ドイツ編Ⅰ:第1話~第5話

コメント(0)

第1話:プロローグ

???……ダンロー・ユリシーズ。
特別召集令状に従い参上いたしました。
中将来たかね、ユリシーズ少佐。
……その召集令状が意味するところは理解しているな。
ダンローはい。
もちろん承知しております。
中将ならばいい。
長らく続いているドイツの苦境を打破するため、
君が任務を全うすることを期待する。
中将……この結晶を使いたまえ。

中将が机の上に置かれた小箱を開けると、
そこには赤黒い結晶が入っていた。

ダンローこれが……アリノミウム結晶……。
中将そして──
君の貴銃士となるのは、この2挺だ。
中将プロイセンを悲願のドイツ帝国統一へと導いた、
世界初の実用的ボルトアクション銃……
ドライゼ・ニードルガン。
中将そして、我が国が誇るライフルの傑作、
世界四大アサルトライフルにも数えられる、DG3だ。
中将『彼ら』が、今のドイツでどのような立場にあるかは……ふむ。
いや、言うまでもないことだったな。
ダンロー……それでは、失礼します。

一度深呼吸をしたダンロー・ユリシーズは、
どことなく禍々しい光を放つ、
赤い結晶へと手を伸ばした。

ダンロー……っ!!

一瞬の鋭い痛みと共に、結晶を掴んだ手の甲に
薔薇のような形の傷が刻まれる。

ダンローぐ……っ!

ダンローは息を整えると、
その手で2挺の銃に触れた。

その瞬間、部屋は眩い光に包まれ、
やがて──

ドライゼ…………。
エルメ…………。
ダンロー君たち、が……。
エルメいかにも。
僕はDG3──コードネームはエルメだよ。
よろしくね、新しいマスターさん。
ドライゼ私は、ドライゼだ。
中将ドライゼ君、エルメ君。紹介しよう。
彼は、ダンロー・ユリシーズ少佐。
軍歴が長く、優秀な軍人だ。
中将任務に忠実で、周囲からの信頼も厚い。
私も、彼を高く評価している。
ダンロードライゼ特別司令官、エルメ特別司令官補佐……
よろしくお願いします。

ダンローは握手をしようと、右手を差し出す。
薔薇の傷が刻まれたその手を見て、
ドライゼはわずかに顔をしかめた。

エルメよろしく、ユリシーズ少佐。
ドライゼ…………。
エルメ……どうしたんだい、ドライゼ。
新たなマスターと、友好関係を結ばないと。
エルメほら、握手だよ。できるでしょう?
ドライゼ……私たちは戦いのために呼ばれた。
そのような行為は、私たちにとって無用なものだ。
ドライゼ私は戦場に行く。
エルメ。お前も、貴銃士の本分を忘れるな。
エルメ……ひどいね。俺が1度でも、
戦闘や練兵に手を抜いたことがあったかい?
エルメKeine Komorpmiss……妥協はしない。
君も知っているだろう。
ドライゼ……そうだな。先ほどの発言は訂正しよう。
ダンロー…………。
中将どうだね、ユリシーズ少佐。頼もしい貴銃士だろう?
ドライゼ君……彼は、軍人の中の軍人だ。
いかなるときも、彼の心は鉄のように揺るがない。
エルメ……鉄のように、ね。
いいね、その通り。僕たちは鉄だもの。
エルメ目的を達成するためには、
いかようにも冷徹になることができる。
中将ドライゼ君が特別司令官、エルメ君がその補佐に
ついていることで、前線の士気は非常に高い。
これからもよろしく頼むよ、エルメ君。
エルメJawohl。
中将さて……ユリシーズ少佐。
君ほどの軍人には言うまでもないことだが、
貴銃士のマスターに選ばれるのは、大変な誉れだ。
中将存分に職務に励んでくれたまえ。
……命の限り、な。
ダンロー……はい。

兵士1……あの!
もしやあなたは、ユリシーズ少佐ではありませんか?
ダンローん……? 確かに私はユリシーズだが。
兵士1やはりそうでしたか……!
少佐には以前、戦地で助けていただきました。
またお会いできて光栄です!
ダンロー……ああ、君か。
見違えたが、もちろん覚えているとも。
……震えていた新兵が、立派になったものだね。
兵士1覚えていてくださったのですね……!
立派だなんて……こうして生きていること自体、
ユリシーズ少佐のおかげです!

