ケンタッキーの後を追いかけて建物の外に出ると、
2人の男がこちらに歩いてくるところだった。
マークス | ……ん? あいつは、さっきの……。 |
---|---|
??? | ああ……。奇遇だな。 こんなところで何してるんだ? |
ケンタッキー | お前こそ……何しに来やがった! ペンシルヴァニア……!! |
マークス | え、あんたがペンシルヴァニアなのか……? |
ペンシルヴァニア | ……そういえば、名乗っていなかったか。 |
ペンシルヴァニア | 俺は貴銃士、ペンシルヴァニア。 開拓者たちの相棒として、アメリカの大地で過ごしていた。 |
ペンシルヴァニア | ライフリングが刻まれているから、狙撃が得意で…… ケンタッキーは……弟分だな。 |
ケンタッキー | うるせぇ! お前の弟分とか言われたくねぇんだよ! 今さらどの面下げて─── |
??? | 待て、待ってくれ! すまなかった、ケンタッキー。 |
ケンタッキー | マ、マスター……! |
ジョージ | なぁ、あのおっさんは誰なんだ? |
ジュディス | 彼はマイケル・ダイアモンド。 ケンタッキーさんとペンシルヴァニアさんのマスターでーす! |
マイケル | 聞いてくれ、ケンタッキー。 俺たちは、絶対高貴になるためのヒントを求めて アメリカ各地を旅してまわっていたんだ! |
ケンタッキー | え……ってことはまさか、 ペンシルヴァニアはなれたんっすか……? |
マイケル | いや……それは、まだなんだが……。 |
ペンシルヴァニア | ……旅の途中で仲間が増えたんだ。 お前に紹介したいと思って……それで、戻ってきた。 新しい弟分だぞ、ケンタッキー。 |
ケンタッキー | は、はぁ!? |
ペンシルヴァニア | お前も……名前はよく知っているはずの銃だ。 |
白い軍服の少年 | …………。 |
ペンシルヴァニアの陰に隠れていた少年は、
ほとんど無に近い暗い表情で俯き、黙ったままだ。
ケンタッキーとは、目を合わせようともしない。
ジョージ | ……あれ? あいつって……。 |
---|---|
ペンシルヴァニア | 紹介する。 俺たちの新しい仲間……スプリングフィールドだ。 |
スプリングフィールド | …………。 |
ケンタッキー | えっ……! |
ジュディス | ……スプリングフィールド……? |
ケンタッキー | おい、お前、本当にスプリングフィールドなのか!? |
駆け寄ったケンタッキーは、スプリングフィールドの肩を掴み、
顔を覗き込んで視線を合わせる。
しかし、スプリングフィールドは、固い表情で目を逸らした。
ケンタッキー | (……ビビってんのか? つーか、コイツの銃……) |
---|---|
スプリングフィールド | …………。 |
ケンタッキー | ……おい。ペンシルヴァニア。 |
ケンタッキー | ……こいつは、 俺が知ってるスプリングフィールドじゃねぇだろ。 |
主人公 | 【どういうこと……?】 →ケンタッキー「スプリングフィールドには、 最初の1795年製のやつからすげー最近のまで、 いろんなモデルがあるんで。」 【そういえば、スプリングフィールドって……】 →ケンタッキー「うす。 スプリングフィールドってのは造兵廠(ぞうへいしょう)の 名前なんで。そこで作られた銃は、 だいたいがスプリングフィールドって名前なんっす。」 |
ケンタッキー | 同じ“スプリングフィールド”でも、 18世紀の古銃もありゃ、割と最近の現代銃もある…… 昔のと新しいのじゃ、完全に別物の銃っすよ。 |
ケンタッキー | 俺の戦友だったのは、スプリングフィールドA1795。 フランスのシャルルヴィルをモデルにして作られた、 アメリカ初の国産軍用銃で、米英戦争で使われた銃っす。 |
ケンタッキー | こいつは……俺が知ってるスプリングフィールドじゃねぇな。 んー……めちゃくちゃ新しいってわけでもねぇし、 南北戦争あたりとかか……? お前、モデルは? |
スプリングフィールド | ……っ。 |
