〇〇たちがファルの異変を知ってからも、
カトラリーへの家庭教師は続いていた。
カトラリー | 絶対高貴……って、どんな感覚なんだろう。 |
---|---|
カトラリー | ……はぁ。見たことはあるけど使ったことなんてないし、 よくわからない物をやるなんて無謀だよね。 |
カトラリー | ……っていうか、十手もあんたたちも、 変わり映えしない練習見てて飽きないわけ? 僕をジロジロ見てないで、そのへんのお菓子でも食べてれば? |
十手 | お気遣いありがとう、カトラリー君。 そうだね、あんまり見ているとやりづらいだろうし、 ちょうど小腹が空いていたんだ。ありがたくいただくよ。 |
カトラリー | あっそ。 ……十手はマナーがなってないんだから、 ぽろぽろ崩れるやつじゃなくてチョコレートにしなよ。 |
十手 | ほうほう。カトラリー君のおすすめはちょこれぇとなんだね。 いろいろ種類があって、どれも美味そうだなぁ……! |
ライク・ツー | …………。 |
ライク・ツー | 会話が成立してる……みてぇだな。 そいつのツンケン用語をどう好意的に解釈したらそうなんだよ。 |
主人公 | 【すごいね、十手】 【なんとなく傾向がわかってきたかも……?】 |
十手 | はははっ。カトラリー君は少し独特な言い方をするが、 素直でわかりやすい、いい子だからね。 |
カトラリー | はぁっ……!? 意味わかんないんだけど。 |
十手 | はは、照れなくたっていいじゃないか。 カトラリー君の優しさを誤解されるのはもったいないしね。 |
ライク・ツー | 照れてんのか、それ。 って……。 |
カトラリー | …………。 |
ライク・ツー | うわ、マジか。 十手……すげぇな、お前。 |
十手 | 言葉の裏がわかれば、気遣いが伝わってくるんだよ。 そのあたりは、ライク・ツー君のおかげで鍛えられているしね! |
ライク・ツー | は……? 俺をそいつと一緒にすんな! |
──コンコン
シャルロット | 皆様、ごきげんよう。 |
---|---|
カトラリー | ……あ、マスター。 |
シャルロット | 数日ぶりになってしまいましたわね。 そろそろ、家庭教師の成果が出た頃かしらと思って見に来たの。 どうかしら、カトラリー。 |
シャルロット | 絶対高貴になれたという報告は聞いていないけれど、 片鱗は掴め始めたのかしら。 |
カトラリー | ……えっと……まだ、よくわからないかも。 |
シャルロット | ……そう……。 絶対高貴になれる貴銃士の導きがあっても、 そう簡単にはいかないものなのね……。 |
十手 | しかし、カトラリー君は本当によく頑張っているよ。 あとは俺みたいに、何かきっかけがあればいいのかもしれない。 |
シャルロット | そうでうか……。 引き続きよろしくお願いしますわね、十手さん。 |
シャルロット | ……ところで、ファルさんは? 姿がないようだけど……任務かしら。 |
ライク・ツー | ああ。 あいつなら、マチルダに呼ばれてまた朝から出かけてったぜ。 |
シャルロット | 彼女ったら……。 相変わらず、落ち着きのないこと。 |
シャルロット | こうしてお客様がいらしているのだから、 もっとお話したり会食したりすればいいのに。 |
シャルロット | まあ、彼女は自己管理も十分にできないような方ですものね。 この間だって、真っ白な顔で、幽鬼のように歩いて……。 ……みっともないわ。 |
十手 | シャルロット殿。そういう言い方は──……。 |
十手 | (……ん、待てよ。 この感じ、どこかで……) |
十手 | シャルロット殿…… もしや、マチルダ殿のことを心配しているのかい? |
シャルロット | …………えっ。 |
十手の言葉に、シャルロットは固まってしまった。
シャルロット | か、彼女がもし……、もしも、 万が一にでも死んでしまうようなことがあったら、 ベルギーの国防に差し障るのですもの。 |
---|---|
シャルロット | 首相の娘としても、ベルギーを愛する一国民としても、 当然、心配はしますわ。 |
