ジーグブルート | おい、てめぇら。 見るよ、これ。 |
---|---|
主人公 | 【高級そうなシャンパンだ……!】 |
十手 | しゃんぱん……? おお、もしかして酒かい? |
エルメ | その通り。 『シャンパン』 というのは、 フランスのシャンパーニュ地方の特産品で、 発泡性ワインの一級品だね。 |
エルメ | シャンパーニュ地方で特定の方法で生産したものだけがシャンパンを名乗れる、 なかなか希少なものなんだ。すごいじゃないか、 ジグ。 誰にもらったの? |
ジーグブルート | 恭遠のヤツからもらった。 この前の任務の完遂祝いだとよ。 |
ジーグブルート | 俺1人で飲みたいところだが…… まぁ……任務にはお前らもいたしな。 |
ジーグブルート | お前らにも飲ませてやるから、 とりあえずこの瓶の蓋を開けろ。 |
ゴースト | ……もしかして……。 蓋の開け方、わからないの……? |
ジーグブルート | ……んなわけねーだろ。 |
ゴースト | ……ふっ……本当に、 わからないんだ。 |
ジーグブルート | てめえ…… 欠陥品が舐めた口きくじゃねぇか! そういうお前は知ってんのかよ? |
ゴースト | ……さぁなぁ。 飲んだこともないし、 知らない。 |
ジーグブルート | ハッ、なんだよ、偉そうな顔してたくせに、 お前も知らねぇんじゃねーか! |
ゴースト | ……やっぱり、 開け方知らないんだ……。 |
エルメ | こらこら。 ジグもゴーストも、そのくらいにしておきなよ。 せっかくのお祝いなんだし、 みんなで仲良く飲もう。 |
エルメ | 他ならぬ、我らがマスターの前だしね? ───ほら、貸してごらん。 俺が開けてあげるよ。 |
ジーグブルート | ……ふん。 最初からそう言え。 ったく、この妙な蓋はなんなんだ。 |
エルメ | これはコルク。 弾力性に富んで液体も空気も 遮断するし腐敗しにくいから、 ワインやシャンパンの栓に用いられるんだよ。 |
主人公 | 【よく知ってるね】 【エルメは物知りだ】 |
エルメ | 知識としてはね。 俺も実際に蓋を開けるのは初めてだから、 上手くいくかな……。 |
エルメ | ええと、まず口金を外して、ハンカチで覆ってから、 コルクを押さえて······ 瓶を回す。 |
エルメ | ……おや。 開かない。 おかしいな。 |
ゴースト | コルクを押さえてる力が、 強いんじゃないか……? |
エルメ | なるほど。 少し緩めてみよう。 …………あっ。 |
エルメの手にしたボトルからコルクが勢いよく飛び───
ゴースト | あいたっ! |
---|---|
ジーグブルート | うおおおおっ!? |
ゴースト | は……鼻に思いっきし、 当たったぞ……! |
主人公 | 【痛そう……】 【大丈夫!?】 |
ジーグブルート | 顔に泡が……! エルメ、 てめぇ……! |
エルメ | へぇ……これは驚いた。 |
エルメ | シャンパンって、こんなに泡が出るんだね。 コルクもそんなに勢いよく飛んでいくとは 思わなかったな。 |
エルメ | うん、知識と実践はやはり違うものだね。 勉強になるよ。 |
ジーグブルート | 冷静に分析してんじゃねぇよ……。 くそ、 あとで着替えるか。 |
ゴースト | …………。 呪ったる……。 |
十手 | あのエルメ君が、 こんな失敗を。 ……なんだか、 親近感がわくなぁ。 |
主人公 | 【なんだか意外かも】 【そういうところもあるんだ】 |
エルメ | どういうこと? |
十手 | なんというか……。 エルメ君は完璧で、隙のない感じがしていたが、 人間らしいところもあるんだなぁ、と。 |
十手 | 俺みたいなやつからすると、 それぐらいの方が安心できるなぁ。 |
エルメ | 人間らしい……? 俺が……? おかしなことを言わないでほしい。 |
十手 | えっ……? |
エルメ | 俺は貴銃士、銃だ。 人間らしいなんて、ありえないよ。 |