感極まった若い兵士は、
固く握手を交わそうと、両手を差し出した。

微笑んで応えたダンローだが、
その手甲に刻まれている傷を見て、
兵士はさっと青ざめる。

兵士1……っ! ユリシーズ少佐……
その手の傷は、まさか……。
ダンローああ……実は、特別召集令状が届いてね。
兵士1やはり、薔薇の傷……。
どうしてあなたほどの方が、そんな決死の任務に!?
ダンロー君が気にすることではないさ。
君は君の任務をまっとうしたまえ。
私も、命じられたこの任務をまっとうするのみだ。
兵士1ユリシーズ少佐。あなたには恩があります。
僕にできることがあれば、なんでもします……!
ダンロー……私には、妻も子もいない。未練はないさ。
むしろ、最後に名誉ある役目をいただけて、
よかったとすら思っている。
ダンローただ……1つだけ心残りがあるとすれば……。

第2話:ダンローの手紙1

マークス……マスター! 朝食以来45分ぶりだな。
会えて嬉しい。
ライク・ツーは……?
会ってない時間カウントしてるのか……?
恭遠〇〇君。
そんなに慌ててやってきて、どうしたんだ?
ラッセル貴銃士クラスとの合同授業は次の時間だが……
彼らに何か、急ぎの用事でも?
主人公【教官たちにお話があります】
ラッセルほう。私たちに……?
主人公【ドイツに行かせてください!】
ラッセルド、ドイツ!?
恭遠随分とまた、急な話だな。
何があったのか、順を追って話してくれ。

恭遠の言葉に頷いた〇〇は、
事の経緯を話し始めた。

主人公【手紙が届いたんです】
【例の、支援者の方から連絡があって……】
ラッセル手紙?

