貴銃士ストーリー:スナイダー

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第1話:危険な男

ラッセルやぁ、〇〇君。
これから食堂へ行くのかい?
今日のメニューは───

その時、突如校内に銃声が鳴り響いた。

ラッセルな、なんだ!?
向こうの方から聞こえた!
行くぞ、〇〇君!
主人公【イエッサー!】

シャルルヴィルあ、ああ……。
なんてことを……!
主人公【大丈夫!?】
【一体何が!?】
シャルルヴィルあっ、〇〇!
それが……───
スナイダー足下に気をつけろよ。
まさに『踏んだり蹴ったり』になるからな。

床に視線を落とすと、銃が落ちている。
これは、DG36───ジーグブルートだ。

シャルルヴィルさっき突然、スナイダーが撃ったんだよ!
それで銃に戻っちゃったんだ。
ラッセルなっ……味方を撃ったというのか?
スナイダー、なぜそんなことを……!?
スナイダー……そのデカブツが、教室の入口を塞いでいた。
スナイダーここでは『平和的解決』を重視するようだからな。
一応、声はかけてやった。
「退け」と。
スナイダーが、デカブツは退くどころか、俺に歯向かってきた。
スナイダー俺の行く手を阻害する者は、誰であろうと許さない。
しかも俺の譲歩を踏みにじるなら撃たれて当然だ。
主人公【当然じゃないよ!】
【それでも撃ってはいけない】
スナイダーおかしなことを言うな。
そのデカブツを惜しんでいるのか?
スナイダーだとしたら、おまえの認識がおかしい。
愚昧な味方など、有能な敵より厄介だ。
スナイダーそもそも、おまえに俺以外の貴銃士は
必要ないと言っただろう。
俺は絶対高貴にも絶対非道にもなれるんだからな。
ラッセルと、とにかく!
許可なく銃を撃つことは校則違反だ。
そもそも邪魔だから撃つなどありえないことだ!
ラッセル通常なら恭遠審議官の判断を待つところだが……
今回はあまりにも事が重大すぎる。スナイダー、君は懲罰房へ。
銃は私が預かる。

ラッセルはスナイダーの銃を取り上げようとした。
すると───

スナイダー触るな。
ラッセルぐふっ……。

スナイダーの銃に触れようとした瞬間、
銃床で殴られ、ラッセルが床に倒れ込む。

シャルルヴィルわぁっ! また……!
スナイダー貴様らのルールに従うつもりはない。
俺はこの時代の戦場で再び力をふるうために
貴銃士になった。
スナイダーその俺から銃を奪おうなどと考える方がおかしい。
そうだろう?
スナイダー俺は邪魔をする奴に容赦はしない。
マスターといえど、おまえも覚えておくことだ。
シャルルヴィルい、行っちゃった……。
シャルルヴィルスナイダーって相当な危険人物───いや、
危険貴銃士だね、〇〇……。

第2話:繋がらない鎖

エンフィールドおや、〇〇さん。
エンフィールドどうしたんですか?
何か探し物でも?
主人公【スナイダーを探していたんだけど……】
【スナイダーの姿が見えないと思って】
エンフィールドああ……。
そういえば、最近スナイダーを見かけませんね。
エンフィールド最後に姿を見たのは、2日前だったかな……?
またどこかをふらついているんだと思います。
スナイダーは気ままですから。
エンフィールド〇〇さん、心配ですか?
でも大丈夫ですよ。
なにせスナイダーですから。
エンフィールドまあ……性格には難が非っ常〜にありますし、
僕を改造しようとするのは困りものですけど、
実力は確かですよ。
エンフィールドきっと今回も、
何事もなかったような顔で、
いつの間にか戻ってきますよ。ええ!
エンフィールド……っと、もうこんな時間だ。
ジョージ師匠の洗濯物を取り込まなければ。
それじゃあ、僕はこれで失礼します!

