日本編Ⅱ:第21話~第25話

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第21話:幕臣会議

──桜國城内の会議室には8人の幕臣が集まっていた。

幕臣1桜國幕府は、まだ八九を失うわけにはいかぬ。
ゆえに、再召銃せねばならん。
幕臣2しかし、マスターは誰に?
葛城輝彦は薔薇の傷を失っております。
幕臣3うーむ……葛城は実に良いマスターであった。
忠誠心が強く、己の役割を全うしようとする強い責任感もあった。
回復を待ち、あれを再びマスターとしたいものだが……。
幕臣4イエヤス様の進言を受け、幕府では今後一切、
何人たりとも結晶に触れぬこととなっておる。
幕臣5うむ。
結晶の取り扱い自体が定められたのだ。
マスターとなった経験がある葛城であっても、例外ではない。
幕臣2……現状、八九を再召銃できるのは、上様とあの方のみ。
しかし、上様の召銃にイエヤス様が強固に反対しておられるし、
上様に危険が及ぶ可能性は最大限排除せねばならぬ。
幕臣たち…………。
幕臣3して、イギリスの来訪者はどうする?
あれは世界連合の手の者。
欧州に八九のアウトレイジャー変異が漏れると厄介ですぞ。
幕臣2口止めをしておけ。変異の件が漏れれば、八九の本体を
破壊せざるをえないとでも言っておくのじゃ。
幕臣2〇〇は知己の者を無碍にできない性と聞く。
それを利用すれば御するは容易かろう。
幕臣1では、よろしく頼むぞ。
桂幕僚長。
……御意に。

邑田……〇〇や。待たせたの。
主人公【八九さんの処遇は……!?】
邑田今宵の騒動については箝口令が敷かれた。
〇〇、そなたらも例外ではないが、
そなたらは連合軍の者。
邑田桜國幕府や自衛軍の指揮系統下にない以上強制はできぬが、
そなたらに連合軍へ報告を上げられては、
八九を処分せざるを得なくなるやもしれぬ。
邑田……そなたらも、口を閉ざしてくれるか。
主人公【……わかりました】
【それで八九さんが無事で済むなら】
邑田すまぬな。恩に着るぞ。
主人公【葛城山の容態は……?】
邑田軍病院にて治療中じゃ。
手術は無事に終わったが、まだ意識が戻っておらん。
主人公【(葛城さん……)】
【(自分がもっと気をつけていれば……)】
……日美子様の予言は、このことだったのかもしれんな。
だが、何故に急に八九殿はアウトレイジャーに……?
主人公【……話があります】
邑田む?

〇〇は、薔薇の傷が極度に悪化すると、
貴銃士がアウトレイジャー化してしまう恐れがあること。

トルレ・シャフは、特殊な毒薬を用いてマスターを弱らせ、
傷を急速に悪化させることで
アウトレイジャー化を促す場合があることを伝えた。

邑田なんと……。
では、八九が唐突に変じてしまったのはそのせいということか。
〇〇殿……それは、連合軍の機密事項では?
貴銃士を重用している連合軍や各国にとって、
その毒薬の存在を明かすのは致命的な傷になりかねないはず。
その気になれば、貴銃士を貴銃士ならざる者に堕とせる……。
敵対組織がその手段を持っているなどと広まれば、
世界中が大混乱に陥りますぞ。
我々にとっては貴重で有り難い情報ですが……
伝えてよかったのでしょうか。
主人公【黙っていたから葛城さんがあんなことに……】
【桂幕僚長に葛城さんと同じことが起きるかも】
……!
私の身を案じてくださっているのですか。
邑田……〇〇。

邑田がおもむろに〇〇へと手を伸ばす。
そして、頭をそっと撫でた。

主人公【……!?】
邑田桂や。〇〇はそなたや我らを案じ、
重要な情報を伝えてくれた。
……伝えてもいいと思うほど案じ、信じてくれておる。
邑田我らはこの信頼に報いねばのう……。
ええ……!

