ドイツ編Ⅰ:第6話~第11話

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第6話:ニュルンベルクへ

〇〇たちは、迷ったものの、
士官学校へ手紙を送ることにした。

事前の取り決めから外れてニュルンベルクへ行く以上、
なんの連絡もなしというわけにはいかない。

緊急事態には応援を呼ぶかもしれないことなどを綴り、
ドイツ支部を介して士官学校へ届けてもらう。
手紙が届くのは、数日後の予定だ。


──翌日。

ライク・ツー……これが、ニュルンベルク方面行きの列車か。
主人公【……人が少ないね】
【……静かだ】
ライク・ツー当然だろ。
危険地帯にわざわざ突っ込んでいく馬鹿は、
お前くらいしかいねぇよ。
ライク・ツー革命戦争からまだ10年も経ってないんだ。
人間たちの記憶には、恐怖の感情が深く残ってる。
金稼ぎにだって、行きたくないんじゃないか。
ライク・ツーま、お前は一応将来士官になる身だったな。
戦場を恐れないのは結構なことだが……。
ライク・ツー……それより、少し寝とけ。
現地についたら、気を抜けなくなるんだからよ。
見張りなら俺がしとく。
主人公【ありがとう】
ライク・ツー……別に、お前のためじゃない。
どうせ、昨日はよく眠れてないんだろ。
危険地帯でぼーっとされたら俺が困るから、早く寝ろ。
ライク・ツーはぁ……。バカだな、俺も……。

ライク・ツー──ろ……。おい……!
ライク・ツー──〇〇!

〇〇が目覚めると、
列車はニュルンベルクの手前の駅まで
もうすぐというところだった。しかし──。

主人公【……なんだか様子がおかしい】
【列車が全然減速してない】
ライク・ツー……妙だな。
このままの勢いだと、駅を通り過ぎるぞ。
ライク・ツーなんで止まらない……!?

ライク・ツーが、
窓の外の様子を確認しようとした途端──

──ダダダダッ!

ライク・ツーっ! 襲撃か!?

──バァン!!

ライク・ツーおい、〇〇、掴まれ……!

爆発音が鳴り響き、列車が急ブレーキをかける。
なんとか体勢を立て直して外の様子を窺うと、
武装集団が列車に乗り込んでくるのが見えた。

ライク・ツーチッ……、さっそく厄介事とご対面か。
あー、最高に笑える。

文句を言いつつも、ライク・ツーは既に
戦闘準備を整えている。

〇〇も護身用のハンドガンを構え、
身を低くして警戒する。

反乱軍兵士1全員動くな! この列車は我々が制圧した!
貴様らには我々の拠点に来てもらう。
余計な抵抗をした者は殺す!
ライク・ツー(こいつら、反乱軍……だよな。
拠点っつーとミュンヘンか。
乗客を人質にして、交渉カードにするつもりか?)
ライク・ツー(……〇〇の手の傷を見られたら、
俺が貴銃士で、こいつがマスターだと
バレるだろうな……)
ライク・ツー(よほどのことがない限り殺されはしないだろうが……
最重要の人質になって、面倒なことになる)
主人公【捕まるわけにはいかない】
【制圧できる?】
ライク・ツー当然だろ。
俺を誰だと思ってやがる。
ライク・ツー雑魚どもは、俺がまとめてぶっ飛ばしてやるよ。

第7話:危険地帯1

ライク・ツー〇〇、こっちだ!

ライク・ツーが、車両に乗り込んできた反乱軍を
素早く制圧して、車両外に脱出する。
しかし──。

ライク・ツー……クソッ、援軍か!
反乱軍兵士1なっ……客が脱出しているぞ!
おい、貴様ら動くな!
反乱軍兵士2あの制服……軍の人間か!
武装しているぞ! 取り囲め!