その日の夜───。

就寝の準備をしていた〇〇は、
廊下から微かに物音がしたことに気がついた。

主人公【……なんだろう?】
【様子を見てみよう】
スナイダー……〇〇。
スナイダー起きていたか。
───叩き起こす手間が省けた。

廊下に出ると、そこにはスナイダーがいた。
服はボロボロで、足にひどい怪我を負っている。
そしてよく見ると、足首があらぬ方向に曲がっていた。

主人公【その足は……!?】
【何があったの!?】
スナイダー……失敗した。
アウトレイジャーを追いかけている最中に、
足を踏み外して崖から落ちてな。
スナイダーまあ、懲りずに追ってきたアウトレイジャーは
当然返り討ちにしてやったが……。
主人公【今すぐ治療を!】
スナイダー当たり前だ、そのために来た。
この状態では走れない、早く直せ。

スナイダー……ッ……。

見るも無残な傷に触れる。
淡い光が傷口を包み込み、正常な状態へと戻っていく。

スナイダーほぅ……。
よくやった。見事だ。
スナイダーさて……邪魔したな。
主人公【無茶はよくない】
【ちゃんと学校にいてもらわないと……】
スナイダー……?
俺は力を使うための武器だ。
敵を倒さず何をしろと?
スナイダーあの無能な奴らと共に大人しく机に座っていろと?
───冗談ではない。
主人公【でも、無茶な戦い方は……】
【少しは周囲の意見も尊重してほしい】
スナイダーおまえごときが俺に意見か?
……片腹痛い。
スナイダー俺は戦い続けるために、おまえの貴銃士になった。
貧弱なおまえの言うことを
いちいち聞いてやる筋合いはない。
スナイダー俺からすれば、おまえの方こそ俺に合わせるべきだ。
なぜ俺についてこようとしない?
スナイダーなぜおまえも俺と同じように、
アウトレイジャーと戦わない?
スナイダー……戦う気がないのなら、邪魔をするな。
俺が必要とする時だけ、応えろ。
それ以外のことで───俺に、指図をするな。
主人公【…………】

第3話:思わぬ弱点

スナイダー…………。

スナイダー……!
スナイダー───おまえか、〇〇。
主人公【どこかに行くところ?】
【ここは立ち入り禁止だよ】
スナイダー昨晩、ここを通った時に何か気配を感じた。
アウトレイジャーかもしれない。
確かめに行く。
スナイダー───おまえはなんだ?
また、くだらない指図をするつもりか。
主人公【一緒に行く】
【アウトレイジャー退治を手伝う】
スナイダー……勝手にしろ。

───2時間後。

スナイダーもたもたするな。
遅れたら構わず置いていくぞ。
主人公【問題ない】
【どんどん進もう】
スナイダー…………。
スナイダー案外、根性があるようだな。
もっと早く弱音を吐くかと思ったが───
スナイダー───!
スナイダー……いる。

スナイダーは茂みに向かって銃を構える。
すると───

アウトレイジャー……敵、発見。
破壊、スル───!
スナイダーふん。
破壊されるのは貴様だ、下衆が。
スナイダー───絶対非道。
アウトレイジャー破壊スル……、破壊……!
スナイダーどこを狙っている?
破壊とは───こうするんだ!
アウトレイジャーグ、フ───……。
スナイダーふん。
他愛もない……───

突然、スナイダーの身体が揺らいだかと思うと、
ばたりと地面に倒れた。
慌てて〇〇が駆け寄ると───。

スナイダーすう……、すう……。
主人公【眠っている……?】
【疲れただけ……?】
スナイダー……、すぅ……。

数時間後───。

スナイダー……ん、んん───……。
主人公【起きた?】
【おはよう】
スナイダー───〇〇?
スナイダー……俺は……。
そうか、俺は寝ていたのか。
スナイダー───……ん?
スナイダー……………………
……………………
…………動けない。
スナイダー痛みはないが、身体に力が入らない。
……なんだ? どうしたというんだ……。
スナイダー……そういえば、アウトレイジャーと戦う前から、
腹に違和感があった。
それが大きくなったような───
スナイダー……?
主人公【お腹が鳴ってる】
【最後に食事をしたのは……?】
スナイダー……ああ。
『腹が空いている』というヤツか。
厄介な。
スナイダーいつだったか、エンフィールドに
スコーンを食わされたし、
紅茶や水を補給していたんだがな。
スナイダーあれは……最後にエンフィールドと会った時……
2日前だったか?
主人公【2日も前!?】
【それは倒れるはずだ……】
スナイダーはぁ……身体を持つというのも面倒なものだな。
スナイダーエンフィールドが、
時々何かを口に突っ込んでくるのはそのためか。
鬱陶しいと思っていたが意味はあったわけだ。

とにかく何か食べた方がいいと、
〇〇は、持っていた携帯食をスナイダーに渡す。

スナイダーこれは……チョコレートとクラッカーか。
クラッカーはともかく、
チョコレートはベトベトするからいらん。
主人公【食べないと身体がもたない】
【これしかないから我慢してほしい】
スナイダー……仕方がない。
このまま動けないのも困るからな。
これを飲み込むとしよう。

