グラース | くそ、数が多いぞ……! |
---|---|
主人公 | 【絶対高貴を!】 →十手「」 【絶対非道を!】 →グラース「はは、そうこなくちゃな! 絶対非道……さあ、全部よこせよ、マスター!」 |
アウトレイジャー | グアアァア……ッ! |
邑田 | ちっ──また来おったぞ! |
アウトレイジャー | 殺ス……破壊スル……! |
在坂 | ……行かせない……。 |
グラース | この非常時でも絶対非道を使わねぇつもりか! あいつら、絶対非道を使えるってのは嘘なんじゃねぇのかよ? |
十手 | いや、八九君の以前の話では確かに……。 |
十手 | ……ん? あれは……! |
八九 | ……全部、ぶっ壊してやるよ。 |
邑田&在坂 | 八九──!? |
八九 | 今ならできる。 あの時みたいに……何も考えずに、ただ、破壊し尽くすだけだ。 ぶっ壊れてもいい、全部ぶっ壊してやる……! |
八九 | ……絶対非道! |
邑田 | なっ! |
グラース | 八九が絶対非道に……!? |
八九がアウトレイジャーたちを次々になぎ倒していく。
八九 | あー……気分いいわぁ、これ……! |
---|---|
八九 | 心銃!! |
在坂 | だめだ、八九! 絶対非道はいけない! |
八九 | あっはっはァ! |
グラース | あいつ、なんかイカれちまってねぇか!? |
邑田 | やめよ、八九! |
邑田が八九を羽交い締めにして止めようとする。
八九 | んだよ、マスター様の心配かぁ? 馬鹿馬鹿しい。桂の野郎はピンピンしてんだろうが。 |
---|---|
八九 | 大体、薔薇の傷作った時点で覚悟はしてんだろ! 俺を呼び覚ましたことを、傷で苦しみながら後悔すりゃいい! |
邑田 | ……っ! この、愚か者が! |
八九 | ……ッ、オラ! |
邑田が繰り出した拳を八九はすんでのところで避け、
逆に殴りつけると、邑田を蹴り飛ばした。
邑田 | ぐ……っ! |
---|
蹴り飛ばされた邑田は、池に倒れ込む。
八九 | ざまァみろ。 |
---|---|
邑田 | ふっ……、小童が。 そなたも本気になればよい1発を出せるではないか。 |
八九 | 強がりはよせよ、ジジイ。 んで、さっさと退け。 腰抜けのお前らの代わりに、俺があいつら全部始末してやるぜ。 |
邑田 | そなたには無理じゃ。 なぜなら、わしはここを絶対に譲らぬからのう。 |
八九 | んだと……? |
八九が猛然と突進する。
邑田は一歩も引かず、迎え討った。
邑田 | いいから、わしの言うことを聞け! 後悔することになるぞ! |
---|---|
八九 | 脅すしかできねぇのか? んなの別に怖くもなんともねぇよ! |
八九 | 自衛軍で上手くやろうなんざ、もう思ってねぇ。 だからもう我慢も終わりだ! 気持ち悪ィ仲良しごっこもな!! |
八九 | どいつもこいつも、何もかもどうでもいい! 死ね! 消えちまえ! |
邑田 | …………。 |
邑田 | ……八九や。 そなた、本当にそう思っているのか? |
八九 | あ? |
邑田 | そなたが本当にそう思っているなら、それはそれでよい。 ……じゃが、一時の感情と勢いに身を任せれば、 後悔するのはそなた自身であろう。 |
八九 | この期に及んで、また説教かよ。 いいかげん黙れよ! |
八九 | ……絶対非道! |
邑田 | やめろというのがわからんのか! このままでは我らのマスターを殺めることになるのじゃぞ! |
八九 | うるせぇ! 桂が死ぬからなんだってんだ。 邪魔するならてめぇもぶっ壊れろ! |
邑田 | この……愚か者が! |
邑田 | まだ気づいていないのならば、教えてやる。 我らのマスターは──お前が殺そうとしているのは、 齢十二の幼な子じゃ!! |
八九 | は……? |
