邑田 | ……鈴殿。先ほどは案内感謝申し上げる。 |
---|---|
鈴さん | いやいや。 礼を言うのはこちらの方さ。 |
邑田 | して、その格好でこの場にいらしたということは…… 本名でお呼びしてもよい、と思うても? |
鈴さん | ああ。 だが、まずは私自ら名乗るのが筋だろう。 |
桜國泰澄 | 私は桜國泰澄。桜國幕府将軍である。 |
主人公 | 【ええっ!?】 【ショーグン……!?】 |
桜國泰澄 | 驚かせてしまってすまない。市井のことを知るために、 ヤスズミ……鈴さんとして時折お忍びで城下を歩いているのだ。 |
桜國泰澄 | これが、案外バレないものでな。 桂幕僚長には黙認してもらっていたが……。 まさか、〇〇殿たちに偶然会えるとは。 |
邑田 | そういうことじゃったか……。 アウトレイジャーとの戦闘の最中にふらりと現れたのには、 心底驚かされましたぞ。 |
桜國泰澄 | それはすまない。 御簾の向こうで声を出さない『上様』ばかりやっていると どうしても視野が狭くなるからな。 |
在坂 | ……上様。聞いていたならば願いがある。 |
在坂 | 在坂は、もう日美子の……マスターの負担にはなりたくない。 |
邑田 | うむ、同意見じゃ。 我ら3名、この場で銃に戻ることを許可してはくれまいか。 |
八九 | …………。 |
桜國泰澄 | ……ならぬ。 お前たちはすでにこの国の民を支える支柱のひとつ。 消えることは許されない。 |
在坂 | ……だが……。 |
邑田 | ……消えねばよいのじゃろう? それならば、新たなマスターのもとで再召銃されるのはどうじゃ。 |
在坂 | ……絶対非道は、それだけだと命を食い潰すもの。 絶対高貴になれる貴銃士を持つマスターのもとに集うのがいいと、 在坂は思う。 |
邑田 | うむ、しかり。 |
桜國泰澄 | しかり、しかり。 |
邑田、在坂、泰澄の視線が〇〇に注がれる。
主人公 | 【自分ですか!?】 |
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八九 | は……え……? 俺なんも聞いてねぇけど!? お前ら裏で打ち合わせしてただろ! |
邑田 | そなたは反抗期じゃったからの。 ほっほっほ。 |
桜國泰澄 | 〇〇殿……そなたが日ノ本の大切な貴銃士たちを 預けるに足る御仁かを見極めさせてもらっていた。 いい気はしないであろう。すまなかった。 |
十手 | ……なるほど。 謁見の時の質問攻めは、そういう意味もあったんだね。 |
桜國泰澄 | そういうわけだ。 まあ、私は歌舞妓町で会った時から、これはと見込んでいたが。 ……して、邑田と在坂はどう思う? |
邑田 | 世界連合についてはまだ見定めねばならぬ。 が、〇〇に限って言えば、 わしは信頼に足ると思うております。 |
在坂 | 〇〇は……真っ直ぐだと思う。 |
桜國泰澄 | そうかそうか。 ……〇〇、そなたさえよければ、 まずは日美子のもとにあったこの3挺を預けたいと思う。 |
桜國泰澄 | 邑田、在坂、八九……。 日ノ本の大切な貴銃士たちを、委ねてもいいだろうか。 |
主人公 | 【拝命します】 【皆さんの総意なら、お受けします】 |
桜國泰澄 | ありがとう。 ……あとのことは私に任せておくれ。 |
──翌日。
〇〇たちは葛城の見舞いのために軍病院を訪れた。
葛城 | 〇〇殿、皆様! お忙しい中、おいでくださり感謝感激でありますッ! |
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グラース | ……こいつ、腹ぶっ刺して死にかけてた奴だよな? なんでこんなピンピンしてんだ? |
看護師 | 流石兵士さんですよね。 意識が戻ってからみるみる回復されて、 あっという間にこんなにハキハキ話せるようになって驚きました。 |
看護師 | 一時は危険な状態だったのに、 順調に回復されていて、私たちも元気づけられているんですよ。 |
葛城 | それは光栄です! 手厚い看護のお陰で傷の治りもよく、この通り── |
葛城 | んぎっ!! |
看護師 | ま、まだ起きてはいけません! |
八九 | お、おい! 無理すんなよ。寝てろ! |
葛城 | め、面目ない……。 それより、八九殿は大丈夫ですか? 顔色があまりよくないような気がしますが。 |