支援者から、今朝、新たに手紙が届いたのだと
〇〇は2人の教官に伝えた。

ラッセル君の支援者というと……
〇〇君に仕送りをしたり、
進路の相談に乗ってくれていたという人のことだね。
ラッセル確か、ダンローさんと言っていたか。

ダンローというファーストネームだけを名乗る彼は、
世界帝軍に両親を殺され、天涯孤独の身となった
〇〇を長年援助している人物だ。

金銭的な支援を行うだけでなく、
時折届く手紙を通して様々な相談に乗ってもらい、
〇〇の心の支えにもなっていた。

士官学校入学に際し、
UL96A1を贈ってくれたのも、ダンローである。

恭遠そんな人物がいたのか……。
それで、どうしてドイツに行くという話に?
主人公【初めて、会う許可をもらえたんです】
【会いたいと言ってもらえて……!】

支援者の存在がなければ、
孤児となった〇〇は、
どうなっていたかわからない。

そのため〇〇は何度も、
直接会ってお礼を言いたいと手紙で伝えていたが、
その度に断られていた。

しかし……今朝届いた手紙には、こう書いてあった。
『よかったら、ベルリンに来てほしい。
立派に育った君の姿を、一目見せてくれないか』と。

ラッセルふーむ、なるほど……。
ラッセル君のような優秀な生徒が、フィルクレヴァートに
入学するための後押しをしてくれた人だ。
ラッセルこちらも、ぜひ行ってくるようにと、
背中を押したいところなのだ、が……。
どう思われます、恭遠審議官。
恭遠うーむ……。難しいですね。
ラッセルええ……。
マークスなんだ?
なぜマスターをドイツに行かせてやらない。
恭遠それはだな……ドイツは今、
非常に不安定な状況なんだ。
マークス不安定……?
ラッセルああ。親世界帝派の集団が武装蜂起して
一部地域を乗っ取り、局地的内乱状態にある。
ラッセル……正直なところ、許可はかなり出しづらい。
〇〇君に万が一のことがあったら、
悔やんでも悔やみきれないからね。
マークス……そんな危険なところにマスターが行くのは、俺も反対だ。
だが、マスターがどうしてもと言うなら、
俺が全力でマスターのことを守る。
マークスマスターの望みを叶えるのが、
マスターの愛銃である俺の役割だからな!
ライク・ツー…………。
ドイツの内乱って、どんなにひどい状態なのか?
ラッセル全土が、というわけではないが……長期化しているな。
せっかくだから、現在の情勢について話しておこう。
ラッセル世界の多くの国では、革命戦争後、
比較的安定した情勢を保つことができている。
ラッセル特に、イギリスやフランスは、世界帝統治下時代から
レジスタンス活動が活発だったから、
戦後の親世界帝派の排除も早かった。
ラッセルただ、ドイツの場合、そう簡単にはいかなくてな。
ライク・ツーあー……そういえば、ドイツには、
世界帝軍のヨーロッパ最大の拠点があったんだっけ。
恭遠その通りだ。世界帝軍のお膝元だったこともあって、
親世界帝派の残党も多く……時折そういった連中の
蜂起を受けて、情勢がなかなか安定しないんだ。
ラッセル特に、最近になって
親世界帝派の動きが再び活発化しているようでね。
ラッセルあまり規模の大きくない戦いだったし、
当初は簡単に鎮圧できると思われていたんだが、
かれこれ数ヶ月も膠着状態が続いている。
ライク・ツー連合軍が聞いて呆れるな。
ドイツ支部は、残党の雑魚相手に何やってんだよ。
ラッセルそれが……どうも、反乱軍の中に
強力で厄介な部隊がいるらしくてな。
マークス……まさか、アウトレイジャーか?
ラッセルその可能性は非常に高い。
でなければ、武力で圧倒できるはずのドイツ支部が、
ここまで手こずる理由がない。
ライク・ツーなぁ、ドイツ支部には貴銃士はいないのか?
恭遠公表されている限り、貴銃士は4人いるな。
マークス4人もいるのか。
恭遠ああ。まずはドライゼ。プロイセンが生んだ、
銃の歴史を変えたボルトアクション式ライフルだ。
かつてレジスタンスにも、同型の銃の貴銃士がいた。
恭遠2挺目は……アサルトライフルの名作、DG3。
コードネームはエルメだと聞いている。
恭遠そして、DG3の後継として開発が進められた、
ケースレス弾を用いた実験的な銃……DG11。
コードネームは、ゴースト。
ライク・ツー……!
それって、世界帝軍にもいた……。
恭遠ああ。同じタイプの中の貴銃士だ。
同一の個体ではないという話だが……。
恭遠最後は、DG36、コードネームはジーグブルート。
DG11の開発が頓挫したため、DG3の後継として
新たに作られたアサルトライフルだ。
恭遠彼ら貴銃士4名をもってしても、
内乱は今のところ収束する様子がない。
地域によっては、かなり危険だろう。
マークスだ、だったら……!