ケンタッキー | あ? 無視かよ。……感じ悪ィな! |
ペンシルヴァニア | ケンタッキー……たとえモデルは違っても、 アメリカのために生まれた銃で、ゆかりはあるだろう? |
ペンシルヴァニア | 後輩……いや、弟分だ。 3人で仲良くやっていこう。 |
ケンタッキー | …………。 ……っ。仲良く、だと……? |
ケンタッキー | ……ふっざけんなよ!!! |
スプリングフィールド | ……っ。 |
ケンタッキー | 仕事丸ごとほっぽり出して、マスターまで巻き込んで 勝手に旅に出て今さら帰ってきたあげく、 ろくに知らねぇ“弟分”ともども仲良くだと!? |
ケンタッキー | 自分勝手なことほざくのもいい加減にしろ!! |
ケンタッキー | どうせてめぇは、こいつの世話を好き勝手焼いたあと また仕事みてぇに放り出すんだろう!? |
ペンシルヴァニア | ……ケンタッキー……! |
スプリングフィールド | …………。 |
マイケル | ケンタッキー、違う。 それは……! |
ケンタッキー | 何が違うって言うんすか、マスター! こいつのせいで、俺がどんな思いを───……。 |
大統領 | Hey! |
大統領 | そこにいるのは、ペンシルヴァニアじゃないか! マイケルも、いつの間に戻っていたんだ! |
マイケル | Mr. President! ついさっきですよ。 |
大統領 | Wow! そうだったのかい。 いやぁ、久しぶりに会えて嬉しいよ。 |
大統領 | おや、そっちにいるのは…… その制服は、フィルクレヴァート士官学校の? もしかしてYouが、〇〇君かい? |
主人公 | 【はい、〇〇です!】 【はじめまして、Mr. President】 |
大統領 | Nice to meet you! イギリスからはるばるよく来てくれたね、〇〇君。 そして、貴銃士たちにMr.グランバード! ラッセル曹長! |
大統領 | キミたちを心から歓迎するよ! そして……そこの見慣れない少年は? |
マイケル | 紹介します。 偉大なる合衆国の新たな貴銃士、スプリングフィールドです! |
大統領 | ……スプリングフィールド? |
大統領 | ……HAHA! そうか、ずいぶん大人しいから驚いた! ようこそ、スプリングフィールド! |
大統領 | イギリスからの素敵なお客人に、 我が国の新しい貴銃士のおでましか! これは……こんなところでグズグズしちゃいられないな? |
大統領 | ふむ……11時過ぎか。 キミたち、ランチはまだだろう? |
ケンタッキー | ……ランチどころか、3日も寝てねぇっす。 どっかの自己チュー野郎のせいで。 |
大統領 | HAHAHA! では移動中に仮眠をとるといい! 今日の公務はキャンセルだ。 私から秘書官に言っておこう! |
ケンタッキー | え? |
大統領 | 仲良くなるには、まず握手! 笑顔!! そして……Wonderfulな食事だ! OK!? |
大統領 | というわけで、いざ……ビーチへ、Let’s Go☆ |
ジョージ&マークス | ビ、ビーチ!? |
リムジンに乗り込んで1時間───。
一行が到着したのは、資産家でもあるという大統領が保有する
プライベートビーチだった。
そこには既に、巨大な薪コンロやスモークグリル、
肉を中心とするたくさんの食材が用意されている。
職員たち | イェーイ! 皆さん、ようこそ! 一緒にBBQを楽しみましょう! |
---|---|
ジョージ | やった〜〜〜! BBQ!! オレ、すっげー肉食いたい気分だったんだ! |
マークス | これが本場のBBQか……! すっげぇ! |
大統領 | やあ! みんな、イギリスからのお客人と、 新たな貴銃士を紹介するよ。 |
大統領が、恭遠や〇〇、貴銃士を紹介するごとに、
スターズハウスの職員たちだという参加者が、
わっと拍手をし、歓声をあげた。
ケンタッキーは移動中に車内で眠ってしまい、
そのまま仮眠をとっているようで姿が見えない。