八九 | いや、俺の顔色は元々……。 お前みたいに大怪我とかしてねぇし……。 |
葛城 | ハッ! そういえば、ゲームでの勝負が途中でしたね。 退院したら是非、お手合わせ願います。 小生も1つくらい白星をあげてみたいものです! |
八九 | ……! |
八九 | ……ああ、わかった。 た、楽しみにしてっからよ……早く、治せよ。 |
葛城 | 八九殿……! |
葛城 | はいっ!!! |
……ぐぅ。
邑田 | 八九や、今の音を聞いたか? 在坂が腹を空かしているようじゃ。 |
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邑田 | わしも腹が減ったしの、売店で何か買ってきてもらうとしよう。 皆が大満足の菓子を選んでくるのじゃ。 おぬしのすんすを存分に発揮せよ。よいな? |
八九 | はぁ……? ったく、仕方ねぇ……! |
八九はぼやきながら病室を出ていった。
グラース | ……ずっと気になってたんだけどさ、 お前は自分の貴銃士がいいように使われててムカつかねーのか? ま、今はマスターが変わってるけど。 |
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葛城 | え……ああ、お気遣い恐れ入ります! 邑田殿の振る舞いは理由があってのことですので、 小生は有り難いと思っておりましたよ。 |
主人公 | 【ありがたい……?】 【どういうことですか?】 |
葛城 | ええと……八九殿が召銃されたばかりの頃は、 その……とても親しみやすい感じではなかったもので、 自衛軍一同やや緊張していたのですが……。 |
八九 | ああ!? 今レイド戦だっつーの、邪魔すんな! |
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清掃員 | ひっ、申し訳ございません……。 |
邑田 | なーーーーにをしておるか、八九! 掃除を請け負ってくださるご婦人への態度ではない! |
在坂 | 礼儀知らずにはお仕置きが必要だと、在坂は思う。 |
八九 | うおっ!? |
邑田と在坂は八九を部屋から引きずり出し。
鉄拳制裁を加えた上で、清掃員に対して謝罪させる。
八九 | ……すんませんっした……。 |
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清掃員 | あ、ありがとうございます……。 でも、そこまでしなくても大丈夫ですよ……? |
頭をぐっと押さえられ、渋々ながらも大人しく謝罪する八九を、
葛城ら自衛軍の兵士たちが物陰から見ていた。
葛城 | な、なんとも苛烈な……。 |
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自衛軍兵士1 | 邑田殿のアッパーの容赦なさには身震いします……。 貴銃士とはいえ、あれは堪えるでしょう。 八九殿に湿布の差し入れでもしましょうか? |
自衛軍兵士2 | あっ、態度が悪いとやり直しさせられている……! あのゲンコツは痛そうですな……。 |
自衛軍兵士3 | 清掃のおばちゃんが飴を渡して八九殿を慰めておられるぞ。 尖った雰囲気で怖く思えたけれど、俺たち自衛軍の銃。 話せばわかる貴銃士なのかもしれないな。 |
自衛軍兵士1 | ええ……今度挨拶してみましょう! |
葛城 | (…………。 まさか、邑田殿と在坂殿の狙いはこれ……?) |
葛城 | ……というわけでして。 それ以来、少しずつ八九殿は自衛軍に馴染むようになりました。 |
---|---|
十手 | ほほう……! 邑田君と在坂君が率先して、 『八九君は怖くない』と示してみせたんだね。 |
グラース | いや、絶対それだけじゃねぇだろ。 馴染んだあともこき使ってたなら普通に便利だったんじゃねーの? |
邑田 | ほっほっほ。さて、どうかのう? |
八九 | おい、とりあえずいろいろ買ってきたぜ。 邑田のツケで、って言っといたからな。 |
邑田 | ほう? ならばあとで桂に伝えておくがよい。 |
八九 | (ドンマイ、桂のジジイ) |
在坂 | ……食べ物が揃った。 これでゆっくり話せるだろう。 |
主人公 | 【葛城さんに話があります】 |
葛城 | ……はい。 皆様が揃っていらっしゃったので、 何か大事な用事がおありでは……と思っていました。 |