反乱軍の増援が次々に現れる。
ぐるりと周囲を取り囲まれ、〇〇と
ライク・ツーは、身動きが取れなくなった。

反乱軍兵士1おい、武器を捨てろ!
大人しくすれば、命までは奪わない!
ライク・ツーチッ……。
ライク・ツー(50人……いや、もっといるな。
反撃を食らう前にこの数を倒すのは、非現実的だ。
となると、一番生存確率が上がるのは……)
ライク・ツー……おい、〇〇。
そのまま聞け。
ライク・ツーこうなっちまった以上、助かる可能性が
一番高い道を選ぶ。
……俺たちの正体を明かすぞ。
ライク・ツー捕まったあとで、隙を見て逃げる。
もしくは、救出が来るのを待つ。
いいな?
主人公【了解】
【……巻き込んでごめん】
ライク・ツー……ふん。
ライク・ツー──おい、聞け!
俺は貴銃士、そしてこっちがマスターだ。
ライク・ツー抵抗はしない。お前たちに従う!
だが、この銃は捨てられねぇ。俺の本体だからな。
それでもよけりゃ、マスターと一緒に行ってやるよ。
反乱軍兵士1なに……!? 貴銃士とマスターだと……!
反乱軍兵士2おい、見ろ! あの手の傷……!
奴らの言っていることは、本当なのでは?
反乱軍兵士1現代銃の貴銃士ということは……。

何事かを囁き合ったあと、
兵士たちは銃を下ろした。

反乱軍兵士2そちらの銃は、UL85A2と見受ける。
現代銃の貴銃士ライク・ツー殿と、
そのマスター!
反乱軍兵士1あなたたちを、我らがアジトへ招待しよう。
……大人しくついて来い。

ライク・ツーは、銃には触れない約束で
弾薬を反乱軍に渡して武装を解き、
〇〇のハンドガンは没収される。

その後、後ろ手に縛られ、目隠しをされた状態で、
〇〇とライク・ツーは
車に押し込まれた。


反乱軍兵士……ここで大人しくしていろ。

アジトに到着すると、目隠しが外され
倉庫のような暗い部屋に閉じ込められる。

〇〇たちを連れてきた兵士は、
奥の方で上官らしき男と何事か話し合っていた。

ライク・ツーお前、今回の護衛が俺でラッキーだったな。
主人公【どうして?】
【どういうこと?】
ライク・ツードイツ各地で内乱を起こしてるのは、親世界帝派だろ?
世界帝が召銃してたのと同じ型の銃……UL85A2を、
あいつらが簡単に害するとは思えねぇ。
ライク・ツーあわよくば取り込もうとでもするんじゃないか?
お前ごと、な。
ライク・ツーそれに乗っかるふりをして油断させれば、
逃げるチャンスは必ずやってくるはずだ。
だから、諦めんじゃねえぞ。

ライク・ツーの言葉に頷いたあと、
〇〇は俯いた。

主人公【本当にごめん】
【自分のせいだ】
ライク・ツーふん、まったくだな。
おかげでこんなクソ面倒くせぇことに巻き込まれた。
ライク・ツー……けど、まぁ……。
誰にでも曲げられないことはあるし……
どうしても、何かを貫かなきゃなんねぇ時もある。
ライク・ツー俺も、その気持ちは……。
──いや。なんでもない。
ライク・ツー今回は、ダンローって奴に会いに行くのが、
お前にとっての曲げられないことだったんだろ。
ライク・ツーこの場には俺しかいねぇし、
ここまで来させられたからには、
最後まで付き合ってやるよ。仕方なくな!
主人公【……ありがとう】
ライク・ツーほら、もう黙れ。
あいつらが戻ってくるぞ。
反乱軍幹部──ほう。
士官学校の生徒がマスターになったという話は
耳にしていたが……やはり、若いな。
反乱軍幹部お前はフィルクレヴァート士官学校の〇〇。
間違いないな。
ライク・ツー…………。
反乱軍幹部揃ってだんまりか。
まぁ、それが一番賢い。
反乱軍幹部単刀直入に言おう。
お前たちを生かして連れてきた理由は1つだ。
反乱軍幹部我々に協力してもらう。
世界帝の治世を取り戻すための、自由の戦いに。
反乱軍幹部連合軍などという下らんものへの忠誠を捨て、
偉大なる世界帝の御許に侍れ。
主人公【…………】
【考える時間がほしい】
反乱軍幹部ははっ、すぐには答えないか。それも当然だな。
ここで「御意に」と言われたところで、
我々もお前たちを信用できない。
反乱軍幹部時間ならたっぷりくれてやる。
よくよく考えることだ。
反乱軍幹部ただし……お前たちが拒否したらどうなるか。
それはわかっているだろうな?