第22話:再召銃

八九……あ……。
八九……っ、ここは……?
葛城……他の奴らは……っ!

八九の目の前には御簾があり、奥に人の気配があるが、
暗くて姿を見ることはできない。
混乱する八九を落ち着けるように、桂が声をかけた。

無事に目覚めたようですな、八九殿。
安心されよ。
貴殿が危惧しているようなことは起きていない。
貴殿のマスターが変わっただけのこと。
八九あ、ああ……?
落ち着いたら基地に戻るように。

自衛軍の基地に戻った八九は、
いつもと変わらない基地や兵士の様子に、
言いようのない違和感を抱いた。

八九(何がってのはわからねーけど……!)
邑田おお、八九。戻ったか。
少々おイタしたそうじゃのう。
久々に銃に戻っていた気分はどうじゃ?
在坂ついでに、八九も在坂たちと同じマスターになったようだ。
八九あ、ああ。桂幕僚長な。
邑田……そうそう、八九や。
絶対非道はどうじゃ? 今も気配はないかのう。
八九あ? そうだな、使えねーと思う……。
邑田左様か。使えぬならいいが、今後も決して使わぬよう。
八九え……お、おう……。
邑田さて、そろそろおやつの時間じゃの。
わしらは部屋に戻るゆえ、茶を持ってきてくれ。
邑田もちろん、アツアツでな。
少しでもぬるい茶を持ってきたら承知せんぞ。
在坂在坂はスイートポテトが食べたい。
よろしく頼む。
八九…………。
八九(──絶対、絶対おかしい)
自衛軍兵士1おお、八九殿!
今日はフラゲ日なのでいろいろな新刊を買ってきたんですよ!
よかったらお貸ししましょうか?
八九ああ……。

八九は自室の前にやってくる。
普段と何も変わらない様子だった。

八九この扉……。
八九(おぼろげにしか記憶がねぇけど……
確か、このあたりは派手に損壊してたはずだ)
八九あ……。
これ……修理した跡……?
八九(──やっぱり、あれは夢じゃねぇ)
八九……なあ、お前ら。
自衛軍兵士2はい?
八九俺が暴れた時、誰もケガしなかったか……?
全員、大丈夫だったか……?
自衛軍兵士3え…………さあ、なんのことでしょうか?
八九……っ!

八九おかしいだろ、絶対!!
……おかしい、とは?
八九俺が銃に戻っている間に何が起こった!?
銃に戻る前のことは、断片的だけど覚えてる。
俺は、貴銃士じゃねぇモンになりかけてたはずだ。
八九あれが……アウトレイジャーなんだろ?
なのになんで『なかったこと』になってる?
八九真夜中だったから誰にも気づかれずに済んだかとも考えたけどよ、
見てた奴もいたし、部屋が半壊してりゃ噂が広まるはずだろ。
『さぁ、なんのことでしょうか?』はありえねぇ!
……アウトレイジャーになったことを周囲に知られる方が、
八九殿にとっても不都合なのでは?
何をそんなに怒っていらっしゃる。
八九それは……!
八九式は我ら自衛軍にとって思い入れのある銃。
貴銃士としての八九殿も慕われております。
それゆえ、あの凶行については不問となったのです。
八九は……?
あんなことしといて、そんな対応あるか……?
幸いにして、自害を図った葛城以外は無事です。
今回はそういうものとして、受け入れてくだされ。
八九……受け入れろ、って……。
八九(つーか、葛城。あいつは大丈夫なのか……?
『自害を図った』って……無茶しやがって……!)