〇〇は葛城に事の次第を話した。
邑田、在坂、八九は〇〇の貴銃士になったが、
表向きは桂幕僚長がマスターということになっている。
そのため基本的に日本の貴銃士たちは日本に残るが、
〇〇の貴銃士として、
時には国外に出る可能性もあること……。
葛城 | 国外へ……? |
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八九 | イギリスのフィルクレヴァート士官学校に、 留学生扱いで滞在してる貴銃士の例があるんだと。 |
八九 | 俺たちもそんな感じになるんじゃねぇかってことらしい。 |
葛城 | 留学……!? 幕府の許可が下りたのですか……!? |
〇〇たちは、将軍・桜國泰澄の決断について
葛城に伝えた。
桜國泰澄 | ……開国をしようと思う。 |
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幕臣たち | なっ!! |
桜國泰澄 | 無論、今すぐにではない。 準備が整ったらだ。 |
桜國泰澄 | 皆もわかっておるだろう。 現在の鎖国はあくまで臨時の措置。 |
桜國泰澄 | 革命戦争後の混乱期を乗り越え、日ノ本が独立国家として 再び大海に漕ぎ出すための準備期間のようなものだ。 いつまでも続けるべきではない。 |
桜國泰澄 | 世界はめまぐるしく変わっておる。 江戸の時代のように、三百年弱も国を閉ざすわけにはいかん。 |
桜國泰澄 | しかし、国を開く時には、 新しい世界秩序における立場を明確にせねばなるまい。 |
幕臣1 | それは、つまり……! |
桂 | ……ご決断なされたのですか。 |
桜國泰澄 | 我々は親世界帝派──トルレ・シャフにはつかぬ! |
桜國泰澄 | かつて世界全体を支配するほどの強大な力を有した世界帝…… 奴が生きているという日美子の言葉もあり、 新世界秩序が再び崩壊する可能性もあると警戒していた。 |
桜國泰澄 | そうなった場合、連合に近づきすぎていると 日ノ本の立場はまたもや危うく脆いものとなる。 |
桜國泰澄 | 崩壊を経験し、同じ過ちを繰り返さぬよう元世界帝が改心した上で 圧政ではない世界秩序を築こうとするならば…… そちら側につくことにも利点があるやもと考えていたが。 |
桜國泰澄 | 私は、親世界帝派勢力というものは とことん信用ならぬと判断した。 |
幕臣2 | ……それはなぜです? 上様。 |
桜國泰澄 | ……皆の者、ここに伊藤がいないことには気がついているか? |
桜國泰澄 | 奴は、トルレ・シャフの手の者であった。 賊がこの桜國城に侵入する手引きをし…… 日美子に毒を盛り、貴銃士を悪鬼に堕とそうと企んでいたのだ。 |
幕臣3 | 日美子様と貴銃士に害をなそうと……!? |
幕臣4 | なんという……許せぬ! |
桜國泰澄 | これは日美子個人、あるいは将軍家だけの問題ではない。 幕府中枢にある将軍家の神子を害そうとする組織を、 そなたらは信用できるか? |
幕臣1 | とんでもない! 明らかに我らを軽んじている! |
桜國泰澄 | 我らは革命戦争後、悪戦苦闘しながらも、国をまとめてきた。 国内の復興はまだ完全には終えていないが、進んでいる。 次の段階に進む時が近づいてきたように思うのだ。 |
桜國泰澄 | まずは留学生を選出し、世界連合側に派遣する。 その中には貴銃士である邑田、在坂、八九を推薦する。 |
桜國泰澄 | 彼らが見聞きすることを報告してもらおう。 それが明るいものであれば、 世界連合と手を結ぶことも──一考に値する。 |
葛城 | なんと……! ついに幕府が動こうとしているのですね! |
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さらに、家臣たちには人工アリノミウム結晶の危険性や、
それを使ってマスターとなった将軍に召銃されたイエヤスは
絶対高貴になれないだろうことが伝えられたという。
伏せていた情報を開示し、危機感を共有することで、
桜國幕府一丸となって様々な課題に対応していくとのことだ。
葛城 | そうですか……! 正直、驚きすぎて、まだ気持ちが追いついておりませんが……! |
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葛城 | 〇〇殿、どうぞ八九殿をよろしくお願いいたします。 |