男は拳銃を取り出すと、
銃口を〇〇に突きつける。

ライク・ツー……っ!
反乱軍幹部どうする、従うか?
それとも……ここで死にたいか?

第8話:危険地帯2

ライク・ツー……はーぁ。
馬鹿馬鹿しいな。
反乱軍幹部……なんだと?
ライク・ツー聞こえなかったか?
雑魚が喚いて、馬鹿みたいだっつったんだ。
ライク・ツー世界帝の治世を取り戻す?
おいおい、冷静に考えてみろ。無理だろ。
ライク・ツー世界帝アシュレーはもういない。
そうだろ?
ライク・ツー……誰にでも、曲げられないことはあるよなぁ。
俺にとってのそれは──
ライク・ツー……負け組には手を貸さないってことだ。
反乱軍幹部……我々が、負け組だと?
反乱軍兵士1貴様……自分の立場がわかっているのか!
ライク・ツーぐっ!
ライク・ツー立場がわかっているのか、だって?
……それは、お前の方だろ。

その時、部屋の扉が音を立てて開いた。
何者かが侵入すると同時に、銃声が鳴り響く。

反乱軍幹部ぐああっ!
反乱軍兵士1司令官っ!
反乱軍兵士1ぎゃああっ!!
???……おや。
これはこれは、思わぬ収穫だ。
反乱軍兵士1き、貴様、は……!?
???君に用はないよ。黙っていてくれるかな。
反乱軍兵士1……うっ!

素早い身のこなしで敵兵を無力化したのは、
戦場にありながら優美さすら漂わせる、
1人の軍人だった。

???隙を作ってくれてありがとう。
ライク・ツー……だっけ。
ライク・ツーああ。
主人公【どういうこと?】
【知り合い?】
ライク・ツー……こいつが扉の向こうから俺に合図してきたんだよ。
突入するって。〇〇は逆向きで
座ってたから見えなかったんだろうが。
エルメ俺はDG3──コードネームはエルメ。
世界連合軍ドイツ支部に所属する貴銃士だよ。
エルメそちらは、フィルクレヴァートのマスターと、
その貴銃士ライク・ツーだね。
エルメ君たちがドイツへ来たという報告は受けていたけれど、
まさかこんなところで捕虜になっているとは、驚いたな。
エルメさぁ、縄は解けたよ。
さて、安全なところまで戻るために、
もうひと頑張りしないとね。
エルメ──ついておいで。

???──絶対非道ッ!
反乱軍兵士2ぐぁっ!
???おうおう、どうした!
張り合いのねぇ奴らばっかりだな。
そんなんじゃあっという間に死んじまうぜ?
ライク・ツーあいつは……!?
エルメそんなに警戒しなくても大丈夫。
あれはDG36──ジーグブルート。
ドイツ支部所属の貴銃士で、俺の後継だよ。
エルメまあまあ出来はいいんだけど、
ちょっとお馬鹿さんな困った子でね。
ジーグブルートちょこまかと鬱陶しいんだよ。
消えちまいな!
反乱軍兵士3う、うわぁぁあっ!
反乱軍兵士4だめだ、逃げろ!
ジーグブルートん? 弾切れか。
それなら──心銃!
エルメまったく、ジグはまた考えなしに暴れて……。
あとでドライゼにお灸を据えてもらわないとね。

