日本編Ⅱ:第31話~第36話

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第31話:将軍・桜國泰澄

邑田……鈴殿。先ほどは案内感謝申し上げる。
鈴さんいやいや。
礼を言うのはこちらの方さ。
邑田して、その格好でこの場にいらしたということは……
本名でお呼びしてもよい、と思うても?
鈴さんああ。
だが、まずは私自ら名乗るのが筋だろう。
桜國泰澄私は桜國泰澄。桜國幕府将軍である。
主人公【ええっ!?】
【ショーグン……!?】
桜國泰澄驚かせてしまってすまない。市井のことを知るために、
ヤスズミ……鈴さんとして時折お忍びで城下を歩いているのだ。
桜國泰澄これが、案外バレないものでな。
桂幕僚長には黙認してもらっていたが……。
まさか、〇〇殿たちに偶然会えるとは。
邑田そういうことじゃったか……。
アウトレイジャーとの戦闘の最中にふらりと現れたのには、
心底驚かされましたぞ。
桜國泰澄それはすまない。
御簾の向こうで声を出さない『上様』ばかりやっていると
どうしても視野が狭くなるからな。
在坂……上様。聞いていたならば願いがある。
在坂在坂は、もう日美子の……マスターの負担にはなりたくない。
邑田うむ、同意見じゃ。
我ら3名、この場で銃に戻ることを許可してはくれまいか。
八九…………。
桜國泰澄……ならぬ。
お前たちはすでにこの国の民を支える支柱のひとつ。
消えることは許されない。
在坂……だが……。
邑田……消えねばよいのじゃろう?
それならば、新たなマスターのもとで再召銃されるのはどうじゃ。
在坂……絶対非道は、それだけだと命を食い潰すもの。
絶対高貴になれる貴銃士を持つマスターのもとに集うのがいいと、
在坂は思う。
邑田うむ、しかり。
桜國泰澄しかり、しかり。

邑田、在坂、泰澄の視線が〇〇に注がれる。

主人公【自分ですか!?】
八九は……え……?
俺なんも聞いてねぇけど!?
お前ら裏で打ち合わせしてただろ!
邑田そなたは反抗期じゃったからの。
ほっほっほ。
桜國泰澄〇〇殿……そなたが日ノ本の大切な貴銃士たちを
預けるに足る御仁かを見極めさせてもらっていた。
いい気はしないであろう。すまなかった。
十手……なるほど。
謁見の時の質問攻めは、そういう意味もあったんだね。
桜國泰澄そういうわけだ。
まあ、私は歌舞妓町で会った時から、これはと見込んでいたが。
……して、邑田と在坂はどう思う?
邑田世界連合についてはまだ見定めねばならぬ。
が、〇〇に限って言えば、
わしは信頼に足ると思うております。
在坂〇〇は……真っ直ぐだと思う。
桜國泰澄そうかそうか。
……〇〇、そなたさえよければ、
まずは日美子のもとにあったこの3挺を預けたいと思う。
桜國泰澄邑田、在坂、八九……。
日ノ本の大切な貴銃士たちを、委ねてもいいだろうか。
主人公【拝命します】
【皆さんの総意なら、お受けします】
桜國泰澄ありがとう。
……あとのことは私に任せておくれ。

第31話:葛城の回復

──翌日。
〇〇たちは葛城の見舞いのために軍病院を訪れた。

葛城〇〇殿、皆様!
お忙しい中、おいでくださり感謝感激でありますッ!
グラース……こいつ、腹ぶっ刺して死にかけてた奴だよな?
なんでこんなピンピンしてんだ?
看護師流石兵士さんですよね。
意識が戻ってからみるみる回復されて、
あっという間にこんなにハキハキ話せるようになって驚きました。
看護師一時は危険な状態だったのに、
順調に回復されていて、私たちも元気づけられているんですよ。
葛城それは光栄です!
手厚い看護のお陰で傷の治りもよく、この通り──
葛城んぎっ!!
看護師ま、まだ起きてはいけません!
八九お、おい! 無理すんなよ。寝てろ!
葛城め、面目ない……。
それより、八九殿は大丈夫ですか?
顔色があまりよくないような気がしますが。
八九いや、俺の顔色は元々……。
お前みたいに大怪我とかしてねぇし……。
葛城ハッ! そういえば、ゲームでの勝負が途中でしたね。
退院したら是非、お手合わせ願います。
小生も1つくらい白星をあげてみたいものです!
八九……!
八九……ああ、わかった。
た、楽しみにしてっからよ……早く、治せよ。
葛城八九殿……!
葛城はいっ!!!

