とある人気のない路地裏にて──
ファル | ……。 |
---|---|
??? | ……お待ちしておりましたぜ、旦那。 |
ファル | 前置きは結構。 例の品は手に入ったのでしょうね。 |
??? | そりゃあもちろん。上物も上物。 これだけのものは、ウチでなきゃ扱えねぇ……! |
ファル | ほう……しかし、口ではなんとでも言えますし、 まずは品を検めさせていただきますよ。 |
ファル | …………っ! |
ファル | ふむ……なるほど、実にいい。 これがあれば、私の計画は完璧な形で進むでしょう。 |
ファル | 取引は成立です。 今の私は気分がいい。望みの額を支払いますよ。 |
??? | へへっ! さすが、話のわかる旦那だ。 うんと弾んでもらいてぇところだが…… 旦那との取引は、こちらにも旨みがある。 |
??? | ここは……このくらいでいかがですかい? |
ファル | いいでしょう。 ……また頼みますよ。 |
ファル | ……ふふ……。 |
ファル | はは、はははは……っ! |
恭遠 | もうすぐクリスマス休暇だが、 みんなは休暇をどこで過ごすか決めただろうか? |
---|---|
恭遠 | 士官候補生のほとんどは帰省して、特に学校行事もない。 もちろん、君たち貴銃士たちも、 思い思いの場所で過ごしてほしい。 |
恭遠 | ただ、緊急任務で、呼び出しや現地合流の要請をする場合もある。 クリスマス休暇中の滞在場所について、 これから配る紙に記入して提出してくれ。 |
マークス | マスターは士官学校に残ると言っていた。 だから当然、俺の答えも決まっている。 |
孤児である〇〇に、家族が帰りを待つ家はない。
マークスは迷わず、「士官学校に残る」にチェックをつける。
ライク・ツー | 特に行くとこもねーし、 生徒がいなくなってすっきりした士官学校なら、 トレーニングも捗りそうだ。 |
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ドライゼ | クリスマスであっても、親世界帝派の残党が 大人しくしているとは限らん。 我々が長期間基地を空けるのは危険だな。 |
エルメ | ああ。俺たちは予定通り戻ろう。 兵士たちが、ドライゼ不足になっているかもしれないしね。 |
グラース | シャスポー、お前は大好きなマスターといっしょに 士官学校にいろよ。 僕はフランスでクリスマスパーティー三昧だからな。 |
シャスポー | は? そんなこと言われなくても……。 ──って、ちょっと待った。 |
シャスポー | まさか、僕に変装して行くつもりじゃないだろうな!? |
グラース | フッ、さぁね~。 |
シャスポー | おい! タバティエール! クリスマスはあいつを見張っておけ!! |
タバティエール | やれやれ……。 休暇中はグラースのお目付け役で休めなさそうだ。 |
ペンシルヴァニア | 俺たちは、アメリカに戻る。 ……スプリング。お土産は何がいいか、メモに書いておいてくれ。 |
ケンタッキー | いーっぱいアメリカ土産買ってくるからな~! 遠慮なんかすんなよ、スーちゃん! |
スプリングフィールド | う、うん……! ペンシルヴァニアさん、ケンタッキー……ありがとう。 |
シャルルヴィル | スフィーはボクと一緒に 楽しいクリスマスを過ごすから、心配しないで♪ |
ケンタッキー | くぅ~っ! 今度は一緒にアメリカに行こうな、スーちゃん……! |
エンフィールド | スナイダー、君もちゃんと書いて提出── |
エンフィールド | ──って、いない!? まったく……また勝手に教室を抜け出して……! |
エンフィールド | はぁ……僕が代筆しておこう。 エンフィールド、スナイダー、「士官学校に残る」……と。 |
ジョージ | エンフィールド、クリパやろうぜ! クリパ☆ |
エンフィールド | ええ、そうですね! ジョージ師匠! クリパいたしましょう! |
カール | …………。 …………クリパ…………。 |
ローレンツ | フ……。 一般庶民と違って、カール様は城でクリスマス恒例の ディナーに出席されるのだ。当然オーストリア、と── |
カール | 久しぶりに、民衆の気取らないクリスマスというのも 魅力的だねー。 |
ローレンツ | 士官学校でのクリスマスを有意義なものとするべく、 不肖ローレンツ、尽力いたします! |
記入を終えた貴銃士たちが、
恭遠のもとへ続々と用紙を提出しにやって来る。
恭遠 | 士官学校に残る貴銃士も多そうだな。 これなら……〇〇君も寂しくなさそうだ。 |
---|
──士官学校はクリスマス休暇に入り、
寮には〇〇を含むわずかな士官候補生と、
一部の貴銃士たちだけが残っていた。
十手 | ところで、くりすます休暇っていうのは、 なんのためのお休みなんだい? |
---|---|
十手 | 栗の澄まし汁でも作るのかと思ったが、 栗の時期からは少し外れているしなぁ。 |
主人公 | 【クリスマスを知らない……!?】 【日本では馴染みのない行事かな】 |
ジョージ | Oh……! 十手、クリスマスに何するか知らなかったのか!? |
ジョージ | クリスマスにはなっ、パーティーするんだぜ☆ でっかいターキーに、クリスマス・プディング…… それから、ツリーとプレゼント! |
ジョージ | 大事な人たちとゆっくり楽しく過ごす、 こっちのビッグ・イベントなんだ! |
十手 | へぇ……! そいつは楽しそうだなぁ! |
ジョージ | だろ~っ! 〇〇と士官学校に残ってるみんなで、 チョー楽しいパーティーにしようぜ☆ |
エンフィールド | そこでご提案なのですが! ジョージ師匠! |
ジョージ | うおっ! エンフィールド! |
エンフィールド | クリスマスパーティーと言えば、 欠かせないのは盛大に飾り付けられたクリスマス・ツリー! |
エンフィールド | ちょうどいいことに、士官学校のそばには森がありますし、 立派なモミの木を探しに行きませんか? |
ジョージ | Wow! 最高だな! でっけーモミの木探してこようぜ! |
十手 | ちょ……っ、2人とも待ってくれ! あんまり大きいと談話室に入らないぞ……! |
クリスマスが数日後に迫る中、士官学校ザクロ寮では、
クリスマスパーティーの準備が急ピッチで進んでいた。
エンフィールド | ふぅ……一時はどうなることかと思いましたが、 無事モミの木の搬入も終わりましたね! 今日は飾りつけを仕上げていきましょう。 |
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ローレンツ | モミの木の枝数から、最適な見栄えにするために必要な オーナメントの数を推測し、マーケットで調達済み……。 カール様にもご納得いただける仕上がりにしてみせます! |
カール | うむ、頼むよー。 華美にしすぎないようにと言っておこう。 |
ベルガー | 俺、ハラ減ったー! 食堂休みになってんだけどよぉ、ターキーねぇのかよ! |
ローレンツ | クリスマス休暇なのだから、当然学校職員も休みだ。 それから、ターキーはクリスマス当日にしかないぞ、 モルモット1号。 |
ベルガー | ああ? つっまんねぇー! ポテトコーク持ってそうな財布クンもいねぇしよぉ! |
ローレンツ | 財布というのは……俺の推測が正しければ、 通りすがりの気の毒な士官候補生のことか。 |
ローレンツ | モルモット1号により一般生徒への被害がでないよう、 再発防止のための仮説を立て、検証していかねばならない。 ……ふむ、新たな装置や試みを導入してみるか。 |
ベルガー | ひぃっ……! 今、スゲーぞわっときた……! |
スナイダー | ……おい。 |
エンフィールド | おや? スナイダー、君もパーティーの準備を手伝いに来たのかい? 驚いたな……いい心掛けだよ! |
スナイダー | ……なぜ、部屋の中に木がある。 邪魔だ。 |
スナイダーが、おもむろに脚を上げる。
エンフィールド | まさか……や、やめるんだ、スナイダー!! |
---|---|
スナイダー | ……フン。 |
エンフィールドの制止もむなしく、
スナイダーは飾り付け途中のモミの木を容赦なく蹴り倒した。
エンフィールド | うわあぁぁっ!!! |