絶対非道を乱発して敵兵を蹂躙するジーグブルート。
それを横目に、エルメは表情一つ変えず、足を進める。

ライク・ツー(……なんなんだ、あいつ。
絶対非道を連発して……
あんなんじゃマスターが持たねぇぞ)
ライク・ツー(肝心のマスターの姿は見当たらねぇが……
古銃のドライゼがいるっつってたし、
そいつがマスターの傷を治しつつ戦ってんのか?)
エルメ……何をぼーっとしているの?
こっちだよ。

エルメドライゼ、戻ったよ。
ドライゼ……エルメ。
その軍服の汚れはなんだ。
エルメふふ、当然、全部返り血だよ。
敵のアジトが狭くて、至近距離で撃ったからね。
俺は無傷だから、ご心配なく。
ドライゼ…………。
軍服を汚すな。
拠点に帰還次第、すぐに身だしなみを整えろ。
エルメ了解。
ああ、そうそう。
ちょっと面白い拾い物をしてきたよ。
エルメフィルクレヴァートのマスターと
UL85A2の貴銃士、ライク・ツー。
主人公【救出していただきありがとうございます】
ドライゼ……反乱軍鎮圧作戦を遂行したまでだ。
お前たちを助けに来たわけではない。
作戦完了まで少し待っていろ。
ライク・ツーなんだよ、あいつ。偉そうだな。
エルメふふ、実際偉いからね。
ドライゼは、前線で戦う師団を率いる特別司令官だよ。
そして俺は、その補佐。
ライク・ツー貴銃士が師団を率いてんのか……。

エルメ……さて、ほぼ片づいたみたいだね。
ドライゼシュトゥットガルト拠点へ帰還する。
お前たちも同行しろ。
ジーグブルート……おい、待て。
連中がお出ましだぞ。
アウトレイジャー…………。
主人公【アウトレイジャー!?】
【数が多い!】
ジーグブルートくく……そうこねぇとなぁ?
ただの弱ぇ人間が相手じゃつまらねぇ。
てめぇらを待ってたんだよ! ははははっ!
ドライゼ……笑うな。ジーグブルート。
貴様の声は不愉快だ。
ドライゼアウトレイジャーが出現した!
兵士は後方に控え、貴銃士の援護に回れ!
連合軍兵士たちJawohl!
ドライゼエルメ、ジグ。やれ。
エルメJawohl。
……絶対非道!
ジーグブルート絶対非道ォ!

2人の貴銃士が戦うさまを、ドライゼは静かに
見つめている。そのそばにマスターの姿はなく、
彼が絶対高貴を使う様子もない。

ライク・ツー(……あいつら、
あんなに絶対非道を使っていいのか?)
主人公【加勢しよう】
【助けてもらったお礼をしないと】
ライク・ツーりょーかい。
……へたばんなよ、マスター?

第9話:マスターの命1

アウトレイジャーギャァァアアア!!!
ライク・ツーちっ、微妙に撃ち漏らした奴がいるな……!
ジーグブルートおーら、消し飛べ! 心銃!
アウトレイジャーグァァッ……!
ジーグブルートん? あと1匹しぶてぇのがいるな。
最後に一発、派手にかましてやるか。
エルメ……ジグ。効率の悪い攻撃はやめるんだ。
じゃないと──。
ジーグブルート……るせぇな、黙って見てろ。
俺はお前の後継に相応しい、
最高の成功作様なんだからよ!
ジーグブルート心銃──……クソッ!
エルメ……ほらね。
ジーグブルートあと少しだってのに……あいつ、死にやがった!
ざけんじゃねぇぞ!
ジーグブルート使えねェ、消耗品がァ……ッ!!
──……!
ライク・ツー……っ、銃に戻った……?
エルメはぁ……まったく。だから止めたのに。
ジグは学ばないね。本当にお馬鹿さんだ。
毎度銃を回収する俺の身になってほしいよ。
ライク・ツー…………。
ライク・ツー(どういうことだ……?
『毎度』って……まさか……!)
ドライゼアウトレイジャーの無力化を確認。
──総員、帰還せよ!
ドライゼシュトゥットガルトへ急げ!
態勢を立て直すぞ!
兵士たちJawohl!
ライク・ツー……おい、エルメ。
エルメなんだい?
ライク・ツーさっき、ジグって奴が銃に戻る時、
『死にやがった』とか言ってたが……。
ライク・ツー……まさか、あいつのマスターが、死んだのか?
エルメああ、そうみたいだね。
ジグはああやって無茶をするから、
マスターがなかなか長持ちしないんだ。
エルメこの戦いの前から、既に結構危うい状態でね。
だから、ジグにはもう少し
ペース配分を考えてほしかったんだけど……困った子だよ。