大統領 | さぁ、楽しんでくれ! 我が家に伝わるジャークチキンやポークチョップ、 それからビーフパテもあるぞ。 |
---|---|
マークス | ……っ! さっきのステーキ屋のが戦車なら……これは戦艦だ……! |
ジョージ | すっげぇ〜! あのTank Steakの10倍くらいある! |
ずらりと並ぶ肉は、どれもスケールが違う。
1ブロックで数キロはありそうな骨付き肉に、
よく肥えた丸鶏まであった。
職員 | このスモーカーグリルでじっくり火を通すのよ! 完成まで6時間! |
---|---|
ジョージ&マークス | ろ、6時間!? |
ジョージ | そんなぁ〜! 待ってる間に腹ペコで死んじまうよ〜。 |
職員 | あははっ、安心して。冗談よ! 朝から仕込みをしておいてもらってるの。 もうすぐ焼き上がるから楽しみにしていてね! |
ジョージ | よかった〜! でもオレ、もう1分も待てないよっ! なぁ、すぐ食える肉とかないのか〜!? |
大統領 | リブやバラの塊肉を、大きなスモーカーグリルで じっくりゆっくり焼き上げる……。 ワイルドさと繊細さが、アメリカンBBQの真髄なんだけどね。 |
大統領 | 小さな肉をみんなで焼きながら食べるのも、 楽しいコミュニケーションに繋がっていいものさ☆ というわけで、まずはそちらを楽しもう! |
マークス | この鉄の串に刺さっている肉だな。 マスター、焼き加減は俺に任せてくれ。 |
オープングリルで焼かれている肉を、
マークスは時々動かしながら、真剣に睨んでいる。
ペンシルヴァニア | よし……そろそろ食べ頃だぞ。 |
---|---|
マークス | いや、まだだ! 生焼けだと腹が痛くなるんだ……! 俺は何度か酷い目に遭っている。 |
恭遠 | マークス……! 生肉の危険性を覚えたのか。素晴らしいな。 |
マークス | 俺は、マスターに治療してもらえたらなんとかなるが…… マスターの場合は、そうはいかない。 あの苦しい思いを味あわせないように、よーく焼かねぇと……! |
───十数分後。
マイケル | Oh……こいつは……。 |
---|---|
マークス | そんな……黒焦げだ……。 マスター、すまない……こんなはずじゃなかったのに……。 |
主人公 | 【大丈夫、まだ食べられる】 【香ばしくて、これはこれで……】 |
マークス | くっ……俺のために無理をしないでくれ、マスター……! 次こそ上手くやる、待っていてくれ。 |
ジョージ | なぁ、マークス! このポークチョップってやつ、すげー美味いぞ! 〇〇も食ってみろって。 |
マークス | ぐっ……! いや、俺はマスターに完璧な肉を焼くまで食わん。 |
マイケル | その意気だ、マークス! トライ&エラーを繰り返して人は成長していく。 諦めないチャレンジ精神がNiceだ! |
大統領 | ……おや、マスター同士すっかり仲良くなったようだね。 |
大統領 | どうだい? アメリカ滞在は楽しめそうかな。 |
主人公 | 【はい!】 【既にとても楽しんでいます】 |
大統領 | それはよかった! 我々がMr.グランバードに協力を要請したせいで、 キミたちの夏休みの予定がパーになったと聞いてね。 |
大統領 | アメリカ支部のアウトレイジャー対策について、 実際に見てもらったうえで、彼の意見が欲しくて…… 協力要請は取り消せないが、代わりにとキミたちも呼んだのさ☆ |
大統領 | キミたちには、この近くに五つ星ホテルを用意した。 オーシャンビューの素晴らしい部屋だよ、楽しんで! |
主人公 | 【ありがとうございます!】 【目一杯楽しみます!】 |
ケンタッキー | あー、俺も改めて挨拶、いいっすか? |
ケンタッキー | アメリカの貴銃士、ケンタッキーっす。 ……さっきは、イラついてて みっともないとこ見せてすんませんっした。 |
ケンタッキー | ちょっと仮眠取って、頭冷やしました。 |
ジョージ | 気にすんなって、ケンタッキー! 3日もロクに寝てなかったんだぜ? 無理もないって! |
ケンタッキー | ……サンキュ、ジョージ。 |