八九 | いや、俺の保護者かよ……。 |
葛城 | はは、まさか! 保護者だなどと……そんな……。 う……うぅ……! |
葛城 | うおおぉおおっ! ぐす……うぐぅ……! |
八九 | へ……!? |
号泣する葛城に、八九がオロオロと声をかける。
八九 | ど、どうしたんだよ……? そんなにマスターじゃなくなったのが嫌なのか……? |
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葛城 | 違います……小生は嬉しいのです……! 八九殿は我が国の未来を背負うお立場になられたのですね……! |
八九 | そんな大層なもんじゃ……。 いや、割と大層なのかもしれねぇけど……。 |
葛城 | 小生は猛烈に感激しております! けれど……や、やはり寂しいです! |
葛城 | 八九殿と過ごした日々は、小生一生の宝物です!! |
八九 | 重くないか……!? 別に今生の別れじゃねぇんだし、大げさだろ。 |
葛城 | それでも寂しいものは寂しいのですッ!! お手紙を書きます、お歳暮もお中元も贈ります!! |
グラース | いろいろあったけど……丸く収まったみたいでよかったな。 あいつらが喧嘩別れしたら、後味悪いしよ。 |
十手 | うんうん。 これで一件落着かな。 |
邑田 | 〇〇。 邑田、在坂、八九……我ら3挺、これからよろしく頼む。 |
主人公 | 【こちらこそ!】 |
〇〇はそれぞれと握手を交わした。
八九 | えぇーっと、これと、これと……。 留学って何持って行きゃいいんだ? |
---|
旅立ちに向けて荷造りをしていた八九は、
ガシガシと頭を掻いた。
八九 | ゲームは向こうで買えばいいし……。 意外とこれっていう荷物もねーな……? |
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八九 | ……ん? 誰だ? |
竹田 | 八九殿……。 |
八九 | 竹田……。 |
八九 | 言い訳なんかどうでもいい! ためぇが俺を見張ってコソコソ報告してたのは事実なんだろうが! |
---|---|
竹田 | ……ッ、豊田氏! |
八九 | 黙れ! その呼び方でほだされるとでも思ってんのか!? このスパイ野郎が! |
竹田 | 待ってください、話を……! |
八九 | (俺、こいつに勢いでいろいろ言っちまってたな……) |
---|---|
竹田 | 伺うのが遅くなってしまいました。 これは、自分のお詫びの気持ちです。 |
竹田が軍帽を脱いだ。
そこには、ツルピカに輝く頭皮がある。
八九 | は……? お前、髪はどこにやったんだよ!? |
---|---|
竹田 | この程度で許していただけるとは思っていません。 髪はまた伸びますから……でも、どうしても! 豊田氏にお詫びの気持ちを伝えたかったのです。 |
竹田 | 裏切るつもりはありませんでした。 豊田氏は、自分にとって大切なゲーム友達です。 豊田氏のおかげで、どれだけ救われたか……! |
竹田 | 自分はずっとオタクであることを隠していました。 しかし、豊田氏が自分の持っていたグッズを見て──。 |
---|---|
八九 | ……そのボールペン……。 ナイトメアスクールのグッズか? |
竹田 | ひっ! |
竹田 | (オワタ……完全にオワタ……! 我がパンピー擬態ライフ、終了のお知らせ……) |
八九 | やっぱりそうだよな? ゲームの初回盤についてた限定グッズじゃねぇか。 へぇ……よく手に入れられたな。 |
竹田 | え……は、はい? |
八九 | 作中で主人公が使ってるやつ、ってのがいいよな。 そのボールペンでゾンビぶっ刺して 間一髪逃げるシーンを思い出すぜ。 |
竹田 | あ、あの……八九殿も、 『メアスク』を嗜んでおられるのですか……? |
八九 | おう。つっても、最近ハマったばっかなんだけどな。 ちょっとツラ貸せ。対人プレイに飢えてんだわ、今。 |
竹田 | それがまさか、いろいろなゲームで よくマッチングしていた『豊田』氏だったとは……! |
---|---|
竹田 | あれから自分の世界が広がりました。 自衛軍には意外と同志も多いと気がつきましたし、 本当に……心の底から、嬉しかったのです……! |