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ジョージ | せっかく運んだのに……! 何すんだよ、スナイダー! |
ローレンツ | ああ……嘆かわしい。なんという野蛮な行為だ。 枝が何本も折れてしまった……。 これではオーナメントの必要数が仮説からズレてしまう! |
エンフィールド | ……ス、スナイダー……! 君ってやつは……! |
エンフィールド | どうして君は、いつも問題を起こしてばかりなんだ! 興味がないからって、師匠や〇〇さん、 周りの人たちに迷惑をかけたらいけないだろう! |
スナイダー | ……邪魔なデカい木を寮に持ち込むのも迷惑だ。 |
エンフィールド | 邪魔なデカい木じゃなくて、 クリスマスに欠かせないクリスマスツリーだっ! |
エンフィールド | それに……いいかい? スナイダー。 サンタさんがプレゼントをくれるのは、 良い子にしていた子だけなんだよ? |
エンフィールド | 僕がこんなに善良にしているのに……! 君のせいで僕までサンタさんから悪い子だと 思われたら、どうしてくれるんだよっ!! |
ライク・ツー | ……ん? あいつ、まさか……。 |
ローレンツ | ふむ。 あの真剣極まりない表情から導き出される仮説は1つ……。 Mr.エンフィールドは、サンタクロースの真実を知らないらしい。 |
スナイダー | 欲しいものがあれば自分の力で手に入れる。 施しなどいらん。 |
スナイダー | 話はそれだけか? 俺は戦いに行く。 |
エンフィールド | ……待つんだ、スナイダー! 話は終わっていないぞ。 今日という今日こそは、君を悔い改めさせる! |
エンフィールド | ……本当はこういう手段じゃなくて、 言って聞かせられたらよかったんだけど……。 君が反省しないんだから、仕方ないね。 |
エンフィールド | ……僕の秘密兵器を見せてあげるよ。 |
スナイダー | ……? |
エンフィールドは、ポケットの中から、
八角錐型をした紫色のクリスタルのようなものを取り出した。
エンフィールド | ……僕の秘密兵器を見せてあげるよ。 |
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エンフィールドが取り出した謎の物体を前に、
貴銃士たちも〇〇も沈黙した。
ジョージ | ……? なんだ、あれ? 銃弾にしては大きすぎるよなぁ。 |
---|---|
ライク・ツー | 鎖が付いてるし、あれでぶん殴るんじゃねぇの? |
シャルルヴィル | すごい音がしたから来てみたんだけど…… エンフィールドはペンデュラムを持って何してるの? |
ライク・ツー | ペンデュラム? |
ローレンツ | 振り子のことだ、Mr.ライク・ツー。 水脈や鉱脈を探すのにも使われる、 非常に歴史あるアイテムだよ。 |
カール | しかし、今はダウジングと無関係な場面じゃないか。 彼は一体何をするつもりなんだ? |
ローレンツ | Mr.スナイダーに対して使おうとしていること、 そして、ペンデュラムは「振り子」であることからして…… 催眠技法の振り子法を試そうとしているのではないでしょうか。 |
エンフィールド | ええ、その通りです、ローレンツさん! |
エンフィールド | これは先日、街で困っている様子の老齢のご婦人を助けた際に お礼の品として譲り受けた品なんです! |
エンフィールド | 古城の主だった一家に伝わる、とても歴史あるペンデュラムで、 言い伝えによると、ドワーフが加工したフローライトなのだとか。 このペンデュラムの導きで、宝くじに当たった人もいるそうです。 |
エンフィールド | これがあれば人生……いえ、銃生すらも激変! 億万長者になることも夢ではなく、 改造の恐怖とも無縁になれる、素晴らしい品なのですよ……! |
主人公 | 【(騙されてないかな……)】 【(う、胡散臭い……!)】 |
エンフィールド | さぁ、スナイダー! |
エンフィールド | いいかい? 君はこれから、僕が自慢の弟だと言えるような、 素晴らしい優等生になるんだ。 |
スナイダー | ……はぁ……。 |
エンフィールド | ちょっと、スナイダー! ちゃんと集中して、ペンデュラムを見るんだ。 |
エンフィールドは真剣な表情でペンデュラムを構えると、
スナイダーの顔の前でゆらゆらと揺らし始めた。
エンフィールド | サンタさんも君が良い子だと認め、 プレゼントをくれるような……。 えーっと……具体的には、そうだなぁ……。 |
---|---|
エンフィールド | あっ! 君は好き嫌いせずに、野菜を食べれるようになーる! |
スナイダー | …………。 |
ローレンツ | これは実に興味深い検証だ……。 どれほど効果があるのか……? |
十手 | やあ、ただいま戻ったよ。 クリスマスのごちそうに必要な食材を買い揃えてきたんだが…… この状況は一体……? |
エンフィールド | 十手さん、いいところに! 野菜を少しいただきますね! |
エンフィールド | さぁ、スナイダー! |
エンフィールドは、スナイダーの口へセロリを突っ込んだ。
エンフィールド | さぁ、どうだい? |
---|
エンフィールドが期待に満ちた視線を送る中、
スナイダーは顔をしかめ、セロリをペッと吐き捨てた。
エンフィールド | あーっ!!!! |
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スナイダー | 臭い。不味い。いきなり草を食わせるな。 ……不愉快だ。やっぱりおまえを改造してやろう。 |
ライク・ツー | 全っ然効いてねぇじゃねーか。 |
ローレンツ | 平素のMr.スナイダーよりも話す速度が15%ほど速く、 口数も多いことから立てられる仮説──。 彼は相当に機嫌を損ねている。フッ……証明完了。 |
カール | 相変わらず何も証明されていないが、 僕も同感だねー。 |
ベルガー | …………。 |
ローレンツ | どうしたんだ、モルモット1号。 セロリなんか見つめて。 |
床にポツンと落ちているセロリを見つめていたベルガーは、
ゆっくりとそれを拾う。
そして、何を思ったのか、突然セロリに齧りついた。
ベルガー | ……っ! ……んん……! |
---|---|
ローレンツ | なっ……!? 健康や栄養バランスとは無縁の、 味の濃いジャンクフードばかりを好んで食べるモルモット1号が、 自ら進んで、それも床に落ちたセロリを食べた、だと……!? |
ベルガー | なんだぁ、これ……! 弾けるような心地いい歯ごたえ…… 噛みしめるほどにじゅわっとジューシーさが溢れる……! |
ローレンツ | ヒィィッ! |
ローレンツ | ど、どうしてしまったんだ、Mr.ベルガー……!? 突然、語彙力や表現力が飛躍的に向上しているぞ……。 |
後方でちょっとした事件が起きていることに気づかず、
エンフィールドはスナイダーに良い子になる暗示をかけようと、
気を取り直して再びペンデュラムを揺らし始める。
エンフィールド | も、もう1回だ……! 催眠も万能ではないし、 スナイダーの野菜嫌いが筋金入りで失敗しただけかもしれない。 今度は別の内容で……。 |
---|---|
エンフィールド | 君は良い子になーる……。 良い子……えーっと、人に喧嘩を売らず、素直に謝る! それから、職業体験を真面目にやるようになーる……! |
スナイダー | …………。 |
エンフィールド | さぁ、今度こそどうだい!? |
スナイダー | いい加減気は済んだか? 下らんお遊びはもう十分だろう。 |
スナイダー | これ以上子供騙しに付き合ってやる暇はない。 遊び足りなければ、おまえ1人で石ころを振り回していろ。 |
カール | ……ふむ。 早速喧嘩を売っているねー。 |
エンフィールド | うう……そんなぁ……。 |
ジョージ | ま……まあまあ! 元気出せって、エンフィールド! |
がっくりと肩を落とすエンフィールドには目もくれず、
スナイダーは談話室から出て行こうとする。
が、ドアの前にはベルガーが立っているため、足を止めた。
スナイダー | ……おい、邪魔だ。 俺の進路を塞ぐな。 |
---|---|