ジーグブルート | おいエルメ! お前は飲まねーのかよ。 |
十手 | お、俺、何か気に触ることを言ってしまったか……。 |
ゴースト | …………。 |
エルメ | 今日の授業は充実したディベートになったね。 君たちの意見は、なかなか興味深かったよ。 |
---|---|
生徒1 | 今日はありがとうございました。 エルメさんのフォローのおかげで、 私たちも自信を持って発言できました。 |
エルメ | 当然のことをしたまでだよ。 全員が完璧に作戦を遂行できるようにするのが 俺の役目だからね。 |
生徒1 | さすが、ドイツ支部で現役の貴銃士です! |
生徒2 | エルメさんは本当に品があって、 みんなに優しいですよね。 |
生徒3 | 普段はドイツ支部にいらっしゃるそうですけど、 ご趣味は? 好きな食べ物はありますか? |
生徒1 | あの、街に新しい店ができたらしいので、 よければエルメさんも今度の休日に─── |
エルメ | ───お誘いは嬉しいけど、休日は読書と決めてるんだ。 次の授業が始まるまで間もないし、 俺はこれで失礼するよ。 |
エルメ | 君たちも課業に集中した方がいいよ。 未来の陸軍士官なんだろう? |
生徒2 | は、はい! それでは、 また! |
エルメ | ……ふぅ。 ああ、鬱陶しい。うんざりだ。 |
---|---|
エルメ | マスターはいいとして……ここの連中は、 貴銃士を人間と勘違いして馴れ馴れしすぎる。 どこか、 1人になれる場所は……。 |
エルメ | ……ふぅ……。 |
---|---|
ドライゼ | エルメ。 やはり、ここにいたか。 |
エルメ | …………ドライぜ。 |
ドライゼ | そろそろ限界なんじゃないかと思ってな。 |
ドライゼ | 無理をするな。 先にドイツ支部へ戻ったらどうだ? 理由なら、俺が適当に考えておく。 |
エルメ | そういうわけにもいかないだろう。 俺が急に帰ったりしたら、 弟たちに勘付かれそうだしね……。 |
ドライゼ | しかし、このままでは……。 |
主人公 | 【どうしたの?】 【大丈夫?】 |
ドライゼ | マスター……! |
エルメ | 大、丈夫……。 すぐに、戻る、 よ……。 |
ドライゼ | エルメ! |
エルメ | ……うぅ、くっ……やっぱり、嫌だ。 耐えられない……っ! |
エルメ | あの道端の石が羨ましい……! 俺は……鉄に戻りたい……。 |
ドライゼ | マスター、 残念だがエルメはもうダメだ。 こうなると、治る見込みは……! |
主人公 | 【えっ】 【……!?】 |
ドライゼ | どこか、エルメを1人にしてやれる場所はないか? |
主人公 | 【寮の部屋は?】 |
ドライゼ | 寮は駄目だ。他の人間の目があるからな。 |
ドライゼ | 本当に、独りになれる場所が必要だ。 |
主人公 | 【懲罰房くらいしか……】 |
ドライゼ | 懲罰房か、なるほど……。 |
エルメ | うぅ……。 もう限界だ……。 |
ドライゼ | マスター、あとは俺に任せて教室に戻ってくれ。 学校の連中には急病だと伝えてほしい。 |
主人公 | 【わ、わかったけど……】 【本当に大丈夫なんだよね?】 |
ドライゼ | こちらは心配無用だ。 では、頼んだぞ……! |
ジョージ | なぁ、〇〇。 どっかでエルメ見なかったか? 昨日の夜からいねぇんだよ。 |
---|---|
主人公 | 【さぁ……?】 【今日は見てないな】 |
ジョージ | なんてこった! 明日のテスト、やばいんだよ! 不合格だったら1カ月外出禁止って言われてさ! |
ジョージ | エルメに教えてもらおうと思ってたのに、 なんでこういう時に限っていないんだ〜! もし見かけたら、教えてくれよな! |
主人公 | 【もしかして……】 【本当に懲罰房に?】 |
ドライゼ | マスター……! こんなところで何をしている。 懲罰房に何か用事でも? |
---|---|
主人公 | 【ドライゼこそ】 【ここで何を?】 |