……ぐぅ。

邑田八九や、今の音を聞いたか?
在坂が腹を空かしているようじゃ。
邑田わしも腹が減ったしの、売店で何か買ってきてもらうとしよう。
皆が大満足の菓子を選んでくるのじゃ。
おぬしのすんすを存分に発揮せよ。よいな?
八九はぁ……? ったく、仕方ねぇ……!

八九はぼやきながら病室を出ていった。

グラース……ずっと気になってたんだけどさ、
お前は自分の貴銃士がいいように使われててムカつかねーのか?
ま、今はマスターが変わってるけど。
葛城え……ああ、お気遣い恐れ入ります!
邑田殿の振る舞いは理由があってのことですので、
小生は有り難いと思っておりましたよ。
主人公【ありがたい……?】
【どういうことですか?】
葛城ええと……八九殿が召銃されたばかりの頃は、
その……とても親しみやすい感じではなかったもので、
自衛軍一同やや緊張していたのですが……。

八九ああ!? 今レイド戦だっつーの、邪魔すんな!
清掃員ひっ、申し訳ございません……。
邑田なーーーーにをしておるか、八九!
掃除を請け負ってくださるご婦人への態度ではない!
在坂礼儀知らずにはお仕置きが必要だと、在坂は思う。
八九うおっ!?

邑田と在坂は八九を部屋から引きずり出し。
鉄拳制裁を加えた上で、清掃員に対して謝罪させる。

八九……すんませんっした……。
清掃員あ、ありがとうございます……。
でも、そこまでしなくても大丈夫ですよ……?

頭をぐっと押さえられ、渋々ながらも大人しく謝罪する八九を、
葛城ら自衛軍の兵士たちが物陰から見ていた。

葛城な、なんとも苛烈な……。
自衛軍兵士1邑田殿のアッパーの容赦なさには身震いします……。
貴銃士とはいえ、あれは堪えるでしょう。
八九殿に湿布の差し入れでもしましょうか?
自衛軍兵士2あっ、態度が悪いとやり直しさせられている……!
あのゲンコツは痛そうですな……。
自衛軍兵士3清掃のおばちゃんが飴を渡して八九殿を慰めておられるぞ。
尖った雰囲気で怖く思えたけれど、俺たち自衛軍の銃。
話せばわかる貴銃士なのかもしれないな。
自衛軍兵士1ええ……今度挨拶してみましょう!
葛城(…………。
まさか、邑田殿と在坂殿の狙いはこれ……?)

葛城……というわけでして。
それ以来、少しずつ八九殿は自衛軍に馴染むようになりました。
十手ほほう……! 邑田君と在坂君が率先して、
『八九君は怖くない』と示してみせたんだね。
グラースいや、絶対それだけじゃねぇだろ。
馴染んだあともこき使ってたなら普通に便利だったんじゃねーの?
邑田ほっほっほ。さて、どうかのう?
八九おい、とりあえずいろいろ買ってきたぜ。
邑田のツケで、って言っといたからな。
邑田ほう? ならばあとで桂に伝えておくがよい。
八九(ドンマイ、桂のジジイ)
在坂……食べ物が揃った。
これでゆっくり話せるだろう。
主人公【葛城さんに話があります】
葛城……はい。
皆様が揃っていらっしゃったので、
何か大事な用事がおありでは……と思っていました。

〇〇は葛城に事の次第を話した。
邑田、在坂、八九は〇〇の貴銃士になったが、
表向きは桂幕僚長がマスターということになっている。

そのため基本的に日本の貴銃士たちは日本に残るが、
〇〇の貴銃士として、
時には国外に出る可能性もあること……。

葛城国外へ……?
八九イギリスのフィルクレヴァート士官学校に、
留学生扱いで滞在してる貴銃士の例があるんだと。
八九俺たちもそんな感じになるんじゃねぇかってことらしい。
葛城留学……!?
幕府の許可が下りたのですか……!?