第3話:ダンローの手紙2

マークスだったら、俺だけ行ってくる!
マスターに危険がなきゃいいんだろ。
ライク・ツー〇〇が会いたがってんだ。
お前が行っても意味ねーだろ、バカ。
マークスくっ……そうだった。
ライク・ツーなぁ。ドイツ全土がヤバいわけじゃないんだろう?
ベルリンだけ行ってサッと帰ってくりゃいーんじゃねーの?
恭遠ベルリンは今のところ情勢が安定しているが……
そもそも、突然会いたいと言ってきたことが気になるな。
恭遠〇〇君が、複数の貴銃士を呼び覚ました
マスターだと知った何者かが、支援者を装って
おびき出そうとしている可能性もあるのでは?
主人公【筆跡は、間違いなく本人のものです】
【脅されて書かされたものでもないかと】
ラッセル〇〇君。君は、絶対高貴になれる貴銃士と
絶対非道になれる貴銃士、両方を呼び覚ましている、
世界的に見ても稀有な存在なんだ。
ラッセル当然、連合軍にとっても重要な存在だし、
何より、私は君の担当教官として、
危険地帯にみすみす送り出すような真似はできない。
主人公【でも、どうしても行きたいんです】
【ダンローさんに会わせてください】
ラッセル〇〇君……
賢い君が、そこまで無理を言うとは。
主人公【……嫌な予感がするんです】
【この機を逃したら、二度と会えない気が……】
恭遠…………。
ラッセル教官。〇〇君に、
許可を与えてやってもらえませんか?
ラッセル恭遠審議官……。
あなたも、ドイツ行きの危険は承知しているはずです。
なぜ、そんなことを……?
恭遠……俺にも、覚えがあるんです。
そういう、嫌な予感に。
恭遠杞憂で終わることも多かったですが……
嫌な予感が、現実になることもあった。
そして、そういう時、ひどく後悔したんです。
恭遠『あの時、無理を通してでも、ああしておけばよかった』……と。
その後悔は、決して消えることがありません。
ラッセル…………。
主人公【どうか、お願いします】
【ドイツへ行かせてください】
ラッセルはぁ……そこまで言われては、
私が引き下がるほかないようだ。
ラッセル……よし。
ラッセル〇〇君。
君に、ドイツの内情視察を目的とした任務を命じる。
ラッセル安全確保のため、貴銃士を伴ってドイツに赴き、
首都ベルリンの様子を視察、報告するように。
ラッセル現地は局所的に内乱中のため、
内乱地帯への接近や長期の滞在は避け、
帰還後は報告書の提出をすみやかに行うこと!
ラッセル……わかったかい。
主人公【イエッサー!】
【お2人とも、ありがとうございます!】
十手随分と熱心に話し込んでいたが、
どうやら一件落着のようだな。
ジョージんで、なんの話してたんだ?
マークス俺とマスターが、ドイツに行くという話だ。
ライク・ツーいや、微妙にちげーだろ。
〇〇がドイツに行くことになったけど、
誰か貴銃士をつけないとマズいってとこまでだ。
マークスだから俺が行く。当然だ!
ラッセルおっと。それは許可できないな。
マークスな、なんでだよ!
マスターに俺がついていくのは当然だろ!?
ラッセルマークス、君は今週末に古典の追試があるらしいな。
数学や工学系の科目は優秀なのに、スナイピングに
無関係な科目は悲惨極まりないと聞いているぞ。
マークス古典なんてできなくてもいいだろ!
俺は銃だぞ!
ラッセル君たちは確かに銃だが、ただの銃ではない。
〇〇君と共に戦う貴銃士だ。
相応の教育を受けてもらわないと。
マークスだ、だけど! マスターの安全のほうが優先だ!
ラッセルああ、それは当然そうだ。
私としても、〇〇君の安全を
一番に考えたいと思っている。
ラッセル……恭遠審議官。
十手、ジョージ、ライク・ツーの3名は、
追試の予定などはあるでしょうか。
恭遠ええと……
十手は、化学と音楽が追試になっていますね。
十手め、面目ない……。
化学は難しい言葉が多くて、
内容がなかなか入ってこないんだ……。
ラッセル音楽の方は、何が苦手なんだい?
十手あの、みょうちきりんな記号がなぁ……。
おたまじゃくしにしか見えないんだよ……。
ジョージあ、じゃあオレが──
恭遠ジョージ。君が一番ひどいぞ。
体育以外は全科目が追試だ……!
ジョージええーっ、マジかよ!
割と自信あったのに!
ラッセルた、体育以外すべてとは……。
ラッセルそれで、ライク・ツーは……。
ライク・ツーハッ。
俺が追試なんてダセェことするわけないだろ。
マークスはぁ……!?
じゃああんたは、全科目クリアできたっていうのか!?
恭遠ふむ……できているな。
全科目90点以上! 見事なものだ。
ライク・ツー当然だろ。こんな雑魚どもと一緒にされたら、
UL85A2の名が泣くっての。
十手つまり……〇〇君の旅のお供は、
ライク・ツー君で決まりかな。
主人公【お願いできるかな】
【よろしく】
ライク・ツーりょーかい。
……ま、たまには遠出も悪くねぇしな。
マークスクソっ……! 古典さえなければ……!
マスター、古典を撃ち抜いてくるから、
俺も連れて行ってくれ!!!
主人公【撃ち抜いたらだめだよ】
【追試はちゃんと受けよう】
マークスくっ……マスターがそう言うなら……っ!
ジョージ残念! オレも行きたかったな~、ドイツ。
ソーセージが美味いんだろ?
十手びぃるという酒が有名だと聞いたことがあるなぁ。
日本酒とはまた違った味わいなのか、気になるよ。
恭遠君たち……観光しに行くんじゃないんだぞ。
ラッセルさて/……〇〇君。
理事長や各所には私が話を通すから、
出発まで数日待ってくれ。
ラッセルそれから……くれぐれも気をつけてくれよ。
ライク・ツーと、2人揃って無事に帰還してくれ。
それが、私たち教官の何よりの願いだ。

