日本編Ⅰ:第16話~第20話

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第16話:茶屋にて1

十手…………。
主人公【疲れた?】
【お腹空いた?】
十手……ああ、いやぁ面目ない。
少しばかり圧倒されてしまってね。
十手俺のおぼろげな記憶の中にある江戸は、
庶民の場所だったもんで。
十手同じ江戸でも、吉原あたりまで行けば
また違ったかもしれないが……。
華やかな花街はどうも不慣れなんだ。
キセルおーい、何ちんたらしてんだ?
置いていくぞー?
十手おっと! すまん、今行く!
十手〇〇君、引き留めて悪かった!
置いて行かれないようにしないとな……。

キセル邪魔するぜ。
茶と団子を4人前頼む。
看板娘はい、ただいま~!
キセルさぁ、座ってくれ。
一服しようじゃねェか。
十手ふぅ……。温かいお茶が染み渡るなぁ……。
身体は大して疲れていないが、
精神的にはぐっと疲れた気がするよ……。
八九ああ……まったくだ。早く帰りてぇよ……。
主人公【でも、楽しかった】
【もっと見て回りたい】
キセル気に入ってもらえたなら、俺としても嬉しいぜ。
お前らはいい反応してくれるからな、
案内のしがいもあるってもんよ!
八九今更だけどよ。
お前、こんなところで油売ってていいのか?
八九朱門にもふらっと来てたし……
若頭補佐ってのは、
そんなに暇つーか……気ままなもんなのか?
キセルははっ、暇とは言ってくれる!
こうしてぶらぶらするのも俺の仕事さ。
十手ぶらぶらするのが、仕事……?
それって、どういうことだ?
キセル若頭(カシラ)は多忙でな。
なかなかシマを見回ることもできねェ。
キセルだから、こうして俺が代わりにあちこち顔を出して、
自治区の治安維持に努めてるってわけだ。
八九ふーん。
遊んでるように見えて目を光らせてたってわけか?
キセルまァな。
近頃はきな臭ぇ話もあるからよ。
十手きな臭いって……ま、まさか抗争か!?
キセルははっ、この歌舞妓町自治区で、
正面切って鷲ヶ前組に挑んでくるようなバカはいねェよ!
キセル……ただ、近頃ここらで強盗団の被害が多く出てる。
おまけに奴ら、銃を持ってやがるんだ。
十手武装強盗か。そいつは穏やかじゃないな……。
キセル昨日も一悶着あったばかりでなァ。
鷲ヶ前組でも見回りを強化してるんだが……。
どうにも、一筋縄ではいかなそうだ。
八九門番がピリピリしてたのは、そのせいもあるのか?
キセル厳しく取り締まってるのはいつものことだ。
……と言いたいが、まったく関係ねぇとは言えねェな。
キセル銃を持つ強盗団ってだけならまだいいが、
どうやらやっこさん、それだけじゃなさそうでな。
キセル被害に遭った店主が言うには……
妖術じみたモンを使うらしい。
キセル黒い霧みてぇな、
禍々しいオーラを纏ってやがるんだと。
十手それって……もしかして、絶対非道か?
キセル絶対非道? なんだそりゃ?
八九知らねーのか?
八九お前ら古銃の貴銃士は、絶対非道に目覚めるだろ?
俺たち現代銃は『絶対非道』ってのになれるって話だ。
八九俺はまだ絶対非道を使えないから実演はできねーけど、
自衛軍にいる邑田と在坂が使ってんのなら、
見たことがある。
キセルへぇ。
その絶対非道ってのが、目撃情報に当てはまるのか。
八九ああ。闇っつーか、毒っつーか……
とにかく、やべぇ雰囲気のオーラが出る。
八九おまけに、そいつが銃を持ってるってんなら、
絶対非道でほぼほぼ確定だろ。
キセルなるほどな……。
情報提供、助かるぜ。
よかったら今度、その絶対非道とやらを見せてくれ。
八九邑田たち次第だな。
話は通しといてやるよ。
キセルそれで十分だ。
……恩に着る。