スナイダーは携帯食を食べ始める。

スナイダー貴銃士として実体を持ち、
こうして自由に戦えるのはいいが、
人間の身体というのは面倒なものだ。
スナイダー何もせずとも、時間が経てば腹が減る。
動けば汗が出て、次第に動きが鈍っていく。
つまらん。
スナイダー───だが、城での暮らしよりは今の方がマシだな。
ゴテゴテと贅をこらし、
無駄だらけの生活をするなど理解不能だ。
スナイダーおまけに人間の下らん理想を押しつけられる。
……まぁ、エンフィールドは
それを嬉々として受け入れていたがな。
スナイダー俺にはこの過ごし方が性に合っている。
日々戦場に立ち、敵を屠る。
銃としてあるべき過ごし方だろう?
スナイダー……ああ。
そういえば今は、ちょうどおまえもいるな。
なら、士官学校にも戻る必要もない。
主人公【それはちょっと困る】
【……冗談?】
スナイダー何か問題があるか?
スナイダー俺はあそこにも縛られる気はない。
マスターであるおまえがいるからいてやるだけだ。
それを覚えておけ。

第4話:スナイダーの好きなもの

スナイダー…………。
主人公【どうしたの?】
【また、どこかに出かけるところ?】
スナイダー……おまえか。
いや、今日は───
スナイダーこの音……。
またあれか……。
主人公【ちゃんと食べてる?】
【何か食べないと】
スナイダーわかっている。
エンフィールドがスコーンを持っている。
それを口に入れることにしよう。
主人公【それじゃあ足りないよ】
【栄養を考えないと】
スナイダーうるさい。
エンフィールドと同じようなことを言うな。
この身体を動かせるエネルギーになればそれでいい。
主人公【食べることは嫌い?】
【食事は楽しめそうにない?】
スナイダー言っている意味がわからない。
身体を動かすために必要だから、何か摂取する。
それだけだろう。

エンフィールドおや。〇〇さん。
エンフィールドどうしたんですか?
難しい顔をして。

〇〇はエンフィールドに、
先ほどのやりとりの内容を伝えた。

エンフィールドそうですか。
まったく、スナイダーにも困ったものです。
僕がもっとちゃんと見張っていないといけないようですね。
エンフィールドすみません、マスター。
今度からはもっとしっかり
スナイダーに食べさせるようにします。
主人公【『食事』を楽しめたらいいんだけど】
【好きな食べ物はないのかな】
エンフィールドスナイダーにとって、食事は……
身体を動かすための面倒な行為という認識ですからね。
エンフィールド『食べる』ものはありますが、
『好き』なものはないように思います。
エンフィールド城で暮らしていた時は、シンプルなパンなど、
味気のないものならなんとか食べていました。
エンフィールドあと、僕が飲んでいるのを見て、
紅茶はあまり嫌がらずに飲んでいましたね。
エンフィールドそれが彼のボーダーラインで、
気に入らないものはそもそも
口に入れようともしません。
エンフィールドまぁ、好みの食べ物を見つければ、
食事も少しは楽しめるようになるんでしょうが……。
主人公【スナイダーの好みを見つけたい】
【なら、調べてみよう】
エンフィールド〇〇さん……。
どうして、そこまで必死なんです?
主人公【スナイダーのためだから】
【倒れたら大変だから】
エンフィールドマスター……。
弟のためにありがとうございます。
であれば、僕もできる限り力になります。
エンフィールド僕たちでスナイダーが食べられそうな食材を、
探してみましょう!

スナイダーこんなところに呼び出して、なんだ?
エンフィールド君が何を食べられるか、
〇〇さんが知りたいそうなんだ。
どう? この中で気になるものはあるかな。
エンフィールドほら、いろいろ用意したよ。
美味しそうだろう?
スナイダーどれも興味はない。
エンフィールドそう言わないで。ほら、これなんかどうかな?
鶏肉をハーブでソテーしたものだよ。
いい匂いがするだろう?
スナイダー……鳥の死骸か。
エンフィールドう……
そう考えると、食欲がなくなるな……。
エンフィールドええっと……、ならこっちはどうだい。
穫れたて野菜の盛り合わせだ。
ブロッコリーにニンジン、レタス……───
スナイダー……俺に草を食べろと?
エンフィールドそ、それじゃあ、こっちはどうかな?
新鮮なフルーツだよ。
これなら、木の実だから草じゃない。
スナイダー……甘ったるい匂いがする。
この匂いを嗅ぐと気分が悪い。
エンフィールドそうか……。
じゃ、じゃあ、これは───……?