まるで天気の話でもするかのような様子のエルメに、
〇〇もライク・ツーも硬直する。

ライク・ツーおい、死んだのはマスターだぞ。
お前のマスターじゃねぇとは言っても、
もう少し何か思わねぇのかよ。
エルメ何かって……何を?
数多のマスターのうち、1人が戦死した。
戦いの場では、やむを得ないことだろう?
ライク・ツーは……?
エルメマスター候補は大勢いるんだから、
戦いに勝つことよりも、
マスターの命を優先する理由がない。
ライク・ツー……じゃあ、お前はなんであの時、
ジーグブルートを止めたんだよ!
エルメそれはね、ジグが銃に戻ったタイミングがまずいんだ。
エルメアウトレイジャーが残っている状態で、
敵地の真ん中で……って。最悪にもほどがあるでしょ?
エルメ貴銃士になる素質がある希少な銃を、
みすみす敵に渡すようなものだからね。
壊されても困るし。
ライク・ツー……本当に、
マスターのことはどうでもいいんだな。
エルメ別に、どうでもよくはないよ。
マスターが優れた軍人なら、
できるだけ長く命が続いてほしいと思うしね。
エルメでも前線ではみんな、命がけで戦ってる。
俺たちだって、いつ銃本体が壊れて、
消滅してしまうかもわからない。
エルメ『マスター』という存在が他の兵士と違うのは、
いつ死ぬか、はたまた生き残るかわからない、
完全な運任せじゃないってことくらいじゃないかな?
エルメ緩やかに、だけど確実に死に向かう。
結果がわかっているだけ、
覚悟も決めやすくて結構なことだと思う……かな。
エルメさて、車両の準備ができたみたいだ。
行こうか。
ライク・ツーあいつら、マジでマスターを消耗品だと思ってんのか……?
ライク・ツー……おい、〇〇。
俺のそばから離れるなよ。
ここから先、マスターの命はずいぶんと軽そうだ。
主人公【……わかった】
【……用心しよう】
ライク・ツー恩人にちょっと会いに行く予定が、
とんでもねぇ方向に狂ってきやがったな……。

ドライゼさて、聞かせてもらおうか。
フィルクレヴァートの生徒が、
なぜあんな場所にいたのかを。
ドライゼマスターとはいえ、随伴が貴銃士1名だけで、
指令もないまま内乱の最前線へやって来るとは、
理解に苦しむ所業だ。
主人公【恩人を探しに来たんです】
【恩人がニュルンベルクに発ったと聞いて……】
ドライゼ……度しがたい無謀さだな。
そんな個人的な用件でここまで来た挙げ句、
捕虜になっていたのか。
ライク・ツーおい、それより、
この車はどこに向かってんだよ。
ライク・ツーさっきは、シュトゥットガルト?に行くとか
言ってたけど……
前線はニュルンベルクじゃなかったのか?
ドライゼ……お前たちが先ほどまで囚われていた地点が、
そのニュルンベルクだ。
ドライゼ今朝、フランクフルトからの増援が来る前に
敵の襲撃があり……大規模戦闘ののちに
我々はシュトゥットガルトへと後退した。
エルメ兵士たちの一部が捕虜にされたから、
守りが手薄な敵の拠点に攻め込んで、
兵士たちを奪還したのがさっきの作戦だよ。
主人公【ダンロー・ユリシーズ少佐の安否は!?】
ドライゼ……ユリシーズ少佐、だと?
ライク・ツーなんか知ってんのか?
ドライゼ……ついて来い。

 

第10話:マスターの命2

ドライゼ…………。
兵士1……! ドライゼ特別司令官がお戻りだ!

