マークス | シャルルヴィルの野郎……もともと腑抜けだとは 思っていたが、あそこまで堕ちてるとはな。 俺たちだけでなんとかするしかないのか……。 |
---|---|
兵士 | 〇〇候補生! マークス殿! |
兵士 | よかった、見つかって……! 急いで来てください! |
マークス | またアウトレイジャーか! 場所は? |
兵士 | ロシニョル侯爵邸裏手の森です! |
マークス | なんだと!? ……急ごう、マスター! |
ロシニョル家の庭では、連合軍の兵士たちと
アウトレイジャーが拮抗していた。
戦闘に巻き込まれないようにするためか、
ロシニョル家の人々は軍車両の陰に隠れ、
兵士たちが周囲を固めている。
主人公 | 【長引くと危険だ!】 【絶対非道を!】 |
---|---|
マークス | ……っ、了解した、マスター! |
マークス | ──絶対非道……! |
アウトレイジャーたち | グァァ……! |
指揮官 | ……アウトレイジャーの消滅を確認。 二手にわかれて、残党がいないかの確認と、 被害状況の確認を! |
兵士たち | はっ! |
マークス | マスター、大丈夫か? 傷の具合は── |
シャスポー | マスター、マスター! |
マークス | ……ん? あいつ、血相変えてどうしたんだ? |
シャスポー | おい、マスターはどこだ! 避難していないのか!? |
使用人 | カ、カトリーヌお嬢様の部屋に伺ったのですが、 鍵がかかっていて、中から返事もなく……! |
シャスポー | なっ……! それで、彼女を1人、 屋敷の中に置き去りにしたっていうのか!? 流れ弾にでも当たったらどうするんだ! |
シャスポー | くっ……! マスター……! |
マークス | おい、シャスポー! |
屋敷の中へと駆け出したシャスポーのあとを、
〇〇とマークスも追いかけた。
シャスポー | マスター! カトリーヌ! 中にいるなら返事をしてくれ! |
---|
シャスポーがどんなに呼びかけても、
部屋の中から返事はない。
マークス | ……様子がおかしい。蹴破るぞ。 |
---|---|
シャスポー | ああ! |
──バンッ!
力づくで開かれたドアの先には──
床の上に倒れているカトリーヌの姿があった。
顔色は蒼白で、口から血を流している。
シャスポー | マスターっ!! |
---|---|
カトリーヌ | …………。 |
シャスポー | カトリーヌ! そんな、嘘だ……! |
主人公 | 【呼吸はある!】 【急いで治療を!】 |
シャスポー | おい! 誰か来てくれ! 医者を呼ぶんだ! |
メイド1 | きゃあっ! お嬢様が……! |
メイド2 | お医者様を呼ぶわよ! |
メイド1 | え、ええ! |
シャスポー | マスター……なんでこんなことに……! 僕がそばを離れなければ……。 |
マークス | 後悔するのは後回しだ。 なんで倒れたのか、原因を早く特定しないと。 |
〇〇は、マークスの言葉に頷いて、室内を見回す。
カトリーヌのそばに落ちているものに目が留まり、
それを拾い上げた。
マークス | ティーカップか……落ちてるってことは、 カップを持ってる時に倒れたのか? |
---|---|
マークス | ……まさか、毒か!? |
主人公 | 【水をたくさん用意して!】 【毒を吐き出させよう!】 |
シャスポー | わ、わかった! |
──数時間後。
カトリーヌは、命に別状はないと診断され、
シャスポーたちが見守る中、眠りについていた。
シャスポー | マスター……。 |
---|---|
マークス | 大丈夫だ。 顔色もずいぶんマシになった。 そのうち意識も取り戻すだろう。 |
シャスポー | ああ……。 |
主人公 | 【誰が毒なんて……】 【心当たりは?】 |
シャスポー | カトリーヌに毒を盛るとしたら…… 一番怪しいのは、継母と、その連れ子たちだ。 |
シャスポー | ロシニョル侯爵は色々あって後妻を迎えたけど、 実の娘であるカトリーヌを一番に思っている。 |
シャスポー | だから、連れ子の長男に 家督を譲る気はないみたいなんだ。 当然、継母たちはそれが面白くない。 |
シャスポー | “この子さえいなければ……” いつも、そんな眼差しでカトリーヌを見ているんだ。 |
シャスポー | あとは……毒っていうのが、レザール家も怪しい。 毒マカロン事件の禍根は消えていないし、 同じように毒でやり返そうと思ったのかも……。 |
