十手 | …………。 |
---|---|
主人公 | 【疲れた?】 【お腹空いた?】 |
十手 | ……ああ、いやぁ面目ない。 少しばかり圧倒されてしまってね。 |
十手 | 俺のおぼろげな記憶の中にある江戸は、 庶民の場所だったもんで。 |
十手 | 同じ江戸でも、吉原あたりまで行けば また違ったかもしれないが……。 華やかな花街はどうも不慣れなんだ。 |
キセル | おーい、何ちんたらしてんだ? 置いていくぞー? |
十手 | おっと! すまん、今行く! |
十手 | 〇〇君、引き留めて悪かった! 置いて行かれないようにしないとな……。 |
キセル | 邪魔するぜ。 茶と団子を4人前頼む。 |
---|---|
看板娘 | はい、ただいま~! |
キセル | さぁ、座ってくれ。 一服しようじゃねェか。 |
十手 | ふぅ……。温かいお茶が染み渡るなぁ……。 身体は大して疲れていないが、 精神的にはぐっと疲れた気がするよ……。 |
八九 | ああ……まったくだ。早く帰りてぇよ……。 |
主人公 | 【でも、楽しかった】 【もっと見て回りたい】 |
キセル | 気に入ってもらえたなら、俺としても嬉しいぜ。 お前らはいい反応してくれるからな、 案内のしがいもあるってもんよ! |
八九 | 今更だけどよ。 お前、こんなところで油売ってていいのか? |
八九 | 朱門にもふらっと来てたし…… 若頭補佐ってのは、 そんなに暇つーか……気ままなもんなのか? |
キセル | ははっ、暇とは言ってくれる! こうしてぶらぶらするのも俺の仕事さ。 |
十手 | ぶらぶらするのが、仕事……? それって、どういうことだ? |
キセル | 若頭(カシラ)は多忙でな。 なかなかシマを見回ることもできねェ。 |
キセル | だから、こうして俺が代わりにあちこち顔を出して、 自治区の治安維持に努めてるってわけだ。 |
八九 | ふーん。 遊んでるように見えて目を光らせてたってわけか? |
キセル | まァな。 近頃はきな臭ぇ話もあるからよ。 |
十手 | きな臭いって……ま、まさか抗争か!? |
キセル | ははっ、この歌舞妓町自治区で、 正面切って鷲ヶ前組に挑んでくるようなバカはいねェよ! |
キセル | ……ただ、近頃ここらで強盗団の被害が多く出てる。 おまけに奴ら、銃を持ってやがるんだ。 |
十手 | 武装強盗か。そいつは穏やかじゃないな……。 |
キセル | 昨日も一悶着あったばかりでなァ。 鷲ヶ前組でも見回りを強化してるんだが……。 どうにも、一筋縄ではいかなそうだ。 |
八九 | 門番がピリピリしてたのは、そのせいもあるのか? |
キセル | 厳しく取り締まってるのはいつものことだ。 ……と言いたいが、まったく関係ねぇとは言えねェな。 |
キセル | 銃を持つ強盗団ってだけならまだいいが、 どうやらやっこさん、それだけじゃなさそうでな。 |
キセル | 被害に遭った店主が言うには…… 妖術じみたモンを使うらしい。 |
キセル | 黒い霧みてぇな、 禍々しいオーラを纏ってやがるんだと。 |
十手 | それって……もしかして、絶対非道か? |
キセル | 絶対非道? なんだそりゃ? |
八九 | 知らねーのか? |
八九 | お前ら古銃の貴銃士は、絶対非道に目覚めるだろ? 俺たち現代銃は『絶対非道』ってのになれるって話だ。 |
八九 | 俺はまだ絶対非道を使えないから実演はできねーけど、 自衛軍にいる邑田と在坂が使ってんのなら、 見たことがある。 |
キセル | へぇ。 その絶対非道ってのが、目撃情報に当てはまるのか。 |
八九 | ああ。闇っつーか、毒っつーか…… とにかく、やべぇ雰囲気のオーラが出る。 |
八九 | おまけに、そいつが銃を持ってるってんなら、 絶対非道でほぼほぼ確定だろ。 |
キセル | なるほどな……。 情報提供、助かるぜ。 よかったら今度、その絶対非道とやらを見せてくれ。 |
八九 | 邑田たち次第だな。 話は通しといてやるよ。 |
キセル | それで十分だ。 ……恩に着る。 |
看板娘 | お団子、お待たせしました~! |
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キセル | おっ、きたきた。 さァ、食ってくれ。ここの団子は絶品なんだ。 |