第33話:桜國の未来

〇〇たちは、将軍・桜國泰澄の決断について
葛城に伝えた。

桜國泰澄……開国をしようと思う。
幕臣たちなっ!!
桜國泰澄無論、今すぐにではない。
準備が整ったらだ。
桜國泰澄皆もわかっておるだろう。
現在の鎖国はあくまで臨時の措置。
桜國泰澄革命戦争後の混乱期を乗り越え、日ノ本が独立国家として
再び大海に漕ぎ出すための準備期間のようなものだ。
いつまでも続けるべきではない。
桜國泰澄世界はめまぐるしく変わっておる。
江戸の時代のように、三百年弱も国を閉ざすわけにはいかん。
桜國泰澄しかし、国を開く時には、
新しい世界秩序における立場を明確にせねばなるまい。
幕臣1それは、つまり……!
……ご決断なされたのですか。
桜國泰澄我々は親世界帝派──トルレ・シャフにはつかぬ!
桜國泰澄かつて世界全体を支配するほどの強大な力を有した世界帝……
奴が生きているという日美子の言葉もあり、
新世界秩序が再び崩壊する可能性もあると警戒していた。
桜國泰澄そうなった場合、連合に近づきすぎていると
日ノ本の立場はまたもや危うく脆いものとなる。
桜國泰澄崩壊を経験し、同じ過ちを繰り返さぬよう元世界帝が改心した上で
圧政ではない世界秩序を築こうとするならば……
そちら側につくことにも利点があるやもと考えていたが。
桜國泰澄私は、親世界帝派勢力というものは
とことん信用ならぬと判断した。
幕臣2……それはなぜです? 上様。
桜國泰澄……皆の者、ここに伊藤がいないことには気がついているか?
桜國泰澄奴は、トルレ・シャフの手の者であった。
賊がこの桜國城に侵入する手引きをし……
日美子に毒を盛り、貴銃士を悪鬼に堕とそうと企んでいたのだ。
幕臣3日美子様と貴銃士に害をなそうと……!?
幕臣4なんという……許せぬ!
桜國泰澄これは日美子個人、あるいは将軍家だけの問題ではない。
幕府中枢にある将軍家の神子を害そうとする組織を、
そなたらは信用できるか?
幕臣1とんでもない!
明らかに我らを軽んじている!
桜國泰澄我らは革命戦争後、悪戦苦闘しながらも、国をまとめてきた。
国内の復興はまだ完全には終えていないが、進んでいる。
次の段階に進む時が近づいてきたように思うのだ。
桜國泰澄まずは留学生を選出し、世界連合側に派遣する。
その中には貴銃士である邑田、在坂、八九を推薦する。
桜國泰澄彼らが見聞きすることを報告してもらおう。
それが明るいものであれば、
世界連合と手を結ぶことも──一考に値する。

葛城なんと……!
ついに幕府が動こうとしているのですね!

さらに、家臣たちには人工アリノミウム結晶の危険性や、
それを使ってマスターとなった将軍に召銃されたイエヤスは
絶対高貴になれないだろうことが伝えられたという。

伏せていた情報を開示し、危機感を共有することで、
桜國幕府一丸となって様々な課題に対応していくとのことだ。

葛城そうですか……!
正直、驚きすぎて、まだ気持ちが追いついておりませんが……!
葛城〇〇殿、どうぞ八九殿をよろしくお願いいたします。
八九いや、俺の保護者かよ……。
葛城はは、まさか! 保護者だなどと……そんな……。
う……うぅ……!
葛城うおおぉおおっ!
ぐす……うぐぅ……!
八九へ……!?