第17話:茶屋にて2

看板娘お団子、お待たせしました~!
キセルおっ、きたきた。
さァ、食ってくれ。ここの団子は絶品なんだ。
十手おお……三色団子にみたらし団子か。
士官学校ではお目にかかれない品だなぁ……!
いただきます!
十手んん……! もちもちで美味いっ!
甘みが上品で全然くどさがないな……!
十手濃い煎茶によく合う……。
もう1本食べていいかい?
キセルおう。ここは俺のおごりだ。好きなだけ食えよ!
〇〇、お前さんも気に入ったかい?
主人公【おいしい!】
【綺麗!】
キセルははっ! そうだろう、そうだろう。
存分に堪能してくれよ。
キセル…………。
八九なんだよ。お前は食わねぇのか?
キセルああ……いや。少し、昔のことを思い出してな。
団子と言えば、
フルサトの好物だったなぁと思ってよ。
十手フルサト、というと……
かつてレジスタンスにいたという御仁か?
キセルああ。フルサトは、日本に最初にわたった火縄銃
──初伝来銃で、すべてを包み込んじまうような、
懐が広くてあったけぇ貴銃士だった。
キセル俺よりずっと年嵩なんだが、
まだまだ現役だと言って時々無茶をしてなァ。
キンベエの旦那が大慌てすることもあった。
十手……なぁ、1つ聞いてもいいかな?
一級の美術品みたいな銃は、革命戦争のあと、
元あった美術館や博物館に返還されたそうだが……。
十手量産銃やレジスタンスへの寄贈品は、
元レジスタンスのマスターが今も持っていると聞いたよ。
十手キセル殿は珍しい奇銃とはいえ、必ずしも
返還される必要はなかったように思うんだが──
十手どういう経緯で日本に戻って、
鷲ヶ前組の若頭補佐なんて
大層な役職に就くことになったんだい?
キセル俺ァ元々、鷲ヶ前組の前身──
黒屋組の組長のコレクションだったらしい。
キセル日本も当時は2代目世界帝の圧政下にあったが、
黒屋組はそれをよしとしなかった。
キセルんで、活動が活発な欧州のレジスタンスを
支援するために、一見銃とはわからず、
暗器としても使える俺を送り込んだってわけだ。
キセルただ蔵に眠ってるよりは、
大義のために使われた方がずっといいだろうってな。
キセルかくして俺は海を渡り、
マスターのもとで貴銃士として召銃された。
でもって、世界帝との戦いに挑んだってわけだ。
キセル革命戦争が終わったあとのことは、
銃に戻ってたからよくわからねぇ部分もある。
色々と交渉やらなんやらがあったらしいが──
キセルま、ざっくり聞いたところによると、
鷲ヶ前組からレジスタンスに返還要請があって、
日本に返すことになったってェ話だ。
キセルそれから、鷲ヶ前組の若頭である鷲ヶ前剛大──
今のマスターに再び召銃されて、
若頭補佐のお役目をいただいたってわけよ。
八九あんた、割と波乱万丈な銃生送ってんだな……。
キセルはっはっは、そいつはお互い様だろ?
あの世界体の銃が、今や日本の国防の要、
自衛軍で真面目に働いてるんだからよォ。
八九いや、真面目かどうかはわかんねーけど……。
十手…………。
キセルん? どうした十手。辛気臭ぇ顔して黙りこくって。
十手……もう1つ、聞いてもいいだろうか?
キセルおう。俺に答えられそうなことなら、なんでも聞け。
十手レジスタンスの貴銃士たちは、
絶対高貴の力をもって戦ったと聞いているが……
キセル殿もやはり、絶対高貴になれるのだろうか?
キセル…………。
キセル「絶対高貴になれるのか」ってことなら、否だ。
だが……俺はかつて確かに、絶対高貴になれていた。
八九……どういうことだ?
キセルそのまんまの意味だ。
俺ァ、最初のマスターのもとでは絶対高貴になれていた。
じゃなきゃ、現代銃相手に立ち回れやしねェよ。
キセルだが……どういうわけか、
今のマスターの元では、絶対高貴になれてねェ。
十手なっ……一体どうしてなんだ……?
キセルさてな。俺にもわからねェよ。
キセル絶対高貴は数え切れねぇほど使った。
あの感覚は、まだしっかり覚えてる。
心根も変わってねぇし、このナリをしてる……。
キセルだが、どういうわけか、さっぱり絶対高貴になれねェ!
十手…………。
キセル理由はわからんが、なれねェってんなら
そういうモンだと受け入れることしかできねぇよ。
キセル……もしかしたら、あの戦いで、
俺の役目は終わったってことなのかもしれねぇな。

