──桜國城内の会議室には8人の幕臣が集まっていた。
幕臣1 | 桜國幕府は、まだ八九を失うわけにはいかぬ。 ゆえに、再召銃せねばならん。 |
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幕臣2 | しかし、マスターは誰に? 葛城輝彦は薔薇の傷を失っております。 |
幕臣3 | うーむ……葛城は実に良いマスターであった。 忠誠心が強く、己の役割を全うしようとする強い責任感もあった。 回復を待ち、あれを再びマスターとしたいものだが……。 |
幕臣4 | イエヤス様の進言を受け、幕府では今後一切、 何人たりとも結晶に触れぬこととなっておる。 |
幕臣5 | うむ。 結晶の取り扱い自体が定められたのだ。 マスターとなった経験がある葛城であっても、例外ではない。 |
幕臣2 | ……現状、八九を再召銃できるのは、上様とあの方のみ。 しかし、上様の召銃にイエヤス様が強固に反対しておられるし、 上様に危険が及ぶ可能性は最大限排除せねばならぬ。 |
幕臣たち | …………。 |
幕臣3 | して、イギリスの来訪者はどうする? あれは世界連合の手の者。 欧州に八九のアウトレイジャー変異が漏れると厄介ですぞ。 |
幕臣2 | 口止めをしておけ。変異の件が漏れれば、八九の本体を 破壊せざるをえないとでも言っておくのじゃ。 |
幕臣2 | 〇〇は知己の者を無碍にできない性と聞く。 それを利用すれば御するは容易かろう。 |
幕臣1 | では、よろしく頼むぞ。 桂幕僚長。 |
桂 | ……御意に。 |
邑田 | ……〇〇や。待たせたの。 |
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主人公 | 【八九さんの処遇は……!?】 |
邑田 | 今宵の騒動については箝口令が敷かれた。 〇〇、そなたらも例外ではないが、 そなたらは連合軍の者。 |
邑田 | 桜國幕府や自衛軍の指揮系統下にない以上強制はできぬが、 そなたらに連合軍へ報告を上げられては、 八九を処分せざるを得なくなるやもしれぬ。 |
邑田 | ……そなたらも、口を閉ざしてくれるか。 |
主人公 | 【……わかりました】 【それで八九さんが無事で済むなら】 |
邑田 | すまぬな。恩に着るぞ。 |
主人公 | 【葛城山の容態は……?】 |
邑田 | 軍病院にて治療中じゃ。 手術は無事に終わったが、まだ意識が戻っておらん。 |
主人公 | 【(葛城さん……)】 【(自分がもっと気をつけていれば……)】 |
桂 | ……日美子様の予言は、このことだったのかもしれんな。 だが、何故に急に八九殿はアウトレイジャーに……? |
主人公 | 【……話があります】 |
邑田 | む? |
〇〇は、薔薇の傷が極度に悪化すると、
貴銃士がアウトレイジャー化してしまう恐れがあること。
トルレ・シャフは、特殊な毒薬を用いてマスターを弱らせ、
傷を急速に悪化させることで
アウトレイジャー化を促す場合があることを伝えた。
邑田 | なんと……。 では、八九が唐突に変じてしまったのはそのせいということか。 |
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桂 | 〇〇殿……それは、連合軍の機密事項では? 貴銃士を重用している連合軍や各国にとって、 その毒薬の存在を明かすのは致命的な傷になりかねないはず。 |
桂 | その気になれば、貴銃士を貴銃士ならざる者に堕とせる……。 敵対組織がその手段を持っているなどと広まれば、 世界中が大混乱に陥りますぞ。 |
桂 | 我々にとっては貴重で有り難い情報ですが…… 伝えてよかったのでしょうか。 |
主人公 | 【黙っていたから葛城さんがあんなことに……】 【桂幕僚長に葛城さんと同じことが起きるかも】 |
桂 | ……! 私の身を案じてくださっているのですか。 |
邑田 | ……〇〇。 |
邑田がおもむろに〇〇へと手を伸ばす。
そして、頭をそっと撫でた。
主人公 | 【……!?】 |
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邑田 | 桂や。〇〇はそなたや我らを案じ、 重要な情報を伝えてくれた。 ……伝えてもいいと思うほど案じ、信じてくれておる。 |
邑田 | 我らはこの信頼に報いねばのう……。 |
桂 | ええ……! |
八九 | ……あ……。 |
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八九 | ……っ、ここは……? 葛城……他の奴らは……っ! |