八九 | 竹田……。 |
竹田 | これ、餞別です。 秋ノ葉原で見繕ってきました。 |
八九 | ヘッドセット? うわ、これめちゃくちゃいいやつじゃねーか……! |
竹田 | 日本のような通信環境とはいきませんが、 国際電話というのがあります。 |
竹田 | イギリスに行かれても、 通話しながらRTAしてくださいますか? |
八九 | ああ……ありがとな。 |
八九 | つーか、別に頭丸める必要なかったんだぜ。 悪いのはこっちだったし……お前、もともと薄かったじゃん。 |
竹田 | なっ! ひどいですぞ、豊田氏ー!! |
八九 | ははは……! |
──イギリスに帰国するため、
〇〇たちは空港にやってきた。
十手 | カール君たちも、そろそろ到着する時間だね。 |
---|---|
グラース | つーか、お前らこんなとこに見送りとか大丈夫なのかよ。 |
キセル | いいってことよ。 今回はほとんど絡めなかったからよ。 |
葛城 | 命の恩人を見送らないなど、一生の恥ですから! このために一時退院の許可は取っておりますよ! |
桜國泰澄 | こうして可愛い妹と出かけられる絶好の機会だからねぇ。 逃す手はないよ、むしろ……本当に、色々とありがとう。 |
主人公 | 【妹って……】 【もしかして……】 |
日美子 | 〇〇さん……! |
十手 | あっ! 大丈夫なのかい!? |
桜國泰澄 | おかげさまで、すっかり元気になってきてね。 ……一悶着あったけれど、もう薔薇の傷もない。 |
日美子 | ごめんなさい……兄様の……桜國のお役に立てず……。 役立たずでごめんなさい……ごめんなさい……! |
---|
十手の絶対高貴で薔薇の傷を完全に治療する──
将軍泰澄が下した判断を聞いた日美子は泣き崩れた。
桜國泰澄 | 違う。そなたは十分すぎるほど桜國のために働いた。 むしろ、頑張りすぎたのだ。 |
---|
泰澄が日美子を優しく抱きしめる。
日美子 | 兄様……。 |
---|---|
桜國泰澄 | 日美子、落ち着いて聞いておくれ。 数ヶ月以内に、お前の神子としての任を解くつもりだ。 たとえお前に予知の力が残っていようとだ。 |
日美子 | ……! で、でもわらわは……予知能力のおかげで 桜國本家に拾っていただいた身なのに……! |
桜國泰澄 | 今となっては、予言の力の有無は関係ない。 きっかけはそうだったが、お前は私にとって大事な妹だ。 ……ずいぶん歳が離れていて、申し訳ないがね。 |
桜國泰澄 | その妹が日々痩せ衰えていくのを見ていられない。 そもそも……もっと早くに任を解くべきだったのだ。 |
桜國泰澄 | 成長して神子としての力が失われるのは自然なことだ。 無理につなぎ止めるべきではない。 ……成長することで新しく得られる力もある。 |
日美子 | 新しい、力……? |
桜國泰澄 | そなたは自分に神子としての価値しかないと思っているようだが、 それは大間違いだぞ。 |
桜國泰澄 | その精神力、聡明さ、勤勉さを、私も周囲の者も尊敬している。 何物にも代えがたい、そなたの素晴らしい資質であり本質だ。 |
桜國泰澄 | これからお前が成長し、自ら選んで掴み取って伸ばしていく力を 存分に発揮しておくれ。 そなたのやりたいように、私を、桜國幕府を支えてほしい。 |
日美子 | にいさま……でも……。 |
邑田 | すでに、そなたは自分の意思を持っておる。そうじゃろう? |
邑田 | 我らと交流しようと茶会をしてみたり、 侍女に〇〇の様子を見に行かせたり、 葛城の見舞いに赴いてみたり……。 |
邑田 | 今まで押さえ込んできた興味や好奇心を素直に解き放ってみよ。 さすれば、きっと望むものが得られるじゃろう。 |
日美子 | ……邑田様……。 |
在坂 | 在坂が戦場で使われていた時代は……選べない時代だった。 |
在坂 | 選びたかった人生を選べない。 選んだはずの人生を途中で刈り取られる…… そんなことが多い時代だったと、在坂は思う。 |
日美子 | ……っ! |
邑田 | …………。 |
在坂 | 少し前……世界帝府の時代も、そうだったと聞く。 |
在坂 | でも……この国ではこれから、 人生の可能性が大きく広がっていくのだろう? |
在坂 | ……桜國の子、日美子。 日美子の前にも、本当はいろんな人生が広がっているはずだ。 |
日美子 | ……はい。 |