号泣する葛城に、八九がオロオロと声をかける。

八九ど、どうしたんだよ……?
そんなにマスターじゃなくなったのが嫌なのか……?
葛城違います……小生は嬉しいのです……!
八九殿は我が国の未来を背負うお立場になられたのですね……!
八九そんな大層なもんじゃ……。
いや、割と大層なのかもしれねぇけど……。
葛城小生は猛烈に感激しております!
けれど……や、やはり寂しいです!
葛城八九殿と過ごした日々は、小生一生の宝物です!!
八九重くないか……!?
別に今生の別れじゃねぇんだし、大げさだろ。
葛城それでも寂しいものは寂しいのですッ!!
お手紙を書きます、お歳暮もお中元も贈ります!!
グラースいろいろあったけど……丸く収まったみたいでよかったな。
あいつらが喧嘩別れしたら、後味悪いしよ。
十手うんうん。
これで一件落着かな。
邑田〇〇。
邑田、在坂、八九……我ら3挺、これからよろしく頼む。
主人公【こちらこそ!】

〇〇はそれぞれと握手を交わした。

第34話:仲直り

八九えぇーっと、これと、これと……。
留学って何持って行きゃいいんだ?

旅立ちに向けて荷造りをしていた八九は、
ガシガシと頭を掻いた。

八九ゲームは向こうで買えばいいし……。
意外とこれっていう荷物もねーな……?
八九……ん? 誰だ?
竹田八九殿……。
八九竹田……。

八九言い訳なんかどうでもいい!
ためぇが俺を見張ってコソコソ報告してたのは事実なんだろうが!
竹田……ッ、豊田氏!
八九黙れ! その呼び方でほだされるとでも思ってんのか!?
このスパイ野郎が!
竹田待ってください、話を……!

八九(俺、こいつに勢いでいろいろ言っちまってたな……)
竹田伺うのが遅くなってしまいました。
これは、自分のお詫びの気持ちです。

竹田が軍帽を脱いだ。
そこには、ツルピカに輝く頭皮がある。

八九は……? お前、髪はどこにやったんだよ!?
竹田この程度で許していただけるとは思っていません。
髪はまた伸びますから……でも、どうしても!
豊田氏にお詫びの気持ちを伝えたかったのです。
竹田裏切るつもりはありませんでした。
豊田氏は、自分にとって大切なゲーム友達です。
豊田氏のおかげで、どれだけ救われたか……!

竹田自分はずっとオタクであることを隠していました。
しかし、豊田氏が自分の持っていたグッズを見て──。
八九……そのボールペン……。
ナイトメアスクールのグッズか?
竹田ひっ!
竹田(オワタ……完全にオワタ……!
我がパンピー擬態ライフ、終了のお知らせ……)
八九やっぱりそうだよな?
ゲームの初回盤についてた限定グッズじゃねぇか。
へぇ……よく手に入れられたな。
竹田え……は、はい?
八九作中で主人公が使ってるやつ、ってのがいいよな。
そのボールペンでゾンビぶっ刺して
間一髪逃げるシーンを思い出すぜ。
竹田あ、あの……八九殿も、
『メアスク』を嗜んでおられるのですか……?
八九おう。つっても、最近ハマったばっかなんだけどな。
ちょっとツラ貸せ。対人プレイに飢えてんだわ、今。

竹田それがまさか、いろいろなゲームで
よくマッチングしていた『豊田』氏だったとは……!
竹田あれから自分の世界が広がりました。
自衛軍には意外と同志も多いと気がつきましたし、
本当に……心の底から、嬉しかったのです……!
八九竹田……。
竹田これ、餞別です。
秋ノ葉原で見繕ってきました。
八九ヘッドセット?
うわ、これめちゃくちゃいいやつじゃねーか……!
竹田日本のような通信環境とはいきませんが、
国際電話というのがあります。
竹田イギリスに行かれても、
通話しながらRTAしてくださいますか?
八九ああ……ありがとな。
八九つーか、別に頭丸める必要なかったんだぜ。
悪いのはこっちだったし……お前、もともと薄かったじゃん。
竹田なっ!
ひどいですぞ、豊田氏ー!!
八九ははは……!