ベルガー | …………。 |
どこか遠くを見てぼーっとしているベルガーは、
スナイダーの声に対し無反応だ。
スナイダー | ……チッ。 |
---|
スナイダーは鬱陶しそうに舌打ちをして、
ベルガーを雑に押し退けた。
シャルルヴィル | ……あっ! |
---|---|
主人公 | 【しまった……!】 【クリスマス前に乱闘になってしまう……!】 |
ベルガー | ……うわっ、ごめん! |
一同 | えっ!? |
スナイダーがベルガーを半ば突き飛ばすように押し退け、
乱闘が始まるのではと危惧した一同だったが……。
ベルガー | ……うわっ、ごめん! |
---|---|
一同 | えっ!? |
主人公 | 【……!?】 【ベルガー……?】 |
ベルガー | 悪ィ! 俺、邪魔だったよな! |
スナイダー | ……? ……そうだな。 |
ベルガー | おっと、こんな時間だ! こうしちゃいられねぇ! 職業体験に遅れちまう!! |
ベルガー | お、〇〇! 行ってきます! |
主人公 | 【いってらっしゃい……???】 【一体何が……!?】 |
ローレンツ | み……見たか!? モ、モルモット2号……! |
ローレンツ | モルモット1号の異常行動……! あまりにも以上な行動に彼は……衝動を抑えきれないっ! 徹底的に観察し、詳細な記録を残さねばならぬっ……! |
ローレンツ | 待てっ! 待つんだモルモット1号ーっ! |
シャルルヴィル | 行っちゃった……。 |
カール | はっはっは。これは予想外だ。 まさか、あの催眠術モドキが効く輩が貴銃士にいるとはねー。 |
エンフィールド | ええっ!? まさか、ペンデュラムの力と僕の催眠が、 スナイダーではなくベルガーさんに作用したということですか!? |
カール | ああ。どう考えてもあれのせいだろう。 君には案外、暗示の才能があるのかもしれんな。ははっ! |
カール | ……さて、〇〇。 君も、ローレンツとともにベルガーを追ってくれないか? どうせ碌なことにはならないだろうからね。 |
主人公 | 【了解!】 【行ってきます!】 |
ベルガー | こんにちはー!!! 士官学校から職業体験に来たベルガーです!!! |
---|---|
パン屋の店主 | おや? 士官学校はクリスマス休暇じゃないのかい? 大忙しの時期だから、人手が増えるとこっちは助かるが…… いやぁ、感心な生徒さんだ! |
パン屋の店主 | ……って、君は、この前市場で暴れていた子じゃないか? 駄目だ駄目だ! この忙しい時期に、 君の喧嘩やらカツアゲの尻拭いなんてしてられないよ! |
ベルガー | そこをなんとかお願いします! 俺、心を入れ替えて良い子になったんです! どうか、ここで働かせてください!! |
パン屋の店主 | そんなこと言っても、 どうせ盗み食いとかサボりとかするんじゃ……。 |
ベルガー | お願いします! ここで働きたいんです!!! お願いします!!! |
パン屋の店主 | うーん……。 確かに、この間見かけた君と今の君では大違いみたいだ。 クリスマス前でパートの子もいないし……。 |
パン屋の店主 | それじゃ、お願いするかね! |
ベルガー | ……! ありがとうございます!!! |
パン屋の店主 | さあ、そうと決まれば、 クリスマスマーケットの売り子をやってもらうよ! クリスマスにぴったりなサンタさんパンを売り込んでくれ。 |
ベルガー | はい! |
パン屋の店主 | それから、買ってくれたお客さんと、 サンタクロースの格好で記念撮影をするんだよ。 笑顔で、愛想よく、子供に優しく!できるかい? |
ベルガー | はいっ、頑張ります! |
パン屋の店主 | 元気でいいねぇ! うん、気に入った! サンタクロースの衣装は奥にあるから着替えておいで。 |
ベルガー | おーっし、着替え完了! 一生懸命頑張るぜ~!! |
---|
──その頃。
ベルガーとローレンツを探していた〇〇は、
クリスマスマーケットの一角で、ローレンツの姿を発見した。
ローレンツ | おや、モルモット2号。 君も、モルモット1号の観察に来たのか? |
---|---|
主人公 | 【カールに頼まれて来た】 【カールが「碌なことにならないだろう」と】 |
ローレンツ | なんと、カール様のご命令で……! だが、今のところ特に問題はないようだぞ。 ほら、あれを見てみろ。 |
ローレンツが指さした先には、サンタクロースの衣装で
熱心に呼び込みをするベルガーの姿があった。
ベルガー | ハッピーホリデーズ! ホッホッホー! 美味しい美味しいサンタさんパンはいかがですかー? |
---|---|
ローレンツ | しばらく観察していたが、店主の言うことをよく聞き、 見ての通り真面目に職業体験に取り組んでいる。 幼齢の人間たちにも人気のようだ。 |
ベルガーは、取り囲む子供たちへにこやかに手を振り、
パンを買ったお客さんとの記念撮影にも笑顔で応じている。
主人公 | 【文句なしの働きぶりだ】 【今止めたらお店の人も困るかも】 |
---|---|
ローレンツ | ああ、そうだろう。 よって俺は、このまま観察を続けることを提案する。 |
ローレンツ | ふ……ふふ……ははは……! モルモット1号の催眠耐性の低さと、暗示の持続時間について。 このレポートは、有意義なものになるに違いない! |
ベルガー | ホッホッホ~! 美味しいサンタさんパンだよ! |
---|---|
子供1 | わーい、サンタさんだ! プレゼントちょうだーい! |
ベルガー | プレゼントはクリスマスの夜のお楽しみだぞ~! みんな、良い子にして待っててくれな! |
子供たち | はーい! |
ローレンツ | ほう……。 催眠状態のモルモット1号には、意外な特技があるようだな。 |
ローレンツ | 普段は、彼自身が子供と同等もしくはそれ以下の知能と理性だが、 今はMr.エンフィールドが考える「優等生」の定義の影響と、 彼の子供っぽさが功を奏したのか、実に卒のない振る舞いだ。 |
子供2 | サンタさーん! 抱っこして! ツリーを見たいの~! |
ベルガー | いいぜ~! ホッホッホー! |
買い物客1 | 派手で怖そうなサンタクロースだと思ったけれど…… ふふっ、優しくていいサンタさんね。 |
子供1 | ねー、サンタさん! 次は僕の番だよ! |
子供3 | その次はわたしー! |
ベルガーサンタが子供やその保護者たちに囲まれる、
微笑ましい空気の一帯。
しかし、そこへ近づく不穏な影があった。
悪ガキ1 | おい、お前ら見ろよ! 変なサンタがいるぜ。 |
---|---|
悪ガキ2 | おっ、ほんとだ。 なんだその格好! だっせぇ~! |
ベルガー | やぁ、こんにちは! |
子供1 | うわ……あいつら、この間ロブに石を投げてきたやつだよ。 その前はお店の窓ガラスを割ったって聞いた……! |
買い物客1 | 関わり合いになりたくないわね……。 買い物は済んだし、他のお店に寄ってから帰りましょう。 |
子供1 | うん……。バイバイ、サンタさん。 |
買い物客2 | ほら、俺たちも帰ろう。 |
子供2 | はーい……。 |
ベルガー | よいクリスマスを! |
親子連れと入れ替わるようにして、
薄笑いを浮かべた数人の少年たちが、ベルガーを囲んだ。
悪ガキ1 | おい、変なサンタクロース! 遊ぼうぜ! |
---|---|
悪ガキ2 | 雪合戦だ! おらーっ!! |
ベルガー | うおっ!!? |
少年が投げた雪玉のうち1つが、ベルガーに命中した。
激怒したベルガーが少年たちを殴らないよう、
〇〇は慌てて出て行こうとする。
ローレンツ | 待ちたまえ、モルモット2号。 談話室でのMr.スナイダーとの一件で証明済みのように、 今のモルモット1号は非常に寛大な状態となっている。 |
---|---|
ローレンツ | 真面目に職業体験を続けていることからしても、 Mr.エンフィールドに施された暗示が解けている様子はない。 つまり、あの不埒な少年たちは安全だ。 |
ベルガー | あははっ、元気いっぱいだな! |
ローレンツ | フッ……証明完了。 やはり、俺の仮説は正しかった。 |
ベルガー | 君たち、良い子にしているか? 良い子じゃないと、サンタさんからプレゼントもらえないぞー? |