ドライゼ | それは、その……。 極秘任務、というか……。 |
主人公 | 【……ちょっと失礼】 |
ドライゼ | ま、待て! 中に入っては───!! |
薄暗い懲罰房の中を覗き込むと───
エルメ | …………うー。 |
---|
懲罰房の粗末なベッドには、
髪がボサボサのエルメがだらしなく寝そべっていた。
───それも、 全裸で。
予想外の光景に、
〇〇は思わず扉を閉める。
ドライゼ | ······言っただろう。 中には入るなと。 |
---|---|
ドライゼ | いや、見られた以上は説明すべきだな。 マスターは目を閉じていろ。俺が対処する。 |
ドライゼが再度扉を開けると、
エルメの眠そうな声が聞こえた。
エルメ | ん……なんだい……? 騒がしいな……。 |
---|---|
ドライゼ | はぁ……。 おい、せめて下ぐらい隠せ。 |
エルメ | 何もしたくないし、考えたくない……。 今の俺はただの鉄……。 |
ドライゼ | わかった、俺がやるからじっとしていろ。 ───よし、 もういいぞ。マスター。 ほら、起きろエルメ。 |
ゆっくりと身体を起こすエルメの肩に、
ドライゼが手近にあったシャツをかけた。
主人公 | 【これは、一体……?】 【何してるの……?】 |
---|---|
エルメ | ああ……マスター。 ごめん……驚かせたね。 |
エルメ | 俺……なんていうか、色々限界で……。 こうやって……定期的に鉄にならないと、 ダメなんだ……。 |
主人公 | 【鉄……?】 【もしかして、 『鉄の日』?】 |
ドライゼ | ……覚えていたか。 以前に話した時は俺の早とちりだったが─── |
ドライゼ | 今回のこれが、まさにその 『鉄の日』 だ。 エルメは月に数日、『鉄の日』を設けている。 |
ドライゼ | 普段、エルメは完璧に振る舞っているだろう? だが、エルメは明確に己を銃だと自認している。 |
ドライゼ | とはいえ、人の姿を取っている以上、 人として扱われる機会も多い……。 そのダメージから回復するために必要な休息が、『鉄の日』だ。 |
ドライゼ | 顔も洗わず、髪も服も整えず……。 時には下着すら身に着けず、人としての行為を捨て去り 1日中こうしてゴロゴロ寝転がっている。 |
エルメ | うー……むにゃむにゃ……。 |
ドライゼ | その姿がまさしく 「ただの鉄塊」 だとエルメ自身が 言うようになり、『鉄の日』と呼ぶようになった。 |
ドライゼ | いわば、隠語だな。 エルメのこのような状態を見られれば、軍の士気に影響する。 極秘事項だ。 |
主人公 | 【なるほど……】 【いつもお世話をしているの?】 |
ドライゼ | ああ。エルメの弟たちや士官学校の面々には 絶対に知られるわけにはいかんのでな。 |
ドライゼ | マスターがこの懲罰房を教えてくれて、 本当に助かった。 この件は、くれぐれも内密にしてほしい。 |
エルメ | あー、お腹減った……。 |
エルメ | ……まぁ、いっか。 ……食べるのも、面倒だし……。 |
ドライゼ | ……見ての通りだ。 食事すらまともにとらないこともままある。 |
主人公 | 【ドイツにいた時のあれも……?】 |
エルメ | んー……そんなこともあったかな……。 まぁいいや、考えるのが面倒くさいし……。 |
エルメ | マスター、みんなには秘密にして……ね。 |
主人公 | 【わかった】 【口は固い方だよ】 |
エルメ | ……ありがとう。 次に会うときにはいつもの俺だから、ね。 |
伝令兵 | アウトレイジャーが出没しました! 現場へ急行してください! |
---|---|
アウトレイジャー | ……殺ス……スル……ッ! |
エルメ | ふふっ。破壊する……だってさ、 ドライゼ。 |
エルメ | 破壊されるのは君たちの方だって…… 言っても通じないか。 |
ドライゼ | 余計なことを言うな。 俺たちは敵を殲滅するのみ。 |
エルメ | Jawohl。 |
ドライゼ | いくぞ。 |