八九の目の前には御簾があり、奥に人の気配があるが、
暗くて姿を見ることはできない。
混乱する八九を落ち着けるように、桂が声をかけた。
桂 | 無事に目覚めたようですな、八九殿。 |
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桂 | 安心されよ。 貴殿が危惧しているようなことは起きていない。 貴殿のマスターが変わっただけのこと。 |
八九 | あ、ああ……? |
桂 | 落ち着いたら基地に戻るように。 |
自衛軍の基地に戻った八九は、
いつもと変わらない基地や兵士の様子に、
言いようのない違和感を抱いた。
八九 | (何がってのはわからねーけど……!) |
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邑田 | おお、八九。戻ったか。 少々おイタしたそうじゃのう。 久々に銃に戻っていた気分はどうじゃ? |
在坂 | ついでに、八九も在坂たちと同じマスターになったようだ。 |
八九 | あ、ああ。桂幕僚長な。 |
邑田 | ……そうそう、八九や。 絶対非道はどうじゃ? 今も気配はないかのう。 |
八九 | あ? そうだな、使えねーと思う……。 |
邑田 | 左様か。使えぬならいいが、今後も決して使わぬよう。 |
八九 | え……お、おう……。 |
邑田 | さて、そろそろおやつの時間じゃの。 わしらは部屋に戻るゆえ、茶を持ってきてくれ。 |
邑田 | もちろん、アツアツでな。 少しでもぬるい茶を持ってきたら承知せんぞ。 |
在坂 | 在坂はスイートポテトが食べたい。 よろしく頼む。 |
八九 | …………。 |
八九 | (──絶対、絶対おかしい) |
自衛軍兵士1 | おお、八九殿! 今日はフラゲ日なのでいろいろな新刊を買ってきたんですよ! よかったらお貸ししましょうか? |
八九 | ああ……。 |
八九は自室の前にやってくる。
普段と何も変わらない様子だった。
八九 | この扉……。 |
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八九 | (おぼろげにしか記憶がねぇけど…… 確か、このあたりは派手に損壊してたはずだ) |
八九 | あ……。 これ……修理した跡……? |
八九 | (──やっぱり、あれは夢じゃねぇ) |
八九 | ……なあ、お前ら。 |
自衛軍兵士2 | はい? |
八九 | 俺が暴れた時、誰もケガしなかったか……? 全員、大丈夫だったか……? |
自衛軍兵士3 | え…………さあ、なんのことでしょうか? |
八九 | ……っ! |
八九 | おかしいだろ、絶対!! |
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桂 | ……おかしい、とは? |
八九 | 俺が銃に戻っている間に何が起こった!? 銃に戻る前のことは、断片的だけど覚えてる。 俺は、貴銃士じゃねぇモンになりかけてたはずだ。 |
八九 | あれが……アウトレイジャーなんだろ? なのになんで『なかったこと』になってる? |
八九 | 真夜中だったから誰にも気づかれずに済んだかとも考えたけどよ、 見てた奴もいたし、部屋が半壊してりゃ噂が広まるはずだろ。 『さぁ、なんのことでしょうか?』はありえねぇ! |
桂 | ……アウトレイジャーになったことを周囲に知られる方が、 八九殿にとっても不都合なのでは? 何をそんなに怒っていらっしゃる。 |
八九 | それは……! |
桂 | 八九式は我ら自衛軍にとって思い入れのある銃。 貴銃士としての八九殿も慕われております。 |
桂 | それゆえ、あの凶行については不問となったのです。 |
八九 | は……? あんなことしといて、そんな対応あるか……? |
桂 | 幸いにして、自害を図った葛城以外は無事です。 今回はそういうものとして、受け入れてくだされ。 |
八九 | ……受け入れろ、って……。 |
八九 | (つーか、葛城。あいつは大丈夫なのか……? 『自害を図った』って……無茶しやがって……!) |
八九 | 面会謝絶……? |
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軍医 | 申し訳ございません……まだ意識が戻っていませんし、 状態は安定してきていますが、油断できませんので。 |
八九 | そうか……。 |
八九 | ……おい、竹田。 |
