日本編Ⅰ:第21話~第24話

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第21話:賭場の親子

少年1待ってくれ!
い、一太!?
合力なんだぁ? 坊主。
ここはガキの来るところじゃねぇぞ!
一太頼む、父ちゃんの店は取り上げないでくれ!
代わりにこれをやるから!

少年は、十手から盗んできた銃を、
胴元へと差し出す。

胴元……十手? 馬鹿言うんじゃねぇ。
こんなモン1本じゃ、おめぇの親父が作った借金の
利子にもならねぇよ。
一太これはただの十手じゃねぇっ!
鉄砲としても使える珍しいモンなんだっ!
だからっ……!
胴元おい、とっととつまみ出せ。
合力へいっ。
……ほら、来いっ!
一太っ……! やめろ、息子に手を出させねぇでくれ!
一太くそっ、離せよっ! 離せ!
父ちゃん……っ!!
???──ちょいと待ちな。
合力なんだ、てめぇは?
キセル歌舞妓町に店構えておいて、
俺の顔を知らねェとは言わせねぇぞ。
胴元あんた、鷲ヶ前組の──!
キセル知ってるなら話は早い。
……この勝負、俺が引き継ごうじゃねェか!
胴元そいつはまた、どうしてで?
縁もゆかりもないこいつを助けても、
あんたにはこれっぽっちも得はないと思うが……。
キセルなに、まったく知らねェってわけでもねェ。
お前は7番街にある射的屋の店主──
たしか、政だったな?
へ、へぇ! その通りです……!
キセル袖振り合うもなんとやらだ。
さァ、この勝負……俺に預ける気があるかないか、
どっちだ?
キセルさんが、
俺のために勝負を張ってくださるんで……?
胴元……こちらは構わねぇが、勝負は勝負。
キセルさんとはいえ、もらうもんはもらいますからね。
キセル構わねェ。それが筋ってモンだ。
賭け金だが……あいにく持ち合わせがねェ。
ここはひとつ、この時計でどうだ?
合力なっ、そいつは……!
キセルおうよ。
こいつは、カシラと盃交わした時にもらった、
舶来の腕時計だ。
キセル文字盤に金剛石がたんまりついてる。
家一軒建つくらいの値打ちはあるぜ。
キセルただな。この時計はカシラとの絆……。
俺にとっちゃ値打ちよりも、そっちのほうが大事だ。
だが、勝負時を見誤るほど、俺ァ落ちぶれちゃいねぇ!
キセルどうだい? 不足はあるか!?
胴元…………。
キセルさァ、どうする?
俺が勝ったら、政に店を返してやれ。
てめェらが勝てば、この腕時計はくれてやる。
キセルこの大勝負──伸るか反るか、どっちだァ!

第22話:大勝負!1

十手む、無茶だ!
助けたい気持ちはわかるが、博打なんて危うすぎる!
何かまっとうな方法で──
キセルカタギの出る幕じゃねェ!
てめぇは黙って見てろ!
十手……っ!
胴元──よし、この勝負、乗ってやろうじゃねぇか。
胴元ただし、今度は丁半博打だ。
3本勝負で決着をつけよう。
それで構わねぇな?
キセルああ、もちろんだ。
胴元……おい、おめぇ、賽を振れ。
合力承知!
十手ああ……とんでもないことになっちまった……。
八九あんたが手出しできることじゃねぇ。
勝負すんのはあいつなんだ。
俺らは腹括って、ここで見とくしかねぇよ。
十手けど、キセル君が負けたら──
もう、どうしようもねぇんです。
俺に融資してくれるようなとこはどこもなくて、
博打にすべてをかけるしかなかった……。
どのみち俺はここで終わるはずだったんだ。
キセルさんがもう一勝負やってくれるってんなら、
俺には止める理由なんざ何もない。
主人公【見守ろう】
【信じよう】
十手〇〇君……。
……わかった。
合力……入ります。