 

第35話:イギリスへの帰路

──イギリスに帰国するため、
〇〇たちは空港にやってきた。

十手カール君たちも、そろそろ到着する時間だね。
グラースつーか、お前らこんなとこに見送りとか大丈夫なのかよ。
キセルいいってことよ。
今回はほとんど絡めなかったからよ。
葛城命の恩人を見送らないなど、一生の恥ですから!
このために一時退院の許可は取っておりますよ!
桜國泰澄こうして可愛い妹と出かけられる絶好の機会だからねぇ。
逃す手はないよ、むしろ……本当に、色々とありがとう。
主人公【妹って……】
【もしかして……】
日美子〇〇さん……!
十手あっ!
大丈夫なのかい!?
桜國泰澄おかげさまで、すっかり元気になってきてね。
……一悶着あったけれど、もう薔薇の傷もない。

日美子ごめんなさい……兄様の……桜國のお役に立てず……。
役立たずでごめんなさい……ごめんなさい……!

十手の絶対高貴で薔薇の傷を完全に治療する──
将軍泰澄が下した判断を聞いた日美子は泣き崩れた。

桜國泰澄違う。そなたは十分すぎるほど桜國のために働いた。
むしろ、頑張りすぎたのだ。

泰澄が日美子を優しく抱きしめる。

日美子兄様……。
桜國泰澄日美子、落ち着いて聞いておくれ。
数ヶ月以内に、お前の神子としての任を解くつもりだ。
たとえお前に予知の力が残っていようとだ。
日美子……!
で、でもわらわは……予知能力のおかげで
桜國本家に拾っていただいた身なのに……!
桜國泰澄今となっては、予言の力の有無は関係ない。
きっかけはそうだったが、お前は私にとって大事な妹だ。
……ずいぶん歳が離れていて、申し訳ないがね。
桜國泰澄その妹が日々痩せ衰えていくのを見ていられない。
そもそも……もっと早くに任を解くべきだったのだ。
桜國泰澄成長して神子としての力が失われるのは自然なことだ。
無理につなぎ止めるべきではない。
……成長することで新しく得られる力もある。
日美子新しい、力……?
桜國泰澄そなたは自分に神子としての価値しかないと思っているようだが、
それは大間違いだぞ。
桜國泰澄その精神力、聡明さ、勤勉さを、私も周囲の者も尊敬している。
何物にも代えがたい、そなたの素晴らしい資質であり本質だ。
桜國泰澄これからお前が成長し、自ら選んで掴み取って伸ばしていく力を
存分に発揮しておくれ。
そなたのやりたいように、私を、桜國幕府を支えてほしい。
日美子にいさま……でも……。
邑田すでに、そなたは自分の意思を持っておる。そうじゃろう?
邑田我らと交流しようと茶会をしてみたり、
侍女に〇〇の様子を見に行かせたり、
葛城の見舞いに赴いてみたり……。
邑田今まで押さえ込んできた興味や好奇心を素直に解き放ってみよ。
さすれば、きっと望むものが得られるじゃろう。
日美子……邑田様……。
在坂在坂が戦場で使われていた時代は……選べない時代だった。
在坂選びたかった人生を選べない。
選んだはずの人生を途中で刈り取られる……
そんなことが多い時代だったと、在坂は思う。
日美子……っ!
邑田…………。
在坂少し前……世界帝府の時代も、そうだったと聞く。
在坂でも……この国ではこれから、
人生の可能性が大きく広がっていくのだろう?
在坂……桜國の子、日美子。
日美子の前にも、本当はいろんな人生が広がっているはずだ。
日美子……はい。
在坂在坂は、日美子は何がしたいのか知りたい。
日美子わらわは……。
桜國泰澄…………。
日美子……人生双六。
日美子わらわは、人生双六がしてみたいです。
日美子桂が買ってきてくれたのです。
双六をしながら、いろいろな人生をなぞっていくの。
家を買ったり、車を買ったり、借金をしたり、火事になったり。
日美子……仕事をしたり、子供が生まれたり。
侍女たちが遊んでいるのを見ていると、とても楽しかった。
日美子何度遊んでも、1度として同じ人生がないのです。
こういう人生があるものかと考えるだけで……
わらわは、面白かった……。
侍女姫様……!
きっと姫様にも、そんな未来がありますよ。
主人公【掴みたい未来を手にして】
【あなたの人生はこれからだ】
日美子わらわの、未来……。外に……出てみたい。
開かれゆく日ノ本のように、障子を開いて、風を受けて……。
邑田おお、そうじゃ。
そなたも留学するのはどうじゃ?
桜國泰澄そうだな。
そなたならば、日ノ本が自信をもって送り出せる留学生となろう。
日美子海外の学校……溶け込めるでしょうか。
わらわは学校に行ったことすらないのに。
在坂在坂たちが先に行っているから、安心するといい。
いつでも先輩として出迎える。
日美子……はい!