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竹田 | 八九殿……! お戻りになられたのですか。 |
八九 | ああ。お前はあの晩居合わせたんだろ? 知ってること、全部話せ。 |
竹田 | …………。 ……八九殿は、どこまで覚えているのですか? |
八九 | 全部しっかり覚えてるわけじゃねぇ。 けど、部屋をぶち壊してグラースと戦ってたこと、 葛城が血を流して倒れてたこと……その辺はわかる。 |
八九 | 俺が、俺でなくなりかけてたことも……。 |
竹田 | そうですか……。私もすべてを見たわけではないので、 八九殿が目にし、覚えていることは現実だと お伝えすることしかできません。 |
竹田 | ただ、今回見たことはすべて忘れるようにと、 居合わせた者たちには上から厳命が下っています。 |
八九 | は……? |
八九 | そりゃまあ、自衛軍所属の貴銃士がアウトレイジャー化しかけた、 なんて公になればとんでもねぇ騒ぎになるし、 伏せようとするのはわかるけどよ……。 |
八九 | 俺は一切お咎めなしで、自衛軍の奴らは口裏合わせて、 あの騒動は幻だったみてぇに振る舞うつもりか? |
竹田 | おそらく、そうではないかと。 今は〇〇殿たちもいらしていますし、 何もなかったことにするのが一番だと上は判断されたのでしょう。 |
竹田 | 私からも桂幕僚長に、八九殿に起きた異変はあまりに唐突で、 八九殿の意思あってのものではないはずと報告しております。 |
竹田 | これまでの報告を踏まえても、 上が八九殿に対し、反逆の意思ありと判断することはないかと。 |
八九 | そうか……なら、破壊コースは免れ──…… |
八九 | ……報告? 『これまでの』って言ったか? |
竹田 | あ……。 |
気まずそうに視線を逸らす竹田へ、八九は一歩詰め寄る。
八九 | お前、まさか……俺を監視してたのか? んで、桂に報告を上げてたのか? |
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竹田 | …………。 |
八九 | 黙ってねぇでなんとか言えよ! |
竹田 | 八九殿とゲームをするようになってしばらく経った頃…… 桂幕僚長から呼び出しを受けました。 |
竹田 | 八九殿の様子を報告するように、と。 |
八九 | は……? ハハ……。 ハハハハッ! |
八九 | てめぇは……命令されたから 頑張って俺と仲良くしようとしたってわけか。 |
竹田 | ……っ、それは違います! |
八九 | 言い訳なんかどうでもいい! てめぇが俺を見張ってコソコソ報告してたのは事実なんだろうが! |
八九 | (馬鹿馬鹿しい……本当に俺は馬鹿だ。 ゲーム仲間もできて、自衛軍生活も悪かねぇって、 何も知らずに呑気に楽しんでた大間抜けだ) |
竹田 | ……ッ、豊田氏! |
八九 | 黙れ! その呼び方でほだされるとでも思ってんのか!? このスパイ野郎が! |
竹田 | 待ってください、話を……! |
八九 | (てめぇらがそのつもりなら……こっちにも考えがある) |
八九 | …………。 |
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八九は部屋に鍵をかけて閉じこもり、
慣れた手つきで工具を使って何かを作っていた。
床には、分解されたラジオや無線などの機器類が転がっている。
八九 | (この国の奴らは随分と俺のことを舐め腐ってるみてぇだけどよ、 仮にも元世界帝軍の特別幹部サマ相手に甘っちょろいこった) |
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八九 | (マスターが変わったからって、 俺が何されようが何言われようが大人しくしてる イイ子の僕ちゃんになったとでも思ってんのか?) |
八九 | (クソどもが。 せいぜい、俺をいいように操ろうとしたことを後悔すりゃいい) |
八九 | ……できた。 |
できあがった小さな機械……盗聴器を手に、
八九は薄く笑みを浮かべた──。
八九 | ……お? |
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自衛軍兵士 | おや、八九殿? 申し訳ございません、これからここは会議で使う予定でして……。 |
八九 | あー……悪ィ。 この辺で落とし物したから探してんだ。 ざっと見たらすぐ出る。 |
自衛軍兵士 | そうでしたか。 |