邑田の言葉に意表を突かれ、八九の動きが止まる。
その隙を、在坂は見逃さなかった。
在坂 | ……眠れ、八九。 |
---|---|
八九 | ……ッ、ぐっ……! |
当て身をまともに食らった八九は、
気を失ってガクリと膝をつく。
在坂 | 在坂のことを忘れてもらっては困る。 まったく……手のかかる後輩だ。 |
---|
在坂は気絶した八九の上体を起こして脇に手を入れ、
戦闘に巻き込まれない場所へと引きずる。
邑田も手伝い、八九は建物の陰へと横たえられた。
グラース | おい、内輪揉めは済んだか? 早く手を貸せ! |
---|---|
邑田 | すまぬな。 まこと、反抗期とは厄介なものじゃ。 |
十手 | ……! またアウトレイジャーだ! 次から次へと……! |
在坂 | ……こんなにアウトレイジャーが現れるのは初めてだ。 少なくとも在坂は、こういう前例を知らない。 |
十手 | 一体何が起きてるんだ……! |
主人公 | 【(もしかして……)】 【(これは、トルレ・シャフの陽動……?)】 |
主人公 | 【あなたたちのマスターに会わないと!】 |
邑田 | なんじゃと……? |
邑田 | わしらのマスターに会いたい、とな。 それは、この状況で必要なことなのかえ? いや……この状況だからこそ必要じゃと? |
---|
邑田の問いかけに、〇〇は頷く。
主人公 | 【敵は我々をここに留めようとしています】 →邑田「ふむ……大量のアウトレイジャーによって我ら貴銃士を足止めし、 その隙に敵は本懐を遂げようとしておると…… そなたはそう読んでおるわけか。」 【ここは陽動で、敵の狙いは別にあるかと】 →邑田「それがすなわち我らのマスターであると、 そなたは考えておるのじゃな」 |
---|
〇〇はこの状況の不自然さを根拠として訴えた。
突然、多数のアウトレイジャーが城に現れたが、
日ノ本でこの規模の襲撃は未だかつてなかった。
日ノ本に入ってきているアリノミウム結晶は、
他国と比べると少数だと考えられるため、
偶然でこんな事態が起きることは考えづらい。
つまり……
作為的に引き起こされたと考えるのが妥当であること。
邑田 | 作為的……ふむ。 葛城の一件と繋がりそうじゃな。 |
---|---|
在坂 | 貴銃士や自衛軍の兵士を大勢集め…… そこで、在坂たち貴銃士を、この間の八九みたいにしたら……。 |
主人公 | 【とんでもないことになります】 【今度は箝口令では済みません】 |
邑田 | ……よし。 〇〇、そなたの読みにわしは賭けよう。 |
邑田 | しかし、アウトレイジャーの脅威を放置しておけぬのも事実。 ここを抑える者と、我らのマスターのもとへ走る者、 二手に分かれねばなるまい。 |
主人公 | 【絶対高貴の力が必要だ】 【十手は一緒に来てほしい】 |
十手 | ああ。葛城君の時と同じ手を使われたら、 薔薇の傷を急いで治療しないといけないからね。 任せてくれ! |
十手 | さ、〇〇君たちは早く──。 |
??? | お前さんたち! |
十手 | あっ……えっ!? 鈴さん!? |
邑田 | ……! |
鈴さん | 話は大体聞かせてもらったよ。 案内は私に任せてくれ。 邑田たちの主のもとへ最短で駆け抜ける! |
グラース | はぁ……? 三流詩人に案内できるのかよ。 |
邑田 | ……ふぅ。 |
邑田 | 問題ない。 こちらは……まあ、それなりに縁の深い知人じゃ。 詳しいことは言えんが、『鈴さん』についていけば間違いない。 |
邑田 | 問題はむしろ、ここに残す戦力じゃが……。 |
自衛軍兵士1 | 大丈夫です、行ってください! |
邑田 | ……そなたら。 |
竹田 | 邑田殿、在坂殿、それに〇〇殿。 八九殿を止めてくださって、ありがとうございます。 |
竹田 | ここは我々に任せて、行ってください。 大丈夫です、必ず勝ってみせますとも! ……あ、これは死亡フラグとかではなく!! |