八九面会謝絶……?
軍医申し訳ございません……まだ意識が戻っていませんし、
状態は安定してきていますが、油断できませんので。
八九そうか……。

八九……おい、竹田。
竹田八九殿……! お戻りになられたのですか。
八九ああ。お前はあの晩居合わせたんだろ?
知ってること、全部話せ。
竹田…………。
……八九殿は、どこまで覚えているのですか?
八九全部しっかり覚えてるわけじゃねぇ。
けど、部屋をぶち壊してグラースと戦ってたこと、
葛城が血を流して倒れてたこと……その辺はわかる。
八九俺が、俺でなくなりかけてたことも……。
竹田そうですか……。私もすべてを見たわけではないので、
八九殿が目にし、覚えていることは現実だと
お伝えすることしかできません。
竹田ただ、今回見たことはすべて忘れるようにと、
居合わせた者たちには上から厳命が下っています。
八九は……?
八九そりゃまあ、自衛軍所属の貴銃士がアウトレイジャー化しかけた、
なんて公になればとんでもねぇ騒ぎになるし、
伏せようとするのはわかるけどよ……。
八九俺は一切お咎めなしで、自衛軍の奴らは口裏合わせて、
あの騒動は幻だったみてぇに振る舞うつもりか?
竹田おそらく、そうではないかと。
今は〇〇殿たちもいらしていますし、
何もなかったことにするのが一番だと上は判断されたのでしょう。
竹田私からも桂幕僚長に、八九殿に起きた異変はあまりに唐突で、
八九殿の意思あってのものではないはずと報告しております。
竹田これまでの報告を踏まえても、
上が八九殿に対し、反逆の意思ありと判断することはないかと。
八九そうか……なら、破壊コースは免れ──……
八九……報告? 『これまでの』って言ったか?
竹田あ……。

気まずそうに視線を逸らす竹田へ、八九は一歩詰め寄る。

八九お前、まさか……俺を監視してたのか?
んで、桂に報告を上げてたのか?
竹田…………。
八九黙ってねぇでなんとか言えよ!
竹田八九殿とゲームをするようになってしばらく経った頃……
桂幕僚長から呼び出しを受けました。
竹田八九殿の様子を報告するように、と。
八九は……? ハハ……。
ハハハハッ!
八九てめぇは……命令されたから
頑張って俺と仲良くしようとしたってわけか。
竹田……っ、それは違います!
八九言い訳なんかどうでもいい!
てめぇが俺を見張ってコソコソ報告してたのは事実なんだろうが!
八九(馬鹿馬鹿しい……本当に俺は馬鹿だ。
ゲーム仲間もできて、自衛軍生活も悪かねぇって、
何も知らずに呑気に楽しんでた大間抜けだ)
竹田……ッ、豊田氏!
八九黙れ! その呼び方でほだされるとでも思ってんのか!?
このスパイ野郎が!
竹田待ってください、話を……!
八九(てめぇらがそのつもりなら……こっちにも考えがある)

第23話:八九の真実

八九…………。

八九は部屋に鍵をかけて閉じこもり、
慣れた手つきで工具を使って何かを作っていた。
床には、分解されたラジオや無線などの機器類が転がっている。

八九(この国の奴らは随分と俺のことを舐め腐ってるみてぇだけどよ、
仮にも元世界帝軍の特別幹部サマ相手に甘っちょろいこった)
八九(マスターが変わったからって、
俺が何されようが何言われようが大人しくしてる
イイ子の僕ちゃんになったとでも思ってんのか?)
八九(クソどもが。
せいぜい、俺をいいように操ろうとしたことを後悔すりゃいい)
八九……できた。

できあがった小さな機械……盗聴器を手に、
八九は薄く笑みを浮かべた──。


八九……お?
自衛軍兵士おや、八九殿?
申し訳ございません、これからここは会議で使う予定でして……。
八九あー……悪ィ。
この辺で落とし物したから探してんだ。
ざっと見たらすぐ出る。
自衛軍兵士そうでしたか。

八九は机の下を見て回りつつ、
兵士の隙を見て、盗聴器をテーブルの下に貼り付けた。


──数日後。

八九…………。
盗聴器『──ザザ、ザザザ……』
盗聴器『ザ……たっ……の……ザザザ……が……』
八九……っ! 来た。
この声……1人は桂か? もう1人も……聞いたことがある。
軍……いや、幕府の奴か……?