八九は机の下を見て回りつつ、
兵士の隙を見て、盗聴器をテーブルの下に貼り付けた。
──数日後。
八九 | …………。 |
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盗聴器 | 『──ザザ、ザザザ……』 |
盗聴器 | 『ザ……たっ……の……ザザザ……が……』 |
八九 | ……っ! 来た。 この声……1人は桂か? もう1人も……聞いたことがある。 軍……いや、幕府の奴か……? |
八九は、イヤフォンを通して聞こえてくる声に集中する。
周波数を微調整し、音質がクリアになったことで、
もう1人は幕臣だと確信を持った。
桂 | 『……八九殿に関する決定を急ぎすぎたのではあるまいか? 葛城の意識も戻らぬうちに召銃され、 これまで通りにと言われても、困惑するのも無理はない』 |
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幕臣 | 『しかし、八九は自衛軍──いや、我が国に必要な貴銃士だ。 あれを手中に収め活動させることは、対外的な大きな意味を持つ。 長く銃のままにはしておけぬし、事件の公表などもってのほか』 |
幕臣 | 『日ノ本は元世界帝軍の貴銃士を完璧に御している── 連合軍にとっても、親世界帝派勢力にとっても、 これほど無視できぬ事実はないのだからな』 |
桂 | 『……親世界帝派勢力が再び覇権を握る可能性に備え、か……』 |
幕臣 | 『いかにも。 先を見据え、情勢がどう転ぼうと日ノ本が共倒れにならぬよう、 備えておくことは大事であろう?』 |
幕臣 | 『現状、親世界帝派にそこまで大きな力はないように思えるが、 日美子様は“世界帝は存命、用心せよ”とおっしゃった。 今後何が起きるかはわからぬ』 |
桂 | 『……それはそうだが。 今回の性急な対応が、後々の禍根とならぬことを祈る』 |
幕臣 | 『禍根とせぬようにするのは、主に軍の役目だろう。 再召銃されてからの八九は、周囲との交流を断っていると聞く。 変な気を起こさぬよう、監督を怠らぬようにせよ』 |
幕臣 | 『なに、絶対非道にも目覚めていない貴銃士である。 戦力としては数えず、遊びたいだけ遊ばせて 不満を抱かぬように計らえばよかろう』 |
桂 | 『…………』 |
八九 | …………。 |
八九 | ……はぁーあ、なるほどな……。 つまり俺は、外交の駒として必要だから呼び覚まされたのか。 |
八九 | んで、余計なことをしでかさないように、 ご丁寧に『接待』されてた、と。 |
八九 | ……っ! クソッ! |
八九はゴミ箱を蹴り飛ばした。
手当たり次第に、部屋中のものに当たり散らす。
八九 | はぁ……はぁ……。 |
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八九 | ……はは、ははは! |
八九 | 国やら軍ぐるみで接待されてたようなもんだとも知らずに、 マジで……馬鹿みてぇだ。 |
八九 | 日本の奴らがみんな平和ボケでフワフワしてて、 俺の来歴を気にしねぇから……俺も……。 俺も本当に『新しい自分』とやらになろうとしてた。 |
八九 | ハハッ、健気で馬鹿なとんだピエロだ。 あいつらの本当の目的も知らねぇでよ……。 |
八九 | 平和ボケしてたのは、俺の方じゃねぇか……。 |
八九 | …………。 あー、もう……だりぃな。 |
八九 | 全部、どーでもいい……。 |
八九 | …………。 |
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八九の部屋には、コントローラーを操作する音だけが響いていた。
部屋の隅には、本体である小銃が無造作に置かれている。
何度も繰り返し部屋のドアがノックされるが、
八九は画面に視線を注いだままで、ドアの方を見ることすらない。
八九 | ……チッ、うるせぇ……。 |
---|---|
邑田 | いいかげんにせよ、八九! 朝礼も訓練もサボって引きこもりおって! |
八九 | …………。 |
在坂 | ……八九が好きそうな味噌せんべいがある。 開けるから、出てきて食べるといいだろう。 在坂は、八九に茶を淹れてほしい。 |
八九 | …………はぁ。 |
竹田 | 八九殿が気分を害されるのも当然です……! 黙っていて本当に申し訳ない……。 |
竹田 | しかし、八九殿は大事なゲーム仲間です! 私はそう思っております! これは誓って嘘ではありません……!! |
主人公 | 【ここを開けてほしい】 【ちゃんと話をしたい】 |