シャルロット | ……コホン。 さて、わたくしは失礼いたします。 支援している楽団のチャリティーコンサートがありますの。 |
シャルロット | カトラリーが絶対高貴になれたら、 わたくしにお知らせくださいね。 |
シャルロット | そ、それでは、ごきげんよう。 |
シャルロットは足早に立ち去った。
十手 | あっ、シャルロット殿……! もう行ってしまった。 |
---|---|
カトラリー | 僕が絶対高貴になれそうにもないってわかったから、 もう用はないんでしょ。 |
十手 | しかし、あの様子……。 |
ライク・ツー | けっこう、図星な感じだったよな? |
十手 | ああ。まさか……とは、思いつつ……。 |
十手 | カトラリー君が絶対高貴に目覚めるよう シャルロット殿が急いでいる様子なのは、 マチルダ殿を救いたい一心なのではないか? |
カトラリー | ……えっ!? |
ライク・ツー | あー……言われてみれば、確かに? その線もあるかもな。 |
カトラリー | ええっ! |
カトラリー | ……そんなふうに、考えたことなかった。 |
カトラリー | うーん、でも……2人はずっと仲が悪い感じだったけど。 親が政敵同士らしいし……? |
ライク・ツー | 親が仲悪くても、子供までそうとは限らないんじゃねーの? |
カトラリー | …………。 |
ライク・ツー | んじゃ、俺はトレーニング行ってくる。 せいぜい特訓頑張れよ。 |
屋敷の一角、人気のない場所で──
マチルダ | ……ハァ……。 |
---|
薔薇の傷が再び悪化したのか、青白い顔をしたマチルダが
廊下の壁にもたれかかっていた。
彼女は首元のペンダントの蓋を開くと、
その中をじっと見つめる。
マチルダ | …………。 |
---|---|
ライク・ツー | ……何見てんの? |
マチルダ | ……ッ! |
マチルダ | お前は、士官候補生の……! |
ライク・ツー | ああ……UL85A2、ライク・ツー。 ……お前の相棒と同じく、世界帝軍にいた奴と同じ型の現代銃だ。 |
マチルダ | そうか……。 何か足りないものがあれば、使用人に伝えておくが。 |
ライク・ツー | いや、必要なもんは足りてる。 ここに来たのは、お前と話したかったからだ。 |
マチルダ | 任務についてか? |
ライク・ツー | いや。 ……なんでわざわざ、世界帝軍にいたのと同型の銃を召銃した? |
ライク・ツー | ベルギーは、世界帝府の武器工場ってイメージを消したいんだろ。 なら、現代銃の貴銃士が欲しいにしても、 いくらでも別の銃を用意できたはずだ。ドイツみてぇにさ。 |
マチルダ | …………。 |
ライク・ツー | ミカエルを召銃したのも、理解に苦しむんだよ。 世界帝軍の記録で、ミカエルが戦わねぇのはわかってただろ。 同種の銃ならそのリスクは当然あるのに、なんで選んだ。 |
ライク・ツー | あいつが世界帝軍にいた銃だってのは、 本人がうっかり喋ってたから知ってるぜ。 にしても……なんでわざわざ同じ名前を名乗ってる。 |
ライク・ツー | ファルとくれば……そうだな、エフあたりか。 ま、他にもベルギーで作られた名銃はあるよな。 |
ライク・ツー | なのに、お前が召銃したのがファルとミカエルなのは、 単なる偶然か? それとも、狙いがあってのことか? |
マチルダ | ……答える必要はないだろう。 |
ライク・ツー | …………。 |
ライク・ツー | ……はぁ。回りくどい話にはいい加減飽きてきたぜ。 もうわかってんだから、はっきりさせようぜ。 |
ライク・ツー | ミカエルだけじゃなくてファルも…… 世界帝軍にいたのとまったく同じ銃の貴銃士だろ。 |
マチルダ | ……っ。 |
ライク・ツー | あいつを呼び覚ました理由はなんだ? 国際的な地位向上のためなら、呼び覚ます必要はない。 ……リスクを取ったからには、大きいリターンがあるはずだ。 |
ライク・ツー | つまり、トルレ・シャフをおびき寄せるエサとか…… そんなところか。 |
