女は、
立ち尽くしたまま足を動かせない様子だ。

カトリーヌテオドール……。
シャスポー大丈夫だよ、マスター。
ここは僕がなんとかするから、君は──
カトリーヌああ、テオ……!
シャスポーちょ、マスター!?

よろめきながら駆け出したカトリーヌは、
まっすぐにテオドールへ向かっていく。
そして──

カトリーヌテオ! 会いたかった……!
テオドールああ、カトリーヌ。俺もだ……!

──お互いを強く抱きしめ合った。

シャスポー…………。
マークス…………。
シャスポー&マークス……はぁっ!?
グラースチッ……。
タバティエールははっ、残念。
お前のことは眼中にないみたいだな。
グラースうるせぇぞ、タバティエール。
シャスポーちょ……ちょっと待って、マスター。
その男は、君のことを殺そうとしてて……。
テオドール私がカトリーヌを害するだと?
君は何を言っているんだ。
タバティエールこの顔じゃあ無理もないが、
随分誤解されてるみたいだな、マスター。
テオドール……ふん。
タバティエールこうやって格好つけてるけど、カトリーヌちゃんが
倒れたって聞いて、ロシニョルの屋敷に殴り込みに
行きそうになるのを、俺が必死で止めたんだぜ?
テオドールおい、タバティエール! 余計なことを言うな。
タバティエールへいへいっと。
シャスポーおい、下手な嘘は僕に通じないぞ。
僕はお前らの悪だくみをこの耳で聞いたんだ!
シャスポーロシニョル家の警備が薄い箇所の話をしてただろ。
それに、今度こそ絶対にとか、
夜明け前に決行するとか……!
テオドール……なぜ、君がそれを知っている。
シャスポー毒を盛ったのはお前だと思って、
グラースのふりをして探りに行ったんだ。
そしたら、お前とタバティエールの声が聞こえて……。
タバティエールははっ、そういうことか。
……マスター、ここは言葉を節約せずに、
真面目に説明した方がいいと思うぜ?
テオドールはぁ……。
シャスポー。君は、大きな思い違いをしている。
テオドール私たちが話していたのは、
暗殺の計画などではなく……駆け落ちの計画だ。
シャスポー駆け、落ち……?
カトリーヌテオ……それじゃあ……。
テオドールああ。君を迎えに来たんだ、カトリーヌ。
テオドール君に毒が盛られたと聞いて……
これ以上、君をあの屋敷に置いておけないと思った。
テオドールどうか……俺と一緒に逃げてくれ。
レザール家とロシニョル家がどんなにいがみ合おうと、
俺たちには関係ない。
テオドールどこか遠い地へ行って、家名を捨てて、
2人で幸せになるんだ。
テオドール……ついてきてくれるかい?
カトリーヌ……もちろん!
マークスマスター……これは、一件落着なのか?
主人公【た、たぶん……?】
【とりあえず拍手しておこう】
マークスそ、そうか……。
タバティエールやれやれ、これは傑作だな。
まさか暗殺計画と勘違いされてるとはね。
シャスポーあんな紛らわしい会話をしてたら当然だ!
ロシニョル家とレザール家の関係は最悪で──
シャスポー……あっ!
もしかして、あの手紙……。
マスターがいつも待っていた手紙の主って……!
テオドールああ、私だ。
グラースつーか逆に、今の今まで誰からだと思ってたんだ?
運んでたのは僕だぞ……。
シャスポーま、街の名士とか、たまたま出会った好青年とか……
お前ならふらふら街を出歩けるから、
運び屋には適任なんだろうと思って……。
シャスポーっていうか、いつからそんな関係に!?
カトリーヌそうね……2年くらい前かしら……?
テオドール以前、舞踏会の最中にカトリーヌが倒れてね。
私が介抱をしたのがきっかけだったな。
カトリーヌええ。レザール家の方だし、
とても恐い人だと思いこんでいたけれど……
本当の彼は優しくて、とても素敵な人だったわ。
テオドール私の方も……仇の家の娘だと言い聞かせられていたが、
彼女を遠目で見る度に、どこか惹かれるものがあった。
実際に話してみると、本当に可憐で、心優しく……。
テオドールだが、どんなに私たちが想い合おうと、
レザール家とロシニョル家の確執は根深すぎて、
到底許されるはずもない。
テオドールだから、密かに手紙のやり取りをして、
これまで過ごしてきたんだ。

第35話:計画の真相2

タバティエール……さてと、これであらかた誤解は解けたな。
いつまでもここにいると見つかるかもしれない。
早いとこ、駆け落ち計画を決行しちまおうぜ。
テオドールああ。まずは場所を移そう。

テオドール私はこのまま、カトリーヌとともに逃げる。
タバティエール、案内を頼む。
タバティエール了解。
シャスポーちょっと待て。逃げるって、どこに?
当てはあるのか?
テオドール当然だ。タバティエールに準備は任せた。
タバティエール1週間の謹慎でたっぷり時間ができたからな。
身を潜めるのによさそうな郊外の小屋の確保に、
そこに行くまでのルート調べ……全部終わってるぜ。
主人公【謹慎って、あの時の……】
【駆け落ちの下準備のために……?】
テオドール君たちを信用していいかわからなかったからな。
タバティエールがしばらく不在になっても
怪しまれないように、一芝居打たせてもらった。
タバティエールって言っても、ほぼアドリブだったけどな?
なんか意図がありそうだってすぐ気づいて
大人しく従った俺に、感謝してくれよ?