ロシニョル侯爵夫人 | ……失礼するわね。 |
シャスポー | ……っ! 何しに来たんだ。 |
ロシニョル侯爵夫人 | あら、私は娘が心配で、お見舞いにきたのよ。 それとも何かしら。 私がカトリーヌの様子を見に来てはおかしい? |
シャスポー | おかしくはないさ。 ……お前が、マスターに毒を盛るよう指示したならな。 |
ロシニョル侯爵夫人 | まぁ! 私が毒を盛ったですって! いくら貴銃士とはいえ、無礼にもほどがあるわ。 |
シャスポー | しらじらしい演技はやめてもらおう。何が娘だ。 これまで散々マスターにひどい仕打ちをしておいて、 今さら心配だと? ……ふざけるな! |
マークス | ……お、おい! |
シャスポー | お前が毒を盛ったんだ! そうに決まってる! |
ロシニョル侯爵夫人 | 言いがかりも大概にしてちょうだい! 私は恐ろしい襲撃犯が出たと聞いて、 屋敷の者たちと一緒に避難していたのよ? |
ロシニョル侯爵夫人 | いつどうやって毒を盛れたというのです! |
シャスポー | そんなの、やりようはいくらだってあるだろ! 子飼いの使用人に金と毒を握らせたりとかな。 お前のお得意のやり方だ! |
ロシニョル侯爵夫人 | 話にならないわ! |
カトリーヌ | ……や、めて……。 |
シャスポー | マスター……! |
---|---|
主人公 | 【カトリーヌさん!】 【大丈夫ですか?】 |
カトリーヌ | 〇〇さん…… ご心配をおかけしてしまいましたね。 |
カトリーヌ | わたくしが、迂闊だったのです……。 |
カトリーヌ | 目が覚めたら……お茶が淹れてあったの。 彼かメイドが淹れてくれたのだと思って…… 怪しみもせずに、飲んでしまったわ。 |
シャスポー | マスター……そんなの、当たり前のことだよ。 自分の家で、毒を盛られるかもなんて、 普通は考えることじゃないだろう……? |
カトリーヌ | ふふ……それもそうね。 心配かけて、ごめんなさい。 |
カトリーヌ | 誰の仕業なのか、わたくしにも全くわからないの。 だから、お義母様を責めないで……。 |
シャスポー | マスター……。 |
ロシニョル侯爵夫人 | ……思ったより元気そうね。 なら、私はそろそろ失礼するわ。 |
シャスポー | 元気だと……? あの女……! |
カトリーヌ | いいのよ、お義母様はああいう方なのだから……。 |
マークス | なんつーか……色々強烈な家だな……。 |
カトリーヌ | ごめんなさい……。 わたくし、もう少し眠るわ……。 |
シャスポー | うん、ゆっくり休んで、マスター。 |
カトリーヌ | …………。 |
マークス | ……俺たちも帰るか。 |
マークス | おい、シャスポー。 マスターが倒れて心配なのはわかるが、 あまり根を詰めすぎるなよ。 |
シャスポー | ……ああ、わかってる。 僕まで倒れたら、マスターが悲しむからね。 |
シャスポー | その……君たちが来てくれたおかげで助かったよ。 ありがとう。 |
主人公 | 【どういたしまして】 【気にしないで】 |
マークス | じゃあな。 |
──その夜。
カトリーヌ | ……う、う……。 |
---|---|
シャスポー | ……っ、マスター……? |
シャスポー | ああ、僕、うたた寝を……。 |
カトリーヌは眠っていたが、
顔を歪めて苦しそうにうなされていた。
顔色も、決していいものではない。
シャスポー | (命に別状はないって言っても、 毒のせいで少なからずダメージはある……) |
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シャスポー | (くそっ……一体誰がこんなことを……!) |
シャスポー | (十中八九、夫人に決まっている。 あの女は狡猾で、卑劣で……性根の腐った 汚らわしい悪魔だ!!) |
シャスポー | (……! いや……待てよ) |
グラース | 歪みを正す──って、テオも言ってたかもしんねぇな。 |
---|
シャスポー | (歪み……この入れ替わりの状況……もしかして、 レザール家が本当のシャスポー──僕を手に入れるため、 カトリーヌの命を狙った……!?) |
---|---|
シャスポー | (カトリーヌが死ねば、僕は銃に戻り── テオドールが再び召銃することで、 レザール家が望む構図になる……!) |