ライク・ツー | あいつらを利用してトルレ・シャフに大打撃を与えるとかな。 ベルギーが抜け駆けして一国で手柄を上げれば、 国際的な立場もかなり変わるか。 |
マチルダ | ……それは……。 |
マチルダ | ……お前は、それを知って何がしたい。 |
ライク・ツー | 別に、脅したり言いふらしたりするつもりはねぇよ。 ただの憶測だしな。 その代わり……少しばかり聞きたいことがある。 |
マチルダ | 取引というわけか。 ……いいだろう。 |
ライク・ツー | 世界帝の銃は、各国に搬送中に襲撃を受けたが、 その後は問題もなく厳重に保管されている── 表向きには、そういうことになってるよな。 |
ライク・ツー | 再び召銃されたって正式な記録は残ってない。 なのに、ファルはこうして召銃されてる。 |
ライク・ツー | 返還から召銃の間に何があったんだ? お前の知ってることを教えろ。 |
マチルダ | ……ベルギーおよびドイツへの護送中、 搬送者が世界帝の銃を狙う武装勢力に襲撃された。 |
マチルダ | その際に、DPSG-1やKB EFFなどの銃が持ち去られた。 KB FALLはかろうじて無事だったため、 貴銃士として運用している。 |
マチルダ | 私が知らされているのは、それだけだ。 |
ライク・ツー | なるほどな。 |
ライク・ツー | ……輸送途中での襲撃は、イギリスへの道中でも起きてるだろ。 そこで、UL85A1──世界帝軍ではラブ・ワンと名乗っていた 銃が強奪されてる。 |
ライク・ツー | それも、ベルギーやドイツの銃を奪った奴らと 同じ犯人グループだったのか? |
マチルダ | イギリスでも……? すまないが、UL85A1についての情報は持っていない。 |
ライク・ツー | ……そうか。 |
マチルダ | 他に質問がないのならば、失礼する。 |
ライク・ツー | ああ。 |
ライク・ツー | ……確信はなかったけど、やっぱりそうだったのか。 あいつ……世界帝軍の……。 |
---|---|
ファル | …………。 |
彼らのやりとりを密かに聞いていたファルが、
そっと立ち去っていった──。
ライク・ツー | …………。 |
---|---|
主人公 | 【おかえり】 【何かあった?】 |
ライク・ツー | ……ああ、〇〇か。 十手のおっさんは? |
主人公 | 【カトラリーの部屋にいる】 【もう少し授業をするみたい】 |
ライク・ツー | すっかり懐かれてんな、あいつ。 |
ライク・ツー | …………。 |
ライク・ツー | ……おい、〇〇。 今さらだけどよ、この国にはあんまり関わらねぇ方がいいぜ。 特に、あのやべぇファルにはな。 |
ライク・ツー | カトラリーの授業がひと段落したら、 さっさと士官学校に戻るぞ。 |
主人公 | 【でも、ファルのことが気になる】 【苦しんでいるのに見て見ぬふりは……】 |
ライク・ツー | …………。 ……はぁ。 |
ライク・ツー | 仕方ねぇ。お前には言っておくか。 ……あのファルは、元世界帝軍の奴だ。 |
ライク・ツー | 世界帝軍の特別患部だったKB FALLの貴銃士── ……それと同個体で、ほぼ間違いねぇ。 |
主人公 | 【……!?】 【そんなはずは……】 |
事前にラッセルから聞いていた情報では、
ファルは当然、世界帝軍にいたのとは別の個体とのことだった。
ミカエルは記憶がないため、
別個体として発表されていたのは理解できるが、
ファルもとなると話は大きく変わってくる。
主人公 | 【まさか、ファルも記憶がないとか?】 【何かよほどの理由があるのか……?】 |
---|---|
ライク・ツー | さあ。 探ってみた感じだと、たぶん、それはねぇと思うけど。 |
ライク・ツー | ベルギー的には、世界帝軍の情報でも聞き出すとか、 トルレ・シャフを釣るための囮にでもしようとしてんのかもな。 |
ライク・ツー | どっちにしろ、あいつはまともな状態じゃねぇ。 それはわかってんだろ? |