 

第4話:ベルリンの喧騒

──数日後、ベルリンにて。

主人公【(活気がある街だ……)】
【(内乱の影はあまり感じない……)】
ライク・ツーおい、キョロキョロしてんじゃねーよ。
こっち来い。
ライク・ツー……にしても、賑やかなもんだな。
恭遠がベルリンは情勢が安定してる方だって言ってたけど、
もうちょっと荒れてんのかと思ってた。
新聞屋号外、ごうがーい!
新聞屋今回もミュンヘン奪還ならず!
謎の強兵に阻まれ、連合軍は苦戦!
新聞屋前線はニュルンベルクまで後退、睨み合いが続く!
現在の最前線はニュルンベルク!
ライク・ツー(謎の強兵……やっぱり、アウトレイジャーなのか?
でも、奴らはまともに意思疎通できねぇし、
ドイツ支部を妨害する意味がわかんねーな……)
市民男性1予想以上に苦戦しているらしいな……。
市民女性1でも、大丈夫でしょう?
ドライゼ様はじめ、貴銃士が4人もいるのよ。
市民男性1それもそうだな。ドライゼ特別司令官が、
親世界帝派の残党なんて蹴散らしてくれるはずだ。
市民男性1厳しい戦況が続く中でも前線の士気は高いと聞くし、
今に猛烈な反撃が始まるに違いない!
老人1世界帝派だかなんだか知らないが、
わしはとにかく、いい加減平和に暮らしたいもんだ。
市民男性2……ふん、いい気味だ。
親世界帝派の粛清なんかしてたら、
どっちが悪者だかわかったもんじゃねぇ。
市民男性2大人しくニュルンベルクを明け渡して、
親世界帝派の自治区として認めりゃいいんだ。
市民男性3ああ、暮らしづらくなったもんだなぁ……。
世界帝軍の基地があった頃の方が、
街が豊かだった気すらするぜ。
ライク・ツー……驚いたな。このご時世に、
世界帝を大っぴらに支持する声があるとは。
主人公【イギリスとは様子が違う】
【でも、どうして……?】
ライク・ツー当時、甘い汁を吸った奴も多いんだろ。
欧州最大の基地があったってことは、
それだけ多く人も金も集まってたってことだ。
ライク・ツー圧政下で上手く生き延びるためかもしれないが、
世界帝軍との癒着に奔走したって奴も、
相当いたんじゃないのか?
ライク・ツーそういう奴らが、栄光の影にすがって、
世界帝統治時代の再来を夢見てるんだろ。
ライク・ツー……ほら、行くぞ、〇〇。
とっとと行って、とっとと帰ろうぜ。
ライク・ツーお前のその制服、良くも悪くも目立ってるし。
世界連合軍の士官候補生サマ?
主人公【……行こう】
ライク・ツー……って、おい。
命がけの決戦に行くみたいな顔になってんぞ。
ライク・ツーこれから恩人とやらに会って、お礼言うんだろ?
だったら、その……もうちょっと嬉しそうっつーか、
リラックスして行った方がいいんじゃねぇの。
ライク・ツーせっかく念願叶って、
ずっと会いたかった奴に会えるんだからさ。
主人公【……緊張しすぎてたみたいだ】
【……意外と優しいね】
ライク・ツー……っ、なに寝ぼけたこと言ってんだ。
おら、行くぞ!