十手 | おお……三色団子にみたらし団子か。 士官学校ではお目にかかれない品だなぁ……! いただきます! |
十手 | んん……! もちもちで美味いっ! 甘みが上品で全然くどさがないな……! |
十手 | 濃い煎茶によく合う……。 もう1本食べていいかい? |
キセル | おう。ここは俺のおごりだ。好きなだけ食えよ! 〇〇、お前さんも気に入ったかい? |
主人公 | 【おいしい!】 【綺麗!】 |
キセル | ははっ! そうだろう、そうだろう。 存分に堪能してくれよ。 |
キセル | …………。 |
八九 | なんだよ。お前は食わねぇのか? |
キセル | ああ……いや。少し、昔のことを思い出してな。 団子と言えば、 フルサトの好物だったなぁと思ってよ。 |
十手 | フルサト、というと…… かつてレジスタンスにいたという御仁か? |
キセル | ああ。フルサトは、日本に最初にわたった火縄銃 ──初伝来銃で、すべてを包み込んじまうような、 懐が広くてあったけぇ貴銃士だった。 |
キセル | 俺よりずっと年嵩なんだが、 まだまだ現役だと言って時々無茶をしてなァ。 キンベエの旦那が大慌てすることもあった。 |
十手 | ……なぁ、1つ聞いてもいいかな? 一級の美術品みたいな銃は、革命戦争のあと、 元あった美術館や博物館に返還されたそうだが……。 |
十手 | 量産銃やレジスタンスへの寄贈品は、 元レジスタンスのマスターが今も持っていると聞いたよ。 |
十手 | キセル殿は珍しい奇銃とはいえ、必ずしも 返還される必要はなかったように思うんだが── |
十手 | どういう経緯で日本に戻って、 鷲ヶ前組の若頭補佐なんて 大層な役職に就くことになったんだい? |
キセル | 俺ァ元々、鷲ヶ前組の前身── 黒屋組の組長のコレクションだったらしい。 |
キセル | 日本も当時は2代目世界帝の圧政下にあったが、 黒屋組はそれをよしとしなかった。 |
キセル | んで、活動が活発な欧州のレジスタンスを 支援するために、一見銃とはわからず、 暗器としても使える俺を送り込んだってわけだ。 |
キセル | ただ蔵に眠ってるよりは、 大義のために使われた方がずっといいだろうってな。 |
キセル | かくして俺は海を渡り、 マスターのもとで貴銃士として召銃された。 でもって、世界帝との戦いに挑んだってわけだ。 |
キセル | 革命戦争が終わったあとのことは、 銃に戻ってたからよくわからねぇ部分もある。 色々と交渉やらなんやらがあったらしいが── |
キセル | ま、ざっくり聞いたところによると、 鷲ヶ前組からレジスタンスに返還要請があって、 日本に返すことになったってェ話だ。 |
キセル | それから、鷲ヶ前組の若頭である鷲ヶ前剛大── 今のマスターに再び召銃されて、 若頭補佐のお役目をいただいたってわけよ。 |
八九 | あんた、割と波乱万丈な銃生送ってんだな……。 |
キセル | はっはっは、そいつはお互い様だろ? あの世界体の銃が、今や日本の国防の要、 自衛軍で真面目に働いてるんだからよォ。 |
八九 | いや、真面目かどうかはわかんねーけど……。 |
十手 | …………。 |
キセル | ん? どうした十手。辛気臭ぇ顔して黙りこくって。 |
十手 | ……もう1つ、聞いてもいいだろうか? |
キセル | おう。俺に答えられそうなことなら、なんでも聞け。 |
十手 | レジスタンスの貴銃士たちは、 絶対高貴の力をもって戦ったと聞いているが…… キセル殿もやはり、絶対高貴になれるのだろうか? |
キセル | …………。 |
キセル | 「絶対高貴になれるのか」ってことなら、否だ。 だが……俺はかつて確かに、絶対高貴になれていた。 |
八九 | ……どういうことだ? |
キセル | そのまんまの意味だ。 俺ァ、最初のマスターのもとでは絶対高貴になれていた。 じゃなきゃ、現代銃相手に立ち回れやしねェよ。 |
キセル | だが……どういうわけか、 今のマスターの元では、絶対高貴になれてねェ。 |
十手 | なっ……一体どうしてなんだ……? |
キセル | さてな。俺にもわからねェよ。 |
キセル | 絶対高貴は数え切れねぇほど使った。 あの感覚は、まだしっかり覚えてる。 心根も変わってねぇし、このナリをしてる……。 |
キセル | だが、どういうわけか、さっぱり絶対高貴になれねェ! |