八九は、イヤフォンを通して聞こえてくる声に集中する。
周波数を微調整し、音質がクリアになったことで、
もう1人は幕臣だと確信を持った。

『……八九殿に関する決定を急ぎすぎたのではあるまいか?
葛城の意識も戻らぬうちに召銃され、
これまで通りにと言われても、困惑するのも無理はない』
幕臣『しかし、八九は自衛軍──いや、我が国に必要な貴銃士だ。
あれを手中に収め活動させることは、対外的な大きな意味を持つ。
長く銃のままにはしておけぬし、事件の公表などもってのほか』
幕臣『日ノ本は元世界帝軍の貴銃士を完璧に御している──
連合軍にとっても、親世界帝派勢力にとっても、
これほど無視できぬ事実はないのだからな』
『……親世界帝派勢力が再び覇権を握る可能性に備え、か……』
幕臣『いかにも。
先を見据え、情勢がどう転ぼうと日ノ本が共倒れにならぬよう、
備えておくことは大事であろう?』
幕臣『現状、親世界帝派にそこまで大きな力はないように思えるが、
日美子様は“世界帝は存命、用心せよ”とおっしゃった。
今後何が起きるかはわからぬ』
『……それはそうだが。
今回の性急な対応が、後々の禍根とならぬことを祈る』
幕臣『禍根とせぬようにするのは、主に軍の役目だろう。
再召銃されてからの八九は、周囲との交流を断っていると聞く。
変な気を起こさぬよう、監督を怠らぬようにせよ』
幕臣『なに、絶対非道にも目覚めていない貴銃士である。
戦力としては数えず、遊びたいだけ遊ばせて
不満を抱かぬように計らえばよかろう』
『…………』
八九…………。
八九……はぁーあ、なるほどな……。
つまり俺は、外交の駒として必要だから呼び覚まされたのか。
八九んで、余計なことをしでかさないように、
ご丁寧に『接待』されてた、と。
八九……っ! クソッ!

八九はゴミ箱を蹴り飛ばした。
手当たり次第に、部屋中のものに当たり散らす。

八九はぁ……はぁ……。
八九……はは、ははは!
八九国やら軍ぐるみで接待されてたようなもんだとも知らずに、
マジで……馬鹿みてぇだ。
八九日本の奴らがみんな平和ボケでフワフワしてて、
俺の来歴を気にしねぇから……俺も……。
俺も本当に『新しい自分』とやらになろうとしてた。
八九ハハッ、健気で馬鹿なとんだピエロだ。
あいつらの本当の目的も知らねぇでよ……。
八九平和ボケしてたのは、俺の方じゃねぇか……。
八九…………。
あー、もう……だりぃな。
八九全部、どーでもいい……。

 

第24話:病室での邂逅

八九…………。

八九の部屋には、コントローラーを操作する音だけが響いていた。
部屋の隅には、本体である小銃が無造作に置かれている。

何度も繰り返し部屋のドアがノックされるが、
八九は画面に視線を注いだままで、ドアの方を見ることすらない。

八九……チッ、うるせぇ……。
邑田いいかげんにせよ、八九!
朝礼も訓練もサボって引きこもりおって!
八九…………。
在坂……八九が好きそうな味噌せんべいがある。
開けるから、出てきて食べるといいだろう。
在坂は、八九に茶を淹れてほしい。
八九…………はぁ。
竹田八九殿が気分を害されるのも当然です……!
黙っていて本当に申し訳ない……。
竹田しかし、八九殿は大事なゲーム仲間です!
私はそう思っております!
これは誓って嘘ではありません……!!
主人公【ここを開けてほしい】
【ちゃんと話をしたい】
八九……どいつもこいつもうるせぇ……。

邑田…………。
邑田いいかげんにせんか!

室内からまったく反応がないことに痺れを切らし、
邑田はドアを蹴破った。

邑田出てこい、八九!!
八九……!