エルメ | 準備はできてるよ。 ……さぁ、始めようか。 Keine Kompromiss! |
主人公 | 【お疲れ様】 【ありがとう】 |
---|---|
ドライゼ | 貴銃士として、当然の働きをしたまでだ。 |
エルメ | なるほど、当然の働き───か。 さすがはドライゼだ。 |
エルメ | 弟たちにもその勤勉さがあれば、 教育にも苦労しないんだけど。 |
主人公 | 【エルメは弟たちを大切にしているね】 |
エルメ | 大切っていうか…… まぁ、長兄として監督しないと……とは思っているよ。 |
エルメ | それはそうと。 今回はベルリン近辺のアウトレイジャー討伐任務だったから、 土地勘がある分、助かったね。 |
ドライゼ | ああ、こちらに有利に状況を進めることができた。 出立までの間、 ベルリンで休息時間を設けられたのはありがたいな。 |
主人公 | 【ベルリン……】 【そういえば……】 |
エルメ | どうしたの? 急にきょろきょろしたりして。 |
主人公 | 【ベルリンの壁の跡地は近い?】 |
エルメ | ……ああ、〇〇はまだ、見たことないの? それなら、行ってみようか。 |
ドライゼ | ふむ……。 歴史について、実際の場所を見て学ぶのも、 士官候補生として有意義なものだろうな。 |
エルメ | 決まりだね。 さぁ、こっちだよ。 |
エルメ | ベルリンの壁については、もう授業で習った? |
---|---|
主人公 | 【歴史の授業で、一応】 【一通りは……】 |
エルメ | じゃあ、少し復習しようか。 君も聞いたことがあるかもしれないけど─── |
エルメ | このベルリンは今でこそ1つの都市だけど、 かつては西と東に分断されていた。 |
ドライゼ | その時に設置されたのが、ベルリンの壁だ。 東西分断の象徴だな。 |
エルメ | 人間にとっては、残酷な歴史だよね。 たったの一晩で、家族や友達が壁によって引き裂かれたそうだよ。 |
ドライゼ | ……この壁が崩壊したのは、 第三次世界大戦の終結に伴うドイツ再統一の時。 すなわち、1973年……壁の建設から12年後のことだ。 |
エルメ | 崩壊までの間、本当に色々なことがあった。 ───人も、銃も。 |
エルメ | 人間ってよくわからない生き物だよ。 繋がり───絆っていうの? を大事にしたかと思えば、 ある日突然壊したりする。 |
エルメ | …………。 本当に、 わからない……。 |
ドライゼ | ……エルメ? |
主人公 | 【どうしたの?】 【悩みごと?】 |
エルメ | いや、少し……昔のことを思い出してね。 |
ドライゼ | 昔のこと? |
エルメ | 俺の昔の持ち主は─── ここ、ベルリンの壁で死んだんだ。 |
主人公 | 【……!】 |
ドライゼ | エルメ、お前……。 |
エルメ | ああ、ごめん。 なんだか変な空気になってしまったね。 |
エルメ | そろそろ戻ろうか。 今の話は、気にしないで。 |
エルメ | ……ねぇ、この掲示板に貼ってある校内新聞。 いつからここに貼ってあるんだい? |
---|---|
主人公 | 【結構前からだと思う】 【ひと月くらい前からかな?】 |
エルメ | そんなに貼ってあるのに誰も気づかないとはね……。 はぁ……ここのレベルはそんなものなのか……。 |
主人公 | 【えっ!】 【ちょっと!?】 |
エルメは突然、 校内新聞を掲示板から剥がすと、
どこかへと歩き出した。
エルメ | やあ、失礼するよ。 校内新聞を作っている広報班がいるのはここかい? |
---|---|
生徒1 | は、はい! 何かご用で……? |
エルメ | この新聞の記事を書いた学生、 知っていたら教えてほしいんだけど。 |
生徒1 | ああ、それを書いたのは自分です。 |
エルメ | へぇ……君だったんだ。 こんな不完全なものを、 公の場に貼り出したらダメだろう? |
生徒1 | えっ、不完全……? |