在坂 | 在坂は、日美子は何がしたいのか知りたい。 |
日美子 | わらわは……。 |
桜國泰澄 | …………。 |
日美子 | ……人生双六。 |
日美子 | わらわは、人生双六がしてみたいです。 |
日美子 | 桂が買ってきてくれたのです。 双六をしながら、いろいろな人生をなぞっていくの。 家を買ったり、車を買ったり、借金をしたり、火事になったり。 |
日美子 | ……仕事をしたり、子供が生まれたり。 侍女たちが遊んでいるのを見ていると、とても楽しかった。 |
日美子 | 何度遊んでも、1度として同じ人生がないのです。 こういう人生があるものかと考えるだけで…… わらわは、面白かった……。 |
侍女 | 姫様……! きっと姫様にも、そんな未来がありますよ。 |
主人公 | 【掴みたい未来を手にして】 【あなたの人生はこれからだ】 |
日美子 | わらわの、未来……。外に……出てみたい。 開かれゆく日ノ本のように、障子を開いて、風を受けて……。 |
邑田 | おお、そうじゃ。 そなたも留学するのはどうじゃ? |
桜國泰澄 | そうだな。 そなたならば、日ノ本が自信をもって送り出せる留学生となろう。 |
日美子 | 海外の学校……溶け込めるでしょうか。 わらわは学校に行ったことすらないのに。 |
在坂 | 在坂たちが先に行っているから、安心するといい。 いつでも先輩として出迎える。 |
日美子 | ……はい! |
日美子は手の甲に刻まれた薔薇の傷を眺める。
頬に一筋の涙が流れた。
日美子 | お役目にすがらずとも、わらわの人生は続いていくのじゃな。 ……そう、なのじゃな。 |
---|---|
日美子 | 十手様。 大変お待たせいたしました……お願いできますか? |
十手 | ああ、合点承知! ──絶対高貴……! |
十手が放つ絶対高貴の光が、日美子の薔薇の傷を癒やした。
十手 | 顔色がよくなったね。 たっぷり食べて寝てるのかな、偉いよ! |
---|---|
日美子 | はい……! 少しずつですが、食べられる量も増えています。 |
主人公 | 【また会えるのが楽しみ】 【いつか士官学校に遊びに来てね】 |
日美子 | ……っ! |
日美子 | 〇〇様、必ずや……! |
恭遠 | やあ、待たせたね。 ギリギリになってしまってすまない。 |
カール | へぇ、君たちは……積もる話もありそうだね。 〇〇、飛行機の中でいろいろと聞かせておくれ。 |
〇〇たちは機上の人となり、
久しぶりに合流したカール、恭遠と近況報告をした。
カール | 君たちの方は、実りある旅だったようだね。 |
---|---|
主人公 | 【うん!】 【なんだかんだいい旅だった!】 |
十手 | カール君たちは、どうだったんだい? 種子島に行くと言っていたけど……。 |
カール | ん……そうだな。 ここはまあ、空飛ぶ密室だからねー。 逆に安心して話せるというものだ。 |
十手 | もしかして、きな臭い話かい……? |
カール | ……確証を持てるまで不用意に話せなくてねー。 だが、君たちにもようやく伝えられる。 |
主人公 | 【ということは……?】 【確証が持てた?】 |
カール | ああ。 僕たちは種子島に行くと言っただろう? |
カール | 目的は……貴銃士フルサトおよびキンベエの銃が 適切に保管されているのか確かめることだった。 |
恭遠 | 2挺は、返還時の報告書によれば、 種子島にある資料館に無事到着している。 だから、そこで保管されていなければならなかった。 |
十手 | ……なかったのかい? |
カール | 資料館に、『銃』はあったよ。 だが、専門機関に鑑定を依頼したら、偽物だとわかった。 2挺は……精巧な模造品にすり替えられていたんだ。 |
十手 | 紛失ではなくて、すり替え……!? |
グラース | ……ただの窃盗犯にしちゃあ、随分と手が込んでるな。 |
主人公 | 【ただの窃盗犯ではないとしたら……】 【まさか、トルレ・シャフが……?】 |
恭遠 | 俺たちは、トルレ・シャフかその関係者の仕業だと確信している。 おそらく、2挺は日本への輸送中にすり替えられたんだろう。 |
グラース | 確かにトルレ・シャフが一番怪しいけどよ、 熱狂的なマニアって線もあるんじゃないか? なんで確信できるんだ。 |
恭遠 | ……君も、フランスで会っただろう? グレーの長い髪をフードで隠した、絶対高貴を操る貴銃士に。 |