邑田が八九を部屋から引きずり出し、
胸ぐらを掴んで廊下の壁に押し付けた。

邑田いつまでむくれているつもりじゃ!
聞き分けのない稚児ではあるまいに!!
八九…………。
十手ちょ、邑田君……!

十手が止めに入った隙に、
八九は胸ぐらを掴んでいる邑田の手を強く払う。

邑田を睨みつけた八九は、無言で部屋に戻ってしまった。
蝶番が一部壊れたドアが立てる軋んだ音が、虚しく響く。

竹田……申し訳ございません……私のせいです。
私が、八九殿の不信感を決定的にしてしまった……。
邑田いや……そなた個人の責任ではない。
それに、聞く耳を持つ気もないあやつの問題でもある。
邑田……八九、1つ伝えておくことがある。
葛城輝彦二佐の意識が戻ったそうじゃ。
わしらはこれから見舞いに行く。
邑田待っておるぞ、八九。

面会は3人までとのことで、
十手とグラースは病院のロビーで待機し、
邑田、在坂、〇〇の3人で葛城の病室へ向かう。

在坂503号室……あっちだ。
看護師お、お待ちください……!
邑田……む?
看護師申し訳ございません!
503号室には、只今入ることができません。
しばらく待合室にてお待ちいただけますか?
主人公【葛城さんに何か……!?】
→看護師「あ……いえ、葛城さんは大丈夫ですよ。」

【問診中とかでしょうか】

→看護師「問診ではないのですが……
少々立て込んでおりまして……。」
看護師後ほどお呼びしますので、今しばらくお待ち下さい。
邑田&在坂…………。
邑田……どうもきな臭い。そうは思わぬか?
在坂葛城は……基地の中で襲撃された。
病院にも、敵が手を回しているかもしれない……。

〇〇たちは、
看護師の目を盗んで病室に忍び込んだ。
ベッドの上には葛城が横たわっている。

意識が戻ったと連絡があったが、深い眠りに落ちているようで、
彼の目はしっかりと閉じられていた。
顔色はまだ良いとは言えないが、規則正しく寝息を立てている。

主人公【よく眠ってる……】
【回復してきているみたいでよかった】
在坂……! 誰かが来る。隠れろ。

邑田と在坂はベッドの下に、
〇〇はクローゼットの中に隠れる。
まもなくして、誰かが病室に入ってきた。

床を引きずるように裾の長い紅白の着物を着た人物と、
寄り添う2人の女性だった。

中央の人物は、両脇の女性に隠れており、
クローゼットの僅かな隙間からではよく見えない。

主人公【(両脇の人の着物……見覚えがあるような)】

和服の女性きゃあっ!
和服の女性い、たた……。
和服の女性ひっ、し、失礼しました……!
邑田桜の御紋に『幕』の文字……
あれは、城の侍女じゃな。

主人公【(歓迎会の時にぶつかった人のと同じ!)】
???葛城……薔薇の傷の重責を担うことになったマスター……。
???わらわの力が及ばなかったばかりにこのような……。
すまぬ……すまぬ……!
侍女1姫様のせいではございません……!
侍女2あなた様は誰よりも日ノ本のため、民のため尽くしておられます。
身命を賭し、身を削ってまで……っ。
葛城う……。
侍女1……!
姫様、葛城殿が目を覚まします。そろそろ……。
???ああ……。
葛城、そなたは役目を全うしました。
あとはわらわに任せ、ゆっくり休んでください。

病室をあとにしようとする3人。
しかし、中央の人物が、急にがくりと膝をついた。

第25話:堕ちた八九

???……っ。
侍女2日美子様!
主人公【(ひみこさま……?)】
邑田&在坂……っ!