エンフィールドはぁ……。
最後の頼みだったミックスジュースも駄目か……。
エンフィールドねぇ、スナイダー。
本当に口に入れていいと思ったものはないのかい?
僕にはどれも美味しそうに見えるけど……。
スナイダーない。
これらを口に入れるなんてごめんだ。
エンフィールドそうか……。
エンフィールドマスター、すみません。
僕はあなたのお役に立てませんでした……。
生徒1はぁ……疲れた! 喉がカラカラだっ!
こんな時こそ、コレだよな。
生徒1炭酸水!

食堂にやってきた候補生は、
持っていた炭酸水を一気に飲み干した。

生徒1……ぷはぁ〜!
うん、うまい!
スナイダー…………。
エンフィールドどうしたんだい、スナイダー?
スナイダー……あいつが飲んでるもの。
あれはなんだ?
エンフィールドえっ? ……ああ、炭酸水のこと?
気になるなら飲んでみる?

スナイダーはこくりと頷く。

エンフィールドそれじゃあ、購買ですぐに買ってくるよ!

エンフィールド───お待たせ!
はい、炭酸水だよ。
どうぞ。
スナイダーああ。

スナイダーは炭酸水を受け取ると、
ゆっくりと口をつけた。

スナイダー……!
これは───

1口飲むやいなや、スナイダーは目を見開くと、
ゴクゴクと喉を鳴らして炭酸水を飲みはじめた。

エンフィールドすごい勢いで飲んでるな。
気に入った?
スナイダーああ、悪くない。
エンフィールド……!
やりましたね、〇〇さん!
スナイダーの好みを発見しましたよ!
主人公【やった!】
【でも……】
エンフィールドあ……。
好みなのはいいですけど、
炭酸水だから、栄養は摂れませんね……。
エンフィールド……ま、まぁ、好きなものが見つかっただけでも
良しとしましょうか、ええ!
とりあえずは、ミッションクリアですよ、はい!

第5話:改造のススメⅠ

エンフィールド……よし。
さっきの実技演習ではなかなかの結果が残せたぞ。
この調子で頑張って───
???なかなかの結果?
あれで満足しているというのか?
スナイダーあれくらいで満足するとは程度が低すぎる。
これが俺の兄かと思うと情けない。
エンフィールド……スナイダー。
いきなり何を言うんだ。
スナイダーまず、弾の装填が遅すぎる。
いちいち銃口を手元に戻して弾を込めなければならない
前装式だからだ。
エンフィールドう……。
それは仕方ないだろう?
僕はそういう風にできているんだから。
スナイダーそうだな。
だが、心配ない。
俺がしっかり改造してやろう。
エンフィールドま、またそれか!
スナイダーさあ、銃を渡せ。
責任を持って後装式かつ、さらに優秀な銃にしてやろう。
エンフィールド改造はしないって言ってるだろ!
まったく、珍しく口を利いたと思えば
そんなことばっかり───!
エンフィールド不愉快だよ!
今日はもう僕に話しかけないでくれっ!
スナイダーっ、待て……!
スナイダー……と、もう姿が見えない……か。
まったく、逃げ足だけは速い。
???はははっ!
逃げられてやんの!
スナイダー……?
グラース見てたぜ。
あの逃げっぷり、相当嫌われてんじゃねぇの?
スナイダー……貴様……。
グラースと言ったか。
グラース何やったらあんなに嫌われるわけ?
後学のために知りたいね。
スナイダー嫌われてはいない。
ただ、あいつは改造を嫌がるだけだ。
グラース……改造?
スナイダー『俺』にしてやろうとしている。
俺の方があいつよりも優秀な銃だからな。
グラースああ、スナイダー銃ってエンフィールド銃を
改造した銃だっけ?
スナイダーそうだ。
あいつは、強くなれると諸手を挙げて喜ぶべきだ。
なのに……いつも拒絶する。
グラースふぅん。銃もそれぞれだな。
シャスポーは自分をどうにか強くできないかって
悩んでるみてぇなのにな。
グラースははっ、シャスポーのヤツ、
本当は僕の強さが羨ましくて
仕方ねぇんだろうさ!
スナイダー…………なるほど。
グラース……ん? どうしたんだ。
何か悪巧みをしてるような顔だぞ。
スナイダー名案を思いついた。
シャスポー銃をおまえに改造しろ。
グラース……は?
スナイダーシャスポー銃が改造されて強くなれば、
それを見たエンフィールドが
「よし、自分も」と思うかもしれない。
スナイダー───というわけだ。
おい、おまえ。
とっととシャスポー銃を改造してこい。
グラースなんでだよ!
スナイダー同じことを2度言うのは嫌いだ。
1回で理解できないほど頭が悪いのか?
グラースいや、理解はできるに決まってる!
けど、んなのは絶対イヤだね!
グラースそんなことしたらシャスポーが
『僕』になっちまうだろうが!
スナイダー……? 何か問題があるのか?
おまえはシャスポーを『自分』にしたいと
思わないのか?
グラースはぁ? 思うわけねぇだろ気持ち悪い。
そういうネタでからかうってんならまだしも、
そんなガチのトーンじゃ言いたくもねえ。
グラース僕は僕1人で十分だ。
スナイダーふん、そうか。
よっぽど、自分に自信がないんだな。
グラースそうじゃねぇよ!
ジョージあれ?
スナイダーとグラース!
ジョージへえ〜!
おまえらって仲良かったんだな。
グラース……お前、目がすげぇいいんだな。
これが仲が良いように見えるってんだから。
ジョージHAHAHA! それほどでもないぜ!
サンキュー☆
ジョージで? なんの話してたんだ?
スナイダーエンフィールドを改造に乗り気にさせる方法だ。
グラース……そうだったか?
ジョージなんだ、スナイダー。
またエンフィールドを改造しようとしてるのか。
スナイダーああ。
だが、今回も逃げられた。
ジョージいつものことだな。
ま、気にするな!
スナイダーもちろんだ。
次の機会を狙う。
ジョージしっかし、スナイダー。おまえ、
よく改造改造〜って言ってるけど、
おまえとエンフィールドってそんなに性能が違うのか?
スナイダー当たり前だ。
そもそも必要がなければ改造されないだろう。
ジョージまぁ、そりゃそうなんだけどさ。
スナイダースナイダー銃は
エンフィールド銃を改良して生み出された
革新的な銃だ。
スナイダーエンフィールドも『俺』になってみれば、
今の自分がどれほど『足りていない』か、
理解できるというのに───。