ライク・ツー | それに……。 元世界帝軍の貴銃士で、特に残虐だったっていう奴だ。 〇〇は関わってもいいことないぜ。 |
──地下室で見た光景が、〇〇の脳裏によぎる。
怯え切った表情で血を流していたテロリストの男。
拷問を楽しんでいるかのようだったファルの姿。
さらに、革命戦争に関する記録では、
ファルは世界帝軍特別幹部の中でも、
冷酷無情だったと残されている。
主人公 | 【(ファルは何かに酷く苛まれている)】 |
---|---|
主人公 | 【(でも、彼が変わっていないなら危険だ)】 |
ライク・ツー | ……マチルダはファルの力を必要としてるし、 今んとこ、ベルギーにとっても欠かせないみたいだ。 |
ライク・ツー | あいつが暴走しねぇなら、現状維持させとけ。 俺たちは手を引こうぜ。 |
主人公 | 【……ファルと話したい】 【ファルに会いに行く】 |
ライク・ツー | ……は? |
ライク・ツー | いや、話聞いてたのかよ! あいつを下手に刺激するな──……って、 こういう時のお前は頑固なんだったな……。 |
ライク・ツー | はぁ……ったく……。 |
──ファルが任務から戻ったと聞き、
〇〇とライク・ツーはファルを探して
屋敷の敷地内を歩き回る。
ライク・ツー | ……いたぞ。 |
---|---|
ファル | ……おや、私に何かご用です? |
主人公 | 【世界帝軍の貴銃士だったのは本当?】 |
ファル | ……その様子ですと、確信があるようですね。 はぁ……やれやれ。 一応は機密事項のはずですが、どこから漏れたのやら。 |
ファル | おっしゃる通りです。 私は世界帝軍にいた貴銃士KB FALLと同個体ですよ。 |
ライク・ツー | へぇ。案外あっさり認めたな。 |
ファル | かまをかけているという感じではなさそうでしたし。 これ以上、隠しようがなさそうだと判断したまでです。 |
ファル | それに、銃は持ち主に仕えるものですので。 その時その時の持ち主の望むように働くだけでしょう? どんな過去があれど、大した問題にはなり得ないかと。 |
主人公 | 【でも、様子がおかしい】 【ひどく苦しんでいた】 |
ファル | 苦しむ……? はて、なんのことやら。 記憶にありませんね。 |
ファル | 私はいたって普通ですよ。 |
ファル | 感情などというものに振り回されることもなく、 ただ、与えられた役割を果たすのみです。 所詮、銃はただの道具なのですしね。 |
主人公 | 【それならなぜ、部屋に花を飾る?】 |
ファルは花になど興味がなさそうなのに、
薔薇園を気にしては毎日のように花を摘んでいる。
そして今も、ファルは庭園で過ごしていた。
ファル | ……花……。 |
---|---|
主人公 | 【感情がないただの道具に、花は必要?】 【花に思い入れがあるから飾るのでしょう?】 |
ファル | ……っ! |
ファル | そ、れは──……ぐっ!? |
その時、ファルの身体がぐらりと揺れた。
ファル | ……ぐっ!? |
---|
ぐらりとファルの身体が揺れた。
苦しげに胸のあたりを押さえ、青白い顔をしている。
ライク・ツー | うぉっ!? なんだよ……! |
---|---|
主人公 | 【大丈夫!?】 【今、治療を──】 |
ファル | 触るな! |
ファルは、〇〇が差し伸べた手を振り払う。
ファル | さっきから、ごちゃごちゃと……。 感情があって苦しむとしたら、お前のせいだ。 |
---|---|
主人公 | 【……!】 |
吐き捨てるように言うと、
ファルはふらつきながら屋敷の中へ引き上げていく。
〇〇は呼び止めようと手を伸ばしたが、
それ以上何も言えずに手を下ろした。
ライク・ツー | もう、やめとけ。 これ以上、俺たちにできることはない。 |
---|---|
ライク・ツー | 前……ミカエルに初めて会った時、 言われたな。 |
ミカエル | あのね……ファルのことだけれど。 |
---|---|