八九 | ……どいつもこいつもうるせぇ……。 |
邑田 | …………。 |
---|---|
邑田 | いいかげんにせんか! |
室内からまったく反応がないことに痺れを切らし、
邑田はドアを蹴破った。
邑田 | 出てこい、八九!! |
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八九 | ……! |
邑田が八九を部屋から引きずり出し、
胸ぐらを掴んで廊下の壁に押し付けた。
邑田 | いつまでむくれているつもりじゃ! 聞き分けのない稚児ではあるまいに!! |
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八九 | …………。 |
十手 | ちょ、邑田君……! |
十手が止めに入った隙に、
八九は胸ぐらを掴んでいる邑田の手を強く払う。
邑田を睨みつけた八九は、無言で部屋に戻ってしまった。
蝶番が一部壊れたドアが立てる軋んだ音が、虚しく響く。
竹田 | ……申し訳ございません……私のせいです。 私が、八九殿の不信感を決定的にしてしまった……。 |
---|---|
邑田 | いや……そなた個人の責任ではない。 それに、聞く耳を持つ気もないあやつの問題でもある。 |
邑田 | ……八九、1つ伝えておくことがある。 葛城輝彦二佐の意識が戻ったそうじゃ。 わしらはこれから見舞いに行く。 |
邑田 | 待っておるぞ、八九。 |
面会は3人までとのことで、
十手とグラースは病院のロビーで待機し、
邑田、在坂、〇〇の3人で葛城の病室へ向かう。
在坂 | 503号室……あっちだ。 |
---|---|
看護師 | お、お待ちください……! |
邑田 | ……む? |
看護師 | 申し訳ございません! 503号室には、只今入ることができません。 しばらく待合室にてお待ちいただけますか? |
主人公 | 【葛城さんに何か……!?】 →看護師「あ……いえ、葛城さんは大丈夫ですよ。」 【問診中とかでしょうか】 →看護師「問診ではないのですが…… 少々立て込んでおりまして……。」 |
看護師 | 後ほどお呼びしますので、今しばらくお待ち下さい。 |
邑田&在坂 | …………。 |
邑田 | ……どうもきな臭い。そうは思わぬか? |
在坂 | 葛城は……基地の中で襲撃された。 病院にも、敵が手を回しているかもしれない……。 |
〇〇たちは、
看護師の目を盗んで病室に忍び込んだ。
ベッドの上には葛城が横たわっている。
意識が戻ったと連絡があったが、深い眠りに落ちているようで、
彼の目はしっかりと閉じられていた。
顔色はまだ良いとは言えないが、規則正しく寝息を立てている。
主人公 | 【よく眠ってる……】 【回復してきているみたいでよかった】 |
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在坂 | ……! 誰かが来る。隠れろ。 |
邑田と在坂はベッドの下に、
〇〇はクローゼットの中に隠れる。
まもなくして、誰かが病室に入ってきた。
床を引きずるように裾の長い紅白の着物を着た人物と、
寄り添う2人の女性だった。
中央の人物は、両脇の女性に隠れており、
クローゼットの僅かな隙間からではよく見えない。
主人公 | 【(両脇の人の着物……見覚えがあるような)】 |
---|
和服の女性 | きゃあっ! |
---|---|
和服の女性 | い、たた……。 |
和服の女性 | ひっ、し、失礼しました……! |
邑田 | 桜の御紋に『幕』の文字…… あれは、城の侍女じゃな。 |
主人公 | 【(歓迎会の時にぶつかった人のと同じ!)】 |
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??? | 葛城……薔薇の傷の重責を担うことになったマスター……。 |
??? | わらわの力が及ばなかったばかりにこのような……。 すまぬ……すまぬ……! |
侍女1 | 姫様のせいではございません……! |
侍女2 | あなた様は誰よりも日ノ本のため、民のため尽くしておられます。 身命を賭し、身を削ってまで……っ。 |
葛城 | う……。 |
侍女1 | ……! 姫様、葛城殿が目を覚まします。そろそろ……。 |
??? | ああ……。 葛城、そなたは役目を全うしました。 あとはわらわに任せ、ゆっくり休んでください。 |
病室をあとにしようとする3人。
しかし、中央の人物が、急にがくりと膝をついた。
??? | ……っ。 |