 

第6話:改造のススメⅡ

スナイダー知っての通り、
エンフィールド銃は前装式の銃だ。
スナイダー前装式銃が幅広く使われていた時代においては、
最高傑作と言われていたが……
時代は徐々に、後装式銃へと移り始めた。
スナイダープロイセンで誕生した後装式ボルトアクション銃───
ドライゼ銃の情報が大英帝国にも入り、
後装式銃の研究が始まった。
スナイダー当時はまだ、後装式銃の優位性については
懐疑的な見方が大きかったようだがな。
プロイセンの快進撃で、状況が変わり始めたというわけだ。
グラース…………。

軍の高官1プロイセンのドライゼ銃は射程が短いが、
後装式の機構ゆえに、地に伏した状態のまま
何度も射撃を繰り返せる。これは大きなメリットだ。
軍の高官1装填の速度の差は歴然としている。
今や、後装式銃なしではフランス、プロイセンに対抗できない。
軍の高官2それは誰もがわかっている。
しかし、銃の開発には
長い時間と膨大な費用がかかるのだ!
軍の高官3……ならば、エンフィールド銃を使うというのはどうだ?
軍の高官2……エンフィールド銃を?
改造するのか。
軍の高官1そうだ。エンフィールド銃は、
間違いなく前装式銃の最高傑作だ。
軍の高官1エンフィールド銃を後装式に改造すれば、
ドライゼ銃やシャスポー銃にも負けないような素晴らしい銃を、
安価に短期間で作れるのではないか?
軍の高官2うーむ、なるほど……。
それは一理あるな。

そうして、エンフィールド銃をもとに、
右開きの蝶番式銃尾装置が考案された。

改造元となったエンフィールド銃の口径や尺度、
銃形はそのままで、後装式に改造が行われたのだった。


兵士1───Fire!
兵士2は……早い!
これがスナイダー銃……!
兵士3ああ……! これからは後装式の時代だ。
このスナイダー銃は、
我らが大英帝国の力をさらに強固にするぞ……!