ミカエル | 彼のことを、誤解しないでほしい。 そして……誤解を解こうともしないでほしいな。 |
ライク・ツー | あれは、触れるなってことなんだ。 あいつは変化を望んでない。頑ななまでに……。 |
---|---|
ライク・ツー | もう何日かしたら家庭教師の件もテキトーに話つけて、 とっとと士官学校に帰るぞ。もう、あいつには関わるな。 |
ファル | …………。 |
---|---|
ミカエル | ……ファル。 |
ファル | …………。 |
ミカエル | ……ねぇ、ファル。 こっちを向いて。 |
ミカエルの声には気づいていないのか、ファルは無反応のまま、
窓際に置かれた薔薇の一輪挿しをぼんやりと見つめている。
ミカエル | …………。 そうか、きみはもう……。 |
---|
ミカエルは、そっとファルの顔を覗き込んだ。
ミカエル | ……ねぇ、きみは空っぽすぎるよ。 |
---|---|
ミカエル | 僕たちはもう、ただの銃ではなくて。貴銃士。 人のような存在になったんだ。 きみが望もうと、望むまいと。 |
ミカエル | 人は愛がなくては生きてはいけないよ。 空っぽのきみに──僕が愛をあげる。 |
ファル | ……る、さい……。 |
ミカエル | ……っ。 |
ファルは、ミカエルが差し伸べた手を払った。
ファル | ……銃に、愛など必要ありません。 |
---|---|
ミカエル | ……ファル。 どうして、愛を拒むの……? |
ファル | …………。 |
──その日から、ファルは庭園に姿を見せなくなった。
一輪挿しの手入れがされることもなくなり──
赤い薔薇は、萎れていった。
──数日後。
マチルダ | ファル。アウトレイジャー出没の一報が入った。 すぐに向かうぞ。 |
---|---|
ファル | はい、マスター。 |
ミカエル | ……ファル。 |
ミカエルは、自分の声を無視し、庭園に一瞥もくれずに
軍用車に乗り込もうとするファルの背中に手を伸ばし──
──そっと、その手を下ろした。
ミカエル | ……うん、そうだね。 きみは、これを望んでいない。 |
---|---|
ミカエル | 愛を拒むきみに、────をあげる……。 |
──その日の夜。
ファルは、アウトレイジャー出没が確認された危険なエリアで
周囲を警戒しつつ、1人静かに進んでいた。
ファル | ……そこか。絶対非道──! |
---|---|
アウトレイジャー | グアァァ……! |
ファル | ……はぁ。 |
ファル | ……さて。これで強襲の危険はなくなったことですし、 マスターと合流しますかね。 |
ファルが元来た道を辿ろうとした時、
背後で微かに音がする。
ファル | ……! アウトレイジャーが、まだ……? |
---|---|
??? | さすがやなぁ、ファルはんは。 |
ファル | ……! あなたは── |
ゴースト | ワイはDG11──……ゴーストや。 あんさんは、こっちの名前の方に馴染みがあるやろ? |
ファル | さあ。ドイツにいる貴銃士のうち1人が ゴーストと呼ばれていることは知っていますが。 |
ゴースト | そないな誤魔化し……する必要あたへんで。 イレーネ城におった頃は、ゴーストさんって呼びよったこと、 ワイ自身がよぉく知っとるからなぁ……。 |
ゴースト | あんさんは……“あの”ファルはんで間違いないやろ。 もうわかっとるやろうけど……ワイもや。 |
ゴースト | 感動の再会っちゅーことや。 はっぴーやなぁ……。 ハッピでお祝い、なんちゃって……ぷぷっ。 |
ゴースト | …………。 |
ゴースト | ……あんさんに、伝えることがあって来た。 |
ゴースト | ──あの人は、生きとる。 トルレ・シャフはあの人のための組織や。 |
ファル | …………!? |
ゴースト | それから、ワイだけやのうて、 アインスの兄さんとエフもおるで……。 |
ファル | ……ッ! ぐ…………。 |
ゴースト | なんや? 胸んとこでも痛むんか? |
ファル | ……いえ。 今のお話、なくもない……とは思えますが。 |