グラース | 問題ないさ。 この僕も残ってやるからな。 |
十手 | グラース君……! 貴銃士は君1人で大丈夫かい……? |
グラース | どうせ、そいつらがいたところで絶対非道を使わねぇんじゃ、 アウトレイジャー相手に対した戦力にはならねぇしな。 |
グラース | それに僕は、パリをほぼ1人で守ってた時期もあるんだぜ? 城の1つくらい、華麗に守ってやるさ! |
主人公 | 【ありがとう、グラース!】 【頼んだよ、気をつけて!】 |
グラース | ほら、さっさと行け! けど、あとで礼は弾んでくれよ? 〇〇♥ |
鈴さんの案内で、一行は駆け出した。
八九が目覚めた場合に備え、邑田は八九を背負って走る。
『最短で駆ける』という言葉通り、
鈴さんは隠し扉や水路など、正規の通り道ではないものの、
城の内部を最短距離で突っ切ることができるルートを辿った。
十手 | (こんなところに通路が……? それを知っている彼は、一体……?) |
---|---|
鈴さん | そら、もうすぐだ! |
使用人用の細い廊下を飛び出ると、豪華な内装の廊下だった。
重そうな扉があり、その前には1人の男が立っている。
主人公 | 【桂幕僚長!!】 【大丈夫ですか!?】 |
---|---|
桂 | 〇〇殿!? 十手殿と2人も、何故ここに……!? |
〇〇は、案内してくれた鈴さんを探すが、
彼の姿はいつの間にか忽然と消えていた。
十手 | あれ、いない……? |
---|---|
邑田 | ……桂。 我らのマスターに会わせろ。今すぐにじゃ。 |
桂 | ……はて。 マスターは私ですが。 |
在坂 | 在坂たちは、本当のマスターに会わせろと言っている。 |
邑田 | 左様。わしの気は短いぞ。 早うあの子のもとへ案内せよ。 |
桂 | ……! あの子、と……ご存知だったのですか。 |
在坂 | 当然だ。気がつかないはずがない。 |
邑田 | そなたの堅物さも手がかりになったわ。 幕僚長であるそなたが茶会の度に頭を垂れる相手となると、 ごく少数に限られるからのう。 |
邑田 | それより、早うせよ。 時間がないのじゃ。 我らのマスターに危険が迫っておる。 |
桂 | なんですと……? |
在坂 | 事情を説明している時間が惜しい。 急いで在坂たちを通してくれ。 |
桂 | ……わかりました。 |
桂 | お三方の真のマスター…… 日美子様のもとへ、案内しましょう。 |
??? | …………。 |
---|
──和室に敷かれた布団が、小さく膨らんでいる。
部屋に侵入した2人組は、布団にそっと近づいた。
侵入者のうち1人の手には、注射器が握られている。
男は、布団からはみ出ている白く細い手を掴み、
注射針を刺そうとしたが──。
在坂 | ──残念、在坂だ。 |
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布団から飛び出た在坂が、男を素早く押さえ込む。
桂 | 動くな!! |
---|
〇〇、邑田、十手が、
身を隠していた武者隠しなどから次々と飛び出し、
もう1人の男も取り押さえることに成功する。
桂 | お前は……伊藤! 幕臣の中でも忠義にあつい者だと思っていたが……。 |
---|---|
伊藤 | 誤解だ……離せ、わしを誰だと思っている! |
伊藤 | そ、その男が勝手にやろうとしていた! わしはむしろ、止めようと……! |
桂 | この状況でそのような言い訳が通用するとでも? おぬしがこの不審者を手引し、 日美子様の寝所まで踏み入ったのは明らかだ。 |
伊藤 | 違う、わしはこの不審者を追ってきただけで……! |
邑田 | これが例の薬じゃな。 |
桂 | トルレ・シャフと繋がっていると見て間違いないようですな。 |