スナイダー俺の登場によって、
前装式銃は一気に旧式と化した。
グラース……ふん。
所詮、二番煎じじゃないか。
しかもドライゼやシャスポーなんかの。
スナイダーそれは違う。
俺とドライゼ銃、シャスポー銃の機構は別物だ。
それに、奴らのような欠点は俺にはない。
ジョージ……っていうと?
スナイダードライゼ銃やシャスポー銃には問題があった。
スナイダーガス漏れ、針折れ、湿気などによる不発、
不発時の排莢困難など───な。
グラース……まぁ、シャスポーのヤツは湿気に弱いな。
スナイダー俺は違う。
仮に不発となっても排莢できて、またすぐに戦える。
金属薬莢の弾丸も使えるしな。
スナイダーエンフィールドが前装式銃の最高傑作なら、
俺は後装式銃の最初の完成形にして傑作だ。
グラースおいおい、それは言い過ぎだろ。
お前はあくまで初期の後装式の銃だ。
後から出た銃はお前よりも優秀だぞ。
スナイダーそれは、俺という手本がいたからだ。
グラースったく、面の皮が厚い奴だ。
スナイダーとにかく、俺は強かった。
スナイダー日本で勃発した戊辰戦争では、
たった10挺のスナイダー銃を装備した兵士たちが、
旧式銃を装備した白虎隊を打ち破ったという話がある。
グラース白虎隊……?
スナイダー300余名の部隊だ。
つまり、数を30倍上回る相手を
打ち負かしたことになる。
グラースへぇ。
そりゃ、すげぇな。
スナイダー弱い者は強い者に食われる。
そして、俺こそが、
数々の戦場で弱者を蹂躙してきた銃。
スナイダー……だから、
エンフィールドは『俺』になるべきだ。
なのにあいつは、なぜ拒否するんだ。
ジョージうーん。オレ、ずっと考えてたけど……。
自分が自分じゃなくなるのはイヤかもなー。
ジョージオレ、オレの銃も、ブラウンも好きだし!
だから他の奴にはなりたくないな〜。
スナイダー自分が自分でなくなる……?
グラース……僕もシャスポーにはなりたくねぇな。
あいつのもんを奪ったり、フリをしたりするのはいいけど。
スナイダー……?
スナイダー(エンフィールドは、違う物になることを恐れている?
しかし、俺とエンフィールドは、元は同一の銃。
性能は大きく変わるが、恐れる必要はないはずだ……)
スナイダー……?
……わからん。

第7話:果たされなかった約束

エンフィールドマスター!
聞き込みをしてきました。
主人公【ありがとう】
【お疲れ様】
スナイダー……つまらん。
任務だと言うから来てやったのに、
ちまちまと人の話を聞いてばかり……。
エンフィールドそんな言い方はよくないよ。
情報収集だって立派な任務じゃないか。
戦いだって、より情報を持っている方が勝つんだよ。
スナイダーいくら情報があったところで、弱者は負ける。
勝負を決するのは、最終的には力だ。
エンフィールドもう……。
そんな考え方をしていると、
足下をすくわれるよ?
スナイダーおまえたちは勝手にやっていろ。
俺はもう帰る。
エンフィールドあっ、コラ!
勝手な行動をするんじゃな───
スナイダー…………。
エンフィールドうわっ!?
エンフィールドちょっ……、 スナイダー!
どうしていきなり立ち止まるんだい!?
スナイダー……ここを知っている気がする。
エンフィールドえっ?
この街に来るのは初めてだと思うけど……。
……あっ、石碑が建っているな。
エンフィールドなになに───『革命戦争夜明けの記念碑』?
主人公【レジスタンスたちが戦った場所だね】
【初めて貴銃士たちが勝利を飾った街】
エンフィールドなるほど。
世界帝軍の基地があった街ってことか……。
エンフィールドもしかしたら、僕たちが銃の時に来たことが
あったのかもしれないな。
スナイダー……?
エンフィールドなに、不思議そうな顔をしているんだい?
僕たちの前の持ち主はレジスタンスにいたんだから、
あり得ない話じゃないだろう?
スナイダーそういえば、そうだったかもしれないな。
エンフィールド『かも』って……。
スナイダー、君……自分の来歴くらいは
ちゃんと把握しているんだろうね?
スナイダー興味ないな。
エンフィールドおいおい、しっかりしてくれよ。
そこはちゃんと認識しておくべきじゃないか!
エンフィールドいい? 王室に伝わっているところによると、
君はウルンディの戦いに参加していた兵士の
持ち物だったそうだよ。
エンフィールドそれから色々あって、
博物館に収蔵されて、革命戦争中に
レジスタンスの手に渡ったらしい。
主人公【色々?】
【博物館に収蔵?】
エンフィールドはい。どうやら最初の持ち主に問題があったようで。
上官に逆らって罰を受けたのをきっかけに、
軍を抜けたとかなんとか。
エンフィールドその際、スナイダーや手持ちの武器を売って
お金を作ったらしいんです。
エンフィールドその後、いろんな場所を転々とした末に、
イギリス本国に戻って競売に出されたとか。
その際、イギリスの博物館が購入したそうです。
スナイダー……つまらん話だ。
主人公【それがなぜレジスタンスに?】
【興味深いね】
スナイダー…………。