〇〇は隙間から目を凝らす。
侍女たちの間から見えた『日美子様』と呼ばれていた人物は、
10歳ほどの幼い少女のようだった。

しかし……その頬に子供らしい丸みはなく、
およそ健康とは言い難いほどひどく痩せている。
肌も不健康な青白さで、血色どころか生気すらも薄く見える。

主人公【(こんな子供が憔悴している……)】
【(葛城さんの件で責任を感じて……?)】
主人公【待ってください!!】
邑田&在坂……!?

〇〇は意を決して、
クローゼットから出ると、日美子の前に立った。
邑田と在坂も慌ててベッドの下から出てくる。

日美子……っ!!
侍女2あ、あなたは……〇〇殿!?
貴銃士様方も、どうしてここに!?

〇〇は、深く頭を下げる。
日美子の警告を聞いたにもかかわらず、
この状況を防げなかったことを詫びた。

主人公【油断があったことは否めません】
【これは自分の責任です……!】

〇〇が謝罪をするが、
日美子はみるみる青ざめ、侍女の背後へ姿を隠した。

侍女1〇〇殿、なりませぬ!
姫様は能力を研ぎ澄ますために、
世俗との関わりを断っていらっしゃいます。
侍女1今はお加減もよろしくないので……
さ、参りましょう、姫様。
日美子…………。
……ああ。

日美子は在坂を見て、一瞬ハッとしたように息を呑んだ。
しかし、すぐに侍女に支えられて立ち去ってしまった。

在坂…………。
主人公【……余計に迷惑をかけてしまった】
邑田迷惑かはわからぬぞ。
そなたの思いは少なからず伝わったであろう。
邑田それにしても……日美子殿が見舞いに出てくるとはな。
人前には決して姿を見せぬという話であったが……。
それほどまでに、此度の一件に責任を感じているのじゃろうか。
主人公【憔悴しているように見えました】
→邑田「」

【彼女は病気なんですか……?】

→邑田「そうじゃな……。
そも、神子というお役目自体が幼な子には重かろう。
加えて、この騒動じゃ。」
在坂……在坂は、日美子が心配だ。
今の葛城よりも顔色が悪く見えた。
邑田……おや? これは……。

葛城の布団の上には、折り鶴が置かれていた。


荒れた部屋の中で、八九はゲームに没頭していた。
機械的にNPCを撃ち殺す八九の目は淀んでおり、
その下には濃いくまができている。

八九……飽きてきたな。
はぁ……だりぃ。さっさと銃に戻りてぇ。
八九(けど……桂と幕臣の話だと、
貴銃士体を大損傷させて銃に戻ったとしても、
どうせまたすぐに再召銃されそうだな。あー……クソ)
八九(そうだ、アウトレイジャーになりかけてた時……
ふわふわしてて、楽だったな。
迷いも何もなくて……気持ちいい、に近い感じがしてた気がする)
八九(『戦部ぶっ壊せ』って声が聞こえて……自然と体が動いた。
考える必要なんてなくて……銃に戻れた感じがした)
八九(いや、感覚はあったから、単なる銃っつーか……
昔に戻ったみてーだったのかもな。
世界帝軍にいた頃の俺に……)
八九(誰かのこととか、責任とか、
難しいことは別になんにも考えなくてよくて。
ただ、言われた通り、ゲームみてぇに敵をぶっ殺すだけ──)
八九(まあ……楽だっただけで、
別に殺戮マシンになりてぇわけでもねーけど。
これ以上好きに使われんのは御免だ)
八九(もう二度といいように使わせねぇには……破壊か。
いっそのこと……またアウトレイジャーになって、
向こうが手加減できねぇくらいに暴れまくれば……?)

その時、基地内に警報音が鳴り響いた。

放送『桜國城近くでアウトレイジャーが大量出現!
繰り返す、桜國城近くでアウトレイジャーが大量出現!
以下の部隊に出動を命ずる!』
八九…………。

出動部隊に選ばれた兵士たちが、
慌ただしく準備し駆けていく音を耳にしつつ、
八九はゆっくりと立ち上がる。

八九…………。
アウトレイジャー……。

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