シャスポー | (まさか、そんなことで……! カトリーヌの、こんな優しい人の、 命を奪おうとするなんて……!!) |
シャスポー | ──クソッ!!!! |
シャスポー | なんて腐った世界だ! なんて腐った人間どもだ!! この悪臭に満ちた家で、 マスターを守るにはどうしたらいい!? |
シャスポー | “グラース”で、絶対高貴にもなれない僕が どうやって……!! |
シャスポーが頭を抱えた時──
カトリーヌの手に刻まれている薔薇の傷が、
じわじわとその蔓を伸ばしていった。
カトリーヌ | う……ぐ、……っ! |
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シャスポー | マスター……!? |
シャスポー | ……っ、薔薇の傷が、悪化してる……! どうして……! |
シャスポー | (そういえば……前にもこんなことがあった) |
シャスポー | (いつか、夫人と口論したとき…… マスターをちゃんと守れない無力感で、 悔しくて悲しくて……そして、憎くて……!) |
シャスポー | (あの時も、マスターの傷が悪化した……。 ……もしや、原因は──) |
シャスポー | ──僕、なのか……? |
シャスポー | (僕の不安が、マスターを傷つける……。 まさか、そういうことなのか……!?) |
シャスポー | (いや……落ち着け、落ち着くんだ。 そうだと決まったわけじゃない) |
シャスポー | (とにかく……このままだと本当に危ない。 犯人の目的がマスターの暗殺なら、 今回が失敗に終わった以上、また命を狙われるだろう) |
シャスポー | (マスターを守るためには…… 一刻も早く犯人を突き止めないと) |
シャスポー | (継母たちには密かに探りを入れるとして、 問題はレザール家だ。 どうやって、バレないように情報を集めるか……) |
シャスポー | ……そうだ! いい手があるじゃないか……! |
──レザール家にて。
シャスポー | ふぅ……案外すんなり入れたな。 さて、これからどこに向かうか……。 |
---|---|
シャスポー | (テオドールの部屋に忍び込んでみるか? でも、部屋をあさっているところを見つかると危険だ……。 それに、毒殺を指示したとして、その証拠を残すとは思えない) |
シャスポー | (それよりは、直接会って話を聞き出すとか、 使用人たちの噂話から情報収集する方が、 核心に近づけるかもしれないな……) |
メイド | あら? シャスポー様。 |
シャスポー | ……っ! |
シャスポー | やあ、こんばんは。 ねぇ、マスターはどこだろう? 少し話をしたいんだけど……。 |
メイド | テオドール様なら、 お部屋にいらっしゃると思いますよ。 |
シャスポー | 部屋か……。 |
シャスポー | (部屋の位置なんてわからない……けど、 そんなことを聞いたら、さすがに怪しまれるよな) |
シャスポー | (かといって、この広い屋敷を長時間ウロウロしてると グラースと鉢合わせる可能性もあるし……。 違和感なく、部屋に誘導してもらうには──) |
シャスポー | ねぇ、君に1つ、お願いがあるんだ。 |
メイド | 私に……ですか? できることがありましたら、なんなりと。 |
シャスポー | ふふ、ありがとう。それじゃあ、僕と一緒に、 部屋の近くまで来てくれないかな? |
シャスポー | 歩きながらお喋りをして、君のことを教えて? |
メイド | は、はい……! ぜひ……! |
シャスポー | (グラースの気味悪い猫かぶりを真似してみたけど、 上手くいくもんだな……) |
メイド | さ、シャスポー様。参りましょう♪ |
シャスポー | ……うん。 |
シャスポーと他愛のない話をしつつ、
メイドはゆったりと屋敷の中を進んでいく。
そしてやがて、ある部屋の前で足を止めた。
メイド | 楽しい時間をありがとうございました、 シャスポー様! それでは、私はこれで……おやすみなさい。 |
---|---|
シャスポー | うん、おやすみ。僕の方こそありがとう。 |
シャスポー | (ここが、テオドールの部屋か……。 カトリーヌの話を持ち出して、反応を見てみるか) |
シャスポーが深呼吸をして、
部屋のドアを開けようとした時だった。
タバティエール | ……当に、やる……か? |
---|---|