日美子は手の甲に刻まれた薔薇の傷を眺める。
頬に一筋の涙が流れた。

日美子お役目にすがらずとも、わらわの人生は続いていくのじゃな。
……そう、なのじゃな。
日美子十手様。
大変お待たせいたしました……お願いできますか?
十手ああ、合点承知!
──絶対高貴……!

十手が放つ絶対高貴の光が、日美子の薔薇の傷を癒やした。


十手顔色がよくなったね。
たっぷり食べて寝てるのかな、偉いよ!
日美子はい……!
少しずつですが、食べられる量も増えています。
主人公【また会えるのが楽しみ】
【いつか士官学校に遊びに来てね】
日美子……っ!
日美子〇〇様、必ずや……!
恭遠やあ、待たせたね。
ギリギリになってしまってすまない。
カールへぇ、君たちは……積もる話もありそうだね。
〇〇、飛行機の中でいろいろと聞かせておくれ。

第36話:空の上から

〇〇たちは機上の人となり、
久しぶりに合流したカール、恭遠と近況報告をした。

カール君たちの方は、実りある旅だったようだね。
主人公【うん!】
【なんだかんだいい旅だった!】
十手カール君たちは、どうだったんだい?
種子島に行くと言っていたけど……。
カールん……そうだな。
ここはまあ、空飛ぶ密室だからねー。
逆に安心して話せるというものだ。
十手もしかして、きな臭い話かい……?
カール……確証を持てるまで不用意に話せなくてねー。
だが、君たちにもようやく伝えられる。
主人公【ということは……?】
【確証が持てた?】
カールああ。
僕たちは種子島に行くと言っただろう?
カール目的は……貴銃士フルサトおよびキンベエの銃が
適切に保管されているのか確かめることだった。
恭遠2挺は、返還時の報告書によれば、
種子島にある資料館に無事到着している。
だから、そこで保管されていなければならなかった。
十手……なかったのかい?
カール資料館に、『銃』はあったよ。
だが、専門機関に鑑定を依頼したら、偽物だとわかった。
2挺は……精巧な模造品にすり替えられていたんだ。
十手紛失ではなくて、すり替え……!?
グラース……ただの窃盗犯にしちゃあ、随分と手が込んでるな。
主人公【ただの窃盗犯ではないとしたら……】
【まさか、トルレ・シャフが……?】
恭遠俺たちは、トルレ・シャフかその関係者の仕業だと確信している。
おそらく、2挺は日本への輸送中にすり替えられたんだろう。
グラース確かにトルレ・シャフが一番怪しいけどよ、
熱狂的なマニアって線もあるんじゃないか?
なんで確信できるんだ。
恭遠……君も、フランスで会っただろう?
グレーの長い髪をフードで隠した、絶対高貴を操る貴銃士に。
恭遠〇〇君は、
オーストリアでも遭遇したと言っていたね。
彼が……盗まれたうちの1挺、『フルサト』なんだ。
十手盗まれて、トルレ・シャフ側で召銃されたということかい?
でも、元レジスタンスの貴銃士が連中に従うなんて……。
カール盗まれた銃は、もう1挺ある。『キンベエ』だ。
初伝来銃フルサトを参考にして作られた、
日ノ本最初の火縄銃……フルサトと最も縁深い貴銃士だった。
グラース……なるほどな。
そいつかその本体を、人質ならぬ銃質にされてるってわけか。
恭遠ああ。そうでもない限り、
フルサトがトルレ・シャフ側につく理由はないはずだ。