伊藤 | ……く、う……っ。 |
在坂 | ……お前にどんな正義があろうと…… 在坂には、受け入れられない。 |
在坂 | この罪は、必ず償ってもらおう。 |
日美子を害そうとした侵入者を捕らえたあと──。
眠ったまま別室に避難させられていた日美子が寝所に戻され、
離れた場所に気絶中の八九も転がされる。
十手 | 騒ぎにも目を覚まさなかったが……この子は大丈夫なのかな。 顔色も悪いし、こんなに細くて……。 |
---|---|
日美子 | う、うぅ……。 |
主人公 | 【うなされてる……】 【疲れ切っているのかも】 |
十手 | 夢見が悪そうだが、起こすのも忍びないね。 しばらくこのまま様子を見ておこうか……。 |
八九 | …………。 ん……? |
邑田 | おお、目が覚めたか。 |
八九 | 俺は……。つーか、ここは……? |
十手 | ええっと、俺から説明するよ。 |
八九 | あの『日美子様』が、俺たちのマスター……? |
---|---|
邑田 | うむ。わしは何も、そなたを止めようとして 口から出任せを言ったのではないぞ。 |
日美子 | う……ぁ……。 |
日美子の薔薇の傷は手の甲だけでは収まっておらず、
包帯に痛々しく血が滲んでいる。
八九 | こんなガキが……。 |
---|---|
八九 | (邑田は、日美子は12歳って言ってたか。 12って小6とか中1だよな? でも……小学校中学年くらいにしか見えねぇぞ、この子) |
八九 | (ガリ細で、薔薇の傷がなくても風邪とかで死にそうだな。 こんな有様だから、邑田も在坂も絶対非道を必死で止めて……) |
邑田 | 十手。頼めるか? |
十手 | ああ、もちろんだ。 |
十手 | 絶対高貴──! |
絶対高貴の優しい光が、日美子をほんのりと照らす。
うなされていた日美子は、眩しかったのか眉間に皺を寄せ──
次の瞬間、パッと跳ね起きた。
日美子 | ……! |
---|---|
日美子 | い、嫌! 嫌じゃ! 治さないで!!! |
十手 | えっ!? |
日美子 | わらわはまだ大丈夫……。 大丈夫だから……見捨てないで……! |
日美子 | ちゃんとご飯も寝るのも我慢して、子供のままでいるから……! 神子のままでいてみせるから……! |
日美子 | もっとずっと兄様のお役に立てるようにする……! ちゃんと予言して、マスターの務めも果たすから……。 おねがい……。 |
寝起きの混乱状態で必死に言い募る日美子。
〇〇はその背中をそっとさすり、
十手が優しく語りかける。
主人公 | 【落ち着いて】 【大丈夫だから】 |
---|---|
十手 | ……大丈夫。安心して、よく聞いて。 |
十手 | 薔薇の傷は消さない。約束するよ。 傷の進行を抑えるだけだ。 |
日美子 | 本当に……? |
十手 | 本当だ。指切りげんまんもできるよ。 だから、安心して。 今はゆっくり休むんだ。 |
日美子 | ……よか……た……。 |
安心したのか、日美子は気を失うように眠ってしまう。
十手が、一輪の薔薇の形になる程度に傷を癒やすと、
浅く荒かった日美子の呼吸が、深く緩やかになる。
八九 | ……なんだよ、さっきの……。 |
---|---|
十手 | 俺にもよくわからないが……。 言っていたことからして、神子の力というのは、 大人になると消えてしまうものなのかもしれないね。 |
十手 | それで、この子は成長に抗おうと……。 |
邑田 | ……八九。 おぬし、さきほどこう言っていたな。 誰も彼もどうでもよい、去ね、と。 |
八九 | ……っ! |
邑田 | 衰弱したこの子を見て動揺し、心配そうな面をする奴が、 よくもまああんなことを叫んだものじゃ。 |
八九 | う……。 |