テオドール | ……あ。……れ以上……待……ない。 |
シャスポー | (……タバティエール! なんの話をしているんだ……?) |
シャスポーは、ドアに近づいて聞き耳を立てた。
タバティエール | ロシニョ……の警備が薄い……は、 ここと……とは……だな。 |
---|---|
テオドール | カトリーヌの部屋に……のは……か。 今度こそ絶対に、カト……ヌを……する。 |
タバティエール | 決行……にするんだ? |
テオドール | なるべ……早く……い。 夜明け前に──…… |
シャスポー | (ロシニョル家の警備の話…… それに、「今度こそ絶対に」……だと!?) |
シャスポー | (やはり、レザール家の仕業だったのか! 失敗したから、今度こそとどめを刺す気なんだ……!) |
シャスポー | (夜明け前……まだ時間はある。 あいつらが来るまでに、マスターを安全なところへ 逃さないと……!) |
シャスポー | 絶対に奪わせるものか……! |
シャスポー | (だけど……マスターは毒に倒れたばかりで、 いつにも増して体調が悪い。 なるべく動かしたくない……!) |
---|---|
シャスポー | (どこかへ逃げるにしても、 支えるのが僕1人じゃ……厳しすぎる) |
シャスポー | (もしもアウトレイジャーが出たら? レザール家や夫人から追っ手を差し向けられたら? 僕1人の力じゃ、マスターを守り切れない) |
シャスポー | 頼れるとしたら……。 |
──ドンドン、ドンドンドン!
マークス | うるさいな……! なんの騒ぎだよ。 |
---|---|
シャスポー | おい、いるんだろう? 入るぞ! |
マークス | あんたは、グラース……じゃなくて、シャスポーか? こんな時間にどうした。また何かあったのか? |
シャスポー | ……恥を忍んで、君たちに頼みたい。 マスターを……カトリーヌを助けてくれ! |
シャスポーは、先ほど耳にした話を、
〇〇とマークスに話して聞かせた。
テオドールがカトリーヌの暗殺を目論んでいて、
警備の薄い箇所から彼女の部屋へ行き、
今度こそ害そうとしているらしいこと。
決行の詳細な時間はわからないが、
今夜のうちに事を起こそうとしていること。
そのため、彼女を安全な場所に匿いたいとも。
マークス | ……事情は理解した。 どうする、マスター? |
---|---|
主人公 | 【テオドールさんのことはわからないけど……】 【タバティエールがそんなことするかな?】 |
マークス | あいつは……忠告してくれたり、 悪い奴ではないと思う。 |
マークス | だが……タバティエールは、 テオドールのことを、悪い奴じゃないと言っていた。 |
マークス | マスターの頼みとあらば、 他人を害することに躊躇はないかもしれないぞ。 |
シャスポー | 現に、マスターは毒を盛られてる。 のんびり考えてる時間なんてないんだ! 奴らが来るより先に、マスターを連れて逃げないと! |
主人公 | 【わかった】 【まずは避難させよう】 |
シャスポー | ……! 恩に、着る……。 |
シャスポー | ……スター。マスター! |
---|---|
カトリーヌ | ん……。 |
シャスポー | マスター、目が覚めたかい? |
カトリーヌ | あら……。 どうしたの、怖い顔をして……。 |
シャスポー | ごめん、詳しい話はあとで。 |
シャスポー | 早く逃げないと。ここにいたら、 君の命が危ないんだ……! |
マークス | おい、こっちの準備は完了したぞ。 |
カトリーヌ | マークスさん……? 一体何が……? |
シャスポー | さぁ、行こう。 |
カトリーヌ | え、ええ……。 |
マークス | よし、誰もいないな。 |
---|---|
主人公 | 【こっちへ!】 【先導します】 |
カトリーヌ | 〇〇さんも……。 ねぇ、これはどういうことなの? |
マークス | ……あんた自身もわかってるだろ。 誰かに命を狙われてることくらい。 |
マークス | シャスポーが必死であんたを守ろうとしてんだ。 だから、俺たちも協力して、あんたを逃がす。 |
カトリーヌ | ……! お2人は、彼がシャスポーだとご存じなのですね……。 |
シャスポー | ……勝手に話してごめん、マスター。 |
カトリーヌ | ううん、いいのよ。 わたくしたちの勝手な都合で、 あなたに正体を偽らせてしまっているのだもの。 |