ファル | 今さら、何をお考えですか? |
ファル | 彼のところに貴銃士が再び集ったとしても、無駄ですよ。 彼はすでに亡き者となっているはずの人間ですし、 圧政を敷いたのちに敗北した今、世界中が敵のようなもの。 |
ファル | 一部に熱狂的な信奉者はいるかもしれませんが、 再び覇権を握るなど夢物語でしょう。 ……一体、なんのために私を呼ぶのです? |
ファル | 私には既に新たなマスターがいて、 新たな任務を与えられています。 そんな私にどうしろと? |
ゴースト | ……あんさんは、4大アサルトライフルて呼ばれるくらいの 一流の銃やからなぁ……。 新しい生き方を選ぶっちゅうのも、まあわかる……。 |
ゴースト | でも……ワイは違う。 あの人に見つけて召銃してもらえたのが奇跡みたいな、 ドマイナー銃や……。 |
ゴースト | そんなワイを、あの人が救ってくれたんや。 せやからワイは……何があっても……どんなことになっても あの人についていくって決めとる。 |
ファル | ……ふっ。 それは……情ってやつですか? |
ゴースト | せやなぁ。ワイは情深い銃やから。 ──なぁ、ファルはん。あんさんもそうやろ? |
ファル | ……私が? そんなわけないでしょう。 |
ゴースト | いいや。 アインスの兄さんやエフといる時のあんさんには、情があった。 少なくともワイには……そう見えてたで。 |
ゴースト | ……ワイは知っとる。 あんさんは、あの2人に会いたいはずや。 |
ゴースト | ……戻ってきぃや、ファルはん。 場所と時間は、ここに書いといた。目印は、赤い花──やて。 |
ゴースト | 戻るっちゅうても……いろんなやり方がある。 ワイみたいに、連合軍に潜入しとくのもありや。 ……完全に、あの人んとこに戻るのもええ。 |
ゴースト | アインスの兄さんとエフもあんさんに会いたがっとるからな。 まずは、再会して積もる話でもするとええわ。 |
ファル | …………。 |
ゴースト | ああ、それから……ミカエルくんのことは知っとる。 このことを伝えるかは、あんさんに任せるわ。 |
ファル | …………。 |
ファルは、ゴーストに渡されたメモを握りしめた。
マチルダ | ……ファル、ここにいたのか。 |
---|---|
ファル | ……ッ! |
マチルダに呼ばれてファルは振り返る。
先程までそばにいたはずのゴーストの姿は、既になかった。
ファル | …………。 |
---|---|
マチルダ | ……どうした。幽霊でも見たような顔をして。 |
ファル | ……いえ、なんでもありません。 |
──翌朝。
ファル | …………。 |
---|
ライク・ツー | つまり、トルレ・シャフをおびき寄せるエサとか…… そんなところか。 |
---|---|
ライク・ツー | あいつらを利用してトルレ・シャフに大打撃を与えるとかな。 ベルギーが抜け駆けして一国で手柄を上げれば、 国際的な立場もかなり変わるか。 |
ファル | (……私は、もとより世界帝軍の中を奪った組織や、 トルレ・シャフをおびき寄せるエサとして召銃されている……) |
---|---|
ファル | (ならば、彼らが私に接触してきたのは、 マスターにとっても朗報、だが……) |
ファル | (マスターに報告をするべきか……? ゴーストさんが言っていたことがどこまで本当か、 もう少し踏み込んで、確かめたい……) |
ファル | (まずは向こうの様子を見よう。 マスターには事後報告でもさほど問題はないだろう。 ……私がエサとしての役目を全うするだけのことなのだ) |
ファル | (しかし、本当に彼が──世界帝が生きていると……?) |
考え事をしながら自室に戻ったファルは、
ふと顔を上げ、窓辺に新しい薔薇が飾られていることに気づく。
ファル | ……これは。 |
---|---|
使用人 | 失礼いたします。 |
使用人 | ファル様、朝食のご用意が── |
ファル | これは、誰が。 |