邑田 | それに……わしはあの時『幼な子を殺す気か』と言ったがの。 そなたは、ここで弱りきっておるのが桂であっても、 平常心で素知らぬ顔をすることなどできなかったであろうよ。 |
八九 | ……いや……まあ……。 |
邑田 | そなたは今まで、 一度でも『人』として見た者を殺めたことがあるか? |
八九 | ……! |
八九 | ……わからねぇ。 世界帝軍にいた頃は確かに……ゲームの延長みたいな感じで、 NPCとか的とか、そういう風に見てた気はする……。 |
八九 | 自衛軍で呼び覚まされてからは、 アウトレイジャー以外とは戦ってねぇし……。 |
八九 | 結果的には……まあ、そうかもしれねぇ。 |
邑田 | うむ。わしには、親しく言葉を交わした『人』を 平気で殺めるような悪鬼を後輩に持った覚えはないからの。 |
八九 | ……後輩。 |
邑田 | そうじゃ。 そなたが誰であろうと、どんな由来の銃であろうと、 わしらの後輩じゃ。 |
邑田 | つまり、いつであろうと好き放題に使い走りとし、 悪さをしたり、生意気な口をきいた時には即刻成敗する、 というわけじゃ。 |
八九 | いや、成敗は勘弁……。 |
八九 | …………。 だけど……今回は、その……。 ありがとう、ございました……。 |
邑田 | うむ。わかればよい。 |
八九 | …………。 |
──一方その頃、桜國城地下通路に潜む者がいた。
フルサト | (作戦完了の合図がナイ……。 どうやら、失敗したようネ) |
---|---|
フルサト | (『この程度の任務に手こずるようでは、 あの方の駒として不十分……必要なし』 ……そうデショ、モーゼル) |
フルサト | (今回の報告は……完全結晶の回収はムリ。 作戦は途中で切り上げ、駒は切り捨て……ネ) |
フルサト | …………。 |
??? | ──動くな。 |
フルサト | ……! イエヤスちゃん……! |
イエヤス | ……フルサト殿……!? |
イエヤス | ……恭遠から、あなたらしき貴銃士の存在を聞いてはいたが……。 |
イエヤス | ……一体、何をしているのだ。 なんのために動いておられるのか? |
フルサト | …………。 |
フルサト | 行かせて。あの子のためヨ。 |
イエヤス | ……っ! …………。 |
イエヤス | …………。 |
悲痛なまでの決意がにじむフルサトの目を見ること数妙──
イエヤスは、そっと目を伏せ、道を譲る。
イエヤス | (フルサト殿……) |
---|
フルサトの姿は、闇の中へと消えていった。
イエヤス | (懸念していた通り、何かしらの手段で、 監視なしでも従わざるを得ないようにされている── と考えるべきであろうな) |
---|---|
イエヤス | (フルサト殿が1人でいるところを押さえられれば、 奴らから切り離し、安全に確保できるかと思ったのだが……) |
イエヤス | ままならぬものだ……。 |
グラースも合流し、〇〇とその貴銃士たち、
邑田、在坂、八九と桂の7人は、
日美子が眠る部屋の隣室へ集まった。
桂 | まずは〇〇殿およびその貴銃士殿たちに 心からの感謝を伝えたい。 |
---|---|
桂 | あなたたちの力がなければ、アウトレイジャーへの対処も、 日美子様を狙った不届き者の捕縛も、 こう上手くは運ばなかったでしょう。 |
桂 | 自衛軍を代表し、御礼申し上げる。 本当に……本当に、ありがとう。 |
邑田 | わしからも礼を言わせてくれ。 力を尽くしてくれて……ありがとうな。 |
在坂 | 在坂からもだ。……ありがとう。 |
主人公 | 【どういたしまして】 【当然のことをしたまでです】 |
邑田 | ほれ、八九! そなたも言うことがあるじゃろう? |
八九 | あ、ハイ。どうも……。 っていうより、すんませんでした……。 |
邑田 | ……して、桂。 いい加減、本当のことを話してくれるのであろうな? |