カトリーヌ | あなたが信ずるに足ると思った相手にくらい、 本当のことを話しても、誰も責めないわ。 |
カトリーヌ | ……〇〇さん、マークスさん。 思うように動けずご迷惑をおかけするかもしれません。 ですがどうか、道中よろしくお願いいたします。 |
主人公 | 【もちろん!】 【さぁ、行きましょう】 |
マークス | 裏口から外に出て、 屋敷の裏手にある林に入るぞ。 |
計画通りに裏口から外に出て、
足音を立てないように気をつけながら、
林の方へと向かう。
──その時だった。
??? | ……カトリーヌ? |
---|
テオドール | ……カトリーヌ? なぜ君が、こんな時間に外に出ている。 |
---|---|
シャスポー | テオドール・ド・レザール……! 貴様こそ、ここで何をしている。 |
タバティエール | おいおい、 人様のマスターに向かって、随分な言い草だなぁ。 |
グラース | つーか、僕もいるんだけど? |
シャスポー | 貴銃士を2人引き連れて、 ロシニョル家の敷地に忍び込むとはね……。 そうまでして、カトリーヌを殺したいのか。 |
テオドール | ……なんだと? |
シャスポー | マスター、下がって。 〇〇さん、彼女を連れて逃げて! |
主人公 | 【了解!】 【行きましょう、カトリーヌさん!】 |
林の方へ逃げようと、〇〇はカトリーヌの腕を引く。
しかし、唇を微かにふるわせた彼女は、
立ち尽くしたまま足を動かせない様子だ。
カトリーヌ | テオドール……。 |
---|---|
シャスポー | 大丈夫だよ、マスター。 ここは僕がなんとかするから、君は── |
カトリーヌ | ああ、テオ……! |
シャスポー | ちょ、マスター!? |
よろめきながら駆け出したカトリーヌは、
まっすぐにテオドールへ向かっていく。
そして──
カトリーヌ | テオ! 会いたかった……! |
---|---|
テオドール | ああ、カトリーヌ。俺もだ……! |
──お互いを強く抱きしめ合った。
シャスポー | …………。 |
---|---|
マークス | …………。 |
シャスポー&マークス | ……はぁっ!? |
グラース | チッ……。 |
タバティエール | ははっ、残念。 お前のことは眼中にないみたいだな。 |
グラース | うるせぇぞ、タバティエール。 |
シャスポー | ちょ……ちょっと待って、マスター。 その男は、君のことを殺そうとしてて……。 |
テオドール | 私がカトリーヌを害するだと? 君は何を言っているんだ。 |
タバティエール | この顔じゃあ無理もないが、 随分誤解されてるみたいだな、マスター。 |
テオドール | ……ふん。 |
タバティエール | こうやって格好つけてるけど、カトリーヌちゃんが 倒れたって聞いて、ロシニョルの屋敷に殴り込みに 行きそうになるのを、俺が必死で止めたんだぜ? |
テオドール | おい、タバティエール! 余計なことを言うな。 |
タバティエール | へいへいっと。 |
シャスポー | おい、下手な嘘は僕に通じないぞ。 僕はお前らの悪だくみをこの耳で聞いたんだ! |
シャスポー | ロシニョル家の警備が薄い箇所の話をしてただろ。 それに、今度こそ絶対にとか、 夜明け前に決行するとか……! |
テオドール | ……なぜ、君がそれを知っている。 |
シャスポー | 毒を盛ったのはお前だと思って、 グラースのふりをして探りに行ったんだ。 そしたら、お前とタバティエールの声が聞こえて……。 |
タバティエール | ははっ、そういうことか。 ……マスター、ここは言葉を節約せずに、 真面目に説明した方がいいと思うぜ? |
テオドール | はぁ……。 シャスポー。君は、大きな思い違いをしている。 |
テオドール | 私たちが話していたのは、 暗殺の計画などではなく……駆け落ちの計画だ。 |
シャスポー | 駆け、落ち……? |
カトリーヌ | テオ……それじゃあ……。 |
テオドール | ああ。君を迎えに来たんだ、カトリーヌ。 |
テオドール | 君に毒が盛られたと聞いて…… これ以上、君をあの屋敷に置いておけないと思った。 |
テオドール | どうか……俺と一緒に逃げてくれ。 レザール家とロシニョル家がどんなにいがみ合おうと、 俺たちには関係ない。 |
テオドール | どこか遠い地へ行って、家名を捨てて、 2人で幸せになるんだ。 |
テオドール | ……ついてきてくれるかい? |