合力が2つのサイコロをツボに入れ、
盆布の上に伏せる。

合力さぁ……どうですか!
キセル丁!
胴元半だ!
全員…………。
合力……勝負っ!
十手出目は……両方2だ!
合力……ニゾロの丁。
キセルまずは、俺の勝ちだな。
胴元……なに、3番勝負だ。
ここから勝たせてもらうぜ。
主人公【今ので勝ち?】
【……よくわからない】
八九丁半賭博のルールは簡単だぜ。
賽の目の合計が、奇数か偶数かを当てれば勝ちだ。
八九奇数が半で、偶数が丁──
今回は2と2で合計4だったから、丁ってわけ。
十手うう……まずは1勝できたが、
見てるだけで寿命が縮みそうだ……。
合力……次、入ります。
合力さァ、お願いします。
キセル半!
胴元丁!
合力勝負っ!
八九今度の出目は、2と6か。
合力……ニロクの丁。
胴元今度は俺の勝ちだな。
キセル……次で決める。
胴元ああ、泣いても笑っても、
次勝った方が勝ちだ。さぁ、勝負!
神様、仏様、桜國様……!
一太…………。
合力……最後、入ります。
どうぞ。
キセル半!
胴元丁!
合力勝負っ!
十手&八九……っ!
キセル…………。
合力……シロクの丁。
胴元悪いな、鷲ヶ前組の。
……俺の勝ちだ。

 

第23話:大勝負!2

十手そ、そんな……!
これじゃあ、店も時計も取られちまう……!
キセル…………。
キセル……ちょいと待ちな。

キセルが煙管鉄砲で盆台のサイコロを軽く叩くと、
綺麗に2つに割れて中から鉛玉が現れた。

胴元……っ……。
十手これは……っ!!
キセル俺の目は誤魔化せねェ……いや、この場合は耳か。
2回目から、サイコロの音が少し変わった。
キセルこいつは丁しか出ねェ仕込みだな。
あんたが、勝負の途中でサイコロを入れ替えた……
そうだろう!
合力くっ……。
キセル外の世界じゃ生きていけねぇ奴らが集まるのが、
この歌舞妓町──
キセルそんな俺たちが、
これだけは守らなきゃいけねぇってのが仁義だろうが。
キセル違うか、ああ!?
胴元……クッ……。
…………俺の、負けだ……ッ。
キセル政とそこの坊主は俺が預かるぜ。
俺を相手にイカサマを働いたんだ。
厳しい沙汰が下ると覚悟しておけ!
胴元くそっ……!
一太父ちゃん……!
一太……、心配かけてすまねえ……!
十手ふぅ……寿命が縮んだ気がするよ……。
八九……なぁ。あいつがイカサマするかもしれねぇって、
最初から睨んでたのか?
八九イカサマを見破れば、
勝負は無効で大事な時計も失わずに済む。
キセルさァな。俺は勝負強さには自信があるんでね。
正々堂々もう一勝負しても、勝ってやらァ!

……キセルさん。
この度は、本当に世話んなりました!
一太……親父を助けてくれて、どうも。
キセルいいってことよ。
十手はぁ……。
なんとかなって、本当によかった……。
主人公【すごかった】
【ハラハラした】
十手ああ、同感だ、〇〇君……。
生きた心地がしなかったが、鮮やかなものだったなぁ!
最後、シロクの丁が出た時はもうダメかと……!
八九それより……十手。
お前、もっと気にすべきもんがあるだろ。
十手……はっ! 俺の銃!
キセルほら、坊主。十手に返してやれ。
一太……わかったよ。
返せばいいんだろ。ほら。
十手ふぅ……。ようやく戻ってきたか……!
八九ったく……クソ生意気で腹立つガキだな。
一太うるさいな。愛想が悪いのは生まれつきだ。
こら、一太!
一太…………。
……すみません、お世話になったってのに。
キセルいや、構わねェよ。
キセル坊主。何かあればいつでも声をかけろ。
俺が必ず力になるからよォ。