邑田 | 我らをなぜあのような幼な子が呼び覚ますことになったのか……。 なぜそなたが、我らのマスターのふりをしておったのか。 |
桂 | …………。 ……ええ。もはや隠すのは無意味。 すべてをお話ししましょう。 |
桂 | ……貴銃士を召銃する前後で何が起きたのか。 日美子様が何故このような状況にあられるのか……。 |
桂 | 桜國幕府で最初にイエヤス様が召銃されたのち── 自衛軍の中に『国防の観点から現代銃の貴銃士も召銃すべき』と 主張する一派が現れました。 |
---|---|
桂 | 貴銃士を増員することに異論は出ませんでした。 そこで議論を重ね、日本の国防を担ってきた銃 ──邑田銃と在坂銃が候補に選ばれたのです。 |
幕臣1 | して、マスターはどうする? 上様はすでにイエヤス殿のマスターとなっておいでであるし、 国防を担うならば自衛軍から選出するべきではなかろうか。 |
---|---|
幕臣2 | 間違いない。 では、人選はこちらにお任せください。 |
そして、自衛軍に所属する者の中から12人の候補が選ばれた。
最終的な判断をする段階となり、
我らは日美子様の占いと予言を頼ったのだ。
幕臣1 | 日美子様。 邑田銃と在坂銃を召銃するべきは、この中の誰でしょうか。 |
---|---|
日美子 | ……この中にはいません。 |
幕臣1 | 何……? |
桂 | 一体どういうことでしょうか。 |
日美子 | 正確には、この中の誰であってもマスターになることができます。 しかし、その者は遠からず死ぬことになるでしょう。 |
桂 | 死……!? |
日美子 | この、貴銃士を呼び覚ます力を得られるという赤い石……。 不穏な気配が渦巻いています。 混沌と入り混じった無数の声が木霊している……。 |
日美子 | これは、触れた者に災いをもたらすもの。 触れぬ方がよいものです。 |
日美子 | ……ですが。 わらわはこの2挺の貴銃士を夢で見ました。 |
日美子 | すなわち、貴銃士の召銃は必須……。 |
幕臣1 | ならば……誰かが召銃をせねば……。 |
幕臣2 | しかし、マスターとなれば近いうちに死ぬなど…… まるで人身御供ではないか! |
桂 | …………。 |
日美子 | 占いと予知夢を合わせて、宣言します。 |
日美子 | 現代銃は、わらわが召銃します。 |
桂 | 日美子様……? |
日美子 | わらわならば大丈夫でしょう。 わらわは神子。すぐに死ぬことはありません。 |
日美子 | 桜國のため、わらわは挑みます。 |
邑田 | ……それで、そなたらは幼な子に重荷を押しつけたのか。 |
---|---|
桂 | ……はい。不甲斐ないことです。 |
在坂 | ……だが、在坂は日美子の気持ちもわかる。 自分がやらなければ、他人が死ぬのだろう? |
在坂 | 自分ならやれる、自分にしかできないと確信を持ったなら、 死ぬとわかっている他の人間に任せることはできないだろう。 間接的に、その人を殺していることになるのだから。 |
在坂 | 危険があっても、在坂ならその役目を自分が担う方が、 ただ見ているよりずっといい。 |
邑田 | …………。 |
邑田 | しかしのう……。 あれほど衰弱してまでマスターの責務を果たそうとするのは、 はたして正しいことなのじゃろうか……。 |
桂 | ……日美子様が衰弱しておられるのは、 マスターになったことが一番の原因ではありません。 |
十手 | あ……傷を治そうとした時に口走っていたが、 やはり、神子の力というのは……。 |
桂 | はい。 ご推察の通り、神子の力は永続するものではないとされています。 |
桂 | 日美子様は養子ということもあり、 神子の力がなければと思い詰められているようで……。 |