悪ガキ3 | サンタクロースは忙しいから、 別に悪いことしてても気づかねーもんな! |
悪ガキ1 | っていうかよ、お前はニセモノサンタだろ! 白いひげのジジイじゃねーし! |
悪ガキ2 | そーだそーだ! |
悪ガキたち | にーせーものっ! にーせーものっ! |
悪ガキ3 | 偽物のサンタは、こうしてやる! |
ベルガー | のわぁっ!! |
少年たちが、次々とベルガーへ雪玉を投げつける。
その勢いは明らかに遊びの域を超えるものだった。
ベルガー | ………………。 |
---|---|
ローレンツ | ……あっ……!? |
ベルガー | こらーっ! 悪い子たちにはこうだぞっ! |
ローレンツ | ……! 今、一瞬危うかった気がしたが、乗り越えた……! |
ローレンツ | 暗示の効果は凄まじいな……。 本来のモルモット1号であれば、既に10回は激怒し、 手元に銃があれば乱射すらしていたことだろう。 |
ローレンツ | もしくは、何度も激怒するまでもなく、 早々に脱走してクリスマスマーケットの商品を 食い荒らしていたに違いない。 |
ローレンツ | しかし、実際はどうだ!? 明らかに手加減をし、少年たちの雪合戦に応じている……! |
ローレンツ | あああ……! 目の前で貴重な実験が……! これは今後の一大研究テーマになる……! |
ローレンツは目を輝かせ、
メモ帳にすらすらとペンを走らせる。
悪ガキ1 | こいつ全然怒らないぜ! なぁお前ら、このパン食ってやろーぜ! |
---|---|
悪ガキ2 | おう! 店の飾りも壊してやる! パンチーっ!! |
主人公 | 【あの子たちを止めるべきだ】 【ちゃんと叱らないとだめだ】 |
ベルガーが怒らないのをいいことに
好き放題する少年たちを見かねて、
〇〇は注意しに行こうとする。
しかし──。
ローレンツ | ま、待ってくれ、モルモット2号! もう少し……あと少しだけデータを取りたい! 彼はどこまで行ってしまうのか……!? |
---|---|
ローレンツ | ──青年は、寒空の下、陶酔した。 これまで幾度となく実験と観察を繰り返してきた対象が、 今新たに、未知の姿を見せている奇跡に……! |
主人公 | 【(ローレンツは頼れない)】 【(観察のことしか頭になさそうだ)】 |
ローレンツ | ああ、これは神の導きなのか……!? 聖夜を前にし、粉骨砕身仮説の証明に励んできた青年への 尊き贈り物なのか……!? |
パン屋の店主 | コラ! お前ら、仕事の邪魔するんじゃないっ! とっとと行っちまえ! ほら! |
---|---|
悪ガキ1 | やべっ! |
ローレンツが興奮してペンを走らせている間に、
悪ガキたちはパン屋の店主に叱られ、一目散に逃げていく。
パン屋の店主 | 大丈夫だったかい? |
---|---|
ベルガー | はい! |
パン屋の店主 | それならよかったよ。 ……ったく、あの悪ガキどもめ。家で大人しくしてろって。 |
パン屋の店主 | あ、そうそう。 今回は頑張ってくれてるから、賄いのパンだよ。 終わったらまたあげるから、たくさん持って帰りな。 |
ベルガー | うおおっ! ありがとうございます! |
ローレンツ | ほうほうほう……。 奪うことや与えられることを当然と思わず。 きちんと感謝を伝える……実に興味深い変化だ! |
主人公 | 【店主さんがいい人でよかった】 【観察はいい加減やめにしたらどうだろう】 |
??? | ……〇〇とローレンツ? こんなとこでコソコソ何してるのさ。 |
背後から声を掛けられて〇〇たちが振り返ると、
カトラリーとミカエルがいた。
ミカエルはなぜか、風船を10個ほど持っている。
主人公 | 【カトラリー、どうしてここに?】 →カトラリー「な……何、そのだらしのない顔。 僕に会えたのがそんなに嬉しいわけ?」 【ミカエル、こっちに来てたんだ】 →ミカエル「やあ、〇〇。 クリスマスはイギリスで過ごしてみようと思ってね。」 |
---|---|
カトラリー | それで? 2人はここで何してるの。 |
ローレンツ | 見ての通りだとも、Mr.カトラリー。 モルモット1号の観察だ。 |
カトラリー | はぁ……よく飽きないね。 それより、ファルを見なかった? |
ローレンツ | Mr.ファル? 俺たちは見ていないと思うが…… モルモット1号の観察に集中するあまり、 見逃した可能性も否定できない。 |
ミカエル | そう……。 |
主人公 | 【2人はファルを探していた?】 【ファルがどうかした?】 |
カトラリー | それがさ、寮で会った時、なんか様子が変だったんだよね。 ちょっと上の空で、こっそり出かけようとしてて。 |
カトラリー | それで、寮から尾行してきたんだ。 でも、つけてることに気づかれちゃったのかも。 途中で見失って……。 |
ミカエル | ところできみたち、これはいる? |
ローレンツ | ……先ほどから気になっていたのだが、 Mr.ミカエルはなぜ大量の風船を持っているのだ? |
ミカエル | さぁ……。よくわからないけれど、 白雪と極彩色のコントラストで、いい旋律を思いついてね。 そのことを話しているうちに渡された気がするよ。 |
カトラリー | マーケットの入口で風船を配ってたおじさんが、 「この風船たちはあなたを飾るためにあるのです!」 とか言って、いっぱい渡してきたんだ。 |
カトラリー | ま、当然だよね。 ミカエルは天使だもん。 |
ミカエル | そう、当然なんだね。 |
ミカエル | ……おや? あれはなんだろう。 |
カトラリー | ミカエル……? |
ミカエルは何かに視線を奪われているのか、
ふわふわとした足取りでパン屋の方へ歩いていく。
ベルガー | ホッホッホー! 美味しいサンタさんパンだよ~! |
---|---|
ミカエル | ねぇ、きみ。 |
ベルガー | 俺のことかな? |
ミカエル | そう、きみ。 ちょっと台におなりよ。 |
ベルガー | ……だい? |
ミカエル | うん、台だよ。 あの看板に描いてある青い鳥が気になるのだけれど、 ここからではよく見えない。台がいるんだ。 |
ミカエル | ほら、四つん這いになって。 |
ベルガー | よつんばい……。 |
カトラリー | ちょ、嘘でしょ、ミカエル……! あいつにそんなこと言ったら、酷いことされるに決まって── |
ベルガー | ………………。 |
ローレンツ | いや。止めるには早いぞ、Mr.カトラリー。 今、モルモット1号には暗示がかかっている。 |
ローレンツ | 地べたに這いつくばり土台になるなどという屈辱…… 普段の彼であればどんなにコークを積まれようとしないだろうが、 果たして今はどうなのか!? |
ローレンツ | 俺は、その答えをこの目でしかと見て、 観察ノートに書きつけなくてはならない……! |
ベルガー | ……おう、わかった! これでどうだ? |
ローレンツ | おおおっ……! |
ベルガーは躊躇うことなく、手と膝をついて台の形になった。
ミカエル | ……っと。 うん、高さはちょうどよさそうだ。 |
---|---|
カトラリー | ミカエル……すごい。 ほんとに台にしてる……。 |
人を台にすることになんの疑問も持っておらず、
パン屋の看板に描かれた青い鳥に夢中のミカエル。
道行く人たちは、異様な光景を遠巻きに見ている。
ミカエル | ん……きみ、もう少し右に動いておくれよ。 それから、背中をフラットに。 今のきみは、お尻の方がメゾフォルテになっているからね。 |
---|
ベルガーがミカエルの要望に応えようと、
頑張って右にずれようとした時だった。
ベルガーの目の前を、白いネズミが駆け抜けてゆく。
ベルガー | ──あっ、アルパチーノ。 |
---|---|
ベルガー | (……アルパチーノ……?) |
ベルガー | (んぁ……? アルパチーノ、って……。 俺、なんで──) |
その時、ベルガーが突然立ち上がった。
背中に乗っていたミカエルは、
足元が揺らいだことでバランスを崩し──
ミカエル | あっ……。 |
---|
ミカエルが落ちた拍子に手から風船が離れ、
風に流されて近くのクリスマスツリーへと飛んでいく。
そして、モミの木の尖った葉にぶつかり──
──パン! パパパン!