使用人 | 昨日の夕方ごろ、士官候補生の〇〇様が、 カトラリー様と一緒に選んで活けておられました。 ファル様はご多忙なので、手が回らないだろうと……。 |
ファル | ……温かい、お気遣い……。 |
ファルは花瓶を跳ね除けるように手を振った──が、
花瓶に当たる寸前で止める。
使用人 | ……っ! |
---|---|
ファル | 朝食、持ってきてください。 |
使用人 | は、はい……。 |
ミカエル | …………。 |
---|---|
ファル | ……ミカエルさん。 |
ミカエル | ……ファル。 どうしたんだい? |
ファル | ええ、伝達事項が。 ……ゴーストさんから接触がありました。 |
ミカエル | 幽霊から、きみに? |
ファル | ……ああ、失礼。 トルレ・シャフのことです。 |
ファル | 今夜、元同僚のアインスとエフと接触する機会があります。 街はずれの廃倉庫で落ち合う予定です。 |
ミカエル | ……ファルは、彼らに会うんだね。 |
ファル | ええ、あくまでも様子見ですが。 なんでも、我々の元マスターが生きているとか……。 どこまで事実なのかはっきりしませんので。 |
ファル | ……あなたもいらっしゃいますか? |
ミカエル | …………。 |
ミカエル | ノン、僕は行かないよ。 |
ミカエル | 僕にかつての記憶はない……。 行ったとしても、誰も何も得るものはないだろう。 |
ファル | ……そうですか。 |
ミカエル | ねぇ、ファル。 |
ファル | はい? |
ミカエル | その人たちとの再会が、きみのためになるといいね。 |
ファル | ……さて、どうでしょう。 大して期待はしていませんよ。 |
ミカエル | ……そう。 |
ミカエル | …………。 |
ミカエル | やっと、解放される時が来たんだね。 ファル……。 |
ゴーストから指定された時刻、
ファルは待ち合わせの場所にやってきた。
ファル | 赤い花……。 |
---|
そこには、寂れた風景に似合わない赤い花が置かれていた。
ファル | ……っ! |
---|
夜闇の中から、3つの人影が浮かび上がる。
それは、ファルがよく知る姿だった。
アインス | ──久しぶりだな、ファル。 ずっと、1人にさせてすまなかった。 いろいろと手間取ってな。 |
---|---|
ファル | ……アインス……本当に……。 |
エフ | ファルちゃ~ん! 会いたかったわぁ♥ |
ファル | エフ……! |
ゴースト | ……ミカルくんは来ぇへんかったか。 せやけど……ファルはんはちゃあんと来てくれてよかったで。 |
ゴースト | ほんなら、ワイは報告に戻るわ。 久々の再会、あんさんらで楽しむとええわ。 |
アインス | ファル、来い。 これまでのことと、これからの話をしておこう。 |
エフ | ウフフ……夢みたいね。 またアインスお兄様とファルちゃんと一緒に過ごせるなんて! |
ファル | …………。 |
ファルは、2人のもとへと足を踏み出す。
──その時だった。
??? | 動くな! |
---|---|
エフ | ……っ、何よ、あいつらは……! |
ファル | ……!? |
ファルたちを取り囲むように、
ベルギー支部の兵士が廃墟内へ突入してくる。
ベルギー支部指揮官 | 総員、構え! |
---|---|
ベルギー支部指揮官 | 世界帝府の残党だ。 なるべく破壊せずに捕らえよ! |
ベルギー支部兵士 | はっ! |
アインス | ……どうなってる。 |
エフ | ちょっと、ファルちゃん! これ、どういうことよ!? |
ファル | 知りません、私は何も── |
ファル | どうして、こんな……! |
ライク・ツー | あれは……! ……ッ。 |
アインス | ファル……お前、まさか……。 |
マチルダ | 総員、戦闘態勢! 行くぞ、〇〇候補生。 |
主人公 | 【行こう、2人とも】 【やろう!】 |
十手&ライク・ツー | 了解! |
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