桂 | ──日美子様は将軍家直系の娘ではなく、 桜國家の遠縁にあたる家でお生まれになったのです。 『神子』としての類まれな力は、幼少期より噂になるほど。 |
---|---|
桂 | 先代の将軍がその力を見込んで養子に迎え、 日美子様は泰澄様の妹君となりました。 |
桂 | 将軍家に引き取られることを、 日美子様の生家は、安堵とともに受け入れ歓迎したとか。 強い神子の力は、不気味にも思えるものですから……。 |
日美子の母 | ……やめて! こっちを見ないでちょうだい! 何も言わないで!! |
---|---|
日美子の祖父 | ばあさんが倒れることも、隣が火事になることも、 嫁の次の子が流れるのも…… 災いはすべて、この娘の言った通りに起きた。 |
日美子の父 | ……よもや、災いをもたらしているのはこの子なのではないか? 将軍家に望まれたことは僥倖だが、 幕府や日ノ本に災いが降りかからねばよいが……。 |
桂 | 養子となった当時、日美子様は5歳。 歴代神子の中でも予言の精度・頻度ともに非常に高い逸材でした。 |
桂 | しかし……それは日美子様にとって恵まれたことではなかった。 おそらく、周囲で起きる不幸を防ごうと警告したのでしょう。 それが仇となり、災いを呼ぶ子と恐れられていました。 |
桂 | ……それゆえ、将軍家に養子として迎えられた際に、 日美子様は将軍家に求められた栄誉を誇るのではなく、 家族に捨てられたと嘆いておられたと、侍女から聞いております。 |
---|---|
桂 | そして今は……先程の言葉からして、 神子としての能力がなくなれば将軍家にも居場所がなくなると…… また捨てられるのではと、恐れていらっしゃるのでしょう。 |
桂 | その恐怖が……我らがその恐怖を取り除けなかったことが、 日美子様をあそこまで弱らせる結果に繋がってしまった……。 |
桂は額を押さえ、深く深くため息をついた。
……日美子は成長期に入った11歳頃から、
食事をわずかしか取らなくなり、睡眠時間も削っていたという。
桂 | 神子の力は主に女児に発現し、 14歳前後で力を失うことが多いと伝わっております。 日美子様は、少しでも力の消失を遅らせようとなさって……。 |
---|---|
グラース | ……で、お前らはただそれを見てただけか? |
桂 | いえ、やせ細っていく日美子様を放っておくことなどできません。 侍医に見てもらい、侍女にも説得を試みてもらいましたが、 お心は変えられず……。 |
桂 | 倒れられた際に点滴をお願いするのが関の山でした。 まこと、不甲斐ないことです……。 |
桂 | せめて日常は健やかに楽しく過ごしてほしいと、 いろいろと遊び道具を持ち込んでみたのですが…… 侍女に遊ばせるばかりでご自身はそれを横から眺めるのみ。 |
桂 | ……まるで、ご自身が楽しむことは罪であると 思っていらっしゃるかのように……。 |
主人公 | 【『神子』はどうしても必要ですか?】 →十手「予言はすごいけれど、その力に頼りすぎるのもなぁ……。 しかし、日ノ本には日ノ本のやり方があるだろうし……。」 グラース「連合軍がとやかく言うのは内政干渉になるな。」 【彼女を助けることはできませんか?】 →グラース「眠ってる今のうちにささっと傷を消しちまうことはできるけど。 今の話だと、役目からの解放は、逆に追い詰めることになるぜ。」 十手「本当に助けるためには、まずは彼女自身に、 『神子でもマスターでもなくて大丈夫』だと思ってもらわないと。」 |
グラース | はぁ……。 一筋縄ではいかなそうだな。 |
??? | いいや、大丈夫だ。 |
グラース | ん? その声は……。 |
鈴さん | やあ、さっきぶりだな。 |
十手 | 鈴さ……んん……?? |
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