カトリーヌ | ……もちろん! |
マークス | マスター……これは、一件落着なのか? |
主人公 | 【た、たぶん……?】 【とりあえず拍手しておこう】 |
マークス | そ、そうか……。 |
タバティエール | やれやれ、これは傑作だな。 まさか暗殺計画と勘違いされてるとはね。 |
シャスポー | あんな紛らわしい会話をしてたら当然だ! ロシニョル家とレザール家の関係は最悪で── |
シャスポー | ……あっ! もしかして、あの手紙……。 マスターがいつも待っていた手紙の主って……! |
テオドール | ああ、私だ。 |
グラース | つーか逆に、今の今まで誰からだと思ってたんだ? 運んでたのは僕だぞ……。 |
シャスポー | ま、街の名士とか、たまたま出会った好青年とか…… お前ならふらふら街を出歩けるから、 運び屋には適任なんだろうと思って……。 |
シャスポー | っていうか、いつからそんな関係に!? |
カトリーヌ | そうね……2年くらい前かしら……? |
テオドール | 以前、舞踏会の最中にカトリーヌが倒れてね。 私が介抱をしたのがきっかけだったな。 |
カトリーヌ | ええ。レザール家の方だし、 とても恐い人だと思いこんでいたけれど…… 本当の彼は優しくて、とても素敵な人だったわ。 |
テオドール | 私の方も……仇の家の娘だと言い聞かせられていたが、 彼女を遠目で見る度に、どこか惹かれるものがあった。 実際に話してみると、本当に可憐で、心優しく……。 |
テオドール | だが、どんなに私たちが想い合おうと、 レザール家とロシニョル家の確執は根深すぎて、 到底許されるはずもない。 |
テオドール | だから、密かに手紙のやり取りをして、 これまで過ごしてきたんだ。 |
タバティエール | ……さてと、これであらかた誤解は解けたな。 いつまでもここにいると見つかるかもしれない。 早いとこ、駆け落ち計画を決行しちまおうぜ。 |
---|---|
テオドール | ああ。まずは場所を移そう。 |
テオドール | 私はこのまま、カトリーヌとともに逃げる。 タバティエール、案内を頼む。 |
---|---|
タバティエール | 了解。 |
シャスポー | ちょっと待て。逃げるって、どこに? 当てはあるのか? |
テオドール | 当然だ。タバティエールに準備は任せた。 |
タバティエール | 1週間の謹慎でたっぷり時間ができたからな。 身を潜めるのによさそうな郊外の小屋の確保に、 そこに行くまでのルート調べ……全部終わってるぜ。 |
主人公 | 【謹慎って、あの時の……】 【駆け落ちの下準備のために……?】 |
テオドール | 君たちを信用していいかわからなかったからな。 タバティエールがしばらく不在になっても 怪しまれないように、一芝居打たせてもらった。 |
タバティエール | って言っても、ほぼアドリブだったけどな? なんか意図がありそうだってすぐ気づいて 大人しく従った俺に、感謝してくれよ? |
テオドール | ──タバティエール。 お前に、1週間の謹慎を命じる。 |
---|---|
タバティエール | は……謹慎!? 一体どういう風の吹き回しだ? あんたはそういう柄じゃ── |
テオドール | 口を慎め。 ……お前がしばらく部屋から出ないことは、 屋敷の者たちに伝えておく。 |
タバティエール | …………。 |
タバティエール | 了解しましたよ、マスター。 俺は大人しく“謹慎”に励むとするさ。 |
マークス | ……! タバティエール……あんた、すげぇな。 俺も、マスターと以心伝心になりたい……! |
---|---|
タバティエール | ははっ、お褒めにあずかり光栄です、ってな。 |
タバティエール | うちのマスターはこの通り仏頂面で 何考えてるかよくわかんねぇから、 色々察するようになったのさ。 |
カトリーヌ | あら。テオは割とわかりやすいと思うけれど……? |
タバティエール | それは相手が君だからだろうなぁ。な、マスター? |
テオドール | …………。 |
テオドール | さあ、行こう、カトリーヌ。 そして、あとは任せるぞ。グラース、シャスポー。 |
シャスポー | ……はぁっ!? 僕も行くに決まってるだろう! |
テオドール | いや、それは駄目だ。君までいなくなっては、 大騒ぎになって、大勢の追っ手が来るだろう。 それに、事情を説明する役が必要だ。 |