カール彼……フルサトは、縁深い貴銃士だけでなく、
親しいレジスタンスのことも、
単なる仲間ではなく『家族』と言っていた。
カール情が深く、それゆえの強さもあったが……
大事な『家族』を銃質とされたなら、
雁字搦めになり動けなくなるのも理解できる。
カール……まったく、嫌になるほど的確な狙いだ。
たとえば僕なら、レオやマルガリータを銃質にされても、
場合によっては大局のために諦めるという判断もし得る。
恭遠革命戦争後、世界帝軍の調べを進める中で、
俺たちが諜報員をあちらに送り込んでいたように、
世界帝軍もレジスタンスに潜入していたとわかっている。
恭遠レジスタンスにいた貴銃士たちの人となりを把握した上で、
輸送距離が長く、必然的に隙も多くなる
日本行きの銃を狙ったのかもしれないな……。
カールしかし、トルレ・シャフはどういう思惑で
彼らを利用しているのか……。
カールトルレ・シャフを巡る動きは、渦のようだ。
どんどん大きく、深くなっていく。
連合軍は渦に飲まれまいと耐えている船だ。
カールそして君は、さしずめ灯台かな。
船が行くべき先を照らす道しるべ……。
カール日を追うごとに、君の役割が大きくなっていくねー。
今回の旅でも、新たな役割を背負うことになったわけだし。
主人公【責任は重いけれど……】
主人公【みんながいるから、大丈夫】
カールああ、いい表情だね。
カール……彼らも、実に溌剌としていい表情じゃないか。
はっはっは!
在坂……すごい……在坂は今、空を飛んでいる。
富士山を空から見下ろしている……。
八九え、富士山!? どこだ?
邑田ほれ、すぐ下じゃ!
一同おお~~っ!
邑田富士山を真上から見られるとは……!
長生きはするもんじゃのう!
八九うはぁー……すっげぇ。
空から見てもこんなにでけぇのか。かっけぇな……!
日本的なDNAに染みるわ……。
在坂そうだな。雄大で……すごい。
在坂…………。
在坂(世界には、在坂が見たことのない景色が
まだまだたくさんある……)
在坂(日美子もこれから、たくさんのものを見るだろうか。
たくさん出会って、たくさん感動して、
そうやって時を重ねて……大人になっていくのだろう)
在坂(在坂は『大人』にはなれないが……
〇〇のもとで、
もっと強くていい貴銃士になれるだろうか?)
在坂(その時に……またいつか、会えたらいい)
在坂……邑田。
邑田む? なんじゃ、在坂。
在坂楽しみだな。
邑田……そうさな。楽しみじゃ♪
グラース最後の最後に、念願のフジヤマが見れたぜ!
サムライもゲイシャも見たし、マッチャも飲んだ!
主人公【完全制覇だね!】
【観光ばっちり!】
グラース出発する日の空は僕を嘲笑っているように思えたけど、
今の空は──可能性!新たな広がり!って感じだ。
十手うんうん。
どんな風景か決めるのは、心ということだね!
グラースそうさ。もっと素敵な世界が僕を待ってるぞ。
……〇〇、十手、日本に来られてよかったよ。
グラース誘ってくれてありがとうな。
恭遠また賑やかになりそうだね、〇〇君。
恭遠さあ、皆へのお土産の整理でもしようか!

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