エルメ | スペルミスもだけれど、この講話の結論もちょっと。 校内新聞とはいえ、これでは完成と言えないよ。 完璧に仕上げなくては。 |
生徒1 | う……っ、す、すみません……。 |
エルメ | 謝罪はいいから、残りのものを回収しておいで。 完璧に仕上げるのを、 俺も手伝うから。 |
生徒1 | は、はいっ……! |
主人公 | 【なんで完璧にこだわるの?】 |
エルメ | なんでって……。 完璧でないものは美しくないだろう。 |
エルメ | 理由……強いて言うなら、 俺が作られた経緯も少し影響しているのかもね。 |
エルメ | ───DG3開発の歴史は、 第二次世界大戦末期にマザー社が設計した 「機材06」にまで遡る。 |
---|---|
エルメ | 軍への制式採用が決まった直後、 量産に入る前に第二次世界大戦が終結。 ドイツでの開発が中止となり……。 |
エルメ | ドイツを追われ、開発場所を求めて国を転々としながらも、 1人の銃器技士の博士によって試行錯誤の開発が 長きにわたって行われたんだ。 |
研究員1 | なぁ、聞いたか? ドイツから来た技士の2人が、 「機材06」を元に新しい銃の設計をしたらしいぜ。 それも、2人それぞれで。 |
研究員2 | でも最終的に設計が採用されたのは1人だけらしいぞ。 もう1人の技士はそれが原因で退職するらしい。 フランスを出て……どこに行くんだろうな。 |
研究員1 | スペインの会社に雇用されたって噂だ。 フランス当局は出国を阻もうとしたらしいけど、 うまくいかなかったらしい。 |
研究員2 | そうか……同じ研究者としては、国にこだわらず 研究を続けたい気持ちもわからなくもない。 彼の求める銃が次の地では開発できるといいな。 |
エルメ | 彼はドイツからフランス……フランスからスペインへ。 そして最終的にはドイツへと帰国している。 |
エルメ | 国を変えてもなお、 銃の性能を追求してやまない……。 そんな彼の諦めない姿勢があったからこそ DG3───俺という銃が生まれた。 |
エルメ | ───とまあ、長々と話してしまったけれど。 生みの親がそんな感じの人だったから、 完璧を追い求めるのは俺の根幹の1つなんだ。 |
---|---|
エルメ | わかってもらえたかな? |
主人公 | 【わかった気がする】 【話してくれてありがとう】 |
エルメ | ちなみに、マスターにも完璧を求めるからね。 頑張ってね、マスター。 |
エルメ | ね、〇〇。 さっきから何か聞きたそうな顔をしているね。 |
---|---|
主人公 | 【食事中だったから】 【あとで聞こうと思って】 |
エルメ | ああ、食事中におしゃべりしたら、 俺に注意されるとでも思ったのかな。 ……ふふ。 |
エルメ | いくら俺だって、そこまで口うるさくは言わないよ。 人間にとっては会食中の談話も、 重要なものだと理解しているつもり。 |
エルメ | それに、君はマスターなんだから、 遠慮なんてしてはいけないよ? ちょうど食事も終わったことだし、質問をどうぞ。 |
主人公 | 【エルメを作った人について聞きたい】 |
エルメ | 俺の生みの親の話かい? この間の話を覚えてたのかな……君も物好きだね。 まあ、聞かれて困る話でもないし、別にいいけれど。 |
エルメ | そうだなぁ……開発をしていたのは ルートヴィヒという人だったらしいけれど、 彼がずっと俺に関わっていたってわけでもないんだ。 |
兵士1 | おい、聞いたか? ドイツ軍で新しい銃の採用が決まったらしいぞ。 |
---|---|
兵士2 | ああ、前に「機材06」と呼ばれてたやつだろう。 今じゃなんて名前だったかな……。 噂は聞いたが、製造はどこが手掛けるんだ? |
兵士1 | 二転三転したらしいが、 たしか……KK社が担当することになったらしい。 |
エルメ | 数国をまわって開発された銃の性能が軍に認められ、 ようやく大量製造されるようになったその時─── 銃の周辺にいたのは新しい技士たちだったらしい。 |