兵士のひと声で、拠点にいた兵士たちが
一斉に左右に分かれて道を作り、敬礼する。

敬礼した彼らは、まるで石像のように微塵も揺らぐことなく、
士官学校の比ではない張り詰めた雰囲気に、
〇〇は息を呑んだ。

ライク・ツーうお……。
主人公【すごい士気だ……】
【これが、ドイツ支部……】
ライク・ツー(兵士1人1人が相当鍛え上げられてる。
統率力も申し分ないのに苦戦してるとか……
反乱軍はどんだけ手強いんだ?)
ドライゼ各隊、報告を。
兵士たちはっ!
兵士2捕虜となっていた兵士68名中、54名を救出!
生存者は51名、14名は依然安否不明です。
負傷者の手当てを急ぎます!
兵士3救出作戦に参加した隊は、死者なし!
負傷者は5名でいずれも軽傷です!
ドライゼよくやった。
補給部隊、報告を。
兵士たちはっ!
兵士3フランクフルトから物資が届き、弾薬、医薬品、
各種食料とレーションの補填が完了しました!
ドライゼご苦労。
……報告書を見ておこう。ペンを。
兵士たちどうぞ!!!
ドライゼうむ。
ライク・ツー……なんか……色々とすげぇな……。

──30分後。
〇〇たちはドライゼに呼ばれ、
拠点内の一室へと足を踏み入れた。

ドライゼ〇〇候補生、入ってくれ。
ダンロー…………。

室内にはドライゼの他に、50代くらいの男性がいた。
その体つきは軍人らしく鍛え上げられたものだが──

一目でわかるほど、ひどく衰弱していた。
顔色は白く、やつれ果てている。

ドライゼ紹介しよう。私とエルメのマスター、
ダンロー・ユリシーズ少佐だ。
主人公【この方が……!?】
【ダンローおじさんが、マスター!?】

〇〇が慌てて彼の手元を見ると、
そこにはくっきりと、赤い薔薇の傷が刻まれている。

薔薇の傷は茨のように伸びており、
手首を越え、腕の方まで続いていることが見て取れた。


エルメ数多のマスターのうち、1人が戦死した。
戦いの場では、やむを得ないことだろう?
エルメマスター候補は大勢いるんだから、
戦いに勝つことよりも、
マスターの命を優先する理由がない。

主人公【(おじさんが会いたがった理由って……)】
【(これが、嫌な予感の正体……)】
ダンロー君が……そうか。
……会えてよかったよ。
天に感謝しなくてはいけないね。
ダンロー……私は、ダンロー・ユリシーズ。
世界連合軍ドイツ支部特別司令官補佐──
ダンロー──君と同じ、『マスター』だ。
ダンロー立派に育った君を一目見たいという
私の我儘な願いは、叶えられた。
ダンロー……来てくれてありがとう、〇〇。
早く士官学校に帰りなさい。
ダンロー身体に気を付けて、いつまでも、元気で……。
ダンロー……話は済んだ。
ドライゼ特別司令官、私はこれにて退出します。
ドライゼああ。
主人公【待ってください!】
【もっと話を……!】