大きな音を立てて、一斉に割れてしまった。
ベルガー | ……ハッ! |
---|---|
主人公 | 【ベルガー、ミカエル!】 【大丈夫!?】 |
ベルガー | うがああああっ!! |
素早く立ち上がったベルガーは、手近な木にしがみつくと、
叫びながらゆさゆさと揺さぶり始める。
ベルガー | ああああ゛~! めっちゃイライラするぜ!! つーか背中痛ぇ! なんだよクソが!!! |
---|---|
ベルガー | なんだこの……止まらねぇムカつき!!! うごぉぉぁああ!!! |
ミカエル | どうしたんだい、彼氏は。 ひどく醜い旋律で、聞くに堪えないよ。 |
ローレンツ | ……っ! こ、これはまずいな……。 俺の仮説が正しければ、とんでもないことになった……! |
ベルガー | おらぁぁぁああっ!! |
---|
雄たけびを上げたベルガーが走り出し、
道行く人々が持っている食べ物などをすれ違いざまに奪いながら、
クリスマスマーケットを暴走する。
〇〇とローレンツは、
そのあとを必死で追いかけた。
主人公 | 【カールが言った通りだ!】 【やっぱり碌なことにならなかった!】 |
---|---|
ローレンツ | はっ! そういえば……モルモット2号はカール様から、 モルモット1号を俺とともに監督するよう言われたと……。 |
ローレンツ | うう……っ、なんということだ……。 この俺が、カール様のご命令を遂行することを忘れ、 観察に耽っていたなんて……! |
ベルガー | オラオラオラァ~! ぜーんぶ俺によこせぇ!!! |
通行人1 | おいっ! 何すんだ! 俺の晩飯を返せ!! |
通行人2 | 待て! それは客に出すコークで……! |
ベルガー | っぷは、うめぇ~~っ! けど、まだムシャクシャがおさまんねぇ……!! |
ベルガー | うおおぉ~~っ!! |
ローレンツ | くっ……今回ばかりは外れていてほしかったが、 俺の仮説がどうやら正しかったようだ……。 |
主人公 | 【どういうこと!?】 【何が起きてる!?】 |
ローレンツ | ……モルモット1号は、強力な暗示にかかったことで、 通常の彼からすると絶対に許容できないような行動を 数え切れないほど取っていた。 |
ローレンツ | だが、彼自身の意識がほとんど無意識領域にあろうとも、 まったくの無影響で済むわけではない。 |
ローレンツ | 催眠状況下で感じた怒り、苛立ち。 そういった負の感情を抑圧したことによる、忍耐力の酷使。 すべてのフラストレーションが今、連鎖爆発を起こしているのだ。 |
主人公 | 【連鎖爆発!?】 【大変なことはわかった!】 |
ベルガー | うおおぉおぉ~~っ!! |
マーケットをめちゃくちゃに荒らしながら走っていたベルガーが、
広場の中央にあるクリスマスツリーへ向かっていく。
ベルガー | オラオラオラオラ~ッ!! |
---|
そして、走った勢いのまま木の幹にしがみつき、
どんどん上へと登っていく。
ベルガー | うがぁぁぁ! ムッカつくなてめぇ! たかが星のくせにテッペンとってんじゃねぇぞ! てっぺんはなあ……この俺だァ~~!! |
---|---|
ベルガー | うおおぉ~~、とったぞぉ~~~~!! |
ツリーのてっぺんで吠えるベルガーと、呆然とする人々。
そんな混乱の中、ローレンツが静かに銃を構えた。
ローレンツ | 大事なモルモットであるMr.ベルガーをこの手で銃へと戻すのは、 俺にとっても非常につらいことだが…… この痛みは、俺自身への戒めだ。 |
---|---|
ローレンツ | 俺が観察に夢中になって監督責任を放棄したばかりに、 カール様の危惧を現実のものとしてしまったのだから…… 俺が責任を取る。 |
ローレンツ | モルモット1号──R.I.P. 今、ひとときの眠りを。 |
ベルガー | んぁ? バ~~~カ!! テメェーのヘボ弾で俺に当てられるもんなら当ててみろ! |
ローレンツ | なっ……! |
ツリーから屋根へと飛び移ったベルガーは、
素早くジグザグに、遮蔽物へこまめに身を隠しながら走る。
その後ろ姿は、あっという間に夜闇の中へ消えていった。
ローレンツ | くっ……見失った! 〇〇、これ以上被害が広がらないように、 急いで追跡し、彼の動きを止めるぞ! |
---|---|
主人公 | 【了解!】 【行こう!】 |
シャルルヴィル | 事件はあったけど、談話室の飾りつけも無事終わってよかった~! スフィーと一緒にクリスマスマーケットに来られて嬉しいよ。 |
---|---|
シャルルヴィル | ……あっ、そうだ! クリスマスパーティーの時に、プレゼント交換しない? |
スプリングフィールド | シャルル兄さんと、プレゼント交換……! 僕、やってみたいです。 喜んでもらえるようなものを選べるかは、心配ですけど……。 |
シャルルヴィル | 大丈夫だって。 スフィーがボクのとを考えて選んでくれたら、 なんだって嬉し── |
ベルガー | あひゃひゃひゃっ!! どけどけー! ベルガー様のお通りだぁあ~~~! |
スプリングフィールド | わぁっ! |
突然走ってきたベルガーにぶつかられ、
スプリングフィールドは噴水へと落ちてしまった。
シャルルヴィル | うわぁあ!! スフィー!! な、なにするんだ── |
---|---|
ベルガー | あひゃひゃひゃっ! おめーも行けっ!! |
シャルルヴィル | ぎゃあああ!!! |
八九 | ……チッ、どこもかしこも家族連れと こ……いびとだらけで居心地悪すぎんだろ。 寮でもリア銃どもが浮かれてやがるしよ……クソ。 |
---|---|
八九 | 別に俺、クリスチャンじゃねーし。 知らねぇやつの誕生日とかどーでもいいし。 |
八九 | ホールケーキの独り占め食いはいっぺんやってみたかったから、 ピアノのレコード流してのんびりケーキ食う、 おしゃんティッククリぼっち満喫してやるぜ……! |
ベルガー | うぉーい、89! 何持ってんだよ? |
八九 | うおっ、ベルガー!? お前、なんだその浮かれポンチ極めた格好は……。 |
ベルガー | んぉお!? 箱ん中からうまそーな匂いするじゃーん! いただきっとぉ~!! |
八九 | てめっ……何しやがる! それは俺が崇高な1人イヴを楽しむために買ったやつで── |
ベルガー | ……え、1人? お前、トモダチいねーの? |
八九 | ……うぐっ! お前……こういう時だけスゲー真っ直ぐな目で 聞いてくんじゃねぇよ……。 |
ベルガー | ぶひゃっ、あっひゃっひゃ! マジじゃねーかよ、ウケる~~~! |
ベルガー | ま、元気だせよ、ドーテーくん♥ ケーキは俺が一緒に食ってやるからよぉ! |
ベルガー | んん、むぐ……んっめぇ~~~! |