技士1 | 博士の開発したこの銃は素晴らしいな。 操作性、命中率、耐久性すべてにおいて高水準だ。 |
---|---|
技士2 | ああ、これこそ我が国の制式銃にふさわしい アサルトライフルだ。 将来的には名作と呼ばれるはずさ。 |
技士1 | しかし、上からは もう少しこの銃を改良しろと言われたらしいぞ。 |
技士2 | ああ、よりよい銃にするために頑張ろうぜ。 |
技士2 | 制式銃ともなれば、新しく名前がつけられる。 どんな名前になるんだろうな、この銃……。 |
エルメ | 開発者の手を離れるなんていうのはよくある話だし、 単に表に出てこなかっただけかもしれない。 そのあたりは、誰も知らない……。 |
エルメ | KK社で追加改良をされた元 「機材06」は DG3と名を変え、軍に制式採用されるか 怪しい時期もあったようだけれど……。 |
---|---|
エルメ | 世界4大アサルトライフルと呼ばれるまでになったのだから、 ルートヴィヒも誇らしく思っているかな。 |
主人公 | 【きっと……】 【エルメはいい銃だから】 |
エルメ | ふふ、ありがとう。 マスターである君にも、俺が有用で優れた銃だと 認識してもらえていたらいいんだけど。 |
エルメ | その辺りは実戦で完璧な俺を見てもらうに限る。 ということで、〇〇。 休憩を終了して、演習場へと向かおうか。 |
エルメ | 大丈夫、俺の訓練メニューは完璧だから。 マスターに合った訓練をしつつ、 俺の性能も確認できるようになっているからね。 |
エルメ | マスター、ずいぶんと落ち着かない様子だけど……。 何かあったのかい? |
---|---|
主人公 | 【エルメ! マークスが……】 【訓練中に倒れて……】 |
エルメ | 訓練中にかい? マークスを倒すなんて……一体誰が? |
マークス | う、うう……っ、マスター……っ。 無様な姿を見せて……すまない……。 やられた……まさか、あれほどの強敵とは……。 |
---|---|
マークス | あの、木になっていた紫っぽい実……! 実戦形式の訓練中に……腹が減って……食った……。 そしたら、急に……腹が、ムカムカと……っ。 |
エルメ | ───なるほど、そういう理由か。 たぶん、食べた実に毒があったんだろうね。 まったく、確認もせずに食べるなんてお馬鹿さんだ。 |
---|---|
主人公 | 【大丈夫かな……】 【自分が治療すれば治るかな】 |
エルメ | そんなに心配しなくても、貴銃士は人間とは違う。 一度銃に戻して再度召銃するって手もあるしねぇ。 |
主人公 | 【そういうわけには……】 |
エルメ | ……鉄の塊をそこまで想うなんて 君は不思議な人だね。 |
エルメ | 余計な情を持っていたら、実戦で生存率が下がるよ。 俺としては、もっと無情に冷徹になるべきだと 思うんだけれど……。 |
エルメ | (でないと……) |
───俺のかつての持ち主は、正義感に厚い男だった。
そんな彼が初めて赴いた戦場は、西ベルリン侵攻───
つまり、ドイツ人同士の戦闘だ。
その戦場で敵を追いつめた彼だったが、
目の前にいる敵がかつての自分の幼馴染だと気づいた。
幼馴染 | た、頼む……! 見逃してくれ……っ! 俺には病気の妹がいるんだ……! お前も昔よく一緒に遊んだだろう……? |
---|---|
男 | 見逃せるわけがないだろう。 俺とお前はたとえ幼馴染でも……今は敵同士だ。 |
幼馴染 | 俺が帰らないと……あいつは……っ! お前は俺だけでなく俺の妹まで殺すことに なるんだぞ……! |
男 | 情に訴えても無駄だ……諦めろ。 |
幼馴染 | 頼む、後生だ……銃を……下ろしてくれ……。 |
男 | …………。 |
───幼馴染の懇願を聞き入れ、
男は彼を逃がすことにした。
しかしその後、追跡を恐れた幼馴染の密告により、
男のいた小隊は攻撃を受け、全滅したのだった───。