ペンシルヴァニア | おーい、ジャークチキンが焼けたぞ。 どんどん取ってくれ。 |
大統領 | Hi、ペンシルヴァニア! 旅はどうだった? 絶対高貴にはなれたかい!? |
ペンシルヴァニア | Mr. President…… いや、それがまだなんだ。 |
大統領 | Oh……そうだったのか。 |
ペンシルヴァニアとマイケルが、
大統領と旅の道中の話を始める。
ジョージ | 話盛り上がってるな〜。 けど、チキンが冷めちまう! |
---|---|
ケンタッキー | ふん、ペンシルヴァニアの野郎が喋ってる間に、 美味そうなヤツは全部食ってやる……! |
ケンタッキー | ……ん? |
ケンタッキー | (スプリングフィールドの奴、いねぇと思ったら……。 あんなとこで何やってんだ……?) |
スプリングフィールドは、
BBQの輪から外れたところにポツンと立っている。
スプリングフィールド | …………。 |
---|
警戒するように周囲を見回したスプリングフィールドは、
BBQのゴミが集められている袋の中から、
スペアリブの骨をいくつか拾い上げた。
ケンタッキー | ……? |
---|---|
ジョージ | ん? どうしたんだ、ケンタッキー。 肉、食べないのか? |
ケンタッキー | いや、あれ……。 |
ジョージ | ん……? スプリングフィールド? あんなとこで何してるんだろう……? |
ゴミ袋から取ったスペアリブの残骸を持ち、
スプリングフィールドは岩陰に消えていく。
ジョージ&ケンタッキー | ……? |
---|
ケンタッキーとジョージは顔を見合わせたあと、
その背中を追いかけた。
ケンタッキー | あいつ、何してんだ……? 野良犬にでも残飯やるつもりか? |
---|---|
ジョージ | さぁ……? それか、サメを集めて遊ぶとか! |
ケンタッキー | あいつにそんな度胸あるようには見えねーけど……。 |
やがて、岩陰でスプリングフィールドが屈み込む。
何をしているのかとそーっと様子を窺った2人は、
信じられない光景を目にして絶句した。
───スプリングフィールドは、
食べ残しの骨についた、わずかな肉を齧っていたのだ。
ケンタッキー | お前、何やってんだ! |
---|---|
ジョージ | それ、ゴミ袋に入ってたヤツだろ!? マークスみたいに腹壊すぞ!? やめろって! |
スプリングフィールド | ご、ごめんなさい……っ! |
ケンタッキー | 謝る必要はねぇけどさ! 何してんだよ! そんなもんコソコソ食わなくても、 肉なら焼き立ての美味いやつが山ほどあるだろうが! |
スプリングフィールド | ごめ、んなさっ……すみません……! |
ケンタッキー | だから、謝らなくていいって言ってんだろ! 意味わかんねぇな、お前。 |
スプリングフィールド | す、すみま……。 |
波の音に紛れてもなお隠し切れないほど、
大きくお腹が鳴る音が、スプリングフィールドから響く。
ジョージ | あれっ? おまえ、もしかして何も食べてないのか? |
---|---|
ケンタッキー | はぁ? なんで腹減ってんのにゴミなんか……。 とりあえずこれ、食えよ! |
ケンタッキーは不可解な行動に眉をひそめながらも、
自分が持っている皿を、スプリングフィールドへ差し出した。
スプリングフィールド | …………。 |
---|
スプリングフィールドは、無言で首を振る。
ケンタッキー | おい……俺の肉は食えねぇっつーのかよ!? |
---|---|
スプリングフィールド | ……ない、ので……。 |
ケンタッキー | あ? |
スプリングフィールド | マスターの指示が、ないので……。 |
ケンタッキー | は? メシひとつ食うのにも指示待ちとか、 マスターもめんどくせぇだろ、そんなの。 いいから食え! |
スプリングフィールド | むぐっ……。 |
ケンタッキーがスプリングフィールドの口へ、
強引に肉を押し込む。すると、スプリングフィールドは、