十手 | …………。 |
キセル | 理由はわからんが、なれねェってんなら そういうモンだと受け入れることしかできねぇよ。 |
キセル | ……もしかしたら、あの戦いで、 俺の役目は終わったってことなのかもしれねぇな。 |
十手 | キセル殿のような立派な貴銃士でも、 絶対高貴の力を使えなくなるとは……。 |
---|---|
十手 | 俺はますます、 絶対高貴がわからなくなってきたよ……。 |
十手 | (もし、キセル殿が「役目を終えたから」 絶対高貴の力を失ったのだとしたら……) |
十手 | (絶対高貴に目覚めることすらできていない俺は、 なんの役割も持たないまま貴銃士になったのか……?) |
キセル | なーに暗い顔してんだ。しゃんとしろよォ! |
十手 | だが……俺はまだ一度たりとも、 絶対高貴になれていないんだ。 |
十手 | 同じ奇銃で、かつてレジスタンスで戦っていた君から、 何かヒントを得られるかと思ったんだが…… 迷宮の中に迷い込んだような気分だ。 |
キセル | そう思い悩むな。俺とお前は違う。 十手なりに、絶対高貴になれる道を探せばいい。 |
十手 | そうは言っても……。 |
キセル | ほら、ツラ上げろ。 ……てめぇのマスターを心配させるんじゃねェよ。 |
十手 | あ……。 |
主人公 | 【日本に何かヒントがあるかも】 【夢の場所について聞いてみる?】 |
十手 | ああ、そうだった……! あの夢の知らせ……! それが俺の今持ってる、一番大きい手がかりだ。 |
キセル | 夢の知らせ? なんの話だ? |
十手 | 実は……この頃、繰り返し同じ夢を見るんだ。 夢の中で、俺はどこか懐かしい感じがする神社にいる。 |
十手 | 鈴の音が聞こえて…… 霞がかった神秘的な社の前に立っていて……。 |
十手 | そんな夢を、士官学校にいる頃から何度も見てた。 そこへ、日本行きの話が来たもんだから、 「これは何かの導きだ!」と思ったんだ。 |
八九 | ……導き? |
十手 | ああ。馬鹿げた話だと思うかもしれないが、 日本に来てから、 余計にはっきりと夢を見るようになったんだよ。 |
十手 | 御本堂から、絶対高貴に似た温かい光が漏れていて…… 俺は、夢で見た神社に行けば、 絶対高貴になるための鍵が見つかる気がしてるんだ。 |
十手 | 半分、藁にも縋るような思いだが……。 すべてがただの偶然だとも思えなくてね。 |
キセル | なるほどな。神社って言やァ、日本だ。 それで、この滞在中にその神社を探そうってわけだな? |
十手 | ああ。……どこか心当たりはあるだろうか? |
八九 | 小さいのも含めれば、 この一帯だけでも相当な数の神社があるぞ。 |
八九 | もう少し絞り込むための情報がねぇと、 名前もわからねぇ神社を探すのなんざ無理ゲーだ。 |
十手 | ……そうだよなぁ。 覚えてる特徴は……あまり大きな神社ではなくて、 朱い鳥居をくぐった先に松の木が生えていたこと……。 |
キセル | 小さな神社で、朱色の鳥居のそばに松……か。 当てはまる神社はまだまだありそうだが、 何も手掛かりがないよりかはマシだな。 |
キセル | ……お前さん、地図は持ってるか? |
十手 | ああ。八九君に用意してもらった。 |
八九 | (観光のためじゃなかったんだな……) |
キセル | よーし、貸してみな! |
キセルは懐からペンを取り出すと、
地図に赤い印をつけていく。
キセル | ここの鳥居は、確か赤かったはずだ。 こっちには立派な松がある。 それからこっちも── |
---|---|
キセル | ……まァ、こんなところか。ほらよ。 |
十手 | ありがとう……! 助かったよ。 |
キセル | これくらいお安い御用だ。 お目当ての場所、見つかるといいな。 |
十手 | ああ。〇〇君に頼み込んで 日本に来たからには、見つけないと帰れないな。 |
十手 | そして……絶対高貴になるための手がかりを、 必ず掴むんだ。 |
八九 | ……そんなにいいもんかねぇ、絶対高貴ってのは。 |
キセル | 古銃ってのは、銃としての性能じゃあ、 どう頑張っても現代銃に劣る。 |
キセル | まして俺たち奇銃は、 絶対高貴の力がなけりゃ、大した戦力になれねェ。 |
キセル | だから……俺にはわかるぜ。 絶対高貴に焦がれる気持ちがな。 |