八九 | 一緒にっつーかてめぇ1人で食ってんじゃねぇかよ!! 俺のケーキ返せ!!! |
ベルガー | ざぁんねんでした~! もう俺の腹の中でぇーーす!!! |
八九 | て、てめぇ……! ミートパイにすんぞ、このクソウサギ!!! |
八九 | うぅ……俺のケーキ……。 あ、チョコプレートだけ残って──って紙じゃねぇかよ! |
ベルガーが暴走する中……
ミカエルとカトラリーはファル探しに戻り、
クリスマスマーケットの中を歩いていた。
カトラリー | はぁ……ひっどい有様。 これじゃあクリスマスが台無しだよ。 |
---|---|
ミカエル | 風に乗って、嘆きの声が聞こえてくるね。 ん……レクイエムを奏でるにはいい夜だ。 |
??? | ……おや? |
カトラリー | あっ、ファル! どこ行ってたのさ。探してたんだからね! |
ファル | …………。 |
ミカエル | ……ファル、どうしたんだい? |
カトラリー | あのさ……なんか様子が変だったけど、 何か危ないこととかしようとしてる……なんてこと、ないよね? |
ファル | ……やれやれ。 私としたことが、少しばかり油断していたようですね。 勘付かれてしまうなんて。 |
ファル | 怪しまれた上、ここで姿を見られたとあっては…… やむを得ません。 |
ファル | ちょっ……ファル、何するつもり? まさか、僕たちのこと── |
ファル | ふふ……はは……あはははは! ええ、そうですよ。 お2人を──秘密の場所へとご案内しましょう。 |
ミカエルとカトラリーを連れ、
ファルは重厚な造りの建物の地下へと進んでいった。
カトラリー | ……あ、あのさ、ファル。 僕たちに何する気? この先に何があるの? |
---|---|
ファル | チーズと赤ワインです。 |
カトラリー | へっ? |
ミカエル | ふぅん。ファルの好物だね。 |
ファル | ええ。それも、選りすぐりのものですよ。 |
カトラリー | え……えええっ? 何かヤバいものとかじゃなくて……? |
ファル | ふふ、“ヤバい”かと言われれば、そうかもしれませんね。 一口味わえばたちまち虜になるような、 危険なほどに美味な逸品たちですから。……ははははは! |
カトラリー | ど、どういうこと……? |
ファル | ──取引は成立です。 今の私は気分がいい。望みの額を支払いますよ。 |
---|---|
商売人 | へへへっ、さすが、話のわかる旦那だ。 旦那との取引は、こちらにも旨みがある。 ここは……このくらいでいかがですかい? |
ファル | いいでしょう。 ……また頼みますよ。 |
商売人 | へぇ! もちろんでさぁ! 旦那の好みに合いそうな品々をたんまり用意しておきます! |
ファル | ふふ……ここまで本当に長い道のりでしたが、 休暇中存分に楽しめるだけの品数で、 品質的にも申し分ないものがこれだけ揃うようになるとは。 |
商売人 | まったく、感慨深いもんだ。 7年前までは──世界帝軍の特別幹部って言ったかねぇ。 |
商売人 | チーズとワインを好んで金に糸目を付けねぇお方がいたってんで、 世界各地の産地はそりゃあもう栄えたもんだった。 |
商売人 | 俺だって世界帝府が倒れたのは嬉しいが、 戦後の混乱の中で、帝府との取引のあった店やらも、 解体対象になっちまったのは痛かったな……。 |
ファル | ええ……。 まったく、惜しいことです。 |
ファル | せっかく発展した技術が途絶えたり、 設備が失われたりしたために、 チーズとワインの水準が落ちてしまうなど……。 |
商売人 | もう駄目かと思ったもんだが、「職人たちの支援は惜しまない。 良いワインやチーズを作ることに集中してほしい」っていう、 旦那みてぇな最高のパトロンが現れるとはなぁ! |
ファル | ふふ、ははは……。 私は至福の時のために種をまき、水をやっただけのことです。 |
ファル | ──というわけでして。 情報収集を重ね、支援も行い、今日この日を迎えました。 |
---|---|
ファル | ふふ……ああ、楽しみですね。 柄にもなく少し浮かれて、仕入れすぎてしまったものですから、 ミカエルさんとカトラリーさんもご一緒にどうぞ。 |
カトラリー | う、うん……! |
ファル | ……さぁ、心の準備はよろしいですか? いざ参りましょう、私が心血を注ぎ用意した、 クリスマススペシャルアソートコレクションの世界へ! |
ベルガー | んん、もぐ……。 おおっ、お前らも食いに来たのかぁ? |
---|---|
ファル | …………。 |
ファル | ……? あ、あなた……ここで一体何を……。 |
ベルガー | 何って、なーんかいい匂いしてたからよぉ。 ここにあったチーズとかクラッカー食ってたんだよ! いやー、悪くねぇけど物足りね。肉食いてぇわ~。 |
ファルが入手した極上のチーズコレクションは、
無惨にも食い荒らされてほとんど残っていない。
ワインをラッパ飲みするベルガーを見て、ファルはよろめいた。
ファル | ……っ!!!!! |
---|---|
ベルガー | んぁ……? どうしたんだよ、ファル。 俺はもういらねーから、残りはお前にやるぜぇ。 ぎゃっはっはっっは!! あーばよー!!! |
ファル | ………………。 |
カトラリー | ファル……うわ、真っ青だ……! えっと、その……。 元気だして、って言っても、無理かもしれないけど……。 |
ミカエル | ああ……深淵から湧き上がる悲嘆と、 天を貫くような紅蓮の憤怒のハーモニーが聞こえてくる。 |
カトラリー | それって、つまり……? |
ファル | ────す。 |
カトラリー | スゥ? |
ファル | ──ブチ殺す。 |
ファル | あの駄獣をこの手で必ず捕らえ…… 一思いに抹殺してほしいと、地べたに這いつくばり 泥を舐め懇願するほどの地獄の苦しみを味わわせてやる……! |
──フィルクレヴァート士官学校、ザクロ寮。
貴銃士たちと〇〇、恭遠、ラッセルが集結し、
ベルガー捕獲大作戦本部が設置されていた。
カール | ローレンツ、報告を。 |
---|---|
ローレンツ | はっ、カール様。 モルモット1号はクリスマスまマーケットを荒らしたのち、 追っ手をまいて、現在は行方不明となっています。 |
ローレンツ | 満腹になったために、どこかで一休みしているのかと。 |
ライク・ツー | ……おい! 奴が現れた! 市街地北西部の繁華街で目撃情報多数だ! |
恭遠 | このままではさらに被害が広がってしまうな……。 一刻も早くベルガーを捕らえ、士官学校に連れ戻さねば。 |
エンフィールド | ああ、僕がスナイダーをいい子にしようとしたばかりに……。 皆さんだけでなく、多くの街の人にもご迷惑仕掛けてしまい、 なんとお詫びすればいいのか……。 |