恭遠 | 〇〇君は、 オーストリアでも遭遇したと言っていたね。 彼が……盗まれたうちの1挺、『フルサト』なんだ。 |
十手 | 盗まれて、トルレ・シャフ側で召銃されたということかい? でも、元レジスタンスの貴銃士が連中に従うなんて……。 |
カール | 盗まれた銃は、もう1挺ある。『キンベエ』だ。 初伝来銃フルサトを参考にして作られた、 日ノ本最初の火縄銃……フルサトと最も縁深い貴銃士だった。 |
グラース | ……なるほどな。 そいつかその本体を、人質ならぬ銃質にされてるってわけか。 |
恭遠 | ああ。そうでもない限り、 フルサトがトルレ・シャフ側につく理由はないはずだ。 |
カール | 彼……フルサトは、縁深い貴銃士だけでなく、 親しいレジスタンスのことも、 単なる仲間ではなく『家族』と言っていた。 |
カール | 情が深く、それゆえの強さもあったが…… 大事な『家族』を銃質とされたなら、 雁字搦めになり動けなくなるのも理解できる。 |
カール | ……まったく、嫌になるほど的確な狙いだ。 たとえば僕なら、レオやマルガリータを銃質にされても、 場合によっては大局のために諦めるという判断もし得る。 |
恭遠 | 革命戦争後、世界帝軍の調べを進める中で、 俺たちが諜報員をあちらに送り込んでいたように、 世界帝軍もレジスタンスに潜入していたとわかっている。 |
恭遠 | レジスタンスにいた貴銃士たちの人となりを把握した上で、 輸送距離が長く、必然的に隙も多くなる 日本行きの銃を狙ったのかもしれないな……。 |
カール | しかし、トルレ・シャフはどういう思惑で 彼らを利用しているのか……。 |
カール | トルレ・シャフを巡る動きは、渦のようだ。 どんどん大きく、深くなっていく。 連合軍は渦に飲まれまいと耐えている船だ。 |
カール | そして君は、さしずめ灯台かな。 船が行くべき先を照らす道しるべ……。 |
カール | 日を追うごとに、君の役割が大きくなっていくねー。 今回の旅でも、新たな役割を背負うことになったわけだし。 |
主人公 | 【責任は重いけれど……】 |
主人公 | 【みんながいるから、大丈夫】 |
カール | ああ、いい表情だね。 |
カール | ……彼らも、実に溌剌としていい表情じゃないか。 はっはっは! |
在坂 | ……すごい……在坂は今、空を飛んでいる。 富士山を空から見下ろしている……。 |
八九 | え、富士山!? どこだ? |
邑田 | ほれ、すぐ下じゃ! |
一同 | おお~~っ! |
邑田 | 富士山を真上から見られるとは……! 長生きはするもんじゃのう! |
八九 | うはぁー……すっげぇ。 空から見てもこんなにでけぇのか。かっけぇな……! 日本的なDNAに染みるわ……。 |
在坂 | そうだな。雄大で……すごい。 |
在坂 | …………。 |
在坂 | (世界には、在坂が見たことのない景色が まだまだたくさんある……) |
在坂 | (日美子もこれから、たくさんのものを見るだろうか。 たくさん出会って、たくさん感動して、 そうやって時を重ねて……大人になっていくのだろう) |
在坂 | (在坂は『大人』にはなれないが…… 〇〇のもとで、 もっと強くていい貴銃士になれるだろうか?) |
在坂 | (その時に……またいつか、会えたらいい) |
在坂 | ……邑田。 |
邑田 | む? なんじゃ、在坂。 |
在坂 | 楽しみだな。 |
邑田 | ……そうさな。楽しみじゃ♪ |
グラース | 最後の最後に、念願のフジヤマが見れたぜ! サムライもゲイシャも見たし、マッチャも飲んだ! |
主人公 | 【完全制覇だね!】 【観光ばっちり!】 |
グラース | 出発する日の空は僕を嘲笑っているように思えたけど、 今の空は──可能性!新たな広がり!って感じだ。 |
十手 | うんうん。 どんな風景か決めるのは、心ということだね! |
グラース | そうさ。もっと素敵な世界が僕を待ってるぞ。 ……〇〇、十手、日本に来られてよかったよ。 |
グラース | 誘ってくれてありがとうな。 |
恭遠 | また賑やかになりそうだね、〇〇君。 |
恭遠 | さあ、皆へのお土産の整理でもしようか! |
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