ためらうようにゆっくりと咀嚼しはじめた。
スプリングフィールド | ……っ! |
---|
もぐ、もぐと数口噛んだ次の瞬間───
スプリングフィールドは目を大きく見開き、
勢いよくもぐもぐと噛んで、ごくりと肉を飲み込む。
ジョージ | な、美味かっただろ!? |
---|---|
スプリングフィールド | ……あ、ごめんなさ……。 |
ケンタッキー | ああ? 美味い肉に謝ったら逆に失礼だろ。 美味いなら美味そうな顔して食え。 |
スプリングフィールド | …………。 |
ケンタッキー | なんだよ、食いてぇならそう言えっての。 ……ほら、全部やるから、とにかく食え! |
ケンタッキーが差し出した皿を受け取ると、
スプリングフィールドは何も言わずに
肉をばくばくと食べ続けた。
ジョージ | おおっ……! いい食べっぷりだな! |
---|---|
ジョージ | オレのもいるか? そっちのとは別の肉もあるぜ☆ |
スプリングフィールド | ……っ、……! …………! |
スプリングフィールドは一心に食べ続ける。
その姿を見て、ケンタッキーは不思議な既視感を覚えた。
ケンタッキー | (こいつの、この目…… どこかで見たことがあるような……) |
---|---|
ケンタッキー | (……そうだ、思い出した。 これは、前に治安の悪い地区で見た、 飢えたガキどもの目とそっくりなんだ……) |
ケンタッキー | (あの時も、やせ細ったガキんちょに持ってた食べ物をやったら、 こんな風に貪るようにして食ってた……) |
ケンタッキー | (貴銃士でこんな風になるって…… こいつ、ただの無気力根暗野郎じゃないのか……?) |
ペンシルヴァニア | ……みんな、ここにいたんだな。 |
ジョージ | あっ、ペンシルヴァニア! 〇〇! それにマイケルも! |
主人公 | 【どうしてこんなところに?】 【3人で何をしてた?】 |
ジョージ | えーっと…… スプリングフィールドと肉食ってたんだ! |
ジョージ | って、マークスは? 〇〇と一緒じゃないなんて珍しいな。 |
主人公 | 【まだ肉と格闘してる】 【肉から目が離せないみたい】 |
ジョージ | HAHAHA! マークスのヤツ、すっかりBBQにハマったんだな! |
マイケル | スプリングフィールド、姿が見当たらないから心配したぞ。 だが、ケンタッキーとジョージと親睦を深めていたんだな。 それならよかった。 |
スプリングフィールド | い、いえ……。 そういう、わけでは……。 |
ケンタッキー | こいつが腹減ってんのに何も食わねーから、 肉を食わせてたんっすよ。 |
ジョージ | スプリングフィールドの食べっぷりがすごかったんだぜ☆ |
ペンシルヴァニア | ああ……なるほど。 そういうことだったのか。 |
ペンシルヴァニア | ケンタッキー、ジョージ。 スプリングフィールドを気にかけてやってくれて ……ありがとう。 |
ケンタッキー | あの一……。 こいつ、マスターの指示がなんとかって言ってたんスけど。 |
ケンタッキー | マスターは、よしって言うまで飯食うなとか、 そんな意味わかんねぇこと言うはずねぇし…… なんなんっすか、こいつ。 |
マイケル | ああ……すまない。 確かに俺がそう指示したんだ。 |
ケンタッキー | えっ……!? |
ペンシルヴァニア | ……スプリングがもう少し落ち着いたら、 改めて話そうと思っていたんだが……。 ケンタッキーにも、知っておいてもらった方がいいかもしれない。 |
マイケル | ……スプリング。 キミのことを、彼らに話してもいいかな。 |
スプリングフィールド | あ……。 マスターが、お望みでしたら……。 |
スプリングフィールドには追加の肉や野菜を渡し、
マイケル、ペンシルヴァニア、ケンタッキー、ジョージ、
そして〇〇の5人は、少し場所を移した。
ペンシルヴァニア | 俺たちとスプリングフィールドが出会ったのは、 復興の進みが鈍い地域の、ある路地裏だった……。 |
---|