レジスタンス1くっ。世界帝軍め!
俺たちは簡単にやられたりはしない……!
必ず未来をつかみ取るんだっ!!
レジスタンス1頼むぜ、エンフィールド銃!
お前が頼りだ!
レジスタンス2おーい!
助太刀にきたぞーっ!
レジスタンス1お前……!
気持ちは嬉しいが、ここは戦場だ。
手ぶらじゃ───
レジスタンス2大丈夫だ、ちゃんと銃がある。
ほら!
レジスタンス1スナイダー銃じゃないか!
そんなもの、どうしたんだ?
レジスタンス2イギリスの博物館からもらったんだ!
そういうお前は、どうやって手に入れたんだ?
そのエンフィールド銃を。
レジスタンス1子供の頃、史跡でデモンストレーションに
使われていた銃があったことを思い出して行ってみたら、
まだあったんだ!
レジスタンス2それはラッキーだったな!
よし、これは俺たちレジスタンスに
追い風が吹いてるぞ。
レジスタンス1ああ。この勢いで世界帝から取り戻そう。
俺たちの祖国を───いや、世界を……!
レジスタンス2ああ!!

レジスタンス1明日は、いよいよイレーネでの最終決戦か……。
レジスタンス2次の戦いで最後になるのか……?
レジスタンス1……わからない……
───いや、最後にしよう。必ず……!
レジスタンス2ああ……!
そうだ。俺たちは、この日のためにこれまで
必死の思いで頑張ってきたんだ。
レジスタンス2死んでいったあいつらのためにも……。
絶対勝たなきゃいけない!
レジスタンス1……そしたら、さ。
色々落ち着いた頃には、故郷に帰れてるかな?
俺、墓参りがしたい。
レジスタンス1お袋が好きだった、白いバラを
持って行ってやりたいんだ……。
レジスタンス2絶対やろうぜ。
俺も、いっぱいやりたいことがある。
2人で思い切り平和を満喫してやるんだ!
レジスタンス1そうだな。
約束だ!

だが、その約束は果たされなかった。


レジスタンス2さすがに、向こうも必死だぜ。
だが、ここは俺たちがこらえるんだ……!!
世界帝軍1守りが手薄な場所を狙え!
───あそこだ! あそこを突破するんだ!
レジスタンス2まずい! こっちに……!
させるか───!
レジスタンス1おいっ!
前に出るな! 狙われるぞ!
世界帝軍2おっと。
レジスタンスの子ネズミが飛び出してきたぞ!
ははっ、わざわざ撃たれに来やがって!
レジスタンス2あ……。
レジスタンス1───危ないっ!!
レジスタンス2うわっ!
世界帝軍2死ね死ね死ねーっ!
レジスタンス1ぎゃあっ……!

エンフィールド銃の持ち主は、
スナイダー銃の持ち主をかばって銃弾に倒れた。

レジスタンス2……っ!
な、なんてことだ……。
レジスタンス2しっかりしろ!
くそっ、なんでこんなバカな真似をしたんだ……!
俺なんかをかばって撃たれるなんて───!
レジスタンス1逃げろ……。
そして、お前は……、生きて……、
俺たちの、目指した……新しい世界を───……。
レジスタンス2おい! 目を開けろっ!
なぁ、聞こえてるんだろ?
だったら、目を開けてくれ……!
レジスタンス1…………。
レジスタンス2うわぁあああ……っ!!