---|---|
侍女2 | 日美子様! |
主人公 | 【(ひみこさま……?)】 |
邑田&在坂 | ……っ! |
〇〇は隙間から目を凝らす。
侍女たちの間から見えた『日美子様』と呼ばれていた人物は、
10歳ほどの幼い少女のようだった。
しかし……その頬に子供らしい丸みはなく、
およそ健康とは言い難いほどひどく痩せている。
肌も不健康な青白さで、血色どころか生気すらも薄く見える。
主人公 | 【(こんな子供が憔悴している……)】 【(葛城さんの件で責任を感じて……?)】 |
---|---|
主人公 | 【待ってください!!】 |
邑田&在坂 | ……!? |
〇〇は意を決して、
クローゼットから出ると、日美子の前に立った。
邑田と在坂も慌ててベッドの下から出てくる。
日美子 | ……っ!! |
---|---|
侍女2 | あ、あなたは……〇〇殿!? 貴銃士様方も、どうしてここに!? |
〇〇は、深く頭を下げる。
日美子の警告を聞いたにもかかわらず、
この状況を防げなかったことを詫びた。
主人公 | 【油断があったことは否めません】 【これは自分の責任です……!】 |
---|
〇〇が謝罪をするが、
日美子はみるみる青ざめ、侍女の背後へ姿を隠した。
侍女1 | 〇〇殿、なりませぬ! 姫様は能力を研ぎ澄ますために、 世俗との関わりを断っていらっしゃいます。 |
---|---|
侍女1 | 今はお加減もよろしくないので…… さ、参りましょう、姫様。 |
日美子 | …………。 ……ああ。 |
日美子は在坂を見て、一瞬ハッとしたように息を呑んだ。
しかし、すぐに侍女に支えられて立ち去ってしまった。
在坂 | …………。 |
---|---|
主人公 | 【……余計に迷惑をかけてしまった】 |
邑田 | 迷惑かはわからぬぞ。 そなたの思いは少なからず伝わったであろう。 |
邑田 | それにしても……日美子殿が見舞いに出てくるとはな。 人前には決して姿を見せぬという話であったが……。 それほどまでに、此度の一件に責任を感じているのじゃろうか。 |
主人公 | 【憔悴しているように見えました】 →邑田「」 【彼女は病気なんですか……?】 →邑田「そうじゃな……。 そも、神子というお役目自体が幼な子には重かろう。 加えて、この騒動じゃ。」 |
在坂 | ……在坂は、日美子が心配だ。 今の葛城よりも顔色が悪く見えた。 |
邑田 | ……おや? これは……。 |
葛城の布団の上には、折り鶴が置かれていた。
荒れた部屋の中で、八九はゲームに没頭していた。
機械的にNPCを撃ち殺す八九の目は淀んでおり、
その下には濃いくまができている。
八九 | ……飽きてきたな。 はぁ……だりぃ。さっさと銃に戻りてぇ。 |
---|---|
八九 | (けど……桂と幕臣の話だと、 貴銃士体を大損傷させて銃に戻ったとしても、 どうせまたすぐに再召銃されそうだな。あー……クソ) |
八九 | (そうだ、アウトレイジャーになりかけてた時…… ふわふわしてて、楽だったな。 迷いも何もなくて……気持ちいい、に近い感じがしてた気がする) |
八九 | (『戦部ぶっ壊せ』って声が聞こえて……自然と体が動いた。 考える必要なんてなくて……銃に戻れた感じがした) |
八九 | (いや、感覚はあったから、単なる銃っつーか…… 昔に戻ったみてーだったのかもな。 世界帝軍にいた頃の俺に……) |
八九 | (誰かのこととか、責任とか、 難しいことは別になんにも考えなくてよくて。 ただ、言われた通り、ゲームみてぇに敵をぶっ殺すだけ──) |
八九 | (まあ……楽だっただけで、 別に殺戮マシンになりてぇわけでもねーけど。 これ以上好きに使われんのは御免だ) |
八九 | (もう二度といいように使わせねぇには……破壊か。 いっそのこと……またアウトレイジャーになって、 向こうが手加減できねぇくらいに暴れまくれば……?) |
その時、基地内に警報音が鳴り響いた。
放送 | 『桜國城近くでアウトレイジャーが大量出現! 繰り返す、桜國城近くでアウトレイジャーが大量出現! 以下の部隊に出動を命ずる!』 |
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八九 | …………。 |
出動部隊に選ばれた兵士たちが、
慌ただしく準備し駆けていく音を耳にしつつ、
八九はゆっくりと立ち上がる。
八九 | …………。 アウトレイジャー……。 |
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