キセルは少年の頭を撫でようとするが、
少年は一歩身を引いて、その手を避けた。

キセル…………。
一太……ふんっ。
こんなの、どうせ気まぐれなんだろ。
一太大人なんて、見て見ぬふりするやつばっかりだ……。
こら、一太! なんてこと言うんだ!
すんません、倅には俺から
よーく言い聞かせますんで……!
八九なんなんだよ、あのガキ。
キセル…………。

第24話:キセルの想い

十手彼は、どうしてあんな態度を……。
キセル仕方ねェさ。
今日は俺が居合わせて店は取り戻したが、
政は金に困ってんだろう。
キセルあの親子は、これからも苦労していかなきゃならねェ。
十手そうか……。
また、盗みなどしなければいいのだがな。
キセル……今の歌舞妓町の状態じゃあ、
そいつは叶わねぇ望みかもしれねぇな。
十手どういうことだい?
キセル……あの坊主みたいに、路頭に迷ったり、
盗みに手ェ出したりするガキが増えてんだ。
キセル──イカサマをしてたさっきのヤツらは、
最近、歌舞妓町に出入りしてるタチの悪い連中でなァ。
キセル博打で借金を背負わせて、
そのカタに店やらなんやらを奪ってるらしい。
キセルやり口は汚ェが、イカサマでもしてない限り、
鷲ヶ前組が手を出すわけにもいかねぇ。
キセル借金でにっちもさっちもいかなくなって
一家で夜逃げするならまだいい。
キセル中には一家心中するほど追い詰められたり、
親を亡くした子供が盗みに走ったり、
詐欺集団に加担したりするやつもいる。
キセルなんとかしてぇとは思ってんだがな……。
八九ひでぇ話だな。
キセルまァ、あの坊主には親父さんがいる。
これから親子で踏ん張ってくれりゃあいいが……。
キセルハァ。俺にもっと力がありゃあ、
あいつらを丸ごと救ってやれるってのに……。
もどかしいったらありゃしねェ。

キセルは己の手をじっと見つめた。

キセル行き場をなくした者、外ではみ出し者だったヤツでも、
家族になれるのが鷲ヶ前組であり、
この歌舞妓町自治区だ……ほれ、あれを見てみろ。
???さぁ、子供たち!
食うもん食わずの子はみんな寄っといで!
???うちの店からの炊き出しだよ。
まだまだあるから、友達も呼んどいで。
???明日もその次も、うちの店に来れば助けてやる。
さぁ、たんと食え!
少年2おーい、大黒屋のおっちゃん!
こっちこっち、おいらにもくれよ~!
1番でっかい握り飯なっ!
少年3あ、一太。こっちだ、こっち!
早くしねぇと、なくなっちゃうぞー!
一太待てよーっ! 俺はおかかおにぎりだからな!
十手あの店は……?
キセルあれは大黒屋って言ってな。
歌舞妓町きっての大店(おおだな)で、
ああして子供らに施しをしてる。
十手それは立派なお店だ……!
小児は白き糸の如し──糸を黒く染めようって輩も、
ああして救おうとする御仁もいるんだなぁ。
大黒屋これ、押すな押すな!
そんなに慌てなくても、まだまだあるんだから。
少年3大黒屋のおっちゃん、いつもありがとう!
大黒屋困った時はお互い様だ。
そのうち、みんなの力を貸しとくれ。
キセル……世の中、意外と捨てたもんじゃねェだろ?
キセル俺は、この街を心底大切に思ってる。
オヤジも、カシラも、組のみんなもそれは同じだ。
キセル子供らは宝……。
あいつらが助けを求めて手を伸ばしてきたら、
その手を残らず握れる男でありてェもんだ。
キセルまだまだ、先は長いがなァ……。
八九鷲ヶ前組ってのは、
自治区でもっと威張り散らしてるもんかと思ってたが、
イメージとだいぶ違ってたわ。
キセルはっはっは! 仁義を貫き、困ってる奴らのために
身体張ってこそ、任侠の男だからな!

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