振り返りもせずに、ダンローは会議室をあとにする。
〇〇はその背中を呆然と見送った。

ライク・ツーおい、大丈夫か。
エルメ……おや、話は済んだみたいだね。
ドライゼエルメ。
エルメ君が着替えろってうるさいから、
新しい軍服を下ろしてきたよ。
これで満足かな?
ドライゼ……お前ほどの力量があれば、
無駄に汚れることなく任務を完遂できるはずだ。
エルメそうは言ってもねぇ。戦場でいちいち
血しぶきを避けて動くなんて、現実的じゃないよ。
エルメ……ま、君は『司令官』で、返り血とは無縁だから、
ピンとこないかもしれないけれど。
ドライゼ…………。
あとは任せる。
エルメふふ……了解。
エルメ……さて、ドライゼから君たちを任されたわけだけど、
これからどうしようか。
ライク・ツーどうするもこうするも、
用は済んだから俺たちは帰る。
エルメところが、残念ながらそうはいかないんだ。
エルメ今朝も大規模戦闘があったばかりだし、
そこら中をアウトレイジャーが徘徊してる。
君たち2人だけで安全に帰れるとは思えない。
エルメそれに、この拠点は最前線だから、
君たちの護衛に余計な人手を割けないんだよね。
エルメ明日の朝増援が来て、君たちの護衛を確保できる。
だから、今日はここに滞在することをおすすめするよ。
主人公【わかりました……】
【ご迷惑をおかけします】
エルメ素直なのはいいことだ。
それじゃあ、まずは基地を案内しよう。
ついておいで。

第11話:マスターの命3

エルメの案内で、〇〇たちは
ドイツ支部シュトゥットガルト拠点を見て回った。
中規模の拠点ながら、施設はかなりしっかりしている。

ライク・ツーあっちに見えるのはなんだ?
エルメああ、あれはチャペルだよ。
毎朝礼拝をやってるから、
君たちも興味があるなら参加するといい。
ライク・ツーへぇ、チャペルねぇ。
ここの雰囲気からすると、なんか意外だな。
エルメ……雰囲気? 何か変だったかな。
主人公【空気が重く張りつめている感じがします】
【皆さんピリピリしている様子で……】
エルメそう? 普通だと思うけど……。
まぁ、実戦とは無縁の士官学校と前線の拠点じゃ、
緊張感が段違いなのは当然かな。
エルメそれに、屈強な兵士であっても、
生死の垣根がすごく低いここでは、
何か心の拠り所になるものは必要なんだろうね。
ライク・ツーそう言うあんたは、あんまり興味なさそうだな。
エルメふふ……そうだね。
俺は信じるものはないかな。
エルメでも、ドライゼは違う。
彼は革命戦争の英雄、ドライゼを崇拝している。
エルメ彼のようにあらねばと、敬虔で崇高な意思を持ち、
常に自分を厳しく律しているよ。
エルメ前線をあずかる特別司令官がそうだから、
兵士たちも自律心が強くて、統率が取れている。
エルメ俺は召銃されてからドイツを出たことはないけど……
ドライゼが率いるこの軍は、世界的に見ても
相当に優秀だって、自信を持って言えるよ。
ライク・ツー……だろうな。
ここまでの軍は、そうそうないと思うぜ。
ライク・ツー兵が有象無象の存在じゃなくて、
1人1人が鍛え上げられてる強兵、
おまけにとんでもなく統率されてる。
エルメ君、話がわかるね。
ジグも、君くらい思考できるといいんだけど。
俺の後継機だっていうのに……まったく嘆かわしいよ。
ライク・ツー(ジグって……
あのジーグブルートとかいう野郎のことだよな)
ジーグブルートあと少しだってのに……あいつ、死にやがった!
ざけんじゃねぇぞ!
ライク・ツー(いや、あの野郎と比べて頭を褒められても、
嬉しくねーし複雑なだけなんだけど……)
エルメああ、それから、ユリシーズ少佐の存在も大きいね。
主人公【ダンローおじさんが……?】
【そういえば、ベルリンでは有名人だとか】
エルメそう。以前、彼が指揮した作戦で、
死にかけた若い兵士たちの命を救ったことがあったそうでね。
エルメその美談が広まって、
兵士たちからとても慕われているみたいなんだ。
エルメ彼は優れた軍人だし、
自分の役目を理解していて、迷いがない。
理想的なマスターだと言えるだろう。
エルメ軍の上層部としては、兵たちの信頼が厚い少佐を
マスター……ある種の人質にすることで、
兵たちを鼓舞しようという考えなのかもね。
エルメ少佐の命が尽きる前に、この戦いを終わらせるんだ、
……っていう風にさ。
ライク・ツーそんなマスターを死なせたら、
兵の士気にも関わるんじゃねぇのかよ。
エルメそれは問題ないんじゃないかな。
エルメ彼自身、そう言っているしね。
死は覚悟の上で、マスターとしてドイツ支部の
大きな力になれることを誇らしく思うって。
エルメだから、もし彼が戦いの途中で命尽きても、
兵たちは自棄にならずに、彼の遺志を継いで、
より高い士気で任務に当たってくれることだろう。
ライク・ツー……そいつは、ご立派なことで。
主人公【…………】
エルメさて、案内はこれで十分だね。明日の昼頃には、
君たちを連れてベルリンへ発てるはずだから、
それまで自由に過ごしているといいよ。
エルメただし、共有空間では身だしなみを整え、私語は慎むように。
ドライゼ特別司令官は、規律を重んじるからね。
主人公【わかりました】
エルメ……それじゃあ、俺はこれで。