テオドール──タバティエール。
お前に、1週間の謹慎を命じる。
タバティエールは……謹慎!?
一体どういう風の吹き回しだ?
あんたはそういう柄じゃ──
テオドール口を慎め。
……お前がしばらく部屋から出ないことは、
屋敷の者たちに伝えておく。
タバティエール…………。
タバティエール了解しましたよ、マスター。
俺は大人しく“謹慎”に励むとするさ。

マークス……!
タバティエール……あんた、すげぇな。
俺も、マスターと以心伝心になりたい……!
タバティエールははっ、お褒めにあずかり光栄です、ってな。
タバティエールうちのマスターはこの通り仏頂面で
何考えてるかよくわかんねぇから、
色々察するようになったのさ。
カトリーヌあら。テオは割とわかりやすいと思うけれど……?
タバティエールそれは相手が君だからだろうなぁ。な、マスター?
テオドール…………。
テオドールさあ、行こう、カトリーヌ。
そして、あとは任せるぞ。グラース、シャスポー。
シャスポー……はぁっ!?
僕も行くに決まってるだろう!
テオドールいや、それは駄目だ。君までいなくなっては、
大騒ぎになって、大勢の追っ手が来るだろう。
それに、事情を説明する役が必要だ。
テオドールいいかい? 毒殺されかけたカトリーヌを案じて、
君がどこか安全なところに匿ったことにするんだ。
テオドールそして……彼女に毒を盛った犯人を探してほしい。
もし、いつか私たちがここに戻る日が来た時……
彼女が安心して過ごせるように。
シャスポー…………。
テオドールグラース、君にも頼む。
犯人がレザール家にいた場合、
シャスポーだけでは、探りを入れるにも限界がある。
テオドール2人で協力して、
彼女を殺そうとした者を見つけてほしい、絶対にだ。
テオドール……頼めるか?
グラース…………。
シャスポーはぁ……わかったよ。
君に言われなくたって、
マスターの安全のために動くのは当然の役目だからね。
シャスポーただし……1つ、条件がある。
テオドールん……? なんだ。言ってみてくれ。
シャスポーマークス、〇〇さん。
君たちも一緒について行ってくれないか?
マークス……俺たちも?
シャスポー郊外に向かうまでの道中、
アウトレイジャーが出るかもしれないだろう?
護衛がタバティエールだけじゃ、心もとない。
タバティエールああ、そいつはもっともな意見だな。
連中が出ても、俺じゃあ肉壁になるのが精いっぱいだ。
2人を守れるかわからねぇ。
テオドール私も……君たちが来てくれるなら心強いが。
任務できているのに、勝手に巻き込むのは……。
シャスポーそっちは、こっちでうまく言っておく。
どのみち、〇〇さんの傷も悪化してるから
あまり無茶はできないだろう?
マークスああ……。
シャスポーだから、しばらくは調子が悪くて
臥せってるってことにして……。
シャスポーマスターたちが無事に新天地に行けたら、
タバティエールを置いて戻ってきて、
また任務に当たればいいよ。
シャスポーその頃にはさすがに、
彼……ジョージも戻ってきているだろうし。
マークスそうだな……。
マークス俺としては、毎日あちこちに駆り出されるよりは、
護衛の方がマスターの負担が少なそうだから、
あんたの意見に賛成だ。
マークスただ、最終的には、
マスターの決定に従う。
主人公【行こう】
【2人の命を守るのも大事な任務だ】
シャスポーありがとう、〇〇さん。
シャスポーおい、二軍だからって言い訳してないで、
マスターたちをしっかり守れよ、タバティエール。
タバティエールはいよ。
……んじゃ、行くか。
カトリーヌええ。
テオドール状況が落ち着き、君たちにその意思があるならば……
便りを出すから、こちらへ来てくれ。
グラース……ま、考えとく。
シャスポー道中、気を付けて。
旅の安全を祈っているよ。

木々の間に消えていく5人の後ろ姿を見守り、
シャスポーとグラースの兄弟は軽く息を吐いた。

シャスポー……行ったな。
グラースあーあ、馬鹿みてぇだ。
結局僕も、小鳥どころか卵も取れない、
盲目のトカゲだったってわけだ。
シャスポーん……? ああ、あの童話の話か。
シャスポーふん、何も得られないのはお前だけだろ。
Lézards(トカゲ)とRossignol(小夜啼鳥)は、
再び仲良く、幸せに暮らすんだから。
グラース2人の関係に気づいてなかったくせに、偉そうに……!
シャスポーはぁ? 差出人と受取人に直接会ってたお前と僕じゃ、
条件が違いすぎるだろ!
シャスポーいいか、勘違いしてそうだから言うけど、
マスターはお前に心を許したわけじゃないからな。
お前への怒りが和らぐくらい、手紙が嬉しかったんだ。
シャスポー手紙を届けた程度で、
お前のしたことが、帳消しになると思うなよ。
グラースちっ、うるせぇやつだな……!
グラースとにかく、僕は僕でやるべきことをやる。
お前も、屋敷の中に犯人がいないか、きっちり探せよ。
シャスポー当然だ。レザール家の方で犯人がいたら、
すぐに教えろよ。
グラースああ。じゃあな。

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