テオドール | いいかい? 毒殺されかけたカトリーヌを案じて、 君がどこか安全なところに匿ったことにするんだ。 |
テオドール | そして……彼女に毒を盛った犯人を探してほしい。 もし、いつか私たちがここに戻る日が来た時…… 彼女が安心して過ごせるように。 |
シャスポー | …………。 |
テオドール | グラース、君にも頼む。 犯人がレザール家にいた場合、 シャスポーだけでは、探りを入れるにも限界がある。 |
テオドール | 2人で協力して、 彼女を殺そうとした者を見つけてほしい、絶対にだ。 |
テオドール | ……頼めるか? |
グラース | …………。 |
シャスポー | はぁ……わかったよ。 君に言われなくたって、 マスターの安全のために動くのは当然の役目だからね。 |
シャスポー | ただし……1つ、条件がある。 |
テオドール | ん……? なんだ。言ってみてくれ。 |
シャスポー | マークス、〇〇さん。 君たちも一緒について行ってくれないか? |
マークス | ……俺たちも? |
シャスポー | 郊外に向かうまでの道中、 アウトレイジャーが出るかもしれないだろう? 護衛がタバティエールだけじゃ、心もとない。 |
タバティエール | ああ、そいつはもっともな意見だな。 連中が出ても、俺じゃあ肉壁になるのが精いっぱいだ。 2人を守れるかわからねぇ。 |
テオドール | 私も……君たちが来てくれるなら心強いが。 任務できているのに、勝手に巻き込むのは……。 |
シャスポー | そっちは、こっちでうまく言っておく。 どのみち、〇〇さんの傷も悪化してるから あまり無茶はできないだろう? |
マークス | ああ……。 |
シャスポー | だから、しばらくは調子が悪くて 臥せってるってことにして……。 |
シャスポー | マスターたちが無事に新天地に行けたら、 タバティエールを置いて戻ってきて、 また任務に当たればいいよ。 |
シャスポー | その頃にはさすがに、 彼……ジョージも戻ってきているだろうし。 |
マークス | そうだな……。 |
マークス | 俺としては、毎日あちこちに駆り出されるよりは、 護衛の方がマスターの負担が少なそうだから、 あんたの意見に賛成だ。 |
マークス | ただ、最終的には、 マスターの決定に従う。 |
主人公 | 【行こう】 【2人の命を守るのも大事な任務だ】 |
シャスポー | ありがとう、〇〇さん。 |
シャスポー | おい、二軍だからって言い訳してないで、 マスターたちをしっかり守れよ、タバティエール。 |
タバティエール | はいよ。 ……んじゃ、行くか。 |
カトリーヌ | ええ。 |
テオドール | 状況が落ち着き、君たちにその意思があるならば…… 便りを出すから、こちらへ来てくれ。 |
グラース | ……ま、考えとく。 |
シャスポー | 道中、気を付けて。 旅の安全を祈っているよ。 |
木々の間に消えていく5人の後ろ姿を見守り、
シャスポーとグラースの兄弟は軽く息を吐いた。
シャスポー | ……行ったな。 |
---|---|
グラース | あーあ、馬鹿みてぇだ。 結局僕も、小鳥どころか卵も取れない、 盲目のトカゲだったってわけだ。 |
シャスポー | ん……? ああ、あの童話の話か。 |
シャスポー | ふん、何も得られないのはお前だけだろ。 Lézards(トカゲ)とRossignol(小夜啼鳥)は、 再び仲良く、幸せに暮らすんだから。 |
グラース | 2人の関係に気づいてなかったくせに、偉そうに……! |
シャスポー | はぁ? 差出人と受取人に直接会ってたお前と僕じゃ、 条件が違いすぎるだろ! |
シャスポー | いいか、勘違いしてそうだから言うけど、 マスターはお前に心を許したわけじゃないからな。 お前への怒りが和らぐくらい、手紙が嬉しかったんだ。 |
シャスポー | 手紙を届けた程度で、 お前のしたことが、帳消しになると思うなよ。 |
グラース | ちっ、うるせぇやつだな……! |
グラース | とにかく、僕は僕でやるべきことをやる。 お前も、屋敷の中に犯人がいないか、きっちり探せよ。 |
シャスポー | 当然だ。レザール家の方で犯人がいたら、 すぐに教えろよ。 |
グラース | ああ。じゃあな。 |
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