ライク・ツー……あいつ、ダンローが〇〇の恩人だって
わかってるよな?
道具としか思ってないような言い草だった。
ライク・ツー……さて。
気分は悪いが、一応、目的は達成したぜ。
ライク・ツー明日の昼にはここを出られる。
上手くいけば、俺たちの方が手紙よりも早く
士官学校に着いて、手紙も握りつぶせるだろう。
ライク・ツーそうすれば、俺たちが前線に向かったことは
バレずに済む。よかったな、〇〇。
優等生の体面は保てそうだぞ。
主人公【…………】
ライク・ツーおい、〇〇?
主人公【このままだと、おじさんは死んでしまう】
【まだ、帰るわけにはいかない】
ライク・ツーはぁ……? まさか、ここに残るつもりか!?
あいつに会ったら帰るって話だっただろうが。
ライク・ツーそれに、他でもないあのおっさん自身が、
お前に手紙を出した時点で死ぬつもりで、
最後に一目会いたいって言い出したんだろ。
ライク・ツーおっさんにしても目的は達成できたんだし、
これ以上俺たちがここに残る理由はねぇ。
ライク・ツー……ま、俺でもここのやり方には思うところがあるし、
恩人がほぼ確実に死ぬことになるお前は、
簡単に引き下がれねぇってのはわかるけどよ。
主人公【おじさんを見殺しにできない】
【何か手はあるはず】
ライク・ツーおっさんを死なせずに済む方法っつったら……
絶対高貴しかねぇな。
ライク・ツーでも、エルメの話だと、ドイツ支部ではこれまでに
何人もマスターが死んでるらしいし……。
ライク・ツー恐らくドライゼは、絶対高貴になれないんだろうな。
じゃなければ、治療できるはずだ。
主人公【士官学校から応援を呼ぼう】
【ラッセル教官に連絡しよう】
ライク・ツーラッセルやら恭遠に上手いこと根回ししてもらって、
ドイツ支部の応援に、俺たちを捻じ込むか。
ライク・ツー実際、反乱軍とアウトレイジャーの相手で
ドイツ支部は苦戦してるわけだし、
許可も下りるんじゃないか?
ライク・ツーお前は腹芸が苦手そうだし、
連絡には俺も立ち会ってやるよ。
主人公【……協力してくれるんだ】
【……手伝ってくれて、ありがとう】
ライク・ツー……ふん。
ライク・ツー乗り掛かった舟ってやつ。
俺も乗っかった以上沈没するわけにはいかねぇし、
仕方ねぇからジョージたちが来るまでは手伝ってやる。
ライク・ツーほら、そうと決まれば、
まずはこっちで話をつけるぞ。
肝心のドイツ支部に拒否されたらお終いだからな。

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