ペンシルヴァニア | ここに化け物が出ると聞いたが……。 アウトレイジャーらしき気配はないな。 |
---|---|
??? | う、うぅっ……! |
ペンシルヴァニア | アウトレイジャー、なのか……? ……にしては、大人しいが……。 |
??? | あぁ……グッ……! げほっ、ごほっ……! |
??? | いや、だ……いや、だ……! あ……あ……っ!! |
アウトレイジャー化しているように見えるが、
その影が積極的に襲ってくる様子はない。
血を吐きながら、暴走する己を抑え込むように胸をかきむしり、
地面をのたうち回る。
その赤い目が、ペンシルヴァニアの姿を捉えた。
??? | ……た、すけ……て……。 |
---|---|
ペンシルヴァニア | ……! |
ペンシルヴァニア | そのまま……そいつは、力尽きて銃に戻った。 |
---|---|
ペンシルヴァニア | 俺は、必死で助けを求めてきた顔が忘れられなくて…… その銃───A1865を、マイケルのところへ持ち帰ったんだ。 |
ペンシルヴァニア | ……スプリングは、過去を喋らない。 だが……相当ひどい目に遭っていたのは、間違いない。 |
マイケル | 彼のマスターは、まともに食べ物を与えなかったんだろう。 俺が召銃し直した後も、ゴミをよく漁っていたようだ。 ……それに気づけず、一度は酷い腹痛で倒れたことがあってね。 |
マイケル | 医者に見せてみたら、傷んだものを食べたことによる食中毒。 おまけに腹の中は寄生虫だらけだと聞いて、 俺まで卒倒しそうになったよ。 |
ケンタッキー | なんスか……それ……。 |
マイケル | もちろん、今は処置済みで、健康体になっている。 しかし、また同じようなことが起きかねない。 |
ペンシルヴァニア | だから……勝手に食べ物を取ってくることを禁じたんだ。 ちゃんとしたものを食べるように、 マスターの許しがあるものだけを食べるように、と……。 |
ジョージ | そういうことかぁ……。 スプリングを思っての指示だったんだな……。 |
ペンシルヴァニア | スプリングフィールドは……ずっと、囚われている。 目に見えない鎖に縛られて、身動きが取れないんだ。 だから、心も感情も動かない……。 |
ペンシルヴァニア | 俺は、スプリングフィールドに自由を知ってほしい。 思うがままに、やりたいことをやったらいい。 なんでも、気の向くままに……! 自由に! |
ペンシルヴァニア | そうしたら、心から笑える日が来るんじゃないかと思う。 俺は、その日まで見届けたい。 ……そう、決めたんだ。 |
ペンシルヴァニア | ケンタッキー。 お前にも……手伝ってほしい。 |
ケンタッキー | …………。 |
ケンタッキー | 手伝ってほしい、だと……? |
---|---|
ペンシルヴァニア | ああ。 スプリングフィールドが新しい生活に慣れるまでは、 時間がかかる。 |
ケンタッキー | はっ……どの面下げてンなこと頼んでんだよ。 お前が、何もかも放り出して丸投げしていって、 その尻拭いを必死こいてやらされてた、この俺に……! |
ペンシルヴァニア | ……ケンタッキー……。 |
ペンシルヴァニア | 俺のことは……恨んでも仕方がない、と思う……。 お前なら大丈夫だと思って、勝手なことをした。 だが、スプリングのことは……お前も気にかけてやってほしい。 |
ケンタッキー | ……っ! お前はなんで、いつも、そう……! |
ペンシルヴァニア | ケンタッキー……? |
ケンタッキー | っ……! もういい。 |
ケンタッキー | ……おい、スプリングフィールド! お前もお前だ。 いちいちビクついてんじゃねーよ! |
スプリングフィールド | ……! ごっ、ごめん、なさ……。 |
ペンシルヴァニア | っ、おい……! |
ケンタッキー | お前がひどい環境にいたってのはわかった! けどよ、前のマスターの言いなりなってただけかよ! |