第18話:茶屋にて3

十手キセル殿のような立派な貴銃士でも、
絶対高貴の力を使えなくなるとは……。
十手俺はますます、
絶対高貴がわからなくなってきたよ……。
十手(もし、キセル殿が「役目を終えたから」
絶対高貴の力を失ったのだとしたら……)
十手(絶対高貴に目覚めることすらできていない俺は、
なんの役割も持たないまま貴銃士になったのか……?)
キセルなーに暗い顔してんだ。しゃんとしろよォ!
十手だが……俺はまだ一度たりとも、
絶対高貴になれていないんだ。
十手同じ奇銃で、かつてレジスタンスで戦っていた君から、
何かヒントを得られるかと思ったんだが……
迷宮の中に迷い込んだような気分だ。
キセルそう思い悩むな。俺とお前は違う。
十手なりに、絶対高貴になれる道を探せばいい。
十手そうは言っても……。
キセルほら、ツラ上げろ。
……てめぇのマスターを心配させるんじゃねェよ。
十手あ……。
主人公【日本に何かヒントがあるかも】
【夢の場所について聞いてみる?】
十手ああ、そうだった……! あの夢の知らせ……!
それが俺の今持ってる、一番大きい手がかりだ。
キセル夢の知らせ? なんの話だ?
十手実は……この頃、繰り返し同じ夢を見るんだ。
夢の中で、俺はどこか懐かしい感じがする神社にいる。
十手鈴の音が聞こえて……
霞がかった神秘的な社の前に立っていて……。
十手そんな夢を、士官学校にいる頃から何度も見てた。
そこへ、日本行きの話が来たもんだから、
「これは何かの導きだ!」と思ったんだ。
八九……導き?
十手ああ。馬鹿げた話だと思うかもしれないが、
日本に来てから、
余計にはっきりと夢を見るようになったんだよ。
十手御本堂から、絶対高貴に似た温かい光が漏れていて……
俺は、夢で見た神社に行けば、
絶対高貴になるための鍵が見つかる気がしてるんだ。
十手半分、藁にも縋るような思いだが……。
すべてがただの偶然だとも思えなくてね。
キセルなるほどな。神社って言やァ、日本だ。
それで、この滞在中にその神社を探そうってわけだな?
十手ああ。……どこか心当たりはあるだろうか?
八九小さいのも含めれば、
この一帯だけでも相当な数の神社があるぞ。
八九もう少し絞り込むための情報がねぇと、
名前もわからねぇ神社を探すのなんざ無理ゲーだ。
十手……そうだよなぁ。
覚えてる特徴は……あまり大きな神社ではなくて、
朱い鳥居をくぐった先に松の木が生えていたこと……。
キセル小さな神社で、朱色の鳥居のそばに松……か。
当てはまる神社はまだまだありそうだが、
何も手掛かりがないよりかはマシだな。
キセル……お前さん、地図は持ってるか?
十手ああ。八九君に用意してもらった。
八九(観光のためじゃなかったんだな……)
キセルよーし、貸してみな!

キセルは懐からペンを取り出すと、
地図に赤い印をつけていく。

キセルここの鳥居は、確か赤かったはずだ。
こっちには立派な松がある。
それからこっちも──
キセル……まァ、こんなところか。ほらよ。
十手ありがとう……! 助かったよ。
キセルこれくらいお安い御用だ。
お目当ての場所、見つかるといいな。
十手ああ。〇〇君に頼み込んで
日本に来たからには、見つけないと帰れないな。
十手そして……絶対高貴になるための手がかりを、
必ず掴むんだ。
八九……そんなにいいもんかねぇ、絶対高貴ってのは。
キセル古銃ってのは、銃としての性能じゃあ、
どう頑張っても現代銃に劣る。
キセルまして俺たち奇銃は、
絶対高貴の力がなけりゃ、大した戦力になれねェ。
キセルだから……俺にはわかるぜ。
絶対高貴に焦がれる気持ちがな。
十手キセル殿……。
キセルあー、それから。
殿だとか堅苦しいのはやめてくれ。
十手ああ。ありがとう……キセル君。