エルメ | ───人間は脆く、揺らぎやすいものだよ。 本当に信じていいのは自分だけ。 他人への愛情を持ったら負けだ。 |
---|---|
エルメ | 戦いに情は無用なんだ。 作戦成功率や自分の生存率を高めるために必要なのは、冷徹さ。 〇〇も、それを覚えておくといい。 |
主人公 | 【それはなんだか寂しい】 【仲間のことは信じたい】 |
エルメ | ふぅん…… まだそんな甘ったるいことを言うとはね……。 |
エルメ | いつか取り返しのつかないことにならないように 願っているよ。 |
エルメ | (〇〇に、 ドイツ派遣から戻った報告をしておこう……) |
---|---|
エルメ | ……談話室がずいぶん騒がしいな。 覗いてみようか……。 |
ジョージ | エルメ、まだ帰ってこねぇのかな〜。 |
---|---|
主人公 | 【もうすぐ戻るはず】 【何か用事が?】 |
ジョージ | ドライゼはソーセージを土産でくれたけど、 エルメはどんな土産をくれるか楽しみでさ。 |
エルメ | ───ふふ、期待を裏切って悪いけれど、 土産は買ってこなかったんだ、ごめんね。 |
ジョージ | うおっ、エルメ! おかえり! なんだ〜、お土産はナシかぁ! |
エルメ | ヴルスト───ソーセージなら、 いつも通りドライゼが用意していたよ。 あとで聞いてみるといい。 |
シャスポー | ふん。あんなの、どこにでもある味だろう。 僕の作るテリーヌの方が繊細で見た目も美しく 美味しいと思うけれど? |
ジョージ | テリーヌも美味いけどさ、 どっちも食いたいじゃん! |
エルメ | …………。 |
十手 | ははは、みんな食べ物の話になると元気だなぁ。 エルメくんは好きな食べ物とか……あれ? |
近くにいたはずのエルメは、いつの間にか
部屋から出ていこうとしていた。
十手 | おーい、エルメくん。 せっかくだからもう少し話を……。 |
---|---|
エルメ | 疲れたから先に休むよ。 俺のことは気にせず、どうぞみんなで楽しんで。 |
マークス | ……行っちまったな。 |
シャスポー | ジョージが土産の催促なんてしたから 気を悪くしたんじゃないか? |
ジョージ | えっ、オレのせい!? |
主人公 | 【エルメ、待って!】 |
エルメ | ふふ、そんなに慌ててどうしたんだい? 俺に何か用? |
---|---|
エルメ | 他の貴銃士たちと話していたんだろう? 俺のことは気にしなくていい。 早く談話室に戻ったら? |
主人公 | 【どうかした?】 【何かあった?】 |
エルメ | 別に、 何もないよ……ただ─── 俺にはやっぱりドイツ軍の方が性に合ってる。 そう思っただけ。 |
主人公 | 【なぜ?】 |
エルメ | 向こうはドライゼ特別指令司令官が鍛えあげた 厳しい軍隊だ。 |
エルメ | 俺たちのことを人間扱いするのではなく、 あくまで貴銃士───銃として、 一線を引いて接してくれる。 |
エルメ | ───でも、ここは貴銃士を人間扱いしてくる奴が多い。 食べ物の好みや好きな場所? そんなものを知って、なんになるんだい? |
エルメ | その情報が戦闘に役立つのならば、 いくらでも考えよう。 けれど、さっきの彼らの会話はただの雑談だ。 |
エルメ | 貴銃士同士で親交を深めてどうする? 戦うためにいる俺たちに、 そんな交流は必要ないはずだ。 |
エルメ | 貴銃士は銃、考える鉄。 俺は召銃されてこの身を持ったけれど、 人間として扱われたいわけじゃない。 |
エルメ | ……人間として扱わなくていい、と言っているんじゃない。 「扱われたくない」と言っているんだ。 本気でね。 そんなことは、 とてもじゃないけど耐えきれない……。 |
エルメ | もちろん、君からもね……マスター。 |
エルメが去っていく後ろ姿を、
〇〇は黙って見送るしかなかった。
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