ケンタッキー | 腹減ってんなら、腹減った! って言えばいいだろ。 それでもゴミ漁らせるようなヤツは、銃をまともに使う気がねぇ。 そんなひでぇマスターなら、逃げちまってもよかっただろうが! |
スプリングフィールド | ごめん、なさい、ごめんなさい……! 全部、僕が悪い……です……。 |
ケンタッキー | 謝れって言ってんじゃねーんだよ。 俺は……! |
ペンシルヴァニア | ……やめろ、ケンタッキー。 |
スプリングフィールドをかばうように、
ペンシルヴァニアが間に入る。
その様子を見て、ケンタッキーはギリッと奥歯を噛み締めた。
ケンタッキー | ……っ! てめぇは、いかにもウジウジ 弱っちく振る舞ってるヤツばっかり守るのかよ! 俺は、てめぇの勝手を必死で……っ! チッ、クソが! |
---|---|
ケンタッキー | 仕事放り投げて勝手に旅に出て、 絶対高貴になるヒントも見つけられずに突然帰ってきてこれか!? なんなんだよ!! |
ケンタッキー | とにかく、俺はそいつのことなんざ知らねぇからな! そいつの世話を焼きたきゃ好きにしろ。 |
ケンタッキー | アメリカの貴銃士は俺1人でいい。 もう帰ってくんな! 勝手にやってろ! |
ペンシルヴァニア | ケンタッキー……。 |
主人公 | 【一旦、深呼吸しよう】 【落ち着いて、ちゃんと話し合った方が……】 |
ケンタッキー | 止めないでください! 俺は前から、こいつのことが……! |
ジョージ | ヘイヘイヘイ! 落ち着けって。 勢いでヒドイこと言っても、 あとでおまえが凹んじまうだろ? なっ? |
ペンシルヴァニア | ……スプリングフィールド、戻ろうか。 もっと野菜も食わないとな。 |
スプリングフィールド | …………。 |
ケンタッキー | ……くそっ……。 |
スプリングフィールドの背中を押して、
ペンシルヴァニアは去っていく。
2人の姿を、ケンタッキーはやりきれない表情で見つめていた。
その日の夜───。
〇〇はマークス、ジョージと共に
宿泊先のホテルにいた。
マークス | 安心、してくれ、マスター……。 ジョージは寝てしまったが、 見張りの役割は、俺が完璧に果たす……うぷっ。 |
---|---|
主人公 | 【大丈夫?】 【無理しないで、休もう】 |
マークス | 大丈夫だ……。 す、少しだけ、トイレに行ってくる。 すぐに戻るからな……! |
〇〇が、眠っているジョージに
毛布をかけていると、窓を叩く音が聞こえた。
ペンシルヴァニア | ……遅くにすまないな。 少し、話がしたい。 |
---|---|
主人公 | 【どうやって来た!?】 【ここ、ホテルの高層階だけど!?】 |
ペンシルヴァニア | コツを掴めば、なんということはない。 ……それより。 今日は、ケンタッキーのことで……世話をかけたな。 |
ペンシルヴァニア | 俺たちがあんな調子だから…… フィルクレヴァートから来たあんたたちは、驚いただろう。 だから……少し、俺たちの話をしておこうかと思って。 |
窓際のソファに腰掛けたペンシルヴァニアは、
言葉を選ぶように、ゆっくりと話し始めた。
ペンシルヴァニア | ケンタッキーは……アメリカのために、一生懸命頑張ってる。 ……あいつの生まれのことは、あんたも知ってるか? |
---|---|
主人公 | 【ペンシルヴァニアを改良して作られた】 【米英戦争で使われた】 |
ペンシルヴァニア | ああ。その通りだ。 |
ペンシルヴァニア | あいつは、俺……ペンシルヴァニア・ライフルが ケンタッキー州に持ち込まれて改良され、できた銃なんだ。 |
ペンシルヴァニア | そして、米英戦争中の有名な戦いで、 ケンタッキー連隊が大活躍して、その名を轟かせた。 |
ペンシルヴァニア | そういう生まれだから、 俺はあいつの兄貴分にあたるわけだが……。 |
ペンシルヴァニア | だからこそ、俺を超えることが、 絶対高貴に近づく道だと……そう考えているようだ。 |
ペンシルヴァニア | それで、旅に出る前は 毎日のようにいろんな勝負を挑まれてな……。 |