 

第19話:茶屋にて4

???わー! かっけー!
それ、十手っていうんだろ?
十手えっ?
少年1なあなあ、俺にも十手、見せてくれよー!
少年2オレにも! オレにも!
少年3見せてくれよー!
キセルなんだ、坊主たち。
藪から棒に。
少年1いいじゃん。オレ、十手って時代劇で見たぜ!
いっぺん本物を見てみたかったんだ。頼むよー。
少年2ちょっとぐらいいいだろ~?
少年3ついでに持ったりもできると嬉しいぞー。へへっ。
十手えーっと、いや、そのだな……。
八九あー……ガキンチョども。
普通の十手ならいいが、こいつは駄目だ。
少年1えーっ、なんでだよ!
八九これはただの十手じゃなくて、十手鉄砲だ。
いくら自治区でも、銃をガキには持たせらんねぇよ。
少年1ええっ、これが銃!?
ホントに銃なのか!?
少年2すっげー!
少年3カッケー!
なあなあ、それ、どうやって使うんだー?
十手そ、そんなにすごいかな……?
十手よーし、特別に手本を見せてやろう。
十手鉄砲はな、こうやって構えて──
少年1今だっ!
十手えっ!?
少年4えいっ!

物陰から突然4人目の少年が現れたかと思うと、
十手に体当りする。

十手うわぁっ!!!

十手の手から滑り落ちた銃を、
少年の1人がすぐさま拾って駆け出した。

少年1逃げるぞっ!
十手俺の銃がっ!
おい、待てぃっ!!
八九クソガキどもが……!
これだからガキは嫌いなんだ。
はぁ……帰りてぇ。
主人公【追いかけよう!】
【取り戻さないと!】
十手ああ、行こう!

第20話:盗人を追え!

八九チッ……半分休みの日だってのに、
俺を走り回らせやがって……。
八九おい、キセル! あのクソガキ捕まえたら、
お前がきっちり始末つけるんだろうな?
キセルおう、俺の目の前で盗みを働いたんだからなァ!
きつくお灸を据えてやるよ。
キセル……おい、そこのダンナ!
こっちにチビどもが走ってこなかったか?
行商人い、いえ! 私は見ませんでしたが……。
キセルそっちの兄ちゃんたちはどうだ?
通行人1うーん、子供なんて来なかったよな?
通行人2ああ、見てないな。
キセル……チッ、見失っちまったか。
十手いや、あの路地裏が怪しい!
八九は? なんでわかるんだよ?
十手同心の勘だっ!
八九勘って、お前……待てよ!
キセルハッ、面白ぇな!
同心の勘ってやつがどれほどのモンか、
見せてもらおうじゃねェか!
八九はぁ……わーったよ。
十手見てくれ、あそこ!
あの後ろ姿は……少年たちのリーダーらしき子だ!
八九うお、マジでいたのかよ……。
キセル……奥の店に入っていったな。
主人公【売るつもり!?】
【とにかく入ろう!】
キセルおい、待ちな。
あそこは、お前さんたち向きの店じゃねェよ。
十手……どういうことだい?
キセルあそこは──賭場だ。
十手……!

──十手たちが賭場に到着する数分前。
賭場では、「手本引」が行われていた。

不敵な笑みを浮かべる賭場の主の前で、
中年の男が項垂れている。

???ちくしょう……!
胴元有り金全部賭けてスイチとは、
また随分思い切ったモンだなぁ、政(まさ)。
俺が貸した分もスッカラカンじゃねぇか。
胴元おめぇはここまでだ。
約束通り、店をもらって相殺するぜ。
ううっ……。
……約束は約束だ。
わかっ──

男が頷きかけた時、勢いよく扉が開き、
1人の少年が賭場へと駆け込んできた。

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