主人公【そんなことが……】
スナイダー世界帝軍とレジスタンスの結末については、
おまえも知っているだろう。
ただ、その陰にこんなこともあったというだけだ。
エンフィールド僕の持ち主が見られなかった世界を、
僕がこうやって見ているのは感慨深いよね。
主人公【彼も喜んでいるかもしれない】
【この平和を守り抜かないと】
スナイダー……とにかく、革命戦争はそうやって終わって、
貴銃士たちは眠りについた。
エンフィールド7年後、ブラウン・ベス先輩が貴銃士として
現れたことで、イギリス全土から
エンフィールド銃とスナイダー銃が集められました。
スナイダーそれで、俺の持ち主が、
俺と、友人の形見として持っていた
エンフィールド銃を王室に納めた。
エンフィールドうん。
「自分の愛銃と、親友の愛銃が
貴銃士になってくれたら」───とね。
スナイダーそんな願いは知ったことではない。
だが、そのおかげでこの身体を得たことは、悪くない。
エンフィールド素直じゃないよね、君。
前の持ち主にも感謝しているんだろう?
スナイダー……無駄な時間を食った。
俺は帰る。
エンフィールドあっ、待って!
こら、スナイダーったら!

第8話:無か鎖か

エンフィールドおや、〇〇さん。
エンフィールドどうしたんですか?
何かお探しでしたらお手伝いしますよ。
エンフィールド……ああ、もしかして、
またスナイダーを探しているんですね?
ここ数日、姿が見えませんから。
エンフィールドいつものようにどこかをうろうろしているのでしょう。
でも、そろそろ帰ってくる頃だから大丈夫ですよ。
さすがにお腹も空くでしょうし。
主人公【空腹で倒れないか心配だ】
【何か食べられそうなものを準備しようかな】
エンフィールドスナイダーに渡すなら、
味のない食べ物がいいですよ。
エンフィールド味や匂いが強いものはどうも嫌がって、
口に入れようとしないので。
主人公【ありがとう】
【よし、じゃあアレだ】
エンフィールド……もしかして、何か作ろうとしています?
エンフィールドああ! スナイダーは幸せですね。
〇〇さんの手料理を食べられるなんて!
エンフィールドあの……よかったら、僕も手伝いましょうか?
スナイダーの好みは誰よりもわかっているつもりですし
味見係もできますし……。
エンフィールド───それに僕も、
お腹が空いた弟のために何かしたいので。

その日の夜───。

スナイダー俺だ。
入るぞ。
スナイダー……ふん。
敵の弾丸が腕をかすった。
動くには問題ないが念のため直しておけ。

うなずいて、血がにじむ腕に手をかざす。
すると、淡い光がスナイダーの傷口を包み、
見る間に傷がふさがっていった。

スナイダーよし。───問題ない。
主人公【お腹は空いてない?】
【ちゃんと食べてる?】
スナイダー……確か、昨日何かを食った。
なんだったかは覚えていない。

〇〇は、昼間、エンフィールドと作った
ショートブレッドを取り出した。

スナイダー……?
なんだ、これは?
主人公【色々栄養が入ってる】
【味はあまりないはず】
スナイダー食い物か。
……匂いは特にしないな。

スナイダーはやや警戒しながら、
ショートブレッドを口に運ぶ。

スナイダー……食べられなくはない。
余計な味がしないところは気に入った。
これを食べれば倒れないのか?
スナイダー───なら、また作れ。
今度はこれを持って出る。
主人公【また出かけるつもり?】
【どうしてそこまで戦おうとする?】
スナイダー俺は絶対高貴、そして絶対非道の、
2つの力を使える唯一無二の強者だ。
スナイダーだが、この時代の銃に比べて、
俺が古い銃であることは確か。
スナイダー戦うことをやめれば、
俺は時代に置いていかれた
ただの古銃になるだろう。
スナイダーだからこそ戦い続けねばならない。
俺が強者であり続けるために。
主人公【…………】
【無理はしないでほしい】
スナイダーなんだ、また文句があるのか。
俺は俺のやりたいようにやる。
不満があるなら、おまえが共に来い。
主人公【それは……できない】
【他の貴銃士たちを置いていけない】
スナイダー他の奴らなど必要か?
俺ならおまえの力をうまく使うことができる。
他の誰よりもずっと───な。
スナイダーだから、おまえも俺を───俺だけを選べ。
主人公【でも……】
【みんなも大事だ】
スナイダー……あくまで俺を選ばないというのか。
スナイダーなら、この選択ならどうだ?
おまえが俺から逃げられないように鎖でつなぐか、
他の奴らを消すか───どちらがいい?
主人公【むちゃくちゃだ!】
【どっちも駄目だ!】
スナイダー黙れ。必ず選ばせる。
おまえが選ぶまで俺はここを動かない。
スナイダーさて、
どちらが根負けするか、勝負だな。
スナイダーなに、夜はまだまだ長い。
気長に待ってやろう。
どちらが得策か、じっくり考えるがいいさ。
スナイダーなぁ、〇〇?

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