ローレンツ | いや、Mr,エンフィールド。最初は単なる事故だったのだ。 それを、俺が……カール様が懸念されていたにもかかわらず、 観察欲に負けてしまったせいで……! |
カール | 今はまだ、後悔に浸る時間はないぞ。 最優先とすべきは、奴の捕獲だ。 |
カール | さぁ、平和なクリスマスを取り戻すぞ。 ……作戦開始だ! |
主人公 | 【おーっ!】 【絶対に捕まえよう!】 |
エンフィールド | 目撃情報はこの辺りのはずです! |
---|---|
カール | む……!? 今の物音は向こうからか。 |
ローレンツ | ええ。まずは俺が行きます! |
べるがー | あひゃ! あーひゃっひゃ! ここ、いい部屋だな! 俺が住んでやるよ! |
店主 | ああ……なんてことだ……。うちのショーウィンドーが……。 サンタクロースの部屋をイメージして、 せっかく綺麗にディスプレイしたのにぃ……! |
ベルガー | もぐ、んぐ……うっめぇなこの肉! もっとたくさんパクッて来ればよかったな。 チッ、ミスったわ~。 |
ライク・ツー | ……うーわ、何やってんだあいつ。 |
主人公 | 【ベルガー、ステイ!!!】 【もう終わりにするんだ!!!】 |
ベルガー | おお? 〇〇じゃねーかよ! オメーもパーティーしに来たのか? |
ベルガー | いいぜぇ、俺、もう食べるの飽きたし。 かっぱらってきたケーキ食うか? あひゃっひゃっひゃっひゃ! |
ローレンツ | ああ……なんと嘆かわしい知性の欠如だ……。 皆、所定のポジションについてくれ。 |
ライク・ツー | へいへい。さっさと終わらせんぞ。 |
シャルルヴィル | スフィーをずぶ濡れにして風邪を引かせた分…… しっかり反省してもらうからね! |
ローレンツ | カール様、スタンバイ完了しました。 |
カール | よろしい。では……かかれ!! |
カールの号令で、ベルガーを囲んだ貴銃士たちが飛び掛かる。
しかし──。
ベルガー | 捕まるかよ~~! これでも喰らえっ!! |
---|---|
ライク・ツー | うおっ! |
ベルガーが投げつけてきた瓶を、
ライク・ツーがとっさに撃ち落とす。
その途端、中身の胡椒が空気中に飛び散った。
ライク・ツー | いってぇ……目がっ!!! っくしゅ、クソ、へっくしゅ! あ、鼻血……。 |
---|---|
ベルガー | ぶひゃっひゃ! 鼻血出してやんのぉ~、ダッセェ! ぷくくく……! |
ローレンツ | ふっ……この勝負、もらった……! |
ベルガー | もらわれるかよヴァーーーーカ!!! てめぇはこれ食ってろ! |
ローレンツ | む……っ!? なんだ、前が見えない……! どうなっている!? |
エンフィールド | ローレンツさん……! 眼鏡がクリームで覆われています! |
カール | やれやれ……。 どうやら、僕が始末するしかなさそうだねー。 |
ベルガー | うぉっ! っぶねぇ、何すんだよ! |
カールの銃撃をすんでのところで躱したベルガーは、
手に持っていたチョコレート詰め合わせの箱を投げ抵抗する。
宙を舞ったチョコレートがスポポンとカールの口に入った。
カール | む……これはなかなか上質なチョレートだ。 中からじゅわっと出てくるこれは……ウイスキーか。 |
---|---|
カール | 芳醇なハーモニーが、実に……。 ふにゃ…………。 |
シャルルヴィル | ええっ!? カールさん!? ……って、酔っ払ってる……!? |
主人公 | 【作戦総指揮官が!】 【ここは一時撤退を……!?】 |
エンフィールド | ……〇〇さん。僕にチャンスをください。 僕の催眠のせいですから……ペンデュラムを使って、 もう一度ベルガーさんに催眠術をかけてみせます! |
ベルガー | お? それ、俺がもらってやんよ! 金に変えてぇ、コークとポテチに変わる! あひゃひゃ! 俺ってば天才!? |
エンフィールド | さぁ、ベルガーさん。よく見てください。 あなたはまっさらになり…… 素直に言うことを聞ける、いい子になるのです。 |
エンフィールド | あなたはまっさらに……悪い子の記憶はなくして、 言われたことを素直に聞くようになーる……。 |
ベルガー | んん? なーんか歯が勝手わりぃな。 ポテチの欠片詰まってんのか? |
ベルガーはエンフィールドの催眠を無視し、
ディスプレイの中にあった両面鏡を手に取る。
揺れるペンデュラムは、鏡に映り──
エンフィールド | まっさらに……言うことを聞く……。 |
---|---|
エンフィールド | ……おや? ここは……? 僕は誰……? 何をしていたんだろう……? |
スナイダー | ……ほう? まっさらになり、素直に言うことを聞く……だったか。 |
スプリングフィールド | た、大変だ……! エンフィールドさん、逃げてください……! |
ベルガー | あひゃひゃひゃ! 俺強くね? マジ最強~! さっすがてっぺん取った銃だわ。 んじゃ、あーばよっ!! |
主人公 | 【待て、ベルガー!】 【こらーーっ!!!】 |
〇〇の声が虚しく響く中、
ベルガーの姿は再び消えてしまった。
街の中央にある時計台から、
ベルガーは混乱する街を見下ろしていた。
ベルガー | ぷくくく……あいつら、俺のこと必死で探してやんの! お、89見ーっけ。あいつが走ってんのマジウケる。 ドーテーくぅーん、ファイトー! |
---|---|
ベルガー | はぁ~あ、走って疲れたし、もう1個アイス食うか! |
ベルガー | ……ん、うっめぇ~! 運動のあとのアイスはやっぱサイコーだな! |
??? | 他に、言い遺すことはあるか? |
ベルガー | うおっ!? てめっ……ローレンツ!? |
ローレンツ | ふっ……またしても俺の理論が証明されてしまったな。 君がここに来ることはわかっていた。 馬鹿と煙は高いところへ上るという統計からな! |
※そういった統計は存在しません。
ベルガー | へぇ……ガリ勉メガネのくせにやるじゃねぇか。 でもよぉ、俺もわかってたぜ。 |
---|---|
ベルガー | てめぇとは……決着つけねぇといけないってな! オラ、来いよ! |
ローレンツ | 望むところだ。 一騎打ちといこうじゃないか、モルモット1号!! |
大きく一歩を踏み出したローレンツの足元で、
カサッと微かにビニールが擦れる音がした。
音の出所は──アイスの空袋だ。
ローレンツ | うわぁあああ……っ! |
---|
足を滑らせたローレンツは、屋根を滑り落ちていった。
ベルガー | ……あ、いっけね☆ さっき食ったアイスの袋、そのへんのポイしといたんだった。 |
---|
※いい子のみんなは、ゴミのポイ捨てはやめましょう。
ゴミは分別して、きちんとゴミ箱へ!