──待ち合わせ場所として指定されたのは、
連合軍ドイツ支部近くのホテルのロビーラウンジだった。

約束の時間になり、周囲を見回すが、
人を探している様子の男性はいない。

ライク・ツー……おい、なんだよ。
呼び出しといてバックレか。
ライク・ツーっつーか、今まで直接会おうとしなかった奴が
いきなりそんな手紙を寄越してくるとか……
やっぱり、なんかの罠じゃねぇの?
主人公【あの手紙は偽物なんかじゃない】
【何か事情があるに違いない】
ライク・ツーはぁ……仕方ねぇ。
ダンローって奴が泊まってないか、確認するか。
お前も適当に口裏合わせろよ。
ライク・ツーおい。俺たちは連合軍イギリス支部から任務で来た。
貴銃士ライク・ツーと、そのマスターだ。
ホテルマン……!
ライク・ツー詳細は明かせないが、
ダンローという人物を探している。
ここにまだ泊まってるか確認してくれ。
ホテルマンは、はい……!

すぐさま宿泊簿を調べ始めたホテルマンだったが、
やがて、首を横に振る。

ホテルマンダンロー様という方のご宿泊の記録はありません。
ですが、もしかすると……。
ライク・ツーん……? 何か知ってるのか?
ホテルマンああ、いえ……ダンロー様と伺って、
ユリシーズ少佐が思い浮かんだのですが……。
ライク・ツーユリシーズ少佐……?
主人公【詳しく聞かせてください】
【ユリシーズ少佐とは?】
ホテルマン少佐は、ベルリンではちょっとした有名人ですよ。
優れた知略、己の身を顧みない勇敢な行動で、
若い兵士たちの命を救ったそうです。
ライク・ツーふぅん……。ドイツ支部所属の少佐なら、
ここを待ち合わせ場所にしたのも納得だな。
ドイツ支部の目と鼻の先だし。
ライク・ツー問題は、なんで来てねぇのかだけど……。
主人公【ドイツ支部に行ってみよう】
【こちらから会いに行こう】
ライク・ツー賛成。待ちぼうけって嫌いなんだよな。
ライク・ツー目立つからどーかと思ってたけど、
お前、クソ真面目に制服で来ててよかったな。
その格好なら、すんなり通してもらえるかもしれねぇ。

第5話:嫌な予感の正体

連合軍ドイツ支部は、厳重に警備されていた。
武装した門兵が、〇〇たちを
少し怪訝そうに上から下まで眺める。

門兵その制服……イギリスの、
フィルクレヴァート連合士官学校の学生ですね。
ご用件は?
主人公【ユリシーズ少佐に会いに来ました】
【ユリシーズ少佐との面会を希望します】
門兵ユリシーズ少佐に……?
しかし、彼は──……
???──あっ、いた!
おーい!
ライク・ツーん……?

慌てた様子で走ってきたのは、
1人の若い兵士だった。

兵士1やっぱり、フィルクレヴァートの制服だ……!
君が、〇〇さんですか!?
主人公【はい】
【自分が〇〇です】
兵士1よかった! ホテルのロビーに行ったのですが、
すれ違ってしまったようで……。
受付の人に教えてもらい、こっちへ来たんです。
兵士1これで、ユリシーズ少佐との約束を果たせる……!

安堵の息をついた兵士だったが、
すぐに真剣な表情になり、居住まいを正す。

兵士1〇〇士官候補生殿。
ダンロー・ユリシーズ少佐は、
今朝ニュルンベルクへ発たれました。
兵士1少佐は、あなたにお会いすることを
心から楽しみにされていました。
兵士1御足労いただいても会えない非礼を許してほしいと、
言伝を承っております。
ライク・ツーふぅん……。
……ってことは、とりあえず、
手紙の主はダンロー・ユリシーズで確定か。
ライク・ツーそれより、ニュルンベルクっつーと……。
新聞屋前線はニュルンベルクまで後退、睨み合いが続く!
現在の最前線はニュルンベルク!
ライク・ツーさっき、号外配ってる奴が言ってたな。
ミュンヘン奪還に失敗して、
前線がニュルンベルクに後退したって。
ライク・ツー最前線に投入されたら、
少佐だろうが命の保証はねぇ。
それで、急に会いたいって言い出したのか……。
兵士1…………。
兵士1本当は、出立は明日の朝のはずでしたが……
上から、急な命令が下ったのです。
兵士1そこで、少佐に会いに来るであろうあなたへ、
これを必ず渡すようにと頼まれました。