十手 | キセル殿……。 |
キセル | あー、それから。 殿だとか堅苦しいのはやめてくれ。 |
十手 | ああ。ありがとう……キセル君。 |
??? | わー! かっけー! それ、十手っていうんだろ? |
---|---|
十手 | えっ? |
少年1 | なあなあ、俺にも十手、見せてくれよー! |
少年2 | オレにも! オレにも! |
少年3 | 見せてくれよー! |
キセル | なんだ、坊主たち。 藪から棒に。 |
少年1 | いいじゃん。オレ、十手って時代劇で見たぜ! いっぺん本物を見てみたかったんだ。頼むよー。 |
少年2 | ちょっとぐらいいいだろ~? |
少年3 | ついでに持ったりもできると嬉しいぞー。へへっ。 |
十手 | えーっと、いや、そのだな……。 |
八九 | あー……ガキンチョども。 普通の十手ならいいが、こいつは駄目だ。 |
少年1 | えーっ、なんでだよ! |
八九 | これはただの十手じゃなくて、十手鉄砲だ。 いくら自治区でも、銃をガキには持たせらんねぇよ。 |
少年1 | ええっ、これが銃!? ホントに銃なのか!? |
少年2 | すっげー! |
少年3 | カッケー! なあなあ、それ、どうやって使うんだー? |
十手 | そ、そんなにすごいかな……? |
十手 | よーし、特別に手本を見せてやろう。 十手鉄砲はな、こうやって構えて── |
少年1 | 今だっ! |
十手 | えっ!? |
少年4 | えいっ! |
物陰から突然4人目の少年が現れたかと思うと、
十手に体当りする。
十手 | うわぁっ!!! |
---|
十手の手から滑り落ちた銃を、
少年の1人がすぐさま拾って駆け出した。
少年1 | 逃げるぞっ! |
---|---|
十手 | 俺の銃がっ! おい、待てぃっ!! |
八九 | クソガキどもが……! これだからガキは嫌いなんだ。 はぁ……帰りてぇ。 |
主人公 | 【追いかけよう!】 【取り戻さないと!】 |
十手 | ああ、行こう! |
八九 | チッ……半分休みの日だってのに、 俺を走り回らせやがって……。 |
---|---|
八九 | おい、キセル! あのクソガキ捕まえたら、 お前がきっちり始末つけるんだろうな? |
キセル | おう、俺の目の前で盗みを働いたんだからなァ! きつくお灸を据えてやるよ。 |
キセル | ……おい、そこのダンナ! こっちにチビどもが走ってこなかったか? |
行商人 | い、いえ! 私は見ませんでしたが……。 |
キセル | そっちの兄ちゃんたちはどうだ? |
通行人1 | うーん、子供なんて来なかったよな? |
通行人2 | ああ、見てないな。 |
キセル | ……チッ、見失っちまったか。 |
十手 | いや、あの路地裏が怪しい! |
八九 | は? なんでわかるんだよ? |
十手 | 同心の勘だっ! |
八九 | 勘って、お前……待てよ! |
キセル | ハッ、面白ぇな! 同心の勘ってやつがどれほどのモンか、 見せてもらおうじゃねェか! |
八九 | はぁ……わーったよ。 |
十手 | 見てくれ、あそこ! あの後ろ姿は……少年たちのリーダーらしき子だ! |
八九 | うお、マジでいたのかよ……。 |
キセル | ……奥の店に入っていったな。 |
主人公 | 【売るつもり!?】 【とにかく入ろう!】 |
キセル | おい、待ちな。 あそこは、お前さんたち向きの店じゃねェよ。 |
十手 | ……どういうことだい? |
キセル | あそこは──賭場だ。 |
十手 | ……! |
──十手たちが賭場に到着する数分前。
賭場では、「手本引」が行われていた。
不敵な笑みを浮かべる賭場の主の前で、
中年の男が項垂れている。
??? | ちくしょう……! |
---|---|
胴元 | 有り金全部賭けてスイチとは、 また随分思い切ったモンだなぁ、政(まさ)。 俺が貸した分もスッカラカンじゃねぇか。 |
胴元 | おめぇはここまでだ。 約束通り、店をもらって相殺するぜ。 |
政 | ううっ……。 |
政 | ……約束は約束だ。 わかっ── |
男が頷きかけた時、勢いよく扉が開き、
1人の少年が賭場へと駆け込んできた。
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