ベルガー | あ、れ……? なんだ……? 身体が……う、うごか、ねぇ……ぞ……? |
---|---|
??? | ……ようやく効いてきたようですね。 |
ベルガー | だ、誰……だ……? |
ファル | 誰だ、なんて……ふふっ。 忘れたとは言わせませんよ。 あのような行いをしておいて。 |
ベルガー | ファル……てめ、何、を……。 |
ファル | ああ……あなたが先ほど豚のように貪り喰らっていたアイス。 あれに、薬を仕込んでおいたんですよ。 強力な痺れ薬を……ね。 |
ファル | さぁ……お仕置きの時間です。 |
ファルは、ベルガーを担ぎ上げると、
屋根の上から落とした。
ベルガー | おわぁぁあああぁ!!!? |
---|
大時計の針に引っ掛かったベルガーを、
ファルが凍りつくように冷たい目で見下ろす。
ファル | ふふ……はははっ! 無様でいい眺めですねぇ。 |
---|---|
ファル | しかし、私が味わった苦痛、怒り、憎しみ…… それらをあなたに理解させるには、まだまだ足りません。 |
ベルガー | おれ、は……な、にも、し、て……ねぇ……っ! |
ファル | 黙れ。 ……余計なことしかしないその口、舌も歯も取ってやろう。 |
ベルガー | う、ひぃっ! |
ファル | あの時……私は誓ったんですよ。 あなたに必ず、死を懇願したくなるほどの苦しみを味わわせると。 |
ベルガー | く、そ……。 やられ……て、たま、る……か、よ……。 心── |
ファル | おや……絶対非道なら、動けずとも放てると? ふふふ……みっともなく足掻く無様さは嫌いではありませんよ。 頑張りだけは認めてさしあげましょう。 |
ファル | 次は私の番です。 |
ファル | ──『これはいかがでしょう?』!! |
ベルガー | うぎゃああああ……っ!! |
ファル | 何を気絶しているんです? ……私の苦しみはこんなものではありません。 あなたにも、もっとたっぷり味わってもらいませんと。 |
ベルガー | うぎゃっ!? |
ファルはベルガーの身体を再び担ぎ上げると、
用意していた袋に詰め込んだ。
ベルガー | ぶほっ……!! |
---|---|
ファル | クリスマスはこれから……たっぷり楽しむとしましょう。 いいですね、ベルガーさん? |
ベルガーを入れた袋を背負い、
ファルは夜の闇の中へと消えていった──。
──クリスマス当日。
マークス | ……結局あれから、ベルガーを見た奴はゼロか。 ま、俺とマスターのクリスマスにはなんの関係もないから、 どうでもいいんだが。 |
---|---|
ライク・ツー | 戻ったらローレンツに実験されると思って、 どっかに隠れてるんじゃねーの? そのうち出てくるだろ、どうせ。 |
ファル | ……いずれにせよ、 もう新たな被害の心配はないということです。 確実に、ね。 |
ライク・ツー | ……? お前、何か知ってんのか? |
ファル | さて……なんのことでしょう。 私は試食会をするので、これで。 |
ジョージ | I’m home~! 街で聞き込みしてきたぜ! |
十手 | やっぱりベルガーくんの足取りは掴めないままなんだが、 気になる情報を耳にしたよ。 |
十手 | なんでも、最後に彼が目撃されたあたりで、 もぞもぞ動く大きな白い袋を担いだ、 黒い服の男がいたそうなんだ。 |
ジョージ | オレ、その男が誰なのか……たぶんわかったぜ☆ 悪ガキにオシオキする、ブラックサンタだ! |
マークス | そうか。 |
ジョージ | ええっ、そんだけ!? もっと興味持とうぜ、マークス!! |
カトラリー | …………。 |
ミカエル | …………。 |
カトラリー | ……あのさ、ミカエル。 やっぱり、あいつがいなくなったのって……。 |
ミカエル | ノン。およしよ、カトラリー。 言葉にするのは時に……危うく、無粋なことでもあるのだから。 |
カトラリー | う……うん、そうだよね……。 |
恭遠 | ふぅ……これで何枚目の始末書ですかね、ラッセル教官。 |
---|---|
ラッセル | ようやく1/3が終わったというところでしょうか。 まだまだ先は長いですが…… 街の被害を考えると致し方なしですね。 |
恭遠 | ええ。 ベルガーの被害報告がぱったり途絶えて助かりました。 |
恭遠 | あのままでは、7年前決死の思いで戦い、 ようやく築かれた平穏な市民の営みが崩壊するところでした。 |
ラッセル | そうですね……。 それから、ローレンツ殿。 始末書の手伝いをありがとうございます。 |
ローレンツ | いや、礼を言う必要などないのだよ、Mr.ブルースマイル。 カール様をはじめ、俺は多くの人に迷惑を掛けてしまった。 俺が始末書を手伝うのは、当然の帰結だ。 |
ローレンツ | なぜなら、俺がカール様の懸念をもっと重く受け止め、 モルモット2号とともに監督に当たっていたならば、 ここまでの被害は出なかったのだから……。 |
ローレンツ | ──青年は嘆いた。 私欲に溺れた己の愚かさに。 そして……耐え難い手の痛みに。 |
恭遠 | ああ……字の書きすぎで手が痛いな……。 少し休むか……。 |
スナイダー | おい、エンフィールド。 俺は、おまえのなんだ? 言ってみろ。 |
---|---|
エンフィールド | ああ! 君は、僕の素敵な弟のスナイダー! とても強くて頼りになる、自慢の弟だよ。 |
スナイダー | そうか。 そんな弟に、何をすればいいと思う。ん? |
エンフィールド | そうだね……ミルクティーはどうだい? あと、スコーンも。クロテッドクリームたっぷりで用意しよう。 |
スナイダー | 牛の乳も砂糖もべとべとしたものもいらん。 いつもの、余計な味がしないやつにしろ。 |
エンフィールド | ふふっ、仕方ないなぁ。それなら…… ストレートの紅茶と、シンプルなショートブレッドにするよ。 |
スナイダー | ああ……それでいい。 |
マークス | あいつ、まだ催眠が解けないのか。 |
ライク・ツー | ベルガーと同じで、そのうち元に戻るだろ。 |
カール | やぁ、〇〇。 パーティーの準備も大詰めのようだねー。 |
主人公 | 【パーティー楽しみだね】 【飾りつけはばっちり!】 |
カール | うむ。 一時はどうなることかとも思ったが、 無事『クリパ』の開催ができそうで何よりだよ。 |
カール | 贅を尽くした豪華なものではないが…… 皆で作り上げる素朴な催しというのは、代えがたいものだ。 僕も、案外楽しみにしているのだよー? |
カール | ……おっと、この言葉を忘れていたね。 Merry Christmas、〇〇。 |
──ドイツにて。
エルメ | 懸念されていた、親世界帝勢力の活動活発化もなし。 兵たちにクリスマス休暇を与えられてよかったね、ドライゼ。 |
---|---|
ドライゼ | ああ。だが、油断は禁物だ。 引き続き交代しながら、監視を怠らないよう伝えてある。 |
エルメ | ふふっ、さすがはドライゼだ。 いついかなる時も、備えを怠らないね。 |
エルメ | そういえば……ジグ、知ってる? ドイツには、ブラックサンタっていう、 黒いサンタクロースがいるんだって。 |
ジーグブルート | はぁ? お前、おとぎ話になんか興味ねぇだろ。いきなりなんだ。 |
エルメ | まあまあ。最後まで聞きなさい、ジグ。 ブラックサンタはね、悪い子を見つけると、 鉄と血の粛清を行う悪魔なんだよ。 |
エルメ | だから……気をつけてね? ジグ。 |
ジーグブルート | はぁ……??? |
エルメ | ……お、一番星だよ。 けっこう明るく光ってるね。 |
ジーグブルート | 誤魔化し方が雑なんだよてめぇは。 |
エルメ | 何言ってるの? 本当のことだよ、ほら。 |
エルメが指さす先へ、ドライゼとジーグブルートも目を向ける。
夜空にきらりと輝く一番星。
その横に、ベルガーの姿が浮かんでいるように見えた。
ジーグブルート | ……なんだ、ありゃ。 変な幻覚が見えやがる。 |
---|---|
エルメ | 不思議だな……。俺にも、多分同じものが見えているよ。 |
ドライゼ | ベルガー……星になったのか。 |
Happy Holidays!
素敵なクリスマスを☆
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