兵士が差し出したのは、飾り気のない封筒だった。
中を見てみると、小切手が入っている。

ライク・ツー一、十、百、千、万、十万、百万、せ……
うわ、マジかよ。

ライク・ツーも〇〇も、
驚きの表情になる。小切手に記されていたのは、
軽々しく人に渡せるはずもない大金だった。

──ただ、数字が妙だ。
十万、百万単位のキリがいい金額ではなく、
1の位まで不規則な数字が並んでいる。

主人公【(これって、もしかして……)】
【(おじさんの全財産じゃ……!?)】
兵士1ユリシーズ少佐から伝言です。
兵士1「今のドイツは危ない。
これを受け取ったら、すぐにイギリスに戻りなさい。
どうか元気で」……。
兵士1……自分も同じ意見です。
各地に親世界帝派の残党が蔓延っていて、
ベルリンの安寧もいつまで続くかわからない。
兵士1本当は……あなたに一目会いたいという、
ユリシーズ少佐の願いを叶えたかった。
兵士1しかし……少佐が一番に願っているのは、
あなたが無事に巣立つことです。
ですからどうか、安全なうちに、イギリスへ帰還を。
主人公【…………】
【……伝言、ありがとうございました】

ライク・ツー……さて、これで用は済んだな。
ライク・ツー情勢が比較的安定してるベルリンなら
行ってもいい、って許可だったんだ。
お目当てが前線に行っちまったらどうしようもない。
ライク・ツー報告できるくらいには、
街の様子も適当に視察できたし、帰るぞ。
主人公【……まだ、帰れない】
【行かないと】
ライク・ツーはぁ……? 何言ってんだよ。
……まさか、ニュルンベルクに行くとか
言うつもりじゃねぇだろうな?
ライク・ツーおいおい、冗談じゃねーぞ。
さっきの号外聞いただろ。
ニュルンベルクは最前線だ。
ライク・ツーそんなとこに、現代銃の俺だけ連れて乗り込むとか、
無謀通り越して馬鹿の極みだぞ。
主人公【今回だけは譲れない】
【今行かないと、一生後悔する気がする】
ライク・ツー…………。
ライク・ツーあの小切手、やっぱりそういうことだよなぁー……。
ライク・ツーここに来る前、お前が「嫌な予感がする」って言ってたけど……
当たってると思うぜ。
きっと、ダンローはもう戻らないつもりで──
ライク・ツー前線で死ぬつもりで、お前にあれを渡したんだろうな。
だから、お前の主張はある意味正しい。
──だがな。
ライク・ツーだからって、前線に突っ込むのはねぇよ!
ライク・ツーベルリン限定のちょっとした護衛役で来たんだ。
道中でアウトレイジャーに遭遇したらどうする?
俺が絶対非道を使えば、お前の傷は悪化するんだぞ。
ライク・ツー絶対高貴になれる奴がいないと、
傷を治せなくて詰む。
合理的に考えて、そんな状況で──
主人公【それでも、どうしても行かないと】
【わがままを、どうか許してほしい】
ライク・ツー…………。
はぁぁ…………。
ライク・ツーお前、普段は割と柔軟なくせに、
譲らない時はクソ頑固だよな……。
ライク・ツーあー……仕方ねぇ。
護衛で来たからには、俺もついて行ってやる。
ただし、勝手に動くな。俺の目の届くところにいろ。
ライク・ツーお前は自分の安全を最優先に考えて行動しろ。
……いいな?
主人公【了解!】
【ありがとう】
ライク・ツーったく……!
おっさんの顔見たら、さっさと帰るからな!

コメントを書き込む


Protected by reCAPTCHA and the Google Privacy Policy and Terms of Service apply.

まだコメントがありません。

×