ケンタッキー | 今日という今日はお前に勝つからな! ペンシルヴァニア! |
---|---|
ペンシルヴァニア | ……なぁ、ケンタッキー。 たまには徒競走より、散歩でもしないか? |
ケンタッキー | 余裕かましていられるのも今のうちだけだ! 早くスタート位置につきやがれ! |
ケンタッキー | お前、まだ5枚しかサインできてないのかよ。 ハッ、俺はもう10枚できたぜ! |
---|---|
ペンシルヴァニア | ……これも、勝負なのか……? |
ケンタッキー | おい、今日は射撃勝負だ! あの缶を撃て! |
---|---|
ケンタッキー | ……おら、早くしろ! |
ペンシルヴァニア | 思い返すと、目の敵にされて勝負ばかりの日々だったが…… あいつと一緒に過ごせたことは…… 兄貴分として、とても嬉しかった。 |
---|---|
ペンシルヴァニア | だがある日……。 俺は気づいてしまったんだ。 公務の中で……一番大事なことを見失ってしまっていたことに。 |
主人公 | 【一番大事なこと……?】 |
ペンシルヴァニア | それは……自由のマインドだ。 |
ペンシルヴァニア | 俺は……開拓民の銃だ。 森を駆け、獲物を狩り……大地をベッドに、星空の下眠る。 そういう在り方から、遠く離れてしまっていた……。 |
ペンシルヴァニア | ……広い世界を、旅したくなった。 本来の在り方に戻ることで、絶対高貴に近づけるかもとも思った。 それで……マスターと共に、旅に出たんだ。 |
ペンシルヴァニア | 責任感の強いあいつからすれば…… 俺は、仕事を放り出して、勝手に逃げたようなもんだろう。 俺のことを許せないのも、当然だ……。 |
ペンシルヴァニア | ……俺は、あいつの言う通り、 帰ってくるべきじゃなかった……。 |
主人公 | 【本当に、そうかな】 【ケンタッキーの本心を確かめてみては?】 |
ペンシルヴァニア | …………。 あいつは、何かを胸の内に抱えていたところで、 俺にはそれを明かさない……そう思う。 |
ペンシルヴァニア | 話すにしても……もう少し、時間を置いた方がいいだろう。 それに俺は……絶対高貴の糸口も、掴めていない。 スプリングフィールドに何をしてやればいいのかも……。 |
ペンシルヴァニア | ただ、ケンタッキーなら……あいつなら、 スプリングフィールドを笑顔にできるような気がしたんだ。 |
ペンシルヴァニア | それで、気が急いて…… ケンタッキーの気持ちを考えず、帰ってきてしまった。 あいつの言う通り、身勝手で……最低な男だ。 |
ペンシルヴァニア | ……〇〇、だったな。 あんたには何か……不思議な力を感じる。 運命の女神の護り……かな。 |
ペンシルヴァニア | ケンタッキーを、よろしく頼む。 それじゃあ……おやすみ。Sweet dreams. |
そう言うと、ペンシルヴァニアは
颯爽と窓から出て行ってしまった。
主人公 | 【あっ!?】 【だからここ、高層階……!】 |
---|---|
ジョージ | ふわぁ〜……。 Sorry……いつの間にか眠っちまってたぜ。 |
ジョージ | 〇〇〜! そういや、ケンタッキーが夜に遊びに来るって言ってたけど、 もう来た? |
主人公 | 【ケンタッキーが?】 【まだ来てないけど……】 |
ジョージ | んん……? 今、廊下から、何か聞こえなかったか? |
ジョージが部屋の扉を開けて、廊下を覗き込む。
しかし、そこには誰もいなかった。
ジョージ | おかしいな……。 聞き間違いだったかな? ケンタッキーかと思ったのに。 |
---|
ジョージが部屋の扉を閉めた後───
廊下の陰に隠れていたケンタッキーは、
静かに拳を握りしめていた。
ケンタッキー | ……わかってんじゃねーか。 ペンシルヴァニア。 |
---|---|
ケンタッキー | そうだ……許せるわけがねぇ。 あいつなんて……あいつ、なんて……! |
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